JP3590838B2 - 酵素的方法による部分脱アセチル化キチンの調製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酵素的方法による部分脱アセチル化キチンの調製法に関し、詳しくはN−脱アセチル化酵素の逆加水分解反応によるキトサン系高分子物質(キトサン及びその高分子誘導体)のN−アセチル化によって、部分脱アセチル化キチンを調製する方法に関する。
本発明の方法は、反応性の高い有機溶媒の使用を抑えた穏和な条件下での酵素反応である上に、O−アセチル化等の副反応を生起することなくN−アセチル化処理が可能である。しかも、濃アルカリや強酸を使用することなく、付加価値の高い部分脱アセチル化キチンを製造することが可能である。
【0002】
【従来の技術】
キトサン系高分子物質中のグルコサミン残基の遊離アミノ基をN−アセチル化する方法としては、無水酢酸処理が知られているが、この方法は副反応によって水酸基がO−アセチル化される可能性を考慮する必要がある。そのため、例えばキトサンをアセチル化する際には、O−アセチル化を防ぐ目的で、メタノール共存下におけるアセチル化処理や、希アルカリによるO−アセチル基の脱離処理を行うことが一般的である。
また、水溶性キチン、すなわち中性〜アルカリ性領域で溶液状態となる部分脱アセチル化キチンを調製する際には、分子上にランダムにN−アセチル基を分布させ、その置換度を0.5程度に制御することが必要であるが、上記の無水酢酸−メタノール系を用いてキトサンから水溶性キチンの調製を試みると、直ちに反応が進行してキトサンがゲル化するために、置換度が0.85〜0.86程度まで進んでしまう。そのため、水溶性キチンを生成しない(Kuritaら、Carbohydr. Polym. 16 (1991) 83−92 )。
【0003】
一方、同論文では、水溶性キチンを製造する目的で、ピリジン存在下においてキトサンを高度に膨潤させた状態で無水酢酸を作用させる方法を試みて、良好な成果を上げているが、この系においては、先述したO−アセチル基の脱離処理及び刺激臭を伴う有機溶媒であるピリジンの使用等が課題となる。
【0004】
水溶性キチンは、工業的には、キチンを低温下で50%(w/w)苛性ソーダ中に膨潤させ、アルカリ加水分解により部分脱アセチル化を行う方法によって調製される。しかし、この方法は極度に高い濃度のアルカリを中和・洗浄するのに大量の強酸を用いることになる。そのため、中和後の脱塩処理の煩雑さという製造上の大きな問題を生じる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
水溶性キチンは、商品名「マリンデュウ」(味の素株式会社製)として知られており、化粧品素材として既に使用されているヒアルロン酸に匹敵する高い保湿性を有し、有機合成出発物質ともなる高付加価値素材である。そのため、水溶性キチンの効率的調製法の開発は、水溶性キチンの用途開発を促進し、需要を拡大する上で必要不可欠である。
一方、キトサン系高分子物質の示す凝集性、水溶性、金属キレート活性あるいは酸可溶性等の物性及び生分解性、免疫賦活性、抗菌活性、エリシター活性等の生理特性を制御する上では、グルコサミン残基に結合するN−アセチル基の分布を制御することが有効な方法となることが知られている。
【0006】
本発明の目的は、副反応であるO−アセチル化が起こらず、しかも有機溶媒の使用を極力抑えたキトサン系高分子物質のN−アセチル化法を開発し、さらに、水溶性キチンに代表される部分脱アセチル化キチンの効率的合成法を確立することである。
本発明によれば、酵素を用いた温和な条件下で極めて選択性の高いN−アセチル化処理を行うことが可能となり、水溶性キチン等の高付加価値素材を調製する上でのブレイクスルーとなることが期待される。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の本発明は、溶解もしくは膨潤させたキトサン系高分子物質に、酸性条件下でN−脱アセチル化酵素を作用させることを特徴とする部分脱アセチル化キチンの調製法である。
請求項2記載の本発明は、部分脱アセチル化キチンが、中性〜アルカリ性領域で溶液状態となる部分脱アセチル化キチンである請求項1記載の方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳しく説明する。
キトサンは、N−アセチル−D−グルコサミンがβ−1,4結合によって結合した直鎖状多糖であるキチンを、主に濃アルカリによって脱アセチル化処理して製造した高分子物質で、希酸に可溶性の高分子である。
一般には、70%以上のグルコサミン残基が脱アセチル化されているものをキトサンと呼ぶ。キトサン製品は、世界各国において多くの企業により製造・販売されており、市販品以外にも、微生物菌体等から同様の構造のものが精製できることが知られている。
【0009】
本発明に係るキトサン系高分子物質とは、キトサンオリゴ糖よりも高分子量のものを意味する。一般に、キトサンオリゴ糖と言われているものは、10糖程度までのものであり、分子量は2000程度が上限とされている。
本発明に用いられるキトサン製品としては、例えば商品名「キトサンPSH」(分子量:数十万程度、焼津水産化学工業株式会社製)あるいは商品名「フローナックC」(分子量:十万程度、株式会社共和テクノス製)を挙げることができる。
ところで、キチン及びキトサンを取り扱う分野においては、用語が一部混乱しているが、部分N−脱アセチル化キチンと部分N−アセチル化キトサンとは本質的に同義語であり、本明細書においては「部分脱アセチル化キチン」という用語に統一して用いることとした。部分脱アセチル化キチンのうちN−アセチル基の分布がランダムに近い形になっており、中性〜アルカリ性の溶液中に溶解するものを「水溶性キチン」と称している。
分子量が数千程度の低分子キチン及びキトサン、あるいはそれらのオリゴ糖(一般的に重合度2〜10程度のもの)が水溶性を示すことが知られているが、分子量数万程度の高分子量のキチン及びキトサンは一般に水には溶解しない。
キトサン高分子誘導体は、親水性等の機能性をキトサンに付与する目的で、種々の置換度でキトサンのアミノ基及び/あるいは水酸基を誘導体化したものであり、具体例としてグリコールキトサン等が知られている。
【0010】
N−脱アセチル化酵素としては、キチンあるいはその誘導体に作用するものであることが望ましく、例えば不完全菌由来のキチン脱アセチル化酵素、具体的にはコレトトリカム・リンデムチアナム(Colletotrichum lindemuthianum)由来のキチン脱アセチル化酵素がある。
この酵素は、例えば次の方法によって得ることができる。上記の不完全菌由来の胞子を液体培地で培養した後、培養物から活性画分を回収する。これを、粗酵素液として用いる他、常法により精製して精製酵素とすることができる(特許第2664049号明細書)。また、遺伝子工学的手法により、本酵素を大腸菌等の適当な宿主を用いて組換え酵素として大量生産することが可能となっている(Tokuyasuら、FEBS Lett., 458 (1999) 23−26)。
【0011】
酵素による加水分解反応は平衡反応であることから、加水分解生成物を高濃度にすることにより、逆加水分解反応が効果的に進行することが予想される。キチン脱アセチル化酵素を例に挙げると、本酵素がキチンと水からキトサンと酢酸の生成を触媒する酵素であることから、キトサンを基質として、高濃度の酢酸(あるいはそのイオン)を共存させた状態では、逆加水分解反応であるN−アセチル化を触媒するものと期待できる。
そこで、この考えのもとに本発明者らが鋭意研究した結果、キチン脱アセチル化酵素が高濃度の酢酸ナトリウム存在下、pH8.5において、キトサン2糖、4糖及び2糖誘導体の逆加水分解反応を触媒することを見出し、糖鎖工学上の基盤技術としての、化学的方法では達成が困難な選択的アミノ基保護方法を確立した (Tokuyasuら、Carbohydr. Res., 322(1999) 26−31及びTokuyasuら、Carbohydr. Res., 325 (2000) 211−215 )。
【0012】
本方法による反応生成物を機器分析により解析した結果、生成物はアミノ基のみが選択的にアセチル化されており、化学的方法に見られる様なO−アセチル化物は検出されなかった。また、その際に、重合度の低下は観察されず、これらの結果から、酵素による逆反応を活用すると、穏和な条件下で特異的にN−アセチル化のみを行うことが可能であると示唆された。
以下に説明する本発明の内容は、この糖鎖工学上の基盤技術であるオリゴ糖の官能基保護方法を、前記キトサン系高分子物質からの有用素材への変換法に発展させたものである。また、本発明の方法は、例えばグリコールキトサン等のキトサン高分子誘導体に対しても同様に適用することができる。すなわち、これらの反応性の高い官能基を新たに導入したキトサン誘導体のグルコサミン残基を選択的にN−アセチル化する際にも、本発明の方法が通常の化学法に代え難い長所を発揮することが期待できる。
【0013】
キトサン系高分子物質を効率的にN−アセチル化して、水溶性キチンの様な付加価値の高い化合物を合成するには、当該キトサンを溶解させた状態(均一系)あるいは高度に膨潤させた(均一系に近い)状態において反応を行うことが重要である。
部分脱アセチル化キチンが水溶性を示すためには、分子中のアセチル基がランダムに分布していることが必要条件であり、固体−液体反応(不均一系)で粉末キチンを脱アセチル化した結果生じた部分脱アセチル化キチンは、ブロック状にアセチル基が分布した構造を持ち、水溶性を示さないことが知られている。
この脱アセチル化条件においては、不溶性分子の内部にアルカリ試薬が浸透し難く、分子の表面や非晶性の部分に存在するN−アセチル−D−グルコサミン残基が優先的に脱アセチル化を受ける結果として、アセチル基の分布がブロック状になるものと考えられている。
【0014】
固体のキトサンを不均一系でN−アセチル化する際にも同様なブロック状のアセチル化が起こり、水溶性キチンは生成しないことが考えられる。水溶性キチンを調製する方法としては、キチンの脱アセチル化あるいはキトサンのN−アセチル化という何れかの方法が考えられるが、どちらの方法を採用するにせよ、出発物質を溶解させるか、あるいは高度に膨潤させることが必要となるのは明らかである。
一般に、キトサンは希酸に溶解するが、中性〜アルカリ性下ではゲル化する性質を有するため、均一系での逆反応は酸性条件下で行うことが望ましい。それと同時に、酵素の逆反応を用いてアセチル化を行う場合、N−脱アセチル化酵素が活性を有するpHで反応を行う必要があることにも注意すべきである。
【0015】
コレトトリカム・リンデムチアナム由来のキチン脱アセチル化酵素を例にして説明すると、本酵素のpH安定性を考慮し、酸性条件、通常はpH5.0〜6.0、好ましくは5.5程度の反応液を調製することにより、高分子キトサンの逆反応を進行させることができる。なお、キトサン高分子誘導体の場合は、水溶性であるので、酵素反応を行うにあたり、このようなpH調整は必要ない。
【0016】
具体的にキトサン系高分子物質のアセチル化方法について、キトサンを例として以下に示す。0.01〜1%程度、好ましくは0.24%程度のキトサン基質を含む高濃度の酢酸塩溶液、好ましくは3.6M程度の酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を調製し、少量、好ましくは1/5量程度のN−脱アセチル化酵素液、例えばコレトトリカム・リンデムチアナム由来のキチン脱アセチル化酵素(好ましくは0.001〜0.1ユニット/マイクロリットル程度)を加え、25℃〜60℃程度、好ましくは37℃において、通常、数時間から数日程度反応させる。
反応の停止は必要に応じて行えばよいが、具体的には加熱法(100℃、10分程度)、酸の添加(等量の33%酢酸の添加)あるいは低温下(氷浴)での保存等の方法が考えられる。
【0017】
反応が高度に進行して、酸不溶性になった部分脱アセチル化キチンが生成した際には、酸性条件下での濾過あるいは遠心分離等の方法で分離することが可能である。塩及び酵素を含んだ反応液からの反応生成物の回収方法は、一般的なキトサンの精製法あるいは水溶性キチンの精製法に準じて行えばよいが、アセトン:水=7:1を用いた沈殿法、エタノールによる沈殿法、透析法等が挙げられる。
製品の用途に応じて要求される純度を考慮し、適切な精製法を選択するのは容易である。
反応生成物がN−アセチル化されていることは、N−アセチル−D−グルコサミン残基数の増加、遊離グルコサミン残基数の減少、あるいは遊離アミノ基の定量等によって確認することが可能である。簡便な方法としては、コロイド滴定法、インドール塩酸法(Dische and Borenfreund, J. Biol. Chem.184 (1950) 517−522)等が知られている。
反応液中の基質に由来する遊離アミノ基量は、インドール塩酸法等の方法よって定量することが可能となる。
【0018】
反応生成物を脱塩・精製した後、水に溶解するか、あるいは、まず希酸に溶解した後にアルカリによってpHをアルカリ側にする等の方法により、部分脱アセチル化キチンから水溶性キチンが抽出される。抽出後、先述した精製法等を用いて脱塩・精製することが可能である。
本発明の主な利用法としては、キトサンからの水溶性キチンの調製が挙げられる。前記した様に、水溶性キチンは、キチンを高濃度のアルカリ中で脱アセチル化処理することにより調製されているが、この方法は主鎖の加水分解による分子量の低下に加えて、濃アルカリにキチンを溶解する工程及び中和工程を必要とする等の煩雑さが問題となっている。
一方、無水酢酸及びピリジンを用いた化学的方法により、キトサンから水溶性キチンの合成は可能であるが、この方法は強い刺激臭を有する有機溶媒を用いることとO−アセチル化が起こり得ることが問題である。
【0019】
これに対して、本発明の方法は、副反応が起こらずにN−アセチル化のみが起こるというN−アセチル化酵素の利点を活かしており、さらに中性に近いpHで穏和に反応を行うことから、効率的に水溶性キチンを合成する新技術として極めて有用であると考えられる。
また、本発明は、一連のキトサン高分子誘導体を含むキトサン系高分子物質の選択的なN−アセチル化法に関わる基盤技術になりうると考えられる。キチン質あるいはその誘導体の脱アセチル化度により、高分子物性、あるいは生理特性が異なることが広く知られており、本発明の方法は、キトサン骨格を有する機能性素材の設計及び機能制御を行う上で、広く有用性を発揮すると期待される。
【0020】
【実施例】
次に、本発明を実施例によって詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
実施例1
(1) 組換えキチン脱アセチル化酵素の大量調製とその精製
不完全菌コレトトリカム・リンデムチアナム ATCC56676株からのキチン脱アセチル化酵素遺伝子は、液体培養10日目の菌体からmRNAを精製し、cDNAに変換した後、それを鋳型としてPCRを行うことにより単離した(徳安ら、特開平 11−155565号公報)。これを文献(Tokuyasuら、FEBS Lett., 458 (1999) 23−26) に記載された方法で pET28ベクター(Novagen 社、Madison, WI, USA)に組み込み、大腸菌細胞BL21(DE3, pLysS)(Novagen社) に形質転換した後、これを抗生物質カナマイシン(0.05mg/l)及びクロラムフェニコール(0.034mg/l)を含むLB培地の入った三角フラスコに接種し、27℃で数時間、200rpmで培養を行った後、イソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシド(1mM)により誘導発現させた。
【0021】
その結果、タンパクのN末端側に3アミノ酸残基(Ala−Glu−Phe )が結合した形で、組み換え酵素(S1−CDA)を大量生産することができた。これを元の酵素と同様に疎水クロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて、電気泳動的に単一に精製した。この組換え酵素は、元の酵素と同等のKcat /Km 値を示し、1リットルの大腸菌培養液からの精製酵素の収量は5.58mgであった。
【0022】
(2) キトサンのN−アセチル化反応
48.0mgのキトサン(商品名:キトサンPSH、焼津水産化学工業(株)製)を4.5ml程度の3.6M 酢酸中に加えて撹拌溶解し、3.6M 酢酸ナトリウム水溶液を用いてpHを5.50に調整した後、3.6M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.50)を用いて20.0mlにメスアップした。
次いで、1.5ml容のプラスチックチューブに本液を0.8mlとり、上記(1) で精製したキチン脱アセチル化酵素1.8ユニットを含む0.16mlの水を加え、ボルテックスにより均一にした後に37℃で反応を行った。
経時的にチューブから反応液を0.005ml取り出し、0.395mlの33%酢酸と混合してアセチル化反応を停止した後、その0.2mlを試料液として、インドール塩酸法によってグルコサミン残基の量を評価した。その結果、図1に示したように、反応液中のグルコサミン残基数は反応時間の増加とともに減少しており、N−アセチル化反応によって部分脱アセチル化キチンが生成していることが示唆された。
【0023】
実施例2
キトサンのN−アセチル化による水溶性キチンの調製
実施例1(2) の方法に準じて、0.24%キトサン(商品名:フローナックC、(株)共和テクノス製)の3.6M 酢酸ナトリウム溶液(pH5.50)を調製し、その0.4mlを1.5ml容プラスチックチューブに移した。
次に、組換え酵素(S1−CDA)をそれぞれ0.45、0.9、1.8及び2.7ユニット加え、水を用いて総量0.48mlとした(これらを順に試料1−4とする)。これをボルテックスにより撹拌した後、37℃で反応した。一方、対照としては、0.9ユニットの酵素を加えて0.48mlにした直後に氷浴中で反応を停止したものを用いた。
【0024】
酵素反応を行った試料については、反応開始後15時間目にチューブを回収して数分間氷浴することにより反応を停止した。続いて、全体の倍量の冷エタノールを加えて氷浴中で1時間静置した後、遠心分離(12,000×g、15分、4 ℃)を行い、上澄液を捨てることにより、反応生成物を沈殿として回収した。
その後、洗浄の目的で沈殿画分に冷70%エタノール水溶液を1.5ml加え、遠心分離(12,000×g、5分、4℃)を行った後、その上澄液を捨てた。沈殿部を回収し、デシケータ内でアスピレータにより減圧乾固を30分間行った。
粗精製した反応生成物を1%酢酸0.48mlに溶解し、0.08mlを別のプラスチックチューブに移した(画分A)。残りの0.4mlに1N 水酸化ナトリウムを0.075ml加えてpHをアルカリ側(pH9.0以上)にシフトさせた。これを遠心分離(12,000×g、10分間、4℃)し、上澄液を回収した(画分B)。
【0025】
画分A及び画分Bの遊離アミノ基量をインドール塩酸法によって定量し、前者のデータによりアセチル化反応の添加酵素量による変化を調べ、両者のデータによって水溶性キチンの生成率を調べた。その際には、各反応生成物分子中の遊離アミノ基の含有率には殆ど差が無く、各画分の遊離アミノ基量がその画分の反応生成物の分子数を反映していることを前提とした計算を行った。
その結果、キトサンの遊離アミノ基量は、加えた酵素量に応じて減少し、試料4については、キトサン基質の遊離アミノ基のうち6割程度がアセチル化されたことが示唆された(図2)。また、試料1−4については、水溶性キチンであるアルカリ可溶画分の回収率がそれぞれ4.13%、13.4%、88.9%及び93.0%であった(図3)。
【0026】
実施例3
グリコールキトサンのN−アセチル化反応
キトサン高分子誘導体であるグリコールキトサン(和光純薬工業(株)製)を3.6M 酢酸ナトリウム溶液(pH8.0)に溶解し、0.24%(w/v)グリコールキトサン溶液を調製した。これを0.4mlとり、1.5ml容プラスチックチューブに移し、実施例1(2) に準じて、キチン脱アセチル化酵素S1−CDAを0.9ユニット加え、水により0.48mlにメスアップした。
これを37℃で3.5時間反応させ、インドール塩酸法により、遊離アミノ基量を定量した結果、遊離アミノ基量が反応前の88%に減少しており、グリコールキトサンを基質とした際にもN−アセチル化反応が進行することが示唆された。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、キトサン系高分子物質を基質とした均一系での酵素的なN−アセチル化が可能となり、部分脱アセチル化キチンを得ることができる。
また、保湿作用等を有する高付加価値素材である水溶性キチン等の部分脱アセチル化キチンを、分子量の低下やO−アセチル化等の副反応の起こらない穏和な条件下で効率的に調製できることから、廃棄物・未利用資源であるキチンの用途拡大及び需要増加に拍車がかかるものと期待される。
【0028】
さらに、反応性の高い官能基を有する側鎖をキトサンに結合させた誘導体を温和な条件下において選択的にアセチル化し、キトサン系高分子物質の物性あるいは生理特性を制御することが可能となると考えられることから、望ましい特性を有する機能性高分子素材の調製へと道が拓けるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のキトサンのアセチル化反応液中に存在する遊離アミノ基濃度の経時変化を示すグラフである。
【図2】実施例2のキトサンのアセチル化反応で得た反応生成物(画分A)中の遊離アミノ基量と添加酵素量の関係を示すグラフである。
【図3】実施例2のキトサンのアセチル化反応による水溶性キチン(画分B)の生成率と酵素添加量の関係を示すグラフである。
Claims (2)
- 溶解もしくは膨潤させたキトサン系高分子物質に、酸性条件下でN−脱アセチル化酵素を作用させることを特徴とする部分脱アセチル化キチンの調製法。
- 部分脱アセチル化キチンが、中性〜アルカリ性領域で溶液状態となる部分脱アセチル化キチンである請求項1記載の方法。
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