JP3583170B2 - 石膏の製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、用途が限定されるII型無水石膏から、不燃ボードのような建築用材料、石膏硬化体又はフィラー等として有用な二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏から選ばれる1種以上を含む石膏を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
II型無水石膏は、天然界において二水セッコウ鉱床の下部に大量に埋蔵されていることが確認されている。しかし、このII型無水石膏は、半水石膏に比べると水和硬化速度が極めて遅いので(例えば、50%水和する時間は、半水石膏が0.5〜1時間、天然II型無水石膏では1〜2週間を要する)、硬化体を得るために長時間を要し、通常は凝結促進剤の添加が必要である。また、得られる硬化体の強度も、半水石膏から得られる硬化体と比べると劣っている。このため、II型無水石膏の用途は、長期の養生時間を確保でき、かつ大きな強度が要求されないような用途に限定されてしまうので、ほとんど実用に供されていない。更にこのような用途に適用されるII型無水石膏は、そのなかでも比較的水和硬化しやすいフッ酸II型無水石膏がほとんどであり、天然II型無水石膏の使用は稀である。
【0003】
したがって、従来より、無水石膏をより利用しやすい形態に変えることが試みられている。例えば、溶解工程と析出工程を分離して無水石膏から繊維状石膏を製造する方法が知られている(例えば、特開昭55−3314号公報参照)。しかし、この方法は、長時間、加熱下で溶媒を蒸発循環させる必要があり、多量のエネルギーを要するため、不経済で実用的な方法ではない。また、二水石膏からα型半水石膏を製造する方法が提案されているが(例えば、特開昭54−61098号公報参照)、この方法は無水石膏から半水石膏を製造する方法として応用できるものではない。
【0004】
このように、従来は天然II型無水石膏はほとんど利用されていないのが現状であり、資源の有効利用の観点からも、天然II型無水石膏を、より利用しやすく有用な二水石膏、半水石膏又は針状II型無水石膏に変換し、その利用を促進できる工業的技術の確立が強く望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、II型無水石膏を、工業的に有用な二水石膏、半水石膏又は針状II型無水石膏物に変換できる、石膏の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
II型無水石膏は、100℃の水における溶解度が0.1g/100cm3 と非常に小さいため、これに硫酸を添加した場合、析出する半水石膏の量は極めて少ない。したがって、大量の半水石膏を得ようとする場合には、大量の溶液を多量の熱エネルギーを消費して濃縮しなければならず、著しく不経済である。そこで本発明者らは、上記目的を達成するためこのような技術的課題に着目して鋭意研究の結果、II型無水石膏を硫酸以外の酸の水溶液に溶解させ、更に、硫酸と反応させれば、従来と比して少量のエネルギーの消費で、二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏から選ばれる1種以上を含む石膏が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、II型無水石膏を硫酸以外の酸の水溶液に溶解させ、次いで硫酸と反応させることを特徴とする二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏から選ばれる1種以上を含む石膏の製造方法を提供するものである。
本発明方法は下記の反応式で示すことができる。
【0008】
【化1】
【0009】
すなわち、II型無水石膏を硫酸以外の酸(この反応式においては硝酸、塩酸)の水溶液に溶解する工程(以下、第1工程という)、次いでこの水溶液に硫酸を添加して反応させる工程(以下、第2工程という)を含むものである。
第1工程は、反応式(1)又は(3)で表わされる。この工程においてII型無水石膏を酸の水溶液に溶解、反応させる場合の方法は特に制限されず、例えば、適当な容器中にそれぞれを添加し、密閉又は開放系で(いずれも常圧下)、必要に応じて加熱しながら撹拌する方法を適用することができる。
【0010】
この工程で用いられるII型無水石膏としては、天然又は副産化学無水石膏を挙げることができる。II型無水石膏の純度は特に制限されるものではないが、純度の高いもののほうが得られる石膏の純度も高くなるため好ましい。また、II型無水石膏は、溶解処理が容易であるため、必要に応じて粉砕処理することが好ましい。
また、この工程で用いられる硫酸以外の酸としては、カルシウムイオンとの間に水溶性塩を生成するものであれば特に制限されず、例えば硝酸、塩酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等の有機酸を挙げることができ、これらのなかでも、II型無水石膏の溶解度が高いため硝酸又は塩酸及びこれらの混合物が好ましい。
【0011】
酸の水溶液に溶解させるII型無水石膏の量は、それが溶解する限りにおいて特に制限されず、溶解度以下の量で適宜設定することができる。また、酸の濃度は、それが高いほど得られる石膏の結晶の大きさが小さくなるため、この点を考慮して適宜決定することが好ましく、0.05〜15M、特に0.25〜5Mであるのが好ましい。
例えば、硝酸を用いる場合、3M、1リットルの硝酸中には、100℃で最大2.9mol のII型無水石膏を溶解させることができる。また、加熱下で、溶解反応させる場合、その温度は特に制限されないが、例えば、硝酸及び塩酸等の無機酸の場合には5〜150℃が好ましく、有機酸の場合には5〜100℃が好ましい。
【0012】
この工程の処理により、酸として硝酸を用いた場合には上記反応式(1)のとおり、硝酸カルシウムと硫酸を含む溶液が生成し、酸として塩酸を用いた場合には上記反応式(3)のとおり、塩化カルシウムと硫酸を含む溶液が生成する。
【0013】
続く第2工程は、反応式(2)又は(4)で表わされる。この工程においては、温度範囲を適宜設定することにより、石膏中における二水石膏、半水石膏又は針状II型無水石膏の含有量を所望量に増減させ、実質的に1種類の石膏又は所望の2種類以上の石膏混合物を選択的に得ることができる。
【0014】
ここで用いられる硫酸は、原料として用いたII型無水石膏と当量以上を用いることができるが、得られる石膏の組成を考慮して、処理温度及び時間に関連して決定することが好ましい。また、硫酸の濃度が高いほど得られる石膏の結合水が少なくなるため、濃度設定に際してはこの点も考慮することが好ましい。なお、第1工程の反応において生成した硫酸は、そのままこの工程における硫酸として用いることができるため、不足量の硫酸を追加することにより、反応を行うことができる。
【0015】
反応温度は0〜300℃であるのが好ましく、この温度範囲内で適宜設定することができるが、この温度が高いほど得られる石膏の結晶が小さくなり、更に結合水の量が少なくなるため、それらの点を考慮して適宜設定することが好ましい。
【0016】
また、反応温度を所定範囲に設定保持することにより、石膏の組成を調整することができる。即ち、反応温度を0〜60℃、好ましくは5〜45℃に設定保持することにより、二水石膏の含有量が最大の石膏を得ることができ、反応温度を60〜140℃、好ましくは90〜120℃に設定保持することにより、半水石膏(α及びβ型)の含有量が最大の石膏を得ることができ、反応温度を140〜300℃、好ましくは160〜250℃に設定保持することにより、針状II型無水石膏の含有量が最大の石膏を得ることができる。これは、0〜300℃の範囲内で反応温度が高いほど、二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏の順で生成量が多くなることを示している。
【0017】
また、それぞれの境界温度(60℃、140℃)付近に温度を設定することにより、温度が60℃付近(60℃±15℃)の場合は主として二水石膏と半水石膏を得ることができ、温度が140℃付近(140℃±20℃)の場合は主として半水石膏と針状II型無水石膏を得ることができる。
【0018】
反応温度を0〜300℃に設定保持し、硫酸を当量用いた場合には、通常、反応時間は10〜120分であるのが好ましい。
【0019】
次に、この工程における、反応温度、時間及び硫酸濃度の関係について例を挙げて説明する。
0〜300℃内における任意の温度(境界温度付近を除く)の場合、反応時間を長くすると主として2種類の石膏を含む石膏混合物を得ることができる。例えば図1は、2.9Mの硝酸800gのII型無水石膏飽和溶液(100℃)に、200gの硫酸水溶液を添加した場合における生成物組成の経時変化を示したものである。図から明らかなとおり、時間経過とともにα型半水石膏に代わり針状II型無水石膏の生成量が増加してくる。また、通常、同温度では反応時間が長いほど、二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏の順で生成量が多くなる。よって、反応温度とともに反応時間を調整することによっても、石膏混合物の組成を調整することができ、更に、結合水の量も調整することができる(反応時間が長いほど結合水は少なくなる)。
【0020】
また、このような反応温度と反応時間の関係は、反応温度と硫酸濃度との関係にも当てはめることができ、これを適宜調整することによっても、石膏の組成を調整することができる。例えば、反応温度を40℃に設定し、硫酸を反応当量の1.5倍量用いた場合には、約30分間の反応時間でほぼ100%二水石膏が生成する。また、反応温度を境界温度付近に設定し、硫酸を反応当量の3倍量以上用いた場合には、高温安定型の結合水の少ない石膏が生成する。通常、同温度では硫酸濃度が高いほど、二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏の順で生成量が多くなる。
更に、反応温度、反応時間及び硫酸濃度の関係を適宜調整することにより、一層円滑に石膏の組成を調整することができる。
【0021】
このような第2工程の処理により、酸として硝酸を用いた場合には上記反応式(2)のとおり、石膏が析出し、硝酸が生成する。また、酸として塩酸を用いた場合には上記反応式(4)のとおり、石膏が析出し、塩酸が生成する。析出した石膏は濾過等の手段により採取し、必要に応じて、好ましくは反応温度と同温度の水で洗浄したのち脱水、乾燥する。なお、副生した硝酸、塩酸等は再利用することができる。
【0022】
このようにして得られた石膏に含まれる二水石膏、半水石膏又は針状II型無水石膏は、いずれも針状結晶を呈しており、二水石膏及び半水石膏は長径が約200〜800μmのもの、針状II型無水石膏は長径が約3〜70μmのものである。これらの二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏は、例えば、第2工程の処理前の溶液に、ラウリン酸ナトリウムやクエン酸ナトリウム等のカルボン酸塩を添加することにより、柱状結晶物として得ることもできる。この場合のカルボン酸塩の使用量は、II型無水石膏溶解液に対して0.05〜2重量%であるのが好ましい。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0024】
実施例1
粉砕した天然II型無水石膏(タイ国産;CaO40.1%、SO3 57.7%、SiO2 0.20%、Ig.loss 1.7%、total 99.7%)300gを、2.9Mの硝酸1リットルに添加し、100℃で溶解、反応させた。次に、固形分を濾過して除き、石膏−硝酸溶液を得た。
次に、この溶液800cm3 に1.8Mの硫酸を200cm3 添加し、前記工程と同温度で45分間反応させた。析出した石膏はフィルターで濾過し、反応温度と同温度の水で洗浄した。その後、アセトン及びエタノールで洗浄して水を除去し、45℃で乾燥して、α型半水石膏を得た。得られた石膏の種類は、熱分析により同定した。
【0025】
実施例2〜8
表1に示す条件で、実施例1と同様にして石膏を得た。なお、実施例9は、硫酸を添加する前にラウリン酸ナトリウム0.2%を添加した。
【0026】
【表1】
【0027】
表1に示すとおり、反応の温度を特定範囲温度内に設定することにより、所望の石膏(混合物)を得ることができた。また、実施例3は、反応時間を長くすることにより、2種類の石膏混合物として得ることができ、実施例9はラウリン酸ナトリウムを添加することにより、柱状結晶として得ることができた。
【0028】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、従来はほとんど利用できなかったII型無水石膏を、より利用しやすく有用な、二水石膏、半水石膏又は針状II型無水石膏に変換することができ、更にそれらの2種以上を含む混合物に変換することもできる。また、本発明の製造方法は、短い処理時間で十分であるため、エネルギー消費量も少なく、資源の有効利用の観点からの重要性とも合わせて、その工業的は非常に高い。
本発明により得られる石膏は、不燃ボード、断熱材、アスベスト代替品等の建築材料、各種フィラー、石膏硬化体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】100℃において生成した石膏混合物組成の経時変化を示す図である。
【図2】実施例1で得られたα型半水石膏の結晶構造を示す顕微鏡写真である。
【図3】実施例3で得られたα型半水石膏及び針状II型無水石膏混合物の結晶構造を示す顕微鏡写真である。
【図4】実施例4で得られた針状II型無水石膏の結晶構造を示す顕微鏡写真である。
【図5】実施例8で得られた二水石膏の結晶構造を示す顕微鏡写真である。
【図6】実施例9で得られた柱状α型半水石膏の結晶構造を示す顕微鏡写真である。
【産業上の利用分野】
本発明は、用途が限定されるII型無水石膏から、不燃ボードのような建築用材料、石膏硬化体又はフィラー等として有用な二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏から選ばれる1種以上を含む石膏を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
II型無水石膏は、天然界において二水セッコウ鉱床の下部に大量に埋蔵されていることが確認されている。しかし、このII型無水石膏は、半水石膏に比べると水和硬化速度が極めて遅いので(例えば、50%水和する時間は、半水石膏が0.5〜1時間、天然II型無水石膏では1〜2週間を要する)、硬化体を得るために長時間を要し、通常は凝結促進剤の添加が必要である。また、得られる硬化体の強度も、半水石膏から得られる硬化体と比べると劣っている。このため、II型無水石膏の用途は、長期の養生時間を確保でき、かつ大きな強度が要求されないような用途に限定されてしまうので、ほとんど実用に供されていない。更にこのような用途に適用されるII型無水石膏は、そのなかでも比較的水和硬化しやすいフッ酸II型無水石膏がほとんどであり、天然II型無水石膏の使用は稀である。
【0003】
したがって、従来より、無水石膏をより利用しやすい形態に変えることが試みられている。例えば、溶解工程と析出工程を分離して無水石膏から繊維状石膏を製造する方法が知られている(例えば、特開昭55−3314号公報参照)。しかし、この方法は、長時間、加熱下で溶媒を蒸発循環させる必要があり、多量のエネルギーを要するため、不経済で実用的な方法ではない。また、二水石膏からα型半水石膏を製造する方法が提案されているが(例えば、特開昭54−61098号公報参照)、この方法は無水石膏から半水石膏を製造する方法として応用できるものではない。
【0004】
このように、従来は天然II型無水石膏はほとんど利用されていないのが現状であり、資源の有効利用の観点からも、天然II型無水石膏を、より利用しやすく有用な二水石膏、半水石膏又は針状II型無水石膏に変換し、その利用を促進できる工業的技術の確立が強く望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、II型無水石膏を、工業的に有用な二水石膏、半水石膏又は針状II型無水石膏物に変換できる、石膏の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
II型無水石膏は、100℃の水における溶解度が0.1g/100cm3 と非常に小さいため、これに硫酸を添加した場合、析出する半水石膏の量は極めて少ない。したがって、大量の半水石膏を得ようとする場合には、大量の溶液を多量の熱エネルギーを消費して濃縮しなければならず、著しく不経済である。そこで本発明者らは、上記目的を達成するためこのような技術的課題に着目して鋭意研究の結果、II型無水石膏を硫酸以外の酸の水溶液に溶解させ、更に、硫酸と反応させれば、従来と比して少量のエネルギーの消費で、二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏から選ばれる1種以上を含む石膏が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、II型無水石膏を硫酸以外の酸の水溶液に溶解させ、次いで硫酸と反応させることを特徴とする二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏から選ばれる1種以上を含む石膏の製造方法を提供するものである。
本発明方法は下記の反応式で示すことができる。
【0008】
【化1】
【0009】
すなわち、II型無水石膏を硫酸以外の酸(この反応式においては硝酸、塩酸)の水溶液に溶解する工程(以下、第1工程という)、次いでこの水溶液に硫酸を添加して反応させる工程(以下、第2工程という)を含むものである。
第1工程は、反応式(1)又は(3)で表わされる。この工程においてII型無水石膏を酸の水溶液に溶解、反応させる場合の方法は特に制限されず、例えば、適当な容器中にそれぞれを添加し、密閉又は開放系で(いずれも常圧下)、必要に応じて加熱しながら撹拌する方法を適用することができる。
【0010】
この工程で用いられるII型無水石膏としては、天然又は副産化学無水石膏を挙げることができる。II型無水石膏の純度は特に制限されるものではないが、純度の高いもののほうが得られる石膏の純度も高くなるため好ましい。また、II型無水石膏は、溶解処理が容易であるため、必要に応じて粉砕処理することが好ましい。
また、この工程で用いられる硫酸以外の酸としては、カルシウムイオンとの間に水溶性塩を生成するものであれば特に制限されず、例えば硝酸、塩酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等の有機酸を挙げることができ、これらのなかでも、II型無水石膏の溶解度が高いため硝酸又は塩酸及びこれらの混合物が好ましい。
【0011】
酸の水溶液に溶解させるII型無水石膏の量は、それが溶解する限りにおいて特に制限されず、溶解度以下の量で適宜設定することができる。また、酸の濃度は、それが高いほど得られる石膏の結晶の大きさが小さくなるため、この点を考慮して適宜決定することが好ましく、0.05〜15M、特に0.25〜5Mであるのが好ましい。
例えば、硝酸を用いる場合、3M、1リットルの硝酸中には、100℃で最大2.9mol のII型無水石膏を溶解させることができる。また、加熱下で、溶解反応させる場合、その温度は特に制限されないが、例えば、硝酸及び塩酸等の無機酸の場合には5〜150℃が好ましく、有機酸の場合には5〜100℃が好ましい。
【0012】
この工程の処理により、酸として硝酸を用いた場合には上記反応式(1)のとおり、硝酸カルシウムと硫酸を含む溶液が生成し、酸として塩酸を用いた場合には上記反応式(3)のとおり、塩化カルシウムと硫酸を含む溶液が生成する。
【0013】
続く第2工程は、反応式(2)又は(4)で表わされる。この工程においては、温度範囲を適宜設定することにより、石膏中における二水石膏、半水石膏又は針状II型無水石膏の含有量を所望量に増減させ、実質的に1種類の石膏又は所望の2種類以上の石膏混合物を選択的に得ることができる。
【0014】
ここで用いられる硫酸は、原料として用いたII型無水石膏と当量以上を用いることができるが、得られる石膏の組成を考慮して、処理温度及び時間に関連して決定することが好ましい。また、硫酸の濃度が高いほど得られる石膏の結合水が少なくなるため、濃度設定に際してはこの点も考慮することが好ましい。なお、第1工程の反応において生成した硫酸は、そのままこの工程における硫酸として用いることができるため、不足量の硫酸を追加することにより、反応を行うことができる。
【0015】
反応温度は0〜300℃であるのが好ましく、この温度範囲内で適宜設定することができるが、この温度が高いほど得られる石膏の結晶が小さくなり、更に結合水の量が少なくなるため、それらの点を考慮して適宜設定することが好ましい。
【0016】
また、反応温度を所定範囲に設定保持することにより、石膏の組成を調整することができる。即ち、反応温度を0〜60℃、好ましくは5〜45℃に設定保持することにより、二水石膏の含有量が最大の石膏を得ることができ、反応温度を60〜140℃、好ましくは90〜120℃に設定保持することにより、半水石膏(α及びβ型)の含有量が最大の石膏を得ることができ、反応温度を140〜300℃、好ましくは160〜250℃に設定保持することにより、針状II型無水石膏の含有量が最大の石膏を得ることができる。これは、0〜300℃の範囲内で反応温度が高いほど、二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏の順で生成量が多くなることを示している。
【0017】
また、それぞれの境界温度(60℃、140℃)付近に温度を設定することにより、温度が60℃付近(60℃±15℃)の場合は主として二水石膏と半水石膏を得ることができ、温度が140℃付近(140℃±20℃)の場合は主として半水石膏と針状II型無水石膏を得ることができる。
【0018】
反応温度を0〜300℃に設定保持し、硫酸を当量用いた場合には、通常、反応時間は10〜120分であるのが好ましい。
【0019】
次に、この工程における、反応温度、時間及び硫酸濃度の関係について例を挙げて説明する。
0〜300℃内における任意の温度(境界温度付近を除く)の場合、反応時間を長くすると主として2種類の石膏を含む石膏混合物を得ることができる。例えば図1は、2.9Mの硝酸800gのII型無水石膏飽和溶液(100℃)に、200gの硫酸水溶液を添加した場合における生成物組成の経時変化を示したものである。図から明らかなとおり、時間経過とともにα型半水石膏に代わり針状II型無水石膏の生成量が増加してくる。また、通常、同温度では反応時間が長いほど、二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏の順で生成量が多くなる。よって、反応温度とともに反応時間を調整することによっても、石膏混合物の組成を調整することができ、更に、結合水の量も調整することができる(反応時間が長いほど結合水は少なくなる)。
【0020】
また、このような反応温度と反応時間の関係は、反応温度と硫酸濃度との関係にも当てはめることができ、これを適宜調整することによっても、石膏の組成を調整することができる。例えば、反応温度を40℃に設定し、硫酸を反応当量の1.5倍量用いた場合には、約30分間の反応時間でほぼ100%二水石膏が生成する。また、反応温度を境界温度付近に設定し、硫酸を反応当量の3倍量以上用いた場合には、高温安定型の結合水の少ない石膏が生成する。通常、同温度では硫酸濃度が高いほど、二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏の順で生成量が多くなる。
更に、反応温度、反応時間及び硫酸濃度の関係を適宜調整することにより、一層円滑に石膏の組成を調整することができる。
【0021】
このような第2工程の処理により、酸として硝酸を用いた場合には上記反応式(2)のとおり、石膏が析出し、硝酸が生成する。また、酸として塩酸を用いた場合には上記反応式(4)のとおり、石膏が析出し、塩酸が生成する。析出した石膏は濾過等の手段により採取し、必要に応じて、好ましくは反応温度と同温度の水で洗浄したのち脱水、乾燥する。なお、副生した硝酸、塩酸等は再利用することができる。
【0022】
このようにして得られた石膏に含まれる二水石膏、半水石膏又は針状II型無水石膏は、いずれも針状結晶を呈しており、二水石膏及び半水石膏は長径が約200〜800μmのもの、針状II型無水石膏は長径が約3〜70μmのものである。これらの二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏は、例えば、第2工程の処理前の溶液に、ラウリン酸ナトリウムやクエン酸ナトリウム等のカルボン酸塩を添加することにより、柱状結晶物として得ることもできる。この場合のカルボン酸塩の使用量は、II型無水石膏溶解液に対して0.05〜2重量%であるのが好ましい。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0024】
実施例1
粉砕した天然II型無水石膏(タイ国産;CaO40.1%、SO3 57.7%、SiO2 0.20%、Ig.loss 1.7%、total 99.7%)300gを、2.9Mの硝酸1リットルに添加し、100℃で溶解、反応させた。次に、固形分を濾過して除き、石膏−硝酸溶液を得た。
次に、この溶液800cm3 に1.8Mの硫酸を200cm3 添加し、前記工程と同温度で45分間反応させた。析出した石膏はフィルターで濾過し、反応温度と同温度の水で洗浄した。その後、アセトン及びエタノールで洗浄して水を除去し、45℃で乾燥して、α型半水石膏を得た。得られた石膏の種類は、熱分析により同定した。
【0025】
実施例2〜8
表1に示す条件で、実施例1と同様にして石膏を得た。なお、実施例9は、硫酸を添加する前にラウリン酸ナトリウム0.2%を添加した。
【0026】
【表1】
【0027】
表1に示すとおり、反応の温度を特定範囲温度内に設定することにより、所望の石膏(混合物)を得ることができた。また、実施例3は、反応時間を長くすることにより、2種類の石膏混合物として得ることができ、実施例9はラウリン酸ナトリウムを添加することにより、柱状結晶として得ることができた。
【0028】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、従来はほとんど利用できなかったII型無水石膏を、より利用しやすく有用な、二水石膏、半水石膏又は針状II型無水石膏に変換することができ、更にそれらの2種以上を含む混合物に変換することもできる。また、本発明の製造方法は、短い処理時間で十分であるため、エネルギー消費量も少なく、資源の有効利用の観点からの重要性とも合わせて、その工業的は非常に高い。
本発明により得られる石膏は、不燃ボード、断熱材、アスベスト代替品等の建築材料、各種フィラー、石膏硬化体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】100℃において生成した石膏混合物組成の経時変化を示す図である。
【図2】実施例1で得られたα型半水石膏の結晶構造を示す顕微鏡写真である。
【図3】実施例3で得られたα型半水石膏及び針状II型無水石膏混合物の結晶構造を示す顕微鏡写真である。
【図4】実施例4で得られた針状II型無水石膏の結晶構造を示す顕微鏡写真である。
【図5】実施例8で得られた二水石膏の結晶構造を示す顕微鏡写真である。
【図6】実施例9で得られた柱状α型半水石膏の結晶構造を示す顕微鏡写真である。
Claims (3)
- II型無水石膏を硫酸以外の酸の水溶液に溶解させ、次いで硫酸と反応させることを特徴とする二水石膏、半水石膏及び針状II型無水石膏から選ばれる1種以上を含む石膏の製造方法。
- 硫酸以外の酸が硝酸又は塩酸及びそれらの混合物である請求項1記載の石膏の製造方法。
- 0〜300℃において硫酸と反応させる請求項1又は2記載の石膏の製造方法。
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