JP3592840B2 - 成形加工用ステンレス鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、調質圧延を施して製造される成形加工用ステンレス鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来よりJISG4307に規定されるBA仕上げやNo.2B仕上げステンレス冷延鋼帯は、その表面光沢から、衛生的な印象が重視される厨房製品や、金属光沢が求められる家電製品,建材などに広く使用されている。通常、BA仕上げ鋼板は光輝焼鈍後に、また2B仕上げ鋼板は焼鈍・酸洗後に、主に表面光沢向上を目的としてスキンパス圧延あるいはテンパーローリングとも呼ばれる調質圧延が施される。そして、これらの調質圧延材は、前記用途においては多くの場合、プレスなどの成形加工に供される。
【0003】
近年、厨房製品や家電製品の形状面での意匠性向上が図られ、従来は不問であった成形品平坦部でのゆがみ、すなわち「ペコ」と呼ばれる面ひずみが問題化するようになってきた。
図1にペコの一例を模式的に示す。ペコは成形加工によって発生する面ひずみである。すなわち、もともと平坦度が高い鋼板素材を使用して成形加工した際、プレス品の設計上平坦のままの形状が維持されるべき部分に、それが維持されずに生じる形状欠陥である。例えば長径がおよそ150mm,短径がおよそ100mmで高さが0.5mm程度であるような凸状もしくは凹状の形状欠陥であり、通常、指で押すと「ぺこん」と音を発生しながら反転し、指を放すともとの形状に戻る弾性変形範囲内の形状欠陥である。このような面ひずみは、成形加工度が小さく、平坦面の面積が大きいプレス品で特に問題となり、寸法精度上において不具合を生ずるばかりでなく、高光沢を持つ2B仕上げ鋼板や鏡面状のBA仕上げ鋼板では特に目立ち、外観上問題とされる。
成形加工によってペコが発生しない材料は、成形品の離型後において所期の形状がそのまま保たれる(すなわちスプリングバックやねじれなどの寸法精度不良が生じない)という意味で、「形状凍結性」に優れた材料であると言うことができる。
【0004】
成形加工時のペコの発生を抑制するには、例えば、調質圧延を施さない素材(焼鈍材)を使用するか、あるいは調質圧延率を極力抑えた素材を使用するのが有効であることが知られている。しかし、そのような素材においては、十分な表面光沢を得ることができない。つまり、調質圧延率を低めればペコの発生は抑制できるが、逆に、十分な表面光沢を得ることができなくなる。
【0005】
また、このペコとは別に、プレス等の加工の際に発生してしばしば問題となる形状欠陥として「ストレッチャーストレイン」と呼ばれる格子模様状の形状欠陥がある。ストレッチャーストレインは、一般に常温で「降伏伸び」の現象を示すような性質の素材に対して数%以下の加工ひずみを与えたとき、この「降伏伸び」に起因して発生するものである。
降伏伸びの現象は、鋼の結晶構造および固溶元素であるC,Nの存在と密接な関係がある。一般に、常温で面心立方構造であるオーステナイト系ステンレス鋼では降伏伸びの現象は見られない。これに対し、常温で体心立方構造であるフェライト系ステンレス鋼では焼鈍状態で降伏伸びを示す場合と示さない場合がある。例えば、JISG4307に規定されるSUS430LXのように、C,N含有量を低減し且つTi,Nb等の炭化物または窒化物形成元素を添加してC,Nを固定することによって固溶C,N量を低減した鋼種では、焼鈍状態であっても降伏伸びを示さない。一方、フェライト系の代表的鋼種であるSUS430をはじめ、固溶C,N量の低減を特に図っていない多くのフェライト系ステンレス鋼種では、焼鈍状態で降伏伸びの現象を示す。
【0006】
このため、成形加工用のステンレス鋼素材のうち、降伏伸びの現象を示す多くのフェライト系ステンレス鋼種においては、ストレッチャーストレインの発生を防止することも、成形品の品質を確保する上で重要となる。
ストレッチャーストレインは降伏伸びに起因して発生するのであるから、ストレッチャーストレインの発生を防止するには素材の段階である程度の加工を施しておき、後の成形加工時に降伏伸びの現象が現れないようにしておくことが有効である。このため、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼板の製造においては、表面光沢を得る目的のみならずストレッチャーストレインを防止する観点からも調質圧延が加えられる場合が多い。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、意匠性の高い成形加工品のニーズに対応するためには、その素材となるステンレス鋼板は、▲1▼十分な表面性状(白ボケがなく光沢に優れる表面状態)を有しており、▲2▼焼鈍状態で降伏伸びの現象が現れるフェライト系鋼種では成形加工時にストレッチャーストレインによる外観上の問題が生じない特性を具備しており、さらに、▲3▼成形加工時にペコによる寸法精度上あるいは外観上の問題が生じない特性を具備しているものであることが要求される。このうち、上記▲1▼および▲2▼の特性を満足させるためには、調質圧延を積極的に利用することが不可欠である。しかしながら、調質圧延を積極的に行うことは同時に、▲3▼の特性を阻害する要因ともなる。したがって、単に調質圧延率を調整するだけでは▲1▼▲2▼および▲3▼の特性を同時に満足する成形加工用素材を得ることはできなかった。
【0008】
本発明は、このような現状に鑑み、特定の条件で調質圧延を行うことによって、成形加工時にペコが発生しないような応力状態を鋼板素材中に作り出し、前記▲1▼▲2▼および▲3▼の特性を同時に兼ね備えた成形加工用のステンレス鋼板を再現性良く安定的に提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、ロール径400 mm 以上の大径ワークロールを用いて、圧下力R( kgf/mm )と張力T( kgf/mm 2 )が、R≦500、かつR×T≧5000の関係を満たす条件で、伸び率0 . 1〜2 . 0%の調質圧延を施してなる、調質圧延後における鋼板表層部の圧延方向の圧縮残留応力が3kgf/mm2以下、かつ降伏伸びが1%以下(0%を含む)の成形加工用ステンレス鋼板によって達成される。
この発明の対象鋼種としては、もともと焼鈍状態で「降伏伸び」の現象を示さない鋼種、具体的には、オーステナイト系鋼種、および、前述のSUS430LXのように固溶C,N量を低減した一部のフェライト系鋼種等、並びに、もともと焼鈍状態で「降伏伸び」の現象を呈する性質のフェライト系鋼種、具体的には、JISG4307に規定されるSUS430や、その他多くのフェライト系鋼種が挙げられる。
【0010】
ここで「成形加工」とは、プレス成形の他、長尺物の加工等に利用されるようなロール成形も含む。また、本発明において「張力」とはユニットテンション(kgf/mm2)を意味し、これは調質圧延機の出側で計測することができる。「圧下力R」は、ロール圧下荷重を鋼板幅で除した値と定義し、その単位を(kgf/mm)で表す。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、プレス成形加工等で発生する形状欠陥である「ペコ」の発生状況と、成形加工前における素材鋼板中の応力状態との相関を鋭意調査した。その結果、素材鋼板表層部における圧延方向の圧縮残留応力の存在がペコの発生に密接に関連していることがわかった。そして、この圧縮残留応力が3.0kgf/mm2以下であるときに、成形加工においてペコ発生の問題が起こらないことを突き止めた。
本発明者らの調査によると、焼鈍材では表層部の圧縮残留応力の発生はみられずほぼ0であったが、調質圧延を加えると発生することを確認した。ところが、ある特定の条件で調質圧延を行った場合に限っては、この圧縮残留応力の発生は非常に抑えられ、しかもその場合においても十分な表面光沢がえられ、なおかつフェライト系ステンレス鋼における降伏伸びも十分に低減できることが明らかとなった。
以下、実験結果に基づき、本発明を特定するための事項について説明する。
【0012】
表1に示す5種類のステンレス鋼を実操業ラインで溶製した。A鋼およびB鋼は、もともと焼鈍状態で降伏伸びの現象が現れないSUS430LXに属するフェライト系ステンレス鋼である。C鋼はSUS304に属するオーステナイト系ステンレス鋼である。D鋼およびE鋼は、焼鈍状態で降伏伸びの現象が現れるSUS430に属する一般的なフェライト系ステンレス鋼である。
【0013】
これらの鋼について、板厚1.2mm,板幅1000mmの中間焼鈍鋼帯を仕上げ冷間圧延により板厚0.5mmとした後、フェライト系ステンレス鋼(鋼A,B,D,E)は材料温度950℃,均熱時間30秒の条件で、またオーステナイト系ステンレス鋼(鋼C)は材料温度1050℃,均熱時間30秒の条件で、それぞれ連続仕上げ光輝焼鈍を実施した。このようにして得られた光輝焼鈍鋼帯を分割し、表2に示す種々の圧下力・張力条件によりロール径600mmのワークロールを用いて調質圧延し、No.1〜25の鋼板を得た。調質圧延の伸び率は、いずれの場合も0.1〜2.0%の範囲とした。なお圧下力,張力ともに0の鋼板No.16およびNo.25は、調質圧延をしていない、すなわち焼鈍のままの材料である。
種々の条件で調質圧延を施した鋼板No.1〜No.25について、表層部の残留応力,表面性状(白ぼけ,光沢),および降伏伸びを調査した。
【0014】
表層部の残留応力は、各鋼板につき図2に示す3箇所の位置から長さ30mm,幅30mmの寸法の試料を切り出し、その表面および裏面についてX線残留応力測定法により測定した。測定には、PSPC微少部X線応力測定装置(理学電機(株)製,型式 CN2905G3)を用いた。測定条件の詳細は表2に示す。3箇所から採取した試料の表面・裏面について測定した計6点の測定値を平均した値をその鋼板の残留応力値として採用した。その結果を表3中に記載した。
なお、ここで用いたX線残留応力測定法は非破壊で素材の残留応力を測定する方法である。すなわち、鋼板表面に種々の入射方向からX線を照射して表層部の結晶格子のひずみを3次元的に把握し、ある方向における格子のひずみ量にその材料の弾性係数を乗じることによって、その方向の残留応力を求める方法であり、具体的には、「X線応力測定法標準」(社団法人日本材料学会X線材料強度部門委員会編,1982年、に記載されている方法(日本材料学会X線材料強度部会によって標準化された方法)を用いた。この方法によって測定される表層部の深さは概ね10μm以内である。
【0015】
表面性状評価は、白ボケ,光沢の2項目について、目視判定により実施した。これは鋼板表面上での蛍光灯の反射像を見たとき、その解像度を「白ボケ」、また反射像の光沢輝度を「光沢」として、A,B,C,Dの4段階評価により判定する官能検査法によって行った。評価はAが最も良好で、次いでB、C、Dの順とし、「白ボケ」および「光沢」がいずれもB以上であるものを「表面性状が合格」と判定した。その結果を表3中に記載した。
【0016】
降伏伸びは、各鋼板から圧延方向に切り出したJISZ2201に規定されるJIS13B号試験片について引張試験を行うことによって求めた。その結果を表3中に記載した。
【0017】
表3に示すように、SUS430系の焼鈍のままの材料である鋼板No.16および25では、圧縮残留応力はほとんど生じていない反面、降伏伸びが1%を大きく超え、また、表面性状も白ボケ,光沢ともDランクと劣る。これに対し、調質圧延した鋼板No.1〜15,17〜24ではいずれも圧縮残留応力が大きくなる傾向を示す反面、表面性状および降伏伸びは改善される傾向を示す。
このことから、「表層部の圧縮残留応力を低減すること」と、「良好な表面性状(光沢など)を得ること、および焼鈍状態で降伏伸びの現象が現れる鋼種の成形加工時に生じる降伏伸びを低減させること」とは、調質圧延を行うことに関して、互いに相反する挙動を示すものであると見ることができる。しかし、本発明者らは、この一見相反すると見られる挙動の中に、両者をともに満足する部分があることを見出したのである。
【0018】
表3に示した鋼板の中で、No.1,3,4,5,10〜14,17〜21,24は、いずれも鋼板表層の圧縮残留応力が3kgf/mm2以下の低い値を示すものである。これらは、張力Tの値にかかわらず圧下力Rが500kgf/mm以下の条件で調質圧延を行ったものである。つまり、鋼板表層に生じる圧縮残留応力は張力Tには依存しないことが明らかであり、圧下力Rを500kgf/mm以下にすることだけで3kgf/mm2以下の低い圧縮残留応力値が得られるのである。
【0019】
次に、もともと降伏伸びの現象が現れる鋼種である鋼D,Eにおける鋼板No.7〜12,17,19,21〜23は、圧下力Rと張力Tの積算値:R×Tが5000以上となる条件で調質圧延を施したものであるが、いずれも降伏伸びが1.0%以下に低減され、かつ表面性状も白ボケ,光沢とも評価B以上で合格となる。同様に鋼A,BおよびCにおける鋼板No.1〜3,5,6もR×Tが5000以上となる条件で調質圧延を施したものであるが、表面性状はすべて合格となる。このように、表面性状を良好にし、さらに焼鈍状態で降伏伸びが現れる鋼種の調質圧延後の降伏伸びを低減するためには、R×Tを5000以上とすることが有効である。
【0020】
これらの結果からわかるように、圧下力R(kgf/mm)と張力T(kgf/mm2)が、R≦500、かつR×T≧5000の関係を満たす条件で調質圧延を行うことによって、圧縮残留応力の低減、並びに、表面光沢の維持および焼鈍状態で降伏伸びの現象が現れるフェライト系鋼種における成形加工時の降伏伸びの低減を、同時に達成することができる。特に本発明では、張力を積極的に高めることによって、より一層圧縮残留応力の低減に有利な条件を選択することができるという特徴を有する。すなわち、張力を高めても圧縮残留応力の低減を阻害しないので張力を積極的に高めることができ、R×T≧5000の関係に従ってより低い圧下力を採用することが許容され、その結果一層、圧縮残留応力を低減することが可能となるのである。
表3に示した鋼板のうち、R≦500、かつR×T≧5000の関係を満たすものは、鋼板No.1,3,5,10〜12,17,19,21である。これらの鋼板が、成形加工においてペコが発生せず、かつストレッチャーストレインも発生しないものであることは、後述の実施例において実証する。
【0021】
圧下力Rが500kgf/mm以下で、R×Tが5000未満の鋼板No.4,13,14,18,20,24は、圧縮残留応力は3kgf/mm2以下に低減されているが、表面性状が不良であるか、または降伏伸びが1.0%よりも大きい値を示し低減されていない。
圧下力Rが500kgf/mmよりも大きく、R×Tが5000未満の鋼板No.15は、圧縮残留応力が3kgf/mm2よりも大きく、さらに表面性状が不良で降伏伸びが1.0%よりも大きい値を示す。
【0022】
図3に、焼鈍のままの材料である鋼板No.16および25を除いた、鋼板No.1〜15,17〜24についての圧下力Rと張力Tとの関係(表3に記載したデータ)をプロットした。圧縮残留応力が3kgf/mm2以下に低減され、良好な表面性状を有し、かつ降伏伸びが1%以下のもの(鋼板No.1,3,5,10〜12,17,19,21)は、R≦500、かつR×T≧5000である領域内に存在する。
【0023】
本発明で規定する、R≦500、かつR×T≧5000を満足する条件で調質圧延を行ったときに、鋼板の表層の圧縮圧縮残留応力が低減され、かつ表面光沢が向上し、さらに焼鈍状態で降伏伸びが現れる鋼種において調質圧延後の降伏伸びが低減される理由として以下のことが考えられる。
【0024】
一般に調質圧延が鋼板に与える効果は、表面光沢の向上と、焼鈍状態で降伏伸びの現象が現れる鋼種では降伏伸びの低減である。
調質圧延のような低圧下の圧延では、鋼板の表層部は圧延ロールにより拘束を受けるため、内部に比べ大きな塑性変形を受ける。従来の調質圧延法では、この表層部と内部の変形量の差を積極的に利用し、表層部の塑性変形をより大きくすることで充分な表面光沢の向上効果を得ている。また、焼鈍状態で降伏伸びの現象が現れる鋼種では、降伏伸び低減のためにはひずみを与える必要がある。すなわち調質圧延により予めひずみを鋼板に加えることで、圧延後に加工ひずみが加えられたときには、鋼板は降伏伸びの現象を示さず、プレス加工等によるストレッチャーストレインが防止されるのである。
【0025】
ところが、本来調質圧延の特徴的な効果をもたらすはずの前記「表層部と内部の変形量の差」は、表層部に圧縮状態の残留応力をつくりだす要因ともなる。この圧縮状態の残留応力の存在こそが、既に述べたようにプレス等の成形加工に際してペコを発生させる(すなわち形状凍結性を低下させる)大きな原因となっているものと考えられる。
【0026】
本発明者らは、調質圧延の効果として従来から享受している「表面光沢向上効果」と「降伏伸び低減効果」を得るためには、必ずしも鋼板表層部の塑性変形量を内部と比べて大きくする必要はないとの考えから本発明に至ったものである。
【0027】
本発明では、調質圧延において、鋼板に張力を付与しながらロールによる圧下を加える。張力は鋼板の表層部,内部ともに均等に加わる。すなわちロールによる圧下力に比べると、張力は表層部と内部との塑性変形量の差を生じさせにくい。したがって、ロール圧下力の低減により表層部の塑性変形量を低減するとともに、張力を大きくすることで表層部と内部に均一な塑性変形を加え、結果的に表層部に生成する圧縮圧縮残留応力を低減することができる。そして、張力を大きくすることは、圧下力低減により減少した鋼板に加わるひずみ量を補うことになり、表層の圧縮残留応力を増すことなく表面光沢の向上・降伏伸びの低減に寄与するとができるものと考えられる。
【0028】
一般に鋼板の冷間圧延では、板厚方向の塑性変形の到達深さにより残留応力分布が決まる。さらにその塑性変形の到達深さは圧延条件であるロール直径および圧下率により決定付けられる。本発明は、ロール径400mm以上の大径ワークロールを使用する通常の調質圧延ラインにおいて実施されることを前提として、圧下力・張力の適正範囲を規定した。
【0029】
調質圧延における伸び率は、圧下率,張力により決まるものであり、必ずしも規定する必要はないが、本発明範囲における圧下力・張力条件で得られる鋼板の伸び率の実績に基づき、十分な表面性状を再現性良く安定して得るという観点から、伸び率の下限値は0.1%とした。また、伸び率が高くなりすぎると鋼板が硬質化し、その耐力も上昇するためプレス等の加工による形状凍結性に悪影響を及ぼすようになる。これも実績に基づき、良好な形状凍結性を再現性良く安定して得るという観点から、伸び率の上限値は2.0%とした。
【0030】
調質圧延で付与する張力T(kgf/mm2)は、前述のとおり圧下力R(kgf/mm)との関係において、R×T≧5000の関係を満たす範囲であれば特に限定する必要はないが、あまり高すぎると鋼板形状不良の原因となるとともに通板中の板切れの原因となり、また、通常使用される調質圧延機の能力を考慮して経済的な範囲を検討すると、30kgf/mm2以下の範囲とすることが望ましい。
以下、実施例により、本発明条件により調質圧延した鋼板のプレス成形結果を示す。
【0031】
【実施例】
表3に示した鋼板No.1〜25から、圧延方向に850mm、圧延方向に直角な方向に350mmの長方形のブランク材を作製した。これらを同一条件でプレスに供し、フランジ部を除いた後、図4に示す形状の成形品を得た。これらの成形品について、表面性状,ペコ発生状況,さらに鋼種D,E(SUS430系)についてはストレッチャーストレインの発生状況を調査した。これらの結果は後述の表4にまとめて示す。
【0032】
表面性状は、成形品の平坦部(底面部)について前述の目視による官能検査法により白ボケ・光沢を判定し、合格の場合には○、不合格の場合には×とした。
【0033】
ペコ発生状況は、成形品の平坦部表面の形状を図4中に点線で示した位置について測定してペコ生成量を定量的に求めるとともに、官能検査として触手判定による官能検査を行って評価した。
ペコ生成量を定量化するための測定法方は、成形品を定盤上に置き、定盤との距離を一定に保ちながら、この上を走査するレーザー変位計により、成形品とは非接触の状態で表面高さの相対的な変位量を測定する方法を用いた。その測定結果例を図5に示す。ここで形状曲線の延べ長さをL、測定のための走査距離をL0として、ペコ生成量Peを次式にて定義した。
Pe=(L−L0)/L0
また、官能検査の方法は、面ひずみ発生箇所の凸部を手で押したときに、凸量が大きく、反転する場合をペコが生成していると判定し不合格:×、反転しない場合をペコが生成していないと判定し合格:○とした。さらにその中間と判定される場合を△とした。
【0034】
レーザー変位計により求めたペコ生成量Peと触手による官能検査結果の関係を図6に示す。Pe値と官能検査値とは、ほぼ直線相関を有し、官能検査で○判定となるのはPe値が25×10−6以下のときに対応する。したがって、前記のように定義したPe値はペコ発生の合否を判定する定量指標として使用することができるものである。
【0035】
ストレッチャーストレインの発生状況の評価は、図4中に網目斜線で示した部分におけるストレッチャーストレイン生成量を目視により判定する方法で行った。その生成量が大きく外観上問題となる場合を×、発生していないか若しくは発生量が少なく外観上問題とならない場合を○とした。
【0036】
表4には、表3の鋼板No.1〜25をプレスして得られた成形品a〜yについて、上記の調査結果を示している。
圧下力Rが500kgf/mm以下で張力Tとの積算値R×Tが5000以上である条件で調質圧延した本発明の成形加工用鋼板を使用した成形品a,c,e,j〜l,q,s,uは、ペコ生成量Peが25×10−6以下であった。またa,c,eにおいては表面性状は合格、さらにj〜l,q,s,uは表面性状が合格で且つストレチャーストレインが生成していない。すなわち本発明の成形加工用鋼板を用いた成形品は、表面性状に優れ、かつペコやストレッチャーストレインなどによる外観上の問題が生じない良好なものであった。
【0037】
一方、圧下力Rは500kgf/mm以下であるが、R×Tが5000未満の条件で調質圧延した鋼板を使用した成形品d,m,n,p,r,t,x,yは、ペコ生成量は抑制されているものの、dにおいては表面性状が不合格であり、これに加えてm,n,p,r,t,x,yではストレッチャーストレインが発生して外観上不合格であった。
【0038】
また、圧下力Rが500kgf/mmを超え、R×Tが5000以上の条件で調質圧延した鋼板を使用した成形品では、bは表面性状が合格、これに加えf,q〜i,v,wはストレッチャーストレインも防止されているものの、いずれもペコ生成量Peが25×10−6を超えており、ペコ発生により外観上不合格となった。
【0039】
また、圧下力Rが500kgf/mmを超え、R×Tが5000未満の条件で調質圧延した鋼板を使用した成形品oは、ペコが発生し、さらにストレッチャーストレインも発生したため、外観上不合格となった。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
【発明の効果】
本発明では、成形加工時にペコの問題が生じないようなステンレス鋼板(加工用素材)を再現性良く安定的に製造するための調質圧延技術を開示した。この技術により、従来解決できなかった課題、すなわち、「BA仕上げや2B仕上の美麗な表面肌を有する材料を使用した成形加工品においてペコの発生を防止する」という課題が実現できた。また、従来、成形加工時にストレッチャーストレインが発生して外観上の問題を生じやすかった鋼種においては、その問題をも同時に解消することができた。
よって、本発明は、ステンレス鋼を用いた意匠性の高い成形加工品の普及に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】成形加工品に生じたペコの一例を模式的に表した図。
【図2】残留応力測定用試料の採取位置を示す鋼板の平面図。
【図3】調質圧延における圧下力Rと張力Tの関係を表すグラフ。
【図4】成形加工品におけるペコ生成量測定位置およびストレッチャーストレイン調査位置を示す図。
【図5】レーザー変位計で測定した形状と、形状延べ長さL,形状測定走査距離L0の定義付けを示す図。
【図6】レーザー変位計により求めたペコ生成量Peと触手による官能検査結果の関係を表すグラフ。
Claims (1)
- ロール径400 mm 以上の大径ワークロールを用いて、圧下力R( kgf/mm )と張力T( kgf/mm 2 )が、R≦500、かつR×T≧5000の関係を満たす条件で、伸び率0 . 1〜2 . 0%の調質圧延を施してなる、調質圧延後における鋼板表層部の圧延方向の圧縮残留応力が3kgf/mm2以下、かつ降伏伸びが1%以下(0%を含む)の成形加工用ステンレス鋼板。
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