JP3569762B2 - 分光測定方法及び分光測定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、分光測定方法及び分光測定装置に関し、特に分光光源として波長可変レーザを用いる分光測定方法及び分光測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
高感度な試料分析法として、試料に赤外領域、可視領域あるいは紫外領域の光を照射して試料による光吸収、あるいは試料からの反射光、レーリー散乱光、ラマン散乱光、蛍光等を測定する分光測定法が広く用いられている。この分光測定法によると、試料の同定、確認等の定性分析、試料中に含有されている特性成分の濃度や混合物の成分比測定等の定量分析、分子の電子状態や立体構造の解析等を行うことができ、また試料による吸収スペクトル等を時間分解して測定することによって反応過程や反応中間体の分子構造解析等を行うことができる。
【0003】
分光測定では、試料に特定の選択された波長の単色光を照射すること、あるいは単色光の波長を連続的に掃引しながら光照射することが必要とされ、通常は白色光源とモノクロメータとを組み合わせて単色光を取り出す分光光度計が用いられる。モノクロメータの出口スリットから出射される単色光の波長掃引は、モノクロメータに組み込まれた波長分散素子、例えば回折格子を回動することで行われる。
【0004】
一部の分光測定には、光源として波長可変レーザが使用されている。波長可変レーザとしては、レーザ媒質としてTi:Al2O3(チタンサファイア)などの結晶を用いる固体レーザと、レーザ媒質として色素溶液などを用いる液体レーザが知られている。こうした波長可変レーザを所望の波長でレーザ発振させるための波長選択法としては、例えばレーザ媒質を収容したレーザ共振器内に回折格子や複屈折板などを配設し、それを機械的に回転することにより特定の波長のみがレーザ共振器内で共振できるようにして、所望の波長のレーザ光を取り出す波長選択法が採用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
生体組織中の酸素濃度等を非侵襲で定量する手法として、近赤外分光法が注目されている。しかし、通常の白色光源と分光器を用いた測定では、生体組織の散乱によって分厚い試料の測定はできなかった。一方、LED等の固体光源を用いた場合、連続的なスペクトルを測定することは不可能で、定量できる対象とその精度に問題があった。
また、一般に、試料中の目的成分の吸収スペクトルを測定して定性分析あるいは定量分析を行おうとするとき、試料中に目的成分の吸収スペクトルと重なる波長位置に大きな吸収を有する妨害成分が存在する場合には、その妨害成分の吸収によって目的成分の吸収が隠れてしまい、高精度な測定を行うことはできない。
【0006】
図15は、この従来のスペクトル測定の問題点を説明する模式図である。ここでは、通常の白色光源と分光器を用いた測定を例にとって説明する。図15(a)は光源のスペクトルを表し、横軸は波長、縦軸はエネルギーである。図15(b)は、試料中の妨害成分の吸収スペクトルを表す。図15(c)は、測定成分の吸収がこの妨害成分の吸収スペクトルと重なっているとき、測定された吸光度を示す。検出器のダイナミックレンジが小さい場合は、S/Nの良いスペクトルが得られない。通常の分光法では、検出器からの出力を電気的に増幅することによって、検出器の感度不足を補う場合がある。しかし、この方法では、測定の妨げとなるノイズも信号と同時に増幅されてしまう。
【0007】
吸収スペクトルの測定以外にも、例えば通常のラマン分光においては、固定した発振波長をもつ複数のレーザの組み合わせ、又は狭い範囲(<20nm)で発振波長選択能があるレーザの組み合わせによって、広い波長範囲におけるラマンスペクトルの励起波長依存性が測定されてきた。しかし、一般に同じレーザであっても、発振波長を変えると発振強度も変わってしまうので、励起波長依存性の測定では、レーザ発振強度を常にモニターし、測定後に各励起波長毎にラマンスペクトル強度を校正する必要があった。また、複数のレーザを組み合わせて用いる場合、異なるレーザの光軸を合わせることは非常に困難であり、レーザ発振強度をモニターしていても、ラマンスペクトル強度の校正には大きな誤差がつきまとった。ラマンスペクトルの波長依存性を測定する場合、特に、固定発振波長のレーザを光源に用いると、希望波長毎にスペクトルを測定することは不可能で、測定されたスペクトルの解釈は難しかった。したがって、従来のレーザを用いて自動的にラマンスペクトルの励起波長依存性(ラマン励起プロファイル)を測定することは不可能であった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、妨害成分が含まれている試料に対しても高精度なスペクトル測定を可能とし、またラマン励起プロファイルの測定を容易に行うことのできる分光測定法及び分光測定装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
図1は本発明による分光測定方法の一例の原理を説明する模式図であり、試料中の妨害成分の吸収スペクトルと重なる位置に吸収を有する分析物を高精度でスペクトル測定する方法を示している。図1(b)は、妨害成分の吸収スペクトルを表す。本発明では、光源の発光スペクトルを、図1(a)に示すように、妨害成分による吸収のある波長で光出力を高め、吸収のない波長域では光出力を弱めるように制御して、妨害成分による吸収スペクトルを相殺するような発光スペクトルとする。このとき検出されるスペクトルは、図1(c)に示すように、妨害成分の影響が現れないフラットなスペクトルとなる。したがって、検出器のダイナミックレンジ内で妨害成分に影響されることなく目的成分の吸収スペクトルを測定できるようになる。
【0010】
本発明は、検出器の感度の不足を光源出力の増加によって補うものであるため、ノイズが増幅されることはない。また、検出器からの出力を電気的に増幅する手法と本発明の光源出力を増加する手法とを組み合わせることによって、吸光度が非常に強い(光透過率が非常に低い)バンド強度を定量することができる。通常の分光計を用いると、吸光度が3.0、透過率での0.1%のバンド強度を定量することが限界であった。本発明によると、スペクトル内に吸光度が0(透過率が100%)の部分と非常に吸収が強いバンドが共存する場合であっても、全体のスペクトル測定が可能となる。
【0011】
図1により、試料中の妨害成分による吸収の影響を、光源の発光スペクトル制御によって補償する方法を説明した。しかし、本発明によると、妨害成分による吸収の影響のみでなく、試料中での光散乱などによる減光を含めた、目的成分の吸収以外の原因に基づく試料中での全ての光減衰を光源の発光スペクトル制御によって補償して分光測定を行うことができる。更に、検出器の感度にスペクトル依存性がある場合においても、本発明によると、検出器の感度特性を含めた測定系全体の感度変動(波長に依存する感度変動)を光源の発光スペクトル制御によって補償することが可能である。
【0012】
また、本発明による光源スペクトルの制御方法は、試料中に目的成分が含有されていないとき、試料による吸収スペクトルがフラットになるような制御方法だけに限られない。一般に、試料透過光が大きな減衰を示す波長領域では発光強度が比較的大きくなるように光源を制御し、試料透過光があまり大きな減衰を示さない波長領域では発光強度が比較的小さくなるように光源を制御することにより、測定系のダイナミックレンジを広げることができる。
【0013】
また、ラマン励起プロファイルの測定において、共鳴効果が強い励起波長でラマン散乱光の強度が検出器の検出限界を超えてしまう場合がある。これを避けるために、本発明では、試料の吸収スペクトルで吸光度が大きく、強い共鳴効果が予想される波長領域において、レーザ光出力を低下させたり、波長掃引速度を速める制御を行って検出器がサチレーションしないようにする。
【0014】
試料の吸収スペクトルやラマン散乱スペクトルの測定において、波長に応じて光強度が異なる光源を用いることで、測定されたスペクトルの形は光源の発光スペクトルの影響を受けたものとなる。しかし、必要な場合には、測定されたスペクトルからオリジナルなスペクトルを再構成することが可能である。
【0015】
図1に示したような光源の制御は、白色光源を用いる分光測定装置では、光源の強度を1ms以下の時間で素早く繰り返し精度良く変化させることができないため不可能である。また、色素レーザ等の従来の波長可変レーザを光源とする分光測定装置でも、波長可変領域が50nm以下と極端に狭く、光源の強度を素早く、繰り返し精度良く変化させることができないため不可能である。本発明では、本発明者らが先に開発した、電気的にレーザ発振波長を制御して高速な波長掃引を可能とした電子制御波長可変レーザ〔以下、ETT(Electronically Tuned Tunable)レーザという〕(特開平8−13938号公報、特開平9−172215号公報参照)を分光光源として利用することによって、このような光源制御を行う分光測定方法を可能とする。
【0016】
ETTレーザは、レーザ共振器内に所定の波長領域でレーザ発振可能なレーザ媒質と複屈折性音響光学素子とを配置し、複屈折性音響光学素子により所定の角度に回折された光線成分に対してのみレーザ共振器を構成し、複屈折性音響光学素子中に励起する音響波の周波数を選択することにより波長選択を行う波長可変レーザであり、例えばチタンサファイアをレーザ媒質とした場合、700〜1000nmの広い近赤外波長範囲で単色光を取り出すことができ、前記波長範囲を1秒以内の時間で波長掃引可能である。共振器中にSHG結晶を配置すると、350〜500nmの2倍波を取り出すことができる。また、複屈折性音響光学素子を用いて電気的に波長選択を行うため、波長切換を瞬時に行うことができ、例えば任意の2波長の切換えを1ms以下の時間で安定に行うことができ、1kHzの高繰り返しパルスレーザを発生することができる。光出力も電気的に高精度に制御することが可能である。
【0017】
さらに、ETTレーザの波長掃引にあたって、他の波長領域に比較して出力強度の安定性が劣る、レーザ発振領域の両端の波長領域や、検出器の検出感度が低下する波長領域では掃引速度を遅くし、出力強度が安定であるレーザ発振領域の中心や検出器の検出感度が高い波長領域では波長掃引速度を速くして、波長領域に応じて波長掃引速度を変えるようにしてもよい。この場合には、全体としてのスペクトル測定時間を短縮できるとともに、一定の速度で波長掃引をした場合に比較的にノイズが多くなる波長領域では波長掃引速度を遅くして検出パルス数を増やし、積算回数を増やすことでS/N比を改善することができる。
【0018】
すなわち、本発明は、波長可変レーザを波長掃引して得られるレーザ光を試料に照射して試料のスペクトル測定を行う分光測定方法において、検出器の分光感度特性を補償するように波長可変レーザの発振光出力を制御することを特徴とする。
【0019】
波長可変レーザとしては、レーザ共振器内に所定の波長領域でレーザ発振可能なレーザ媒質と複屈折性音響光学素子とを配置し、複屈折性音響光学素子により回折される光線成分の所定の光軸上にレーザ共振器を構成し、複屈折性音響光学素子中に励起する音響波の周波数を選択することにより波長選択を行う波長可変レーザを用いるのが特に好適である。
【0020】
例えば、800nmを中心として700〜1000nmに感度を持つ検出器があるとする。通常の白色光源を用いて通常の分光測定をする場合、感度が高い800nm付近のS/Nは高いが、感度が低い700nm付近と1000nm付近のS/Nは800nmに比較して悪くなる。一方、700nmや1000nm付近のS/Nを上げるために白色光源の出力を上げたとき、700nmと1000nm付近でのS/Nは上昇するが、最初から感度が高い800nm付近では検出器がサチレーションを起こしてS/Nが低下するか、検出器が壊れてしまう可能性がある。本発明のようにETTレーザを光源として用いる場合、検出器の感度が低い波長領域(この例では、700nm付近と1000nm付近)ではETTレーザの出力を上げて検出器の感度を補い、感度の高い波長領域(この例では、800nm付近)ではETTレーザの出力を下げることによって検出器のサチレーションや破壊を防止することができる。
【0021】
本発明は、また、波長可変レーザを波長掃引して得られるレーザ光を試料に照射して試料のスペクトル測定を行う分光測定方法において、目的成分の吸収以外の原因による試料中でのレーザ光の減衰及び検出器の分光感度特性を補償するように波長可変レーザの発振光出力を制御することを特徴とする。
【0022】
波長可変レーザの発振光出力は、目的成分を含まない試料である参照試料のスペクトルが既知である場合には、波長可変レーザ中の複屈折性光音響光学素子に入力するRF強度とレーザ発振光出力の関係を各レーザ発振波長で調べ、参照試料の吸収を打ち消すようなRF強度を計算によって求めることで行うことができる。また、参照試料が存在する場合には、参照試料に対してレーザ光を照射して、参照試料を透過(散乱又は反射でもよい)した光を検出する検出器からの信号強度をモニターしながら(参照試料の参照スペクトル測定)、ほぼフラットなスペクトルなど、ユーザの好みのスペクトルを構成するようなレーザ出力が得られるRF強度を各レーザ発振波長で記録する。この記録されたRF強度とレーザ発振波長の関係に従って前記の波長可変レーザを制御することによって、次の回からユーザの好みのスペクトルを与えるようなレーザ出力が得られる。
【0023】
本発明は、また、波長可変レーザを波長掃引して得られるレーザ光を試料に照射して試料の吸収スペクトル測定を行う分光測定方法において、試料による吸収の大きな波長領域ではレーザ光出力が大きくなるように波長可変レーザの発振光出力を制御することを特徴とする。波長領域に応じて波長掃引速度を異ならせることもできる。
【0024】
本発明の分光測定方法は、透過法、反射法、拡散反射法などの手法を用いて測定する、試料のあらゆる吸収スペクトル測定に適用することができる。
本発明は、また、波長可変レーザを波長掃引して得られるレーザ光を試料に照射し、試料からの散乱光を分光して試料のラマン散乱スペクトル測定を行う分光測定方法において、目的成分の吸収によるラマン散乱光の増加を補償するように波長可変レーザの発振光出力を制御することを特徴とする。
【0025】
本発明は、また、波長可変レーザを波長掃引して得られるレーザ光を試料に照射し、試料からの散乱光を分光して試料のラマン散乱スペクトル測定を行う分光測定方法において、目的成分の吸収が少ない波長範囲では、ラマン散乱光の減少によるS/Nの低下を防止するために、波長掃引速度を遅くすることを特徴とする。
予め設定した波長毎に波長可変レーザを発振させ、このレーザ光を励起光としてラマン散乱スペクトルを順次測定することでラマン励起プロファイルの測定が容易になる。
【0026】
本発明は、また、レーザ共振器内に所定の波長領域でレーザ発振可能なレーザ媒質と複屈折性音響光学素子とを配置し、複屈折性音響光学素子により回折される光線成分の所定の光軸上にレーザ共振器を構成し、複屈折性音響光学素子中に励起する音響波の周波数を選択することにより波長選択を行う波長可変レーザと、複屈折性音響光学素子に励起する音響波の周波数及び強度を制御するレーザ制御装置と、光検出器とを備え、波長可変レーザを波長掃引して得られるレーザ光を試料に照射して試料のスペクトル測定を行う分光測定装置において、レーザ制御装置は、光検出器の分光感度特性を補償するように波長可変レーザの発振強度を制御することを特徴とする。
【0027】
本発明は、また、レーザ共振器内に所定の波長領域でレーザ発振可能なレーザ媒質と複屈折性音響光学素子とを配置し、前記複屈折性音響光学素子により回折される光線成分の所定の光軸上にレーザ共振器を構成し、前記複屈折性音響光学素子中に励起する音響波の周波数を選択することにより波長選択を行う波長可変レーザと、前記複屈折性音響光学素子に励起する音響波の周波数及び強度を制御するレーザ制御装置と、光検出器とを備え、前記波長可変レーザを波長掃引して得られるレーザ光を試料に照射して試料のスペクトル測定を行う分光測定装置において、レーザ制御装置は、目的成分の吸収以外の原因による試料中でのレーザ光の減衰及び光検出器の分光感度特性を補償するように波長可変レーザの発振強度を制御することを特徴とする。
【0028】
分光測定装置は、試料の吸収スペクトルを測定するものとすることができる。また、本発明は、レーザ共振器内に所定の波長領域でレーザ発振可能なレーザ媒質と複屈折性音響光学素子とを配置し、複屈折性音響光学素子により回折される光線成分の所定の光軸上にレーザ共振器を構成し、複屈折性音響光学素子中に励起する音響波の周波数を選択することにより波長選択を行う波長可変レーザと、複屈折性音響光学素子に励起する音響波の周波数及び強度を制御するレーザ制御装置と、分光器と、光検出器とを備え、波長可変レーザを波長掃引して得られるレーザ光を試料に照射して試料のラマン散乱スペクトル測定を行う分光測定装置において、レーザ制御装置は、目的成分の吸収によるラマン散乱光の増加を補償するように波長可変レーザの発振光出力を制御することを特徴とする。
【0029】
【発明の実施の形態】
最初に、ETTレーザについて簡単に説明する。複屈折性を示す音響光学結晶中に音響波を励起すると、その結晶に入射された光の中で音響波の周波数に応じた特定の波長の回折光は、音響波、入射光、回折光の間の位相整合条件を満たす方向に強く回折される。図2は、この回折の様子を示す概念図である。
いま、TeO2結晶などの複屈折性を示す音響光学結晶に圧電素子22を取り付けた複屈折性音響光学素子100中に、角周波数ωiの入射光102を入射するものとする。さらに、圧電素子22により複屈折性音響光学素子100中に角周波数ωaの音響波104を励起すると、入射光102と音響波104との相互作用により、次の〔数1〕で表される角周波数ωoに周波数シフトした回折光106が得られる。なお、入射光102は異常光線、回折光106は常光線であり、回折光106の偏光面は入射光102の偏光面と直交している。108は非回折光である。
【0030】
【数1】
ωo=ωi+ωa
ただし、ωa≪ωi,ωoであり、ωi≒ωoとみなして差し支えない。このとき入射光102の波数ベクトルをki、音響波104の波数ベクトルをka、回折光106の波数ベクトルをkoとするとき、位相整合条件より次の〔数2〕で表されるベクトル式が成立する。
【0031】
【数2】
ko=ki+ka
図3は、複屈折性音響光学素子100中を伝播する常光線のkベクトルと、異常光線のkベクトルの関係を表示したものである。常光線に対するkベクトルの大きさは進行方向によらず一定であり、kベクトルの終点の軌跡は円になる。一方、異常光線に対するkベクトルの大きさは複屈折性音響光学素子100の結晶軸に対する伝播角度によって変化し、kベクトルの終点の軌跡は楕円形になる。このkベクトルの軌跡によって形成される円又は楕円は、波長を変えるとほぼ相似的に拡大又は縮小変化する。図3(a)は、波長λ1において〔数2〕の位相整合条件が成立している状態を示している。図中、Vaは結晶中を伝わる音響波104の速度であり、音響波104の波数ベクトルka1の大きさは|ωa/Va|である。
【0032】
ここで、複屈折性音響光学素子100中に励起する音響波104の周波数ωa、従って波数ベクトルkaの大きさを変えると、波長λ1では〔数2〕の位相整合条件が成立しなくなる。このとき位相整合条件が成立するのは、図3(b)に示すように、波長λ2になる。このように、位相整合条件を満たす光の波長λと音響波の角周波数ωaとは一対一で対応している。
【0033】
前述のように、kベクトルの軌跡の終点を結んだ円又は楕円の大きさは波長によって変化するが、その形はほとんど変化しない。従って、波長がλ1からλ2に変化して、これにより入射光102と回折光106のベクトルki,koの大きさが変わっても相似形となるため、ベクトル(ko1−ki1)とベクトル(ko2−ki2)の向きは平行となる。この結果、ka1=ko1−ki1,ka2=ko2−ki2のベクトルをもつ音響波を音響周波数を変えるだけで入力できる。
【0034】
複屈折性音響光学素子100から出射した波数ベクトルkoの光を、反射ミラー110で反射させて、複屈折性音響光学素子100中に逆方向から入射させると、図3(c)に示すように、戻ってきた光はまた音響波により回折され、再び入射光kiと逆向きに進む−kiとなって入射光の光路を逆に辿る。
【0035】
従って、レーザ媒質14及び複屈折性音響光学素子100を挟んで、図2に示すように、全反射ミラー110と所定の透過率を有する出射側ミラー112を配置すると、全反射ミラー110と出射側ミラー112により両者の間を特定の波長成分のみをもつ光のみが往復するレーザ共振器が構成される。回折光106の波長λoは、複屈折性音響光学素子100中に発生される音響波104の周波数ωaを変えるとkaが変わり、kiが選択される結果、波長λi=2π/|ki|が決まる。従って、複屈折性音響光学素子100に取り付けられた圧電素子22をRF電源20からの所定周波数のRF信号で駆動することにより、レーザ発振波長λiの制御が可能となる。また、回折光106の回折効率は複屈折性音響光学素子100中に励起された音響波の強度によって決定されるので、RF電源20から出力されるRF信号の振幅を制御することにより回折光106の強度、従ってレーザ出力を可変制御することができる。
【0036】
上では、kベクトルの軌跡の終点を結んだ円又は楕円の形は波長によってほとんど変化しないと述べたが、実際には僅かに変化する。そのため、回折角も波長によって僅かに変化して、全反射ミラー110と部分透過ミラー112によって構成される共振器の条件が変化し、出射レーザ光の方向が僅かに変化する。この回折角の波長依存性は、複屈折性音響光学素子100と全反射ミラー110の間にプリズム等の波長分散補正素子を配置することで補償することができ、全ての波長で出射レーザ光の方向を一定にすることができる。レーザ媒質としては、Ti:Al2O3、LiSAF、LiCAF等のレーザ結晶、色素溶液など既知のいずれの波長可変レーザ媒質も用いることができる。
【0037】
このETTレーザは、励起レーザ源として連続発振レーザ(CWレーザ)を用いることにより連続発振レーザとすることも、励起レーザ源としてパルスレーザを用いることによりパルス発振レーザとすることもできる。例えばレーザ媒質としてTi:Al2O3を用いた場合には、Nd:YAGレーザ、Nd:YLFレーザ、Nd:YVO4レーザなどのNd固体レーザの第2高調波及びアルゴンイオンレーザを用いることができ、レーザ媒質としてLiSAFレーザ結晶、LiCAFレーザ結晶などを用いた場合には半導体レーザやクリプトンイオンレーザを用いることができる。
【0038】
レーザ媒質内の、励起レーザによる励起体積とレーザ共振器内の光モード体積とを整合させるようにして効率を高め、励起入力を低くすることにより、出力の高くとれない高繰り返しパルス励起レーザや連続発振レーザも励起レーザに利用できる。例えば、レーザ共振器をZホールド型のレーザ共振器やXホールド型のレーザ共振器とし、レーザ共振器内の光路に沿って励起レーザ光を導入することで、励起光を効率よく利用して低エネルギーの励起光でレーザ発振を生じさせることができる。
【0039】
図4は、複屈折性音響光学素子を用いたETTレーザの一例を示す概略図である。この例では、レーザ共振器内を往復する光の光路がアルファベットのZ字形状になる、いわゆるZホールド型のレーザ共振器を用いている。Zホールド型のレーザ共振器は所定の透過率を有する出射側ミラー112と全反射ミラー110を備える。さらに、励起レーザ光Aを入射させるとともに出射側ミラー112と全反射ミラー110との間を往復する光Bを反射する第1中間ミラー37と、出射側ミラー112と全反射ミラー110との間を往復する光Bを反射する第2中間ミラー38を備えており、レーザ共振器内を往復する光Bの光路はアルファベットのZ字形状とされる。
【0040】
レーザ共振器の光路上の第1中間ミラー37と第2中間ミラー38の間には、波長可変レーザ媒質として入射光の入射端面がブルースターカットされたレーザ媒質14が、その入射端面が入射光の反射がゼロとなるブルースター角となるようにして配置されており、励起レーザ光Aにより縦方向同軸励起によりレーザ発振が生じるように構成されている。レーザ共振器の光路上の第2中間ミラー38と全反射ミラー110の間には、波長選択手段として複屈折性音響光学素子100が配置されている。
【0041】
複屈折性音響光学素子100には、音響波入力手段として、制御用コンピュータ26により周波数を制御されたRF電源20で駆動される圧電素子22が取り付けられている。このRF電源20と制御用コンピュータ26とはレーザ制御装置150を構成し、制御用コンピュータ26の制御により任意の周波数に設定されたRF電源20により圧電素子22を駆動してその周波数に応じた音響波を複屈折性音響光学素子100に励起することにより、複屈折性音響光学素子100は前記〔数1〕で表される周波数ωoの光Dを回折する。圧電素子22は、出射側ミラー112から出射させたい出射レーザ光Cの波長の光B(周波数ωi≒ωo)に対応する光のみを、複屈折性音響光学素子100が所定の方向に回折した回折光Dとして出射し、レーザ共振できるように、制御用コンピュータ26により複屈折性音響光学素子100へ入力する音響波の周波数ωaを制御する。
【0042】
複屈折性音響光学素子100と全反射ミラー110の間には、回折光Dの分散を補正するための波長分散補正素子としてのプリズム28が配設されている。この回折角の波長分散補正用プリズム28を用いることにより、出射レーザ光Cの方向を一定にすることができる。レーザ共振器内へ励起レーザ光Aを入射するための励起レーザ32としては、パルスレーザ又は連続発振レーザ(CWレーザ)を用いることができる。励起レーザ32によって発生された励起レーザ光Aは、全反射ミラー34により全反射集光ミラー36に反射され、全反射集光ミラー36により集光されて第1中間ミラー37を介してレーザ媒質14を縦方向同軸励起するように入射される。
【0043】
出射レーザ光Cを得るには、励起レーザ32により入射された励起レーザ光Aを用いてレーザ媒質14を励起する。また、出射側ミラー112から出射させたい出射レーザ光Cの波長(周波数ωi)に応じて、RF電源20の周波数ωaを制御用コンピュータ26により制御し、圧電素子22を駆動する。このようにすると、レーザ媒質14から出射して複屈折性音響光学素子100に入射された広範囲の波長帯域の光の中で、RF電源20の周波数に応じた波長の光は、複屈折性音響光学素子100で回折光D(周波数ωo)として回折される。この回折光Dは、回折角の波長分散補正用プリズム28を介して全反射ミラー110に垂直入射し、全反射ミラー110で反射されてZ字形状の光路を辿ってレーザ共振器内を往復する(レーザ媒質14の位置では角周波数ωi)。従って、RF電源20の周波数に応じた波長の光のみが増幅されてレーザ発振し、レーザ共振器から当該波長の出射レーザ光C(周波数ωi)を出射させる。このように、出射レーザ光Cの波長選択は、制御用コンピュータ26の制御によりRF電源20の周波数ωaを選択することで実現できるので、出射レーザ光C(周波数ωi)の高速かつランダムな波長選択が可能であり、結果として出射レーザ光の波長可変速度を高速化することができる。
【0044】
図5は、図4に示したETTレーザの入出力特性についての実験結果を示すものである。ここでは、レーザ媒質14としてTi:Al2O3結晶を用い、励起レーザ32としてCW−QスイッチパルスNd:YLFレーザを用い、その第2高調波を励起レーザ光Aとして用いた。励起レーザ光Aの波長は523nmであり、パルスの繰り返し周波数は1kHz、1パルス当たりの最大出力は200μJである。また、全反射集光ミラー36の直径は200mmとし、第1中間ミラー37及び第2中間ミラー38の半径は100mmとし、出射側ミラー112を反射率97%(透過率3%)とした。レーザ媒質14で励起領域と共振器モード径は数十μmまで絞られ、全反射集光ミラー36によりこの領域に励起レーザ光Aを集光することによって、励起効率の向上が図られる。図5は、出力レーザ光Cの波長を800nmに固定した際における、励起レーザ光A(入力)のエネルギーと出力レーザ光C(出力)のエネルギーとの入出力特性を示したものである。図5から明らかなように、励起レーザ光Aのエネルギーが1パルス当たり約40mJになったときにレーザ発振の閾値に達した。
【0045】
図6は、励起レーザ光Aのエネルギーが100μJのときの波長可変特性を示すものである。図6から明らかなように、波長可変域は約740nm〜約870nmである。回折角の波長分散補正用プリズム28を設けたことにより、レーザの波長同調時に観測されるビームの振れは、観測限界以下であった。
次に、前記したETTレーザを用いた本発明の分光測定方法について説明する。
【0046】
図7は、本発明による分光測定装置の一例を説明する概略図である。分光光源としては前記したETTレーザ40を用いる。ETTレーザ40は、パルスレーザ光を発生するものとすることもできるし、連続レーザ光を発生するものとすることもできる。ここでは、パルスレーザ光を発生する例によって説明する。ETTレーザ40から取り出された波長λの単色レーザ光41は、試料Sに入射し、試料Sを透過した光線は光電子増倍管43で検出される。
【0047】
ETTレーザ40の発振波長及び光出力は、RF電源20と制御用コンピュータ26からなるレーザ制御装置150によって制御される。ETTレーザ40の発振強度は、制御用コンピュータ26のメモリに蓄えられた情報(制御情報)に従って制御される。制御情報は、手動又はコンピュータプログラムにより自動的に作成される。例えば、発振波長に対する発振強度という形でテーブルが作成され、そのテーブルに従ってコンピュータメモリ上に制御のための数値(制御情報)が記憶される。
【0048】
信号処理回路160は、制御用コンピュータ26からの信号と光電子増倍管43からの検出信号を受け、両者を同期して処理する。例えば、入射したレーザパルスが検出されることによって時間幅200nsのパルス電流が光電子増倍管43から出力されるとする。レーザパルスの間隔を1msとすると、残りの999,800nsは光電子増倍管からノイズ成分だけが検出されていることになる。信号処理回路160では、制御用コンピュータ26からの信号をトリガーとし、ゲート型積分回路を用いて検出器から有意な信号が出力されている時間内の電流だけを積分する。積分された信号は電圧値としてアナログ・デジタル変換器に伝達され、表示装置170のメモリー内に蓄積される。測定された試料の吸収スペクトルは表示装置170に表示される。
【0049】
試料として、ヒトの掌(厚さ約3cm)を用い、その吸収スペクトルから生体中のヘモグロビンの酸素化度の変化を測定した。測定に先立ち、散乱、水による吸収、光電子増倍管43の感度特性を補償するようにETTレーザ40の光出力を調整した。ETTレーザ40の出力調整には、インターリピッドの水中分散液を参照用の散乱体として用いた。検出器からの電気信号を信号処理回路を通してモニターし、700nmから10nm毎にレーザを発振させて信号処理回路からの出力が常に一定値となるようにRF強度を各波長で設定した。10nm毎の間にあたる波長に対しては、補間によってRF強度を定義した。図8は、このようにして水の吸収と光電子増倍管43の感度特性を補償するように出力を調整したETTレーザ40の発振スペクトル(試料Sの位置に参照試料を置いたときの光電子増倍管43の検出信号を積分した信号強度)を示す。
【0050】
図9は、参照試料を透過した信号強度が図8に示すようにフラットになるように出力を調整したETTレーザを用いて測定した、安静時のヒトの掌の吸収スペクトル(実線)、80回腕立て伏せをした直後の掌の吸収スペクトル(長破線)、及びその差スペクトル(破線)の測定例である。ヘモグロビンは700〜1000nmの波長領域に弱い吸収を持っており、そのスペクトル変化はヘモグロビンの酸化度を敏感に反映していることが知られている。差スペクトルに観察される760nm及び940nmのバンドは、デオキシヘモグロビンに帰属でき、腕立て伏せ後に相対量が増加していることを示している。
【0051】
図10は、前記の散乱体参照試料によるETTレーザの出力調整を行わずに、検出器の感度特性のみを補償するように光出力特性を制御したETTレーザを光源として、ヒトの掌の吸収スペクトルを測定した例である。ETTレーザは、空気中を透過してきたETTレーザからのレーザ光を、ニュートラルデンシティフィルタで減光し、それを光電子増倍管で受けたとき、波長に対してフラットな検出出力が得られるようにRF電源を制御し、各波長に対するRF電源の制御パラメータをメモリに記録した。その後、ニュートラルデンシティフィルタを除き、前記メモリに記録された制御パラメータに従ってRF電源を制御して掌の吸収スペクトルを測定した。図10を図9と比較すると明らかなように、この場合には掌を流れる血液による光吸収は強い散乱に埋もれて観察することができなかった。
【0052】
測定スペクトルのS/Nを上げる方法として、検出信号の積算や低速な波長掃引が使われる。ETTレーザは発振波長領域の中心付近で出力安定性が高く、発振波長領域の端では出力安定性が低下する。ETTレーザの波長掃引速度は制御用コンピュータによって自由に制御することができるため、出力安定性が低い発振波長領域の両端では波長掃引速度を遅くすることによって、検出信号の積算と同様の効果を得ることができる。
【0053】
このような処理を行う場合、データ処理用のコンピュータ上でデータの積算回数を波長掃引の速度に応じて変化させる必要がある。例えば、990nm以上での波長掃引速度を1/2倍にする場合、990nm以上の各波長において、990nm未満の波長におけるデータ取り込み回数の2倍のデータ取り込み回数が得られる。これらのデータの平均を取ることによって、990nm以上での波長領域におけるデータのS/Nを21/2倍上げることができる。
【0054】
試料の吸収スペクトル測定において、波長に応じて光強度が異なる光源を用いることで、測定されたスペクトルの形は光源の発光スペクトルの形に影響されたものとなる。しかし、必要な場合には、測定されたスペクトルからオリジナルなスペクトルを再構成することが可能である。目的成分を除いた試料(参照試料)の破壊測定が可能な場合は、光路長を短く取ったキュベットセルで参照スペクトルを測定し、実物の試料の光路長との比較から、数学的に目的成分を含んだ試料のスペクトルを再構成することができる。
【0055】
すなわち、測定したスペクトルを全て吸光度で示す場合、測定したスペクトルをA、参照試料のスペクトルをBとすると、試料全体の持つスペクトルCは次の〔数3〕で再構成できる。ただし、A=−log(a’/a”)であり、a’は試料のエネルギースペクトル(波長対電圧)、a”は参照試料のエネルギースペクトルである。
【0056】
【数3】
C=A+B
参照試料の破壊測定が不可能な場合には、ETTレーザの制御に用いた各発振波長に対するRF強度から各発振波長に対するレーザの発振出力を求め、測定した目的成分のスペクトルに重ね合わせることによって試料全ての吸収スペクトルを再構成することができる。この時は、まず、各波長における検出器の感度特性を考慮しながら、検出器への光入力に対する電圧出力の特性曲線を作る。次に、複屈折性音響光学素子に入力したRF強度から再構成したレーザ発振強度を前述の特性曲線に当てはめ、検出器のダイナミックレンジが無限大であると仮定したときの検出器から出力される電圧出力曲線(仮想のエネルギースペクトル)dを求める。試料全体の持つスペクトルは、次の〔数4〕で求められる。
【0057】
【数4】
C=−log(a’/d)
また、本発明によると、ETTレーザの発振波長範囲において、分光器とレーザを一元的に制御したラマン分光測定システムを構築することができる。ETTレーザの発振波長領域は最高で680〜1050nmに及ぶ。SHG結晶を用いると、345〜500nmの発振波長領域もカバーできる。そして、ETTレーザの発振波長と発振強度は、全発振波長領域にわたって制御用コンピュータによって制御することが可能である。この発振波長領域においてETTレーザを発振させる場合、波長による光軸の変化は生じない。したがって、制御用コンピュータによって分光器とレーザを一元的に制御することが可能である。
【0058】
図11は、ラマン散乱スペクトルを測定できる本発明による分光測定装置の概略図である。この装置は、ETTレーザ40、ETTレーザ40の発振波長及び発振強度を制御するためのRF電源20及び制御用コンピュータ26を備えるレーザ制御装置150、分光器115、スペクトル測定用のマルチチャンネル検出器116、マルチチャンネル検出器の検出信号を処理する信号処理回路160、測定結果を表示するCRTなどの表示装置170を備える。制御用コンピュータ26は、ETTレーザ40と分光器115を同期して制御する。分光器115は、単色レーザ光41の照射によって試料Sから発生されたラマン散乱光42を分光する。
【0059】
図11に示した分光測定装置を用いてラマン励起プロファイルを測定する場合、図12に示すように、共鳴効果が強い励起波長で、ラマン散乱の強度が検出限界を超えてしまう場合があり得る。これを防止するために、強い共鳴効果が予想される、吸収スペクトルで吸光度が大きくなる波長領域において、ETTレーザ40の光出力や波長掃引速度を変える。
【0060】
図13にその例を示す。図12でラマンバンドaの強度が検出限界を超えてしまうような場合、例えば共鳴効果が大きくなる波長領域λ2〜λ3のETTレーザ40の励起光強度をその他の励起波長における励起光強度の1/2に調整する。励起波長領域λ1〜λ2に対する測定結果が得られたところで、波長領域λ2〜λ3におけるETTレーザ40の出力を1/2に低下させて測定を行う。さらに、波長領域λ3〜λ4においては、もとのレーザ出力に戻して測定を行う。その後、波長領域λ2〜λ3の部分のデータの値を2倍して、図13に破線で示したように、本来の励起プロファイルを再構成する。ETTレーザ40の光出力を波長に応じて変えるため、測定されたラマン散乱スペクトルの形は光源の発光スペクトルの形に影響されたものとなるが、このようにして、測定されたスペクトルからオリジナルなスペクトルを再構成することができる。
【0061】
同様に、共鳴効果が大きくなる波長領域λ2〜λ3においてETTレーザ40の波長掃引速度を例えば2倍にすることによっても同様の効果を得ることができる。波長掃引速度を2倍にするということは、各波長での積算時間を半分にするということであり、これは吸収が弱い波長領域の波長掃引速度を1/2にする(ゆっくりにする)ということと等価である。
【0062】
各発振波長における発振強度を事前に定義しておけば、励起波長を変えたラマン散乱スペクトル測定、すなわちラマン励起プロファイルの測定の際に励起光41の強度をモニターする必要がない。ETTレーザ40は広い発振波長範囲にわたって連続的に発振でき、光軸のズレも生じないことから、他の条件を一定に保ったまま励起波長だけを変えたラマンスペクトルを測定することができる。
【0063】
また、ユーザの設定した波長間隔で励起波長を変えたラマンスペクトルを測定することによって、等間隔に励起波長を持つ一連のラマンスペクトルを測定することができる。図14は、図11に示した装置によって測定された等間隔のラマン励起プロファイルの模式図である。ラマン励起プロファイルは、種々の励起波長に対して測定されたラマン散乱スペクトルの集合である。ラマン励起プロファイルでは、励起波長変化に対する各ラマンバンドの強度変化や位相を調べることによって、目的分子の励起状態での構造変化等の情報を得ることができる。このとき、例えば700〜1000nmの波長範囲で5nm毎にレーザ発振波長を変え、各波長においてラマンスペクトルを測定して等間隔のラマン励起プロファイルを得ることで、解析結果を理解することが容易になる。
ここでは、本発明を吸収スペクトルの測定と、ラマン散乱スペクトルの測定を例にとって説明した。しかし、本発明は、これ以外にも蛍光や燐光などの発光スペクトルの測定にも同様に適用できる。
【0064】
【発明の効果】
本発明によると、妨害成分が含まれている試料に対しても高精度なスペクトル測定を行うことができ、またラマン励起プロファイルの測定を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による分光測定方法の原理を説明する模式図。
【図2】複屈折性音響光学素子による波長選択作用を説明する概念図。
【図3】複屈折性音響光学素子中を伝播する常光線のkベクトルと、異常光線のkベクトルを表示した図。
【図4】ETTレーザの一例の説明図。
【図5】ETTレーザをパルスレーザで励起したときの、励起レーザ光のエネルギーと出射レーザ光のエネルギーの入出力特性を示す図。
【図6】図4に示したETTレーザの波長可変特性を示す図。
【図7】本発明による分光測定装置の一例を説明する概略図。
【図8】インターリピッド水中分散液の吸収と光電子増倍管の感度特性を補償するように出力を調整したETTレーザの発振スペクトルを示す図。
【図9】掌の吸収スペクトル測定例を示す図。
【図10】検出器感度の波長依存性のみ補正してフラットな光出力特性を持たせたETTレーザを光源として用いた掌の吸収スペクトル測定例を示す図。
【図11】本発明による分光測定装置の他の例を示す概略図。
【図12】等間隔のラマン励起プロファイルの説明図。
【図13】ラマン励起プロファイルの測定において、共鳴効果が強い励起波長領域のETTレーザ出力を低下させる方法の説明図。
【図14】等間隔のラマン励起プロファイルの模式図。
【図15】従来のスペクトル測定の問題点を説明する模式図。
【符号の説明】
14…レーザ媒質、20…RF電源、22…圧電素子、24…励起レーザ光、26…制御用コンピュータ、28…プリズム、32…励起レーザ、40…ETTレーザ、41…単色レーザ光、42…ラマン散乱光、43…光電子増倍管、100…複屈折性音響光学素子、102…入射光、104…音響波、106…回折光、110…全反射ミラー、112…出射側ミラー、115…分光器、116…マルチチャンネル検出器、150…レーザ制御装置、160…信号処理回路、170…表示装置
Claims (2)
- レーザ共振器内に所定の波長領域でレーザ発振可能なレーザ媒質と複屈折性音響光学素子とを配置し、前記複屈折性音響光学素子により回折される光線成分の所定の光軸上にレーザ共振器を構成し、前記複屈折性音響光学素子中に励起する音響波の周波数を選択することにより波長選択を行う波長可変レーザと、前記複屈折性音響光学素子に励起する音響波の周波数及び強度を制御するレーザ制御装置と、光検出器とを備え、前記波長可変レーザを波長掃引して得られるレーザ光を試料に照射して試料のスペクトル測定を行う分光測定装置において、
前記レーザ制御装置は、前記光検出器の分光感度特性を補償するように前記波長可変レーザの発振強度を制御することを特徴とする分光測定装置。 - 請求項1記載の分光測定装置において、試料の吸収スペクトルを測定することを特徴とする分光測定装置。
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