JP3545505B2 - インプラント材料及びその製法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、骨組織と結合して優れた生体活性を有し、強度が大きく、人工骨材、骨固定及び接合材或いは骨補綴材、人工股関節の部分的代替材料、及び、人工歯根、根管充填材、骨修復及び充填材、人工歯材料などとして有用な生体用インプラント材料及びその製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、事故や疾患等により失われた骨や歯の補綴材として、生体内に埋め込まれ、生体組織と結合するインプラント材料の開発が強く望まれ、その一つとして、金属とセラミックからなる複合材料が開発されている。即ち、機械的強度を金属で、生体適合性をセラミックで得ようとするものである。
【0003】
本発明者等は、こうした複合材料からなるインプラント材料として、リン酸カルシウムをガラス中に分散させたガラスセラミック層を金属基材上に形成し、該ガラスセラミック層表面に酸による溶解エッチングで無数の空孔を形成したものを提案し(特公平4−3226号公報)、更に、このようなインプラント材料を人工体液中に浸漬させることにより、表面に生体親和性に優れたヒドロキシアパタイトを析出させ、インプラント材料と骨の結合を速めた方法を提案した(特開平4−276257号)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
インプラント材料に求められる主たる特性は、機械的強度、生体適合性、安全性であり、上記した本発明者等が提案したインプラント材料は、これらの特性を十分満足するものであり、また、インプラント材料と骨が十分に結合した状態での強度にも優れていた。
【0005】
本発明者等は、これらのインプラント材料について更に、骨との結合スピードの早いインプラント材料の開発を目的として鋭意検討し、本発明を達成した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1〜3の発明は、インプラント材料であり、金属基材上或いは金属基材上に中間ガラス層をコーティングした上に、表面にリン酸カルシウムを有するガラスセラミック層を設け、更に、50〜100℃の電解液に浸漬し、電圧を印加することにより、該ガラスセラミック層上に、リン酸カルシウム被膜を電気化学的に設けたことを特徴とする。
【0007】
請求項4〜7の発明は、インプラント材料の製法の発明であり、金属基材上或いは金属基材上に中間ガラス層をコーティングした上に、表面にリン酸カルシウムを有するガラスセラミック層を設けてなる複合材料を、50〜100℃の電解液に浸漬し、電圧を印加して電気化学的に該複合材料表面にリン酸カルシウムを析出させることを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のインプラント材料に用いられる金属基材の金属としては、特に限定されないが、チタン;Ti−6Al−4V合金、Ti−6Al−4V+20Vol%Mo、Ti−6Al−4V+40Vol%Mo等のチタン系合金;Ni−Cr系合金;Co−Cr系合金、ステンレス鋼等が挙げられる。このうち、生体内耐蝕性に優れ、生体とのなじみも良いという点でチタン、チタン系合金が好ましく、材料強度が大きいということからTi−Al系合金が特に好ましく、且つ複雑な形状のものまで精密微細加工ができる。
【0009】
本発明において上記金属基材上に形成するガラスセラミック層としては、表面(後にリン酸カルシウム被膜を設ける側)にリン酸カルシウムが露出していれば、特に形態は限定されないが、好ましくは、ガラス中にリン酸カルシウムが分散され且つ表面に無数の空孔を有するとともに上記リン酸カルシウムが露出したものが用いられる。中間ガラス層を設ける場合も同様である。
【0010】
本発明において、ガラスセラミック層に分散するリン酸カルシウムとしては、ヒドロキシアパタイト〔Ca10(PO4 )6 (OH)2 〕、α−リン酸三カルシウム〔α−TCP:Ca3 (PO4 )2 〕、β−リン酸三カルシウム〔β−TCP:Ca3 (PO4 )2 〕、リン酸八カルシウム〔OCP:Ca8 H2 (PO4 )6 ・5H2 O〕、ブルサイト〔Brushite:CaHPO4 ・2H2 O〕等が用いられ、ヒドロキシアパタイト(以下「HAP」と記す)を多量に含有するのが好ましく、Ca/P(モル比)が1.50〜1.75の範囲にあるものが望ましい。ちなみにHAPのCa/Pは1.67である。HAPは生体骨の主要組成であり、このHAPが存在することにより生体骨との親和性が発現するのである。
【0011】
次にガラスセラミック層又は中間ガラス層に使用し得るガラスとしては、以下の組成を有するアルミナホウケイ酸系ガラスが金属基材との接合強度及び線膨張係数、更には焼成時において分散HAPとガラスフリットが反応しないなどの観点から好ましい例として挙げられる。
【0012】
SiO2 +B2 O3 +Al2 O3 75〜85重量%
アルカリ成分 15〜20重量%
【0013】
ここで、アルカリ成分の割合は、Na2 O、K2 O、Li2 O等の如きアルカリ金属酸化物の合計での量である。そして、上記アルミナホウケイ酸系ガラスには必要に応じてZrO2 、TiO2 等の金属酸化物及びCaF2 などの少量を添加してもよい。
【0014】
上記シリカアルミナ系ガラスの組成物の配合割合が選択される理由は以下の通りである。
【0015】
アルカリ成分が上記範囲を越えるとガラスの線膨張係数が金属基材の線膨張係数との比較において大き過ぎて、特に本発明に係る複合材料を焼成製造する際の焼成条件を考慮すると、温度変化による歪みが大きくなり好ましくなく(ちなみに、ガラスの線膨張係数は金属基材の熱膨張系数の90〜95%の範囲にあるのが好ましい。これは、ガラスが圧縮に対して強く、引張に対して弱いことに基づくものである。)、また、インプラント材料とした際のアルカリの溶出の問題が起こり、生体組織や細胞への刺激が生じ、更には焼成時においてリン酸カルシウム成分との反応が起こり、リン酸カルシウムの分解を誘発することになり、好ましくない。
【0016】
アルカリ成分が上記範囲より少ないとガラスとしての溶融温度が高くなり、コーティング温度を高くせざるを得なくなり、コーティング温度を高くすれば、金属基材(特にチタン及びチタン系合金)の強度劣化が起こり、更にはリン酸カルシウムとガラスとの過度の反応が起こることとなり好ましくない。
【0017】
リン酸カルシウムをガラス中に分散したガラスセラミックの線膨張係数はリン酸カルシウムの含量の増加に伴って増加する。従って、リン酸カルシウムの含量を調整することによっても混合物の線膨張係数をコントロールすることが可能であり、本発明のインプラント材料において、特に中間ガラス層を介してなる態様の場合、リン酸カルシウムを分散したガラスセラミック層に用いるガラスの線膨張係数はいかようにも取り得る。
【0018】
ガラスセラミック層中におけるリン酸カルシウムの含有率は、金属基材上に直接該ガラス層を設ける場合は15〜50重量%の範囲にするのが好ましく、金属基材上に中間ガラス層を設ける場合には15〜70重量%とするのが好ましい。該リン酸カルシウムの含有率が上記範囲より少ないと生体適合性が悪くなり好ましくない。中間ガラス層を介しない場合に該リン酸カルシウムの配合率の上限が50重量%であるのは、50重量%を越えると、金属基材との接合力が低下し、複合体としての材料強度が低くなるためである。
【0019】
また、中間ガラス層を有する場合には、金属基材との接合力が増大し、リン酸カルシウムを分散したガラスセラミック層と中間ガラス層は連続的に強固に一体となって接合しているため、上記ガラスセラミック層のリン酸カルシウム含有率は、それ自体が剥離せず、しかも溶出が過大にならない70重量%以下が好ましい。
【0020】
次に、本発明のインプラント材料はその表面層がリン酸カルシウム被膜である。詳しくは後述する電気化学的方法により電解液より析出してなるリン酸カルシウムよりなる。
【0021】
本発明において、上記リン酸カルシウム被膜の成分として、前記のガラスセラミック層に分散するリン酸カルシウムと同様の成分の他に炭酸アパタイトが用いられ、炭酸アパタイトを主成分とする骨類似アパタイトであることが好ましい。また本発明において、該リン酸カルシウムは針状或いは板状に析出するが、好ましくは針状結晶である。更にリン酸カルシウム被膜の厚みは、好ましくは0.1〜100μm、望ましくは1〜10μmである。
【0022】
次に、本発明のインプラント材料の製法について説明する。
【0023】
先ず、金属基材上に直接リン酸カルシウムを分散したガラスセラミック層を形成した複合材料の製法について、前記した表面に無数の空孔を有するガラスセラミック層を例に挙げて説明する。
【0024】
金属基材はコーティングの前に脱脂、酸洗いの後ブラスト処理を施すのが好ましい。ブラスト処理は金属基材の平均中心線粗さが1〜3.4μmとなるようにするのがより好ましい。また、ブラスト処理の後、真空下に900〜950℃の温度で熱処理することにより酸化膜を形成しても良い。
【0025】
次にリン酸カルシウムとしてHAPを例にとって、コーティング処理について説明する。
【0026】
HAPは公知の方法で製造されるが、そのうち、湿式法を採用した場合には、生成したHAPを乾燥後800℃で仮焼きし、1200℃で焼成した後、粉砕して所定の粒度に粒度調製する。一方、ガラスも所定の粒度に粒度調製する。次に粒度調製されたHAPとガラス粉末を混合し、この混合物をコーティングした後焼成する。焼成温度は850℃〜1150℃の範囲が好ましい。850℃未満では焼成不十分となり、金属基材との接合強度が弱くなり、また、HAP分散ガラス層自体の被膜強度も弱くなる。1150℃を越えると金属基材(特にチタン、チタン系合金)の強度低下を起こし、また、ガラスが共存することもあってHAPの分解反応が起こり好ましくない。
【0027】
次に上記のようにコーティングした後、酸でエッチング処理を行なう。エッチング処理はHFとHNO3 の混液で行なうのが簡単で好ましいが、HF蒸気中で適度の時間をかけて試片表面をむらなくエッチングする方法も推奨される。
【0028】
金属基材上に中間ガラス層を介してHAP分散ガラスセラミック層を設けた複合材料の製法については、中間ガラス層をコーティングする工程が追加されるだけで、他は上記と同様にすれば良い。中間ガラス層のコーティングの際の焼成温度は850℃〜1150℃が好ましい。
【0029】
酸によってガラスを溶解してエッチングすることにより、HAP分散ガラスセラミック層の表層は無数の空孔を有するものとなり、且つリン酸カルシウムが露出した構造をとることとなる。該空孔の大きさは数μm〜50μmが好ましい。
【0030】
本発明においては、上記のようにして形成した複合材料表面に電気化学的にリン酸カルシウムを析出させて被膜を形成する。
【0031】
本発明において、上記リン酸カルシウムの析出に用いる電解液としては、Ca/Pが1〜4の範囲にあることが望ましい。更に望ましくは、ヒトの体液の無機塩類の主要成分組成とそれに近い濃度を有する溶液である。
【0032】
疑似人工体液の組成は、137.8mMのNaCl、4.2mMのNaHCO3 、3.0mMのKCl、1.0mMのK2 HPO4 、1.5mMのMgCl2 ・6H2 O、2.5mMのCaCl2 ・2H2 O、及び緩衝剤として50mMの(CH2 OH)3 CNH2 と45mMのHCl(pH=7.1〜7.4)からなり、Ca/Pは2.5である。後述する実施例で説明するように、このうち少なくとも、NaCl、K2 HPO4 、CaCl2 ・2H2 O、及び、緩衝剤として(CH2 OH)3 CNH2 とHClを用いた。
【0033】
電解液は、Na+ イオンが好ましくは110〜170mM、更に望ましくは120〜160mM、HPO4 2+ イオンが好ましくは0.8〜1.2mM、更に望ましくは0.9〜1.1mM、Ca2+イオンが好ましくは2.0〜3.0mM、更に望ましくは2.3〜2.7mMで、pH緩衝剤〔(CH2 OH)3 CNH2 〕を添加して、pHを好ましくは6.0〜8.0、更に望ましくは6.6〜7.4に調製したものを用いる。
【0034】
本発明において、上記電解液には本発明を妨げない範囲で他の成分を加えることも可能である。
【0035】
本発明において、上記電解液の温度は、高温の方がインプラント材料として好ましいc軸方向に配向した炭酸アパタイトが得られるため、50℃以上100℃以下である。更に望ましくは60℃以上100℃以下に保持してリン酸カルシウムの析出を行なう。また、析出時の電流密度は、複合材料の表面単位面積当たり、1〜1000mA/cm2、好ましくは10〜500mA/cm2である。
【0036】
【実施例】
[参考実施例]
HAP含量を30重量%、50重量%、70重量%としたHAP粉末とガラス粉末との混合物のスリップを、表面をサンドブラストした純チタン板(20×20×0.5mm)に順次被覆して、被覆の度に800〜900℃で焼成した。この被覆と焼成を繰り返して、厚さ約100μmのHAP分散ガラスセラミック層をチタン板上に形成した。次に3%のHFと5%のHNO3の水溶液で表面をエッチングしてガラスで覆われた表面層を除去し、HAP微細粒子を露出させた活性表面層を有する複合材料を得た。
【0037】
図1に示す、定電位負荷装置としてポテンショスタットに関数発生器を付加したものを使用した3電極式電解槽を用いて、上記複合材料にリン酸カルシウム被膜を電気化学的に形成した。図中1は試料電極、2は対向電極、4は飽和カロメル電極、5は水槽、6は電解液、7は関数発生器、8はポテンショスタット、9は対数変換器、10はXYレコーダである。
【0038】
試料電極1として上記複合材料を固定し、対向電極2には白金板、参照電極として飽和カロメル電極(S.C.E.)4を用い、ルギン管先端を寒天ブリッジにし、試料電極1近傍に設置した。電解液6としては、NaCl、NaHCO3 、KCl、K2 HPO4 、MgCl2 ・6H2 O、CaCl2 ・2H2 Oの特級試薬を表1に示す組成になるように蒸留水に溶解し、50mMの(CH2 OH)3 CNH2 とHClを緩衝剤として加えpH7.2に調製した。尚、表1における電解液aはヒト細胞外液の無機塩類濃度にほぼ等しい組成の人工体液である。
【0039】
【表1】
【0040】
上記11種類の溶液を電解液として用い、電位は−2V、電解時間は1時間、電解液温度は22℃一定とした。析出物についてX線回折、赤外分光分析(FT−IR)、走査型電子顕微鏡(SEM)観察、EDXにより状態分析した。表2に状態分析結果を示す。
【0041】
【表2】
【0042】
試料電極1上の生成物のX線回折測定結果より、HPO4 を含まない電解液eとgでは、Mg(OH)2 が析出していた。また、Ca量を増量した電解液i〜kでは、CaCO3 が析出していた。その他の電解液での析出部は全て非晶質であった。また、赤外分光分析結果から、HPO4 を含まない電解液eとgでは、析出物にPO4 の吸収は認められなかった。一方、その他の電解液での析出物は1030及び580cm−1にPO4 の吸収ピークが認められた。また、EDX分析結果では、電解液eとgでは、析出物のMg含量が高く、Caを含まない電解液cではMgとPが多量に検出された。また、Ca量を増量した電解液i〜kでは、Caが多量に検出された。
【0043】
以上の分析結果より、HPO4 を含まない電解液ではMg(OH)2 が主成分の被膜が生成されていると考えられる。逆にHPO4 を増量した電解液では非晶質のリン酸カルシウムが生成されている。Mgを含まない電解液ではCaとPよりなる純粋のリン酸カルシウムが得られ、K及びHCO3 の影響は小さいものと考えられる。従って、本発明においては電解液成分としては、HPO4 、Caが必須であり、Mgは好ましくないことがわかった。
【0044】
[実施例1]
参考実施例と同じ複合材料と電解装置を用い、電解液として、137.8mMのNaCl溶液に、溶液中のCa/Pが1.0、1.5、1.67、2.5、4.0となるように、1.0〜2.5mMのK2HPO4及び1.0〜4.0mMのCaCl2・2H2Oを溶解した。更に、50mMの(CH2OH)3CNH2を緩衝剤として加え、HClを用いてpH7.2に調製したもの、及びHClだけでpH7.2に調製したものの2種類をCa/Pの異なる各溶液毎に調製した。
【0045】
上記10種の電解液を用い、電位−2V、電解時間1時間で、電解液をマグネティックスターラーで撹拌しながら、電解液温度を22℃及び62℃に変えて電解を行ない、その結果を参考実施例と同様に、X線回折、FT−IR、SEM観察、EDXにより状態分析した。
【0046】
図2に電解槽中の試料電極と参照電極との中間付近の電解液(Ca/P=1.5)のpH変化を示す。緩衝剤を加えない電解液のpH変化は著しく、30分間の電解により7.2から11.4に増加している。一方、緩衝剤を加えた電解液では、3時間の電解でも約8.0に増加しているだけである。このpH増加は、試料電極即ち陰極で発生する水素ガスの放出に伴う水酸基の増加によるものと推定されるが、緩衝剤を加えた電解液ではこの変化が陰極近傍に限局され、緩衝剤を加えない電解液では電解槽中の電解液全体にpH増加が生じたものと考えられる。
【0047】
また緩衝剤を用いると、緩衝剤を用いない場合に比べて、生成物量が極めて多かった。リン酸カルシウムの電気化学的析出は、陰極付近での電解液のカルシウムイオン濃度及びリン酸イオンの増加とpH増加に伴い過飽和になるために生じる現象であると考えられる。従って、緩衝剤を加えた電解液では、このpH増加が陰極近傍に限局されるため、生成物量が極めて多いものと推定される。
【0048】
X線回折及び赤外分光分析結果より、これらの生成物は電解液のCa/Pの差異による影響は顕著には認められなかった。また、電解液温度が22℃では全て炭酸含有非晶質アパタイトであったが、62℃では結晶性の向上が認められ、SEM像では針状結晶が観察された。EDXによる分析結果より、析出物のCa/Pも同様に電解液のCa/Pの差異による影響は認められないが、緩衝剤を加えない電解液での析出物のCa/Pは緩衝剤を加えた電解液での析出物のCa/Pよりも小さかった。
【0049】
[実施例2]
参考実施例と同様の複合材料、電解装置を用いて電解を行なった。電解液としては、137.8mMのNaCl、1.67mMのK2HPO4、2.5mMのCaCl2・2H2Oの濃度に特級試薬を蒸留水に溶解し、50mMの(CH2OH)3CNH2を緩衝剤として加えpH7.2に調整した。試料電極が負電位に分極するように電流制御を行ない、電流値は10mA及び100mAで電解時間は1時間、電解液温度を4、22、37、52、62℃とし、試料電極表面に析出した生成物を参考実施例と同様にして状態分析した。
【0050】
電解液温度が4、22、37℃の生成物は非晶質である。また、EDXスペクトルからCa及びPが検出され、FT−IRスペクトルから1030及び580cm−1にPO4 の分離していない非晶質特有の吸収ピークが認められたことにより、これらの生成物は非晶質リン酸カルシウムであると考えられる。一方、52℃と62℃ではX線回折角度2θが25.8°及び32°付近にアパタイト特有の回折線が認められた。特に、25.8°の(002)の回折線が強くなっており、c軸に配向したアパタイトであると考えられる。また、FT−IRスペクトルでは1430及び870cm−1に帰属されるCO3 の吸収ピークが強くなっていることにより、電解液温度が高い場合は結晶性が向上した炭酸アパタイトが生成されるものと考えられる。また、電流密度の低い場合にも同様の傾向が見られ、SEM像においても針状結晶が観察された。
【0051】
[実施例3]
20×20×0.5mmの純チタン板を直径2mmの純チタンバーに変えた以外は参考実施例と同様にして直径2.2mm、長さ11mmの複合材料を得た。この複合材料とガラスセラミック層を形成していないTi基材を試料電極として用い、実施例2と同じ電解液で、電解液温度62℃、電解時間20分、試料電極が負電位に分極するように、電流値は100mA一定とし、電解液をマグネティックスターラーで撹拌しながら電解を行ない、電流負荷後、試料電極を蒸留水で洗浄し、37℃の空気中で8時間乾燥した。表面層には針状の析出物が観察され、X線回折及びFT−IR分析結果から、この析出物は、c軸に配向した炭酸アパタイトであると考えられる。
【0052】
上述のようにして形成したインプラント材料及び、電解処理を施していない複合材料及びTi基材を、ウサギの大腿骨の片方に3〜4本埋め込み(同一試料につきそれぞれ8サンプル)、3〜9週間経過後該大腿骨を取り出し、大腿骨とインプラント材料との結合強さをインストロン試験機で引き抜き試験を行なって評価した。その結果を表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示した様に、複合材料、Ti基材それぞれリン酸カルシウム被膜の有無で比較すると、9週間経過後の結合強度の差よりも、3週間経過後の結合強度の差の方が大きい。この結果は、リン酸カルシウム被膜を設けた場合の方が、インプラント材料が早期に骨に接合していることを示している。また、複合材料とTi基材とでは、明らかに複合材料の方が結合強度が高く、HAP分散ガラスセラミック層が結合強度を高めていることがわかる。
【0055】
尚、1週間及び2週間のインプラント(複合材料)では、上記3週間後のインプラントに見られたような差は認められなかった。この事実は、新生骨の生成が活発になるには約3週間を要することを示唆するものである。
【0056】
骨や腱或いは皮膚など、高等動物の体を形成している物質が圧電現象を示すことは知られている。従って骨に対する荷重の負荷によって生じる圧電分極が骨折の自然的治癒に大きな影響を持つこと、分極電場に相当する電気的刺激を外部より与えることにより、骨増生が誘起されることが確認されている(保田:京都府立医科大学雑誌,53:325,1953)。
【0057】
一方、本発明者等の研究によれば、参考実施例、実施例1〜3で用いた複合材料を生体外で6ヵ月間人工体液に浸漬した場合、及びイヌの大腿骨に移植して3ヵ月間経た場合に、上記複合材料表面に炭酸アパタイトの結晶が観察されることがわかっている。よって、本発明において、複合材料表面に電気化学的にリン酸カルシウムを被覆させる工程は、骨増生誘起のための望ましい環境を付与するものであり、生体内で生成される炭酸アパタイトの結晶核としてリン酸カルシウム被膜が作用して、骨の再生が従来よりも早く進行し、インプラント材料と骨との結合力が早い時期に十分高い値にまで達するものと推測される。
【0058】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のインプラント材料は骨に移植してから早期に十分に骨と結合するため、治療期間が短縮され、患者の負担を軽減すると同時に、適用症例の拡大が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いる電解装置の概略図である。
【図2】本発明第1の実施例における電解液のpH変化を示す図である。
【符号の説明】
1 試料電極
2 対向電極
4 飽和カロメル電極
5 水槽
6 電解液
7 関数発生器
8 ポテンショスタット
9 対数変換器
10 XYレコーダ
【発明が属する技術分野】
本発明は、骨組織と結合して優れた生体活性を有し、強度が大きく、人工骨材、骨固定及び接合材或いは骨補綴材、人工股関節の部分的代替材料、及び、人工歯根、根管充填材、骨修復及び充填材、人工歯材料などとして有用な生体用インプラント材料及びその製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、事故や疾患等により失われた骨や歯の補綴材として、生体内に埋め込まれ、生体組織と結合するインプラント材料の開発が強く望まれ、その一つとして、金属とセラミックからなる複合材料が開発されている。即ち、機械的強度を金属で、生体適合性をセラミックで得ようとするものである。
【0003】
本発明者等は、こうした複合材料からなるインプラント材料として、リン酸カルシウムをガラス中に分散させたガラスセラミック層を金属基材上に形成し、該ガラスセラミック層表面に酸による溶解エッチングで無数の空孔を形成したものを提案し(特公平4−3226号公報)、更に、このようなインプラント材料を人工体液中に浸漬させることにより、表面に生体親和性に優れたヒドロキシアパタイトを析出させ、インプラント材料と骨の結合を速めた方法を提案した(特開平4−276257号)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
インプラント材料に求められる主たる特性は、機械的強度、生体適合性、安全性であり、上記した本発明者等が提案したインプラント材料は、これらの特性を十分満足するものであり、また、インプラント材料と骨が十分に結合した状態での強度にも優れていた。
【0005】
本発明者等は、これらのインプラント材料について更に、骨との結合スピードの早いインプラント材料の開発を目的として鋭意検討し、本発明を達成した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1〜3の発明は、インプラント材料であり、金属基材上或いは金属基材上に中間ガラス層をコーティングした上に、表面にリン酸カルシウムを有するガラスセラミック層を設け、更に、50〜100℃の電解液に浸漬し、電圧を印加することにより、該ガラスセラミック層上に、リン酸カルシウム被膜を電気化学的に設けたことを特徴とする。
【0007】
請求項4〜7の発明は、インプラント材料の製法の発明であり、金属基材上或いは金属基材上に中間ガラス層をコーティングした上に、表面にリン酸カルシウムを有するガラスセラミック層を設けてなる複合材料を、50〜100℃の電解液に浸漬し、電圧を印加して電気化学的に該複合材料表面にリン酸カルシウムを析出させることを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のインプラント材料に用いられる金属基材の金属としては、特に限定されないが、チタン;Ti−6Al−4V合金、Ti−6Al−4V+20Vol%Mo、Ti−6Al−4V+40Vol%Mo等のチタン系合金;Ni−Cr系合金;Co−Cr系合金、ステンレス鋼等が挙げられる。このうち、生体内耐蝕性に優れ、生体とのなじみも良いという点でチタン、チタン系合金が好ましく、材料強度が大きいということからTi−Al系合金が特に好ましく、且つ複雑な形状のものまで精密微細加工ができる。
【0009】
本発明において上記金属基材上に形成するガラスセラミック層としては、表面(後にリン酸カルシウム被膜を設ける側)にリン酸カルシウムが露出していれば、特に形態は限定されないが、好ましくは、ガラス中にリン酸カルシウムが分散され且つ表面に無数の空孔を有するとともに上記リン酸カルシウムが露出したものが用いられる。中間ガラス層を設ける場合も同様である。
【0010】
本発明において、ガラスセラミック層に分散するリン酸カルシウムとしては、ヒドロキシアパタイト〔Ca10(PO4 )6 (OH)2 〕、α−リン酸三カルシウム〔α−TCP:Ca3 (PO4 )2 〕、β−リン酸三カルシウム〔β−TCP:Ca3 (PO4 )2 〕、リン酸八カルシウム〔OCP:Ca8 H2 (PO4 )6 ・5H2 O〕、ブルサイト〔Brushite:CaHPO4 ・2H2 O〕等が用いられ、ヒドロキシアパタイト(以下「HAP」と記す)を多量に含有するのが好ましく、Ca/P(モル比)が1.50〜1.75の範囲にあるものが望ましい。ちなみにHAPのCa/Pは1.67である。HAPは生体骨の主要組成であり、このHAPが存在することにより生体骨との親和性が発現するのである。
【0011】
次にガラスセラミック層又は中間ガラス層に使用し得るガラスとしては、以下の組成を有するアルミナホウケイ酸系ガラスが金属基材との接合強度及び線膨張係数、更には焼成時において分散HAPとガラスフリットが反応しないなどの観点から好ましい例として挙げられる。
【0012】
SiO2 +B2 O3 +Al2 O3 75〜85重量%
アルカリ成分 15〜20重量%
【0013】
ここで、アルカリ成分の割合は、Na2 O、K2 O、Li2 O等の如きアルカリ金属酸化物の合計での量である。そして、上記アルミナホウケイ酸系ガラスには必要に応じてZrO2 、TiO2 等の金属酸化物及びCaF2 などの少量を添加してもよい。
【0014】
上記シリカアルミナ系ガラスの組成物の配合割合が選択される理由は以下の通りである。
【0015】
アルカリ成分が上記範囲を越えるとガラスの線膨張係数が金属基材の線膨張係数との比較において大き過ぎて、特に本発明に係る複合材料を焼成製造する際の焼成条件を考慮すると、温度変化による歪みが大きくなり好ましくなく(ちなみに、ガラスの線膨張係数は金属基材の熱膨張系数の90〜95%の範囲にあるのが好ましい。これは、ガラスが圧縮に対して強く、引張に対して弱いことに基づくものである。)、また、インプラント材料とした際のアルカリの溶出の問題が起こり、生体組織や細胞への刺激が生じ、更には焼成時においてリン酸カルシウム成分との反応が起こり、リン酸カルシウムの分解を誘発することになり、好ましくない。
【0016】
アルカリ成分が上記範囲より少ないとガラスとしての溶融温度が高くなり、コーティング温度を高くせざるを得なくなり、コーティング温度を高くすれば、金属基材(特にチタン及びチタン系合金)の強度劣化が起こり、更にはリン酸カルシウムとガラスとの過度の反応が起こることとなり好ましくない。
【0017】
リン酸カルシウムをガラス中に分散したガラスセラミックの線膨張係数はリン酸カルシウムの含量の増加に伴って増加する。従って、リン酸カルシウムの含量を調整することによっても混合物の線膨張係数をコントロールすることが可能であり、本発明のインプラント材料において、特に中間ガラス層を介してなる態様の場合、リン酸カルシウムを分散したガラスセラミック層に用いるガラスの線膨張係数はいかようにも取り得る。
【0018】
ガラスセラミック層中におけるリン酸カルシウムの含有率は、金属基材上に直接該ガラス層を設ける場合は15〜50重量%の範囲にするのが好ましく、金属基材上に中間ガラス層を設ける場合には15〜70重量%とするのが好ましい。該リン酸カルシウムの含有率が上記範囲より少ないと生体適合性が悪くなり好ましくない。中間ガラス層を介しない場合に該リン酸カルシウムの配合率の上限が50重量%であるのは、50重量%を越えると、金属基材との接合力が低下し、複合体としての材料強度が低くなるためである。
【0019】
また、中間ガラス層を有する場合には、金属基材との接合力が増大し、リン酸カルシウムを分散したガラスセラミック層と中間ガラス層は連続的に強固に一体となって接合しているため、上記ガラスセラミック層のリン酸カルシウム含有率は、それ自体が剥離せず、しかも溶出が過大にならない70重量%以下が好ましい。
【0020】
次に、本発明のインプラント材料はその表面層がリン酸カルシウム被膜である。詳しくは後述する電気化学的方法により電解液より析出してなるリン酸カルシウムよりなる。
【0021】
本発明において、上記リン酸カルシウム被膜の成分として、前記のガラスセラミック層に分散するリン酸カルシウムと同様の成分の他に炭酸アパタイトが用いられ、炭酸アパタイトを主成分とする骨類似アパタイトであることが好ましい。また本発明において、該リン酸カルシウムは針状或いは板状に析出するが、好ましくは針状結晶である。更にリン酸カルシウム被膜の厚みは、好ましくは0.1〜100μm、望ましくは1〜10μmである。
【0022】
次に、本発明のインプラント材料の製法について説明する。
【0023】
先ず、金属基材上に直接リン酸カルシウムを分散したガラスセラミック層を形成した複合材料の製法について、前記した表面に無数の空孔を有するガラスセラミック層を例に挙げて説明する。
【0024】
金属基材はコーティングの前に脱脂、酸洗いの後ブラスト処理を施すのが好ましい。ブラスト処理は金属基材の平均中心線粗さが1〜3.4μmとなるようにするのがより好ましい。また、ブラスト処理の後、真空下に900〜950℃の温度で熱処理することにより酸化膜を形成しても良い。
【0025】
次にリン酸カルシウムとしてHAPを例にとって、コーティング処理について説明する。
【0026】
HAPは公知の方法で製造されるが、そのうち、湿式法を採用した場合には、生成したHAPを乾燥後800℃で仮焼きし、1200℃で焼成した後、粉砕して所定の粒度に粒度調製する。一方、ガラスも所定の粒度に粒度調製する。次に粒度調製されたHAPとガラス粉末を混合し、この混合物をコーティングした後焼成する。焼成温度は850℃〜1150℃の範囲が好ましい。850℃未満では焼成不十分となり、金属基材との接合強度が弱くなり、また、HAP分散ガラス層自体の被膜強度も弱くなる。1150℃を越えると金属基材(特にチタン、チタン系合金)の強度低下を起こし、また、ガラスが共存することもあってHAPの分解反応が起こり好ましくない。
【0027】
次に上記のようにコーティングした後、酸でエッチング処理を行なう。エッチング処理はHFとHNO3 の混液で行なうのが簡単で好ましいが、HF蒸気中で適度の時間をかけて試片表面をむらなくエッチングする方法も推奨される。
【0028】
金属基材上に中間ガラス層を介してHAP分散ガラスセラミック層を設けた複合材料の製法については、中間ガラス層をコーティングする工程が追加されるだけで、他は上記と同様にすれば良い。中間ガラス層のコーティングの際の焼成温度は850℃〜1150℃が好ましい。
【0029】
酸によってガラスを溶解してエッチングすることにより、HAP分散ガラスセラミック層の表層は無数の空孔を有するものとなり、且つリン酸カルシウムが露出した構造をとることとなる。該空孔の大きさは数μm〜50μmが好ましい。
【0030】
本発明においては、上記のようにして形成した複合材料表面に電気化学的にリン酸カルシウムを析出させて被膜を形成する。
【0031】
本発明において、上記リン酸カルシウムの析出に用いる電解液としては、Ca/Pが1〜4の範囲にあることが望ましい。更に望ましくは、ヒトの体液の無機塩類の主要成分組成とそれに近い濃度を有する溶液である。
【0032】
疑似人工体液の組成は、137.8mMのNaCl、4.2mMのNaHCO3 、3.0mMのKCl、1.0mMのK2 HPO4 、1.5mMのMgCl2 ・6H2 O、2.5mMのCaCl2 ・2H2 O、及び緩衝剤として50mMの(CH2 OH)3 CNH2 と45mMのHCl(pH=7.1〜7.4)からなり、Ca/Pは2.5である。後述する実施例で説明するように、このうち少なくとも、NaCl、K2 HPO4 、CaCl2 ・2H2 O、及び、緩衝剤として(CH2 OH)3 CNH2 とHClを用いた。
【0033】
電解液は、Na+ イオンが好ましくは110〜170mM、更に望ましくは120〜160mM、HPO4 2+ イオンが好ましくは0.8〜1.2mM、更に望ましくは0.9〜1.1mM、Ca2+イオンが好ましくは2.0〜3.0mM、更に望ましくは2.3〜2.7mMで、pH緩衝剤〔(CH2 OH)3 CNH2 〕を添加して、pHを好ましくは6.0〜8.0、更に望ましくは6.6〜7.4に調製したものを用いる。
【0034】
本発明において、上記電解液には本発明を妨げない範囲で他の成分を加えることも可能である。
【0035】
本発明において、上記電解液の温度は、高温の方がインプラント材料として好ましいc軸方向に配向した炭酸アパタイトが得られるため、50℃以上100℃以下である。更に望ましくは60℃以上100℃以下に保持してリン酸カルシウムの析出を行なう。また、析出時の電流密度は、複合材料の表面単位面積当たり、1〜1000mA/cm2、好ましくは10〜500mA/cm2である。
【0036】
【実施例】
[参考実施例]
HAP含量を30重量%、50重量%、70重量%としたHAP粉末とガラス粉末との混合物のスリップを、表面をサンドブラストした純チタン板(20×20×0.5mm)に順次被覆して、被覆の度に800〜900℃で焼成した。この被覆と焼成を繰り返して、厚さ約100μmのHAP分散ガラスセラミック層をチタン板上に形成した。次に3%のHFと5%のHNO3の水溶液で表面をエッチングしてガラスで覆われた表面層を除去し、HAP微細粒子を露出させた活性表面層を有する複合材料を得た。
【0037】
図1に示す、定電位負荷装置としてポテンショスタットに関数発生器を付加したものを使用した3電極式電解槽を用いて、上記複合材料にリン酸カルシウム被膜を電気化学的に形成した。図中1は試料電極、2は対向電極、4は飽和カロメル電極、5は水槽、6は電解液、7は関数発生器、8はポテンショスタット、9は対数変換器、10はXYレコーダである。
【0038】
試料電極1として上記複合材料を固定し、対向電極2には白金板、参照電極として飽和カロメル電極(S.C.E.)4を用い、ルギン管先端を寒天ブリッジにし、試料電極1近傍に設置した。電解液6としては、NaCl、NaHCO3 、KCl、K2 HPO4 、MgCl2 ・6H2 O、CaCl2 ・2H2 Oの特級試薬を表1に示す組成になるように蒸留水に溶解し、50mMの(CH2 OH)3 CNH2 とHClを緩衝剤として加えpH7.2に調製した。尚、表1における電解液aはヒト細胞外液の無機塩類濃度にほぼ等しい組成の人工体液である。
【0039】
【表1】
【0040】
上記11種類の溶液を電解液として用い、電位は−2V、電解時間は1時間、電解液温度は22℃一定とした。析出物についてX線回折、赤外分光分析(FT−IR)、走査型電子顕微鏡(SEM)観察、EDXにより状態分析した。表2に状態分析結果を示す。
【0041】
【表2】
【0042】
試料電極1上の生成物のX線回折測定結果より、HPO4 を含まない電解液eとgでは、Mg(OH)2 が析出していた。また、Ca量を増量した電解液i〜kでは、CaCO3 が析出していた。その他の電解液での析出部は全て非晶質であった。また、赤外分光分析結果から、HPO4 を含まない電解液eとgでは、析出物にPO4 の吸収は認められなかった。一方、その他の電解液での析出物は1030及び580cm−1にPO4 の吸収ピークが認められた。また、EDX分析結果では、電解液eとgでは、析出物のMg含量が高く、Caを含まない電解液cではMgとPが多量に検出された。また、Ca量を増量した電解液i〜kでは、Caが多量に検出された。
【0043】
以上の分析結果より、HPO4 を含まない電解液ではMg(OH)2 が主成分の被膜が生成されていると考えられる。逆にHPO4 を増量した電解液では非晶質のリン酸カルシウムが生成されている。Mgを含まない電解液ではCaとPよりなる純粋のリン酸カルシウムが得られ、K及びHCO3 の影響は小さいものと考えられる。従って、本発明においては電解液成分としては、HPO4 、Caが必須であり、Mgは好ましくないことがわかった。
【0044】
[実施例1]
参考実施例と同じ複合材料と電解装置を用い、電解液として、137.8mMのNaCl溶液に、溶液中のCa/Pが1.0、1.5、1.67、2.5、4.0となるように、1.0〜2.5mMのK2HPO4及び1.0〜4.0mMのCaCl2・2H2Oを溶解した。更に、50mMの(CH2OH)3CNH2を緩衝剤として加え、HClを用いてpH7.2に調製したもの、及びHClだけでpH7.2に調製したものの2種類をCa/Pの異なる各溶液毎に調製した。
【0045】
上記10種の電解液を用い、電位−2V、電解時間1時間で、電解液をマグネティックスターラーで撹拌しながら、電解液温度を22℃及び62℃に変えて電解を行ない、その結果を参考実施例と同様に、X線回折、FT−IR、SEM観察、EDXにより状態分析した。
【0046】
図2に電解槽中の試料電極と参照電極との中間付近の電解液(Ca/P=1.5)のpH変化を示す。緩衝剤を加えない電解液のpH変化は著しく、30分間の電解により7.2から11.4に増加している。一方、緩衝剤を加えた電解液では、3時間の電解でも約8.0に増加しているだけである。このpH増加は、試料電極即ち陰極で発生する水素ガスの放出に伴う水酸基の増加によるものと推定されるが、緩衝剤を加えた電解液ではこの変化が陰極近傍に限局され、緩衝剤を加えない電解液では電解槽中の電解液全体にpH増加が生じたものと考えられる。
【0047】
また緩衝剤を用いると、緩衝剤を用いない場合に比べて、生成物量が極めて多かった。リン酸カルシウムの電気化学的析出は、陰極付近での電解液のカルシウムイオン濃度及びリン酸イオンの増加とpH増加に伴い過飽和になるために生じる現象であると考えられる。従って、緩衝剤を加えた電解液では、このpH増加が陰極近傍に限局されるため、生成物量が極めて多いものと推定される。
【0048】
X線回折及び赤外分光分析結果より、これらの生成物は電解液のCa/Pの差異による影響は顕著には認められなかった。また、電解液温度が22℃では全て炭酸含有非晶質アパタイトであったが、62℃では結晶性の向上が認められ、SEM像では針状結晶が観察された。EDXによる分析結果より、析出物のCa/Pも同様に電解液のCa/Pの差異による影響は認められないが、緩衝剤を加えない電解液での析出物のCa/Pは緩衝剤を加えた電解液での析出物のCa/Pよりも小さかった。
【0049】
[実施例2]
参考実施例と同様の複合材料、電解装置を用いて電解を行なった。電解液としては、137.8mMのNaCl、1.67mMのK2HPO4、2.5mMのCaCl2・2H2Oの濃度に特級試薬を蒸留水に溶解し、50mMの(CH2OH)3CNH2を緩衝剤として加えpH7.2に調整した。試料電極が負電位に分極するように電流制御を行ない、電流値は10mA及び100mAで電解時間は1時間、電解液温度を4、22、37、52、62℃とし、試料電極表面に析出した生成物を参考実施例と同様にして状態分析した。
【0050】
電解液温度が4、22、37℃の生成物は非晶質である。また、EDXスペクトルからCa及びPが検出され、FT−IRスペクトルから1030及び580cm−1にPO4 の分離していない非晶質特有の吸収ピークが認められたことにより、これらの生成物は非晶質リン酸カルシウムであると考えられる。一方、52℃と62℃ではX線回折角度2θが25.8°及び32°付近にアパタイト特有の回折線が認められた。特に、25.8°の(002)の回折線が強くなっており、c軸に配向したアパタイトであると考えられる。また、FT−IRスペクトルでは1430及び870cm−1に帰属されるCO3 の吸収ピークが強くなっていることにより、電解液温度が高い場合は結晶性が向上した炭酸アパタイトが生成されるものと考えられる。また、電流密度の低い場合にも同様の傾向が見られ、SEM像においても針状結晶が観察された。
【0051】
[実施例3]
20×20×0.5mmの純チタン板を直径2mmの純チタンバーに変えた以外は参考実施例と同様にして直径2.2mm、長さ11mmの複合材料を得た。この複合材料とガラスセラミック層を形成していないTi基材を試料電極として用い、実施例2と同じ電解液で、電解液温度62℃、電解時間20分、試料電極が負電位に分極するように、電流値は100mA一定とし、電解液をマグネティックスターラーで撹拌しながら電解を行ない、電流負荷後、試料電極を蒸留水で洗浄し、37℃の空気中で8時間乾燥した。表面層には針状の析出物が観察され、X線回折及びFT−IR分析結果から、この析出物は、c軸に配向した炭酸アパタイトであると考えられる。
【0052】
上述のようにして形成したインプラント材料及び、電解処理を施していない複合材料及びTi基材を、ウサギの大腿骨の片方に3〜4本埋め込み(同一試料につきそれぞれ8サンプル)、3〜9週間経過後該大腿骨を取り出し、大腿骨とインプラント材料との結合強さをインストロン試験機で引き抜き試験を行なって評価した。その結果を表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示した様に、複合材料、Ti基材それぞれリン酸カルシウム被膜の有無で比較すると、9週間経過後の結合強度の差よりも、3週間経過後の結合強度の差の方が大きい。この結果は、リン酸カルシウム被膜を設けた場合の方が、インプラント材料が早期に骨に接合していることを示している。また、複合材料とTi基材とでは、明らかに複合材料の方が結合強度が高く、HAP分散ガラスセラミック層が結合強度を高めていることがわかる。
【0055】
尚、1週間及び2週間のインプラント(複合材料)では、上記3週間後のインプラントに見られたような差は認められなかった。この事実は、新生骨の生成が活発になるには約3週間を要することを示唆するものである。
【0056】
骨や腱或いは皮膚など、高等動物の体を形成している物質が圧電現象を示すことは知られている。従って骨に対する荷重の負荷によって生じる圧電分極が骨折の自然的治癒に大きな影響を持つこと、分極電場に相当する電気的刺激を外部より与えることにより、骨増生が誘起されることが確認されている(保田:京都府立医科大学雑誌,53:325,1953)。
【0057】
一方、本発明者等の研究によれば、参考実施例、実施例1〜3で用いた複合材料を生体外で6ヵ月間人工体液に浸漬した場合、及びイヌの大腿骨に移植して3ヵ月間経た場合に、上記複合材料表面に炭酸アパタイトの結晶が観察されることがわかっている。よって、本発明において、複合材料表面に電気化学的にリン酸カルシウムを被覆させる工程は、骨増生誘起のための望ましい環境を付与するものであり、生体内で生成される炭酸アパタイトの結晶核としてリン酸カルシウム被膜が作用して、骨の再生が従来よりも早く進行し、インプラント材料と骨との結合力が早い時期に十分高い値にまで達するものと推測される。
【0058】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のインプラント材料は骨に移植してから早期に十分に骨と結合するため、治療期間が短縮され、患者の負担を軽減すると同時に、適用症例の拡大が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いる電解装置の概略図である。
【図2】本発明第1の実施例における電解液のpH変化を示す図である。
【符号の説明】
1 試料電極
2 対向電極
4 飽和カロメル電極
5 水槽
6 電解液
7 関数発生器
8 ポテンショスタット
9 対数変換器
10 XYレコーダ
Claims (7)
- 表面にリン酸カルシウムを有するガラスセラミック層を、金属基材上或いは金属基材上に中間ガラス層をコーティングした上に設けてなる複合材料を、50〜100℃の電解液に浸漬し、電圧を印加して、該ガラスセラミック層上にリン酸カルシウム被膜を電気化学的に設けたことを特徴とするインプラント材料。
- リン酸カルシウム被膜の厚みが0.1〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載のインプラント材料。
- リン酸カルシウム被膜が針状または板状結晶からなることを特徴とする請求項1または2に記載のインプラント材料。
- 表面にリン酸カルシウムを有するガラスセラミック層を、金属基材上或いは金属基材上に中間ガラス層をコーティングした上に設けてなる複合材料を、50〜100℃の電解液に浸漬し、電圧を印加して該複合材料表面に電気化学的にリン酸カルシウムを析出させることを特徴とするインプラント材料の製法。
- 電解液中のCa/P(モル比)が1〜4であることを特徴とする請求項4に記載のインプラント材料の製法。
- 電解液が、少なくとも、110〜170mMのNa+イオン、0.8〜1.2mMのHPO4 2+イオン、2.0〜3.0mMのCa2+イオン、及び、pH緩衝剤を含有することを特徴とする請求項4または5に記載のインプラント材料の製法。
- 電解液のpHが、6.0〜8.0であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のインプラント材料の製法。
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