JP3597375B2 - チタン又はチタン合金と鉄系材料との接合体および接合方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、海洋、港湾構造物や化学機器等、耐食性を初めとするチタン又はチタン合金の特性を利用するための構造物において、主として強度部材である鉄系材料とチタン又はチタン合金との接合体およびその接合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
チタン又はチタン合金と鉄系材料との接合方法における従来の技術としては、爆発圧接や圧延により、板材を面接合することでチタンクラッド鋼を得る技術が挙げられる。また、突合せ接合する技術としては、摩擦圧接法によるものがみられる。さらに、アーク熱源による異種材接合法として、最近では、銀ろうを用いたTIG溶接あるいはプラズマ溶接方法も提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、クラッド鋼を得るための方法は、素材を製作するためのものであり、これを利用してチタンと鋼を接合することは可能であるが、部材の形状により適用できないケースが多く、簡便性の点で劣っている。また、摩擦圧接による方法は、部材形状に制約されるとともに、長い溶接線を連続的に接合するのは困難な技術といえるものである。一方、銀ろうを用いたTIG溶接あるいはプラズマ溶接方法は、前述の各方法に比べて形状的制約も少なく、かつ連続的接合も可能な技術である点で簡便な方法といえるが、溶接施工時の適正条件範囲が狭く、ややもすると溶接部に極めて脆い性質の金属間化合物を生成してしまい、ひいては割れが発生する危険性がある。また、厚板部材同士の接合に適用するには、あまりにも非能率的となる問題がある。さらに、銀ろうは必ずしも耐食性の面で優れているとはいえなく、用途に関して制約を受け易い問題点を有する。
【0004】
このような現実に鑑みて、本発明は、上述する如き諸問題点の解消を図るために成されたものであり、従って本発明の目的は、チタン又はチタン合金と鉄系材料とを接合する技術において、簡便でかつ形状的制約が少なく、連続的接合が可能で、脆い性質の金属間化合物が生成しにくく、また、厚板部材同士の接合においても能率的で、しかも溶接部の耐食性に優れているチタン又はチタン合金と鉄系材料との接合体および接合方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の目的を達成するために、本発明者等によって鋭意研究と実験を重ねた結果、以下に述べる構成とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、ここに本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
即ち、本発明に係る請求項1の発明に関しては、チタン又はチタン合金と鉄を主成分とする材料との接合体において、チタン又はチタン合金と鉄系材料との間が、複数の材質の溶接金属からなっており、チタン側に、銅合金の溶接金属が配置されて金属接合されていることを特徴とするチタン又はチタン合金と鉄系材料との接合体である。
【0007】
また、本発明に係る請求項2の発明は、前記請求項1の発明に関して、チタン又はチタン合金と鉄系材料との間に、チタン側から順に、銅合金、次いでNi系材料又はCo系材料の溶接金属が配置されていることを特徴とするチタン又はチタン合金と鉄系材料との接合体である。
【0008】
また、本発明に係る請求項3の発明は、前記請求項1の発明に関して、チタン又はチタン合金と鉄系材料との間に、チタン側から順に、銅合金、次いでNi系材料又はCo系材料、鉄系材料の溶接金属が配置されていることを特徴とするチタン又はチタン合金と鉄系材料との接合体である。
【0009】
また、本発明に係る請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のチタン又はチタン合金と鉄系材料との接合体において、チタン側に配置される銅合金溶接金属をMIGろう付により生成することを特徴とするチタン又はチタン合金と鉄系材料との接合体の接合方法である。
【0010】
このような本発明によれば、その実施に際して下記の事柄が重要なポイントとして挙げられる。即ち、チタン又はチタン合金(以下、両者を総称してチタンという)と鉄系材料例えば鋼とを直接溶融接合したとすると、極めて脆弱な金属間化合物が生成し、割れの発生を避けるのは困難であることが知られている。従って、溶材を介在する場合を含めて、直接接合する際に、如何にしてチタンと鋼における鉄を溶融混合させることなく、溶接金属そのものの濡れ性を確保するとともに、チタンと鋼の界面近傍に脆い反応層を生成させないようにすることが本発明の重点となるのである。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施形態を、添付図面を併せ参照しながら具体的に説明する。
【0012】
図1には、本発明の第1実施形態に係る接合体の接合部断面図が示される。この第1実施形態に係る接合体では、先ずチタン1側の接合部に銅合金溶接金属(ろう付金属)3の層を形成させる。この銅合金溶接金属3はチタン1母材の希釈を抑えるためとして形成されるものである。次いで、銅合金溶接金属3と鉄系材料2との接合部にNi系溶接金属(又はCo系溶接金属)4を形成させる。このような方法によりチタン1と鉄系材料2との突合せになる接合が行われるとともに、銅合金溶接金属3へのTiの侵入が抑制され、さらには、Ni系溶接金属(又はCo系溶接金属)4へのTiの侵入が抑えられるため、それぞれ脆い金属間化合物の生成による割れ現象を防止することができるのである。
【0013】
なお、Ni系溶接金属(又はCo系溶接金属)4へは、銅合金溶接金属3からのCuおよび鉄系材料2からの鉄が希釈により侵入するが、それらは何れも脆い化合物は生成しないため、健全な突合せ継手が得られるのである。
【0014】
チタン1側への銅合金溶接金属3の形成方法については、細径の銅合金ワイヤを用いて、不活性ガス雰囲気でアーク溶接する、いわゆるMIGろう付法を適用するのが最適である。即ち、MIGろう付による方法では、通常のアーク溶接によるものに比べて極めて低い電流条件を適用することができる。これは、ワイヤに融点の低い銅合金を用いること、および細径ワイヤを用いることによる効果である。このような溶材により、チタン1側にチタン母材の希釈を抑えたかたちで、銅合金溶接金属3を形成させるのがこの実施形態における重要なポイントとなる。
【0015】
この場合、MIGろう付により継手の開先全面を施工することも技術的には可能であるが、厚板継手の場合には非能率的であること、および層数の増加に伴い、融合不良等の欠陥の発生機会が増加するため、チタン1側へ銅合金溶接金属3を形成させた後は、Ni系もしくはCo系の溶接材料4によって鉄系材料2と銅合金溶接金属3を通常のアーク溶接を行うことで、健全性の確保ならびに接合作業の能率化が図れることになる。
【0016】
図2には、本発明の第2実施形態に係る接合体の接合部断面図が示される。この図2に示される第2実施形態に係る接合体の例のように、チタン1側に銅合金溶接金属3、Ni系溶接金属(又はCo系溶接金属)4を順次形成させた後、このNi系溶接金属(又はCo系溶接金属)4と鉄系材料2との間を、通常の鉄系溶接材料5で溶接することも可能であり、このような接合体では、開先面積が大きい場合に、殊にコスト面でより有効な方法である。
【0017】
以上説明した各実施形態に関して、銅合金溶接金属、Ni系溶接金属、鉄系溶接材料およびCo系溶接金属としては、下記に示される各種材料の中から適当なものを選定することができる。
(1) 銅合金溶接材料:
・JISZ3341におけるYCuSi B, YCuAl、YCuAlNi A, YCuAlNi B, YCuSn A 等。中でも好ましいのは、 YCuSi BとYCuAl 。
(2) Ni系溶接材料:
・JISZ3224におけるDNiCu−1, DNiCu−4, DNiCrFe−1J, DNiCrFe−3 等の被覆アーク溶接材料。
・JISZ3334におけるYNi−1, YNiCu−1、7, YNiCrFe−5、6, YNiCr−3,
YNiMo−1 、3 、7, YNiCrMo−1、2 、3 、4 、8, YNiFeCr−1等。
(3) 鉄系溶接材料:
・JISZ3211 軟鋼用被覆アーク溶接棒
・JISZ3212 高張力鋼用被覆アーク溶接棒
・JISZ3221 ステンレス鋼用被覆アーク溶接棒
・JISZ3223 モリブデン鋼及びクロムモリブデン鋼被覆アーク溶接棒
・JISZ3225 9%Ni鋼用被覆アーク溶接棒
・JISZ3312 軟鋼及び高張力鋼用ソリッドワイヤ
・JISZ3313 軟鋼及び高張力鋼用フラックス入りワイヤ
・JISZ3316 軟鋼及び高張力鋼用ティグ溶接棒及びワイヤ
・JISZ3317 モリブデン鋼及びクロムモリブデン鋼用マグ溶接ソリッドワイヤ
・JISZ3318 モリブデン鋼及びクロムモリブデン鋼用フラックス入りワイヤ
・JISZ3321 溶接用ステンレス鋼棒及びワイヤ
・JISZ3323 ステンレス鋼アーク溶接フラックス入りワイヤ
(4) Co系溶接材料:
JIS規格としてはないが、代表的な溶接材料としてステライトと称する溶接材料がある。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照しながら比較例と比較して説明する。
【0019】
第1実施例
本第1実施例においてはチタン厚板材と鋼材の突合せ溶接試験を行ったものであり、図3に示すような、厚さ25mm×幅150mm×長さ300mmのチタン厚板又はTi−6Al−4V合金厚板(図3における左側の厚板)と、厚さ25mm×幅150mm×長さ300mmの鋼材(図3における右側の厚板)とのそれぞれの突合せ継手に対して、本発明の特許請求の範囲の記載内容に基づく手段で接合を試みた。この場合の溶接方法、溶接材料及び溶接条件は下記〔表1〕に示す通りである。なお、表中の溶接個所a,b,cは、図4(イ)、(ロ)に示した接合部断面図における図中の各記号部a,b,cに対応する。また、チタン側に施工するMIGろう付及びNi系溶接材料によるMIG溶接については、開先を組立てる前に、予め開先面に対して行った。
【0020】
溶接後、浸透探傷試験及び断面調査により、割れ発生の有無を調べた。
その結果、いずれの継手とも割れを初めとする欠陥は認められず、健全な接合部が得られていることが確認された。
【0021】
【表1】
【0022】
第2実施例
本第2実施例においてはチタン厚板材と鋼材の突合せ溶接試験を行ったものであり、第1実施例と同様の試験材に対して、種々の溶接材料及び溶接方法で突合せ接合を試み、割れ発生の有無を調べた。溶接方法、溶接材料、割れの有無及び判定結果は下記〔表2〕に示す通りである。なお、割れの発生を回避できなかったもの、総合評価(割れの有無及び溶接安定性で評価した)が良くないものについては「×」、割れが認められないもの、総合評価が良好なものについては「○」で示している。
【0023】
〔表2〕にから明らかなように、本発明の特許請求の範囲から外れる条件の比較例No.1〜No.4については、少なくともチタン側の溶接個所に割れが多く認められて総合評価は不良であり、一方、本発明に係る各実施例No.5〜No.10については、No.5のものに鉄系材料側の溶接個所に僅かな割れが認められた以外、割れが全く存在しなく、総合評価が良好であったことが確認された。
【0024】
【表2】
【0025】
以上述べた本発明の実施の形態並びに実施例に関しては、突合せ継手を例示してのものであるが、本発明は、かかる突合せ接合に限定されるものではなく、重ねすみ肉接合にも当然適用することが可能であって、特許請求の範囲に記載の構成要件を満足し得るものである限りにおいて種々の変型になる他の接合手段も本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。
【0026】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したような形態で実施され、以下に記載されるような効果を奏する。即ち、本発明によれば、チタン又はチタン合金と鉄を主成分とする材料との接合体において、チタン又はチタン合金と鉄系材料との間が、複数の材質の溶接金属からなっていて、チタン側から順に、銅合金、Ni系材料又はCo系材料、鉄系材料の溶接金属のうちの少なくとも銅合金が配置されている構成としたことにより、接合加工に際しての適用の制約が少なくて汎用性に富んでいるとともに、接合対象物の形状的制約が少なく、連続的接合が可能であり、さらに脆い性質の金属間化合物が生成しにくく、また、厚板部材同士の接合においても能率的であって、しかも溶接部の耐食性が優れている利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る接合体の接合部断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る接合体の接合部断面図である。
【図3】厚板による突合せ継手の断面図である。
【図4】明細書における〔表1〕及び〔表2〕中の各溶接個所a,b,cを示す接合部断面図である。
【符号の説明】
1…チタン 2…鉄系材料 3…銅合金溶接金属
4…Ni系溶接金属 5…鉄系溶接材料
a…チタン側から第1層の溶接個所 b…チタン側から第2層の溶接個所
c…チタン側から第3層の溶接個所
Claims (4)
- チタン又はチタン合金と鉄を主成分とする材料との接合体において、チタン又はチタン合金と鉄系材料との間が、複数の材質の溶接金属からなっており、チタン側に、銅合金の溶接金属が配置されて金属接合されていることを特徴とするチタン又はチタン合金と鉄系材料との接合体。
- チタン又はチタン合金と鉄系材料との間に、チタン側から順に、銅合金、次いでNi系材料又はCo系材料の溶接金属が配置されている請求項1に記載のチタン又はチタン合金と鉄系材料との接合体。
- チタン又はチタン合金と鉄系材料との間に、チタン側から順に、銅合金、次いでNi系材料又はCo系材料、鉄系材料の溶接金属が配置されている請求項1に記載のチタン又はチタン合金と鉄系材料との接合体。
- 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のチタン又はチタン合金と鉄系材料との接合体において、チタン側に配置される銅合金溶接金属をMIGろう付により生成することを特徴とするチタン又はチタン合金と鉄系材料との接合体の接合方法。
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