JP3573252B2 - ダムにおける水量予測方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、系統制御所、給電指令所、ダム管理所、水力発電所等において、計算機上でダムの流入量または流出量(以下、両者をまとめて流量という)を自動的に予測する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ダムの流入量の予測は、熟練運用者の経験と直感的知識により行われていることが多い。このため、予測作業を自動化する例として、タンクモデル、貯留関数法、ニューラルネットワーク等を用いる様々な方法が提案されている。従来のこれらの方法は、そのほとんどが河川状況に関わらず1つの予測モデルだけを構築して予測するものであった。
【0003】
また、予測精度を向上させる例として、河川状況に応じて複数の予測モデルを構築して予測する方法があり、例えば、「雨量情報に基づく数時間先行のダム流入量のオンライン予測法」(電気学会論文誌B,Vol.113,No3,(1993)」がある。この方法は、ダムへの流入量に応じてM個の予測モデルから1つを選択して予測するものであるが、この方法によると、流入量により機械的に予測モデルを切り替えているため、その流入量の境界において不連続が生じる可能性がある。
【0004】
更に発展した方法として、「ニューロ・ファジーによるダム出水予測」(電気学会電力エネルギー部門大会,185,(1997)」では、ダムへの流入量に応じて2つの予測値をファジー融合して最終的な出水量を予測している。
この方法によると、流入量境界においても不連続が生じることがない。なお、この論文において流入量を判断するファジーパラメータは、相関係数から自動的に求めている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ダムの流入量または流出量を予測するには、膨大な専門知識と長年の経験が必要であるが、近年この知識を有する熟練運用者は減少の一途をたどっている。一方、ダムの流量予測はダム運用の基盤であり、その予測精度の向上と自動化が切望されている。
前述した如く、予測精度向上の1つの方法として、流入量に応じて複数の予測モデルから適切なモデルを選択して予測する方法は、基本的には現在の流入量に応じて予測モデルを選択し、1〜数時間先の流入量を予測するものである。そのため、集中豪雨等に起因する河川状況の変化によって現在の流入量が急変したときには、誤った予測モデルを選択することがあった。
【0006】
図8にその具体例を示す。図示するように予測時に流入量が少ないと、流入量が少ない時点で特化した予測モデルを用いて予測するので、予測対象時に流入量が急増した時には流入量を少なく予測する可能性がある。なお、図示例では、予測時から60分または120分後の流入量を予測すると仮定している。
【0007】
そこで、請求項1に記載した発明の解決課題は、ダムへの流入量及び流入量変化(または流出量及び流出量変化)の多少のような河川状況に応じ、複数の予測モデルを使用して予測を行い、その予測結果をファジー融合して最終的な予測値を得るようにした、ダムにおける水量予測方法を提供することにある。
【0008】
一方、ダム流入量予測に用いるファジーメンバシップ関数のパラメータ調整の自動化に関し、雨量と流入量との相関係数に基づいてメンバシップ関数を同定する方法が、例えば特願平9−65630号により提案されている。この方法は、河川状況の変化が小さい場合(静的な場合)には適切な方法であるが、河川状況が急変する場合(動的な場合)は良好な調整をすることができない。
そこで請求項2に記載した発明の解決課題は、ファジーメンバシップ関数のパラメータを自動的に決定するようにした、ダムにおける水量予測方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
1.請求項1記載の発明について
河川状況に応じて、複数の予測モデルの切り替えやファジー融合を行うことにより、一般に良好な予測結果を期待することができる。しかし、河川状況が急変して流入量が急増するような場合には、静的な状況判断のみでは良好な予測結果が得られない。
そこで請求項1の発明は、動的な河川状況を考慮したファジー規則を構築し、複数の予測モデルによる予測値をファジー融合することにより、河川状況が急変した場合でも良好な予測値が得られるようにした。 すなわち、この発明は、計算機により過去の実績値を用いて構築した予測モデルに対し、上流ダム放流量、自ダムの流量、雨量等を入力して将来の予測対象時刻における自ダムの流量を予測する水量予測方法であって、流量、雨量等の条件ごとに特化した予測モデルを複数用意し、各予測モデルによる予測値をファジー推論により融合して予測値を得る水量予測方法において、自ダムの流量の多少、流量変化分の多少を考慮したメンバシップ関数と、自ダムの流量の多少、流量変化分の多少に応じて使用する予測モデルを定めた規則とを用いてファジー推論を行い、その結果を融合するものである。
【0010】
以下に、河川状況変化を考慮したファジー規則の一例を示す。ダムへの流入量変化を規則に持つことで、河川状況のきめ細かな判断を実現している。なお、この例では、予測モデルとして「流入量少」用、「流入量多」用の2つを使用するものとする。
・河川状況変化を判断する規則の一例
規則1:流入量が少なく、流入量変化が少ないときには、「流入量少」用予測モデルを使用する。
規則2:流入量が少なく、流入量変化が多いときには、「流入量多」用予測モデルを使用する。
規則3:流入量が多いときには、「流入量多」用予測モデルを使用する。
【0011】
本発明の処理フローを、図1に示す。
(1)各予測モデルによる予測(S11)
後述する図4のメンバシップ関数の流入量、流入量変化分の適合度に従い、既に学習して構築した複数の予測モデルを使用して、流入量の多少など河川状況に応じた予測値を求める。図4のメンバシップ関数から明らかなように、流入量や流入量変化分のパラメータ(境界値を含む概念である)に対する大小関係により、「少ない」、「多い」、「少なくもあり多くもある」場合が考えられるが、「少ない」場合には「多い」についての適合度をゼロ、「多い」場合には「少ない」についての適合度をゼロとして、下記のファジー融合を行う。それ以外の「少なくもあり多くもある」場合には、「少ない」場合、「多い」場合の双方につき流入量及び流入量変化分の適合度に応じて下記のファジー融合を行えばよい。
予測モデルの構築方法は、ニューラルネットワーク、回帰式、タンクモデルなど種々考えられるが、これらは本発明の要旨ではないため、説明を省略する。
【0012】
(2)ファジー融合(S12)
流入量及び流入量変化分の条件により、ファジー融合を行う。融合方法は種々考えられるが、ここでは簡単に、一例として以下の数式1を用いる。各条件を求めるファジーメンバシップ関数は熟練者による作成または機械的な自動作成など様々な方法によって作成される。
以下の数式1において、yはファジー融合結果である流入量予測値、wfsは適合度(流入量が少ない)、wfbは適合度(流入量が多い)、wisは適合度(流入量変化(増加)が少ない)、wibは適合度(流入量変化(増加)が多い)、NNsは流入量予測値(流入量が少ない)、NNbは流入量予測値(流入量が多い)を示す。
【0013】
【数1】
y=(wfbNNb+wfswisNNs+wfswibNNb)/(wfb+wfswis+wfswib)
【0014】
2.請求項2記載の発明について
請求項1の発明において、河川状況変化を判断するためのメンバシップ関数は種々考えられるが、請求項2の発明では河川流量変化に着目し、過去の実績値に基づいて、現在から予測対象時刻までの流入量変化分の最大値・平均値等の統計的指標からメンバシップ関数(流入量変化分のメンバシップ関数)のパラメータを決定するものである。
【0015】
本発明の処理フローを図2に示す。
(1)予測対象時刻設定(S21)
何十分先の流入量を予測するのかを設定する。60分先の予測を行うときにはt=60となる。
【0016】
(2)境界値設定(S22)
予め構築した予測モデルの境界値を、表1のように設定する。例えば、流入量の多少に応じた予測モデルについては、後述するように雨量と流入量との相関係数に基づいて設定される上限値が例えば300〔ton/s〕、下限値が100〔ton/s〕となる。
【0017】
【表1】
【0018】
(3)メンバシップ関数決定(S23)
過去の実績データから、流入量とt分先の流入量変化とを統計処理し、流入量変化のメンバシップ関数のパラメータを決定する。通常は変化分の最大値より求めるが、変化分の平均値、信頼区間等を用いることもできる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず始めに、請求項2に記載した発明の実施形態を説明する。予測モデルは、流入量の多少に応じて2つのニューラルネットワークを構築し、2つの流入量予測値をファジー融合するものとした。
【0020】
本実施形態における予測モデルの概念図を、図3に示す。
N1は「流入量少」用予測モデルであり、入力に河川流域の雨量(流域平均雨量)を使用していないニューラルネットワークモデル、N2は「流入量多」用予測モデルであり、入力に流域平均雨量を使用しているニューラルネットワークモデルである。
【0021】
予測モデルN1は、複数の入力層、中間層、及び単一の出力層から構成され、入力層には、上流ダム1,2の放流量及び自ダムの流入量(実績値)について、現在時刻の絶対量、一定時間間隔をおいた過去の水量が入力されている。出力層からは、予測対象時刻における自ダムの流入量が出力される。
他方の予測モデルN2も、複数の入力層、中間層、及び単一の出力層から構成されているが、入力層には、予測モデルN1と同様のデータの他に、現在時刻から一定時間間隔をおいた過去の流域平均雨量が入力されている。出力層からは、予測対象時刻における自ダムの流入量が出力される。
これらの予測モデルN1,N2は、実際の予測に先立って一定期間の入力データ及び出力データを用いて予め学習することにより構築されたものである。
【0022】
予測モデルN1,N2による予測値のファジー融合に使用される規則は、前述の規則1,規則2,規則3である。
また、これらの規則に対応する流入量及び流入量変化分のメンバシップ関数を図4に示す。
【0023】
各メンバシップ関数のパラメータの自動構築方法を説明すると、まず、流入量を判断するメンバシップ関数のパラメータ(境界値)は、5時間前及び6時間前の雨量と流入量との相関係数に基づいて求めた。ここで、図5は雨量に応じた流入量と相関係数との関係を示すものであり、相関係数はほぼ300〔ton/s〕から減少し始め、100〔ton/s〕で最小になる。よってメンバシップ関数のパラメータは100〔ton/s〕,300〔ton/s〕となる。
つまり、流入量が100〔ton/s〕以下は流入量が完全に少ない範囲、300〔ton/s〕以上は流入量が完全に多い範囲、100〜300〔ton/s〕の範囲は流入量が少なくもあり多くもあって曖昧な範囲であると見なす。
【0024】
流入量変化を判断するメンバシップ関数は、図6に示すように、予測対象時(60分先または120分先)の流入量と、現在時刻の流入量と予測対象時刻の流入量との変化分(差分)との関係に基づき、統計処理により求めた。
この実施形態では、表2に示す如く、流入量の境界区分の最大値をメンバシップ関数のパラメータにした。つまり、前述の規則2、規則3のように流入量が少ない場合を流入量変化で2つに場合分けしたいので、0〜300[t/s]の範囲の変化分だけを計算対象としている。
【0025】
【表2】
【0026】
この結果、流入量変化に関するメンバシップ関数のパラメータは図7に示すように自動構築される。
【0027】
次に、前後するが、請求項1に記載した発明の実施形態を説明する。
この実施形態では、前述の方法により自動構築したメンバシップ関数を用いて予測を行い、その結果を融合する。
予測に用いるデータは、表3に示すように3種類のデータadata,bdata,cdataである。2種類のデータ(例えばadata,bdata)を予測を行うニューラルネットワークの学習に使用し、残りの1種類のデータ(cdata)を予測用に使用した。
【0028】
【表3】
【0029】
表4に河川状況変化を未考慮とした場合の予測結果と、本発明によりこれを考慮した場合の予測結果とを比較して示す。
ここで、河川状況変化を未考慮とは流入量変化を考慮しない処理であり、その場合の規則は次のとおりである。
規則1’:流入量が少ないときには、「流入量少」用予測モデルを使用する。
規則3’:流入量が多いときには、「流入量多」用予測モデルを使用する。
なお、本発明による予測では前述の規則1,規則2,規則3を用いた。
また、表5は120分先を予測した場合の流入量誤差を、河川状況変化未考慮の場合とこれを考慮した場合(本発明)とについて比較したものである。
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
これらの表4、表5から明らかなように、本発明によれば、河川状況変化の激しい(流量の多い)範囲について、予測結果が大幅に向上している。
【0033】
なお、上記実施形態では、ダムへの流入量、流入量変化分を考慮した規則及びメンバシップ関数を用いて流入量を予測し、これをファジー融合する例を説明したが、本発明は、ダムからの流出量、流出量変化分を考慮した規則とメンバシップ関数とを用いて流出量を予測する場合にも適用可能である。
【0034】
【発明の効果】
以上のように、請求項1の発明は、河川状況変化を考慮した予測をファジー推論により実現するものである。通常の予測方法では、河川流量等に応じ複数の予測モデルを切り替えて予測しているが、この方法では、基本的に静的な河川状況しか考慮されないので、最も予測精度が要求される河川流量急増時に予測精度が低下することがある。これに対し、本発明によれば、河川状況の急変時にも高制度で予測することが可能である。
【0035】
また、請求項2の発明は、河川状況変化に対応したメンバシップ関数のパラメータを自動的に決定することを要旨としている。現在でも、メンバシップ関数の調整はそのほとんどが手作業によるものであり、調整に時間がかかり、またファジーの能力を最大限に引き出せないことがある。ファジーメンバシップ関数のパラメータの自動決定方法はいくつか提案されているが、全ての状況において汎用性を持つ方法は今のところ提供されていない。
ダム流入量予測の分野では、雨量と流入量との関係に基づいて静的な河川状況変化を判断するメンバシップ関数のパラメータ決定方法が知られているが、この方法では、動的な河川状況変化を判断することはできない。
その点、本発明によれば、河川状況変化を判断するメンバシップ関数のパラメータを短時間に、最良の状態で決定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1に記載した発明の処理手順を示すフローチャートである。
【図2】請求項2に記載した発明の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態において使用される予測モデルの概念図である。
【図4】河川状況の変化を考慮したメンバシップ関数の説明図である。
【図5】雨量に応じた流入量と相関係数との関係を示す図である。
【図6】予測対象時刻に応じた流入量と差分(流入量変化分)との関係を示す図である。
【図7】予測対象時刻に応じたメンバシップ関数の説明図である。
【図8】従来技術の問題点を説明するための時間と流入量との関係を示す図である。
【符号の説明】
N1 「流入量少」用予測モデル
N2 「流入量多」用予測モデル
Claims (2)
- 計算機により過去の実績値を用いて構築した予測モデルに対し、上流ダム放流量、自ダムの流量、雨量等を入力して将来の予測対象時刻における自ダムの流量を予測する水量予測方法であって、流量、雨量等の条件ごとに特化した予測モデルを複数用意し、各予測モデルによる予測値をファジー推論により融合して予測値を得る水量予測方法において、
自ダムの流量の多少、流量変化分の多少を考慮したメンバシップ関数と、自ダムの流量の多少、流量変化分の多少に応じて使用する予測モデルを定めた規則とを用いてファジー推論を行い、その結果を融合することを特徴とする、ダムにおける水量予測方法。 - 請求項1記載のダムにおける水量予測方法において、
メンバシップ関数のパラメータを、過去の実績値に基づいて現在から予測対象時まで求めた流量変化分の最大値・平均値等の統計的指標から決定することを特徴とする、ダムにおける水量予測方法。
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