JP3569480B2 - 堰付クラッチハブの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、堰付クラッチハブ、特に自動変速機用の湿式多板クラッチ等に用いられる堰付クラッチハブの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、かかる堰付クラッチハブの製造方法としては、例えば、特許第2796004号公報に記載の方法が知られている。
【0003】
この方法は、円筒部の一開口端に内フランジが形成され、円筒部外側面に外歯が形成されたクラッチハブ本体を縦軸回りに回転させつつ、円筒部開口端の外側を切削して開口端部の内周縁部を薄肉とするとともに、薄肉部の外側面を回転ローラ状押圧加工具で押圧し、薄肉部を半径方向内側に塑性変形させて円筒部開口端内側に油溜め堰を周設するか、または、円筒部の一開口端に内フランジが形成され、円筒部外側面に外歯が形成されたクラッチハブ本体を縦軸回りに回転させつつ、回転ローラ状押圧加工具で円筒部開口端の内周縁コーナ部を半径方向斜め外側に押し潰して円筒部開口端内側に油溜め堰を周設するようにした製造方法である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、かかる従来の堰付クラッチハブの製造方法は、既にクラッチハブとしてほぼ完成品状態に成形されたクラッチハブに対し、切削加工を施した後に回転ローラ状押圧加工具で押圧加工を行うか、または、単に回転ローラ状押圧加工具で押圧加工を行うことによって油溜め堰を形成するようにしており、加工工数が増大するとともに、その加工のための専用の設備を必要とする結果、コスト的にも高くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みなされたもので、その目的は、コスト的に安価に堰付クラッチハブを製造することのできる堰付クラッチハブの製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明の一形態に係る堰付クラッチハブの製造方法においては、
i)板状素材に絞り加工を施すことにより、円筒部の一端に内フランジが形成されるとともに該円筒部の外側面に外歯が形成され、該円筒部の他端にバリ部が残存したクラッチハブ素材を用意し、
ii)該クラッチハブ素材の円筒部内側面の周方向の一部に、堰形成部を有するダイをあてがい、
iii)前記クラッチハブ素材の円筒部の半径方向外方から該ダイに向けてパンチを相対移動させ、前記ダイの堰形成部より他端部側のバリ部を切断し、
iv)前記パンチを元の位置に戻し、
v)前記クラッチハブ素材を所定量回動させ、
以下、前記ii)ないしv)を繰返すことにより、前記バリ部を切断しつつ前記円筒部内側面に堰を同時に形成することを特徴とする。
【0007】
なお、前記ダイは開口部を有し、該開口部の一縁部近傍に前記堰形成部が形成され、前記パンチは該開口部内に進入することが好ましい。
【0008】
ここで、前記相対回動の際、前記クラッチハブ素材が固定され、前記パンチおよびダイが回動されてもよい。
また、本発明の他の形態に係る堰付クラッチハブの製造方法においては、
i)板状素材に絞り加工を施すことにより、円筒部の一端に内フランジが形成されるとともに該円筒部の外側面に外歯が形成され、該円筒部の他端にバリ部が残存したクラッチハブ素材を用意し、
ii)該クラッチハブ素材の円筒部内側面の全周に、堰形成部を有するダイをあてがい、
iii)前記クラッチハブ素材の円筒部の半径方向外方から該ダイに向けて前記ダイの堰形成部より他端部側のバリ部をローラ部材で加圧しつつ、前記クラッチハブ素材と該ローラ部材とを相対回転させ、前記バリ部を切断しつつ前記円筒部内側面に堰を同時に形成することを特徴とする。
【0009】
ここで、前記相対回転の際、前記ローラ部材の位置は固定で、前記クラッチハブ素材と前記ダイとが回転するようにしてもよい。
【0010】
【作用】
上記一形態の解決手段によれば、クラッチハブ素材の円筒部の端面加工のために行われるパンチとダイによるバリ部切断加工と同時に堰が部分的に形成され、全周に亘りバリ部切断加工を施すことにより全周に亘り堰が形成された堰付クラッチハブを得ることができる。
【0011】
また、他の形態の解決手段によれば、クラッチハブ素材の円筒部の端面加工のために行われるローラ部材によるバリ部切断加工により堰が徐々に形成され、全周に亘るバリ部切断加工と同時に全周に亘り堰が形成された堰付クラッチハブを得ることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は本発明の製造方法により得られる堰付クラッチハブの一例を示す一部破断斜視図、図2はクラッチハブ素材から完成品を得る様子を説明するための半完成品状態のクラッチハブ本体の一部破断斜視図、図3は油溜め堰を形成するための加工装置の概要図、図4は同加工装置を使った油溜め堰形成工程の説明図、図5は他の加工装置とそれを用いた油溜め堰形成工程の説明図である。
【0014】
これらの図において、符号10は完成品状態のクラッチハブ本体で、円筒部12の一方の開口端には内フランジ(ボス)14が形成され、円筒部の外側面には外歯16が形成されている。円筒部12には、円筒部外側に配置されている湿式多板クラッチに潤滑油を供給するための多数のオイル通路孔18が穿設されている。円筒部開口端の内側には半径方向内側に押し潰され塑性変形されて盛り上がった油溜め堰20が周設されている。
【0015】
なお、図示はしないが、クラッチハブ本体10の内フランジ14には軸部外周面にスプラインが形成された保持筒体のフランジ部が溶接されて、クラッチハブとして一体化される。
【0016】
図2は半完成品状態のクラッチハブ本体の一部破断斜視図であり、本発明による油溜め堰20を形成する前のクラッチハブ本体の原形(以下、クラッチハブ本体素材10Wという)のままで、油溜め堰20が形成されておらずバリ部Bを有する部分と、後述のように本発明によりバリ部Bが切断され油溜め堰20が形成されている部分とが共存した状態で示されている。
【0017】
なお、クラッチハブ本体素材10Wは、板状素材から絞り加工にて成形されるものであって、上述の円筒部12、内フランジ14および円筒部の外側面の外歯16が同時に絞り成形されたものであるが、円筒部12の端部にバリ部Bを有している。
【0018】
図3に、本発明を実施する際に用いる加工装置の一例を示す。Dはダイであり、略直方体状の基本形状を有している。その上面の一端側はクラッチハブ本体10(または10W)の内側面の曲率半径に一致する曲率半径の湾曲受面D1とされ、残りが、形成される堰の高さに相当する分、該湾曲受面D1の曲率半径よりも小さい曲率半径の湾曲面D2とされている。そして、湾曲面D2には略矩形断面の開口部D3が穿設され、この開口部D3の一縁部近傍に堰形成部D5が形成されている。堰形成部D5は、一端が湾曲受面D1に滑らかに連なる凸状の傾斜面D51と、湾曲面D2の一部で該傾斜面D51と開口部D3との間に存在し傾斜面D51と滑らかに連なる平坦面D52とから構成されている。勿論、傾斜面D51と平坦面D52との曲率半径の中心は湾曲受面D1の曲率半径の中心に一致する。
【0019】
Pはパンチであり、略直方体状の基本形状を有している。そして、本実施の形態では、クラッチハブ本体10の外歯16の二歯相当分の幅を有し、ダイDの開口部D3にほぼ密に進入する断面形状を有している。また、パンチPの下面は、クラッチハブ本体素材10Wの外歯16が形成された外側面の形状と補完関係の形状とされている。なお、本実施の形態では、パンチPおよびダイDの開口部D3の幅を外歯16の二歯相当分の幅に設定したが、この幅は、製品の形状等に応じて任意に設定できることは言うまでもない。
【0020】
次に、図4を参照しつつ、板状素材に絞り加工を施すことにより、円筒部12の一端に内フランジ14が形成されるとともに該円筒部の外側面に外歯16が形成され、円筒部12の他端にバリ部Bが残存したクラッチハブ本体素材10Wに油溜め堰20を加工する方法について説明する。
【0021】
まず、クラッチハブ本体素材10Wを、例えば、不図示の回転する主軸(回転駆動軸)の先端部に設けられたチャックに、中心軸回りに回転可能に把持する。かかる把持状態で、主軸に沿う方向および主軸の径方向に移動可能に配置されているダイDを移動させ、クラッチハブ本体素材10Wの円筒部12における内側面の周方向の一部に、堰形成部D5を有するダイDの湾曲受面D1をあてがう(図4(A)および(E)参照)。
【0022】
次いで、クラッチハブ本体素材10Wの円筒部12の半径方向外方からダイDに向けてパンチPを下降方向に相対移動させる。クラッチハブ本体素材10Wの外側面の形状と補完関係にあるパンチPの下面が、クラッチハブ本体素材10Wの材料に食い込むと、それと同時に、ダイDの堰形成部D5の傾斜面D51とこれに連なる平坦面D52との形状に沿う材料流れが生じる(図4(B)参照)。さらに、パンチPの移動が進み、クラッチハブ本体素材10Wに切り込むことによって、材料流れが促進される(図4(C)参照)。
【0023】
なお、この材料流れの際に、クラッチハブ本体素材10Wの他の部位に変形が生ぜず、ダイDの堰形成部D5への材料流れが効果的に生ずるように、押え部材Rでもってクラッチハブ本体素材10WをダイDに押圧しておくのが好ましい。さらに、パンチPが開口部D3内に進入しクラッチハブ本体素材10Wの円筒部12を通過すると、クラッチハブ本体素材10Wの円筒部12の他端部側のバリ部Bが切断され、同時に、当該部位における堰の成形が終了する(図4(D)および(F)参照)。
【0024】
そこで、パンチPを上昇させて元の位置に戻し、また、ダイDをクラッチハブ本体素材10Wの径方向中心軸に向けて若干移動させる。
【0025】
そして、クラッチハブ本体素材10Wをその外歯16の二歯相当分の所定量回動させた後、再度、ダイDをクラッチハブ本体素材10Wの径方向外方に向けて移動させ、円筒部12における内側面に湾曲受面D1をあてがう(図4(A)参照)。
【0026】
かかる状態で、前述したパンチPとダイDの移動およびクラッチハブ本体素材10Wの回動を繰返えす。この繰返しにより、外歯16の二歯相当分づつ成形される堰が、クラッチハブ本体素材10Wを一回転させた時点で連続し、油溜め堰20として形成されたクラッチハブ本体10が得られるのである。ただし、潤滑油を供給するための多数のオイル通路孔18は、上述の堰形成加工の後に穿設されてもよい。
【0027】
次に、図5に示す他の加工装置とそれを用いた油溜め堰形成工程につき説明する。
【0028】
本実施の形態に用いるダイは割り型の中子ダイであり、例えば、放射状に6分割された扇形状のダイ要素D’を備えている。ダイ要素D’は、図5(B)に示すように、略扇形体状の基本形状を有している。その上面はクラッチハブ本体10(または10W)の内側面の曲率半径に一致する曲率半径の湾曲受面D’1とされ、その一縁部に堰形成部D’5が形成されている。堰形成部D’5は、一端が湾曲受面D’1に滑らかに連なる凸状の傾斜面D’51と、この傾斜面D’51と滑らかに連なる平坦面D’52とから構成されている。勿論、傾斜面D’51と平坦面D’52との曲率半径の中心は湾曲受面D’1の曲率半径の中心に一致する。さらに、6つのダイ要素D’で構成される割り型の中子ダイの中心部には、テーパ付の孔Hが形成されており、シャフトSのテーパ部Tに係合している。
【0029】
RCはローラ部材であり、外周縁にカッティングエッジを有し支持軸Jに回転自在に支持されている。
【0030】
ここで、本実施の形態において、円筒部12の他端にバリ部Bが残存したクラッチハブ本体素材10Wに油溜め堰20を加工する方法について説明するに、まず、クラッチハブ素材10Wの円筒部12の内側に中子ダイを挿入し、シャフトSを軸方向に移動させて内側面の全周に、堰形成部D’5を有するダイ要素D’をそれぞれあてがう。
【0031】
そして、クラッチハブ素材10Wの円筒部12の半径方向外方から該中子ダイに向けて、該ダイの堰形成部D’5より他端部側のバリ部Bをローラ部材RCで加圧しつつ、シャフトSを駆動し中子ダイと共にクラッチハブ素材10Wを回転させる。クラッチハブ素材10Wが回転するにつれ、加圧されているローラ部材RCも回転し、そのカッティングエッジのクラッチハブ本体素材10Wの材料への食い込み量が増大し、それと同時に、ダイの堰形成部D’5の傾斜面D’51とこれに連なる平坦面D’52との形状に沿う材料流れが生じる。さらに、ローラ部材RCのの半径方向移動が進むと、前実施の形態と同様に、クラッチハブ本体素材10Wに切り込むことによって材料流れが促進され、バリ部Bを切断しつつ円筒部12の内側面に堰が同時に形成される。
【0032】
なお、上記形態では、ローラ部材RCの位置が固定で、クラッチハブ素材10Wと該中子ダイとを回転させるようにしたが、これは、クラッチハブ素材10Wと該中子ダイとを固定し、ローラ部材RCを自転させながら公転するように、回転させてもよいことはいうまでもない。
【0033】
本実施の形態によれば、一旦、クラッチハブ素材をダイにセットした後は、切断と堰形成動作とが連続的に同時に行われるので、その加工時間をさらに短縮することができる。
【0034】
なお、上記説明は、内側面が平坦で外側面にのみ外歯を有する形式のクラッチハブに本発明を適用した場合につき行ったが、本発明が適用できるクラッチハブとしては、上記例に限られないことは云うまでもない。例えば、内歯および外歯が交互に形成されオイル通路孔が外歯に穿設される形式のクラッチハブであっても、本発明を適用することにより、板金製のクラッチハブ素材から切断加工時に同時に外歯の歯形大径部に堰を形成することができる。また、内側面が平坦で外側面にのみ外歯を有する形式のクラッチハブにおいて、さらに油溜め効果を増すべく、内側面に軸方向の溝が形成され該溝底にオイル通路孔が穿設される形式のクラッチハブであっても、本発明を適用することにより同様に、溝端部に堰を形成することができる。
【0035】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の堰付クラッチハブの製造方法によれば、仕上げ加工としての切断加工と同時に堰成形加工が行われるので、加工時間が短くかつコスト的に安価にできる。
【0036】
また、材料流れにより油溜め堰となるので、素材必要板厚が低減でき材料の無駄が少ない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法により得られる堰付クラッチハブの一例を示す一部破断斜視図である。
【図2】クラッチハブ素材から完成品を得る様子を説明するための半完成品状態のクラッチハブ本体の一部破断斜視図であり、X−O−Yで囲まれた角度α内は、切断加工前でバリ部Bが存在している状態、X−O断面はパンチP(ダイは省略)でバリ部Bを切断している状態、および、X−O−Yで囲まれた角度α内以外はバリ部BがA線で切断され面aと堰20とが得られた完成状態を示す。
【図3】油溜め堰を形成するための加工装置の一例を示す概要図である。
【図4】図3に示す加工装置を使った油溜め堰形成工程を示す説明図である。
【図5】他の加工装置とそれを用いた油溜め堰形成工程の説明図である
【符号の説明】
10 クラッチハブ本体
10W クラッチハブ本体素材
12 円筒部
14 内フランジ
16 外歯
18 オイル供給通路孔
20 油溜め堰
P パンチ
D、 ダイ
D’ ダイ要素
D1、D’1 湾曲受面
D3 開口部
D5、D’5 堰形成部
RC ローラ部材
Claims (5)
- i)板状素材に絞り加工を施すことにより、円筒部の一端に内フランジが形成されるとともに該円筒部の外側面に外歯が形成され、該円筒部の他端にバリ部が残存したクラッチハブ素材を用意し、
ii)該クラッチハブ素材の円筒部内側面の周方向の一部に、堰形成部を有するダイをあてがい、
iii)前記クラッチハブ素材の円筒部の半径方向外方から該ダイに向けてパンチを相対移動させ、前記ダイの堰形成部より他端部側のバリ部を切断し、
iv)前記パンチを元の位置に戻し、
v)前記クラッチハブ素材と前記パンチおよびダイとを所定量相対回動させ、
以下、前記ii)ないしv)を繰返すことにより、前記バリ部を切断しつつ前記円筒部内側面に堰を同時に形成することを特徴とする堰付クラッチハブの製造方法。 - 前記ダイは開口部を有し、該開口部の一縁部近傍に前記堰形成部が形成され、前記パンチは該開口部内に進入することを特徴とする請求項1に記載の堰付クラッチハブの製造方法。
- 前記相対回動の際、前記クラッチハブ素材が固定され、前記パンチおよびダイが回動されることを特徴とする請求項1または2に記載の堰付クラッチハブの製造方法。
- i)板状素材に絞り加工を施すことにより、円筒部の一端に内フランジが形成されるとともに該円筒部の外側面に外歯が形成され、該円筒部の他端にバリ部が残存したクラッチハブ素材を用意し、
ii)該クラッチハブ素材の円筒部内側面の全周に、堰形成部を有するダイをあてがい、
iii)前記クラッチハブ素材の円筒部の半径方向外方から該ダイに向けて前記ダイの堰形成部より他端部側のバリ部をローラ部材で加圧しつつ、前記クラッチハブ素材と該ローラ部材とを相対回転させ、前記バリ部を切断しつつ前記円筒部内側面に堰を同時に形成することを特徴とする堰付クラッチハブの製造方法。 - 前記相対回転の際、前記ローラ部材の位置は固定で、前記クラッチハブ素材と前記ダイとが回転することを特徴とする請求項4に記載の堰付クラッチハブの製造方法。
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