JP3551791B2 - 内燃機関 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は内燃機関に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より内燃機関、例えばディーゼル機関においてはNOx の発生を抑制するために機関排気通路と機関吸気通路とを排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路により連結し、このEGR通路を介して排気ガス、即ちEGRガスを機関吸気通路内に再循環させるようにしている。この場合、EGRガスは比較的比熱が高く、従って多量の熱を吸収することができるので、EGRガス量を増大するほど、即ちEGR率(EGRガス量/(EGRガス量+吸入空気量))を増大するほど燃焼室内における燃焼温度が低下する。燃焼温度が低下するとNOx の発生量が低下し、従ってEGR率を増大すればするほどNOx の発生量は低下することになる。
【0003】
このように従来よりEGR率を増大すればNOx の発生量を低下しうることはわかっている。しかしながらEGR率を増大させていくとEGR率が或る限度を越えたときに煤の発生量、即ちスモークが急激に増大し始める。この点に関し従来より、それ以上EGR率を増大すればスモークが限りなく増大していくものと考えられており、従ってスモークが急激に増大し始めるEGR率がEGR率の最大許容限界であると考えられている。
【0004】
従って従来よりEGR率はこの最大許容限界を越えない範囲内に定められている。このEGR率の最大許容限界は機関の形式や燃料によってかなり異なるがおおよそ30パーセントから50パーセントである。従って従来のディーゼル機関ではEGR率は最大でも30パーセントから50パーセント程度に抑えられている。
【0005】
このように従来ではEGR率に対して最大許容限界が存在すると考えられていたので従来よりEGR率はこの最大許容限界を越えない範囲内においてNOx およびスモークの発生量ができるだけ少なくなるように定められていた。しかしながらこのようにしてEGR率をNOx およびスモークの発生量ができるだけ少なくなるように定めてもNOx およびスモークの発生量の低下には限度があり、実際には依然としてかなりの量のNOx およびスモークが発生してしまうのが現状である。
【0006】
ところがディーゼル機関の燃焼の研究の過程においてEGR率を最大許容限界よりも大きくすれば上述の如くスモークが急激に増大するがこのスモークの発生量にはピークが存在し、このピークを越えてEGR率を更に大きくすると今度はスモークが急激に減少しはじめ、アイドリング運転時においてEGR率を70パーセント以上にすると、またEGRガスを強力に冷却した場合にはEGR率をほぼ55パーセント以上にするとスモークがほとんど零になる、即ち煤がほとんど発生しないことが見い出されたのである。また、このときにはNOx の発生量が極めて少量となることも判明している。この後この知見に基づいて煤が発生しない理由について検討が進められ、その結果これまでにない煤およびNOx の同時低減が可能な新たな燃焼システムが構築されるに至ったのである。この新たな燃焼システムについては後に詳細に説明するが簡単に言うと炭化水素が煤に成長するまでの途中の段階において炭化水素の成長を停止させることを基本としている。
【0007】
即ち、実験研究を重ねた結果判明したことは燃焼室内における燃焼時の燃料およびその周囲のガス温度が或る温度以下のときには炭化水素の成長が煤に至る前の途中の段階で停止し、燃料およびその周囲のガス温度が或る温度以上になると炭化水素は一気に煤まで成長してしまうということである。この場合、燃料およびその周囲のガス温度は燃料が燃焼した際の燃料周りのガスの吸熱作用が大きく影響しており、燃料燃焼時の発熱量に応じて燃料周りのガスの吸熱量を調整することによって燃料およびその周囲のガス温度を制御することができる。
【0008】
従って、燃焼室内における燃焼時の燃料およびその周囲のガス温度を炭化水素の成長が途中で停止する温度以下に抑制すれば煤が発生しなくなり、燃焼室内における燃焼時の燃料およびその周囲のガス温度を炭化水素の成長が途中で停止する温度以下に抑制することは燃料周りのガスの吸熱量を調整することによって可能となる。一方、煤に至る前に成長が途中で停止した炭化水素は酸化触媒等を用いた後処理によって容易に浄化することができる。これが新たな燃焼システムの基本的な考え方である。この新たな燃焼システムを採用した内燃機関については本出願人により既に出願されている(特願平9−305850号)。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところでこの新たな燃焼システムではEGR率をほぼ55パーセント以上にすると共に空燃比を小さくする必要がある。ところが空燃比を小さくすることが可能なのは吸入空気量が比較的少ないときである。即ち、吸入空気量が一定量を越えるとこの新たな燃焼を行うことはできず、従って吸入空気量が一定量を越えたときには従来より行われている燃焼に切換えざるを得ない。この場合、EGR率を徐々に低下させて、空燃比を徐々に大きくするとスモークが発生し、従ってスモークが発生しないようにするには空燃比を即座に大きくする必要がある。
【0010】
しかしながら実際には吸入空気量やEGRガス量の変化に遅れがあるために空燃比は即座に大きくならず、徐々に大きくなる。従って新たな燃焼から従来より行われている燃焼に切換えられたときには最初に燃焼の行われる気筒の空燃比が十分に大きくならず、空燃比が十分に大きくなるのはその次に燃焼が行われる気筒からである。従って新たな燃焼から従来より行われている燃焼に切換えられた場合には最初に燃焼の行われる気筒の空燃比が特に問題となる。
【0011】
この場合、最初に燃焼の行われる気筒の空燃比がもともと大きければ従来より行われている燃焼に切換えられる際の空燃比の変化量が少なくてすむ。従って新たな燃焼から従来より行われている燃焼への切換えをもともと空燃比の大きい気筒から行えばこの気筒の空燃比は従来より行われている燃焼に適した空燃比近くまで大きくなり、斯くして切換時にスモークが発生するのを抑制できることになる。
【0012】
同様なことが従来より行われている燃焼から新たな燃焼に切換えられる場合にも生ずる。即ち、従来より行われている燃焼から新たな燃焼に切換えられたときには最初に燃焼の行われる気筒の空燃比が十分に小さくならず、空燃比が十分に小さくなるのはその次に燃焼が行われる気筒からである。従って従来より行われている燃焼から新たな燃焼に切換えられた場合にも最初に燃焼の行われる気筒の空燃比が特に問題となる。
【0013】
この場合、最初に燃焼の行われる気筒の空燃比がもともと小さければ新たな燃焼に切換えられる際の空燃比の変化量が少なくてすむ。従って従来より行われている燃焼から新たな燃焼への切換えをもともと空燃比の小さい気筒から行えばこの気筒の空燃比は新たな燃焼に適した空燃比近くまで小さくなり、斯くして切換時にスモークが発生するのを抑制できることになる。
【0014】
【課題を解決するための手段】
従って1番目の発明では、燃焼室内に供給される再循環排気ガス量を増大していくと煤の発生量が次第に増大してピークに達し、燃焼室内に供給される再循環排気ガス量を更に増大していくと燃焼室内における燃焼時の燃料およびその周囲のガス温が煤の生成温度よりも低くなって煤がほとんど発生しなくなる内燃機関において、煤の発生量がピークとなる再循環排気ガス量よりも燃焼室内に供給される再循環排気ガス量が多く煤がほとんど発生しない第1の燃焼と、煤の発生量がピークとなる再循環ガス量よりも燃焼室内に供給される再循環排気ガス量が少ない第2の燃焼とを選択的に切換える切換手段を具備し、切換手段による第1の燃焼と第2の燃焼との切換えは空燃比の変化量が最も小さい気筒から順次行われる。
【0015】
2番目の発明では1番目の発明において、第1の燃焼から第2の燃焼への切換えは燃焼室内における空燃比の最も大きい気筒から行われる。
3番目の発明では1番目の発明において、燃焼時における各気筒の機関回転速度を検出する検出手段を具備し、第1の燃焼から第2の燃焼への切換えは燃焼時における機関回転速度の最も速い気筒から行われる。
【0016】
4番目の発明では1番目の発明において、第2の燃焼から第1の燃焼への切換えは燃焼室内における空燃比の最も小さい気筒から行われる。
5番目の発明では1番目の発明において、燃焼時における各気筒の機関回転速度を検出する検出手段を具備し、第2の燃焼から第1の燃焼への切換えは燃焼時における機関回転速度の最も速い気筒から行われる。
【0017】
6番目の発明では1番目の発明において、第1の燃焼が行われているときの排気ガス再循環率がほぼ55パーセント以上であり、第2の燃焼が行われているときの排気ガス再循環率がほぼ50パーセント以下である。
7番目の発明では1番目の発明において、機関排気通路内に酸化機能を有する触媒を配置している。
【0018】
8番目の発明では7番目の発明において、触媒が酸化触媒、三元触媒又はNOx 吸収剤の少くとも一つからなる。
9番目の発明では1番目の発明において、機関の運転領域を低負荷側の第1の運転領域と高負荷側の第2の運転領域に分割し、第1の運転領域では第1の燃焼を行い、第2の運転領域では第2の燃焼を行うようにしている。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1は本発明を4ストローク圧縮着火式内燃機関に適用した場合を示している。
図1を参照すると、1は機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は電気制御式燃料噴射弁、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートを夫々示す。吸気ポート8は対応する吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、サージタンク12は吸気ダクト13およびインタークーラ14を介して排気ターボチャージャ15のコンプレッサ16の出口部に連結される。コンプレッサ16の入口部は空気吸込管17を介してエアクリーナ18に連結される。一方、排気ポート10は排気マニホルド19を介して排気ターボチャージャ15の排気タービン20の入口部に連結され、排気タービン20の出口部は排気管21を介してNOx 吸収剤22を内蔵したケーシング23に連結される。
【0020】
吸気ダクト13内にはステップモータ24により駆動されるスロットル弁25が配置され、排気マニホルド19内には空燃比センサ26が配置される。排気マニホルド19とサージタンク12とはEGR通路27を介して互いに連結され、EGR通路27内にはステップモータ28により駆動されるEGR制御弁29が配置される。また、EGR通路27周りにはEGR通路27内を流れるEGRガスを冷却するための冷却装置30が配置される。図1に示される実施例では機関冷却水が冷却装置30内に導びかれ、機関冷却水によってEGRガスが冷却される。
【0021】
一方、各燃料噴射弁6は燃料供給管31を介して燃料リザーバ、いわゆるコモンレール32に連結される。このコモンレール32内へは電気制御式の吐出量可変な燃料ポンプ33から燃料が供給され、コモンレール32内に供給された燃料は各燃料供給管31を介して燃料噴射弁6に供給される。コモンレール32にはコモンレール32内の燃料圧を検出するための燃料圧センサ34が取付けられ、燃料圧センサ34の出力信号に基づいてコモンレール32内の燃料圧が目標燃料圧となるように燃料ポンプ33の吐出量が制御される。
【0022】
電子制御ユニット40はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス41によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)42、RAM(ランダムアクセスメモリ)43、CPU(マイクロプロセッサ)44、入力ポート45および出力ポート46を具備する。空燃比センサ26の出力信号は対応するAD変換器47を介して入力ポート45に入力され、燃料圧センサ34の出力信号も対応するAD変換器47を介して入力ポート45に入力される。アクセルペダル50にはアクセルペダル50の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ51が接続され、負荷センサ51の出力電圧は対応するAD変換器47を介して入力ポート45に入力される。また、入力ポート45にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ52が接続される。一方、出力ポート46は対応する駆動回路48を介して燃料噴射弁6、スロットル弁制御用ステップモータ24、EGR制御弁制御用ステップモータ28および燃料ポンプ33に接続される。
【0023】
なお、図2に示されるように内燃機関は1番気筒#1、2番気筒#2、3番気筒#3および4番気筒#4からなる4つの気筒を有する。本発明による実施例ではこれら気筒における噴射順序が1−3−4−2となっている。
図3は機関低負荷運転時にスロットル弁25の開度およびEGR率を変化させることにより空燃比A/F(図3の横軸)を変化させたときの出力トルクの変化、およびスモーク、HC,CO,NOx の排出量の変化を示す実験例を表している。図3からわかるようにこの実験例では空燃比A/Fが小さくなるほどEGR率が大きくなり、理論空燃比(≒14.6)以下のときにはEGR率は65パーセント以上となっている。
【0024】
図3に示されるようにEGR率を増大することにより空燃比A/Fを小さくしていくとEGR率が40パーセント付近となり空燃比A/Fが30程度になったときにスモークの発生量が増大を開始する。次いで、更にEGR率を高め、空燃比A/Fを小さくするとスモークの発生量が急激に増大してピークに達する。次いで更にEGR率を高め、空燃比A/Fを小さくすると今度はスモークが急激に低下し、EGR率を65パーセント以上とし、空燃比A/Fが15.0付近になるとスモークがほぼ零となる。即ち、煤がほとんど発生しなくなる。このとき機関の出力トルクは若干低下し、またNOx の発生量がかなり低くなる。一方、このときHC,COの発生量は増大し始める。
【0025】
図4(A)は空燃比A/Fが21付近でスモークの発生量が最も多いときの燃焼室5内の燃焼圧変化を示しており、図4(B)は空燃比A/Fが18付近でスモークの発生量がほぼ零のときの燃焼室5内の燃焼圧の変化を示している。図4(A)と図4(B)とを比較すればわかるようにスモークの発生量がほぼ零である図4(B)に示す場合はスモークの発生量が多い図4(A)に示す場合に比べて燃焼圧が低いことがわかる。
【0026】
図3および図4に示される実験結果から次のことが言える。即ち、まず第1に空燃比A/Fが15.0以下でスモークの発生量がほぼ零のときには図3に示されるようにNOx の発生量がかなり低下する。NOx の発生量が低下したということは燃焼室5内の燃焼温度が低下していることを意味しており、従って煤がほとんど発生しないときには燃焼室5内の燃焼温度が低くなっていると言える。同じことが図4からも言える。即ち、煤がほとんど発生していない図4(B)に示す状態では燃焼圧が低くなっており、従ってこのとき燃焼室5内の燃焼温度は低くなっていることになる。
【0027】
第2にスモークの発生量、即ち煤の発生量がほぼ零になると図3に示されるようにHCおよびCOの排出量が増大する。このことは炭化水素が煤まで成長せずに排出されることを意味している。即ち、燃料中に含まれる図5に示されるような直鎖状炭化水素や芳香族炭化水素は酸素不足の状態で温度上昇せしめられると熱分解して煤の前駆体が形成され、次いで主に炭素原子が集合した固体からなる煤が生成される。この場合、実際の煤の生成過程は複雑であり、煤の前駆体がどのような形態をとるかは明確ではないがいずれにしても図5に示されるような炭化水素は煤の前駆体を経て煤まで成長することになる。従って、上述したように煤の発生量がほぼ零になると図3に示される如くHCおよびCOの排出量が増大するがこのときのHCは煤の前駆体又はその前の状態の炭化水素である。
【0028】
図3および図4に示される実験結果に基づくこれらの考察をまとめると燃焼室5内の燃焼温度が低いときには煤の発生量がほぼ零になり、このとき煤の前駆体又はその前の状態の炭化水素が燃焼室5から排出されることになる。このことについて更に詳細に実験研究を重ねた結果、燃焼室5内における燃料およびその周囲のガス温度が或る温度以下である場合には煤の成長過程が途中で停止してしまい、即ち煤が全く発生せず、燃焼室5内における燃料およびその周囲の温度が或る温度以上になると煤が生成されることが判明したのである。
【0029】
ところで煤の前駆体の状態で炭化水素の生成過程が停止するときの燃料およびその周囲の温度、即ち上述の或る温度は燃料の種類や空燃比や圧縮比等の種々の要因によって変化するので何度であるかということは言えないがこの或る温度はNOx の発生量と深い関係を有しており、従ってこの或る温度はNOx の発生量から或る程度規定することができる。即ち、EGR率が増大するほど燃焼時の燃料およびその周囲のガス温度は低下し、NOx の発生量が低下する。このときNOx の発生量が10p.p.m 前後又はそれ以下になったときに煤がほとんど発生しなくなる。従って上述の或る温度はNOx の発生量が10p.p.m 前後又はそれ以下になったときの温度にほぼ一致する。
【0030】
一旦、煤が生成されるとこの煤は酸化機能を有する触媒を用いた後処理でもって浄化することはできない。これに対して煤の前駆体又はその前の状態の炭化水素は酸化機能を有する触媒を用いた後処理でもって容易に浄化することができる。このように酸化機能を有する触媒による後処理を考えると炭化水素を煤の前駆体又はその前の状態で燃焼室5から排出させるか、或いは煤の形で燃焼室5から排出させるかについては極めて大きな差がある。本発明において採用されている新たな燃焼システムは燃焼室5内において煤を生成させることなく炭化水素を煤の前駆体又はその前の状態の形でもって燃焼室5から排出させ、この炭化水素を酸化機能を有する触媒により酸化せしめることを核としている。
【0031】
さて、煤が生成される前の状態で炭化水素の成長を停止させるには燃焼室5内における燃焼時の燃料およびその周囲のガス温度を煤が生成される温度よりも低い温度に抑制する必要がある。この場合、燃料およびその周囲のガス温度を抑制するには燃料が燃焼した際の燃料周りのガスの吸熱作用が極めて大きく影響することが判明している。
【0032】
即ち、燃料周りに空気しか存在しないと蒸発した燃料はただちに空気中の酸素と反応して燃焼する。この場合、燃料から離れている空気の温度はさほど上昇せず、燃料周りの温度のみが局所的に極めて高くなる。即ち、このときには燃料から離れている空気は燃料の燃焼熱の吸熱作用をほとんど行わない。この場合には燃焼温度が局所的に極めて高くなるために、この燃焼熱を受けた未燃炭化水素は煤を生成することになる。
【0033】
一方、多量の不活性ガスと少量の空気の混合ガス中に燃料が存在する場合には若干状況が異なる。この場合には蒸発燃料は周囲に拡散して不活性ガス中に混在する酸素と反応し、燃焼することになる。この場合には燃焼熱は周りの不活性ガスに吸収されるために燃焼温度はさほど上昇しなくなる。即ち、燃焼温度を低く抑えることができることになる。即ち、燃焼温度を抑制するには不活性ガスの存在が重要な役割を果しており、不活性ガスの吸熱作用によって燃焼温度を低く抑えることができることになる。
【0034】
この場合、燃料およびその周囲のガス温度を煤が生成される温度よりも低い温度に抑制するにはそうするのに十分な熱量を吸収しうるだけの不活性ガス量が必要となる。従って燃料量が増大すれば必要となる不活性ガス量はそれに伴なって増大することになる。なお、この場合、不活性ガスの比熱が大きいほど吸熱作用が強力となり、従って不活性ガスは比熱の大きなガスが好ましいことになる。この点、CO2 やEGRガスは比較的比熱が大きいので不活性ガスとしてEGRガスを用いることは好ましいと言える。
【0035】
図6は不活性ガスとしてEGRガスを用い、EGRガスの冷却度合を変えたときのEGR率とスモークとの関係を示している。即ち、図6において曲線AはEGRガスを強力に冷却してEGRガス温をほぼ90℃に維持した場合を示しており、曲線Bは小型の冷却装置でEGRガスを冷却した場合を示しており、曲線CはEGRガスを強制的に冷却していない場合を示している。
【0036】
図6の曲線Aで示されるようにEGRガスを強力に冷却した場合にはEGR率が50パーセントよりも少し低いところで煤の発生量がピークとなり、この場合にはEGR率をほぼ55パーセント以上にすれば煤がほとんど発生しなくなる。一方、図6の曲線Bで示されるようにEGRガスを少し冷却した場合にはEGR率が50パーセントよりも少し高いところで煤の発生量がピークとなり、この場合にはEGR率をほぼ65パーセント以上にすれば煤がほとんど発生しなくなる。
【0037】
また、図6の曲線Cで示されるようにEGRガスを強制的に冷却していない場合にはEGR率が55パーセントの付近で煤の発生量がピークとなり、この場合にはEGR率をほぼ70パーセント以上にすれば煤がほとんど発生しなくなる。なお、図6は機関負荷が比較的高いときのスモークの発生量を示しており、機関負荷が小さくなると煤の発生量がピークとなるEGR率は若干低下し、煤がほとんど発生しなくなるEGR率の下限も若干低下する。このように煤がほとんど発生しなくなるEGR率の下限はEGRガスの冷却度合や機関負荷に応じて変化する。
【0038】
図7は不活性ガスとしてEGRガスを用いた場合において燃焼時の燃料およびその周囲のガス温度を煤が生成される温度よりも低い温度にするために必要なEGRガスと空気の混合ガス量、およびこの混合ガス量中の空気の割合、およびこの混合ガス中のEGRガスの割合を示している。なお、図7において縦軸は燃焼室5内に吸入される全吸入ガス量を示しており、鎖線Yは過給が行われないときに燃焼室5内に吸入しうる全吸入ガス量を示している。また、横軸は要求負荷を示している。
【0039】
図7を参照すると空気の割合、即ち混合ガス中の空気量は噴射された燃料を完全に燃焼せしめるのに必要な空気量を示している。即ち、図7に示される場合では空気量と噴射燃料量との比は理論空燃比となっている。一方、図7においてEGRガスの割合、即ち混合ガス中のEGRガス量は噴射燃料が燃焼せしめられたときに燃料およびその周囲のガス温度を煤が形成される温度よりも低い温度にするのに必要最低限のEGRガス量を示している。このEGRガス量はEGR率で表すとほぼ55パーセント以上であり、図7に示す実施例では70パーセント以上である。即ち、燃焼室5内に吸入された全吸入ガス量を図7において実線Xとし、この全吸入ガス量Xのうちの空気量とEGRガス量との割合を図7に示すような割合にすると燃料およびその周囲のガス温度は煤が生成される温度よりも低い温度となり、斯くして煤が全く発生しなくなる。また、このときのNOx 発生量は10p.p.m 前後、又はそれ以下であり、従ってNOx の発生量は極めて少量となる。
【0040】
燃料噴射量が増大すれば燃料が燃焼した際の発熱量が増大するので燃料およびその周囲のガス温度を煤が生成される温度よりも低い温度に維持するためにはEGRガスによる熱の吸収量を増大しなければならない。従って図7に示されるようにEGRガス量は噴射燃料量が増大するにつれて増大せしめなければならない。即ち、EGRガス量は要求負荷が高くなるにつれて増大する必要がある。
【0041】
一方、図7において要求負荷がLo よりも高い負荷領域では煤の発生を阻止するのに必要な全吸入ガス量Xが吸入しうる全吸入ガス量Yを越えてしまう。従ってこの場合、煤の発生を阻止するのに必要な全吸入ガス量Xを燃焼室5内に供給するにはEGRガスおよび吸入空気の双方、或いはEGRガスを過給又は加圧する必要がある。EGRガス等を過給又は加圧しない場合にはこの負荷領域では全吸入ガス量Xは吸入しうる全吸入ガス量Yに一致する。従ってこの場合、煤の発生を阻止するためには空気量を若干減少させてEGRガス量を増大すると共に空燃比がリッチのもとで燃料を燃焼せしめることになる。
【0042】
前述したように図7は燃料を理論空燃比のもとで燃焼させる場合を示しているが空気量を図7に示される空気量よりも少くしても、即ち空燃比をリッチにしても煤の発生を阻止しつつNOx の発生量を10p.p.m 前後又はそれ以下にすることができ、また空気量を図7に示される空気量よりも多くしても、即ち空燃比の平均値を17から18のリーンにしても煤の発生を阻止しつつNOx の発生量を10p.p.m 前後又はそれ以下にすることができる。
【0043】
即ち、空燃比がリッチにされると燃料が過剰となるが燃焼温度が低い温度に抑制されているために過剰な燃料は煤まで成長せず、斯くして煤が生成されることがない。また、このときNOx も極めて少量しか発生しない。一方、平均空燃比がリーンのとき、或いは空燃比が理論空燃比のときでも燃焼温度が高くなれば少量の煤が生成されるが本発明では燃焼温度が低い温度に抑制されているので煤は全く生成されない。更に、NOx も極めて少量しか発生しない。
【0044】
このように、低温燃焼が行われているときには空燃比にかかわらずに、即ち空燃比がリッチであろうと、理論空燃比であろうと、或いは平均空燃比がリーンであろうと煤が発生せず、NOx の発生量が極めて少量となる。従って燃料消費率の向上を考えるとこのとき平均空燃比をリーンにすることが好ましいと言える。ところで燃焼室内における燃焼時の燃料およびその周囲のガス温度を炭化水素の成長が途中で停止する温度以下に抑制しうるのは燃焼による発熱量が比較的少ない機関中低負荷運転時に限られる。従って本発明による実施例では機関中低負荷運転時には燃焼時の燃料およびその周囲のガス温度を炭化水素の成長が途中で停止する温度以下に抑制して第1の燃焼、即ち低温燃焼を行うようにし、機関高負荷運転時には第2の燃焼、即ち従来より普通に行われている燃焼を行うようにしている。なお、ここで第1の燃焼、即ち低温燃焼とはこれまでの説明から明らかなように煤の発生量がピークとなる不活性ガス量よりも燃焼室内の不活性ガス量が多く煤がほとんど発生しない燃焼のことを言い、第2の燃焼、即ち従来より普通に行われている燃焼とは煤の発生量がピークとなる不活性ガス量よりも燃焼室内の不活性ガス量が少い燃焼のことを言う。
【0045】
図8は第1の燃焼、即ち低温燃焼が行われる第1の運転領域Iと、第2の燃焼、即ち従来の燃焼方法による燃焼が行われる第2の運転領域IIとを示している。なお、図8において縦軸Lはアクセルペダル50の踏込み量、即ち要求負荷を示しており、横軸Nは機関回転数を示している。また、図8においてX(N)は第1の運転領域Iと第2の運転領域IIとの第1の境界を示しており、Y(N)は第1の運転領域Iと第2の運転領域IIとの第2の境界を示している。第1の運転領域Iから第2の運転領域IIへの運転領域の変化判断は第1の境界X(N)に基づいて行われ、第2の運転領域IIから第1の運転領域Iへの運転領域の変化判断は第2の境界Y(N)に基づいて行われる。
【0046】
即ち、機関の運転状態が第1の運転領域Iにあって低温燃焼が行われているときに要求負荷Lが機関回転数Nの関数である第1の境界X(N)を越えると運転領域が第2の運転領域IIに移ったと判断され、従来の燃焼方法による燃焼が行われる。次いで要求負荷Lが機関回転数Nの関数である第2の境界Y(N)よりも低くなると運転領域が第1の運転領域Iに移ったと判断され、再び低温燃焼が行われる。
【0047】
このように第1の境界X(N)と第1の境界X(N)よりも低負荷側の第2の境界Y(N)との二つの境界を設けたのは次の二つの理由による。第1の理由は、第2の運転領域IIの高負荷側では比較的燃焼温度が高く、このとき要求負荷Lが第1の境界X(N)より低くなったとしてもただちに低温燃焼を行えないからである。即ち、要求負荷Lがかなり低くなったとき、即ち第2の境界Y(N)よりも低くなったときでなければただちに低温燃焼が開始されないからである。第2の理由は第1の運転領域Iと第2の運転領域II間の運転領域の変化に対してヒステリシスを設けるためである。
【0048】
ところで機関の運転状態が第1の運転領域Iにあって低温燃焼が行われているときには煤はほとんど発生せず、その代り未燃炭化水素が煤の前駆体又はその前の状態の形でもって燃焼室5から排出される。このとき燃焼室5から排出された未燃炭化水素は酸化機能を有する触媒22により良好に酸化せしめられる。
触媒22としては酸化触媒、三元触媒、又はNOx 吸収剤を用いることができる。NOx 吸収剤は燃焼室5内における平均空燃比がリーンのときにNOx を吸収し、燃焼室5内における平均空燃比がリッチになるとNOx を放出する機能を有する。
【0049】
このNOx 吸収剤は例えばアルミナを担体とし、この担体上に例えばカリウムK、ナトリウムNa、リチウムLi、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類、ランタンLa、イットリウムYのような希土類から選ばれた少くとも一つと、白金Ptのような貴金属とが担持されている。
【0050】
酸化触媒はもとより、三元触媒およびNOx 吸収剤も酸化機能を有しており、従って上述した如く三元触媒およびNOx 吸収剤を触媒22として用いることができる。
図9は空燃比センサ27の出力を示している。図9に示されるように空燃比センサ27の出力電流Iは空燃比A/Fに応じて変化する。従って空燃比センサ27の出力電流Iから空燃比を知ることができる。
【0051】
次に図10を参照しつつ第1の運転領域Iおよび第2の運転領域IIにおける運転制御について概略的に説明する。
図10は要求負荷Lに対するスロットル弁25の開度、EGR制御弁29の開度、EGR率、空燃比、噴射時期および噴射量を示している。図10に示されるように要求負荷Lの低い第1の運転領域Iではスロットル弁25の開度は要求負荷Lが高くなるにつれて全閉近くから2/3開度程度まで徐々に増大せしめられ、EGR制御弁29の開度は要求負荷Lが高くなるにつれて全閉近くから全開まで徐々に増大せしめられる。また、図10に示される例では第1の運転領域IではEGR率がほぼ70パーセントとされており、空燃比はわずかばかりリーンなリーン空燃比とされている。
【0052】
言い換えると第1の運転領域IではEGR率がほぼ70パーセントとなり、空燃比がわずかばかりリーンなリーン空燃比となるようにスロットル弁25の開度およびEGR制御弁29の開度が制御される。なお、このとき空燃比は空燃比センサ27の出力信号に基づいてEGR制御弁29の開度を補正することによって目標リーン空燃比に制御される。また、第1の運転領域Iでは圧縮上死点TDC前に燃料噴射が行われる。この場合、噴射開始時期θSは要求負荷Lが高くなるにつれて遅くなり、噴射完了時期θEも噴射開始時期θSが遅くなるにつれて遅くなる。
なお、アイドリング運転時にはスロットル弁25は全閉近くまで閉弁され、このときEGR制御弁29も全閉近くまで閉弁せしめられる。スロットル弁25を全閉近くまで閉弁すると圧縮始めの燃焼室5内の圧力が低くなるために圧縮圧力が小さくなる。圧縮圧力が小さくなるとピストン4による圧縮仕事が小さくなるために機関本体1の振動が小さくなる。即ち、アイドリング運転時には機関本体1の振動を抑制するためにスロットル弁25が全閉近くまで閉弁せしめられる。
【0053】
一方、機関の運転領域が第1の運転領域Iから第2の運転領域IIに変わるとスロットル弁25の開度が2/3開度程度から全開方向へステップ状に増大せしめられる。このとき図10に示す例ではEGR率が多量のスモークを発生するEGR率範囲(図6)を飛び越えるようにEGR率がほぼ70パーセントから40パーセント以下までステップ状に減少せしめられ、空燃比がステップ状に大きくされる。
【0054】
第2の運転領域IIでは第2の燃焼、即ち従来から行われている燃焼が行われる。この燃焼方法では煤およびNOx が若干発生するが低温燃焼に比べて熱効率は高く、従って機関の運転領域が第1の運転領域Iから第2の運転領域IIに変わると図10に示されるように噴射量がステップ状に低減せしめられる。この第2の運転領域IIではスロットル弁25は一部を除いて全開状態に保持され、EGR制御弁29の開度は要求負荷Lが高くなると次第に小さくされる。また、この運転領域IIではEGR率は要求負荷Lが高くなるほど低くなり、空燃比は要求負荷Lが高くなるほど小さくなる。ただし、空燃比は要求負荷Lが高くなってもリーン空燃比とされる。また、第2の運転領域IIでは噴射開始時期θSは圧縮上死点TDC付近とされる。
【0055】
図11は第1の運転領域Iにおける空燃比A/Fを示している。図11において、A/F=15.5,A/F=16,A/F=17,A/F=18で示される各曲線は夫々空燃比が15.5,16,17,18であるときを示しており、各曲線間の空燃比は比例配分により定められる。図11に示されるように第1の運転領域Iでは空燃比がリーンとなっており、更に第1の運転領域Iでは要求負荷Lが低くなるほど空燃比A/Fがリーンとされる。
【0056】
即ち、要求負荷Lが低くなるほど燃焼による発熱量が少くなる。従って要求負荷Lが低くなるほどEGR率を低下させても低温燃焼を行うことができる。EGR率を低下させると空燃比は大きくなり、従って図11に示されるように要求負荷Lが低くなるにつれて空燃比A/Fが大きくされる。空燃比A/Fが大きくなるほど燃料消費率は向上し、従ってできる限り空燃比をリーンにするために本発明による実施例では要求負荷Lが低くなるにつれて空燃比A/Fが大きくされる。
【0057】
なお、空燃比を図11に示す目標空燃比とするのに必要なスロットル弁25の目標開度STが図12(A)に示されるように要求負荷Lおよび機関回転数Nの関数としてマップの形で予めROM42内に記憶されており、空燃比を図11に示す目標空燃比とするのに必要なEGR制御弁29の目標開度SEが図12(B)に示されるように要求負荷Lおよび機関回転数Nの関数としてマップの形で予めROM42内に記憶されている。
【0058】
図13は第2の燃焼、即ち従来の燃焼方法による普通の燃焼が行われるときの目標空燃比を示している。なお、図13においてA/F=24,A/F=35,A/F=45,A/F=60で示される各曲線は夫々目標空燃比24,35,45,60を示している。空燃比をこの目標空燃比とするのに必要なスロットル弁25の目標開度STが図14(A)に示されるように要求負荷Lおよび機関回転数Nの関数としてマップの形で予めROM42内に記憶されており、空燃比をこの目標空燃比とするのに必要なEGR制御弁29の目標開度SEが図14(B)に示されるように要求負荷Lおよび機関回転数Nの関数としてマップの形で予めROM42内に記憶されている。
【0059】
前述したように第1の燃焼から第2の燃焼に切換えられるときには図10に示される如くスモークができるだけ発生しないようにEGR率がステップ状に低下せしめられ、空燃比がステップ状に大きくされる。これに対して第2の燃焼から第1の燃焼に切換えられるときにはスモークができるだけ発生しないようにEGR率がステップ状に増大せしめられ、空燃比がステップ状に小さくされる。
【0060】
しかしながら実際にはスロットル弁25やEGR制御弁29の開閉動作に遅れがあるためにEGR率および空燃比を完全にステップ状に変化させるのは困難である。従ってこの場合、スモークの発生をできるだけ阻止するためには冒頭で述べたように第1の燃焼と第2の燃焼との切換えを空燃比の変化量の小さい気筒から行う必要がある。
【0061】
ところで図2に示される実施例ではEGR通路27が1番気筒#1側のサージタンク12の端部に連結されている。この場合には構造上1番気筒#1に供給されるEGRガス量が最も多く、4番気筒#4に供給されるEGRガス量が最も少くなる。従ってこの場合には1番気筒#1の燃焼室内におけるEGR率が最も高くなると共に空燃比は最も小さくなり、4番気筒#4の燃焼室内におけるEGR率が最も低くなると共に空燃比は最も大きくなる。
【0062】
従って図2に示される構造の場合には第1の燃焼から第2の燃焼への切換えを4番気筒#4から行うとEGR率および空燃比の変化量は最も小さくなり、第2の燃焼から第1の燃焼への切換えを1番気筒#1から行うとEGR率および空燃比の変化量は最も小さくなる。
そこで第1実施例では第1の燃焼から第2の燃焼に切換える際にはまず初めに4番気筒#4を第1の燃焼から第2の燃焼に切換えると共にその後噴射順序に従って順次各気筒を第1の燃焼から第2の燃焼に切換え、一方第2の燃焼から第1の燃焼に切換える際にはまず初めに1番気筒#1を第2の燃焼から第1の燃焼に切換えると共にその後噴射順序に従って順次各気筒を第2の燃焼から第1の燃焼に切換えるようにしている。
【0063】
次に図15を参照しつつこの第1実施例を実行するための運転制御について説明する。
図15を参照すると、まず初めにステップ100において機関の運転状態が第1の運転領域Iであることを示すフラグIがセットされているか否かが判別される。フラグIがセットされているとき、即ち機関の運転状態が第1の運転領域Iであるときにはステップ101に進んで要求負荷Lが第1の境界X(N)よりも大きくなったか否かが判別される。L≦X(N)のときにはステップ104に進んで低温燃焼が行われる。
【0064】
即ち、ステップ104では図12(A)に示すマップからスロットル弁25の目標開度STが算出され、スロットル弁25の開度がこの目標開度STとされる。次いでステップ105では図12(B)に示すマップからEGR制御弁29の目標開度SEが算出され、EGR制御弁29の開度がこの目標開度SEとされる。次いでステップ106では図11に示される空燃比となるように燃料噴射が行われる。このとき低温燃焼が行われる。
【0065】
一方、ステップ101においてL>X(N)になったと判別されたときにはステップ102に進んで次に噴射すべき気筒が4番気筒#4であるか否かが判別される。次に噴射すべき気筒が4番気筒#4でない場合にはステップ104に進み、低温燃焼が続行される。これに対して次に噴射すべき気筒が4番気筒#4であると判別されたときにはステップ103に進んでフラグIがリセットされ、次いでステップ110に進んで第2の燃焼が行われる。
【0066】
即ち、ステップ110では図14(A)に示すマップからスロットル弁25の目標開度STが算出され、スロットル弁25の開度がこの目標開度STとされる。次いでステップ111では図14(B)に示すマップからEGR制御弁29の目標開度SEが算出され、EGR制御弁29の開度がこの目標開度SEとされる。次いでステップ112では図13に示されるリーン空燃比となるように燃料噴射が行われる。
【0067】
フラグIがリセットされると次の処理サイクルではステップ100からステップ107に進んで要求負荷Lが第2の境界Y(N)よりも低くなったか否かが判別される。L≧Y(N)のときにはステップ110に進み、リーン空燃比のもとで第2の燃焼が行われる。
一方、ステップ107においてL<Y(N)になったと判別されたときにはステップ108に進んで次に噴射すべき気筒が1番気筒#1であるか否かが判別される。次に噴射すべき気筒が1番気筒#1でない場合にはステップ110に進み、第2の燃焼が続行される。これに対して次に噴射すべき気筒が1番気筒#1であると判別されたときにはステップ109に進んでフラグIがセットされ、次いでステップ104に進んで低温燃焼が行われる。
【0068】
図16に第2実施例を示す。この実施例ではEGRガスを各気筒にできるだけ均等に分配するためにEGR通路27が吸気ダクト13に連結されている。この場合には構造からみていずれの気筒の空燃比が大きくなるか小さくなるかがわからない。そこでこの実施例では燃焼時における各気筒の機関回転速度の差から各気筒の空燃比を推定するようにしている。
【0069】
即ち、第1の燃焼のもとでは空燃比が大きくなるほど燃焼が活発となり、機関回転速度が速くなる。そこで第1の燃焼が行われているときにはクランク角センサ52の出力信号から燃焼時における各気筒の機関回転速度を算出して算出された機関回転速度から最も機関回転速度の速い気筒j、即ち最も空燃比の大きな気筒jを判別し、第1の燃焼から第2の燃焼への切換えをこの気筒jから行うようにしている。
【0070】
一方、第2の燃焼は第1の燃焼とは異なって空気が大巾に過剰のもとで行われているのでこのときには空燃比が小さいほど機関の出力トルクが高くなり、機関回転速度が速くなる。そこで第2の燃焼が行われているときにもクランク角センサ52の出力信号から燃焼時における各気筒の機関回転速度を算出して算出された機関回転速度から最も機関回転速度の速い気筒i、即ち最も空燃比の小さな気筒iを判別し、第2の燃焼から第1の燃焼への切換えをこの気筒iから行うようにしている。
【0071】
次に図17を参照しつつ第2実施例を実行するための運転制御について説明する。
図17を参照すると、まず初めにステップ200において機関の運転状態が第1の運転領域Iであることを示すフラグIがセットされているか否かが判別される。フラグIがセットされているとき、即ち機関の運転状態が第1の運転領域Iであるときにはステップ201に進んで要求負荷Lが第1の境界X(N)よりも大きくなったか否かが判別される。L≦X(N)のときにはステップ204に進んで低温燃焼が行われる。
【0072】
即ち、ステップ204では図12(A)に示すマップからスロットル弁25の目標開度STが算出され、スロットル弁25の開度がこの目標開度STとされる。次いでステップ205では図12(B)に示すマップからEGR制御弁29の目標開度SEが算出され、EGR制御弁29の開度がこの目標開度SEとされる。次いでステップ206では図11に示される空燃比となるように燃料噴射が行われる。このとき低温燃焼が行われる。次いでステップ207では燃焼時における機関回転速度の最も速い気筒j、即ち最も空燃比が大きい気筒jが求められる。
【0073】
一方、ステップ201においてL>X(N)になったと判別されたときにはステップ202に進んで次に噴射すべき気筒がj番気筒であるか否かが判別される。次に噴射すべき気筒がj番気筒でない場合にはステップ204に進み、低温燃焼が続行される。これに対して次に噴射すべき気筒がj番気筒であると判別されたときにはステップ203に進んでフラグIがリットされ、次いでステップ211に進んで第2の燃焼が行われる。
【0074】
即ち、ステップ211では図14(A)に示すマップからスロットル弁25の目標開度STが算出され、スロットル弁25の開度がこの目標開度STとされる。次いでステップ212では図14(B)に示すマップからEGR制御弁29の目標開度SEが算出され、EGR制御弁29の開度がこの目標開度SEとされる。次いでステップ213では図13に示されるリーン空燃比となるように燃料噴射が行われる。次いでステップ214では燃焼時における機関回転速度の最も速い気筒i、即ち最も空燃比が小さい気筒iが求められる。
【0075】
フラグIがリセットされると次の処理サイクルではステップ200からステップ208に進んで要求負荷Lが第2の境界Y(N)よりも低くなったか否かが判別される。L≧Y(N)のときにはステップ211に進み、リーン空燃比のもとで第2の燃焼が行われる。
一方、ステップ208においてL<Y(N)になったと判別されたときにはステップ209に進んで次に噴射すべき気筒がi番気筒であるか否かが判別される。次に噴射すべき気筒がi番気筒でない場合にはステップ211に進み、第2の燃焼が続行される。これに対して次に噴射すべき気筒がi番気筒であると判別されたときにはステップ210に進んでフラグIがセットされ、次いでステップ204に進んで低温燃焼が行われる。
【0076】
【発明の効果】
第1の燃焼と第2の燃焼の切換時にスモークが発生するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】圧縮着火式内燃機関の全体図である。
【図2】図1に示す内燃機関の平面図である。
【図3】スモークおよびNOx の発生量等を示す図である。
【図4】燃焼圧を示す図である。
【図5】燃料分子を示す図である。
【図6】スモークの発生量とEGR率との関係を示す図である。
【図7】噴射燃料量と混合ガス量との関係を示す図である。
【図8】第1の運転領域Iおよび第2の運転領域IIを示す図である。
【図9】空燃比センサの出力を示す図である。
【図10】スロットル弁の開度等を示す図である。
【図11】第1の運転領域Iにおける空燃比を示す図である。
【図12】スロットル弁等の目標開度のマップを示す図である。
【図13】第2の燃焼における空燃比を示す図である。
【図14】スロットル弁等の目標開度のマップを示す図である。
【図15】機関の運転を制御するためのフローチャートである。
【図16】圧縮着火式内燃機関の別の実施例を示す平面図である。
【図17】機関を運転を制御するためのフローチャートである。
【符号の説明】
6…燃料噴射弁
25…スロットル弁
29…EGR制御弁
Claims (9)
- 燃焼室内に供給される再循環排気ガス量を増大していくと煤の発生量が次第に増大してピークに達し、燃焼室内に供給される再循環排気ガス量を更に増大していくと燃焼室内における燃焼時の燃料およびその周囲のガス温が煤の生成温度よりも低くなって煤がほとんど発生しなくなる内燃機関において、煤の発生量がピークとなる再循環排気ガス量よりも燃焼室内に供給される再循環排気ガス量が多く煤がほとんど発生しない第1の燃焼と、煤の発生量がピークとなる再循環ガス量よりも燃焼室内に供給される再循環排気ガス量が少ない第2の燃焼とを選択的に切換える切換手段を具備し、該切換手段による第1の燃焼と第2の燃焼との切換えは空燃比の変化量が最も小さい気筒から順次行われる内燃機関。
- 第1の燃焼から第2の燃焼への切換えは燃焼室内における空燃比の最も大きい気筒から行われる請求項1に記載の内燃機関。
- 燃焼時における各気筒の機関回転速度を検出する検出手段を具備し、第1の燃焼から第2の燃焼への切換えは燃焼時における機関回転速度の最も速い気筒から行われる請求項1に記載の内燃機関。
- 第2の燃焼から第1の燃焼への切換えは燃焼室内における空燃比の最も小さい気筒から行われる請求項1に記載の内燃機関。
- 燃焼時における各気筒の機関回転速度を検出する検出手段を具備し、第2の燃焼から第1の燃焼への切換えは燃焼時における機関回転速度の最も速い気筒から行われる請求項1に記載の内燃機関。
- 第1の燃焼が行われているときの排気ガス再循環率がほぼ55パーセント以上であり、第2の燃焼が行われているときの排気ガス再循環率がほぼ50パーセント以下である請求項1に記載の内燃機関。
- 機関排気通路内に酸化機能を有する触媒を配置した請求項1に記載の内燃機関。
- 該触媒が酸化触媒、三元触媒又はNOx 吸収剤の少くとも一つからなる請求項7に記載の内燃機関。
- 機関の運転領域を低負荷側の第1の運転領域と高負荷側の第2の運転領域に分割し、第1の運転領域では第1の燃焼を行い、第2の運転領域では第2の燃焼を行うようにした請求項1に記載の内燃機関。
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