JP3600720B2 - 吸音材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブルドーザや油圧ショベル等の建設機械の騒音を遮音する吸音材に係わり、特に、高温多湿環境下での使用に耐えて良好な吸遮音性能を維持できる、吸音素材を被覆する表皮材を有する吸音材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、建設機械の騒音を遮音する吸遮音装置はエンジンの囲い装置に代表される。例えば図8に示すように、ブルドーザ10のエンジンの囲い装置11は、図示しないエンジンの周囲にフード12、サイドカバー13、ラジエータガード14、ラジエータグリル15及びアンダーガード16等を設けて形成され、これにより遮音しているのが一般的である。一方、エンジンはフード12又はサイドカバー13に設けられた開口部より吸い込んだ空気を冷却ファンにより建設機械の前方等へ排出することにより冷却されるようになっている。しかし、この排出空気と共に、エンジン音やその他の機械音もエンジンルームの外部に漏れて出ることになる。また同時に、このエンジン音やその他の機械音は上記囲い装置の各フード、カバー及びガードを振動させ、これによりビビリ音として外部に騒音を発散させている。したがって、建設機械の周囲騒音を低減するためには、前記のエンジン音やその他の機械音を減衰させることが必要である。
【0003】
このため、従来から、吸遮音装置としてフード12及びサイドカバー13の内面に吸音材を取り付けることが好適な騒音減衰手段の一つとして行われており、以下に示すようないくつかの吸遮音装置が提案されている。
例えば、従来技術の一つとして、図9に示すように、カバー13A(例えば上記のサイドカバー13Aに相当)の内面にウレタンフォーム等の吸音素材20をそのまま直接に接着する技術がある。しかしながら、この取付け方法においては、使用中に吸音素材20の剥離、飛散、及び、熱や紫外線による劣化等が発生し、これによって吸音性能が低下するという問題がある。また、吸音素材20に油や水分が浸透し、滞留することにより、吸音性能がさらに低下すると共に、火災の際、前記浸透した油によって吸音素材20が類焼する可能性があり、耐火性に問題がある。
【0004】
したがって、上記の問題を解決するために、吸音素材を表皮材で被覆するようにしたものが開発されている。例えば、図10に示すように、グラスウールからなる吸音素材21をアルミ箔クロスの表皮材22で被覆した吸音材23を、多数の孔24aを有するパンチングメタル24で保護して、サイドカバー13Bの内面にボルト25で取着する技術がある。また、他の技術として、グラスウールからなる吸音素材21を塩化ビニールで表面処理された表皮材で被覆した吸音材を使用する技術も示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記に示した従来技術においては、前述したような吸音素材の剥離、飛散、及び、熱や紫外線による劣化等の発生は防止されるが、アルミ箔クロスの表皮材22や、塩化ビニールで表面処理された表皮材の通気性が良くない。この結果、吸音材の吸音性能が、図5の中のS3 線及びS2 線に示すように、周波数が1,250Hz以上で急激に低下し、よって高周波域で吸遮音効果が得られない。また、使用中にパンチングメタル24の孔24a部に土砂や塵埃が溜まり、さらに通気性が損なわれるので、徐々に吸音性能が低下してゆくという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に着目してなされており、吸音素材の表皮材に撥水性と通気性と耐熱性を持たせ、高温、多湿の悪環境下でも長時間吸音性能が低下しない吸音材を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段及び作用効果】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、建設機械の騒音を吸音する吸音材1において、
ガラス繊維集合体のグラスウールからなる吸音素材2と、
ガラス繊維を編み目状に編んだグラスクロスにフッ素コーティングを施して形成され、前記吸音素材2を被覆する表皮材3とを備えた構成としている。
請求項1に記載の発明によると、グラスクロスの表皮材にフッ素コーティングを施しているので、適度の撥水性と通気性と耐熱性を持たせることができる。したがって、長時間使用しても、グラスウールの吸音素材に油分や水分が浸透して滞留することがなく、吸音性能を維持することができる。また、グラスウールの吸音素材に空気が良く通るので、良好な吸音性能が得られる。さらに、高温下で使用しても劣化することがなく、火災を起こすことがない。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記表皮材3は、JIS L1096−1990(A法)の通気性試験による通気性が4以上としている。
請求項2に記載の発明によると、通気性が充分に確保されるので、吸音素材の吸音性能が低下することがなく、かつ、良好な吸音性能を得ることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記表皮材3は、JIS L1092(スプレー法)の撥水試験による撥水性がt0で80以上、かつ、t48で60以上としている。
請求項3に記載の発明によると、前記表皮材の撥水性が充分に確保され、前記吸音素材に油分や水分が浸透しないので、吸音素材の吸音性能を長期間維持することができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記表皮材3は、使用環境が温度80〜120℃、吸音対象周波数帯域が400〜2500Hzに対応可能としている。
請求項4に記載の発明によると、一般的な建設機械のエンジンルーム内の温度環境に対しても適合でき、また、建設機械の騒音周波数帯に対しても充分な吸遮音効果を得ることができる。したがって、建設機械のエンジンルーム内等の高温環境下で、耐久性がある吸音材として適用でき、良好な吸遮音性能を維持できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係わる吸遮音表皮材の実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。
図1は吸音材1を組み立てる前の状態を表しており、図2は図1の状態から吸音材1を組み立てた完成品の平面図を表している。
図3は図2のA−A断面図である。図4は図2のB−B断面図である。
図1に示すように、建設機械のエンジンルームなどの騒音を吸遮音する各吸音材1は、ガラス繊維の集合体のグラスウールからなり、かつ、所定の厚みの立体形状に形成された吸音素材2と、ガラス繊維を編み目状に編んで薄い布状に形成したグラスクロスをフッ素重合物及び合成樹脂の溶液中に浸けてフッ素コーティングした表皮材3と、前記吸音素材2の角部を補強し、かつ、吸音素材2が外部に露出するのを防止するコーナテープ4とから構成されている。
【0012】
図1,2に示すように、各吸音材1は次のような手順で製作される。すなわち、まず、設置される場所に適した所定の形状を成す吸音素材2の角部にコーナテープ4が当てられ、次に、吸音素材2の表面(ここでは、吸音材1が吸遮音すべき箇所に張り付けられた状態のときの表側の面を言い、図1においては底面を指す)及び側面を表皮材3で包み込む。そして、次に、表皮材3を吸音素材2の裏面(図1では上面)で折り返して、所定の長さだけ表皮材3どうしを重ね合わせる。
【0013】
図3及び図4は、このときの表皮材3の重ね合わせ部の詳細説明図であり、それぞれ図2のA−A断面図及びB−B断面図を示している。同図でも判るように、表皮材3は吸音素材2の裏面及び側面に接着されており、また、表皮材3どうしの重ね合わせ部も互いに接着されている。
【0014】
ここで、表皮材3は吸音素材2の表面に接着されないようにしており、これにより、通気性が損なわれないようになっている。また、吸音素材2の角部にはコーナテープ4が当てられているので、この角部における表皮材3の折り合わせ部のスキマ等から吸音素材2に油や水が進入しないようになっている。
【0015】
次に、表皮材3の性能について説明する。
表皮材3は、前述のように表面がフッ素コーティングされたグラスクロスで形成されている。そして、本発明者らは、JIS L1096−1990(A法)による通気性試験において通気性が約4.4(cm3/cm2s) を示すものを製作し、この製作した表皮材3を採用した吸音材1の試験を行い、良好な吸遮音特性が得られることを確認している。すなわち、上記の表皮材3で被覆した吸音素材2が適切な量の空気を通すことができるので、高い吸遮音効果が得られる。なお、通気性は、4.0(cm3/cm2s) 以上であることが望ましい。
【0016】
また本発明者らは、表皮材3として、JIS L1092(スプレー法)による撥水試験において、撥水性がt0で80以上、t48で60以上を示すものを製作し、この表皮材3を採用した吸音材1が良好な撥水性能及び吸遮音性能を示すことを確認している。これによって、表皮材3は油水を確実に撥水し、吸音素材2に油水が浸透することがなくなる。したがって、吸音材1の吸水、吸油による吸遮音性能の劣化が無く、安定した良好な吸遮音性能を維持できると共に、火災時に吸音素材2が燃えることがなくなり、安全性を確保できる。
また、この表皮材3はガラス繊維からなるグラスクロスをベースとしているので、例えば建設機械のエンジンルーム内のように環境温度が80〜120℃の高温になっても、長期間その材質が劣化せず、また耐熱性にも優れている。したがって、このような高温環境下での適用が可能となる。
【0017】
図5は、吸音材1の吸音性能を周波数( Hz) に対する吸音率(%) によって示したものである。
上記表皮材3でグラスウールの吸音素材2を被覆した吸音材1の吸音性能を測定すると、図5のS1 線のようになる。同図において、従来の吸音材の吸音性能(S2 やS3 の線)に比べると、特に、約1250Hz以上の周波数帯域に対する吸音率が非常に改善されており、建設機械の騒音の周波数帯域である400〜2500Hzに対して大きな吸音効果を示している。
【0018】
図6は、前記建設機械のエンジンルームのサイドカバー13(図8参照)として使用するサイドカバー13Dに上記吸音材1を取り付けた図である。同図において、サイドカバー13Dには先端が尖ったスタッドピン5の基端部が溶接により固着されている。また、吸音材1は、その裏面がサイドカバー13Dの内面(エンジンルーム内側)と向かい合うようにして、スタッドピン5に押し込まれていて、このスタッドピン5の先端にキャップ6を挿入して食い込ませることにより吸音材1を固定している。この固定方式により、吸音材1の着脱が容易で、かつ、強固に固定することができる。
【0019】
図6に示すサイドカバー13Dを例えば前述のブルドーザ10(図8参照)に装着した場合に、本発明者らの測定によって、ブルドーザ10から16m離れた地点の周囲騒音がほぼ113dB となることが計測されている。これは、前記図10に示した従来のサイドカバー13B(グラスウールの吸音素材21をアルミクロス箔の表皮材22で被覆した吸音材23を取着したもの)を装着したものに比べて、周囲騒音が約2dB 減少する効果が得られることを表している。
【0020】
また、本発明に係わる吸音材1の適用される場所は、上記のエンジンルームのサイドカバー13Dに限定されるものではない。例えば、図7は、ブルドーザ10のフード12(図8参照)として使用できるフード31の説明図である。同図において、フード31は、エンジンルームの外周部に設置されるフード12Aと、このフード12Aの内面に垂直に取着される所定数のプレート32と、このプレート32にスタッドピン5とキャップ6で取着される吸音材1とを備えている。このように、吸音材1を所定部材に懸垂させて空間に配置しても、上記と同様な吸音効果が得られる。
【0021】
したがって、以上のような構成の吸音材によれば、例えばブルドーザ等の建設機械の周囲騒音を低減して規制値を容易にクリアすることが可能となる。吸音素材としてグラスウールを使用すると共にこの吸音素材を被覆する表皮材はフッ素コーティングされているので、従来に比して良好な撥水性と通気性と耐熱性を備えることができる。したがって、この吸音材をエンジンルーム内などのような高温、多湿の悪環境下で長期間使用しても吸遮音性能が低下することなく、良好な吸遮音性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる吸音材を組み立てる前の状態を表す図である。
【図2】本発明に係わる吸音材を組み立てた後の完成品の平面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2のB−B断面図である。
【図5】本発明に係わる吸音材の吸音性能図である。
【図6】本発明に係わる吸音材をサイドカバーに取着した例を示す断面図である。
【図7】本発明に係わる吸音材をフードに取着した例を示す説明図である。
【図8】吸音装置が装着される建設機械の1例のブルドーザの側面図である。
【図9】従来技術に係わる吸音材をカバーに取着した例の断面図である。
【図10】従来技術に係わる吸音材をカバーに取着した他例の断面図である。
【符号の説明】
1…吸音材、2…吸音素材、3…表皮材、4…コーナテープ、5…スタッドピン、6…キャップ、10…ブルドーザ、11…エンジン囲い装置、12…フード、13…サイドカバー、14…ラジエータガード、15…ラジエータグリル、16…アンダーガード、20,21…吸音素材、22…表皮材、23…吸音材、24…パンチングメタル。
Claims (4)
- 建設機械の騒音を吸音する吸音材(1) において、
ガラス繊維集合体のグラスウールからなる吸音素材(2) と、
ガラス繊維を編み目状に編んだグラスクロスにフッ素コーティングを施して形成され、前記吸音素材(2) を被覆する表皮材(3) とを備えたことを特徴とする吸音材。 - 前記表皮材(3) は、JIS L1096−1990(A法)の通気性試験による通気性が4以上であることを特徴とする請求項1記載の吸音材。
- 前記表皮材(3) は、JIS L1092(スプレー法)の撥水試験による撥水性がt0で80以上、かつ、t48で60以上であることを特徴とする請求項1記載の吸音材。
- 前記表皮材(3) は、使用環境が温度80〜120℃、吸音対象周波数帯域が400〜2500Hzに対応可能としたことを特徴とする請求項1記載の吸音材。
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