JP3564937B2 - 超電導薄膜回路 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、基板上に複数個の超電導薄膜素子を配置してそれらを超電導薄膜からなる線路で配線して得られる超電導薄膜回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
基板上に複数個の超電導薄膜素子を配置してそれらを超電導薄膜からなる線路で配線して得られる超電導薄膜回路の第1の従来例として、信技報MW93−8(1993年4月)に示されるものがある。そこでは、高周波(RF)フィルタ、局部発振波(LO)フィルタ、そして中間周波(IF)フィルタの3種類の超電導フィルタとジョセフソン素子からなる回路を同一基板上に薄膜形成して得られる超電導薄膜回路が示されている。
【0003】
また第2の従来例として、1994年春季第41回応用物理学関係連合講演会講演予稿集No.1のp.120における29a−ZV−6に示されるものがある。そこでは、2個のパッチアンテナとジョセフソン素子からなる超電導薄膜回路がしめされている。この超電導薄膜回路には、2個のラジアルスタブとそれらを結ぶマイクロストリップラインからなるIFフィルタも含まれている。
【0004】
なお、第1と第2のどちらの従来例においても、そこで用いられている基板のサイズは20mm角である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上に述べた2つの従来例には、限られた基板サイズの中に複数の超電導薄膜素子を配置しているので、各素子の特性および素子配置の適性化がなされているとは言い難いという問題があった。この問題は、フィルタのサイズは取り扱う信号の波長と直接関係していること、また高周波では複数の素子が互いに近接しすぎると相互干渉が生じることに起因している。この問題は基板サイズを大型化すれば解決できるようにもみえる。しかし、基板サイズを大型化することには技術的困難がある。また、仮に大型化できたとしても、基板コストが高いこと、大面積の冷却が必要になるため冷凍システムも大掛かりになること等の別の問題が生じてくる。したがって、基板を大型化して素子特性と素子配置を適性化するという方法は得策ではない。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる欠点を解決するものであって、基板上に超電導アンテナと該超電導アンテナと接続する超電導フィルタを含む回路を形成して得られる超電導薄膜回路において、前記超電導アンテナと前記超電導フィルタは、前記超電導アンテナにより送受する電磁波の基板内における波長の2分の1以上の距離をおいて基板上に配置されていることを特徴とする。
【0008】
さらにまた、基板上に複数個の超電導薄膜素子を配置してそれらを超電導薄膜からなる線路で配線して得られる超電導薄膜回路において、基板はバイクリスタル基板であって、バイクリスタル接合を構成する2枚の基板の誘電率が異なっていること、必要に応じて、バイクリスタル接合部を超電導細線が横切る構造からなるミキサを含む超電導薄膜回路であって、バイクリスタル接合部によって分割される基板領域の一方の領域にミキサ入力前の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成し、他方の領域にミキサ出力後の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成したこと、ミキサ出力後の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成した領域の基板の誘電率は、ミキサ入力前の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成する領域の基板の誘電率より高いことを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0010】
(実施例1)
図1は、本発明の第1の実施例における超電導薄膜回路の平面図である。図1において、11は基板、12はバイクリスタル接合部、13はアンテナ、14はRFフィルタ、15はLOフィルタ、16はミキサ、そして17はIFフィルタである。また、図1において記号dで示される長さはアンテナ13とRFフィルタ14の距離である。
【0011】
アンテナ13、RFフィルタ14、LOフィルタ15、ミキサ16、そしてIFフィルタ17のそれぞれの電極部分は超電導薄膜からなる。すなわち、これらの回路素子はすべて超電導薄膜素子である。特にミキサ16は、超電導細線が基板11のバイクリスタル接合部12を横切ることによって形成されるジョセフソン素子である。
【0012】
基板11の材料はMgOであり、その比誘電率は10である。また、基板サイズは20mm角である。超電導薄膜の材料はすべてYBCO系超電導体であり、その超電導臨界温度Tcは約90Kである。
【0013】
本超電導薄膜回路は、12GHzのRF信号をアンテナ13で受信し、それをLOフィルタ15を通して入力される11GHzのLO波とミキサ16を用いて周波数混合して1GHzのIF信号を取り出す周波数混合回路である。ここで、RFフィルタとLOフィルタはそれぞれ12GHz帯と11GHz帯のバンドパスフィルタとして機能し、またIFフィルタは1GHzを透過させるローパスフィルタとして機能する。RFフィルタ14は、アンテナ13とミキサ16との間に挿入されている。その役割は、アンテナ13から入ってくるノイズを除去することとLO波がアンテナ13に到達してそこから放射することを防ぐことである。
【0014】
本超電導薄膜回路が取り扱う最も高い周波数である12GHzの信号を受け持つアンテナ13とRFフィルタ14については、両素子間の相互干渉を評価して、相互干渉ができる限り小さくなるように両素子間の距離を決定することが必要になる。そこで、まず第1にアンテナとRFフィルタの距離の決定方法について説明する。
【0015】
相互干渉の評価は電磁界解析シミュレーションを用いて行なうことができる。本超電導薄膜回路の設計においては、アンテナとRFフィルタの距離dと、アンテナとRFフィルタからなる系におけるRFフィルタのアンテナと結ばれていない方の端子の反射係数との関係を評価して、反射係数をできる限り小さくするようにした。この系のアンテナはアンテナ単体の共振周波数が受信周波数である12GHzになるように設計されていて、評価はこの周波数において行なった。
【0016】
図2は、アンテナとRFフィルタの距離と反射係数の関係を示す図である。図2の横軸には、距離dのかわりに、それをアンテナ単体の共振周波数の基板内における波長λで規格化した値d/λが用いられている。図2のグラフは、d/λが2分の1より小さくなると反射係数が急激に大きくなることを示している。これはd/λが2分の1より小さい場合にはアンテナとRFフィルタの相互干渉が強く、アンテナ単体における設計性能を引き出しにくいことを意味している。したがって、アンテナ性能をRFフィルタとの干渉を避けて充分引き出すためには、d/λを2分の1以上にすることが必要である。
【0017】
本超電導薄膜回路ではd/λを2分の1とした。このときアンテナとRFフィルタからなる系のアンテナ利得は約4dBである。アンテナ単体の利得は約5dBであり、またRFフィルタ単体の挿入損失は約1dBであるから、アンテナとRFフィルタの干渉による利得低下はほとんど0である。
【0018】
第2に、本超電導薄膜回路のIFフィルタについて説明する。
【0019】
IFフィルタは、2個のラジアルスタブとそれらを結ぶマイクロストリップラインから構成されている。このマイクロストリップラインの特徴は、その形状がメアンダ形状になっていることである。
【0020】
IFフィルタはローパスフィルタとして機能し、その遮断周波数はマイクロストリップラインの長さに支配される。すなわち、その長さが長いほど遮断周波数は低くなる。
【0021】
さて、本超電導薄膜回路で用いられる1GHzのローパスフィルタでは遮断周波数を1GHzと2GHzの間に設定することが必要である。その理由は、1GHz中間周波の高調波である2GHzを遮断するためである。ところが、遮断周波数が2GHz以下の直線状のマイクロストリップラインを用いたローパスフィルタを20mm角サイズの基板に収めることは、他の回路素子との配置関係を考慮すると、サイズ的に困難であることが電磁界解析シミュレーションによって判明した。
本超電導薄膜回路では、IFフィルタにメアンダ形状のマイクロストリップラインを用いることによって、この問題を解決している。すなわち、直線をメアンダ形状にすることによって狭い領域の中で長い距離をもつマイクロストリップラインを得ている。
【0022】
この場合、マイクロストリップラインの一部が他の一部と隣接することになるので、それらの間に相互干渉が生じてIFフィルタの特性が所望の特性からずれていまう恐れがある。それゆえ実際に所望の特性が得られているかどうかことを評価しておくことが必要になる。その評価は電磁界解析シミュレーションによって行なうことができる。
【0023】
図3は、メアンダ形状のストリップラインを用いたIFフィルタの周波数と透過係数の関係を示す図である。図3のグラフは、このIFフィルタが1.5GHz近傍に遮断周波数をもつこと、2GHz以上の周波数領域では4.5GHz付近を除いて良好な遮断特性をもつことを示している。4.5GHz付近には、RF周波数、LO周波数、IFの高調波に対応する周波数のいずれも存在しないから、この付近における遮断特性の劣化はIFフィルタの機能の観点からは問題にならない。
【0024】
本実施例では超電導細線がバイクリスタル接合部を横切ることによって形成されるジョセフソン素子を用いた超電導薄膜回路について説明したが、本発明は、これに限られるものではなく、段差型などの他の構造からなるジョセフソン素子を用いた超電導薄膜回路にも応用することができる。
【0025】
(実施例2)
図4は、本発明の第2の実施例における超電導薄膜回路の平面図である。図4において、21は基板、22はバイクリスタル接合部、23はアンテナ、24はRFフィルタ、25はLOフィルタ、26はミキサ、そして27はIFフィルタである。
【0026】
本実施例における超電導薄膜回路の基本的な構成と動作は第1の実施例における超電導薄膜回路と同じである。
【0027】
本実施例と第1の実施例との相違点は、本実施例では基板21として異なる誘電率をもつ2枚の基板から構成されるバイクリスタル基板が用いられていることである。もう1つの相違点は、IFフィルタを構成するマイクロストリップラインが直線なっていることである。以下、これらの点について説明する。
【0028】
図4は、バイクリスタル接合部によって分割される基板領域の一方の領域には、アンテナ23、RFフィルタ24、そしてLOフィルタ25というミキサ入力前の信号を取り扱う超電導薄膜素子が形成され、他方の領域にはIFフィルタ27というミキサ出力後の信号を取り扱う超電導薄膜素子が形成されていることを示している。さらに言えば、本超電導薄膜回路では、ミキサ出力後の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成した領域の基板の誘電率はミキサ入力前の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成した領域の基板の誘電率より高くなるように基板の組み合わせが選択されている。
【0029】
さて、基板内における電磁波の波長は基板の誘電率が高くなるほど短くなる。本超電導薄膜回路では、この原理にもとづいて直線のマイクロストリップラインを用いたIFフィルタを得ている。このIFフィルタは、第1の実施例で示したメアンダ形状のマイクロストリップラインを用いたIFフィルタより設計が容易で所望の特性を容易に得られるという長所をもつ。一方、第1の実施例には、同種基板から構成される安価なバイクリスタル基板を用いることができるという長所がある。
【0030】
本超電導薄膜回路においてミキサ出力後の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成した領域の基板の誘電率はミキサ入力前の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成した領域の基板の誘電率より高くなるように基板の組み合わせが選択されているのは、本超電導薄膜回路が入力信号の周波数を低周波化して出力信号として取り出す周波数混合回路であるからである。入力信号の周波数を高周波化して出力信号として取り出す周波数混合回路では、2つの領域の基板誘電率の高低の関係は本超電導薄膜回路のそれとは反対になる。
【0031】
【発明の効果】
以上述べてきたように本発明によれば、基板上に超電導アンテナと該超電導アンテナと接続する超電導フィルタを含む回路を形成して得られる超電導薄膜回路において、前記超電導アンテナと前記超電導フィルタは、前記超電導アンテナにより送受する電磁波の基板内における波長の2分の1以上の距離をおいて基板上に配置されていること、また、基板上に2個のスタブとそれらを結ぶマイクロストリップラインからなる超電導フィルタを含む回路を形成した超電導薄膜回路において、前記マイクロストリップラインがメアンダ形状であること、さらにまた、基板上に複数個の超電導薄膜素子を配置してそれらを超電導薄膜からなる線路で配線して得られる超電導薄膜回路において、基板はバイクリスタル基板であって、バイクリスタル接合を構成する2枚の基板の誘電率が異なっていること、必要に応じて、バイクリスタル接合部を超電導細線が横切る構造からなるミキサを含む超電導薄膜回路であって、バイクリスタル接合部によって分割される基板領域の一方の領域にミキサ入力前の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成し、他方の領域にミキサ出力後の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成したこと、ミキサ出力後の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成した領域の基板の誘電率は、ミキサ入力前の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成する領域の基板の誘電率より高いことをによって、限られたサイズの基板上に適正な素子特性と適正な素子配置を有する周波数混合機能をもつ超電導薄膜回路を提供することができる。
【0032】
したがって、本発明を高感度と小型化が要求される周波数混合用の超電導薄膜回路に応用すれば、その効果は特に大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例における超電導薄膜回路の平面図。
【図2】アンテナとRFフィルタの距離と反射係数の関係を示す図。
【図3】メアンダ形状のストリップラインを用いたIFフィルタの周波数と透過係数の関係を示す図。
【図4】本発明の第2の実施例における超電導薄膜回路の平面図。
【符号の説明】
11,21 基板
12,22 バイクリスタル接合部
13,23 アンテナ
14,24 RFフィルタ
15,25 LOフィルタ
16,26 ミキサ
17,27 IFフィルタ
Claims (4)
- 基板上に超電導アンテナと該超電導アンテナと接続する超電導フィルタを含む回路を形成して得られる超電導薄膜回路において、前記超電導アンテナと前記超電導フィルタは、前記超電導アンテナにより送受する電磁波の基板内における波長の2分の1以上の距離をおいて基板上に配置されていることを特徴とする超電導薄膜回路。
- 基板上に複数個の超電導薄膜素子を配置してそれらを超電導薄膜からなる線路で配線して得られる超電導薄膜回路において、基板はバイクリスタル基板であって、バイクリスタル接合を構成する2枚の基板の誘電率が異なっていることを特徴とする超電導薄膜回路。
- バイクリスタル接合部を超電導細線が横切る構造からなるミキサを含む超電導薄膜回路であって、バイクリスタル接合部によって分割される基板領域の一方の領域にミキサ入力前の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成し、他方の領域にミキサ出力後の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成したことを特徴とする請求項2記載の超電導薄膜回路。
- ミキサ出力後の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成した領域の基板の誘電率は、ミキサ入力前の信号を取り扱う超電導薄膜素子を形成する領域の基板の誘電率より高いことを特徴とする請求項3記載の超電導薄膜回路。
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