JP3575869B2 - ガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法 - Google Patents

ガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、原子炉の燃料棒の一部に可燃性毒物として含有されるガドリニウム、または燃料棒の被覆管の材料として使用されているジルコニウムの同位体分離方法に係り、特に、複数の同位体を含むガドリニウム、またはジルコニウム蒸気に、複数のパルスレーザ光を照射することにより、中性子吸収断面積の大きいガドリニウム157、またはジルコニウム91等を選択的に励起し電離して回収するガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
原子炉に装荷される一部の燃料棒には、原子炉の初期反応度を制御するために可燃性毒物としてガドリニア(ガドリニウムの酸化物)がウランの酸化物に混合されている。ガドリニウム元素のうち中性子断面積が極めて大きな155Gdと157Gdが余剰反応度制御の役割を果しており、現在使用されている天然ガドリニウムに対し157Gdを濃縮することで燃料燃焼効率を向上させることができる。また、燃料棒の被覆管にはジルコニウムが用いられている。ジルコニウム元素のうち中性子断面積の大きな91Zrは核反応を持続させる媒体である中性子を吸収してしまうので、これを取り除くことが原子炉の経済性の観点から重要である。
【0003】
こうした157Gdの濃縮または91Zrの除去を実現するには同位体分離技術を利用することができる。ウラン同位体分離の分野では、過去、ガス拡散法や遠心分離法が確立しているが、近年原子レーザ法を利用することでさらに高い同位体分離効率を達成できることが分ってきた。また、この方法はガドリニウムやジルコニウムの同位体分離に適用した場合にも、高い分離効率が得られるものとして注目されている。
【0004】
原子レーザ法による同位体分離装置は、複数種類の同位体を含む金属原料を加熱溶解して蒸発させ、この金属蒸気流にレーザ光を照射し、蒸気流中の特定の同位体、例えば157Gdを選択的に陽イオン化し、この陽イオン化した特定の同位体に電界を作用させて分離回収するように構成されている。
【0005】
ところで、同位体には質量数が偶数のものと奇数のものがあり、偶数の同位体では核スピンがゼロであるのに対し、奇数核同位体ではこれがゼロではない。この核スピン効果のため偶数核同位体では縮退していたエネルギレベルが奇数核同位体では僅かに分裂する。このため偶数核同位体では1本であった共鳴光吸収ラインは、奇数核同位体では超微細構造と呼ばれる複数本の分裂構造を持つ。超微細構造によって拡がったレベルを効率的に励起する方法としては、米国特許第456264号で公表されているように、金属蒸気量に照射するレーザの周波数を1パルス中において掃引して断熱反転させる方法がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、共鳴光吸収ラインにレーザ光を同調させるという従来の原子レーザ法にて157Gdの含有率を高めたり91Zrを除去したりしようとしても、奇数核同位体の共鳴光吸収ラインには超微細構造があるために、励起および電離回収を効率的に行なうことは難しい。つまり、例えば、図3に示すように156Gdの共鳴光吸収ラインは157Gdの共鳴光吸収ラインに内包されるので、レーザ光照射により157Gdのみを選択的に励起し電離することが難しく、157Gdと同時に燃焼効率を低下させる156Gdまで励起し電離させてしまう可能性がある。
【0007】
本発明はこの問題を解決するためになされたものであり、その目的は、非標的同位体の共鳴励起を排除することで、濃縮対象同位体である157Gdまたは91Zr等の奇数核同位体を偶数核同位体から分離する分離効率を向上させることができるガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は金属蒸気流へのレーザ光照射による断熱反転励起により標的同位体の殆どを上位準位に励起するものであり、次のように構成される。
【0009】
本願の請求項1に記載の発明は、複数の同位体を含む金属原料の蒸気流を発生させ、この金属蒸気流にパルスレーザ光を多段に照射し、特定の同位体成分だけを分離して回収するガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法において、まず、前記金属蒸気流に、偶数核同位体の共鳴光吸収ラインと奇数核同位体の共鳴光吸収ラインの全てを網羅するように周波数掃引されたパルスレーザ光を照射し、これら両同位体を一旦第1段励起準位に断熱反転励起させた後、偶数核同位体共鳴光吸収ラインのみに周波数掃引されたパルスレーザ光を照射してこの偶数核同位体のみを第1段励起準位から基底準位に落とし、さらにレーザ光を照射して第1段励起準位に残った奇数核同位体のみを励起し電離させることを特徴とする。
【0010】
また、本願の請求項2に記載の発明は、複数の同位体を含む金属原料の蒸気流を発生させ、この金属蒸気流にパルスレーザ光を多段に照射し、特定の同位体成分だけを分離して回収するガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法において、まず、前記金属蒸気流に、偶数核同位体の共鳴光吸収ラインとその近傍に周波数掃引されたパルスレーザ光を照射して、この偶数核同位体のみを第1段励起準位に選択的に励起させた後、この偶数核同位体の共鳴光吸収ラインと奇数核同位体の共鳴光吸収ラインの全てを網羅するように周波数掃引されたパルスレーザ光を照射して、偶数核同位体のみを第1段励起準位から基底準位に落とす一方、奇数核同位体のみを第1段励起準位に選択的に励起して電離させることを特徴とする。
【0011】
さらに、本願の請求項3に記載の発明は、複数の同位体を含む金属原料の蒸気流を発生させ、この金属蒸気流にパルスレーザ光を多段に照射し、特定の同位体成分だけを分離して回収するガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法において、まず、前記金属蒸気流に、偶数核同位体の共鳴光吸収ラインを除く奇数核同位体の共鳴光吸収ラインを網羅するように周波数掃引されたパルスレーザ光を照射し、この奇数核同位体のみを第1段励起準位に選択的に励起して電離させることを特徴とする。
【0019】
【作用】
複数の同位体を含むガドリニウムまたはジルコニウムの金属蒸気に、まず、基底もしくは環境の熱エネルギのために励起状態にある準安定準位にある標的同位体である奇数核同位体の共鳴光吸収ラインを中心に周波数掃引されたパルスレーザ光を照射する。すると、パルス照射内に奇数核同位体が選択的に第1励起準位に断熱反転励起される。このとき図3に示すように奇数核同位体の超微細構造内に偶数核同位体の吸収ラインが存在するので、前記パルスレーザ照射中にこの偶数核同位体も第1励起準位に励起される。
【0020】
そこで、前記レーザパルス照射後、今度は、偶数核同位体の共鳴光吸収ラインに周波数掃引されたパルスレーザ光を照射する。これによって、第1励起準位に励起された偶数核同位体のみが断熱反転効果により基底準位に放出され、奇数核同位体を第1励起準位に残すことができる。
【0021】
あるいは、これとは逆に、予め偶数核同位体の光吸収ラインに周波数掃引されたレーザ光を金属蒸気流に照射することにより、この偶数核同位体のみを第1励起準位に選択的に励起させておいてから、次に、偶数核同位体の吸収ラインを包含する奇数核標的同位体の共鳴光吸収ラインに周波数掃引されたパルスレーザを金属蒸気流に照射することによって同じように奇数核同位体のみを第1励起準位に励起することができる。
【0022】
さらに、励起レベルの角運動量(J値)の組合せと各レーザ偏光の組合せによって、偶数核同位体では1つの磁気サブレベルからしか電離できない場合は、永久磁石または電磁石を用いゼーマン効果により励起レベルの縮退を解くことにより、パルスレーザ光を金属蒸気流に照射して基底準位に放出するときに、偶数核同位体のうちの1つの磁気サブレベルに絞ることによって、分離効率を向上させることができる。
【0023】
また、偶数核同位体の共鳴光吸収ラインを除いて奇数核同位体の共鳴吸収ラインに周波数掃引された複数本のレーザ光を金属蒸気に照射することにより、奇数核同位体のみを選択的に第1励起準位に断熱反転励起させることができる。
【0024】
このように複数の同位体間で共鳴光吸収ラインの少なくとも一部に重なり合う部分がある場合でも、断熱反転励起を用いれば、標的同位体をほぼ100%近く上位準位に励起できるので、高い選択励起を実現することができる。つまり、同位体分離効率を高めることができる。そして、第1励起準位に励起した標的同位体を電離準位に励起するには、引き続き励起用、電離用パルスレーザを照射するが、第1励起準位には既に標的同位体のみが選択励起されているので、奇数核同位体の超微細構造ラインの全てを充分カバーするような幅広のシングルモードまたはマルチモードのレーザパルスで励起させれば、標的同位体のみを高効率で電離することができる。
【0025】
【実施例】
以下、ガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法の一実施例を同位体であるガドリニウムについて図面を参照して説明する。なお、図中、同一または相当部分には同一符号を付している。
【0026】
図2は本発明に係るガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法を実現するための分離装置の一実施例の要部斜視図であり、この図において、同位体分離装置は図示しない密閉容器である本体ケース内に、複数の同位体を含有する金属ガドリニウム2を収容する蒸発用坩堝3と、この蒸発用坩堝3内の金属ガドリニウム2に電子ビーム4を照射する電子銃5と、複数対の陽電極6と陰電極7等を内蔵している。
【0027】
電子銃5から発射された電子ビーム4は図示しない外部磁場コイルにより偏向されて蒸発用坩堝3内の金属ガドリニウム2に照射され、電子ビーム4の照射を受けた金属ガドリニウム2は加熱されて蒸発し金属蒸気流8を形成する。
【0028】
一方、蒸発用坩堝3の上方には、複数の帯状の陽電極6と陰電極7とを交互に所要の間隔を置いて対向配置し、これらの各電極間に光反応部9をそれぞれ設ける。これらの光反応部9の長手方向にレーザ装置10からパルスレーザ光11を入射させると、ガドリニウム蒸気流8中の濃縮対象同位体がレーザ光11を吸収することで選択的に励起され、さらに電離されて陽イオンとなり、陰電極7に吸引されて回収される。なお、電離せずに光反応部9を通過した金属蒸気流8は、光反応部9の外縁部に配置された製品回収板12に回収される。
【0029】
次に、レーザ装置10から光反応部9の金属蒸気流8に3波長のレーザ光11を照射することにより157Gdを3段階で励起・電離させる方法ないし条件について説明する。
【0030】
まず、図1(a)〜(d)で示す励起用パルスレーザ光11a〜11dの照射条件について説明するが、これらパルスレーザ光11a〜11dの照射条件はこれらレーザ光11a〜11dを出力するレーザ装置10に設定されている。
【0031】
本実施例は図1(b)に示すように偶数核同位体の156Gdから、その共鳴光吸収ラインを包含する奇数核同位体の157Gdを分離するために第1段に断熱反転励起を利用するものであり、図1(a)に示すように、まず、基底準位l0 から第1励起準位l1 に励起させる周波数掃引型のパルスレーザ光11aを図1(c)に示すように所定時間t1 照射し、一旦156Gdと157Gdとを共に励起させ、次に反転用パルスレーザ11bを所定時間t2 照射して156Gdのみを断熱反転効果により基底段に放出させ、157Gdのみを第1励起準位l1 に残す。
【0032】
その直後に第2段目l2 以降の励起用パルスレーザ光11cと、第3段目l3 の電離用レーザ光11dを照射し、157Gdのみを電離させ、陽イオン化する。第1段目l1 の周波数掃引型パルスレーザ光11aは図1(d)に示すように非標的同位体の156Gdの共鳴光吸収ラインを含む標的同位体の157Gdの共鳴光吸収ラインの周波数ν1 ,ν2 間を周波数掃引するレーザ光であり、他方のレーザ光11bは非標的同位体の156Gdの周波数ν0 とその近傍を挟んで周波数掃引するレーザ光である。
【0033】
なお、これら第1段励起用のレーザ光11a,11bの照射順序を逆にして、予め非標的同位体の156Gdのみを第1励起準位に選択的に励起させておいてから、偶数核同位体の156Gdの吸収ラインを包含する奇数標的同位体の157Gdの共鳴光吸収ラインに周波数掃引されたパルスレーザ光11aを照射することによって同じように標的同位体の157Gdのみを第1励起準位l1 に励起してもよい。
【0034】
また、予め断熱反転励起させる同位体の照射時間と、その次に波長掃引し照射する第1段目の励起レーザ光11a,11bの時間のタイミングと、第2段目以降にて励起電離するためのレーザ光11c,11dの照射のタイミングとは、励起レベルの寿命を考慮し、レーザ光11a〜11dのパルス幅を調整することにより最適化する。
【0035】
つまり、第1段励起準位l1 の寿命の長い場合には一度励起した原子が自然放出する時間が遅いので、レーザパルス幅を広くして照射タイミングの間隔を長くしてゆっくり周波数掃引することにより、効率よく断熱反転をすることができる。
【0036】
一方、第1段励起準位l1 の寿命が短い場合には一度励起した標的同位体の157Gdの原子が自然放出しない程度にレーザパルスタイミングの間隔を短くし、かつ効率よく断熱反転が発生するようなレーザパルス幅に調整する必要がある。これらレーザパルス幅調整手段はレーザ装置10に具備されている。
【0037】
このように第1段目のパルスレーザ光11a,11bの照射により基底準位l0 にあった157Gdの殆どが上位の第2励起準位l2 に断熱励起される状況を図4の計算例に示す。つまり、パルスレーザ11aの照射により標的同位体157Gdとともに偶数核非標的同位体156Gdも励起されるが、反転用パルスレーザ光11bの照射によって、157Gdの励起量が若干低下するものの、156Gdの殆どが基底準位l0 におとされ、157Gd,156Gdの励起準位の占有率はそれぞれ81%,2%となっている。
【0038】
図5(a)〜(d)は本発明の第2実施例におけるパルスレーザ光11e〜11hの照射条件ないし方法を示している。この実施例では図5(a)に示すように基底準位l0 から第1励起準位l1 に励起させる2本の周波数掃引型のパルスレーザ光11e,11fを図5(c)に示すように同時に照射し、157Gdのみを第1励起準位に励起させ、その直後に第2段目以降の励起用,電離用パルスレーザ光11g,11hを照射する。この周波数掃引型パルスレーザ光11e,11fは図5(b),(d)に示すように非標的同位体156Gdの共鳴光吸収ラインの周波数ν0 を除いてν0 から遠ざかり、しかも、標的同位体157Gdの共鳴光吸収ラインの両端の周波数ν1 からν2 までをカバーするように掃引されるレーザ光である。
【0039】
図6(a),(b)はこれら第1段目のパルスレーザ光11e,11fにより基底準位l0 にあった157Gdの殆どが上位の第1励起準位l1 に断熱励起される状況の計算例を示している。図6(a)ではパルスレーザ光11eの照射により標的同位体157Gdの殆どが励起され、図6(b)ではパルスレーザ光11fの照射によって157Gdが励起されており、これら2つの周波数掃引型パルスレーザ光11e,11fによって励起された157Gdと156Gdの励起準位の占有率はそれぞれ合計すると95(70+25)%,5(3+2)%となっている。
【0040】
したがって、第1段レーザ光11e,11fによって157Gdのみが選択的に励起されているので、第2段目以降の励起用,電離用パルスレーザ光11g,11hは157Gdの超微細構造共鳴ラインをカバーすることのできる複数の周波数成分(ν1 〜ν2 )を持つマルチモードレーザ,広い周波数領域に跨るシングルモードレーザ,周波数掃引シングルモードレーザの何れかのレーザ光を照射すれば標的同位体157Gdのみを励起し電離することができる。
【0041】
また、周波数掃引型レーザ光11e,11fは断熱反転によって上位準位に励起させる効果だけでなく、奇数核同位体のような超微細構造で拡がった共鳴光吸収ラインを洩れなくカバーして励起させる効果も有する。そこで、周波数掃引型パルスレーザ光11e,11fを基底準位l0 に、他の励起レーザ11g,11hよりも先行させて照射する以外に、156Gdと157Gdの同位体シフトが最も大きい励起準位に図5(d)で示すように非標的同位体の156Gdの共鳴光吸収ラインの周波数ν0 から遠ざかるように周波数ν1 〜ν2 間を周波数掃引するパルスレーザ光11e,11fを他段パルスレーザ光と同時に照射することにより、157Gdのみを効率的に励起し電離させることもできる。
【0042】
次に、図7(a)〜(e)により、レーザ偏光の組合せとゼーマン効果で同位体分離効率をさらに向上させる方法について説明する。
【0043】
レーザ光11の3段階照射で励起から電離まで行なわせる場合の各励起レベルの角運動量(以下J値という)の組合せが、例えば、図7(c)に示すように基底準位l0 でJ=2,第1励起準位l1 でJ=2,第2段励起準位l2 でJ=1,自動電離準位l3 でJ=1のとき、偶数核同位体156Gdの磁気サブレベル毎の励起の様子は、図7(e)に示すように全て直線偏光13のレーザ光11で励起する場合と、図7(d)で示すように全て円偏光14のレーザ光11で励起する場合とでは磁気量子数mが相違する。
【0044】
つまり、全て直線偏光13のレーザ光11で励起する場合は、電離可能となる磁気サブレベル13aは基底準位の磁気量子数m=±1の2通り存在するが、レーザ偏光を上手く選択して全て円偏光14のレーザ光11で励起すると、電離可能となる磁気サブレベル14aは基底準位の磁気量子数m=−2の1通りとなる。
【0045】
さらに、図7(a)で示す光反応部9(図2参照)に磁場がないときの156Gdの光吸収ライン15は、磁場をかけると、図7(b)に示すようにゼーマン効果により磁気量子数m毎に僅かに周波数分裂する。
【0046】
これを上記の円偏光14のレーザ光11の組合せと同時に、図1で示した励起方法に適用すれば、基底準位l0 に放出させる偶数核非標的同位体156Gdの光吸収ライン15はm=−2の1本に特定することができる。そして、このように非標的同位体の原子密度が小さくなったことにより一段と同位体分離効率が向上し、同時に基底準位l0 に放出させるときに必要なレーザ出力も低減することができる。
【0047】
なお、上記レーザ光11の波長の変調方法の一例としては電気光学素子(EOM)を用いる方法がある。この方法では幅の広い奇数核同位体157Gdの光吸収ラインと狭い偶数核同位体156Gdの光吸収ラインとを同じレーザ装置10により照射するため、図8のように2個以上の電気光学素子(EOM)18,19を用いて図9に示すように波長変調する。例えばレーザ装置10のレーザ発振装置16で発振した周波数ν1 のレーザ光17に、第1の電気光学素子18によりΔν変調させて奇数核同位体の吸収ラインの周波数に周波数掃引し、さらに、第2の電気光学素子19によりν2 に周波数をシフトさせ、偶数核同位体の吸収ラインの周波数にΔν周波数掃引することができる。掃引量Δνは電気光学素子をさらに追加することより適宜調整することができる。
【0048】
以上のような3段階励起・電離のスキームを用いた実施例により、本発明が実施する同位体分離を高効率で達成することができる。
【0049】
【発明の効果】
以上に説明したように本発明によれば、ガドリニウムまたはジルコニウムの同位体分離において、第1段励起に周波数掃引レーザ光により偶数核同位体と奇数核同位体とを同時に断熱反転させた後に、再度、断熱反転励起により偶数核同位体のみを基底準位に落とすことにより、超微細構造を持ち励起させにくい奇数核同位体のみを効率的に選択励起させることができる。
【0050】
あるいは、これとは逆に、予め偶数核同位体の光吸収ラインに周波数掃引されたレーザ光を金属蒸気流に照射することにより、この偶数核同位体のみを第1励起準位に選択的に励起させておいてから、次に、偶数核同位体の吸収ラインを包含する奇数核標的同位体の共鳴光吸収ラインに周波数掃引されたパルスレーザを金属蒸気流に照射することによって同じように奇数核同位体のみを第1励起準位に励起することができる。
【0051】
さらに、励起レベルの角運動量(J値)の組合せと各レーザ偏光の組合せによって、偶数核同位体では1つの磁気サブレベルからしか電離できない場合は、永久磁石または電磁石を用いゼーマン効果により励起レベルの縮退を解くことにより、パルスレーザ光を金属蒸気流に照射して基底準位に放出するときに、偶数核同位体のうちの1つの磁気サブレベルに絞ることによって、分離効率を向上させることができる。
【0052】
また、偶数核同位体の共鳴光吸収ラインを除いて奇数核同位体の共鳴吸収ラインに周波数掃引された複数本のレーザ光を金属蒸気に照射することにより、奇数核同位体のみを選択的に第1励起準位に断熱反転励起させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(d)は本発明の一実施例に係る同位体分離方法におけるレーザ光のエネルギ準位,Gd同位体の共鳴光吸収ラインの一部のスペクトラム,照射タイミング,および周波数掃引の制御例をそれぞれ示す図。
【図2】本発明に係るガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法を実現するための分離装置の一実施例の要部斜視図。
【図3】ガドリニウム同位体の共鳴光吸収ラインの一例のスペクトラムを示す図。
【図4】図1で示す同位体分離方法における157Gdの断熱反転励起の計算例のグラフ。
【図5】(a)〜(d)は本発明の他の実施例に係るガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法におけるレーザ光のエネルギ準位,Gd同位体の光吸収スペクトラム,そのパルス波形と照射タイミング,および周波数掃引の制御例をそれぞれ示す図。
【図6】(a),(b)は、図5で示す同位体分離方法における157Gdの断熱反転励起の計算例をそれぞれ示すグラフ。
【図7】図1で示す同位体分離方法と磁場の印加と、レーザの円偏光を組み合せた励起方法の一例を示すための図であり、(a)は156Gdの光吸収ラインのスペクトラム図、(b)は光反応部に磁場をかけたときに周波数分裂する156Gdの吸収ラインのスペクトラム図、(c)は156GdのJ値を示す図、(d)は円偏光レーザ光の作用を示す図、(e)は直線偏光レーザ光の作用を示す図。
【図8】本発明の各同位体分離方法における電気光学素子の配置例を示すブロック図。
【図9】図8で示す電気光学素子による周波数掃引の一例を示す図。
【符号の説明】
1 同位体分離装置
2 金属ガドリニウム
3 坩堝
4 電子ビーム
5 電子銃
6 陽電極
7 陰電極
8 金属蒸気流
9 光反応部
10 レーザ装置
11,11a〜11h レーザ光
12 製品回収板
13 直線偏光
14 円偏光
16 レーザ発振装置
18 第1の電気光学素子(EOM)
19 第2の電気光学素子(EOM)

Claims (3)

  1. 複数の同位体を含む金属原料の蒸気流を発生させ、この金属蒸気流にパルスレーザ光を多段に照射し、特定の同位体成分だけを分離して回収するガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法において、まず、前記金属蒸気流に、偶数核同位体の共鳴光吸収ラインと奇数核同位体の共鳴光吸収ラインの全てを網羅するように周波数掃引されたパルスレーザ光を照射し、これら両同位体を一旦第1段励起準位に断熱反転励起させた後、偶数核同位体共鳴光吸収ラインのみに周波数掃引されたパルスレーザ光を照射してこの偶数核同位体のみを第1段励起準位から基底準位に落とし、さらにレーザ光を照射して第1段励起準位に残った奇数核同位体のみを励起し電離させることを特徴とするガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法。
  2. 複数の同位体を含む金属原料の蒸気流を発生させ、この金属蒸気流にパルスレーザ光を多段に照射し、特定の同位体成分だけを分離して回収するガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法において、まず、前記金属蒸気流に、偶数核同位体の共鳴光吸収ラインとその近傍に周波数掃引されたパルスレーザ光を照射して、この偶数核同位体のみを第1段励起準位に選択的に励起させた後、この偶数核同位体の共鳴光吸収ラインと奇数核同位体の共鳴光吸収ラインの全てを網羅するように周波数掃引されたパルスレーザ光を照射して、偶数核同位体のみを第1段励起準位から基底準位に落とす一方、奇数核同位体のみを第1段励起準位に選択的に励起して電離させることを特徴とするガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法。
  3. 複数の同位体を含む金属原料の蒸気流を発生させ、この金属蒸気流にパルスレーザ光を多段に照射し、特定の同位体成分だけを分離して回収するガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法において、まず、前記金属蒸気流に、偶数核同位体の共鳴光吸収ラインを除く奇数核同位体の共鳴光吸収ラインを網羅するように周波数掃引されたパルスレーザ光を照射し、この奇数核同位体のみを第1段励起準位に選択的に励起して電離させることを特徴とするガドリニウムまたはジルコニウム同位体の分離方法。
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