JP3569311B2 - ゼラチンゲルおよびその製造方法並びにその用途 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ゼラチンゲルに関するものであり、詳しくは生体接着剤あるいは止血材等の医療用材料として好適なゼラチンゲルおよびその製造方法並びにその用途に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、生体接着剤としてはメチル−2−シアノアクリレート、あるいはイソ−ブチル−2−シアノアクリレート等のシアノアクリレート系化合物、可溶性のフィブリノーゲンがトロンビンにより不溶性のフィブリンとなる血液凝固系因子を利用したフィブリン糊、あるいはゼラチンにホルムアルデヒドとレゾルシノールを反応させるゼラチン系接着剤が臨床に使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のようなシアノアクリレート系化合物からなる接着剤では、反応速度が速すぎるために接着操作が困難であるばかりでなく、接着後の反応生成物が硬く、接着部位の生体組織の柔軟性を損なうという問題や、さらに分解にともなって生成されるホルムアルデヒドの毒性の問題等があった。
また、フィブリン糊は2液あるいは4液を混ぜて使用するために操作が煩雑であり、さらに、ヒト血液由来の材料を使用していることから、HIVあるいはHBs等のウイルス汚染の可能性を否定できない等の問題があった。
【0004】
従来、ゼラチン水溶液を室温あるいはそれ以下の冷所に放置するとゲル化することが知られている。しかしながら、このようにして形成されたゼラチンゲルは37℃あるいはそれ以上の温度に加温されると液状となり、それのみでは力学的強度も弱く、生体接着剤として使用するには問題があった。そこで、ゼラチンをホルムアルデヒドやレゾルシノールで架橋することも試みられているが、これらの架橋剤には毒性の問題があった。そこでゼラチンに毒性の少ない架橋を施すことが要求される。
【0005】
本発明は、接着操作が容易であり、ウイルスによる汚染の可能性もなく、生体に対する毒性が低く、しかも硬化後に柔軟な接着層を形成することができる医療用材料として好適なゼラチンゲル、その製造方法及びその用途を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、医薬および食品添加物として広く使用されているゼラチンに、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸と水溶性カルボジイミドとを混合することによって形成されたハイドロゲルが、水存在下で生体組織と高い接着性を示すという事実を見出し、さらに、このハイドロゲルは生体接着剤としてのみでなく、止血材、閉鎖材、死腔充填材等として優れたものであることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、ゼラチンと、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸をカルボジイミドにより架橋してなることを特徴とするゼラチンゲル、およびゼラチンと、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸を含む水溶液に水溶性カルボジイミドを混合してゼラチンと官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸とを架橋させることを特徴とする上記ゼラチンゲルの製造方法、及び官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸と水溶性カルボジイミドを含む水溶液中で両者を反応させ、次いでゼラチン水溶液を混合してゼラチンと、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸とを架橋させることを特徴とするゼラチンゲルの製造方法、並びに上記ゼラチンゲルからなる生体接着剤、止血材、閉鎖材又は死腔充填材を要旨とするものである。
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明におけるゼラチンとは、生体に含まれるコラーゲンから製造されたものであり、例えば、コラーゲンを酸処理して得られた酸処理ゼラチン、コラーゲンをアルカリ処理して得られたアルカリ処理ゼラチン、あるいはコラーゲンを酵素処理して得られた酵素処理ゼラチンが挙げられる。また、その起源は特に限定されるものではなく、ヒト、ウシ、ブタ等の骨あるいは皮膚等のあらゆる由来のものが使用できる。
このようなゼラチンを水、生理食塩水、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液、あるいは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム等の塩、タンパク質、アミノ酸、糖、脂質等を含んだ水溶液等の生体に対して毒性のない溶媒に溶解して使用する。
【0009】
本発明における官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸とは、水に可溶で、かつ、官能基としてカルボキシル基をもつ高分子であり、生体に対して強い毒性を示さないものであれば、生体由来の天然高分子であっても、合成高分子であっても構わない。具体的には、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸等が挙げられる。
これらの官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸の分子量は特に限定されるものではないが、ゼラチンゲルを形成した場合のゲルの接着性あるいは要求される硬化後の硬さ等使用目的に応じて決定される。
これらの官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸を水、生理食塩水、ほう酸緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液、あるいは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム等の塩、タンパク質、アミノ酸、糖、脂質等を含んだ水溶液等の生体に対して毒性のない溶媒に溶解して使用できる。
また、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸水溶液の濃度は、水溶液の粘度、あるいはポリマー1分子あたりに含有されるカルボキシル基の数等により適宜決定される。
【0010】
本発明における水溶性カルボジイミドとしては、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−4−エチル)カルボジイミド・スルホン酸塩等が好ましく使用できる。
【0011】
これらの水溶性カルボジイミドを粉末のまま、あるいは水、生理食塩水、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液、あるいは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム等の塩、タンパク質、アミノ酸、糖、脂質等を含んだ水溶液などの生体内に対して毒性のない溶媒に溶解して使用する。
【0012】
次に、本発明のゼラチンゲルの製造方法について説明する。
【0013】
本発明のゼラチンゲルは、ゼラチンおよび官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸を含む水溶液に水溶性カルボジイミドを加えて混合するか、あるいは、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸を水溶液カルボジイミドと反応させた後、得られた水溶液とゼラチン水溶液を混合することによって形成させる。
【0014】
ゼラチンと、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸を含む水溶性カルボジイミドを加えてゲルを形成する方法としては、0.1〜90重量%、好ましくは1〜70重量%のゼラチンと0.01〜50重量%の官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸とを含む混合水溶液100部に対し、0.001〜50重量%の水溶性カルボジイミド水溶液1〜100部あるいはそれ以上、もしくは水溶性カルボジイミドを粉末のまま加えればよい。
【0015】
このようにゼラチンに官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸とカルボジイミドを適当な濃度で単に加えることにより、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸分子中のカルボキシル基とゼラチン分子中のアミノ基あるいは水酸基との間でアミド結合あるいはエステル結合が形成され、ゼラチンと、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸の分子間あるいは分子内で架橋が生じてゲル化する。
【0016】
ゼラチンと、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸を含む水溶液に水溶性カルボジイミドを加えたものは、そのまま放置してもよいし、または攪拌してもよい。
【0017】
ゼラチンと、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸を含む水溶液に水溶性カルボジイミドを加えてゲル化する際に必要な時間は特に限定されるものではない。
ゼラチンと、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸を含む水溶液に水溶性カルボジイミドを加えてゲル化する際の温度としては、特に限定されるものではないが、0〜40℃が好ましい。
【0018】
また、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸と水溶性カルボジイミドを含む水溶液中で両者を反応させ、次いでゼラチン水溶液を混合してゲルを形成する方法としては、0.01〜50重量%の官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸水溶液100部に対し、0.001〜50重量%の水溶性カルボジイミド水溶液1〜100部あるいはそれ以上、もしくは水溶性カルボジイミドを粉末のまま加えることにより、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸とカルボジイミドを反応させればよい。
【0019】
上記反応により官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸分子中のカルボキシル基が酸無水物結合に変換される。
【0020】
官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸にカルボジイミドを反応させる場合、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸にカルボジイミドを加えたものをそのまま放置してもよいし、また攪拌してもよい。
官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸にカルボジイミドを反応させる際の反応時間は特に限定されるものではないが、1分間〜3時間であることが好ましい。
官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸にカルボジイミドを反応させる際の反応温度は特に限定されるものではないが、0〜40℃が好ましい。
【0021】
次に上記方法により官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸にカルボジイミドを反応させて得られた反応液を、0.1〜90重量%、好ましくは1〜70重量%のゼラチン水溶液1〜1000部、好ましくは10〜1000部と混合することによりゼラチンのゲルが形成される。
【0022】
このようにカルボキシル基が酸無水物結合に変換された官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸とゼラチンを混合することにより、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸分子中の酸無水物結合がゼラチン分子中のカルボキシル基、アミド基、あるいは水酸基等の官能基と反応し、ゼラチン分子と官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸分子間、あるいは分子内にアミド結合あるいはエステル結合が形成されることによってゲル化する。
【0023】
カルボキシル基が酸無水物結合に変換された官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸とゼラチンを混合してゲル化する際に必要な時間は特に限定されるものではない。
カルボキシル基が酸無水物結合に変換された官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸とゼラチンを混合する際の温度は特に限定されるものではないが、0〜40℃が好ましい。
【0024】
以上の方法により得られた本発明のゼラチンゲルは様々な医療用材料として用いることができ、例えば、硬膜、腹膜、筋膜、胸膜の接着、骨あるいは軟骨の接着、実質臓器切開部の接着、皮膚の接着、神経吻合、微小血管吻合、腸管吻合、卵管吻合、植皮片あるいは創傷被覆保護材の貼付等の組織の接着を目的とした生体接着剤として用いることができる。
【0025】
また、本発明のゼラチンゲルは、血液、体液のような水分存在下においてもゲルを形成し、生体組織に対して高い接着性を示すので、実質臓器の微小血管からの出血、縫合時の縫合糸穴からの出血等の止血を目的とした止血材や、髄液、胆汁等の体液の漏出防止、鼓膜欠損の閉鎖、代用血管の閉鎖、肺手術後の空気漏れ穴の閉鎖、気管支の閉鎖、シャントチューブのシールを目的とした生体又は医療材料の閉鎖材等として用いることができる。
【0026】
さらに、本発明のゼラチンゲルは、骨および軟骨部創傷腔、抜歯後の歯槽腔などの死腔へ充填することにより死腔充填材として用いることができる。
【0027】
本発明のゼラチンゲルを医療用材料として用いるには、ゼラチンゲルを患部に塗布、充填すればよい。
【0028】
本発明のゼラチンゲルを患部に塗布する方法としては、あらかじめ混合したゼラチン、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸および水溶性カルボジイミドを含む水溶液を患部に塗布する方法、または別々に調製したゼラチン水溶液とカルボジイミドと反応させた官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸を含む水溶液、あるいはゼラチンと官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸混合水溶液と水溶性カルボジイミド水溶液を患部に塗布する方法等の二面塗布法、重層塗布法、または同時に上記2液を滴下する方法、あるいはスプレー法等の混合塗布法等が挙げられる。
【0029】
本発明のゼラチンゲルを死腔等の患部に充填する方法としては、あらかじめ混合したゼラチン、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸および水溶性カルボジイミドを含む水溶液を患部に充填する方法、また別々に調製したゼラチン水溶液とカルボジイミドと反応させた官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸を含む水溶液、あるいはゼラチンと官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸混合水溶液と水溶性カルボジイミド水溶液を死腔等に充填する方法等、また同時に上記2液を死腔等に滴下する方法、あるいはスプレー法等が挙げられる。
【0030】
このようにして形成されたゼラチンゲルは、目的に応じてフィルム状、塊状等の形状にすることが可能であり、患部において塗布、充填時の形状を保つこともできる。また、塗布量、充填量を変えることにより、ゼラチンゲルの厚み、大きさ等を自由に変えることも可能である。
【0031】
また、本発明のゼラチンゲルを製造するに際し、使用する水溶性カルボジイミドは反応に伴い不活性で水溶性の尿素誘導体に変化するので、得られたゼラチンゲルはきわめて毒性の低いものである。
【0032】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0033】
【実施例】
実施例1
牛骨由来のアルカリ処理ゼラチン(等電点5.0)10gおよびポリグルタミン酸ナトリウム塩(分子量83,000)2.5gを蒸留水100mlに溶解した混合水溶液(ゼラチン10重量%、ポリグルタミン酸2.5重量%)1mlを直径16mmの試験管に採り、長さ10mmの回転子を入れて、37℃のウォ−ターバス中でマグネチックスターラーにて一定速度で回転させた。その中へ1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩9.6重量%水溶液0.1mlを滴下し、ゼラチンがゲル化して回転子が止まるまでの時間を測定した。
【0034】
実施例2
実施例1において、滴下した水溶性カルボジイミド水溶液の濃度を0.96重量%とした以外は、実施例1と同様に操作した。
【0036】
比較例1
実施例1においてポリグルタミン酸を溶解しなかった以外は、実施例1と同様に操作した。
【0037】
比較例2
実施例2においてポリグルタミン酸を溶解しなかった以外は、実施例2と同様に操作した。
【0038】
実施例4
牛骨由来のアルカリ処理ゼラチン(等電点5.0)10gおよびポリグルタミン酸ナトリウム塩(分子量83,000)2gを蒸留水100mlに溶解した混合水溶液(ゼラチン10重量%、ポリグルタミン酸2重量%)0.1mlを、BALB/Cマウスから採取した皮膚片(1×2cm)上に塗布し、続いて、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩2.7重量%水溶液0.035mlを滴下した。次に、この上からもう1枚のマウス皮膚片を重ね、接着部分1cm2 あたりに50gの分銅を置いてゼラチン・ポリグルタミン酸ゲルによる皮下組織の接着を行った。10分間接着した後、引張り試験により皮膚の接着強度を測定した。また、上記操作はいずれも室温で行った。
【0039】
実施例5
実施例4において、滴下した水溶性カルボジイミド水溶液の濃度を0.27重量%とした以外は、実施例1と同様に操作した。
【0040】
実施例6
実施例5において、溶解したポリグルタミン酸の濃度を10重量%とした以外は、実施例5と同様に操作した。
【0043】
比較例3
実施例4においてポリグルタミン酸を溶解しなかった以外は、実施例4と同様に操作した。
【0044】
比較例4
実施例5においてポリグルタミン酸を溶解しなかった以外は、実施例5と同様に操作した。
【0045】
比較例5
実施例4において水溶性カルボジイミド水溶液を滴下しなかった以外は、実施例4と同様に操作した。
【0046】
実施例1〜2および比較例1〜2のゲル化時間の測定結果を表1に、実施例4〜6および比較例3〜5の皮膚接着強度の測定結果を表2に示した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表2から明らかなように、ゼラチンとポリグルタミン酸を水溶性カルボジイミドで架橋したゼラチンゲル(実施例4、5)は、ポリグルタミン酸を含まないゼラチンゲル(比較例3、4)、あるいは水溶性カルボジイミドを加えなかったゼラチン・ポリグルタミン酸水溶液(比較例5)に比べて接着性に優れている。また、実施例4と実施例6の結果より、ポリグルタミン酸の濃度を高くすることにより、ゲル化に必要な水溶性カルボジイミドの量を少なくしても強度が低下しないことが判った。
【0051】
表1から明らかなように、ゼラチンにポリグルタミン酸を加えた水溶液(実施例1、2)のゲル化時間は、ポリグルタミン酸を加えないゼラチン(比較例1、2)のゲル化時間に比べて短かった。また、実施例2と比較例2の結果より、ポリグルタミン酸を含まないゼラチン水溶液がゲル化しない量の水溶性カルボジイミドを添加した場合でも、ポリグルタミン酸を加えたゼラチン水溶液はゲル化した。さらに、実施例3よりあらかじめポリアニオンをカルボジイミドと反応させてからゼラチンと混合してもゼラチン水溶液はゲル化した。
【0052】
以上の結果より、本発明のゼラチンゲルは、ゲル化に必要な水溶性カルボジイミドの量を少なくしても接着強度の高いものである。
【0053】
実施例9
家兎を麻酔下に開腹し、肝臓を露出さ、メスを用いて肝臓表面に切り込みを入れ皮膜をはがし、3mm角の出血創を作製した。出血創部へ37℃に加温したアルカリ処理牛骨ゼラチン(10重量%)、およびポリグルタミン酸(10重量%)を含む水溶液0.1mlを滴下し、続いて、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩2.7重量%水溶液0.035mlを加え、ゼラチンのゲル化の状態ならびに肝表面からの出血の状態を経時的に観察した。
【0054】
比較例6
実施例9と同様の操作により作製した家兎肝臓の出血創部に、フィブリン糊(ボルヒール、化学及び血清療法研究所製)A液(フィブリノゲン糊)およびB液(トロンビン溶液)を各0.05mlづつ滴下し、ゼラチンのゲル化の状態および肝表面の出血の状態を観察した。
【0055】
実施例9において、ゼラチン・ポリグルタミン酸水溶液は、カルボジイミド添加後30秒程度でゲル化が完了した。さらに、そのゲル化速度は、出血の程度に影響されず、出血時においてもゲル化が形成され止血効果を発現した。また、形成されたゲルは家兎肝臓の出血創内部にまで侵入し、肝臓組織と強く接着していた。比較例6のフィブリン糊を使用した場合は、出血によりフィブリノゲン溶液のゲル化が抑制され、その止血効果が低下した。また、形成されたゲルの肝臓組織への接着性は低く、ゲルは容易に肝臓表面より剥離した。
以上の結果より、本発明のゼラチンゲルは、従来使用されている止血材よりも優れた止血効果を有することが明らかである。
【0056】
実施例10
家兎を麻酔下に人工呼吸を装着した状態にて開胸し、肺を露出し、メスを用いて肺表面に、長さ5mm、深さ1mmの創を作製した。創部へ37℃に加温したアルカリ処理牛骨ゼラチン(10重量%)、およびポリグルタミン酸(10重量%)を含む水溶液0.05mlを滴下し、続いて1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩2.7重量%水溶液0.0175mlを加えた。1分後、肺に30cmH2 Oの圧をかけ、創からの空気の漏れの有無を観察した。
【0057】
比較例7
実施例10と同様の操作により作製した家兎肺の創にフィブリン糊(ボルヒール)A液(フィブリン溶液)およびB液(トロンビン溶液)それぞれ0.025mlづつ滴下した。1分後、肺に30cmH2 Oの圧をかけ、創からの空気の漏れの有無を観察した。
【0058】
実施例10において、ゼラチン・ポリグルタミン酸水溶液は、カルボジイミド添加後、30秒程度でゲル化した。1分後、肺に圧をかけたところ、空気漏れは完全に止まっていた。ゼラチン・ポリグルタミン酸架橋ゲルは肺の創周辺組織と強く接着しており、ゲルを肺より剥離しようとすると、ゲルではなく肺自身が破れた。なお,肺よりの出血を伴う場合にもゼラチンゲルは同様に空気漏れ防止には有効であった。これに対し、比較例7のフィブリン糊の場合は、加圧によりフィブリンゲルが肺組織からフィルム状に剥離し、空気漏れを止めることができなかった。
以上の結果より、本発明のゼラチンゲルは、組織の止血、あるいは肺から空気漏れの防止において有効であることが明らかである。
【0059】
実施例11
麻酔下でマウス背部を切開し、皮下に空洞を作製し、空洞部へ37℃に加温したアルカリ処理牛骨ゼラチン(13.5重量%)およびポリ−L−グルタミン酸(13.5重量%)を含む水溶液0.05mlを注入し、続いて、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩3.7重量%水溶液0.0175mlを注入し、皮下にてゲルを形成させた。縫合により創を閉じたあと、4日目、7日目、14日目、28日目にゲルを回収し、その乾燥重量を測定し、ゲルの残存率を求めることにより、ゲルの分解性を調べた。同時に、ゲル埋入部周囲の組織を採取して、組織学的観察を行った。
【0060】
比較例8
実施例11と同様の操作により作製したマウス背部皮下腔に、フィブリン糊(ボルヒール)A液およびB液をそれぞれ0.034mlづつ注入して、皮下にてフィブリンゲルを形成させた。縫合により創を閉じたあと、実施例11と同様に経時的にフィブリンゲルを回収し、分解性を調べるとともに、ゲル周囲の組織学的観察を行った。
【0061】
実施例11、比較例8のマウス皮下に埋入したゼラチンゲル及びフィブリン糊ゲルの残存率の結果を表3に示した。
【0062】
【表3】
【0063】
表3から明らかなように、本発明のゼラチンゲルはフィブリン糊ゲルよりも長期間、死腔の充填が可能でり、また、ゲル埋入部周囲の組織学的観察の結果、フィブリン糊と同様に炎症等の異常は全く認められなかった。
これらの結果より、本発明のゼラチンゲルは死腔充填材として適していることが明らかである。
【0064】
【発明の効果】
本発明によれば、簡単な操作でウイルスによる汚染の可能性がなく、毒性の低い生体組織に対して接着性の高いゼラチンゲルを得ることができる。また、本発明のゼラチンゲルは生体組織と同様に柔軟であるので、生体接着剤、止血材、閉鎖材、死腔充填材等の医療用材料として好適に用いることができる。
Claims (7)
- ゼラチンと、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸をカルボジイミドにより架橋してなることを特徴とするゼラチンゲル。
- ゼラチンと、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸を含む水溶液に水溶性カルボジイミドを混合してゼラチンと、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸とを架橋させることを特徴とする請求項1記載のゼラチンゲルの製造方法。
- 官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸と水溶性カルボジイミドを含む水溶液中で両者を反応させ、次いでゼラチン水溶液を混合してゼラチンと、官能基としてカルボキシル基をもつポリアミノ酸とを架橋させることを特徴とする請求項1記載のゼラチンゲルの製造方法。
- 請求項1記載のゼラチンゲルからなる生体接着剤。
- 請求項1記載のゼラチンゲルからなる止血材。
- 請求項1記載のゼラチンゲルからなる閉鎖材。
- 請求項1記載のゼラチンゲルからなる死腔充填材。
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