JP3563988B2 - 液圧成形性に優れた高強度鋼管 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液圧成形に用いた場合に優れた成形性を示す高強度鋼管に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
金属製の管を所定の金型にて保持した後、内部に液体を満たし、その液体の圧力を必要な値に制御することによって、あるいはそれに加えて、管の端面を押し込んでいくことによって所望の形状に膨出成形する加工方法が、液圧バルジ加工、または、ハイドロフォーム加工として知られている。
【0003】
従来この加工方法は、配管用突き合わせ溶接継手や自転車のフレームの接続部材などの製造に専ら用いられていたが、最近、板材を曲げ加工などした複数部品を組み合わせて閉断面を有する形状に作られている部品などを、該加工方法によって管材から作製した部品に置換しようとする試みを中心に、自動車部品への適用が検討されるようになってきた。
【0004】
その結果、溶接用継手や自転車のフレーム部材では、被接続管と同材質管を用いることが一般的であったため、ほとんど検討されて来なかった素管の材質が問題とされるようになってきた。
【0005】
ところで、自動車部品に求められる代表的要素は軽量かつ高剛性であり、これを適えるには、部品用素材、すなわち加工用素管は、高強度鋼から成る薄肉管であることが望ましい。しかし、一般に、鋼の高強度化は延性の劣化を伴うため、高強度鋼を用いることは、管の液圧による膨出成形性の劣化に繋がることが多い。そこで同強度の鋼管の中で少しでも液圧による膨出成形性に優れた鋼管を得るためには延性に優れた鋼を用いて鋼管を作製することが有利となる。
【0006】
そのような高強度高延性鋼のひとつとして、残留オーステナイト相(以下、γR)の変態誘起塑性(以下、TRIP)を利用するいわゆるTRIP鋼が知られており、鋼板や鋼管の製造方法が提案されている。
【0007】
例えば特開昭61−157625号公報にはTRIP薄鋼板を得るための製造方法が開示されている。特開平6−88129号公報には曲げ特性を向上させた高強度TRIP鋼鋼管の製造方法が記載されている。一方、TRIP鋼鋼管ではないが類似の例として特開平10−88278号公報には、組織をフェライト相とベイナイト相の二層複合にすることによって液圧バルジ成形性に優れた電縫鋼管を得る方法が、特開平6−158163号公報には、フェライト相とマルテンサイト相の複合組織化による耐摩耗性に優れた鋼管の製造方法が述べられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、液圧成形にはTRIP鋼鋼管が適しているとの考えに基づいて化学成分や「強度と伸びの積」(以下、強度延性バランス)、および「γRの体積百分率」(以下、Vg)の異なる複数のTRIP鋼鋼管を用いて液圧成形試験を行った。その結果、強度延性バランスが高いことの重要性に加えて、Vgがほとんど同じであっても液圧成形性が大きく異なる場合のあることを見出した。このことは、「Vgが多ければTRIP現象の発現が増え、それによってより大きな延性が得られ高成形性をもたらす」とする従来薄鋼板の成形分野で用いられていたTRIP鋼の評価指標のみでは管の液圧成形性は計れないことを意味しているものと思われる。すなわち、管の液圧成形の場合にはVgの大小のみならずγRの特性自体もが成形性に関与していると考えられるのだが、このような視点に立って液圧成形用の高強度鋼管について検討した例は見当たらない。
【0009】
特開昭61−157625号公報ではγRの特性についての検討は為されておらず、かつ鋼管としての使用に関する記載もない。特開平6−88129号公報の発明は、残留応力を低減させて曲げ特性の向上を図るために所定量以上のVgを確保することを提案したものであるが、γRの特性についての検討は全く行われていない。また特開平10−88278号公報や特開平6−158163号公報にはγRに関する記述は為されていない。管状試験片での強度延性バランスに言及した例も見当たらない。
【0010】
そこで本発明は、液圧成形に用いた場合に優れた成形性を示す高強度鋼管を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは管状態での強度延性バランスと、どのような特性を有するγRが液圧成形性にとって有効であるのかを詳細に検討し、必要な強度延性バランス量を明らかにするとともに、更に加えてVgとγR特性が適切に組み合わされている場合に優れた液圧成形性を示すことを見出すに至った。
【0012】
すなわち本発明は、
(1) 質量百分率にて、
C:0.05〜0.3%、
Si:0.5〜3.0%、
Mn:0.5〜2.5%
を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物から構成され、管状試験片による引張強度と伸びの積が15000[MPa・%]以上であり、加えて体積百分率にて2.5%以上の残留オーステナイト相を有し、かつ残留オーステナイト相中のC濃度が全体平均値の5倍以上であることを特徴とする液圧成形性に優れた高強度鋼管。
【0013】
および、
(2) 上記に加えてCr、Ni、Mo、Cu、Ti、Nbのうちの1種または2種以上を質量百分率の合計で3%以下含有することを特徴とする液圧成形性に優れた高強度鋼管。
を要旨とするものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明を見出すに至った実験について説明する。
まず質量百分率(以下、%)でC:0.15%、Si:1.95%、Mn:1.70%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物から成る鋼を常法に基づいて1.6mmの冷延鋼板とした。これを830℃に60秒間保持後700℃まで10℃/秒で除冷、更に400℃まで65℃/秒で急冷し、引き続き同温度に10秒間〜1000秒間保持し、以後空冷した。次に所定の寸法に切断し、歪の導入が円周方向で出来るだけ均一となるようにしてVgとγRの異なった短尺鋼管を多数作製した。鋼管の仕上がり寸法は60.5φ×300mmであり、シーム部はレーザーにて溶接した。同じ条件で熱処理した鋼管を複数本ずつ用意し、管状試験片(JIS11号試験片)での引張強度と伸びの測定、Vgの定量、γRの特性の調査、および成形性の評価に供した。
【0015】
液圧成形試験は、図1にその主要部分の断面図を模式的に示す装置を用いて行った。金型形状は上金型1及び下金型4から成るT型継手とし、溶接線が膨出方向と180°をなすように鋼管(成形前の鋼管の断面2を示す)をセットして軸押し込み用シリンダー5を押し込み、成形を開始した。軸押し込み量は両側とも10mmとし、内圧は軸押し込み量に比例して増加させ、成形後の鋼管の断面3が形成されるように成形した。最終負荷内圧を等間隔で段階的に高めていき管がバーストするまで行った。
【0016】
バーストした内圧よりも一段階低い圧力で成形された管の膨出部の最大周長Lmaxを求め、それを成形前の周長L0で除した値(Lmax/L0)を以って各々の管の成形性を評価した。
【0017】
強度延性バランスは19500〜26000MPa・%であり、Lmax/L0との間に相関は認められなかった。一方、(Lmax/L0)は概ねVgに比例して増加するが、Vgがほぼ同じ管であってもLmax/L0が大きく異なることがあり、その差は最大で約2倍に達した。
【0018】
本発明者らはこうした差違が何故生じるのかを詳細に調査した。その結果γR中に濃化されているC濃度(以下、Cg)の大小がLmax/L0の大小に極めて強い相関を持つことを見出した。そして更に鋭意研究を行った結果、管状態での強度延性バランスが15000MPa・%以上であり、加えてCgが鋼全体の平均C濃度(以下C0)の5倍以上である場合で、かつVgが体積百分率(以下、vol%)で2.5以上である場合に該TRIP鋼鋼管は優れた液圧成形性を有するとの結論を得、本発明を完成させた。
【0019】
以下に本発明の限定理由を述べる。
【0020】
まず鋼材の化学成分について、
CはγRを室温で安定に存在させるために必須の元素である。γRを2.5vol%以上とするためには0.05%以上が必要であるのでこれを下限とする。一方、同0.3%超では溶接性を劣化させるのでこれを上限とする。
【0021】
Siは脱酸元素として有効であり、かつ鋼の強化にも寄与する。しかし3.0%を越えて添加すると圧延が困難となるのでこれを上限とする。一方、本元素はオーステナイト相(以下、γ)へのCの濃化を促進する効果を有する。その効果は0.5%以上で顕著となるので0.5%を下限とする。
【0022】
Mnは高強度化とγRの確保に必要な元素である。しかし0.5%未満では十分な効果が得られず、一方、2.5%を越えて添加しても材質の向上は見られず、むしろ溶接欠陥の原因となり得るのでこれを上限とする。
【0023】
その他の選択添加元素のうちCr、Ni、およびMoは、γの安定化に寄与するのでVgの確保には有効な元素であるため、それぞれ0.06%、0.08%、および0.13%以上添加することが好ましい。CuはγへのCの濃化を助ける働きをする以外に強度調整用としても利用出来るので、0.07%以上添加することが好ましい。Ti、Nbは炭化物の形成を通しての強度調整用に有効であるので、いずれも0.01%以上添加することが好ましい。しかしこれらの元素の添加は製造コストを高めるのみならず、過剰な添加は延性の低下に繋がるので合計での上限を3%とする。
【0024】
実施例の中で述べるように、Cg/C0が5未満では優れた液圧成形性は得られないので残留γ中のC濃度の下限を全体平均の5倍とする。また、管状試験片による強度延性バランスが15000未満、またはVgが2.5%未満の場合にはCg/C0が5以上であっても優れた液圧成形性は得られないのでそれぞれの値を下限値とする。
【0025】
一方、強度延性バランスが大きい程成形は容易となるのでその上限は特に定めない。
【0026】
VgとCgはそれぞれ独立に制御出来る量ではなく他方の影響を受ける。どちらか一方を過度に高めることは他方を引き下げることに繋がり望ましくない。しかし、その上限値は鋼の化学成分や熱処理条件によって異なり、製造者が自らの製鋼能力や熱処理能力に応じて設定すれば良いものでのあるから特に限定しない。
【0027】
本発明の鋼管の製造条件はTRIP鋼の一般的な製造方法に準じてなされればよく、特に限定されるものではない。熱間圧延は、連続鋳造後直接、または、冷却再加熱後のいずれで為されてもよい。仕上圧延の終了温度(以下、FT)は、鋼板表層部が剪断変形を受けるのを避けるために出来ればAr3点以上とすることが望ましい。熱間圧延材から鋼管を製造する場合には圧延終了から巻き取りまでの間の温度履歴を適宜制御しVgとCgを所定量となるようにする。
【0028】
冷延鋼板を用いて鋼管を製造する場合には、酸洗後に冷間圧延する。冷間圧延率は設備の能力と作業性を考慮して設定すればよく特に限定しない。望ましくは50〜90%とする。
【0029】
冷延板を熱処理してVgとCgを制御する。まずAc1点以上に加熱・保持し、次いでMs点以下の適切な温度まで冷却後保持する。この過程における温度、保持時間、および加熱・冷却の速度は多くの組み合わせが考えられるが、その中から製造設備の能力に鑑み最も効率の良いものを選択すればよい。
【0030】
鋼管原板を所定の寸法に切断後、シーム溶接して鋼管を製造する。この際、後の成形性を出来るだけ損なわないように局所的な変形を与えないように造管することが望ましい。シーム溶接はどのような方法で行ってもよい。
【0031】
一方、原板から鋼管を製造した後、管全体に対して熱処理を行い、組織をTRIP鋼としても良い。また鋼管をシームレス圧延にて製造した後、熱処理する方法も可能である。
【0032】
Cgが液圧成形性に影響を与える理由は必ずしも明確ではない。一般に、Cgが高いとγRのMs点が低下しγRの熱力学的安定度が増すことが知られている。このことはCgの高いγRにおけるTRIPは高歪域において発現され易いことを意味している。管の液圧成形では母管に対して広い範囲の歪が負荷されることから高歪域でTRIPを示す高CgのγRを有する鋼管が優れた成形性を示すものと推測される。
【0033】
【実施例】
本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0034】
(実施例1)
質量百分率で、C:0.18%、Si:1.98%、Mn:1.82%、P:0.01%、S:0.002%、Al:0.030%を含有する鋼片を加熱して2.6mmに熱間圧延した。その際、FTと巻き取り温度(以下、CT)、およびその間の冷却速度を複数の組み合わせにて行った。それらの鋼板を酸洗した後、60.5mmφの鋼管を作製した。シーム方法はTIG溶接とした。JIS11号引張試験片で引張強度、伸びを測定してこれらの鋼管の強度延性バランスを求めるとともに成形性を既に述べたものと同じ方法で評価した。またVgとCgの測定も行った。鋼管の非溶接部からその一部を切り出し、機械切削と化学研磨を施した試料に対して、X線(MoのKα線)を用いてフェライト相(以下、α)の(200)面と(211)面、γRの(220)面と(311)面の回折強度(積分値)を測定し、次の4式から得られる値の平均を以ってVg(vol%)とした。
【0035】
I(220) γ/(1.35×I(200) α+I(220) γ)
I(220) γ/(0.70×I(211) α+I(220) γ)
I(311) γ/(1.50×I(200) α+I(311) γ)
I(311) γ/(0.78×I(211) α+I(311) γ)
ここでI(200) α、I(211) α、I(220) γ、およびI(311) γは、それぞれ、αの(200)面、αの(211)面、γRの(220)面、およびγRの(311)面の回折強度を示す。
【0036】
またCgは、まずCuのKα線によりγRの格子定数aγを精密に測定し、それを次式に代入して決定した。
【0037】
すなわち、
Cg(%)=(aγ−3.572)/0.033
である。ここでaγの単位はÅ(オングストローム)である。
【0038】
表1に強度延性バランス、Vg、Cg、Cg/C0および成形性指標であるLmax/L0を示す。
【0039】
No.1、4、5、7および10は本発明の範囲外である。特にNo.10は造管後500℃に再加熱してγRを分解させVgをほとんど無くしたものである。このように本発明の範囲内の鋼管であればLmax/L0が1.5以上の高い成形性を有することが明らかとなった。
【0040】
【表1】
【0041】
(実施例2)
表2に主要な化学成分を示す鋼片を常法に基づいて加工し1.6mmの冷延鋼板とした。それらを加工して60.5φの鋼管を作製した。シーム溶接にはレーザーを用いた。得られた鋼管を光輝焼鈍炉を用いて熱処理し、強度延性バランス、Vg、およびCgの異なるTRIP鋼管を作り分けた。その後長さ300mmに切断し、熱処理時に生成したスケールの影響を除くため鋼管外面に金属用塗料を均一に塗布して成形試験に供した。
【0042】
成形試験は図2にその主要部分の断面図を模式的に示す装置を用いて行った。金型形状は上金型1及び下金型4から成る単純(全周方法)拡管型とし、軸押し込み用シリンダー5の軸押し込み量は両側とも15mmとした。それ以外の成形条件、およびVg、Cgの測定は実施例1と同様である。
【0043】
成形試験の結果をVgおよびCg/C0を座標軸として図3に示す。黒丸(●)は強度延性バランスが15000MPa・%以上であることを、白丸(○)はそれが15000MPa・%未満であることを表す。また各記号に鋼名とともに付した数値はLmax/L0である。このように本発明の範囲内の鋼管はLmax/L0が2.0以上の高い成形性を有することが明らかとなった。
【0044】
【表2】
【0045】
【発明の効果】
本発明によれば、液圧成形性に優れたTRIP鋼高強度鋼管を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】T型継手の成形試験に用いた液圧成形装置の主要部分を示す模式図である。
【図2】単純拡管型の成形試験に用いた液圧成形装置の主要部分を示す模式図である。
【図3】成形性指標Lmax/L0をVgおよびCg/C0を座標軸として示すグラフである。
【符号の説明】
1 上金型
2 成形前の鋼管の断面
3 成形後の鋼管の断面
4 下金型
5 軸押し込み用シリンダー
Claims (2)
- 質量百分率にて、
C:0.05〜0.3%、
Si:0.5〜3.0%、
Mn:0.5〜2.5%
を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物から構成され、管状試験片による引張強度と伸びの積が15000[MPa・%]以上であり、加えて体積百分率にて2.5%以上の残留オーステナイト相を有し、かつ残留オーステナイト相中のC濃度が全体平均値の5倍以上であることを特徴とする液圧成形性に優れた高強度鋼管。 - Cr、Ni、Mo、Cu、Ti、Nbのうちの1種または2種以上を質量百分率の合計で3%以下含有することを特徴とする請求項1記載の液圧成形性に優れた高強度鋼管。
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