JP3568541B2 - 酸化窒素によるヘモグロビン含有赤血球の処理 - Google Patents

酸化窒素によるヘモグロビン含有赤血球の処理 Download PDF

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Description

技術分野
本発明は、全血又は少なくとも1種の血液成分を包含する、希釈液中のヘモグロビン含有赤血球を処理するために用いる、酸化窒素の用途並びにその製造及び使用のための組成物及び方法に関する。
背景技術
一酸化炭素と酸化窒素との類似性。周知の環境汚染物質である一酸化炭素は、ヘモグロビン(Hb)に対して高い親和性を有し、O2と競合してHbのヘム基に結合することによりCO中毒を引き起こす。一酸化炭素が結合することにより、Hbの酸素への結合能力が低減されるのみならず、Hbが高親和状態に修飾され、周辺組織にO2を効果的に分配することができなくなる。さらに、このようにして形成されたCO−結合Hbは高度に安定的であり、哺乳動物の生理に対する毒性は持続的で蓄積的である。米国環境保護局は、成人の職業上のCOの吸入量の限界を9時間では8ppm、1時間では35ppmとそれぞれ定めている(米国環境保護局公報AP−84(1971))。さらに、酸化窒素(一酸化窒素又はNOとも呼ばれる)のHbに対する親和性は、COのそれよりも1000倍以上高い(Gibson,Q.H.,and Roughton,F.J.W.,Proc.Roy.Soc.London B.Biol.Sci.163:197−205(1965))。従って、NOはCOと同様、O2の結合を減少させ、分配能力を減少させることにより血液の中毒を引き起こすものと予想され、血液中に非常な低濃度を超える濃度で存在する場合には毒的であると予想された。
酸化窒素の生理学的効果。酸化窒素は、数種類の異なる形態のNOシンターゼ(NOS)によって生体内で生産されるが、血液中には極めて低濃度に存在する(一般的に1μM未満)。NOが血液中に存在する場合、NOは不安定な非帯電性二原子分子であるので、NOは細胞構造を容易に通過してその本来の標的物である可溶性グアニリルシクラーゼに対してパラトクリンとして作用する。酸化窒素は、可溶性グアニリルシクラーゼを活性化してサイクリックグアノシン−リン酸(cGMP)を生産し、cGMPはcGMP−依存性カスケード反応を開始させ、広範囲な生化学的、細胞的及び生理学的反応を引き起こす。
正常な血管緊張並びに全身循環及び肺循環に必要な他の条件を包含するこのような反応は、血液中の低くかつ安定した濃度(<1μM)のNOに起因する。NOSの産生と、主として赤血球中のHbによるその隔離との間には、血漿中のNO濃度の生物恒常性を維持するデリケートなバランスが存在する。血漿中のNO濃度は、感染や炎症の場合に変化することがあり、また、NOS阻害剤、又はニトログリセリンや亜硝酸塩のようなNO発生剤を投与することにより変化することがある。このような変化は、循環系に悪影響を与え得る。高血圧を引き起こす血管の収縮、血管と白血球との接着及び血小板の凝集は、NO濃度が上昇したときに起こることが観察されている。血漿中の遊離のNOは、赤血球中に定常的に拡散し、NOスキャベンジャーとして作用するHbと直ちに反応する。NOとオキシHbとの化学量論量的反応は明らかに速く、NOの分光学的側的に用いられている(Doyle,M.P.,and Hoekstra,J.W.,J.Inorg.Chem.14:351−358(1981))。従って、血液中の遊離のNOは、生理学的条件下において、オキシHbとの迅速な反応によって除去されてmetHb及び硝酸塩のような生物学的に不活性な産物が生産される。このようにして形成されたmetHbは、赤血球中のmetHbリダクターゼにより生物学的に活性なデオキシHbにリサイクルされる。
Kosaka及びSeiyamaは、ニトログリセリンで処理したラットの血液のO2結合曲線は、約10トル右側にシフトすることを報告し(Kosaka,H.and Seiyama.A.,Biochem.Biophys.Res.Commun.218:749−752(1996))、また、ニトログリセリン処理ラットでは、肝シヌソイド中でのO2分配が増加することを観察した(Kosaka.H.and Seiyama,A.,Nature Science 3:456−459(1997))。
溶液中(Hille,R.,et al.,J.Biol.Chem.254:12110−12120(1979))及び赤血球中(Kosaka,H.,et al.,Am J.Physiol.260:H1450−1453(1993);Erikson,L.E.G.,Biochem.Biophys.Res.Commun.203−176−181(1994)のヘモグロビン(Hb)に少量の酸化窒素(NO)を添加すると、全Hb分子のうち、小さな割合のものがα−ニトロシルHbに転化される。ニトログリセリン、亜硝酸塩及びいくつかのサイトカインをラットに静脈内注射すると、Hbの一部がα−ニトロシルHbに転化される(Kosaka,H.and Seiyama.A.,Biochem.Biophys.Res.Commun.218:749−752(1996);Kosaka.H.and Seiyama,A.,Nature Science 3:456−459(1997))。もっとも、ラット内で生産されたα−ニトロシルHbの細大割合は、ラット中の全Hbの2%未満である(Kosaka,H.,et al.,Am J.Physiol.260:H1450−1453(1993);Erikson,L.E.G.,Biochem.Biophys.Res.Commun.203:176−181(1994);Kosaka,H.and Seiyama.A.,Biochem.Biophys.Res.Commun.218:749−752(1996);Kosaka.H.and Seiyama,A.,Nature Science 3:456−459(1997))。
これらのNO−産生化合物をさらに加えると、テトラニトロシルHb及びmetHbの量が増える。これらはいずれもO2を運搬する能力を有さないので、毒的である(Kosaka,H.,et al.,Am J.Physiol.260:H1450−1453(1993);Erikson,L.E.G.,Biochem.Biophys.Res.Cornmun.203:176−181(1994);Kosaka,H.and Seiyama.A.,Biochem.Biophys.Res.Commun.218:749−752(1996);Kosaka.H.and Seiyama,A.,Nature Science 3:456−459(1997))。
実質的に純粋なα−ニトロシルHbを産生する唯一の方法は、Hbをα−及びβ−サブユニットに物理的に分離し、単離されたα−サブユニットをNOにさらしてα−ニトロシルサブユニットを精製させ、次いで単離したβ−サブユニットを再結合して、α−サブユニットのみがNOを含む4量体α−ニトロシルHb(α(Fe−NO)β(Fe))を生成させることであった。α−ニトロシルHbは、低親和性O2キャリアであることが報告されているYonetani,T.,Proc.Japanese Medical Soc.Magn.Reson,(1995);Yonetani T.,(Abstract 106S),Proc.35th ESR Discussion Conference,Yamagata,Japan(1996),p.15)。
血液銀行における期限切れ血液の問題。血液銀行において、大量の血液及び血液産物が一定期間(2〜3週間)の貯蔵後に、血液及び血液産物の期限切れにより捨てられている。これは、赤血球中の、天然のアロステリックエフェクターであるビホスフォグリセレート(BPG)の濃度及びpHの両方が貯蔵中に減少し、このためHbが高親和性形態に転化されてHbの酸素親和性が増大し、その結果、貯蔵された血液の酸素分配能力が低下して輸血しても無効になるためである。BPGは赤血球膜を通過できないので、BPGを外部から血液に投与してもその酸素分配能力を元に戻すことはできない。
米国特許第5,122,539号(1992年6月16日発行)は、ヘモグロビンの酸素親和性を減少させる新たなアロステリックエフェクターを記載している。その構造は、赤血球に対する天然のアロステリックエフェクターである2,3−BPGとは無関係であるが、その機能は類似している。しかしながら、その化学構造の故に、この化合物は赤血球機の膜を通過しないものと予想され、従って、この方法は、血液又は血液産物を処理してその酸素分配を増大させることに実際に適用することはできないであろう。
従って、貯蔵される血液又は血液成分の酸素分配能を増大して、より長期間に渡って使用可能とし、通常貯蔵開始3週間後に捨てる必要をなくすことができるようにするために、貯蔵される血液又は血液成分からのBPGの損失に対抗する方法及び組成物を提供することが長年にわたって必要とされている。
本明細書における文献の引用は、それらのいずれかが関連のある従来技術であると自認することを意図するものではなく、また、本出願のいずれかのクレームの特許性に対して重要であると考えられることを自認することを意図するものではない。これらの文献の日付又はそれらの内容についての全ての記述は、出願人が利用できる情報に基づくものであり、日付及びこれらの文献の内容についての正確性についてのいかなる自認をも構成するものではない。
発明の開示
従って、本発明の目的は、血液又は血液産物を輸血の前により長期間貯蔵することができ、又は期限切れの血液を処理して高親和性ヘモグロビンを低親和性状態に転化することにより、期限切れの血液を使用に適したものに変えるための方法及び組成物を提供することである。このような転化により、生体内においてO2を組織に分配するのに適した血液又は血液産物が得られる。このような方法及び組成物は、全血、及び細胞性血液成分を包含する血液成分を輸血に適したものに変えるために、これらの処理に用いることができる。
本発明のもう1つの目的は、酸化窒素又は酸化窒素を産生する化合物若しくはガスで処理することによって、赤血球含有希釈液中のほとんど又は全てのHbを、α−ニトロシル−Hb(又はその酸素化形態)に転化する方法を提供することである。該希釈液は、生理学的な適合性を有する溶液、懸濁液若しくはコロイド(又はこれらの混合物)であり得、ヒトを包含する哺乳動物の全血、並びに赤血球(すなわち赤血球細胞若しくはRBC)を包含するあらゆる血液成分を含むことができる。該方法はまた、血液又は血液成分を処理してその酸素分配能を回復させる方法を包含する。
本発明の更なる目的は、そのHbのほとんど又はすべてがα−ニトロシル形態(又はその酸素化形態)にある、処理された赤血球細胞と、希釈液とを含む組成物を提供することである。該希釈液は、あらゆる溶液、懸濁液若しくはコロイド(又はそれらの組合せ)であり得、全血、又は赤血球細胞をさらに包含するあらゆる血液成分を含むことができる。該希釈液は好ましくは生理学的適合性を有するものである。
本発明の他の目的、特徴及び利点は、以下の好ましい具体例の詳細な記述に述べられており、また、部分的には該記述から明らかであり、また、本発明を実施することにより知ることができる。本発明のこれらの目的及び利点は、本明細書の記載内容及びクレームに特に示された組成物及び方法により達成されるであろう。
これら及び他の目的を達成する、本発明の第1の具体例は、NOを赤血球含有希釈液に加えて少なくとも80%、好ましくは少なくとも80〜99.9999%又はこの範囲内のあらゆる範囲又は値、好ましくは少なくとも95〜99.9999%の赤血球中のHbをα−ニトロシルHbとして含むものを与える、赤血球含有希釈液の処理方法に関する。本発明の好ましい具体例では、血液成分は、赤血球細胞(RBCs)や血小板のような細胞性血液成分、血漿のような液体血液成分又は細胞性及び/又は液体血液成分の混合物である。
本発明の更なる具体例は、希釈液と、Hbを有する赤血球を含む組成物であって、少なくとも80〜99.9999%のHbがα−ニトロシル−ヘモグロビン又はその酸素化形態にある組成物に関する。このような組成物は、貯蔵され、次いで本発明の方法を用いて処理されて該組成物を与える、全血及び血液成分を包含するものであり、希釈物は処理された全血若しくは血液成分であり、又はこの分野において知られているように血液産物としてそれらから誘導されたものである。
以上の一般的記述及び以下の詳細な記述は、例示及び説明のためのみのものであり、本発明をさらに説明するためにのみ提供することを意図する。
【図面の簡単な説明】
図1は、Hb中のα−サブユニットのヘム配位構造を模式的に示す図である(A)。α(ポルフィリン)β(Fe)ハイブリッド(Fujii,M.,et al.,J.Biol.Chem.268:15386−15393(1993));(B),HbMIwate(Hayashi,A.,et al.,J.Biol.Chem.241:79−84(1966));(C),HbMBoston(Suzuki,T.,et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.19:691−695(1965))(D),及びHb(Fe−NO)+IHP(Rein,H.,et al.,FEBS Lett.93:24−26(1972);Wayland,B.B.,and Olson,L.W.,J.Am.Chem.Soc.96:6037−6041(1974);Maxwell,J.C.,and Caughey,W.S.,Biochemistry 15:388−396(1976))(イノシトールヘキサホスフェート)又はα(Fe−NO)β(Fe)(Yonetani T.,(Abstract 106S),Proc.35th ESR Discussion Conference,Yamagata,Japan(1996)p.15)(E)。共通な構造上の命名である低親和性極限Hbは、ヘムFeと基端(F8)残基のα−炭素との間の、切断され又は伸長/傾斜結合(→d←)である(Fujii,M.,et al.,J.Biol.Chem.268:15386−15393(1993))。
図2は、O2の非存在下(A)又は存在下(B)におけるα−ニトロシルHb[α(Fe−NO)β(Fe)]のX−バンドEPRスペクトルである。0.2MのClを含む、0.1Mbis−Tris緩衝液、pH7.4にヘモグロビン調製物(0.5mMヘム)を15℃で溶解し、EPR測定のために液体窒素温度で凍結した。スペクトルAとBの間の変化は可逆的であり、Hbのβ−サブユニットへのO2結合に依存する。O2の非存在下における、pH4.8での2nM IHPの存在下(C)及びIHP非存在下、O2存在下、pH9.0(D)におけるα−ニトロシルHbのEPRスペクトルを、100%5−配位及び0%5−配位の標準としてそれぞれ用いたEPRスペクトルシミュレーションにより、α−ニトロシルHbのα−サブユニット中の5−配位ニトロシルヘムの相対割合は、スペクトルA及びBについて、それぞれ約80%及び約20%であると見積もられた。
図3は、O2及びアロステリックエフェクター(H+、BPG及びCO2)の存在下又は非存在下におけるヘモグロビンの高親和性、低親和性及び低親和性極限状態の間の関係を模式的に示す図である。HbM、Hb及びα−ニトロシルHbにおいて、酸素化は、低親和性極限状態、低親和性状態と高親和性状態の間、及び低親和極限状態と高親和性状態の間でそれぞれ起きる。
図4は、O2、IHP及びpHの関数としての、α−ニトロシルヘム種(A)とα(Fe−NO)β(Fe)のP50(15℃における、半飽和状態のO2の分圧)(B)の配位平衡のボーア効果(pH依存性)を示す。5−配位の相対割合は、図1に記載したEPRシミュレーションにより見積もった。α−ニトロシルHb(0.5mMヘム)調製物は、0.2M Cl含有0.1Mbis−Tris緩衝液(pH6.0〜7.4)、0.2Cl含有0.1MTris緩衝液(pH8.0〜9.0)、及び0.1Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH4.5〜5.5)中に溶解した。パネルAに示す、デオキシβ−サブユニット(__)とオキシβ−サブユニット(===)の間の配位平衡の中点(黒丸)のpH依存性は、測定温度が異なるものの、パネルBに示すα−ニトロシルHb(白丸)のO2親和性(P50)のボーア効果と良く一致する。このことは、凍結中の配位平衡の変化はゆっくりで無視できることを示唆している。HbのO2親和性のボーア効果(白丸)は、pH7.4付近ではα−ニトロシルHbのそれよりもpHに対する感度が低い(ΔH+は、それぞれ約−0.5対−0.9)。
図5は、pH5.8(A),6.6(B),7.4(C)及び8.2(D)における溶液中でのHb(白丸)及びα−ニトロシルHb(黒丸)のO2結合平衡のヒルプロットを示す。酸素平衡曲線は、560nmにおける吸光度の変化を15℃で連続的に監視することにより記録した。15℃未満では、酸素化測定中のα−ニトロシルHbの変化は無視できることが決定された。
図6は、pH5.8(A)及び7.4(B)における、ネイティブHb(白丸)又はα−ニトロシルHb(黒丸)含有赤血球のO2結合平衡のヒルプロットを示す。酸素平衡曲線は、Olis−Hitachi 557二重波長分光光度計(ジョージア州ボーガート)中で、イマイ細胞(Imai,K.,Allosteric Effects in Hemoglobin,Cambridge University Press,London(1982))を用いて測定した。二重波長により、粒子懸濁液の高い光拡散を補償した。吸光度は560nmで監視し、標準光線は497nmに固定した。既知量の、ゆるく詰まった赤血球を低張緩衝液中で、凍結−解凍サイクルを2回行って細胞を破壊した後、上清中のHb濃度を測定することにより、赤血球内部のHbの量は20mM(ヘム)であることが決定された。NO処理した又はしない赤血球は、50倍体積の0.15Mリン酸緩衝液に懸濁した。
発明を実施する最良の形態
本発明は、酸化窒素(NO)が、これまで考えられていたようにヘモグロビン(Hb)の酸素分配能を低下させるものではなく、循環系におけるNOの代謝において何らの重要な役割を果たすとは考えられていなかったアルファ−ニトロシルHbの形成により、逆にこの能力を増大させるものであるという、本願発明者らの発見に基づく。本願発明者らは、赤血球中のHbを処理してα−ニトロシルHb(又はその酸素化形態)を形成することが可能であり、これらの形態は、哺乳動物循環系において酸素をより高い効率で運搬することが可能であることを見出した。
本発明は、希釈液(あらゆる溶液、懸濁液若しくはコロイド又はこれらのあらゆる組合せ)中のヘモグロビン(Hb)含有赤血球を処理してヘモグロビンのほとんど又は全てがα−ニトロシルHb、又はα−ニトロシル−β−オキシHbのようなその酸素化形態に転化することを包含する方法及び組成物を提供する。本願発明者らは、このような方法及び組成物が、血液及び血液成分を輸血に適したものとし、従って現在、ヒトのような哺乳動物から採取後、約3週間で期限切れになっているそれらの貯蔵期間を延長することに適したものであることを見出した。
本発明は、従って、貯蔵された血液からのビスホスフォグリセレート(BPG)の損失並びにそれに起因する血液の酸素分配能の損失及び輸血に用いる際の不適正さという長年の問題を克服した。本発明の方法及び組成物は、従って、2〜4週間という現在の貯蔵期間又はこれを超える期間貯蔵され、期限切れになった血液及び血液成分を回復させる手段を提供する。
本発明はまた、α−ニトロシルHb又はその酸素化形態を形成することにより、赤血球中のHbを傷つけずに残したまま、赤血球中のHbの酸素分配能を増大させるのに有用である。
本発明はまた、このような処理された赤血球並びにこのように処理された赤血球を含む希釈液又は血液成分を作製し使用するための方法及び組成物を提供する。
定義
他に定義しない限り、ここで用いる全ての技術的及び化学的用語は、この分野において当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有することを意図する。ここで述べた全ての特許および文献は、明示的にその全体がこの明細書に組み入れられたものとする。
本明細書において、「血液成分」という語は、全血から分離することができる1又は2以上の成分を意味することを意図しており、赤血球及び血小板のような細胞性血液成分;血液凝固因子、酵素、アルブミン、プラスミノーゲン及び免疫グロブリンのような血液タンパク質;血漿及び血漿含有組成物のような液体血液成分を包含するがこれらに限定されるものではない。
本明細書において、「細胞性血液成分」という語は、赤血球及び血小板のような、細胞を含む、1又は2以上の全血の成分を意味することを意図する。
本明細書において、「液体血液成分」という語は、血漿(凝固の前に見出されるヒト又は動物の血液の、液体の非細胞性部分)や血清(凝固後のヒト又は動物の血液の、液体の非細胞部分)のような、」全血の1又は2以上の液体の非細胞成分を意味する。
本明細書において、「血液又は血液成分を含む組成物又は希釈液」という語は、生理学的に適合性のある溶液と、1又は2以上の血液成分とを含む組成物又は希釈液を意味することを意図する。このような組成物は、血漿のような液体血液成分も含むことができる。
本明細書において、「輸血可能な希釈液又は組成物」とは、ヒトのような哺乳小津物の循環系に輸血することができる希釈液又は組成物を意味することを意図する。輸血可能な組成物は全血、1又は2以上の細胞性血液成分、1又は2以上の血液タンパク質、1又は2以上の液体血液成分、及び全血と、凝固因子又は血漿のような1又は2以上の血液成分との混合物を含むことができる。本発明のこのような希釈液又は組成物は好ましくは本発明のNO−処理赤血球を含む。
本明細書において、「細胞外pH」という語は、赤血球のような細胞性血液成分が貯蔵ないしは維持される液体媒体のpHを意味することを意図する。
本明細書において、「生理学的に許容できる溶液」という語は、その中に懸濁される等により、細胞性血液成分をさらすことができ、かつ、それを生きた状態、すなわち、その本質的な生物学的及び生理学的特性を維持することができる水性溶液を意味することを意図する。このような生理学的に適合性のある溶液は、少なくとも1種の有効量の抗凝固剤を好ましく含むことができる。「生理学的に許容できる又は適合性のある溶液」という語は、また、細胞性血液成分の細胞膜の完全性を維持するために適当なpH及び浸透圧(例えば、緊張性、モル浸透圧濃度及び/又は膠質浸透圧)を有する生理学的に適合性のある溶液を意味することを意図する。適当な生理学的に許容できるないしは適合性のある緩衝溶液は、典型的には5ないし8.5のpHを有し、等張又は僅かに高張若しくは低張である。生理学的に適合性のある緩衝溶液は当業者に知られており、容易に入手可能である。適当な溶液は、表1に示されるものを包含するが、これらに限定されるものではない。
Figure 0003568541
本発明の基礎
特定の理論又はメカニズムに限定されることなく、本発明者らは、多くの人々に推定されている、HbによるNOの第1の除去経路(Doyle,M.P.,and Hoekstra,J.W.,J.Inorg.Chem.14:351−358(1981))は、NOの血漿濃度(<1μM)がオキシHbの濃度よりも実質的に低い血液からのNOの除去の主たる経路ではないことを見出した。それに代えて、血漿中の遊離のNOは赤血球中のデオキシHbに結合して部分的にニトロシル化されたHbを形成する。前毛細血管中のHbのO2飽和が約58%と低いことが知られているように、通常見積もられている、動脈血及び静脈血中のデオキシHbの濃度がそれぞれ約0.2〜0.4mM及び5mMヘムであるという値は、可能な下限である。
それでさえ、デオキシHbのこれらの濃度は、定常的な血漿NO濃度よりも有意に高い(100倍以上)。デオキシHbに対するNOの高親和性(5−配位及び6−配位ニトロシルHbに対するKDは、それぞれ5x10-12M及び約10-15M)(Gibson,Q.H.,and Roughton,F.J.W.,Proc.Roy.Soc.London B.Biol.Sci.163:197−205(1965))は、NOとオキシHbとの反応について予想される対応する値をはるかに越えるものである。従って、正常な生理的条件下では、NOは、利用できる赤血球中のオキシHbよりもデオキシHbとよく反応する。
実際、少量のNO(15℃におけるNO/Mbヘムの比率が1/60又はそれ未満)を溶液中又は赤血球中のHbに加えると、metHbの急速な形成は見られない(Yonetani,T.,and Tsuneshige,A.,Biophys.J.70:A220(1996))。これは現在考えられている概念に反するものである(Doyle,M.P.,and Hoekstra,J.W.,J.Inorg.Chem.14:351−358(1981))。その代わり、電子常磁性共鳴(EPR)スペクトルによって、ニトロシルHbの形成が検出されている(Yonetani,T.,and Tsuneshige,A.,Biophys.J.70:A220(1996);Kosaka,H.,et al.,Am.J.Physiol.266:C1400−C1405(1994);Erikson,L.E.G.,Biochem.Biophys.Res.Commun.203:176−181(1994))。2組のα−及びβ−サブユニットから成るヘモグロビンは、それぞれが1個の酸素結合性第一鉄ヘム基を有する。
ニトロシル第一鉄ヘム複合体は、1個の不対電子を有するので、Hbは、gが約2.0の領域である、フリーラジカル型の特徴的なEPRスペクトルを示し、これは、α−及びβ−サブユニットのニトロシルヘムから誘導されたものの算術合計である(Shiga,T.,et al.,Biochemistry 8:378−383(1969))。このようなEPRスペクトルは、スピン状態、スピン密度分布及びニトロシルヘムの配位構造のような構造に関する情報を多く含む(Yonetani,T.,et al.,J.Biol.Chem.247:2447−2455(1972))。Hbを低親和性状態にシフトさせる強力なアロステリックエフェクターであるイノシトール6リン酸(IHP)を加えると、そのEPRスペクトルは、鋭いトリプレットの超微細シグナルのセットにより特徴付けられる、さらなるスペクトル特徴を示す(Rein,H.,et al.,FEBS Lett 93:24−26(1972))。これらのトリプレットシグナルの起源は、α−サブユニット中のニトロシルヘムの5−配位製造であることが同定されており(Wayland,B.B.,and Olson,L.W.,J.Am.Chem.Soc.96:6037−6041(1974);Maxwell,J.C.,and Caughey,W.S.,Biochemistry 15:388−396(1976);Szabo,A.,and Perutz,M.F.,Biochemistry 15:4427−4428(1976))、これはNOの結合によって引き起こされるα−ヘムFe−基端His(F8)結合のトランス−アキシャル(trans−axial)切断から誘導されるものである。
これは、二原子性配位子の中では固有な、NOの配位の性質に起因するものである。第一鉄ヘムへのNOの配位により、トランスアキシャル配位子への親和性が弱められる(Traylor,T.G.,and Sharma,V.S.,Biochemistry 31:2847−2849(1992))。換言すると、ニトロシルヘムは、6−配位よりも5−配位がより安定である。一方、COやO2のような二原子性配位子は、5−配位よりも6−配位を好む。従って、COやO2は、トランス−アキシャル配位子への親和性を高める。NOの結合がトランス−アキシャル結合を切断するか否かは、ヘムFe−His結合の強さに依存する。
デオキシHbのα−サブユニット中のヘム配位構造は、β−サブユニット中のそれよりも束縛されており(Perutz,M.F.,Nature 228:726−739(1970))、α−サブユニット中のFe−His結合は、β−サブユニット中のそれよりも弱い(Nagai,K.,and Kitagawa,T.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:2033−2037(1980))。従って、NOがβ−サブユニットに結合してもβ−サブユニット中のFe−His結合は切断されない。NOにより誘導される結合の切断は、生理的環境においてはα−サブユニット中でのみ起きる。従って、IHP非存在下における鋭いトリプレットEPRシグナルの出現は、NOがα−サブユニットに結合したことを示す明瞭な定性的指標である。
Hbのサブユニットの構造及び結合の状態は、次の約束に基づき示す。すなわち、α、β、(Fe)、(ポルフィリン)、(Fe−NO)及び(FeO2)は、それぞれ、α−サブユニット、β−サブユニット、デオキシヘム含有サブユニット、プロトポルフィリンIX、ニトロシルヘム及び補欠分子族としてのオキシヘムを示す。下付の数字はサブユニットの数を示す。種々の原因によりNOの血漿濃度が以上に高められた場合には、α−ニトロシルHbの赤血球内濃度は、Hbの前ヘムの約2%、すなわち約400μMニトロシルヘムにも達することがある(Kosaka,H.,et al.,Am.J.Physiol.266:C1400−C1405(1994))。
好ましい具体例
全血中の赤血球の処理。全血を用いて本発明の方法を行い又は本発明の組成物を提供する第一の段階として、全血を、ドナーから、好ましくは少なくとも1種の抗凝血剤を有効量含む生理学的に適合性のある適当な緩衝溶液中に抜き取る。適当な抗凝血剤は当業者に知られており、ヘパリン、シュウ酸リチウム、シュウ酸カリウム及びシュウ酸ナトリウム(15〜25mg/10ml血液)、クエン酸ナトリウム(40〜60mg/10ml血液)、ヘパリンナトリウム(2mg/10ml血液)、EDTA二ナトリウム(10〜30mg/10ml全血)並びにACD−Formual B溶液(1.0ml/10ml血液)が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
このようにして採取された全血は、ついで、本発明の方法に従って処理することができる。あるいは、当業者に公知の方法により、全血を先ず血液成分に分離することができ、この場合の血液成分としては血漿、血小板及び赤血球が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
例えば、赤血球を沈殿させるのに十分な時間及び十分な遠心力で全血を遠心分離することができる。白血球は、主として、バフィーコート領域中の赤血球細胞と血漿含有上清との界面に集まる。血漿、血小板及び他の血液成分を含む上清を取りだし、次いでより大きな遠心力で遠心分離することができ、それにより血小板が沈殿する。
ヒト血液は、1リットル当たり、通常約7x109個の白血球を含む。赤血球と共にペレット化される白血球の濃度は、選択した桁数だけ該濃度を減少させるフィルターを介してろ過することにより減少させることができる。白血球はまた、これを溶液から除去する適当なフィルターを介してろ過することによりここの成分から除去することができる。
本発明の好ましい具体例では、全血又は血液成分は、気体透過性保存袋中に得られ、調製され又は導入される。該気体透過性保存袋は、密封され、袋内の血液又は血液成分中に存在するあらゆる病原性汚染物が照射されるように、光が内容物を照射できるように十分な薄さに平坦化される。袋が、選んだ光の波長に対して透明であるならば、当業者に知られたあらゆるこのような袋を用いることができる。
本発明のより好ましい具体例では、気体透過性血液保存袋はまた酸素を含む。
処理される組成物はまた、当業者にとって公知のあらゆる生理学的に適合性を有する緩衝剤を含むことができる。このような緩衝剤としてUnisol及びARC 8を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
本発明の方法に従った処理に続き、全血、血液成分又はこれらの1若しくは2以上を含む組成物を貯蔵又は輸血することができる。あるいは、赤血球製剤又は血小板リッチな血漿のような組成物を処理した後、細胞性成分を沈殿させるのに十分な力で組成物を遠心分離することができる。遠心分離後に上清を除去することができ、細胞を再懸濁して残留産物の濃度を下げることができる。
好ましい具体例では、次の方法により、存在するほとんど又は全てのHbが少なくとも80〜99.99%α−ニトロシル−Hbである処理済み赤血球が得られる。
出発材料としての赤血球。溶液中の赤血球を用いるならば、pH5〜6.5又はこの範囲中のあらゆる範囲若しくは値を有する、弱酸性の適当な緩衝液中の赤血球を用いることが好ましい。
出発材料としての全血。全血が用いられるならば、非限定的な例として、糖を含み得る、過剰体積の冷却緩衝溶液中に懸濁された、抗凝血処理された血液を用いることができる。該溶液は好ましくは等張である。糖溶液の非限定的な例として、25〜100,100〜250及び250〜500mMのような、25〜500mM又はこの範囲中のあらゆる範囲若しくは値の濃度を有する、グルコース、シュクロース、マルトース及び/又はフラクトース溶液を挙げることができる。あらゆる公知の適当な塩緩衝剤を用いることができる。次いで、溶液を4〜20℃で、500〜3000gで、3〜90分間、又はこれらの範囲中のあらゆる範囲若しくは値で遠心分離処理することができる。上清及び他の層(例えば、白血球のバフィー層)は除去して貯蔵又は捨てることができ、赤血球沈殿は、等張なシュクロース溶液のような新鮮な緩衝液中に再懸濁することができる。遠心分離洗浄操作を次いで0〜5回繰り返すことができる。
次いで、洗浄された赤血球中のヘモグロビンの最終濃度を公知の方法により決定する。この濃度は好ましくは2〜30mMヘム(すなわち、約0.5〜0.75四量体ヘモグロビン)、さらに好ましくは10〜30mMであり得る。洗浄された赤血球の、ゆるく詰まった沈殿を次いで任意的に、過剰体積(例えば1.5〜10倍、好ましくは1.5〜4倍)の、pH5〜6.2、好ましくは5.6〜6.0、又は該範囲中のあらゆる範囲若しくは数値のpHを有する冷却した緩衝液に再懸濁することができる。
赤血球の脱酸素化。単離された赤血球(血液又は血液成分から単離されたものすなわち単離されたままの赤血球)を、好ましくは公知の適当な方法により脱酸素化することができる。非限定的な例として、赤血球中のHbから酸素を置換して除去するためにアルゴン又は窒素ガスを用いることができる。赤血球懸濁液の色の変化を観察することにより、脱酸素化の進捗を容易に追跡することができる。長時間脱酸素化すると、色は明るい赤色(オキシヘモグロビンの色)から深い紫色(デオキシヘモグロビンの色)に変化する。
酸化窒素処理。気体、固体又は液体状のNOと赤血球とを接触させる方法を包含するいずれかの好ましい方法により、赤血球中のHbの少なくとも80〜99.9999%がα−ニトロシルHbを形成し、すなわち、その酸素化された形態では、非限定的に、α−ニトロシル、β−オキシHbのような形態を形成するように得られた処理済又は貯蔵された赤血球(好ましくは脱酸素化赤血球)とNOとを接触させる。
非限定的な実施例では、2〜20倍過剰量(ヘムに対して)の亜二チオン酸ナトリウム(Na2S2O4)又はニトロソグルタチオンやS−ニトロソシステインのような有機ニトロソチオールの溶液を赤血球懸濁液に加え、1〜1000分間(又はこの範囲中のあらゆる範囲もしくは数値)撹拌することができ、次いで、好ましくは冷却する(0〜20℃)。次いで、過剰当量(例えば、ヘムに対して52〜55%のような、51〜80%の範囲)の亜硝酸ナトリウム(NaNO2)又は有機ニトロソチオールを赤血球懸濁液に導入することができる。亜硝酸ナトリウムは亜二チオン酸ナトリウムと化学量論的に直ちに反応して酸化窒素を形成し、これはヘモグロビンのα−ヘム基と結合してα−ニトロシルHbを形成する。弱酸性pH(5.8のような、5.0〜6.5の範囲)を任意的に用いてα−ニトロシルヘモグロビンの形成を促進することができる。任意的に、約1〜10%(例えば2〜5%)過剰の亜硝酸塩又は有機ニトロソチオールを加えて、ヘモグロビンの全てのα−サブユニットにNOが結合することを確保し、未反応のヘモグロビン分子が残る可能性を少なくすることができる。大過剰の亜硝酸ナトリウム又は有機ニトロソチオールを懸濁液に添加することは好ましくは避ける。なぜなら、より多量の亜硝酸塩を用いることによりNOがβ−サブユニットに結合し得るからである。
得られた懸濁液を次いで、5〜500分間冷蔵し(4℃のような0〜25℃)、任意的に、例えば脱酸素化された等張糖溶液で洗浄して過剰の試薬及び反応副産物を除去することができる。
もし酸素化α−ニトロシルHbが用いられ又は望まれるならば、処理した赤血球懸濁液を空気又は酸素含有気体(又はそれらの混合物)にさらして酸素化α−ニトロシルヘモグロビン(例えば、α−ニトロシル、β−オキシヘモグロビン(α(Fe−NO)β((Fe−O2))を生成させることができる。次いで、電子常磁性共鳴(EPR)スペクトルを任意的に用い(例えば実施例1に記載したように)、所望の産物の形成量を確認することができる。α−ニトロシルヘモグロビンを含む、得られた赤血球は、使用まで、すなわち、例えば輸血のために他の血液成分に加えるまで、0〜15℃で1〜120℃貯蔵することができる。
あるいは、本明細書に記載する赤血球は、本発明の処理済赤血球を提供するために、NOガス、又はこの分野において知られる他の化学反応から形成されたNOで処理することもできる。化学反応により提供されるNOは、該NOが生成された後、生成中又は生成前に赤血球に添加することができる。
上記したα−ニトロシル化合物は、生成したヘモグロビン、リポソーム中に被包されたヘモグロビン又は他のヘモグロビン代替物に適用することができる。それはまた、酸素原子運搬能を有するあらゆるヘモグロビン類似物質に適用することができる。
これに加え、上記した物質のあらゆる可能な修飾は、ニトロシル化合物適用の主題である。
ここで記載した精製又は修飾ヘモグロビンは、異なるアミノ酸配列を有するあらゆる天然又は遺伝子組換え産物を包含する、あらゆる、部分的又は全面的な、化学的又は遺伝学的な、これらのヘモグロビンのサブユニットに加えられた修飾を包含する。ヘモグロビンサブユニット分子の組合せに対する可能な全ての修飾及び化学的に架橋されたあらゆる種類のヘモグロビンも包含される。
被包のためのリポソームの形成に寄与するあらゆる種類のリン脂質から成るリポソームに被包されたヘモグロビン、あらゆる形態で被包されたヘモグロビン、酸素を運搬することができるあらゆる人工の化合物又は剤もまた、本発明の範囲に含まれる。
このように、本発明は、精製α−ニトロシルHb、リポソームに被包されたα−ニトロシルHb及び他のα−ニトロシルヘモグロビン代替物、並びにヘモグロビンとして機能する限り、酸素原子を運搬することができるα−ニトロシルヘモグロビン様物質をも包含する。
以下の実施例は、例示のためだけのものであり、添付の請求の範囲に規定される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。当業者にとって、本発明の精神及び範囲から逸脱することの内種々の修飾及び変形が可能であることは明らかであろう。従って、本発明は、添付の請求の範囲の範囲内及びその均等物である限り、本発明の修飾及び変形を包含することを意図する。
実施例1
ヘムFe−His(F8)結合及びそのα−サブユニットが突然変異又は化学修飾により弱められ又は切断されると、Hbは、低親和性極限状態(Fujii,M.,et al.,J.Biol.Chem.268:15386(1993))と呼ばれる、新たな、極めて低親和性の官能状態に自らをロックしてしまう。人工的に合成されたHbハイブリッドであるα(porphyrin)β(Fe)(Fujii,M.,et al.,J.Biol.Chem.268:15386(1993))、及び天然のHb突然変異体であるHbMIwate(α58His→Tyr)(Hayashi,A.,et al.,J.Biol.Chem.241:79−84(1966))及びHbMBoston(α57His→Tyr)(Suzuki,T.,et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.19:691−695(1965))は、このような状態にあるものである。これらのα−サブユニット中の補欠分子族の配位構造を模式的に図1B,C及びDでそれぞれ比較する。これらの低親和性極限Hbに共通な構造は、ヘムFeの存在でもなく、価数状態でもなく、末端側の構造でもなく、α−サブユニット中でのヘムFeと基端(F8)残基(d)のα−炭素の結合の消失又はねじれ/引っ張りである(Fujii,M.,et al.,J.Biol.Chem.268:15386(1993))。これらの低親和性極限Hbは、非協働的、非アロステリック、極低親和性状態として機能的に特徴付けられる。これらのHbの酸素結合曲線は、O2への親和性が極めて低く、pH(非ボーア効果)及び有機ホスフェート(非アロステリック)に対して非感受性な双曲線(非協働的)である。
精製したα−ニトロシルHb、α(Fe−NO)β(Fe)は、O2が可逆的にβ−サブユニットに結合すると主として5−配位型から主として6−配位型に可逆的に変化するEPRスペクトルを示す。これらの結果は、α−ニトロシルHb、α(Fe−NO)β(Fe)は、O2の非存在下では、切断されたα−ニトロシルヘムFe−His(F8)結合を有する低親和性極限状態が主であり、O2の存在下では、4結合、6−配位Hb二ついて一般的に予想されるように、再形成されたα−ニトロシルヘム−His(F8)結合を有する高親和性状態になる。従って、低親和性極限状態が永久的で酸素化とは無関係な、HbMIwate及びHbMBostonとは対照的に、α−ニトロシルHb、α(Fe−NO)β(Fe)の低親和性極限状態は、酸素化されると候親和性状態に可逆的に変化する。α(Fe−NO)β(Fe)の5−配位と6−配位α−ニトロシルヘム種の間の平衡は、O2、H+及び2,3−ビホスホグリセレート(BPG)やIHPのような有機ホスフェートの相互作用の複雑な関数である(図3)。より高いpHにおける、増大されたO2飽和においては、6−配位種(高親和性状態)が好まれ(図2D)、一方、より低いpHでO2の非存在下およびIHPの存在下では、5−配位種(低親和性極限状態)が主である(図2C)。酸素化により誘導される配位平衡のシフトは、高pH側で大きく、低pHになるにつれて連続的に小さくなる(図4)。IHPの存在下でpH4.8では、α(Fe−NO)β(Fe)のα−ニトロシルヘムは本質的に(約100%)5−配位性になり(図2C)、その配位状態はO2とはほとんど無感懐に成る。このことは、このような条件下では、α(Fe−NO)β(Fe)が低親和性極限状態に近づいていることを示している。従って、α(Fe−NO)β(Fe)の酸素結合は、極端な酸性下では、非協同的でアロステリック的に非感受性になるものと予測される。
α−ニトロシルHb、α(Fe−NO)β(Fe)は、上記した配位並行のEPR測定の結果(図4)から予想される酸素結合行動(図5)を示す。α−ニトロシルHbは、部分的にCOが結合したHbと非常に類似して、アルカリpHにおいては、協働性の高親和性のO2キャリアとして行動する(図5D)。これは、酸性pH下では、α(ポルフィリン)β(Fe)2,HbMIwate及びHbMBostonのような永久的低親和性極限Hbと全く同様な本質的に非協働性の低親和性O2キャリアとなる(図5A)。中世pH領域では、それは種々のO2親和性を有する、協働的なアロステリック的に感受性のあるO2キャリアとなる(図5B及び5C)。このように、α−ニトロシルHb、α(Fe−NO)β(Fe)は、O2、H+、BPG又はIHPの結合を制御することにより、Hbの一連の高親和性、低親和性及び低親和性極限状態に転換することができる。
末梢組織に多い、もう1つの生理学的アロステリックエフェクターである二酸化炭素は、おそらく、他の因子と全く同様にしてα−ニトロシルHbに影響を与えることができる。低pH下では、そのO2親和性が連続的に減少するので(pH7.4以下でΔH+=−0.9)、末梢組織へのO2供給の効率としてのボーア効果は、α−ニトロシルHbがHbよりも生理学的により好ましい。このように、生理学的環境下における、CO2のα−ニトロシルHbに対するアロステリック効果は重要である。一方、HbのO2親和性の減少は、およそ中性pHでは横ばいになるので(pH7.4付近ではΔH+=−0.5)、Hbは、酸性pH下では、組織へのO2の供給がより非効率的になる。
我々は、赤血球の内部にNOをゆっくりと注入することにより、傷つけられていない赤血球の内側にある本質的に全てのHb分子をα−ニトロシルHbにする方法を発明し、そのより生理学的な環境下における可能な役割を評価するために、そのO2−結合特性を調べた(実施例4参照)。予想に反し、α−ニトロシルHbは、好気的条件下においてさえ、metHbへの酸化に対して驚くほど安定であることが見出された。調製されたα−ニトロシルHbは、溶液中のものも赤血球中のものも、7日間という長期間0℃に好気的に貯蔵した場合であっても、検出可能な量のmetHbの形成を示さなかった。赤血球内のα−ニトロシルHbの酸素結合特性(図6)は、有機ホスフェートが赤血球膜を通過しないので有機ホスフェートの効果を定量的に見積もることができなかったことを除き、本質的に溶液でのデータ(図5)を確認するものであった。さらに、BPGの赤血球内濃度は、赤血球の年齢及び代謝活性並びに貯蔵条件及び実験媒体に依存して変化し得る。それにもかかわらず、赤血球内のα−ニトロシルHbは、その酸素運搬容量がHbの僅かに半分ではあるが、疑うことなくHbよりも効率的に組織にO2を分配することができることが明らかである。
オキシHb、α−ニトロシルHb及びテトラニトロシルHbは、高温下の好気的条件下において最終的にはmetHbに酸化されるが、封鎖されたNOは遊離のNOとしてα−ヘムから遊離されることは決してない。その代わり、それは硝酸塩へ酸化される。オキシHb、α−ニトロシルHb及びテトラニトロシルHbのmetHbへの酸化の半減期は、15℃においてそれぞれ39,29、及び27時間であるが、37℃ではそれぞれ780,120及び38分間に減少する。形成されたmetHbは、赤血球内においてHbリダクターゼにより生物学的に活性なHbにリサイクルされ、硝酸塩が排出されてNO除去が完了する。
赤血球内の検出可能なα−ニトロシルHbの定常状態における濃度は、生体内ではHbの全ヘムの約2%(すなわち約400μM)を決して超えることはないので、血液のO2結合に対するその全体的な影響は明らかに無視できる。最近、ラットの肝シヌソイドにおける、ニトログリセリンにより誘導されたO2分配の増大は、α−ニトロシルHbによる効率的なO2分配に起因することが報告された(Kosaka,H.,and Seiyama,A.,Nature Medicine 3:456−459(1997))。しかしながら、ニトログリセリンにより誘導されるα−ニトロシルHbの形成はHbの全ヘムの僅か2%未満である(Kosaka,H.,et al.,Am.J.Physiol.266:C1400−C1405(1994))。従って、この報告された観察は、実際、α−ニトロシルHb以外の何らかの因子が組織へのO2分配の観察された増大を明らかに担っている決定的証拠である。
しかしながら、血管平滑筋(eNOSを含むことが知られている)を持たない、前毛細管の細い血管近傍で局所的に生成されたNOは、とりわけ酸性条件下において、実質的な量のHbをα−ニトロシルHbに転換することができ、それによって末梢組織へのO2のより効率的な局所的分配が可能になる。低酸素性脳障害に対して最も感受性の高い、代謝的に活性な脳は、無酸素/低酸素脳障害に対する明らかな防御機能を持たない。しかしながら、脳内には高濃度のNOS類が存在することが知られている。これらのNOS類のいくつかが、O2をより効率的に分配して、この器官に対する無酸素/低酸素障害を回避するために、Hbのα−ニトロシルHbへの活性化に関与しているということもあり得る。このような仮説を確かめるためには、前−及び後−毛細血管中の赤血球内HbのO2飽和に対する、局所的に生成されたNOの効果を測定しなければならない。
我々は、酸性及び中性pH下において、α−サブユニットへの最初の結合において、NOはHbに「ネガティブアロステリック」リガンドとして結合し、次のβ−サブユニットへの結合においては、O2はホモトロピック(すなわち「ポジティブアロステリック」な配位子として作用することを示した。高pH下では、その結合切断脳が消失するので、アルカリpH下では、あらゆる他の二原子性配位子(CO及びO2)と同様にNOは、単にホモトロピックな配位子としてHbに結合する。従って、α−ニトロシルHbは、アルカリpH下では、酸素化段階では、部分的にCOが結合したHbと同様に行動する(図4D)。Hb−NO相互作用の二重性が理解されたならば、デオキシHbとNOとの反応の運動的及び熱力学的研究における矛盾する観察、すなわち、2状態アロステリックモデル(Hille,R.,et al.,J.Biol.Chem.254:12110−12120(1979)Moore,E.G.,and Gibson,Q.H.,J.Biol.Chem.251:2788−2794(1976))との不一致は容易に説明できる。パートナーα−ニトロシルHb間の配位構造と配位子親和性との相互依存性は、1つの型のサブユニットから他の型のサブユニットに構造情報を伝えることを可能にする、Hbのデリケートな分子構造の証拠である。
最近、β93Cys−SH部位における、S−ニトロ化を介する可逆的なNOキャリアとしてのHbの新規な生理学的役割が報告されている(Jia,L.,et al.,Nature 380:221−226(1996))。しかしながら、動脈血及び静脈血の両方とも十分な量のデオキシHbを含む。デオキシHbのヘム基におけるNOへの親和性(5−配位及び6−配位について、それぞれKD=5x10-12M及び約10-15M)(Gibson,Q.H.,and Roughton,F.J.W.,Proc.Roy.Soc.London B.Biol.Sci.163:197−205(1965))は、オキシHbのβ93Cys−SH基のNOへの推測される親和性と比較して異様に高い。−SHとNOとの間のS−ニトロ化は、1当量のレドックス反応(−SH+NO⇔−S-NO++H++e-)と組み合わせることができるので、スルフヒドリル基のNOに対する真の親和性ははっきりと規定することができない。従って、このようなS−ニトロシル化反応が生理学的条件下で起き、呼吸生理学において有意義な役割を果たしているかはより慎重に調べなければならない。
我々は、α−サブユニットにおける結合を介してNOの除去の最中に、高い代謝活性の故に高pH下では末梢組織へのO2分配が正常なHbよりも効率的な、新規な酸素キャリアであるα−ニトロシルHbにHbが変換されることを示した。この業績は、トランスアキシャルFe−配位子結合を切断できるという、NOの固有の性質を利用することによって、そして、Fe−His結合を切断することによってNOに容易に応答するα−サブユニット中の、束縛されたヘム配位構造を適合させることによって達成された。NOは、呼吸性CO中毒の原因であるCOよりもHbに対する親和性が実質的に高い(>103)にも関わらず、NO吸入による臨床処置の間に、なぜNOが新生児に対して急性の悪影響を引き起こさないかをこれによって説明することができる。このように、Hbは、我々が以前に推測していたよりも敏捷であることがわかった。ヘモグロビンは、高親和性配位子であるNOが常に存在する、血液に敵対する環境において、NOスキャベンジャ及びO2キャリアとして同じに機能し得る。
方法
α−ニトロシルHb、α(Fe−NO)β(Fe)及びα−ニトロシルHb含有赤血球の調製
α−ニトロシルHbは、ヒトHbの単離したニトロシル化α−サブユニットと単離したオキシβ−サブユニットとを好気的に化学量論量で結合させることにより調製した。得られた生成物、α(Fe−NO)β(Fe−O2は、直ちに使用し又は液体窒素温度で貯蔵した。酸化窒素は、α−サブユニットに堅固に結合される(推定
Figure 0003568541
ので、α−サブユニットからの検出可能なNOの媒体への離脱及びサブユニット間でのβ−サブユニットへの移行は、β−サブユニットが結合されている限り、調製、実験及び貯蔵中に観察されなかった。一方、β−サブユニットに結合したNOは容易にデオキシα−サブユニットに移動する。赤血球内のHbのα−ヘムニトロシル化の進行をEPRにより連続的に監視しながら、洗浄した赤血球の等張懸濁液を嫌気的条件下で緩慢なNO−生成系にさらした。赤血球内のHbの総ヘムの50%強がニトロシル化されたとき、洗浄/低速遠心分離を数回繰り返してNO−生成系を除去した。洗浄した赤血球懸濁液は、β−サブユニットからα−サブユニットへのNOの移動がほとんど終了するまで、洗浄した赤血球懸濁液を0℃で嫌気的に維持した。次いで赤血球懸濁液をO2にさらし、長時間0℃で貯蔵した。
EPR測定
EPR測定は、Varian E106 X−band EPRスペクトロメーターを9.11GHz、フィールドモジュレーション100kHz、振幅2.0ガウス、マイクロ波電力20mWで液体窒素温度下で行った。適当な緩衝液中に0.5mMヘムの濃度で溶解したヘモグロビン調製物を、EPR測定のために凍結する前に、純粋なO2ガスでパージングすることにより酸素化し、又は、真空化と無O2アルゴンガスで15℃で30分間パージングすることを繰り返すことにより脱酸素化した。
酸素平衡測定
酸素平行測定は、Imai細胞(Imai,K.,Allosteric Effects in Hemeoglobin,Cambridge University Press,London(1982))の修飾バージョンを用い、溶液についてはOlis−Cary 118二重光線分光光度計(ジョージア州ボガート)を、赤血球懸濁液についてはOlis−Hitachi 557二重波長分光光度計(ジョージア州ボガート)を用いて行った。
上記の実施例は、本発明の方法及び組成物が、NOで赤血球を処理して、全血、血液成分又は誘導体のような、赤血球含有溶液中のHbの酸素分配を高めるのに適当で有用であることを示している。
実施例2
我々は、生理学的条件下で形成される、部分的にNOが結合したヘモグロビン(Hb)が、正常なHbと同程度に効率的に、実際、活発な代謝活動中に組織において予想される酸性条件下においては正常なHbよりも効率的にO2を組織に分配することができる新規なO2キャリアであることを見出した。これは、α−ニトロシルHbを調製し、そのO2結合特性を溶液中で測定することにより示された。NOにより誘導されるHbの構造変化の分子気候は、周知のNOとHbの配位性質に基づき、また、突然変異体HbMIwateとHbMBostonの構造及び機能を比較することによって説明されている。
我々は、Hbが効率的なNOスキャベンジャ及び効率的なO2キャリアとして同じに働き、また、血液中のNOは良く知られているように血管拡張剤としてのみ機能するのではなく、Hbがより効率的にO2を末梢組織に分配することを助けるものであると結論する。我々の知見により、持続性高血圧の新生児の治療に臨床的に用いられている「NO吸入」がなぜ急性の悪影響を与えないかが説明される。
より重要なことに、我々の発見は、期限切れの血液を輸血のために回復される実際的な可能性を示す。血液銀行において、一定期間貯蔵後の大量の血液が捨てられている。なぜなら、天然のアロステリックエフェクターである2,3−ビホスフォグリセレート(BPG)の濃度が減少し、赤血球内のpHもまた減少し、Hbが高親和性状態になるからである。このように、貯蔵された血液は輸血のためには無効になる。BPG及び他のアロステリックエフェクターを包含する多くの化合物が赤血球膜を透過できないため、これらの化合物を外部から加えてもその赤血球内濃度を元に戻すことはできない。
さらに、α−ニトロシルHbは、低いO2親和性を有し、BPGの存在下におけるHbと同様、右側にシフトしたO2結合曲線を有する。従って、我々は、貯蔵された血液の正常なHbをα−ニトロシルHbに変えて、期限切れになった血液のO2分配の効率を改善するという思想を提案した。
上記の実施例は、本発明の方法及び組成物が、NOで赤血球を処理して、全血、血液成分又は誘導体のような、赤血球含有溶液中のHbの酸素分配を高めるのに適当で有用であることを示している。
実施例3
酸化窒素(NO)は、主として、種々の組織におけるシグナル変換の第2のメッセンジャーであるcGMPの生産において、可溶性のグアニレートシクラーゼを活性化することにより、多くの生きた細胞性の生理学的及び生化学的反応のレギュレーターとして機能する。血液中の酸化窒素は、内皮性NO合成及び他の供給源による連続的なNOの供給と、赤血球中でのオキシヘモグロビン(オキシHb)によるNOの迅速な除去との動力学的バランスにより、マイクロモーラーレベルの定常濃度に良く維持されている。血液中の酸化窒素は、赤血球中に迅速に拡散し、オキシHbと反応してmetHbとNO2−/NO3−とを形成する。このように形成されたmetHbは、赤血球中の活性なmetHbリダクターゼにより直ちにデオキシHbに還元される。血液中のHbの相対濃度(赤血球中20mMヘム)に対するNOの相対濃度(血漿中<1μM)は非常に限られている。このような条件下では、NOはデオキシHbを優先的にα−ニトロシルHb[α(Fe−NO)α(Fe)β(Fe)又はα(Fe−NO)β(Fe)]に変換する。我々は、これが生理学的条件下ではアロステリックな、低親和性O2キャリア(Hb及びα(Fe−NO)β(Fe)についてそれぞれP50=30及び50torr)であり、これがためにO2の末梢組織へのより効率的な分配が容易になることを見出した。EPR及びNMR測定により、デオキシα−ニトロシルHb[α(Fe−NO)β(Fe)]のα−サブユニット中のFe−His(F8)結合が切断され、HbMIwaste[α(Fe[III]87His→Tyr)β(Fe)],HbMBoston[α(Fe[III]58His→Tyr)β(Fe)及びα(プロトポルフィリン)β(Fe)](Fujii,et al.,J.Biol.Chem.268−:15386−15393(1955))のような他の公知のT−(低親和性極限)Hbsにおいて観察されるように、極めて低いO2親和性を有するT−(低親和性極限)への四量体構造の遷移が引き起こされる。主としてT−(低親和性極限)状態にあるα(Fe−NO)β(Fe)は、β−サブユニットが酸素化されると可逆的にFe−His(F8)結合を形成し、その四量体構造をR−状態に向かってシフトさせる。このため、α(Fe−NO)β(Fe)は、アロステリック的に感受性のある、低親和性O2キャリアになり、静脈内のPO2=40torrの下では結合されたO2のほとんど全てを遊離してデオキシ状態になる。一方、正常なHbは、静脈内でも75%が酸素化されたままである。このように、血液中のNOは、血管拡張作用、及びアロステリックな低親和性Hb、α(Fe−NO)β(Fe)の形成を介して組織への酸素分配の増大を容易にする。NOのHbへの結合及び可溶性グアニレートシクラーゼは、ヘム補欠分子族中のFe−Hisのトランスアキシャル切断を引き起こし、その結果タンパク質の立体構造が変化する(HbにおいてはT−(低親和性極限)低親和性状態へ、可溶性グアニレートシクラーゼにおいては活性化状態へ)。このように、NOの生理学的レギュレーターとしての固有の特徴は、これが6−配位状態よりも5−配位ヘム構造を含むことに起因して、これが結合するとヘムのFe−His結合がトランスアキシャル的に切断されるという、固有の配位性にひたすら依存する。
上記の実施例は、本発明の方法及び組成物が、NOで赤血球を処理して、全血、血液成分又は誘導体のような、赤血球含有溶液中のHbの酸素分配を高めるのに適当で有用であることを示している。
実施例4
以下の方法は、存在するほとんど又は全てのHbが、少なくとも80〜99.99%α−ニトロシル−Hbになる処理された全血を提供する。赤血球含有希釈液は、生理学的に適合性を有する緩衝液中に提供され、処理方法は、
(a) 赤血球中のHbを脱酸素化する、そして
(b) Hbの少なくとも80〜99.999%がα−ニトロシルHbに転化されるように、NOをHbのヘム濃度の50〜55%当量含む希釈液を提供することを含む。
赤十字血液銀行から得た、ヘパリン処理血液(10ml)を、2倍体積の冷却した等張シュクロース溶液(該等張シュクロース溶液は、250mMのシュクロースと、5mMのKClと、2mMのNaH2PO4と、1mMのMgCl26H2Oと、10mMのグルコースから成る)中に懸濁し、1500gで10分間、4℃で遠心分離する。上清及び白血球のバフィー層を注意深く傾瀉し、赤血球のゆるく詰まった沈殿を新鮮な等張シュクロース溶液に再懸濁する。遠心洗浄操作をさらに2回繰り返す。
ゆるく詰まった洗浄した赤血球中のヘモグロビンの最終濃度は、約20mMヘム(すなわち、約5mM四量体ヘモグロビン)である。洗浄した赤血球のゆるく詰まった沈殿を2倍体積の冷却された0.15Mナトリウム−カリウムリン酸緩衝液、pH5.8(このリン酸緩衝液は、0.15M Na2HPO4と0.15M KH2PO4とを混合し、pHを5.8に調整することにより調製する)に再懸濁し、ゴム栓を有する300mlのケルダール型フラスコに移す。該ゴム栓には、3方栓コックを有する2本のステンレススチール製のゲージ20の針が挿入されている。これらの針は、パージング用のガスの入口及び出口として働く。フラスコをゆっくりと連続的に振盪しながら純粋なアルゴン又は窒素(グレード5)を4℃でフラスコ内に流すことにより、赤血球懸濁液は脱酸素化される。赤血球懸濁液の色の変化を観察することにより、脱酸化の進行状態を容易に知ることができる。
長時間に渡り脱酸素化を行うと、色が明るい赤色(オキシヘモグロビンの色)から深い紫色(デオキシヘモグロビンの色)に変化する。次いで、亜二チオン酸(Na2S2O4)の50mg/ml溶液(該亜二チオン酸溶液は、50mg/mlの亜二チオン酸を脱酸素化蒸留水に溶解することにより調製される。蒸留水中に酸素が存在すると、過酸化水素が形成され、これは調製操作を妨害する)を10倍過剰量(ヘムに対して)懸濁液に加える。次いで栓コックを閉じてガスの流通を終了する。
該赤血球懸濁液をゆっくりと1分間攪拌し、氷中で10分間放置する。52〜55%当量(ヘムに対して)の、新たに調製した50mg/mlの亜硝酸ナトリウム(NaNO2)溶液を、懸濁液に針を介して注入する。亜硝酸ナトリウムは、亜二チオン酸と化学量論量的に直ちに反応して酸化窒素を形成し、酸化窒素はヘモグロビンのα−ヘム基と結合する。
懸濁液の弱酸性(pH5.8)シュクロース緩衝液は、α−ニトロシルヘモグロビンの形成を促進する。約2〜5%過剰の亜硝酸塩を添加してヘモグロビンの全てのα−サブユニットにNOが結合することを確保し、これによって未反応のヘモグロビン分子が残留する可能性を減少させる。懸濁液に大過剰の亜硝酸ナトリウムを添加することは避けなければならない。なぜなら、大量の亜硝酸塩の存在下ではNOのβ−サブユニットへの結合が起きるからである。
懸濁液を4℃で1時間放置した後、フラスコのゴム栓をはずす。次いで、懸濁液を、冷却した脱酸素化等張シュクロース溶液で3回迅速に洗浄して過剰の試薬および反応副産物を除去する。次いで、懸濁液を空気にさらして酸素化(α−ニトロシルヘモグロビンすなわちα−ニトロシル、β−オキシヘモグロビン(α(Fe−NO)β(Fe−O2)を生成する。この生成物は、上記実施例1に記載したように、電子常磁性共鳴スペクトルによって最も良く同定される。このようにして調製された、α−ニトロシルヘモグロビン含有赤血球の懸濁液は、長期間に渡り氷中で貯蔵される。
上記の実施例は、本発明の方法及び組成物が、NOで赤血球を処理して、全血、血液成分又は誘導体のような、赤血球含有溶液中のHbの酸素分配を高めるのに適当で有用であることを示している。本発明を完全に記載したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、かつ、過度の実験を行うことなく、広範囲の均等なパラメーター、濃度及び条件下で本発明を実施することができることが当業者にとって理解されるであろう。
本発明を特定の具体例に基づいて記載したが、さらなる修飾が可能であることが理解されるであろう。本願は、一般的に本発明の原理に従うあらゆる変形、用途及び改変をカバーするものであることを意図しており、添付の請求の範囲の範囲内の本質的な特徴に適用することができる、この分野において公知又は慣用手段の範囲内において、本開示から離れたものを包含する。
雑誌の記事及び要約、発行された又は対応する米国及び外国特許出願、発行された米国及び外国特許並びにあらゆる他の文献を包含する、本明細書に言及された全ての文献は、全てのデータ、表、図及びテキストを含んで全てその全体が本明細書に組み入れられたものとする。さらに、本明細書で引用した文献の中で引用されている文献の全内容もまた、本明細書に組み入れられたものとする。
公知の方法工程、従来の方法工程、公知の方法又は従来の方法への言及は、本発明のいかなる局面、記述又は具体例が、関連技術の中において開示され、教示され又は示唆されていることを自認するものではない。
上記した特定の具体例の記述により、本発明の一般的な性質が完全に開示されているので、当業者の知識(本明細書で引用した文献の内容を含む)を適用することにより、過度の実験を行うことなく、本発明の一般的概念から逸脱することなく、これらの特定の具体例を、種々の用途のために容易に修飾及び/又は改変することができる。従って、個のような改変及び修飾は、本明細書に記載した教示及びガイドに基づき、開示された具体例の均等の範囲内であることを意図する。本明細書中の術語又は用語は、本明細書に記載した教示及びガイドを当業者の知識と組み合わせて当業者に解釈されるように、記述の目的のために使用するものであって、限定のためのものではない。
Figure 0003568541
Figure 0003568541

Claims (9)

  1. ヘモグロビン含有赤血球を含む希釈液を処理してヘモグロビンの酸素分配能力を増大させる方法であって、
    (a) (i) 前記希釈液を脱酸素化し、次いで、
    (ii) 前記赤血球中の前記ヘモグロビンの少なくとも 80%がα−ニトロシルヘモグロビンに転化されるように 前記希釈液中にNOを提供することを含む方法により前記希釈液に酸化窒素(NO)を添加して、少なくとも80%がα−ニトロシル−ヘモグロビンであるヘモグロビンを含む赤血球を有する、NO処理希釈液を形成し、
    (b) 前記NO処理希釈液を回収
    (c) NO処理希釈液を酸素化することを含む、方法。
  2. 前記NO処理希釈液中の前記ヘモグロビンの少なくとも9%が前記α−ニトロシル−ヘモグロビンである、請求項1記載の方法。
  3. 前記NO処理希釈液中の前記ヘモグロビンの少なくとも99%が前記α−ニトロシル−ヘモグロビンである、請求項記載の方法。
  4. (d) 哺乳動物への輸血に適当な血液組成物を形成する前記NO処理希釈液に少なくとも1種の血液成分を添加することをさらに含み、該血液組成物は、処理されていない前記希釈液に比較して改善された酸素分配能力を有する、請求項1ないし3のいずれか1項に 記載の方法。
  5. 前記NOは、化学反応の生成物として生成させることにより前記希釈液に添加される、請求項1記載の方法。
  6. 前記化学反応は、前記添加工程の最中に行われる請求項記載の方法。
  7. NOは、NOを直接前記希釈液と接触させることにより添加される請求項1記載の方法。
  8. 前記希釈液は全血又は少なくとも1つの血液成分を含む、請求項1記載の方法。
  9. 前記全血又は少なくとも1つの血液成分は、少なくとも3週間貯蔵されたものである、請求項記載の方法。
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