JP3584166B2 - 内部空間を有する金属錯体からなる内包剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内部に空間を有する三次元かご状遷移金属錯体からなる化学物質の内包剤に関する。本発明の内包剤である三次元かご状遷移金属錯体は、ナノスケールの三次元かご状構造をしており、他の化学物質をその中に選択的に取り込むことができ、化学物質の外界からの保護や、選択的なふるいなどとして有用である。
【0002】
【従来の技術】
従来、化学物質などを包み込むものとして、ミクロスフェアやリポソームなどが報告されてきている。しかし、これらのものは直径がミクロン(10−6)のオーダーであり、nm単位の分子を正確に制御することはできなかった。
1985年に、約0.7nmの直径を有する炭素60の化合物である「フラーレン」が発見され、1984年には直径数nm〜10nmの「デンドリマー」が報告され、一方、nm単位の測定を可能とする走査型トンネル顕微鏡(ナノメーター)の開発も急速に進み、立体構造がナノスケールで把握できる化学物質の開発が行われてくるようになって、近年ナノ(10−9)スケールの化学が急速に進展してきている。ナノスケールの化学により、分子をその大きさなどで正確に制御することができ、21世紀に向けた新しい技術として重要視されている。
【0003】
一方、生体構造の形成にも見られる自己組織化のしくみを人工的な系に利用することで、高次な構造や機能を持った分子を複数の小分子から自発的に組み立てることができる。このようにして組み立てられた熱力学平衡下で自己組織化した構造体は、それを構成する成分との間に平衡があるため、外的条件の変化により簡単に構成成分に壊れてしまう。
熱力学平衡下で自己組織化した平衡構造を平衡のない構造に固定化し、高次な構造を非可逆的に組織化させることができれば、共有結合に匹敵する安定性を持った分子を自己組織化でつくることが可能となり、新しい物質構築手段として意義がある。
【0004】
さらに、自己組織化により安定性を持った分子を、適当な刺激、例えば、温度(熱的刺激)や光の照射(光化学的刺激)や電気(電気化学的刺激)などにより可逆的に元の成分に戻すことができれば、自己組織化した分子とそれらを構成する成分とを制御することができることになる。
【0005】
この概念を実現するためには、外的刺激により可逆性を制御できる結合が必要である。すでに、本発明者は白金−ビリジン核結合(Pt(II)−Py結合)の可逆性が容易に制御できることを見い出し、このような結合に対して、「分子錠」の概念を創出してきた(M.Fujita, et al., J. Am. Chem. Soc., 117, 4175(1995) ; M.Fujita, et al., Chem. Lett., 1031(1991))。すなわち、Pt−Py結合でできた分子錠は、室温では不可逆(施錠状態)であるが、塩を添加して加熱することで可逆(開錠状態)となる。
【0006】
自己組織化により安定性を持った分子を三次元的に閉じた構造(三次元かご状構造)にし、かつ、前記の「分子錠」の概念を導入することができれば、ナノスケールの三次元かご状分子を分子錠により任意に制御することができることになる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、自己組織化により安定性を持った分子を三次元的に閉じた構造(三次元かご状構造)を有する化合物からなる内包剤を提供するものである。
本発明は、遷移金属配位場を分子が数と方向を規制され、自発的に集合する特異場として捉えた新概念に基づくものであり、この配位場における分子集合を分子・物質の新しい構築原理として活用するものである。すなわち、有機分子の遷移金属への配位を駆動力として、遷移金属の配位様式と適度に設計された有機小分子との細み合わせにより、熱力学平衡下で安定かつ明瞭な精密分子構造を自発的に組織化させる上記概念に基づいてなされたものである。
本発明は、三次元かご状構造の内部の大きさ、極性、各種親和性などにより化学物質を選択的にその内部に取り込むことができる三次元かご状遷移金属錯体からなる内包剤を提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、内部に空間を有する三次元かご状遷移金属錯体からなる化学物質の内包剤に関する。より詳細には本発明は、三次元かご状遷移金属錯体の配位子が、実質的に平面構造であって、遷移金属と配位結合を形成することができる電子対を分子中に3個以上有する化合物である三次元かご状遷移金属錯体からなる内包剤に関する。
また、本発明は、テンプレートの存在下又は非存在下に、遷移金属と配位結合を形成することができる電子対を分子中に3個以上有する化合物と、遷移金属塩とを混合して反応させて三次元かご状遷移金属錯体を製造し、所望により当該テンプレートを抽出除去することからなる三次元かご状遷移金属錯体からなる内包剤を製造する方法。テンプレートとしては、好ましくはアダマンタンカルボン酸塩が使用できる。
【0009】
さらに、本発明は、試料中に前記の三次元かご状遷移金属錯体からなる内包剤を加えて、試料中の一部の化学物質を選択的に当該内包剤の内部に取り込むことからなる試料中の化学物質を選別する方法、及び、当該方法により化学物質を精製する方法に関する。
本発明は、前記の三次元かご状遷移金属錯体からなる内包剤の中に化学物質を内包させて、内包された化学物質を外界から保護する方法、及び、保護剤に関する。
また、本発明は、前記の三次元かご状遷移金属錯体からなる内包剤の中に1種又は2種以上の化学物質を内包させて、内包された化学物質を当該内包剤の内部で化学反応させて、当該内包剤の内部で前記化学反応における生成物を製造する方法に関する。
【0010】
本発明の内包剤となる三次元かご状遷移金属錯体の遷移金属としては、配位結合により錯体を形成できる遷移金属が好ましく、より好ましくは白金、パラジウムなどが挙げられる。これらの遷移金属は、各種の酸化状態のものが使えるがII価のものが好ましい。また、これらの遷移金属は、他の小さな配位子を有するものが好ましく、より好ましくは立体的にある程度固定された配位子が好ましい。好ましい配位子としては、中心の遷移金属と環を形成するものが挙げられる。好ましい配位子の具体例としては、例えばエチレンジアミンなどのジアミン系の2座配位子が挙げられる。このような、他の配位子を有する遷移金属は、キラルなものであっても、アキラルなものであってもよい。
【0011】
本発明の内包剤となる三次元かご状遷移金属錯体の配位子における、遷移金属と配位結合を形成することができる電子対としては、窒素原子や酸素原子などの孤立電子対、π−アリル系のπ電子などが挙げられるが、窒素原子の孤立電子対が好ましい。このような電子対としては、例えば、ピリジン環の窒素原子の電子対などが挙げられる。
【0012】
本発明の内包剤となる三次元かご状遷移金属錯体の配位子は、遷移金属と配位結合して内部に空間を有する三次元かご状構造を形成できるものであればよく、三次元かご状構造の大きさに応じて適当な距離及び角度で遷移金属と配位結合を形成できる電子対を3個以上有するものが好ましい。また、当該配位子が実質的に平面構造を有するものであってもよい。実質的に平面構造ということは、遷移金属に配位結合する3個以上の電子対を有する部分が実質的にひとつの平面上にあるものであるが、より好ましくは配位子全体が実質的に平面構造となるものが挙げられる。
【0013】
本発明の内包剤となる三次元かご状遷移金属錯体の配位子は、鎖状のものでもよいが、好ましくは化学構造的にある程度固定された環構造を有するものである。この環構造は、単環状であっても、多環状であっても、縮合環状であっても、これらの組合せであってもよい。より好ましくは、配位結合を形成する3個以上の電子対が幾何学的に規則的に配置されたものである。
【0014】
より具体的には、例えば、中心にベンゼン環、1,3,5−トリアジン環などの6員芳香環を有し、その1,3,5−位又は2,4,6−位にピリジン環や(4−ピリジル)置換アルキル基などの電子対を有する環が置換したものが挙げられ、より具体的には、2,4,6−トリス(4−ピリジル)−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリス(4−ピリジル)ベンゼンなどが挙げられる。また、他の例としては、中心にポルフィンのような縮合環系を有し、ポルフィン環系の対称の位置に4個のピリジン環が置換したものが挙げられる。
【0015】
本発明の内包剤となる三次元かご状遷移金属錯体の配位子の大きさには特に制限はないが、余り小さいと三次元かご状構造を形成することが困難となり、また、余り大き過ぎるとかご状構造の中が大きくなり過ぎることから、通常は0.5nm〜数nm程度のものが好ましい。
【0016】
本発明の錯体の配位子として実質的に平面構造を有する配位子を用いた場合には、形成される錯体は実質的に正多面体構造とすることができる。例えば、電子対が3個以上の3座配位子を用いて実質的に正四面体構造(図1参考)とすることができ、また、電子対が4個以上の4座配位子を用いて実質的に正立面体構造(図2参照)とすることができる。
さらに、複数種の配位子を組合せて使用することも本発明は包含している。
【0017】
本発明の三次元かご状遷移金属錯体錯体からなる内包剤の製造方法としては、遷移金属塩と配位子とを、配位結合を形成させる条件下で反応させることにより行うことができる。より好ましくは、三次元かご状構造の中に収納され得る大きさを有する物質(テンプレート)の存在下に行われるが、このようなテンプレートは必ずしも必要なものではない。テンプレートとしては、生成される三次元かご状構造の大きさに応じて種々のものが使用されるが、例えば、配位子として2,4,5−トリス(4−ピリジル)−1,3,5−トリアジンを用いて実質的に正四面体の錯体を形成させる場合には、アダマンタンカルボン酸塩が好ましい。
【0018】
この錯体を製造する際に使用されたテンプレートは、三次元かご状構造を有する錯体が生成した後に、クロロホルムなどの溶剤を用いて抽出などの操作によりこれを取り出すことができる。
【0019】
この錯体を製造する際に使用される遷移金属の塩としては、硝酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩などの無機塩や、酢酸塩などの有機酸塩などが挙げられる。好ましい塩としては、硝酸塩が挙げられる。遷移金属の塩は、前述したように他の配位子を有していてもよく、例えば、エチレンジアミンのようなジアミンで配位されていてもよい。より好ましくは、キラルな配位子で配位されていてもよい。
【0020】
好ましい遷移金属の塩としては、例えば、エチレンジアミン白金(II)ジ硝酸塩、エチレンジアミンパラジウム(II)ジ硝酸塩などが挙げられる。
本発明の内包剤となる三次元かご状遷移金属錯体の製造例を化学反応式で示すと次式、
【0021】
【化1】
【0022】
で示すことができる。
三次元的に閉じた分子(クリプタンド、カルセランド、球状クラス夕ー、フラーレン等)の内部空間では、分子や原子(イオン)が極めて特異な挙動を示す。通常このような内部空間は、小分子1個で完全に満たされてしまい、複数個の小分子、あるいは単独の巨大分子を包含できる三次元分子は合成例がなかった。本発明の自己組織性三次元Pd(II)六核錯体は、ナノサイズの内部空間を持ち、アダマンタンを4分子包接することができる。さらに、錯体内ナノ空間を三次元的に拡張したかご構造やピリジル置換カリックスアレーンを二量化したC4対称構造を自己組織化させ、これらの錯体のナノ空間を利用し、C60やカルボラン、置換ポルフィリン等の巨大分子の包接を試みることが可能となる。このような巨大分子はナノ空間からの脱出ができず外界から孤立するため、新規な物性の発現が期待できる。
【0023】
さらに自己組織化により得られる錯体の三次元空間には複数個の小分子が包接されることから、三次元空孔内では既存の単一分子系、分子集団系のいずれにも属さない「極小数分子系」の化学が展開できる。例えば極小数分子を空孔内で特異的に配列させ、新規な物性を発現させる。また、モノマー分子を孤立空間内で反応させ特定することにより、極小数分子からなる単一オリゴマーを選択的につくることも可能となる。さらには、極小数分子から巨大分子やクラスターを“ship−in−a−bottol”合成し、生成物を内部空孔に閉じ込めることも可能となる(図3参照)。
【0024】
例えば、二価Pd錯体(en)Pd(NO3)2(式中、enはエチレンジアミンを示す。)と三座配位子トリス(4−ピリジル)トリアジンから得られる三次元かご状錯体(図1参照)では、o−カルボランを4分子取り込むことができ、1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼンを一分子取り込むことが判った。通常はこの錯体に取り込まれた分子は、溶剤などで抽出することにより取り込まれた分子を取り出すことができるが、1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼンの場合には、室温でヘキサンで抽出しても殆ど取り出すことができなかった(図5参照)。さらに、シス−スチルベンとその異性体のトランス−スチルベンとの混合物からは、シス−スチルベンのみを選択的に取り込むことが判明した。同様なことはアゾベンゼンにもみられた。
【0025】
このように、本発明の内包剤は、特定の分子を取り込むことができ、さらに、分子の立体構造を認識して、立体異性体の片方のみを選択的に取り込むことができ、分子のふるいや精製に使用することができる。
また、特定の分子を取り込んで通常の条件ではそれを出さないことから、特定の分子を外界から保護する保護剤としても使用することができる。
【0026】
例えば、本発明の内包剤にフェロセンを取り込ませ、中心金属の鉄の酸化電位を測定した(図6参照)。このフェロセン(ビス−シクロペンタジエンカルボン酸)の外界での酸化電位(E2+/3+ )は、+0.44Vであるが、本発明の内包剤に取り込まれたこのフェロセンの酸化電位(E2+/3+ )は、+0.58Vであった。
【0027】
さらに、本発明の内包剤は同種の分子のみならず、異なる分子種を同時に内包することもできる。例えば、1,4−ナフトキノンとシクロヘキサジエンとを同時に内包することができる(図7参照)。
相互に化学反応をし得る2種以上の同一又は異なる分子種を内包させた場合には、本発明の内包剤の中でこれらを化学反応させることもできる。例えば、前記の1,4−ナフトキノンとシクロヘキサジエンとを同時に内包させた場合に、これを80℃に加熱すると( D2O中)、約30分間でこれらの分子が付加反応して(ディールスアルダー反応)、図7に示す4環性の化合物が本発明の内包剤の中で得られる(収率80%)。比較のために、この化学反応をクロロホルムを用いて内包された分子を抽出してから行ったところ、目的物は得られなかった。また、この化学反応を本発明の内包剤を使用せずに無溶媒で行ったところ収率50%で目的物が得られたに過ぎなかった。
【0028】
このように、本発明の内包剤の中に化学反応の原料となる分子を取り込ませておくことにより、内包剤のナノ空間の中で相互に化学反応をして目的物を高効率で製造することができる。したがって、本発明の内包剤は、化学反応の場としても使用することができる。
本発明の内包剤を化学反応の場として使用することにより、より選択的に目的物を製造することが可能となる。例えば、2量体を選択的に製造したい場合には、本発明の内包剤を原料分子が2個だけ入るような大きさにしておき、この中に原料2分子を取り込ませてこれを反応させると、2量体が選択的に製造されることになる。
【実施例】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1
重水(D2O)18mlに、配位子2,4,6−トリス(4−ピリジル)−1,3,5−トリアジン0.06mmol、及び、エチレンジアミン白金(II)ジ硝酸塩0.09mmolを加えて処理した。生成物のNMRを図4の(a)に示す。
上記の混合液を24時間、100℃に加熱すると、NMRは図4の(b)に示されるように本発明の錯体のピークを明瞭に示すようになった。
【0030】
実施例2
アダマンタンカルボン酸ナトリウム塩0.06mmolを加えて、実施例1の方法と同様に24時間、100℃に加熱した。その結果のNMRを図4の(c)に示す。ゲストのアダマンタ化合物のシグナルは、包接により低磁場側にシフト(Δδ;−0.6〜−2.1ppm)するが、ずっと高磁場側に表れた。ホスト−ゲストのシグナル比から、ホスト−ゲスト比は1:4であった。
【0031】
反応混合液に硝酸水溶液を加えて酸性にして、クロロホルムで抽出して、ゲストのアダマンタンカルボン酸を除去した。その結果のNMRを図4の(d)に示す。
残った水溶液に、KPF6水溶液(0.27M,3ml)を加えると、目的の錯体のPF6塩が沈殿し、これを濾別して、次式で示される純粋な錯体のPF6塩を得た(収率68%)。融点 225℃(分解)。
【0032】
【化2】
【0033】
【0034】
実施例3
遷移金属塩としてエチレンジアミンパラジウム(II)硝酸塩を用いて、実施例2と同様にして、目的のパラジウム(II)錯体を得た。得られた錯体の構造式を次に示す。
【0035】
【化3】
【0036】
実施例4
室温で、o−カルボランに実施例3で得られた錯体を加えた。
その結果、o−カルボランの4分子がこの錯体に取り込まれたことがわかった。
【0037】
実施例5
80℃で、1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼンに実施例3で得られた錯体を加えた。40%の1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼンが錯体1個につき一分子づつ取り込まれた。
1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼンを取り込んだ錯体にヘキサンを加え、室温で2時間抽出したが、殆ど取り出すことができなかった(図5参照)。
【0038】
実施例6
シス−スチルベンとその異性体のトランス−スチルベンとの混合物に、実施例3で得られた錯体を加えた。
その結果、シス−スチルベンのみを選択的に取り込んだ錯体が得られた。
【0039】
実施例7
アゾベンゼンの異性体混合物に実施例3で得られた錯体を加えた。
その結果、シス−アゾベンゼンのみを取り込んだ錯体が得られた。
【0040】
実施例8
(ビス−シクロペンタジエンカルボン酸)フェロセン(II)に実施例3で得られた錯体を加えた。その結果、当該フェロセンを取り込んだ錯体が得られた。
錯体に取り込まれたフェロセンのシクロペンタジエンの2位の水素原子の1H−NMRは、取り込まれる前の値に比べて−1.43ppmシフトした。また、3位の水素原子も−1.23ppmシフトした。
【0041】
実施例9
実施例8で得られたのフェロセン(II)を硫酸ナトリウムを加えた水中にとり、フェロセン(III)への酸化電位を測定した(図6参照)。
この結果、フェロセンの酸化電位(E2+/3+ )は、+0.58Vであった。
一方、このフェロセンの外界での酸化電位(E2+/3+ )を同様な方法で測定したところ、+0.44Vであった。
【0042】
実施例10
1,4−ナフトキノンに実施例3で得られた錯体を加え、さらに、その混合物にシクロヘキサジエンを加えた。その結果、両者を同時に内包した錯体が得られた。その1H−NMR(500MHz、D2O)を図8の最上段に示す。
【0043】
実施例11
実施例10で得られた2種の分子種を内包した錯体をD2O中で80℃、0.5時間加熱した。2分子がディールスアルダー付加をした、1,4−ジヒドロ−1,4−エチレン−アントラキノンを収率80%で得た(図7参照)。
その1H−NMR(500MHz、D2O)を図8の上から2段目に示す。
【0044】
比較例1
実施例10で得られた2種の分子種を内包した錯体に重クロロホルムを加えて抽出した(その1H−NMR(500MHz、CDCl3)を図8の上から3段目に示す。)後、実施例11と同様に80℃、0.5時間加熱した。
しかしながら、目的の付加体を検出することはできなかった(その1H−NMR(500MHz、CDCl3)を図8の最下段に示す。)。
【0045】
比較例2
1,4−ナフトキノンとシクロヘキサジエンを混合し、実施例11と同様に80℃、0.5時間加熱した。
2分子がディールスアルダー付加をした、1,4−ジヒドロ−1,4−エチレン−アントラキノンを収率50%で得た。
【0046】
【発明の効果】
これまで分子の自己組織化に基づく機能発現は、生体分子やミセル・二分子膜等の人工的分子集合系など、いずれも「有機的」組織体における現象であった。本発明では、このような系で遷移金属を活用することにより、初めて「無機的」分子集合系を構築したものであり、無機元素の特性に基づくさまざまな機能を待った安定な構造体を容易に設計かつ構築することができた。
本発明の遷移金属錯体は、特定の分子種を選択的に内包することができ、また、溶剤などを用いてこれを取り出すこともでき、分子種のふるいや選択的な取り込みを利用した精製方法を提供する。
また、本発明の内包剤は、特定の分子種を遷移金属錯体の中に内包することにより、外界と分子単位で遮断することができ、分子種の保護剤として使用することもできる。
さらに、本発明の内包剤は、その中に同種又は異種の分子種を複数個内包することができ、これらの内包された分子種を本発明の内包剤の中で化学反応させることができ、原料分子種に選択的な化学反応をさせて目的物を高効率で製造することができる。
このような着想に基づく本発明は、既存の有機および無機化学の思考の延長にはなく、未知領域を開拓するものであり、また広範な物質科学分野への波及が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、中心に1,3,5−トリアジンを有する配位子を用いた本発明の錯体を示す。
【図2】図2は、中心にポルフィン骨核を有する配位子を用いた本発明の錯体を示す。
【図3】図3は、本発明の錯体内部での化学反応を模式的に示したものである。
【図4】図4は、本発明の実施例における反応中のNMRチャートを示したものである。測定条件は、500MHz、D2O、25℃、外部標準としてTMSである。
【図5】図5は、本発明の内包剤に1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼンが取り込まれるところを模式的に示したものである。
【図6】図6は、本発明の内包剤に取り込まれた(ビス−シクロペンタジエンカルボン酸)フェロセン(II)のフェロセン(III)への変化を模式的に示したものである。
【図7】図7は、本発明の内包剤に取り込まれた1,4−ナフトキノンとシクロヘキサジエンとの、ディールスアルダー反応を模式的に示したものである。
【図8】図8は、本発明の内包剤に取り込まれた1,4−ナフトキノンとシクロヘキサジエンとの、ディールスアルダー反応の反応前と反応後の1H−NMRのチャートを示したものである。図8の下側2段は、クロロホルムで抽出した後のものである。
Claims (5)
- 内部に空間を有する三次元かご状遷移金属錯体であって、当該三次元かご状遷移金属錯体の配位子が、6員芳香環の1,3,5−位又は2,4,6−位に、ピリジン環若しくは(4−ピリジル)置換アルキル基などの電子対を有する環が置換した配位子、又はポルフィン環系の対称の位置に4個のピリジン環が置換した配位子である内部に空間を有する三次元かご状遷移金属錯体に1種又は2種以上の化学物質を内包させて、内包された化学物質を当該内包剤の内部で化学反応させて、当該内包剤の内部で前記化学反応における生成物を製造する方法。
- 三次元かご状遷移金属錯体の配位子の6員芳香環が、1,3,5−トリアジンである請求項1に記載の方法。
- 三次元かご状遷移金属錯体の遷移金属が白金又はパラジウムである請求項1又は2に記載の方法。
- 三次元かご状遷移金属錯体の配位子が、2,4,6−トリス(4−ピリジル)−1,3,5−トリアジンである請求項2又は3に記載の方法。
- 化学反応が付加反応である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
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