JP3587064B2 - 運転支援装置付きごみ焼却炉 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ごみ焼却炉の運転員の運転技術を効果的に向上させることが可能な、運転支援装置付きのごみ焼却炉に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
都市ごみ焼却炉は、社会生活において排出される様々な廃棄物を処理するという重要な役割を担っている。近年では、廃棄物であるごみの焼却処理によって発生する熱エネルギの回収への関心が高まり、ボイラ発電設備のついたものが増加し、ボイラでの熱回収が効率的に行えるように、安定な燃焼が要求されている。一方、大気中に放出される環境汚染物質の規制が厳しくなるにしたがって、NOx濃度やCO濃度を低減する燃焼運転が必要とされている。
【0003】
このように、ごみ焼却炉に高度な燃焼運転が望まれているため、通常、自動燃焼制御装置によって上記の要求を満たす運転が行われていることから、運転員が直接操作を行う機会が少なくなっている。このような状況から、異常燃焼状態時の対処能力の向上、初心者の早期養成が重要な課題となっており、ごみ焼却炉の運転訓練装置が提案されている。
【0004】
例えば、川崎重工技報(1995.4 125号p.8−13)、日立造船技報(1994.7第55巻第2号p.73−77)などに掲載されているごみ焼却炉の運転訓練装置は、ごみの燃焼系統に係わる給塵、燃焼火格子装置の運転訓練、燃焼空気等の送風機系統の運転訓練、CO、NOx、O2 等の排ガス関係の運転訓練と目的ごとにわかれている。
【0005】
更に今日のシミュレータ分野では、運転操作のガイダンス表示や運転に伴う視覚・聴覚情報の擬似表示の補助的な機能を付帯する工夫を図っている。例えば、日立造船技報(1994.7第55巻第2号p.73−77)に掲載されているごみ焼却炉の運転訓練装置は、運転訓練における燃焼状態から決定されるパラメータにより予め録画された実炉燃焼画像をデータベースから抽出・表示することで臨場感を持たせるようにしている。
【0006】
同様に録画画像を用いた方法として、特開平9−330013号公報には、プラント運転訓練用シミュレーションシステムが提案されている。この技術では、シミュレーション結果から得られた模擬計装信号に基づき、プラント機器類の運転状況を模擬的に画像表示する。
【0007】
その際、入力される多数の模擬計装信号をそのまま用いて画像の選択を行うと、模擬計装信号と動画像データとの組合せが膨大な数となる。そこで、ニューラルネットワークを用いて、多数の模擬計装信号を少数の画像情報パラメータに変換している。このように、出力信号の数を少数に絞ることで、動画像データを選択するためのマッピングテーブルのサイズを削減し、その構築を容易としている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
これまで、ごみ焼却炉の運転訓練装置は、ごみの燃焼系統に係わる給塵、燃焼火格子装置の運転訓練、送風機系統の運転訓練、排ガス関係の運転訓練のように、系統ごとに訓練が分離されている。このため、従来技術では、ごみ焼却炉の運転訓練を総合的に行うことができず、炉内の燃焼プロセスを運転初心者が把握することは難しい。また、運転訓練装置の設計・製作には多大な費用がかかる。
運転訓練装置以外に運転員が炉内燃焼状態に応じた各操作端の操作方法を総合的に習得する方法として、自動燃焼制御による運転を観察したり、手動で操作することが考えられる。ただし、焼却炉内の燃焼プロセスを把握してない初心者が、自動燃焼制御による運転を計測値の瞬時値やトレンドを通じて観察することにより、燃焼プロセスを把握し、操作方法を習得することは難しい。また、初心者は手動で実炉の操作端を操作することにより、炉内燃焼状態を不安定にしてしまう可能性がある。
この問題を解決するために、通常運転員が運転、炉内状態判別の指標にしている炉内燃焼ビデオ画像を模擬しながら、燃焼状態を判別しやすい形で画像を提供する。運転員はそれを観察することにより、効果的に燃焼プロセスを把握できる。日立造船技報(1994.7第55巻第2号p.73−77)に掲載されているごみ焼却炉の運転訓練装置は、上述した炉内燃焼画像を運転訓練における燃焼状態から決定されるパラメータにより予め録画された実炉燃焼画像をデータベースから抽出・表示することで実現している。ただし、この炉内燃焼画像の表示方法は2つの相反する問題がある。多様なパターンを生成するためには多くの労力がかかり、かつ計算機内画像容量が膨大になってしまい多大な記憶容量が必要となる。逆に、少ないパターンにすると炉内燃焼状態を正確に表現できず、視覚からの効果が薄れてしまう。
【0009】
また、特開平9−330013号公報記載の、ニューラルネットワークを用いて動画像データを選択する方法については、学習作業を必要とする。ニューラルネットワークへの学習により適切な動画像データを選択するためには、種々の場合について学習を繰返す必要がある。そのためには、学習用の適切な教材、即ち典型的なデータを揃える必要があり、動画像データの選択のために、多大な準備作業を要するという問題がある。さらに、起こりうる場合を想定してデータを網羅しておく必要があるため、この従来技術でも、計算機内画像容量が膨大になることは避けられない。
【0010】
この発明は、以上の問題点を解決し、各種の系統の運転操作技術、あるいは自動運転制御を含む運転技術の習得が可能である運転支援装置付きごみ焼却炉を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を達成するためになされたものであり、第1の発明は、炉内の状態量に基づき炉内燃焼状態の画像を擬似的に生成して表示する炉内燃焼状態擬似表示装置を備えた運転支援装置付きごみ焼却炉であって、
前記炉内燃焼状態擬似表示装置は、炉内の燃焼状態の画像の表示について、少なくとも装置の外郭、炉内のごみ、炉内ごみが燃焼の際に発生する炎、およびごみ供給機構が表示され、かつ、炉内を分割した空間の内部を、炎の画像を表示する複数のパーティクルが、ランダムに生成された複数の螺旋状の経路に沿って移動し、それぞれの寿命、上昇速度、色、および螺旋状の経路の螺旋半径を変化させながら、螺旋軸を中心に旋回しつつ上昇する状況を、3次元コンピュータ・グラフィックにて表示することにより、炉内ごみの燃焼状態に応じた炎を擬似的に表現することを特徴とする運転支援装置付きごみ焼却炉である。
【0012】
本発明のごみ焼却炉では、炉内の燃焼状態の画像を擬似的に生成して表示することにより、炉内の状況を理解し易くしている。一般にごみ焼却炉の炉内は、輝度が大きく変化するので、通常のビデオカメラ等では、ラチチュードが狭く、必ずしも燃焼状況が明瞭には見られない。また、ビデオカメラは固定されているため一定の場所からの画像しか得ることができない。
【0013】
そこで本発明では、ごみ焼却炉における各種の設定値や計測値等の炉内の状態量に基づき、炉内の燃焼状態の画像を擬似的に生成する。これにより、どのような燃焼状態であっても、その状態について近似的な画像を表示できる。その結果、ごみ焼却炉の各種の操作に対して、炉内の燃焼状態への影響や効果を画像で確認できる。また、炉内画像の擬似生成において、炉内のあらゆる場所からの画像を表示することも可能である。
【0014】
この発明のごみ焼却炉により、運転員は炉内状態量と共にモニタされる炉内燃焼画像により燃焼状態を判断し、運転操作を行うことができる。そのため、炉内燃焼画像を擬似できる表示装置が組み込まれているごみ焼却炉は、臨場感にあふれた運転操作技術の習得ができ、運転員の効果的な技術向上を可能にする。
【0015】
また、前記炉内燃焼状態擬似表示装置は、炉内の燃焼状態の画像の表示について、少なくとも装置の外郭、炉内のごみ、炉内ごみが燃焼の際に発生する炎、およびごみ供給機構が表示され、かつ、炉内を分割した空間の内部を、炎の画像を表示する複数のパーティクルが、ランダムに生成された複数の螺旋状の経路に沿って移動し、それぞれの寿命、上昇速度、色、および螺旋状の経路の螺旋半径を変化させながら、螺旋軸を中心に旋回しつつ上昇する状況を、3次元コンピュータ・グラフィックにて表示することにより、炉内ごみの燃焼状態に応じた炎を擬似的に表現するものである。
【0016】
この発明では、炉内の炎の画像をライブラリ等に多数蓄積しておいて使用するのではなく、コンピュータ・グラフィック(以下 CG )を用いて、炉内を分割した 空間の内部を炎のパーティクルが動くことで、燃焼時に生じる炎を表現する。その際、個々のパーティクルの動きはランダムではあるが全体としては、螺旋軸を中心に上昇する。
【0017】
このように、コンピュータ・グラフィック(以後 CG と称す)を用いて、炎のパーティクルが炉内を分割した空間の内部を螺旋軸を中心に上昇することで燃焼時に生じる炎を表現する炉内燃焼状態擬似表示装置は、多量の燃焼状態画像データを必要としない。
【0018】
個々のパーティクルの動きは、パーティクルの螺旋半径、サイズ、寿命、上昇速度を炉内関連部分の状態量より調整する。これにより、炉内の炎の流れや成分、具体的には色や勢いをより詳細に表現できるので、多様なパターンを生成することが可能である。
【0019】
炎の画像の生成方法については、炎の一部を描いたパーティクルをランダムに発生させ、適当な螺旋半径、パーティクル寿命、上昇速度、色を持たせながら、螺旋軸を中心に螺旋状に旋回しつつ上昇させることで、炎を擬似的に表現する。更に、炉内を鉛直に幾つかの燃焼区分に分け、燃焼区分毎に前述した炎の画像を火格子上から発生させ、燃焼状態に応じてそれぞれの螺旋半径、パーティクル寿命、上昇速度、色を調整することにより、炉内での炎の流動・燃焼状態を適切に表現することができる。また、このような CG によって作成された炉内燃焼状態擬似画像は、視点の移動による観察方向の設定機能や拡大・縮小機能をもたせてもよい。
【0020】
第2の発明は、炉の燃焼制御を行う自動燃焼制御装置と、
この自動燃焼制御装置の出力に基づき、炉内燃焼状態の画像を擬似的に生成して表示する炉内燃焼状態擬似表示装置と、を備えた運転支援装置付きごみ焼却炉であって、
前記炉内燃焼状態擬似表示装置は、炉内の燃焼状態の画像の表示について、少なくとも装置の外郭、炉内のごみ、炉内ごみが燃焼の際に発生する炎、およびごみ供給機構が表示され、かつ、炉内を分割した空間の内部を、炎の画像を表示する複数のパーティクルが、ランダムに生成された複数の螺旋状の経路に沿って移動し、それぞれの寿命、上昇速度、色、および螺旋状の経路の螺旋半径を変化させながら、螺旋軸を中心に旋回しつつ上昇する状況を、3次元コンピュータ・グラフィックにて表示することにより、炉内ごみの燃焼状態に応じた炎を擬似的に表現することを特徴とする運転支援装置付きごみ焼却炉である。
【0021】
本発明は、自動燃焼制御装置を有するごみ焼却炉について、炉内燃焼状態を擬似的に表示する装置を設置しており、前述と同様、炉内の状況を理解し易くしている。自動燃焼制御装置の演算は炉内の状態量を入力とする。また、演算結果は操作量として入力され、ある時間遅れの後に炉内に反映される。このような一連の炉内状態量や操作量の変動を、炉内燃焼状態擬似表示装置による炉内の燃焼状態の画像で表示することにより、操作量または自動燃焼制御と燃焼状態の関係を理解し易くなる。
【0022】
第3の発明は、ごみ焼却炉の操作端から自動運転が選択された場合は、自動燃焼制御装置が、炉内の状態量に基づき炉の制御アルゴリズムにより操作量を決定することを特徴とする第2の発明の運転支援装置付きごみ焼却炉である。
【0023】
この発明の燃焼制御系については、自動燃焼制御装置による自動運転モードと手動運転モードの2つのモードを備えている。各操作端の運転モードが自動燃焼モードの時は、自動燃焼制御装置による演算結果が燃焼制御内容に反映される。なお、運転モードの選択は、運転中に操作盤上で行えることが望ましい。
【0024】
第4の発明は、炉内燃焼状態擬似表示装置は、炉内の状態量に基づき炉内燃焼状態を判断し、その結果に基づき炉内燃焼状態を表す状態量を画像として表示するためのパラメータへ変換し、その結果から炉内燃焼状態を仮想的に表現することを特徴とする第1ないし第3の発明の運転支援装置付きごみ焼却炉である。
【0025】
この発明では、更に、炉内燃焼状態擬似表示装置が、炉内状態量を入力として取り込み、これらの状態量に対し演算を行うことで、炉内可動部や燃焼状態を画像上で表現する。その場合、炉内可動部や燃焼状態を表す状態量を、画像として表示するためのパラメータへ変換し、これらのパラメータから構成される画像を表示する。これにより、実炉と同様に運転結果を視覚的に認識できるので、臨場感にあふれた炉内燃焼状態擬似表示による運転支援を行うことが可能である。
【0026】
第5の発明は、炉内燃焼状態擬似表示装置は、炉内燃焼状態を表す擬似表示画像における炉内ごみの厚み、ごみ供給機構の移動速度、および炉内ごみが燃焼の際に発生する炎の成分に関するパラメータを決定することを特徴とする第1ないし第4の発明の運転支援装置付きごみ焼却炉である。
【0027】
この発明では、炉内燃焼状態擬似表示装置の画面上に、実炉を模倣した焼却炉の外郭を表示し、その内側に炉内ごみと炉内ごみが燃焼の際に発生する炎とごみ供給機構を表示する。実際の動きに合わせるため、炉内ごみの厚みと炉内ごみが燃焼の際に発生する炎の成分とごみ供給機構は、それぞれと関連の深い炉内状態量によってCG上にて動く必要がある。
【0028】
炉内において、ごみ供給機構は炉内の可動部分であり、燃焼の際に生じる炎の成分や流れとごみの厚みは燃焼状態に応じて変化する。これらを表現するため、炉内燃焼状態擬似表示装置は、炉内の状態量や自動燃焼制御装置の出力から得られるパラメータを取り込み、画像用のパラメータに変換する。
【0029】
具体的には、ごみ供給機構は速度データを炉内燃焼状態擬似表示装置に伝達して、ごみ供給速度と同様の速さで供給部分画像を往復させる。炉内ごみの厚みは、各火格子下と炉内の圧力差から、自動燃焼制御装置にて算出される火格子上のごみ量推定値を基に、ごみの厚い/薄いを表現する。
【0030】
炎については、実炉に近い燃焼状態を表現するため、炉内における温度や蒸発量などの状態量を入力とし、一次変換やファジィ推論などの演算により炎の構成要素であるパーティクルの螺旋半径、サイズ、寿命、上昇速度のパラメータを決定する。
【0031】
【発明の実施の形態】
まず、全体像について説明する。図1はごみ焼却炉の運転訓練装置の構成を示すブロック図である。図中、1は操作盤(操作端)、3は運転操作切り換え手段、4は手動運転操作手段、5は運転結果表示手段、8は自動燃焼制御装置、10は炉内燃焼擬似表示装置、11はごみ焼却炉をそれぞれ示す。
【0032】
ごみ焼却炉11においては、自動燃焼制御装置8または手動による操作変更に応じて、操作量を決定する。自動燃焼制御装置8は、ごみ焼却炉11における計測値を入力として操作量を演算する。
【0033】
運転員は、操作盤1を通して操作を行う。操作端(操作盤)1では、運転操作切り換え手段3によって、自動燃焼制御装置8または手動による運転が選択できる。手動運転時には、手動運転操作手段4によって運転員が手動運転操作を行う。運転員は、自動燃焼制御装置8で演算された操作量を、運転結果表示手段5である炉内状態量の数値・トレンド表示を通じ、現在と過去の運転状況を確認できる。
【0034】
また、ごみ焼却炉11において計測される各種状態量のパラメータを、炉内燃焼擬似表示装置10に送る。炉内燃焼擬似表示装置10はごみ焼却炉11から得られるパラメータを入力として炉内燃焼状態を判断し、その結果を基に炉内燃焼を仮想的にCGで表示する。
【0035】
図1のごみ焼却炉について、主要各部分を説明する。
[自動燃焼制御装置8]
自動燃焼制御装置8における操作量の演算方法は、通常のPID演算でもよいが、ここでは一例としてファジイ演算を用いた場合について説明する。各操作端(操作盤)の自動運転時の操作量は、周期毎に、式(1)に示すように、燃焼の長期安定化を保つための基準値と、短周期の外乱変動に対する補正量の積により算出されている。
【0036】
ui=(1+Σj fci j )×fri (1)
【0037】
ここで、ui は操作端(操作盤)iの操作量、fri は操作端iの基準値、fci j は操作端iにおけるルール群jの補正量をそれぞれ表す。
【0038】
基準値ui,fri は各操作端毎にごみの低位発熱量、ごみ供給量、蒸発量などから決定される。補正量fci jは各操作端毎に関連の深い状態量を入力とした、いくつかのファジィルール群から得られる補正量の和により算出される。例として、水噴霧量のファジィルール群(自動燃焼制御装置の水噴霧量の操作量決定に用いられるファジィルール群一覧)を表1に示す。水噴霧量の補正量は炉内温度、NOx濃度、炉出口温度それぞれのファジィルール群の補正量の総和により決定される。つまり、式(10)を水噴霧量に当てはめた場合、式中のjの値は3である。
【0039】
【表1】
【0040】
次に、ルール群においての補正量はシングルトン法を用いて算出している。一例として前述した水噴霧量のルール群1を用いて説明する。炉内温度の各ルール(低、適、高)に対応するメンバーシップ関数は図2に示す形で与えられる。次に各前件部における適合度は図2に示す現在の炉内温度と炉内温度が低、適、高のメンバーシップ関数が交叉する点である。これらの値がμ1、μ2、μ3 と与えられる。Rule1−3における後件部出力値が G1、G2、G3で与えられるとき、ルール群1における補正値は以下の式で与えられる。
【0041】
fcH2O 1=(G1μ1+G2μ2+G3μ3)/(μ1+μ2+μ3) (11)
【0042】
このような演算が各操作端(操作盤)の各ルール群について行われ、計算された操作量ui は操作端が自動運転モードである場合にはごみ焼却炉11の操作端に入力される。
【0043】
[炉内燃焼状態擬似表示装置10]
ここでは、まず、この装置におけるCGの実施形態(表現方法)について述べ、次いで、この装置の特徴的な機能であるCGのカスタマイズ、CGパラメータの決定方法について説明する。
(A)CGの実施形態(表現方法)
炎の動きを現実に近づけるため、図3に示すように、雲状のテクスチャーを貼り付けた四角形パーティクルを、炉の底面から上方向に飛ばすことにより、炎のCGを表現する。
【0044】
パーティクルはノードといわれる四角形の面から次のノードまで螺旋状に上がっていく。図3は、ノードN1でパーティクルが発生し、次のノードN2までランダムな螺旋半径を辿りながら上昇する様子を示している。この時、パーティクルの移動経路については、次のようにパラメータを設定しておく。
【0045】
まず、前後のノードの四角形の面に正方形を対応させる。次に前後する四角形の頂点同士を結んで形成される六面体に対して、この正方形を底面とする四角柱(正規空間)を対応させる。これら両者の対応関係は1次変換で表され、相互に容易に変換できる。パーティクルが移動する経路の螺旋半径Rは、この正規空間における底面の正方形の1辺の長さを2とした時に、0〜1の間のランダムな値とする。つまり、かならずパーティクルは正規空間の四角柱の内側を通る。
【0046】
パーティクルは常に視点方向を向く四角形ポリゴンで実現し、適当な雲状テクスチャーを貼りつけ、火炎を表現させる。また、1本の螺旋軸は、それぞれ対応する正規空間上での四角柱の軸と一致させておけば、実際の空間では2つのノードの四角形の対角線の交点を結んだものとなる。
【0047】
パーティクルは、雲状テクスチャーの色と輝度およびアルファ値(寿命)の情報を持っている。雲状テクスチャーの色は、所定の範囲内でランダムに発生させたRGB値を用いる。アルファ値は発生からの相対時間の関数、つまり寿命を表しており、パーティクル各々で寿命を変更することができる。
【0048】
擬似表示装置上炎のCGでは、上記の炎のパーティクルを三次元空間に配置する螺旋の上で動かす。具体的には、図4に示すように、ノードを多数連結し、そのノードで囲まれた空間内のランダムな螺旋の線上を、パーティクルは移動する。炎を表すパーティクルについては、以下のように表現することができる。
【0049】
1.位置: 図10に示すように、まず螺旋軸上の位置を螺旋半径R、角速度ω、軸速度vによって決める。角速度ω、軸速度vはそれぞれに決められた上下限の範囲内でパーティクル毎にランダムに決定する。上下限の範囲は外部入力のパラメータにて平行移動する。時刻によりパーティクルの底面からの移動距離Lと相対角度θが以下のように決まる。
【0050】
移動距離: L=vt (3)
相対角度:θ=ωt (4)
【0051】
この移動距離Lから、パーティクルが存在する螺旋軸と垂直なノード内の平面が決まる。その平面内において、正規化された螺旋半径Rから実際の螺旋半径を求める。そして、螺旋半径と相対角度θからノード内におけるパーティクルの位置が決まる。次に、焼却炉内の画像を基準としたノードの四角柱の位置より、パーティクルの位置を、焼却炉を基準としたx,y,z座標軸上に決定する。
【0052】
2.色: 個々のパーティクルのRGB成分は各成分ごとに決められた上下限の範囲内で、ランダムに決まる。なお、RGB成分の上下限範囲は外部入力のパラメータにて平行移動する。
【0053】
3.寿命: 個々の寿命の成分は決められた上下限の範囲内で、ランダムに決める。上下限の範囲は外部入力のパラメータにて平行移動する。決められた寿命において、最初の一定割合の長さ(例えば2/3)ではパーティクルの色は指定されたRGB成分を持つが、残りの部分(期間)ではRGB成分が減衰しながら消滅していく。なお、最上段のノードまで到達したパーティクルは最上段で消滅する。
【0054】
4.パーティクルサイズ: 個々のパーティクルサイズは、決められた上下限の範囲内で、ランダムに決める。上下限の範囲は、外部入力のパラメータにて設定する。
【0055】
炉内全体の炎の表現の概略を図5に示す。炉内を火格子下の燃焼空気の吹き込みに合わせ、鉛直方向に4つの燃焼区分に分ける。各燃焼区分の中では、前述したノードと螺旋軸により、雲状のテクスチャーを貼り付けた四角形パーティクルを底面(火格子)から上方向に飛ばす。
【0056】
炎以外のCG表現については、ゴミは火格子および給塵装置を覆う三角形格子上に、移動するテクスチャーを貼ることで表現される。図6はごみのモデルを示したものである。ごみ供給機構の部分は、装置の画像が往復運動でき、その速度が燃焼モデルにて演算された値に対応するように表現する。炉壁などの固定物は、予め画像パラメータを与えておいて表示される。
(B)CGのカスタマイズ
CGのカスタマイズについては、次のようにして行う。本装置では各螺旋軸の座標と、基準となる炎のテクスチャーイメージを基にして、各螺旋軸におけるパーティクルサイズや角速度、軸速度や色、寿命の上下限が決められ、その範囲内で成分が決まる。各要素の上下限はパラメータにより設定するようになっている。パラメータの値は燃焼状態に応じて決定できるようになっている。また、燃焼状態判断の指標については、燃焼モデルにて演算された状態量によりカスタマイズできる。
【0057】
ごみの画像は、各火格子下と炉内の圧力差から自動燃焼制御装置にて算出される火格子上のごみ量推定値を基に、ごみの高さに変換され、炉内燃焼状態擬似表示装置でその高さのごみの画像が表示される。この過程では、ごみ量推定値からCG画像のごみ厚みパラメータへの変換を行うが、変換の際に使用されるパラメータは予め調整できる。また、火格子の往復運動によっても、ゴミを表すテクスチャーを貼り付けた格子頂点の位置を、細かく上下させることにより、実際の炉内燃焼状態に近づけることができる。
(C)CGパラメータの決定
CGパラメータの決定については、上述したように、それぞれの(ここでは4つの)螺旋軸におけるパーティクルサイズや角速度、軸速度や色、寿命は、燃焼状態に応じて決定される。そこで、燃焼モデルから得られる状態量から燃焼状態を判別し、それらを決定するパラメータに変換する演算方法を説明する。
【0058】
1.炎の寿命: 各火格子の炎の寿命は、火格子上の燃焼パターン、ガスバランスを測る上の指標となる主煙道部分の温度、蒸発量の基準値との偏差を求め、予め設けておいた寿命の基準値にこれらを重み付き加算して補正する。
【0059】
各火格子上の炎の勢いについては、燃焼パターンをパラメータとすることにより、決定づけることができる。主煙道部分の温度は、ガスバランスを測る上の指標である。主煙道温度が高ければ主煙道側(炉の下流側)の炎の流れが多い。その一方、主煙道温度が低ければ副煙道側(炉の上流側)の炎の流れが多い。蒸発量の基準値との偏差は全体的な炎の高さを決めるパラメータとして有効である。
【0060】
具体的には表2のようにそれぞれの基準値(燃焼パターン、温度、偏差)を決めておきその値より上下するときに補正値を増加・減少させる。表中において螺旋軸上の炎を炉の上流側から数えて、No.1−4と呼ぶ。
【0061】
【表2】
【0062】
2.炎の角速度、軸速度(上昇速度): 炎の角速度と軸速度は、炎の旋回速度と上昇速度を表現する。各火格子の角速度と軸速度は予め基準値を設けておき、蒸発量の基準値との偏差と各火格子下から炉内に入る燃焼空気量の割合により加法的に補正される。
【0063】
炎の上昇速度は、燃焼の勢い、すなわち蒸発量と強い相関がある。よって、蒸発量の基準値との偏差は、全体的な炎の勢いを決めるパラメータとして有効である。また、各火格子下の燃焼空気量によって、各火格子上の炎の勢いが変わってくる。具体的には、それぞれの基準値(蒸発量偏差、燃焼空気量)を決めておきその値より上下するときに補正値を増加・減少させる。
【0064】
【表3】
【0065】
3.炎の色: 各火格子の炎の色は予め基準値を設けておき、各部分に関連の強い温度により加法的に補正される。
焼却炉内の炎の色は燃焼が活発であるときには明るめである。反対に燃焼が活発でないときには暗くぼんやりしている。燃焼が活発であるか否かを判断するパラメータとして、ガス混合室温度と、上流部では燃焼室温度、下流部では主煙道温度を用いる。
【0066】
具体的には、それぞれの温度基準値を決めておきその値より上下するときに補正値を増加・減少させる。
【0067】
【表4】
【0068】
4.パーティクルサイズ: パーティクルサイズについては、各火格子毎に基準値のみを設定している。
【0069】
増加・減少値の算出方法については、制御ルールやファジィ制御などを適用できる。特にファジィ制御は制御ルールを言語的に記述でき、パラメータ調整も容易である。なお、以上で挙げた基準値、ゲイン等のパラメータは実際の燃焼状態や好みに応じて、容易に調整できる。
【0070】
【実施例】
上述の発明の動作原理に基づき、実際のシステムを構築した例について説明する。
【0071】
ごみ焼却炉11が運転しているとき、通常、運転員は図7に示す操作盤画面によって、炉内燃焼状態を確認する。図7の画面は、自動と手動運転操作切り換え手段3、手動運転操作手段4、運転結果表示手段5を兼ねている。
【0072】
図7の画面上で、運転員が任意の操作タグ、例えば「S−003」を指定すると画面右端(操作盤)に自動と手動運転操作切り換え手段3と手動運転操作手段4を兼ねた画面が表示され、自動運転の状態「ACC」から手動運転の状態「MAN」に切り換えることができる。「S−003」を「MAN」に切り換えることによって、任意の操作量を手動で設定できる。この画面が不要であれば、「消去」を選択すると画面が消える。
【0073】
また、運転結果表示手段5は、図7と図8の画面から構成される。図7では、現在の操作量、炉内の各温度、圧力、排ガス中の各成分の濃度、蒸気発生量、ホッパレベルなどの数値とそれぞれのタグ名が、周期的に更新され、表示される。図8では、これらの数値の過去のトレンドが表示される。
【0074】
炉内燃焼状態擬似表示装置10は、ごみ焼却炉11にて導出される状態量を取り込み、演算を行うことで、炉内可動部や燃焼状態を画像上で表現するためのパラメータへ変換し、与えられたパラメータを基に構成される図9で示すような画像(擬似炉況)を逐次表示する。
【0075】
【発明の効果】
上記で説明したように、本発明によれば、ごみ焼却炉において、自動燃焼制御装置および炉内燃焼状態擬似表示装置を備えているので、運転員が効果的に運転操作技術を習得することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】運転支援装置付きごみ焼却炉の構成を示すブロック図である。
【図2】自動燃焼制御装置の水噴霧量の操作量決定に用いられる炉内温度のメンバーシップ関数である。
【図3】炎のCGの基本動作を示す図である。
【図4】炎のCGにおけるノード間のパーティクルの動きを示す図である。
【図5】擬似炉況における4本の炎の様子を示す図である。
【図6】ごみの画像のテクスチャーを示す図である。
【図7】ごみ焼却炉運転の各種の操作を行うための画面を示す図である。
【図8】燃焼挙動を示す変数のトレンドを示す図である。
【図9】炉内燃焼状態擬似表示装置における擬似炉況を示す図である。
【図10】炎のパーティクル位置の決定方法を示す図である。
【符号の説明】
1 操作盤
3 運転操作切り換え手段
4 手動運転操作手段
5 運転結果表示手段
8 自動燃焼制御装置
10 炉内燃焼状態擬似表示装置
11 ごみ焼却炉
Claims (5)
- 炉内の状態量に基づき炉内燃焼状態の画像を擬似的に生成して表示する炉内燃焼状態擬似表示装置を備えた運転支援装置付きごみ焼却炉であって、
前記炉内燃焼状態擬似表示装置は、炉内の燃焼状態の画像の表示について、少なくとも装置の外郭、炉内のごみ、炉内ごみが燃焼の際に発生する炎、およびごみ供給機構が表示され、かつ、炉内を分割した空間の内部を、炎の画像を表示する複数のパーティクルが、ランダムに生成された複数の螺旋状の経路に沿って移動し、それぞれの寿命、上昇速度、色、および螺旋状の経路の螺旋半径を変化させながら、螺旋軸を中心に旋回しつつ上昇する状況を、3次元コンピュータ・グラフィックにて表示することにより、炉内ごみの燃焼状態に応じた炎を擬似的に表現することを特徴とする運転支援装置付きごみ焼却炉。 - 炉の燃焼制御を行う自動燃焼制御装置と、
この自動燃焼制御装置の出力に基づき、炉内燃焼状態の画像を擬似的に生成して表示する炉内燃焼状態擬似表示装置と、を備えた運転支援装置付きごみ焼却炉であって、
前記炉内燃焼状態擬似表示装置は、炉内の燃焼状態の画像の表示について、少なくとも装置の外郭、炉内のごみ、炉内ごみが燃焼の際に発生する炎、およびごみ供給機構が表示され、かつ、炉内を分割した空間の内部を、炎の画像を表示する複数のパーティクルが、ランダムに生成された複数の螺旋状の経路に沿って移動し、それぞれの寿命、上昇速度、色、および螺旋状の経路の螺旋半径を変化させながら、螺旋軸を中心に旋回しつつ上昇する状況を、3次元コンピュータ・グラフィックにて表示することにより、炉内ごみの燃焼状態に応じた炎を擬似的に表現することを特徴とする運転支援装置付きごみ焼却炉。 - ごみ焼却炉の操作端から自動運転が選択された場合は、自動燃焼制御装置が、炉内の状態量に基づき炉の制御アルゴリズムにより操作量を決定することを特徴とする請求項2記載の運転支援装置付きごみ焼却炉。
- 炉内燃焼状態擬似表示装置は、炉内の状態量に基づき炉内燃焼状態を判断し、その結果に基づき炉内燃焼状態を表す状態量を画像として表示するためのパラメータへ変換し、その結果から炉内燃焼状態を仮想的に表現することを特徴とする請求項1ないし請求項3記載の運転支援装置付きごみ焼却炉。
- 炉内燃焼状態擬似表示装置は、炉内燃焼状態を表す擬似表示画像における炉内ごみの厚み、ごみ供給機構の移動速度、および炉内ごみが燃焼の際に発生する炎の成分に関するパラメータを決定することを特徴とする請求項1ないし請求項4記載の運転支援装置付きごみ焼却炉。
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