JP3581174B2 - 新規ペプチド並びにそれを用いた血小板凝集抑制剤、体外循環用血液凝固抑制剤及び輸血用血小板製剤保護剤 - Google Patents

新規ペプチド並びにそれを用いた血小板凝集抑制剤、体外循環用血液凝固抑制剤及び輸血用血小板製剤保護剤 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、血小板凝集抑制作用を有する新規ペプチド並びに当該ペプチドを有効成分として含有する血小板凝集抑制剤、体外循環用血液凝固抑制剤並びに輸血用血小板製剤保護剤、及び当該血小板保護剤を有効成分として含有する輸血用血小板製剤パックに関する。
【0002】
【従来の技術】
血液中において、血小板は損傷した血管の表面に相互に吸着して出血を防止するという大きな役割を担っている。
しかしながら、病的環境下においては、血小板の凝集は血栓が形成される主要な原因となり、この血栓が原因で血管が閉塞することが知られている。そしてこの閉塞は、組織や臓器への酸素や栄養分の十分な供給を妨げ、これが心筋梗塞や脳卒中に代示される循環器の虚血性疾患の重大な原因となっている。そして、今日においてかかる虚血性疾患は癌に次ぐ死亡率を示し、大きな社会問題になっている。
【0003】
また、外科手術時における人工心肺の使用や腎不全患者の腎透析のように、体外への血液循環を伴う医学的処置を行う場合、血液が体外に循環する際にも血小板の活性化と血小板凝集に起因する血液凝固が起こることがあり、当該医学的処置を実施する上で大きな障害となっている。
従って、前記の血栓や血液凝固を防止することは、虚血性疾患の発生の防止又は体外循環の安全な実施のために非常に重要である。
【0004】
ところで、血小板は血管損傷等により露出される内皮下組織に存在するコラーゲン等の結合組織蛋白質や血漿中に存在するトロンビン等の血小板膜受容体への結合によって活性化される。また、血小板内に存在するアデノシンジフォスフェイト (ADP)、アドレナリン、セロトニン、トロンボキサン (TX)A2 等の放出による自己分泌的な膜受容体への結合によっても活性化される。そして、フィブリノーゲン受容体を構成する2種の糖蛋白質ユニットが細胞表面に提示され、会合し、受容体複合体 (gpIIbIIIa)を形成することによって、フィブリノーゲン架橋を介する凝集が惹起される。
【0005】
かかるgpIIb 及びgpIIIaを先天的に欠如した血小板無力症 (thrombasthenia) においては血小板凝集能が認められず、gpIIbIIIa 複合体がフィブリノーゲンと結合することが血小板凝集において必須であることは明らかである (Ruoslahti et al., Science, 238, 491(1987))。
このgpIIbIIIa 複合体の性質に着目して、血小板の凝集を抑制して血栓の生成を妨げようとする試みがなされている。
【0006】
例えば、コラー (Coller) らは、gpIIbIIIa 複合体に対するモノクローナル抗体のF(ab’)フラグメントに強力な血小板凝集抑制作用があることを報告しており (Blood, 68, 783,(1986))、この作用を利用して、血小板凝集抑制剤の開発が可能であることを示している。
しかしながら、当該モノクローナル抗体は、確かに血小板凝集を抑制する治療薬としての潜在性は認められるが、それ自体が高分子蛋白質であるため、繰り返し投与する場合は、当該モノクローナル抗体に作用する抗体の産生が懸念される。
【0007】
従って、gpIIbIIIa 複合体に対するアンタゴニストとしての性質を有し、かつ免疫原性のない低分子化合物を有効成分として含む血小板凝集抑制剤の開発が待たれている。
【0008】
また、gpIIbIIIa 複合体とフィブリノーゲンの結合に関する研究も精力的に行われている。即ち、 Ruoslahtiらによる一連の研究により導かれた、細胞接着分子に共通のアミノ酸配列である、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸 (RGD)の発見 (Ruoslahti et al., Nature, 309, 30−33(1984)) に始まって、RGD配列を認識するレセプターの研究により、今日ではgpIIbIIIa 複合体は、RGD配列を認識するインテグリンファミリーに属する受容体であり (Philllips et al., Blood, 71, 831−843(1988)) 、当該複合体とフィブリノーゲンとの結合においては、特にフィブリノーゲン分子中に存在する2つのアルギニン−グリシン−アスパラギン酸−フェニルアラニン(RGDF) 配列を認識して結合することが明らかにされている (Andrieux et al., J. Biol. Chem., 264, 9258−9265(1989)) 。
【0009】
更に、フィブリノーゲンと同様にRGD配列を有する、フォンビルブラント因子、フィブロネクチン、ビトロネクチンやトロンボスポンジンもgpIIbIIIa 複合体と結合することが知られている (Pytela et al., Science, 231, 1559(1988) あるいは Cell, 42, 439,(1985))。
【0010】
かかる知見から、RGD配列を含む合成ペプチドがgpIIbIIIa 複合体とフィブリノーゲンの結合を阻害して血小板の凝集を抑制することが予想され、現実に、400 μM の合成ペプチド、グリシン−アルギニン−グリシン−アスパラギン酸−セリン−プロリン(GRGDSP)が、ADP で活性化された血小板の凝集を完全に阻害したことが報告されている(Plow et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 82, 8057−8061(1985)) 。また、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸−セリン(RGDS)では、46−50 μM の濃度で濃度依存的に80〜90%の血小板の凝集を阻害することが判明しており、更にペプチドRGDFは、RGDSの4〜5倍強い血小板凝集抑制活性を表すことが判明している (Plow et al., Blood, 70, 110−115(1987) あるいは Harfinest et al., 71, 132−136(1988)) 。
【0011】
RGD配列を含むテトラペプチド誘導体に関しては、特開平1−190699 号公報、特開平2−62892号公報、EPO 422937 AI 号及び米国特許4952562 号に記載されている。RGD配列を含むその他のペプチド誘導体に関しては、特開昭63−215696 号公報に記載されている。また、RGDペプチドの環状構造の誘導体については、特開平3−118331号公報、特開平2−62892 号公報及びWO 91/01331 号公報に記載されている。
【0012】
また、現在輸血は旧来の全血輸血に変わり、各々の血液成分を用途に応じて選択して輸血する成分輸血が主流になっている。このような成分輸血に用いられる輸血用の血小板製剤は、献血により得られた全血を製剤処理するかまたはアフェレーシス法を用いた成分献血のいずれかの方法で調製されている。これらの血小板製剤は、製剤化処理後、ポリオレフィン製またはポリ塩化ビニル製の保存パックに入れられ、室温で振盪保存されるのが通常である。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
近年、血小板凝集抑制効果が高く、生体内安定性に優れた薬剤を開発するために、RGDペプチドを鍵化合物として、天然には存在しない構造を有する化合物へ誘導する合成研究が盛んに行われている (Hartman et al., J. Med. Chem., 35, 4640−4642(1992)あるいは Callahan et al., ibid, 35, 3970−3972(1992))。このような化合物は蛋白分解酵素による影響を受け易い経口投与型の血小板凝集抑制剤として有用である。
【0014】
しかしながら、同時に非天然構造への誘導に伴う毒性の発現や体内において薬剤が消失されずに蓄積されてしまうなどの副作用が予想され、安全性についての問題が強く懸念されている。
【0015】
また、化合物の生体内安定性の向上は、血小板凝集抑制作用の持続につながり、出血しやすくなるなど、本来血小板の有する重要な生理作用を長時間にわたり停止させてしまう可能性がある。
体外循環時等において、実際に血液凝固を抑えるために投与されている生体由来の医薬品であるヘパリンにおいてさえも、その作用が適度な薬効時間を超えてしまい、出血傾向を惹起する重篤な副作用が報告されている[秋沢忠男ら、日本臨床、43巻、377−391 頁 (1985年) ]。
【0016】
また、前に記載した輸血用血小板製剤においては、現状では保存に伴う血小板の機能低下(血小板凝集能低下)が著しく、有効な輸血を妨げる一つの要因になっている。このような保存に伴う血小板の機能低下を防ぐような画期的な血小板製剤の保存法は現在なく、有効な保存法の確立は世界的な検討課題になっている。
【0017】
保存に伴う血小板の機能低下は、▲1▼採血、製剤処理、保存時の様々な物理的刺激により起こる保存中の血小板活性化や凝集、▲2▼保存液のpHの低下などが主な原因と考えられている。これらのうちpHの制御を目的とした保存液及び保存システムの改良は近年盛んに行われているが、十分な効果があるとはいえないのが現状である。
【0018】
血小板凝集を抑えれば保存中の血小板の機能低下を抑制できるのではないかとの考えから、アスピリン、プロスタグランジン等従来から知られている血小板凝集抑制物質を保存血に添加する試みが実験室レベルではいくつか行われている。しかしながら、これらの化合物は体内での分解性が極めて悪く、当該化合物を含む血小板製剤を輸血すると全身の血液が固まりにくい状態が数時間以上続く、血管など様々な臓器に対し副作用を持つ、など致命的な欠陥があり、実用化には到っていない。
【0019】
それ故、このような保護剤としては強い血小板凝集作用を有すると共に、作用が血小板に対し特異的かつ生体内での分解性が高いなどの特性が求められる。しかしながら、現状ではこれらの特性を全て合わせ持つような適当な化合物は存在しない。
【0020】
前記「従来の技術」で述べたように、RGDペプチドそのものの有する血小板凝集抑制活性は実用に耐えられるほど高くない。しかしながら、このRGDペプチドは、もともと生体内で蛋白分解酵素によって、生体にとって安全で有効なアミノ酸に分解される特徴がある。
本発明者らは、この特徴を大いに利用し、血小板凝集抑制能力及び血液凝固抑制能力に優れる誘導ペプチドを創り出し、これを薬剤として利用することを企図する。
【0021】
即ち、本発明は、血小板凝集抑制能力及び血液凝固抑制能力に優れ、かつ安全性についても優れた特性を有するペプチド並びに当該ペプチドを有効成分とする血小板凝集抑制剤、体外循環用血液凝固抑制剤及び輸血用血小板製剤保護剤の提供を目的とする。
また、本発明は、前記輸血用血小板製剤保護剤を有効成分とする輸血用血小板保護パックの提供を目的とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の課題を受けて鋭意検討を行った。その結果、血小板凝集抑制活性及び血液凝固抑制活性に優れ、かつ安全性に優れた特性を有し、更に実用に耐え得る高活性ペプチド化合物を創製するに至った。特に、本発明ペプチドが、血小板凝集抑制作用を有するのに必須であると教示されているRGD配列を含まずに極めて高い前記活性を有していることは驚くべきことである。
【0023】
本発明は以下の発明を包含するものである。
(1)一般式(I):
Pro −Ser −A−B−Asp −C−D (I)
[式中、Aはアミノ酸(ただし、側鎖にグアニジノ基を有するアミノ酸を除く。)を表し、Bはアミノ酸を表し、Cは側鎖に疎水性基を有するアミノ酸を表し、Dは水酸基又はアミノ基を表す。]で示される化合物又はその塩。
(2)Aが中性アミノ酸である前記(1)に記載の化合物又はその塩。
(3)中性アミノ酸がグリシンもしくはプロリン又はこれらの誘導体である前記(2)に記載の化合物又はその塩。
(4)中性アミノ酸が、置換された又は非置換の炭素数1〜30のアルキル基、置換された又は非置換のアリール基、置換された又は非置換のヘテロアリール基及び置換された又は非置換の炭素数3〜10のシクロアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を側鎖に有するアミノ酸である前記(2)に記載の化合物又はその塩。
(5)Aが、炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基を側鎖に有するアミノ酸である前記(1)に記載の化合物又はその塩。
(6)Aが一般式(X):
【0024】
【化2】
Figure 0003581174
【0025】
(式中、R及びRは、同一又は相異なり、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは4〜10の整数を表す。)
で示されるアミノ酸残基である前記(1)に記載の化合物又はその塩。
(7)Bがグリシン又はN−アルキルグリシンである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の化合物又はその塩。
(8)Cがトリプトファン又はフェニルアラニンである前記(1)〜(7)のいずれかに記載の化合物又はその塩。
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分として含有する血小板凝集抑制剤。
(10)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分として含有する体外循環用血液凝固抑制剤。
(11)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分として含有する輸血用血小板製剤保護剤。
(12)前記(11)記載の輸血用血小板製剤保護剤を有効成分として含有する輸血用血小板製剤パック。
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、アミノ酸とは分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する分子のことをいう。
前記の式 (I) 中、N末端側にあるPro−Ser 構造は、末端に塩基性を有するプロリンと側鎖に水酸基を有するセリンとの組合せによりなる。また、C末端側にあるAsp−C構造は、側鎖にカルボキシル基を有する酸性アミノ酸であるアスパラギン酸と側鎖に疎水性基を有するアミノ酸(以下「疎水性アミノ酸」という。)との組合せによりなる。
【0027】
本発明ペプチド中においては、塩基性部位を有するプロリンと酸性部位を有するアスパラギン酸とが存在することが当該ペプチドが血小板凝集抑制活性及び血液凝固抑制活性を表すために必要である。そして更に前記両活性を増強させるためには、前記塩基性部位と酸性部位との間を連結して立体的位置関係を固定する構造及び疎水結合、水素結合等を介してIIbIIIa 複合体と相互作用する構造が存在することが重要である。
【0028】
前記の塩基性部位に相当するのが、末端のプロリン中のイミノ基であり、酸性部分に相当するのがアスパラギン酸側鎖のカルボキシル基である。そして、セリンあるいは、一般式(I)に示したペプチドにおけるA,Bに相当するアミノ酸及びCに相当する疎水性アミノ酸は、前記のように血小板凝集抑制活性及び血液凝固抑制活性の増強に重要な構造の形成に関与する水素結合や疎水結合の形成を容易にする。
【0029】
Aはグアニジノ基を有しないアミノ酸であり、例えば中性アミノ酸、炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基を側鎖に有するアミノ酸もしくはその誘導体、例えばp−アミノシクロヘキシルグリシン、p−アミノシクロヘキシルアラニン、p−アミノフェニルグリシン、p−アミノフェニルアラニンなどを意味する。
本発明において側鎖とは、以下に表すアミノ酸の一般式のRの部分をいう。
【0030】
【化3】
Figure 0003581174
【0031】
本発明において「中性アミノ酸」とは、側鎖に電荷のない基を有するアミノ酸、及びグリシンもしくはプロリン又はそれらの誘導体を意味し、例えば、グリシン誘導体としては、アルキル基の炭素数が1〜10であるN−アルキルグリシンなどが、プロリン誘導体としては、環に置換基、不飽和結合、ヘテロ原子を有するプロリン、又は環の大きさの異なるプロリンなどが挙げられる。側鎖に電荷のない基としては、例えば置換された又は非置換の炭素数1〜30のアルキル基、置換された又は非置換のアリール基、置換された又は非置換のヘテロアリール基、置換された又は非置換の炭素数3〜10のシクロアルキル基、及びこれらを組み合わせた基を挙げることができる。更に、これらの基は酸素又は硫黄等のヘテロ原子を含む電荷を持たない基、例えば水酸基、メルカプト基、炭素数1〜10のアルキルチオ基等を同時に有していてもよい。
具体的には、側鎖がメチル基のときは相当する中性アミノ酸はアラニンである。
【0032】
また、側鎖がアルキル基のときは、これを有する中性アミノ酸の水に対する溶解性が比較的高い直鎖型あるいは分岐型のものが好ましく、更に立体障害性を考慮すると特に炭素数1〜20のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基が好ましい。
【0033】
側鎖にアルキル基を有する中性アミノ酸の例としては、アラニン、バリン、ノルバリン、ロイシン、ノルロイシン、ターシャルロイシン、イソロイシン、アロイソロイシン等が好ましい。これらの中で、側鎖が直鎖型のアルキル基であるn−プロピル基又はn−ブチル基を有する中性アミノ酸が特に好ましい。例えば、かさ高い基であるイソプロピル基又はイソブチル基を有するバリン又はロイシンと同じ炭素数で直鎖型のn−プロピル基又はn−ブチル基を有するノルバリン又はノルロイシンとでは、後述する実施例3と実施例5又は実施例6と実施例9から明らかなように、直鎖アルキル基を有するノルバリン又はノルロイシンを中性アミノ酸として含むペプチドの方が血小板凝集抑制活性及び血液凝固抑制活性が高い傾向にある。
【0034】
直鎖型のアルキル基を側鎖として有する中性アミノ酸を有する好適なペプチドの例としては、
Pro−Ser−Nva−Gly−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Nva−Sar−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Nva−Ala−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Nle−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Nle−Sar−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Nle−Ala−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Ala−Gly−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Ala−Sar−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Ala−Ala−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Ala−Sar−Asp−Phe−OH,
Pro−Ser−Gly−Gly−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Gly−Sar−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Gly−Ala−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Met−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Met−Sar−Asp−Trp−OH, Pro−Ser−Met−Ala−Asp−Trp−OH
Pro−Ser−Cys−Gly−Asp−Trp−OH, Pro−Ser−Pen−Gly−Asp−Trp−OH
を挙げることが可能であり、更に好ましくは、
Pro−Ser−Nva−Gly−Asp−Trp−OH, Pro−Ser−Nle−Gly−Asp−Trp−OH
を挙げることができる。そして最も好ましくは、
Pro−Ser−Nva−Gly−Asp−Trp−OH
である。
【0035】
同様に、分岐型のアルキル基を側鎖として有する中性アミノ酸を有する好適なペプチドの例としては、
Pro−Ser−Tle−Gly−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Tle−Sar−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Tle−Ala−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Tle−Gly−Asp−Phe−OH,
Pro−Ser−Tle−Sar−Asp−Phe−OH,Pro−Ser−Val−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Val−Sar−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Val−Ala−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Leu−Gly−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Leu−Sar−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Leu−Ala−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Leu−Gly−Asp−Phe−OH,
Pro−Ser−Ile−Gly−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Ile−Sar−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Ile−Ala−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−(allo)Ile−Gly−Asp−Trp−OH
を挙げることが可能であり、更に好ましくは、
Pro−Ser−Tle−Gly−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Leu−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Ile−Gly−Asp−Trp−OH, Pro−Ser−(allo)Ile−Gly−Asp−Trp−OH
であり、特に好ましくは、
Pro−Ser−Tle−Gly−Asp−Trp−OH
を挙げることができる。
【0036】
アミノ酸Aの側鎖がアリール基の場合、当該アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、これらのアリール基は前述した電荷のない基、例えば炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、アリール基、臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、ケト基で置換されていてもよい。
【0037】
側鎖にアリール基を有する中性アミノ酸の例としては、フェニルグリシン、ナフチルグリシン等を挙げることができる。そして、好適なペプチドの例としては、
Pro−Ser−Phg−Gly−Asp−Trp−OH
等を挙げることができる。
【0038】
アミノ酸Aの側鎖がヘテロアリール基の場合、当該ヘテロアリール基としては、例えばフラニル基、テトラヒドロフラニル基、ピラニル基、チエニル基等が挙げられ、これらのヘテロアリール基は前述した電荷のない基、例えば炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、アリール基、臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、ケト基で置換されていてもよい。
【0039】
アミノ酸Aの側鎖が炭素数3〜10シクロアルキル基の場合、当該シクロアルキル基としては、好ましくは炭素数3〜7のアルキル基、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられ、これらのシクロアルキル基は前述した電荷のない基、例えば炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、アリール基、臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、ケト基、水酸基で置換されていてもよい。
【0040】
側鎖にシクロアルキル基を有する中性アミノ酸の例としては、シクロヘキシルグリシン等を挙げることができる。好適なペプチドの例としては、
Pro−Ser−Chg−Gly−Asp−Trp−OH
を挙げることができる。
【0041】
炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、炭素数3〜10のシクロアルキル基を組み合わせた基としては、具体的には、アラルキル基、例えばフェニルアルキル基;シクロアルキル−アルキル基、例えばシクロヘキシルアルキル基;アルキル−シクロアルキル基等を例示できる。更に具体的には、ベンジル基、フェネチル基、シクロヘキシルメチル基等を挙げることができる。また、当該組み合わせた基の環部分は、前述した電荷のない基、例えば炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、アリール基、臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、ケト基、水酸基で置換されていてもよい。
【0042】
当該組み合わせた基を有する中性アミノ酸の例としては、フェニルアラニン、シクロヘキシルアラニン、4−メチルフェニルアラニン、4−ブロモフェニルアラニン、ナフチルアラニン、ホモフェニルアラニン、O−メチルチロシンを挙げることができる。好適なペプチドの例としては、
Pro−Ser−Cha−Gly−Asp−Trp−OH, Pro−Ser−Phe−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Hph−Gly−Asp−Trp−OH
を挙げることができる。更に好ましくは、
Pro−Ser−Cha−Gly−Asp−Trp−OH
を挙げることができる。
【0043】
アミノ酸Aの側鎖が、酸素又は硫黄等のヘテロ原子を含む電荷を持たない基を有する、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基又はこれらを組み合せた基である場合、当該基としては具体的には水酸基、メルカプト基、炭素数1〜10のアルキルチオ基等を有する、アルキル基やシクロアルキル基が挙げられ、これらの基を有する中性アミノ酸の例としては、セリン、スレオニン、メチオニン、システイン、ホモシステイン等が挙げられる。
【0044】
アミノ酸Aが、アルキル基の炭素数が1〜10であるN−アルキルグリシンである場合、アルキル基の炭素数が3以下のものが好ましく、例えばザルコシンが挙げられる。アミノ酸Aが、プロリン誘導体のうち、環に置換基を有するプロリンである場合、当該置換基としては、前述した電荷のない基、例えば炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、アリール基、臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、ケト基、水酸基が挙げられる。また、不飽和結合を有する誘導体としては、デヒドロプロリンが挙げられる。また、環構成炭素原子がヘテロ原子で置換された誘導体としてはチオプロリン等が挙げられる。また環の大きさの異なる誘導体としては、環の大きさが3員環から8員環のものが好ましく、例えばアゼチジンカルボン酸、ホモプロリン等が挙げられる。また、これらのプロリン誘導体はそれぞれを組み合わせたものでもよく、例えばβ,β−ジメチルチオプロリンなどが挙げられる。
【0045】
なお、ペプチドの高い溶解性と、高い活性を与える中性アミノ酸としては、前述のセリン、スレオニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、デヒドロプロリン、4−メチルプロリン、4−メトキシプロリンが好ましく、好適なペプチドの例としては、
Pro−Ser−Pro−Gly−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Pro−Sar−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Pro−Ala−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Ser−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Ser−Sar−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Thr−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Thr−Sar−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Hyp−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Hyp−Sar−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−ΔPro−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−ΔPro−Sar−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−(4−CHPro)−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−(4−CHPro)−Sar−Asp−Trp−OH, Pro−Ser−(4−OCHPro)−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−(4−OCHPro)−Sar−Asp−Trp−OH, Pro−Ser−Thz−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Dmt−Gly−Asp−Trp−OH, Pro−Ser−Dmp−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−Azt−Gly−Asp−Trp−OH, Pro−Ser−Hyp(4−Bzl)−Gly−Asp−Trp−OH
を挙げることができ、更に好ましくは、
Pro−Ser−Pro−Gly−Asp−Trp−OH,Pro−Ser−Hyp−Gly−Asp−Trp−OH,
Pro−Ser−ΔPro−Gly−Asp−Trp−OH
を挙げることができ、この中で最も好ましいのは、
Pro−Ser−Pro−ΔPro−Asp−Trp−OH
である。
【0046】
酵素による分解を防ぎ、かつ高活性を維持するためにD体のアミノ酸を適用することも可能である。相当するD体のアミノ酸の好ましいものとしては、前記の中性アミノ酸のD型異性体が挙げられ、好適なペプチドとしては、
Pro−Ser−DPro−Gly−Asp−Trp−OH
を挙げることができる。
【0047】
また、「炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基を側鎖に有するアミノ酸」としては、例えば一般式(X):
【0048】
【化4】
Figure 0003581174
【0049】
(式中、R及びRは、同一又は相異なり、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは4〜10の整数を表す。)
で示されるアミノ酸残基、好ましくは一般式(X’):
【0050】
【化5】
Figure 0003581174
【0051】
(式中、Rは水素原子、メチル基又はt−ブチル基を表す。)
で示されるアミノ酸残基、即ちリジン、ε−N−メチルリジン、ε−N−t−ブチルリジンが挙げられるが、立体障害性のみを考慮するとリジン、ε−N−メチルリジン、ε−N−t−ブチルリジンの順であり、非置換のアミノ基を有するリジンが好ましい。また、後述する比較例1と実施例13により明らかなごとく、α炭素から側鎖にあるアミノ基までの距離を表す鎖長(前記式(X)におけるn)がオルニチン(n=3)より1多い4であるリジンをアミノ酸Aとして含むペプチドの方が当該アミノ酸としてオルニチンを含むペプチドよりも血小板凝集抑制活性及び血液凝固抑制活性が高い。従って、α炭素から側鎖にあるアミノ基までの距離を表す鎖長(前記式(X)におけるn)は4以上であることが好ましく、4〜6であることが更に好ましい。
【0052】
また、これらの事実に併せて、後述する実施例4と比較例1から明らかのように、側鎖に同じ鎖長のアルキル鎖を有するが、塩基性官能基であるアミノ基を有さないノルバリンでは、血小板凝集抑制活性及び血液凝固抑制活性を顕著に増幅させる。
【0053】
一般式(I)におけるBはアミノ酸を指すが、立体障害が大きいアミノ酸又は酸性アミノ酸は血小板凝集抑制活性及び血液凝固抑制活性を低下させる傾向がある。従って、当該アミノ酸としては、比較的小さな側鎖の炭素数が10以下の中性アミノ酸及びそのN−アルキル体が好ましい。ここで、当該N−アルキル体におけるアルキル基の炭素数は1〜5が好ましい。具体的には、グリシン、アラニン、β− アラニン又はN−アルキルグリシンであるザルコシン、N−エチルグリシン、N−イソプロピルグリシン、N−プロピルグリシン等を好ましいアミノ酸として例示することができる。即ち、後述する実施例1と実施例2から明らかなように、特にザルコシンをBとして含有する本発明ペプチドは、グリシンをBとして含有するペプチドに比べ約2倍強の高い血小板凝集抑制活性及び血液凝固抑制活性を表す。この原因として、通常ペプチドの主鎖がトランス型の構造を取るのに対して、ザルコシンを導入することによって当該主鎖がシス型に変化し、これが血小板凝集抑制活性及び血液凝固抑制活性を高活性に導くのに必要な立体構造を形成しているためと考えられる。
【0054】
一般式(I)におけるCは受容体と疎水相互作用する疎水性基をもつアミノ酸であれば任意のものが使用できるが、例えば、側鎖にアルキル基、フェニル基、フェニルアルキル基、アルコキシフェニル基、シクロアルキル基、ピリジル基、インドリル基等の疎水性基を有するアミノ酸が好ましく、具体的にはフェニルアラニン、トリプトファン、O−アルキルチロシン、ナフチルアラニン、ピリジルアラニン等、好ましくはトリプトファンを挙げることができる。また、ここにいうアルキル基は炭素数が10以下の低級アルキル基を意味する。
【0055】
一般式(I)におけるDは水酸基又はアミノ基であることが必要であり、水酸基の場合はアミノ基の場合に比べ活性が高い傾向がある。しかし、作用時間はアミノ基である方が長く、目的によって使い分けることができる。
本明細書において、アミノ酸、ペプチド、保護基、活性基、その他に関して略号で表示する場合、国際純正及び応用化学連合 (IUPAC) 、国際生化学連合 (IBU) の規定或いは該当分野における慣用記号に従うものとする。また、遺伝制御に直接関連のあるα−アミノ酸に関して光学異性体がありうる場合は、特に明示しなければL体を表すものとする。
【0056】
以下にその例を表す。
Asp 又はD :アスパラギン酸
Ala :アラニン
Arg 又はR :アルギニン
Gly 又はG :グリシン
Phg :フェニルグリシン
Sar :ザルコシン
Ser 又はS :セリン
Thr :スレオニン
Val :バリン
Nva :ノルバリン
Ile :イソロイシン
(allo)Ile :アロイソロイシン
Leu :ロイシン
Nle :ノルロイシン
Tle :ターシャルロイシン
Lys :リジン
Chg :シクロヘキシルグリシン
Cha :シクロヘキシルアラニン
Met :メチオニン
Trp :トリプトファン
Tyr :チロシン
Tyr(CH) :O−メチルチロシン
Phe 又はF :フェニルアラニン
Hph :ホモフェニルアラニン
Pro 又はP :プロリン
DPro :D−プロリン
Hyp :ヒドロキシプロリン
ΔPro :デヒドロプロリン
4−CHPro :4−メチルプロリン
4−OCHPro :4−メトキシプロリン
Cys :システイン
Pen :ペニシラミン
Azt :アゼチジン酸
Thz :チオプロリン
Dmt :ジメチルチオプロリン
Dmp :ジメチルプロリン
Hyp(Bzl) :4−O−ベンジルヒドロキシプロリン
Boc :t−ブトキシカルボニル
Bu :t−ブチル
OBu :t−ブチルエステル
Mtr :4−メトキシ−2,3,6− トリメチルベンゼンスルホニル
Pmc :2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6− スルホニル
Fmoc :9−フルオレニルメトキシカルボニル
Orn :オルニチン
【0057】
本発明の化合物は、市販のアミノ酸を利用して、簡単な操作で容易に合成することができる。即ち、ペプチド化学において通常用いられる方法、例えば「ザ ペプチド (The Peptides) 」第1巻〔Schroder and Luhke著,Academic Press, New York, U.S.A.(1966年) 〕、「ペプチド合成の基礎と実験」〔泉屋信夫ら著 丸善 (株) (1985 年) 〕等に記載されている方法によって製造することが可能であり、液相法及び固相法のいずれによっても製造できる。更に、カラム法、バッチ法のいずれの方法も用いることができる。
【0058】
ペプチド結合を形成するための縮合方法として、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、カルボジイミド法、カルボジイミド−アディティブ法、活性エステル法、カルボニルイミダゾール法、酸化還元法、酵素法、ウッドワード試薬Kを用いる方法等を例示することができる。なお、固相法での縮合反応は前記した方法のうち、酸無水物法、カルボジイミド法及び活性エステル法が主な方法として挙げられる。
【0059】
更に、固相法でペプチド鎖を延長するときは、C末端アミノ酸を用いる有機溶媒に対して不溶な樹脂等の支持体に結合する。ここでは、アミノ酸を樹脂に結合させる目的で官能基を導入した樹脂や、樹脂と官能基の間にスペーサーを挿入したもの、更に条件によって種々の箇所で切断できるハンドル (handle) と称する鎖を導入した樹脂を目的に応じて用いることもできる。このような樹脂としては、例えば、クロロメチル樹脂などのハロメチル樹脂、オキシメチル樹脂、4−(オキシメチル)フェニルアセトアミドメチル樹脂、4−(オキシメチル)フェノキシメチル樹脂、C末アミド化用樹脂などを挙げることができる。
【0060】
なお、これらの縮合反応を行う前に、通常公知の手段によって当該縮合反応に関与しないカルボキシル基やアミノ基やアルギニン中のグアニジノ基等の保護手段を施すことができる。また逆に当該縮合反応に直接関与するカルボキシル基やアミノ基を活性化することもできる。
【0061】
保護手段に用いる保護基としては有機化学において通常用いられている保護基、例えば「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス (Protective Groups in Organic Synthesis) 〔Greene著、John Wiley & Sons, Inc. (1981 年) 〕等に記載されている保護基によって保護することが可能である。カルボキシル基の保護基としては、例えば、各種のメチルエステル、エチルエステル、ベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステル、t−ブチルエステル、シクロヘキシルエステル等の通常公知の保護基を挙げることができる。
【0062】
アミノ基の保護基としては、例えばベンジルオキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基等を挙げることができる。
セリン等の水酸基を含むアミノ酸中の水酸基の保護基としては、例えばt−ブチル基、ベンジル基、トリメチルシリル基、テトラヒドロピラニル基等を挙げることができる。
【0063】
リジン中のε−アミノ基の保護基としては、例えばt−ブトキシカルボニル、9−フルオレニルメトキシカルボニル基等を挙げることができる。
カルボキシル基の活性化されたものとしては、例えば、当該カルボキシル基に対応する酸無水物;アジド;ペンタフルオロフェノール、2,4−ジニトロフェノール、シアノメチルアルコール、p−ニトロフェノール、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−5− ノルボルネン−2,3− ジカルボキシミド、N−ヒドロキシフタルイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール等との活性エステル等を挙げることができる。
【0064】
アミノ基の活性化されたものとしては、当該アミノ基に対応するリン酸アミド等を挙げることができる。
ペプチド合成の際の縮合反応は、通常溶媒中で行われる。当該溶媒としては、例えばクロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、水、メタノール等又はこれらの混合物を挙げることができる。また、当該縮合反応の反応温度は、通常の場合と同様に、一般に−30℃〜50℃の範囲である。
【0065】
更に、本発明のペプチドの製造工程における保護基の脱離反応の種類は、ペプチド結合に影響を与えずに保護基を離脱させることができる限りにおいて、用いる保護基の種類に応じて選択することができる。例えば、塩化水素、臭化水素、無水フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸又はこれらの混合物等による酸処理;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ヒドラジン、ジエチルアミン又はピペリジン等によるアルカリ処理;液体アンモニア中におけるナトリウム処理やパラジウム炭素による還元処理;及びトリメチルシリルトリフラート、トリメチルシリルブロマイド等のシリル化処理等が挙げられる。なお、前記の酸又はシリル化剤処理による脱保護基反応においては、アニソール、フェノール、クレゾール、チオアニソール、エタンジチオールの如きカチオン補足剤を添加するのが脱保護基反応が効果的に実行されるという点において好ましい。
【0066】
なお、固相法で合成した本発明ペプチドの固相からの切断方法も通常公知の方法に従う。例えば、前記の酸又はシリル化剤による処理等を当該切断方法として挙げることができる。
【0067】
このようにして製造された本発明ペプチドに対しては、前記の一連の反応の終了後に通常公知の分離、精製手段を駆使することができる。例えば、抽出、分配、再沈澱、再結晶、カラムクロマトグラフィー等によって、より純粋な形で本発明ペプチドを収得することができる。
また、本発明ペプチドは、製造工程における反応条件によって塩の形で得ることができる。ここで、当該塩としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸との塩;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸との塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム、エタノールアミン、トリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の有機アミンとの塩等を挙げることができる。
【0068】
前記で得た本発明ペプチドを血小板凝集阻害剤として用いる場合には、その有効成分として、本発明ペプチド又はその薬学的に許容できる塩を固体もしくは液体の医薬用担体又は希釈剤と共に、即ち賦形剤や安定剤等と共に含む製剤とするのが好ましい。当該医薬製剤において、前記有効成分の担体成分に対する割合は、1〜90重量%の間で変動させることができる。当該製剤の剤形及び投与形態としては、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、丸剤もしくは液剤等の剤形にして用いることができる。また更に、原末のまま経口投与することも可能であり、更に、注射剤として、静脈内投与、筋肉内投与又は皮下投与することもできる。なお、注射剤として用いる場合には、本発明ペプチドを注射用の粉末として、用時調製することもできる。
【0069】
経口、経腸もしくは非経口投与に適した有機又は無機の、更に固体又は液体の医薬用に用いられる担体か希釈剤を、本発明の血小板凝集抑制剤を調製するために用いることができる。水、ゼラチン、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、動植物油脂、ベンジルアルコール、ガム、ポリアルキレングリコール、石油樹脂、やし油、ラノリンその他医薬に用いられる他の担体は全て、本発明の血小板凝集抑制剤の担体もしくは希釈剤として用いることができる。また、安定剤や湿潤剤や乳化剤を加えたり、浸透圧調整剤又はpH調整剤として塩を補助薬として、適宜用いることができる。
【0070】
更に、本発明の血小板凝集抑制剤は、種々の疾患の治療において、前記有効成分の他に、必要に応じて他の医薬として有効な成分、例えば他の種類の血小板凝集抑制成分を含有させることもできる。
【0071】
顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤又はカプセル剤の形態をとる場合には、前記有効成分を5〜80重量%含有させるのが好ましい。液剤の場合には、前記有効成分を1〜30重量%の割合で含有させるのが好ましい。更に、非経口投与剤のうち、注射剤として用いる場合には、前記有効成分を1〜10重量%の割合で含有させるのが好ましい。
【0072】
臨床投与量は、経口投与の場合、成人に対し前記有効成分として、1日当たり500 〜1000mgを内服するのが好ましい。しかしながら、患者の年令、症状等によって適宜投与量を増減させることもできる。前記の本発明の血小板凝集抑制剤は、1日1回投与も可能であるが、適当な間隔で2〜3回に分けて投与することもできる。更に、注射剤として用いる場合には、前記有効成分として、成人に対し1回当たり量1〜数100mg 投与するのが好ましい。また、その投与は1回で、あるいは、点滴等の手段によって継続的に行うことも可能である。
【0073】
なお、体外循環用血液凝固抑制剤として本発明のペプチドを用いる場合には、上記の注射剤あるいは点滴剤の形態で用いることができる。投与場所及び投与量は、体外循環システムの違い、及びシステムの持続時間等により異なるが、例えば体外循環システムへの入口の部分から1時間当たり1〜100mg/kgを持続的に注入することができる。投与量は、単独投与においても、また他の薬剤との併用においても、分解酵素が多量に存在する体内に比べ、体外循環システム中では少量で有効である。
【0074】
体外循環用血液凝固抑制剤として従来から用いられているヘパリンと本発明のペプチドとを併用することにより、血液凝固に関係する血小板凝集・凝固系という二つの重要な経路を抑制し、より完全に血液凝固を抑制することができると考えられる。また、両者の相乗的効果も期待できるので、前述したような副作用が問題になっているヘパリンの使用量を減らすことができる。更に、クエン酸や蛋白質分解酵素阻害剤(例えばフサン)、あるいは組織プラスミノーゲン活性化剤のような血栓溶解剤等と本発明の化合物との併用も有効であると考えられる。
【0075】
さらに、本発明の輸血用血小板製剤保護剤を有効成分として含有する輸血用血小板製剤パックは、本発明の輸血用血小板保護剤をパック中の輸血用血小板製剤に含ませることによって調製することができるが、当該輸血用血小板パックの形態は特に限定されない。即ち、通常臨床において用いられる輸血用血小板パックがとり得る全ての形態を採用することができる。具体的には、袋状、瓶状等の形態をとることが可能である。また、それらの素材も特に限定されない。例えば、袋状の形態をとる場合には、有効成分の吸着を可能な限り抑制し得るビニール素材、例えばポリ塩化ビニルやポリオレフィン等を、また瓶状の形態をとる場合には、プラスチック素材もガラス素材も当該瓶の素材として用いることができる。また、本発明の輸血用血小板保護剤は、本発明のペプチドの量に換算して、血小板成分量に対して最終濃度で0.1μM〜1mM、好ましくは1μM〜50μM添加することができる。なお、通常血小板パック中に添加される他の成分も本発明の輸血用血小板製剤保護剤と共に添加することができるのももちろんのことである。
【0076】
また、本発明のペプチドは各種細胞の細胞外基質タンパク質への接着を阻害する活性も有しており、ガン転移抑制作用や炎症反応時のリンパ系細胞の血管外への過剰な遊走を抑える抗炎症作用などの効果も期待できる。
また、本発明のペプチドの持つ強力な血小板凝集抑制作用及び低毒性という特性を生かし、様々な血栓症に対する治療後の血栓再形成防止及び外科手術後の血栓形成予防にも用いることができる。例えば、心筋梗塞や他の様々な動脈血栓に対して外科的に実施されるアンジオプラスティー(PTCA)処置後の血管再狭窄予防、動脈・静脈片移植等の血管形成術後のグラフト開存性の維持及び人工血管移植後の血栓形成予防などに有効である。
【0077】
【実施例】
以下に実施例により本発明について具体的に説明する。
[化合物の合成]
【0078】
〔実施例1〕 Pro−Ser−Ala−Sar−Asp−Trp−OH の合成
次式:
HOCH−C(1,4)−OCH−C(1,4)−Polymer
で示されるp−アルコキシベンジルアルコール型樹脂 (Trp の導入量:0.87meq/g ;BACHEM社製) 0.275g(0.25mmol)を反応容器に移し、ジメチルアミノピリジンの存在下でFmoc−Trpを活性エステルでこれに導入した後、表1に示す振盪、ろ過ステップを繰り返し、保護ペプチド樹脂:
Pro−Ser(Bu)−Ala−Sar−Asp(OBu)−Trp−O−Resin
を得た。
【0079】
次に、得られた保護ペプチド樹脂を0℃のトリフルオロ酢酸(TFA) 中でm−クレゾールとエタンジチオールとチオアニソールの存在下に、1時間処理を行った。エバポレーターでTFA を留去後に、樹脂をろ去し、ろ液にジエチルエーテルを氷冷下に加え、樹脂から切断されたペプチドを粉末として得た。そして、当該粉末をジエチルエーテルで洗浄した。当該洗浄物をセファデックスG−10(ファルマシア社製) を支持体としたゲルクロマトグラフィーにより脱塩し、これを凍結乾燥して粗ペプチドを得た。この粗ペプチドを高速液体クロマトグラフィー (HPLC) [カラム:ODS 5C18 (μbondasphere, 20×150mm)、移動相: (A) 0.1%TFA, (B) 100%CHCN/0.1 %TFA 、勾配は、 (A):(B)=90:10から (A):(B)=70:30、20分間、流速17ml/min]にて精製し、更にセファデックスG−25(ファルマシア社製) を支持体としたゲルろ過クロマトグラフィーにより酢酸塩とし、これを凍結乾燥することにより表題のペプチドを34mg得た。
【0080】
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで、保持時間18.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値646.3 、実測値646
【0081】
【表1】
Figure 0003581174
【0082】
〔実施例2〕 Pro−Ser−Ala−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間19.2分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値632.3 、実測値632
【0083】
〔実施例3〕 Pro−Ser−Val−Sar−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、0.1 %TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間20.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値674.3 、実測値674
【0084】
〔実施例4〕 Pro−Ser−Nva−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間26.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値660.3 、実測値660
【0085】
〔実施例5〕 Pro−Ser−Nva−Sar−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間28.5分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値674.3 、実測値674
【0086】
〔実施例6〕 Pro−Ser−Leu−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間32.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値674.3 、実測値674
【0087】
〔実施例7〕 Pro−Ser−Leu−Sar−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間36.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値688.3 、実測値688
【0088】
〔実施例8〕 Pro−Ser−Nle−Sar−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間34.5分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値688.3 、実測値688
【0089】
〔実施例9〕 Pro−Ser−Nle−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間34.6分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値674.3 、実測値674
【0090】
〔実施例10〕 Pro−Ser−Ala−Sar−Asp−Phe−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間17.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値607.3 、実測値607
【0091】
〔実施例11〕 Pro−Ser−Gly−Sar−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間18.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値632.3 、実測値632
【0092】
〔実施例12〕 Pro−Ser−Ile−Sar−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間34.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値688.3 、実測値688
【0093】
〔実施例13〕 Pro−Ser−Lys−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間17.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値689.3 、実測値689
【0094】
〔実施例14〕 Pro−Ser−Ile−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間34.2分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値674.3 、実測値674
【0095】
〔実施例15〕 Pro−Ser−Ser−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間19.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値648.3 、実測値648
【0096】
〔実施例16〕 Pro−Ser−Nva−Gly−Asp−Phe−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間30.2分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値621.3 、実測値621
【0097】
〔実施例17〕 Pro−Ser−Nva−Gly−Asp−Hph−OHの合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間31.5分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値635.3 、実測値635
【0098】
〔実施例18〕 Pro−Ser−Nva−Gly−Asp−Tyr(CH)−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間27.6分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値651.3 、実測値651
【0099】
〔実施例19〕 Pro−Ser−Pro−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間21.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値658.3 、実測値658
【0100】
〔実施例20〕 Pro−Ser−(allo)Ile−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間32.1分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値674.3 、実測値674
【0101】
〔実施例21〕 Pro−Ser−Tle−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間34.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値674.3 、実測値674
【0102】
〔実施例22〕 Pro−Ser−Chg−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間39.5分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値700.3 、実測値700
【0103】
〔実施例23〕 Pro−Ser−Met−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間29.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値692.4 、実測値692
【0104】
〔実施例24〕 Pro−Ser−Nva−Gly−Asp−Cha−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間38.1分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値627.3 、実測値627
【0105】
〔実施例25〕 Pro−Ser−Phe−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間38.3分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値709.3 、実測値709
【0106】
〔実施例26〕 Pro−Ser−Phg−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間36.1分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値695.3 、実測値695
【0107】
〔実施例27〕 Pro−Ser−Hyp−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間19.7分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値674.3 、実測値674
【0108】
〔実施例28〕 Pro−Ser−DPro−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間21.0分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値658.3 、実測値658
【0109】
〔実施例29〕 Pro−Ser−Azt−Gly−Asp−Trp−OHの合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間20.5分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値644.3 、実測値644
【0110】
〔実施例30〕 Pro−Ser−Thz−Gly−Asp−Trp−OHの合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間23.5分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値676.3 、実測値676
【0111】
〔実施例31〕 Pro−Ser−Dmt−Gly−Asp−Trp−OHの合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間30.1分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値704.3 、実測値704
【0112】
〔実施例32〕 Pro−Ser−ΔPro−Gly−Asp−Trp−OHの合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間22.1分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値656.3 、実測値656
【0113】
〔実施例33〕 Pro−Ser−Hyp(Bzl)−Gly−Asp−Trp−OH の合成
実施例1と同様の方法によって、表題に示すペプチドを合成した。
Figure 0003581174
HPLC分析
Cosmosil 5C18−AR (φ4.6 ×200mm)カラム (ナカライテスク社製) を用い、流速1.0ml/min で、 0.1%TFA 中アセトニトリル10〜40% (60分) の勾配溶出での分析HPLCで保持時間38.2分の単一ピークを示した。
FAB−MS : M+H 計算値764.3 、実測値764
【0114】
〔試験例1〕 本発明の化合物の血小板凝集抑制能
合成ペプチドの活性測定
〔PRP を用いたin vitroヒト血小板凝集〕
少なくとも2週間以上いかなる薬も服用していない健康な男性を被験者とした。採血は、19号の注射針と1/10容量の3.8 %クエン酸ナトリウム溶液を予め入れておいたプラスチックシリンジを用い、空腹時に下はく部の静脈から採血を行った。採血後速やかに、シリンジを軽く攪拌して両液を混合した。この血液を室温で15分間遠心分離し (1100rpm, 250g)、ブレーキをかけずに回転を止めた後、上清を駒込ピペットで取り、多血小板血漿 (PRP) とし室温で保存した。遠心後の残りの血液を更に室温で15分間遠心分離し (3500rpm, 1500g) 、ブレーキをかけずに停止させた後の上清を取り、寡血小板血漿 (PPP) とした。PRP調製後血小板数を計測し、血小板数が2×10/ml以上のものについてのみ以下に述べる実験を行った。
【0115】
血小板の凝集は、8チャンネルの血小板凝集測定機 (Hematracer, Nikoh Bioscience, Tokyo, Japan) を用いてPRPの光の透過度の変化から測定した。まず、200 μl のPPP, PRPをガラスキュベットに入れ、37℃でインキュベート後、透過度を測定しPPPの透過度を100 %、PRPの透過度を0%とした。次に、生理食塩水又はサンプルを含む生理食塩水をPRPに10μl 加え37℃で1分間インキュベートした後、更に100 μg/mlのコラーゲン溶液を10μl 加え (終濃度5μg/ml) 凝集を誘発し、以後7分間透過度を測定した。実験は、最初にコラーゲンとADPを用いて凝集が起こることを確認し、コラーゲンの最大凝集率が70%以上のものについてのみ、実験に用いた。
【0116】
サンプルは 2.2×10−2M になるように生理食塩水に溶解し、これを基に2倍の希釈系列を調製し実験に用いた。生理食塩水に不溶のサンプルについては10%のジメチルスルホキシドを含む生理食塩水に溶解した。
結果は次のように計算する。
【0117】
【数1】
Figure 0003581174
【0118】
サンプルの濃度に対し凝集抑制率をプロットした図を作図し、この図から凝集を50%抑制する濃度 (IC50) を計算した。表2に各サンプルのIC50を示す。フィブリノーゲン分子中に存在するアミノ酸配列であるRGDS(表2、比較例2)に比べ、N端にPro−Ser 構造を持ち、かつグアニジノ基を有しないアミノ酸を導入した基本骨格を有する本発明ペプチドは、血小板凝集阻害活性を大きく上昇させた。
【0119】
【表2】
Figure 0003581174
【0120】
【表3】
Figure 0003581174
【0121】
比較例2として表2に挙げたフィブリノーゲン分子中のアミノ酸配列であるRGDS−OH(ペプチド研究所 (箕面市) より購入) に比べて、本発明のペプチドの血小板凝集抑制能力が著しく向上していることが判明した。
【0122】
〔試験例2〕 急性毒性試験
実施例1で得られたペプチド100mg/kgをマウスに静脈内投与して、急性毒性試験を行ったが、何等毒性は観察されなかった。
【0123】
〔試験例3〕 本発明のペプチドの体外循環用血液凝固抑制剤としての有用性−ビーグル犬を用いた体外循環モデルでの実験−
本発明のペプチドが、人工透析・人工心肺等に代表される体外循環システム中での血液凝固を抑制する作用があることを確認するため、体外循環モデルの一つであるビーグル犬を用いた人工透析モデルを用い実験を行った。実験方法は、基本的にはHamano等の方法(Hamano et al., Thromb. Res. 55 (1989): pp.438−449)に従った。
【0124】
実験には、体重約10〜12kgのビーグル犬(雌・雄)を用い、図1に示す回路につないだ。中空糸膜型の人工透析膜としてはRENAK−A, RA−04, 0.4 m, Kawasumi Lab., Tokyoを用いた。大腿動脈と人工透析膜の間には血液用のポンプを装着し、体外循環回路内の血流量が常に25 ml/min になるようにして実験を行った。透析液側の回路については循環を行わず、透析膜カートリッジ内の透析液に約100 mmHO に相当する静水圧をかけた後、透析液回路の入口と出口を密封した。以上の手術の最中、ヘパリン等の抗凝固剤は一切用いなかった。
【0125】
実験時には以下のパラメータの測定を経時的に行った。▲1▼透析膜上流部での圧力(灌流圧)、▲2▼血小板粘着率、▲3▼全血凝固時間、の3項目である。▲1▼の灌流圧の測定は、図1に示したように、透析回路中の透析膜上流部に組み込んだ圧力計を用いて行った。透析膜部位は異物との接触が多く、また狭い空間を血液が通るため、透析回路中で一番血液凝固が起こりやすい部分である。ここで血液凝固が起こると透析膜が目詰まりを起こす結果、透析膜上流部の灌流圧が上昇する。即ちこの部分の灌流圧の変化は透析回路内での血液凝固の程度の指標となる。一方、▲2▼は血小板の機能及び血小板の自発的活性化の程度の指標であり、また▲3▼は透析回路中の血液凝固能亢進の程度の指標である。▲2▼および▲3▼については、透析膜の上流と下流の適当な場所から一定時間おきに少量の血液をサンプリングし、常法に従い測定を行った。
【0126】
回路装着後すぐに回路内への血液循環を開始し、それと同時に動脈側カニューレ直後のシリコンチューブ部から生理食塩水に溶解した本発明のペプチドの持続注入を開始した。注入量は、1個体当たり10mgであり、全量を1時間かけて徐々に注入した(注入速度;1 ml/min)。対照実験としては、生理食塩水のみを同様の方法で連続注入した。60分後に薬物の注入を中止し、以後180分まで血液を循環させ上記のパラメータの測定を継続した。ただし、灌流圧が500 mmHgを越えたものについては、その段階で実験を終了した。
【0127】
図2に、実施例28の化合物の灌流圧上昇に対する抑制効果について調べた実験の結果を示す。横軸は薬物投与開始後の時間を、縦軸は灌流圧を示している。灌流圧は回路装着直後には、0〜30 mmHg であるが、血液凝固が起こるとこの値が大きくなる。生理食塩水のみ投与した対照群では、10分以降急激な灌流圧の上昇が認められ、25分で500 mmHgを越えたため測定不能となった。このように抗凝固剤を何も投与しないと、透析回路中、特に透析膜部分で急激な血液凝固が起こる。これに対し、実施例28の本発明のペプチドを持続投与(10 mg/dog/hour) した場合には、明らかな血液凝固の抑制が観察された。
【0128】
血小板数、血小板の粘着活性、全血凝固時間についても灌流圧の上昇のパターンとほぼ平行した変化が認められた。すなわち、対照群では時間と共に急速に血小板数の減少、血小板粘着能の増加および全血凝固時間の短縮が起こった。これは、血小板の活性化および血液凝固系の亢進が起こっていることを示しており、血液凝固が非常に起こりやすい状態である。一方、実施例28の本発明の化合物を投与した実験例では、持続投与中には血小板数の減少、血小板粘着能の亢進等は観察されなかった。すなわち、本発明のペプチドにより、回路内での血小板活性化が有効に抑制されており、この結果、血液凝固系の活性化が抑制されていると考えられる。
【0129】
一方持続注入終了後には、灌流圧は徐々に上昇し、約150分(投与終了後90分)で灌流圧は、500 mgHgに達した。このように、本発明のペプチドは生体内での分解性がよく、投与をやめると速やかに分解され作用を失うという特性を持つ。
【0130】
以上のように、本発明のペプチドは、体外循環システム中での血液凝固を抑制する。このことは、現在抗凝固剤として使用されているヘパリンなどの代替物として本発明のペプチドが十分に使用可能であることを示している。ヘパリンは、体外循環システム中で血液凝固を完全に抑える反面、体外からの排出速度が遅く投与終了後も数時間は血液凝固を抑制し出血傾向を助長してしまうという大きな欠点を有する。この点に関しては、図2に示すように本発明のペプチドは、体内での生分解性が極めて良好で、注入を止めれば比較的速やかに血液凝固活性が薬物投与前の正常なレベルに回復するという利点を有する。また、本発明のペプチドは極めて低毒性であることから、前記ヘパリンの欠点を補う全く新しい血液凝固抑制剤として極めて有望である。
【0131】
本試験例に示すように、本発明のペプチドは生理食塩水またはクエン酸ナトリウム溶液に対して1時間当たり3〜20mg程度を体外循環システムの入口付近から回路内へ点滴等で持続投与すれば、十分な効果が期待できる。実際にヒトに適用する場合には、さらに投与量を減らすことも可能であると考えられる。
また、クエン酸ナトリウム溶液、ヘパリン、フサン、血栓溶解剤等の作用機作の全く異なる抗凝固剤と併用すれば、相乗的な効果が期待でき、両者の使用量を減らすことが可能であり、より安全性を高めることができる。
【0132】
〔試験例4〕 本発明のペプチドの輸血用血小板保護剤としての有用性
実験には、Hartley 系のモルモット(雄、体重350−400 g)を用いた。採血は腹部大動脈より24号の注射針を装着した注射器で行ったが、シリンジ内には予め滅菌した3.8%クエン酸ナトリウム溶液を1/10容量入れておいた。採血後、速やかにシリンジを軽く攪拌して両液を混合した。この血液に、室温で15分間遠心分離(900 rpm)を施して、回転を止めた後、上清を無菌的に駒込ピペットで取り、保存用の血小板分画とした。
【0133】
この血小板分画を、血小板保存バッグ((株)テルモ;アフェレーシス用分離バッグS)に移した後、振盪器に乗せ、常温で、振幅20cm、振盪数20Hzの条件で振盪保存を行った。
【0134】
一定時間保存後、血小板分画の一部を取り、血小板数を測定後、クエン酸溶液で分画のpHを6.5に調整後、室温で遠心分離(2000 rpm、15分)を行った。遠心後の上清を捨て、アピラーゼ(Sigma 社、最終濃度0.2U/ml) を加えたCa−Tyrode 液(pH6.5)を加え、血小板を再浮遊させた。室温で20分放置後、浮遊液に遠心分離(2000 rpm、15分)を施し、上清を除去した。同様の操作でもう一度洗浄後、血小板を予め保存しておいたモルモット血漿に再浮遊させた(血小板数;約3億個/ml )。この血小板浮遊液を用い、試験例1に記載の方法で血小板凝集能を測定した。
【0135】
図3は、保存に伴う血小板数の変化を示した図である。生理食塩水のみ添加した対照群では、保存に伴う血小板数の大きな減少が観察された。これに対し、実施例28の化合物を添加した群では、無添加の対照群に比べ有意な血小板数の減少に対する抑制効果が見られた。この血小板数の減少に対する抑制効果は、添加するペプチドの濃度依存的であり、このことは本発明のペプチドそのものが血小板に対する保護作用を有していることを示している。
【0136】
図4は、血小板凝集能の保存に伴う経時的変化を示している。無添加の対照群では、血小板の凝集活性が48時間の保存で40%以下に減少したが、実施例28の化合物を添加した群では48時間後にも60%以上の凝集活性が残存しており、本化合物を添加することにより血小板の凝集能の低下が有意に抑制された。
【0137】
このように、血小板分画に、本発明のペプチドを添加することにより、保存に伴う血小板数の減少、血小板凝集能の低下の抑制などの血小板保護作用が得られた。従来から知られているRGDSやRGDFなどのペプチド性化合物は、血小板分画に添加しても、血漿中の酵素の作用で分解されてしまうことが確認されており、これらの化合物が長時間の血小板保存時に使用できないのは明らかである。また、逆に非常に安定であり、体内に入っても分解されない化合物は、輸血後に体内の全ての血小板の機能を抑制することになり、輸血の有効性を低下させてしまうことになる。その点、本発明のペプチドは、血小板分画での高安定性と体内での高分解性及び低毒性という特徴を有するという点で、非常に優れた血小板保護剤であると考えられる。
【0138】
また、本発明のペプチドを酢酸塩やリン酸塩の形で投与することにより、緩衝作用を付加し、血小板分画の保存に伴うpHの変化を抑制するような効果も期待できる。また、本発明のペプチドの単独投与ではなく、アスピリン等の作用機序の異なる血小板凝集抑制剤との併用による相乗的効果も期待できる。
【0139】
〔製剤例1〕
実施例1〜28で得られたペプチド100mg を生理的食塩水100ml に溶解し、得られた溶液を無菌的に2.5 ml容のアンプルに充填、封入し、注射液製剤とした。
【0140】
〔製剤例2〕
実施例1〜28で得られたペプチド500mg 、結晶セルロース50mg、乳糖450mg からなる混合物に、エタノールと水の混液1mlを加え練合した。この練合物を常法に従って造粒して、顆粒剤とした。
【0141】
【発明の効果】
本発明のペプチドは、以上説明したように、血小板凝集抑制剤として有用である。即ち、血栓崩壊治療中及び治療後の血小板血栓症、血栓塞栓症及び再閉塞の予防及び冠動脈や他の動脈の血管形成術後及び冠動脈バイパス処理後の血小板血栓症、血栓塞栓症及び再閉塞の予防、また心筋梗塞を予防する。また、本発明のペプチドは、体外循環用血液凝固抑制剤として、体外循環時の血栓形成を抑制する。
また、本発明のペプチドは、輸血用血小板製剤保護剤として、保存に伴う血小板製剤の機能低下を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ビーグル犬を用いた人工透析モデル透析回路の模式図である。
【図2】図2は、ビーグル犬を用いた人工透析モデルにおける、本発明のペプチドの血液凝固抑制効果を示すグラフである。
【図3】図3は、保存血小板の血小板数減少に対する、本発明のペプチドの保護効果を示すグラフである。
【図4】図4は、保存血小板の血小板凝集能低下に対する、本発明のペプチドの保護効果を示すグラフである。

Claims (6)

  1. 一般式(I):
    Pro−Ser−A−B−Asp−C−D (I)
    [式中、Aは、グリシン、プロリン、これらの誘導体、又は一般式(X):
    Figure 0003581174
    (式X中、R 1 及びR 2 は、同一又は相異なり、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは4〜10の整数を表す)で示されるアミノ酸であり、
    Bはグリシン又は N- アルキルグリシンであり、
    Cはトリプトファン、フェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、シクロヘキシルアラニン、又はメチルチロシンであり、
    Dは水酸基又はアミノ基を表す。]
    で示される化合物又はその塩。
  2. 一般式(I):
    Pro Ser −A−B− Asp −C−D (I)
    [式I中、Aは、グリシン、プロリン、メチオニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルグリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ノルバリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、リジン、セリン、アロイソロイシン、ターシャルロイシン、ヒドロキシプロリン、チオプロリン、ジメチルチオプロリン、デヒドロプロリン、 4-O- ベンジルヒドロキシプロリン、アゼチジン酸であり、
    Bはグリシン又は N- メチルグリシンであり、
    Cはトリプトファン、フェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、シクロヘキシルアラニン、又はメチルチロシンであり、
    Dは水酸基又はアミノ基を表す。]
    で示される化合物又はその塩。
  3. 請求項1又は2に記載の化合物又はその塩を有効成分として含有する血小板凝集抑制剤。
  4. 請求項1又は2に記載の化合物又はその塩を有効成分として含有する体外循環用血液凝固抑制剤。
  5. 請求項1又は2に記載の化合物またはその塩を有効成分として含有する輸血用血小板製剤保護剤。
  6. 請求項記載の輸血用血小板製剤保護剤を有効成分として含有する輸血用血小板製剤パック。
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