JP3544057B2 - ポリビニルアルコール系難燃繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、難燃性に優れ、かつ強度などの機械的特性に優れ、さらに安価なポリビニルアルコール(以下PVAと略記)系難燃繊維を安定に生産する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、難燃繊維としては、難燃性物質を繊維内に練り込んだアクリル系やポリエステル系等の合成繊維が知られており、さらに天然繊維である木綿を難燃加工したものや、アラミド繊維のようにポリマー自身が耐熱性に優れており、結果として難燃性を有する繊維が上市されている。
この中でアクリル系は熱分解によるシアンガスの発生、ポリエステル系はメルトドリップするため衣料として用いた場合、着用者が火傷を負うという問題からその用途はカーテンやカーペットなどのリビング資材に限られている。またこれらは強度もせいぜい4g/d程度と低く、高強度が要求される産業資材用途への展開も困難であった。一方、木綿を難燃加工したものは、難燃剤が洗濯時や使用時に脱落し、難燃性が経時的に低下するという問題点を有している。またアラミド繊維は他の汎用繊維と比較して非常に高価であり、その量的拡大を妨げている。
【0003】
さらにPVA系の難燃繊維も例えば特公昭51−19494号公報等で知られており、PVA系の難燃繊維は熱分解で若干のガスを発生するもののメルトドリップがなく、衣料用途に好適で消防服や作業服などの衣料分野をはじめカーペットなどのリビング分野で展開してきたが、以下の2つの問題があり、用途の拡大が困難な状況であった。
【0004】
第一の問題は、コストが高いことである。
従来、PVA系繊維はPVAを水に溶解して紡糸原液となし、これを芒硝水溶液からなる凝固浴に紡糸し、乾燥、乾熱延伸、熱処理し、必要に応じてアセタール化して製造するものである。繊維の強度を高めるには、原液に硼酸を添加し凝固浴をアルカリ性にすることも工業的に行われている。そしてこれに難燃性を付与するために、原液にポリ塩化ビニル(以下PVCと略記)を添加し、さらにPVCの分解触媒としてスズやアンチモン化合物を添加して、PVA系難燃繊維が製造されている。
しかし、かかる水を溶媒とする製法においては、まずPVCが水に溶解しないために単純な市販の安価なPVCを用いることができず、高価なPVAエマルジョンを使用しなければならない。さらに、PVAとPVCエマルジョンとは相溶性が非常に悪いために、安定剤として界面活性剤や水溶性高分子などを添加する必要があり、原料コストが高くなり、さらにこれらの原料を調製する労務費も多大とならざるを得ない。また、種々の安定剤が用いられているとはいえ、PVAとPVCは本質的に親和性がないため原液中で相分離が生じやすく、原液のフィルターが詰まりやすいなど、工程の安定性がレギュラー糸に比して極めて不良であり、収率が低く、これもコストを高くする大きな要因である。
【0005】
第二の問題は繊維の強度が低いことである。
PVA系難燃繊維は、同等の難燃性を有するアクリル系やポリエステル系と比較して、強度は高いが、例えばLOIが36ではせいぜい6g/d、LOIが31では8g/dで産業資材用途として十分とはいえず、ネットやロープなど難燃性と強度が同時に求められる分野への展開が困難な状況であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように、従来のPVA系難燃繊維は他の難燃性合成繊維と比較すれば優れた性能を有しているが、コストが高く、工程安定性に欠け、また産業資材として強度が不十分であった。
本発明は、強度の高いPVA系難燃繊維を安定かつ安価に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、PVAとPVCをジメチルスルホキシドに溶解したものを紡糸原液とし、有機溶剤からなる凝固浴に紡糸し、繊維中のジメチルスルホキシドを抽出したのち、乾燥、乾熱延伸、熱処理を行うものである。さらに本発明は、重合度が1500以上4000以下であり、かつケン化度が98モル%以上のPVAと重合度5000以下のPVCが、重量比で95:5〜60:40の割合でジメチルスルホキシドに溶存したものを紡糸原液とし、メタノールとジメチルスルホキシドの重量割合が35:65〜90:10である凝固浴に紡糸し、メタノールでジメチルスルホキシドを抽出したのち、乾燥、乾熱延伸、熱処理を行うことを特徴とするPVA系難燃繊維の製造方法である。
【0008】
本発明者らは、まず原料であるPVAとPVCの原液での混合安定性を向上させることを念頭におき、PVAの水溶液にPVCあるいはPVCとPVA、またはPVCと酢酸ビニルのブロック共重合体やグラフト共重合体などと様々な安定剤を添加することを試みた。しかし、いずれも従来のPVCエマルジョンを用いる方法と比較して殆ど改善効果が認められなかったのである。
【0009】
そこで根本的に考え方を改め、PVAとPVCが相溶する原液を調製する方法について検討した。PVAとPVCを相溶させるには、双方に共通の溶剤を用いることが有効な手段であり、そのような共通溶剤として、ロダンソーダ水溶液や、グリセリン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシドなどの種々の溶媒があるが、これらの溶媒とPVAおよびPVCとの関係について検討を加えた結果、溶媒としては唯一ジメチルスルホキシド(以下DMSOと略記)を用いた場合に限り、PVAとPVCとが相溶する原液を調製し得ることを見出だし、本発明に至ったのである。特にPVAとして重合度1500以上4000以下、PVCとして重合度が5000以下のものを用いた場合に顕著に相溶性に優れたものとなる。
【0010】
本発明で用いるPVAは、繊維の機械的物性を決定付ける成分であり、十分な物性を得るにはその重合度は1500以上、ケン化度は98モル%以上が好ましい。しかし、PVCとの相溶性を満足するには、PVA、PVCの重合度をそれぞれ4000以下、5000以下とすることが好ましい。PVA、PVCいずれか一方でも上記の重合度範囲を越えるものを用いた場合には、原液中で相分離が生じやすく、紡糸することが難しくなる場合がある。
なお、PVAやPVCがエチレンやスチレンあるいは酢酸ビニルやアクリル酸エステルなどの共重合可能なビニルモノマーで20モル%以下の割合で共重合されたものについては、相溶性を阻害することなく、安定な原液を調製することができる。
PVAとPVCの混合比は、目的とする難燃度合い(難燃指数LOI)によって決まるものであり適宜設定すればよいが、繊維形成性からPVAとPVCの重量比率は60:40よりもPVAリッチが好ましい。それでもLOIとしては40程度の十分な難燃性を有するものを得ることができる。また、難燃の範疇に入るにはLOIが25以上必要であるが、そのためにはPVCの混合比率を5重量%以上とするのが好ましい。
【0011】
一方、溶媒はDMSOを主体とするものでなければ、安定な原液を調製することができない。DMSOには、水の他に、エチレングリコールやグリセリンなどのグリコール類、メタノールやエタノールなどのアルコール類、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類などのDMSOと混和しやすい成分を混合することも可能であるが、これらはいずれもDMSOの溶媒としての性能を低下させるものであるので、混合率は20重量%以下が好ましく、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0012】
その他、従来周知のPVCの分解を促進するスズ系化合物(錫酸やメタ錫酸等)あるいはアンチモン系化合物(三酸化アンチモンや五酸化アンチモン等)等については、本発明においても同様に好ましく使用することができ、またスズ系で代表される熱安定剤や各種添加剤や着色剤等も用いることができる。
また、本発明はPVAとPVCを相溶させているため、本来、混合安定剤を用いる必要はないが、例えば顔料や抗菌性、消臭性を有する物質などを原液に添加する場合は、エチレン−酢酸ビニル共重合体や、エチレン−ビニルアルコール共重合体などをPVAに対して0.1〜5%添加することで安定性を向上させることもできる。
【0013】
原液の調製方法は特に限定するものではないが、PVAとPVCをポリマー混合してDMSOに溶解した場合、長期間紡糸すると原液のフィルターが詰まりやすくなる傾向にある。特に長期にわたって良好な安定性を必要とする場合には、PVAまたはPVCの一方を、まずDMSOに溶解し、次いで他方を必要時に添加して溶解混合する方法や、PVAのDMSO溶液にPVCのDMSO溶液をパイプライン中で添加、混合する方法が好ましい。恐らく、両者のDMSOに対する溶解速度の違いから、溶解当初は相溶していても経時的に相分離が進行するものと推察される。
パイプライン中での添加混合は、具体的にはPVAとPVCを別々にDMSOに溶解し、PVAのDMSO溶液をギヤーポンプなどで計量して送液した配管に、PVCのDMSO溶液を同様に計量して押し出し、添加したのちミキサーで攪拌混合するものである。
【0014】
凝固浴はメタノールを主体とする組成が好ましいが、必然的に原液からDMSOが持込まれるためメタノールとDMSOの混合組成とすることが好ましく、その混合重量比率は、メタノール:DMSO=35:65〜90:10の範囲が好ましい。35:65よりもメタノール比率が低い場合には、凝固が不十分であるため繊維形成が困難であったり、膠着が生じることになる。逆に9:1よりもメタノール比率が高い場合は、原液からのDMSOの持込みの影響を受けやすく、その組成を維持するためには多量のメタノールを補充する必要があり、現実的には生産プロセスとしては成立しえないものである。また、凝固浴に水やケトン類など凝固性を促進するような物質を添加することは特に支障なく行うことができる。メタノール以外のアルコール類やケトン等も用いることができる。なお本発明で言う、有機溶媒からなる凝固浴とは、メタノールやケトン類のように、DMSOとは相溶性を有するが、PVAやPVCとは相溶性を有していない有機溶媒を含む浴を意味しており、もちろん浴中に吐出された紡糸原液中のポリマー成分を凝固させ、繊維状の形態を与えるものである。
【0015】
紡糸方式は、湿式紡糸方法でも、またノズルと凝固浴に間に空気層を設けた乾・湿式紡糸方法でもよい。凝固浴で形成した糸条は引き続き、1.5〜5倍に延伸しながらメタノールでDMSOや水の抽出を行い、必要に応じて油剤を付与して乾燥する。その後は、乾熱延伸、熱処理を行い必要に応じてアセタール化等の化学処理を定法に従って実施することができる。
かくして得られた繊維は、従来の難燃性PVA系繊維と比較して、同等のLOIでありながら強度が1割以上高いという特長を有している。その理由については、定かではないが基本的に、PVAとPVCを原液で相溶させたこと、およびその波及効果として種々の安定剤の添加が不要になったことが強度の向上に寄与したものと思われる。
【0016】
【実施例】
以下実施例を以て本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の強伸度はJIS L−1013に準拠して測定したものである。また、難燃指数(LOI)はJIS K 7201に準拠して測定した。
【0017】
実施例1
粒子径0.4μの酸化スズをPVAに対して4重量%の添加率となるようDMSOに分散させた分散液に重合度1750、ケン化度99.7モル%のPVAを70℃で濃度18重量%となるように溶解した(A液)。一方、別の溶解機でPVCに対して2%のスズ系熱安定剤(旭電化工業株式会社製 MARK BT−18)と重合度400のPVCをDMSOに濃度20%で溶解した(B液)。A液をギヤーポンプで毎分189gを計量して紡糸機へ送液し、その途中にギヤーポンプでB液を毎分73g計量して押出して添加し、特殊機化工業株式会社製T.K.パイプラインホモミクサー2SL6型で毎分3000回転で攪拌混合した(PVAとPVCの重量比率は7:3)。
かくして調製した紡糸原液を2000ホール、孔径0.08mmのノズルを通じてメタノール/DMSOの重量比が70/30である5℃の凝固浴中に湿式紡糸した。引き続き10℃のメタノールでDMSOを抽出しながら3.5倍に延伸し、120℃の熱風で乾燥、さらに228℃で4.0倍延伸して巻き取った。以上の製造工程は安定しており、得られた繊維は4000デニール、強度9.2g/d、伸度13.5%、LOI値は34と優れたものであった。
【0018】
実施例2〜3
実施例1においてPVAの重合度を5000とした(実施例2)、あるいはPVCの重合度を8000とした(実施例3)以外は、実施例1と同様の方法で製造することを試みた。得られた繊維の性能においては実施例1で得られたものと遜色はなかったものの、いずれも原液の相分離が生じ、安定な紡糸が困難であった。
【0019】
実施例4
重合度2400、ケン化度99.8モル%のPVA850gと酸化スズ17gを4KgのDMSOに80℃で溶解し、次いで重合度2000のPVC213gとスズ系熱安定剤(旭電化工業株式会社製 MARK BT−18)3g、さらに1.56KgのDMSOを加えて添加溶解し紡糸原液を調製した(PVA:PVC=8:2)。その後、実施例1と同様に紡糸、抽出、乾燥、延伸して巻き取った。
工程は安定しており、得られた繊維は4000デニール、強度12.5g/d、伸度15.3%、LOI値30と産業資材としても十分な強度と難燃性を有するものであった。
【0020】
実施例5〜6
実施例4において、凝固浴組成をメタノール/DMSO=45/55(実施例5)及び30/70(実施例6)に変更する以外は実施例4と同様にして繊維の製造を行った。実施例5では、ほぼ実施例4と同様に安定に同等の性能を有する繊維が製造上問題なく得られた。実施例6でも、同等の繊維は得られたものの、繊維間膠着の全くない繊維を形成させることはできなかった。
【0021】
【発明の効果】
本発明の方法により、衣料用途、産業資材用途共に展開が容易である高い強度、優れた難燃性を有するPVA系難燃繊維が安価にかつ安定に製造することが可能となった。
【発明の属する技術分野】
本発明は、難燃性に優れ、かつ強度などの機械的特性に優れ、さらに安価なポリビニルアルコール(以下PVAと略記)系難燃繊維を安定に生産する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、難燃繊維としては、難燃性物質を繊維内に練り込んだアクリル系やポリエステル系等の合成繊維が知られており、さらに天然繊維である木綿を難燃加工したものや、アラミド繊維のようにポリマー自身が耐熱性に優れており、結果として難燃性を有する繊維が上市されている。
この中でアクリル系は熱分解によるシアンガスの発生、ポリエステル系はメルトドリップするため衣料として用いた場合、着用者が火傷を負うという問題からその用途はカーテンやカーペットなどのリビング資材に限られている。またこれらは強度もせいぜい4g/d程度と低く、高強度が要求される産業資材用途への展開も困難であった。一方、木綿を難燃加工したものは、難燃剤が洗濯時や使用時に脱落し、難燃性が経時的に低下するという問題点を有している。またアラミド繊維は他の汎用繊維と比較して非常に高価であり、その量的拡大を妨げている。
【0003】
さらにPVA系の難燃繊維も例えば特公昭51−19494号公報等で知られており、PVA系の難燃繊維は熱分解で若干のガスを発生するもののメルトドリップがなく、衣料用途に好適で消防服や作業服などの衣料分野をはじめカーペットなどのリビング分野で展開してきたが、以下の2つの問題があり、用途の拡大が困難な状況であった。
【0004】
第一の問題は、コストが高いことである。
従来、PVA系繊維はPVAを水に溶解して紡糸原液となし、これを芒硝水溶液からなる凝固浴に紡糸し、乾燥、乾熱延伸、熱処理し、必要に応じてアセタール化して製造するものである。繊維の強度を高めるには、原液に硼酸を添加し凝固浴をアルカリ性にすることも工業的に行われている。そしてこれに難燃性を付与するために、原液にポリ塩化ビニル(以下PVCと略記)を添加し、さらにPVCの分解触媒としてスズやアンチモン化合物を添加して、PVA系難燃繊維が製造されている。
しかし、かかる水を溶媒とする製法においては、まずPVCが水に溶解しないために単純な市販の安価なPVCを用いることができず、高価なPVAエマルジョンを使用しなければならない。さらに、PVAとPVCエマルジョンとは相溶性が非常に悪いために、安定剤として界面活性剤や水溶性高分子などを添加する必要があり、原料コストが高くなり、さらにこれらの原料を調製する労務費も多大とならざるを得ない。また、種々の安定剤が用いられているとはいえ、PVAとPVCは本質的に親和性がないため原液中で相分離が生じやすく、原液のフィルターが詰まりやすいなど、工程の安定性がレギュラー糸に比して極めて不良であり、収率が低く、これもコストを高くする大きな要因である。
【0005】
第二の問題は繊維の強度が低いことである。
PVA系難燃繊維は、同等の難燃性を有するアクリル系やポリエステル系と比較して、強度は高いが、例えばLOIが36ではせいぜい6g/d、LOIが31では8g/dで産業資材用途として十分とはいえず、ネットやロープなど難燃性と強度が同時に求められる分野への展開が困難な状況であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように、従来のPVA系難燃繊維は他の難燃性合成繊維と比較すれば優れた性能を有しているが、コストが高く、工程安定性に欠け、また産業資材として強度が不十分であった。
本発明は、強度の高いPVA系難燃繊維を安定かつ安価に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、PVAとPVCをジメチルスルホキシドに溶解したものを紡糸原液とし、有機溶剤からなる凝固浴に紡糸し、繊維中のジメチルスルホキシドを抽出したのち、乾燥、乾熱延伸、熱処理を行うものである。さらに本発明は、重合度が1500以上4000以下であり、かつケン化度が98モル%以上のPVAと重合度5000以下のPVCが、重量比で95:5〜60:40の割合でジメチルスルホキシドに溶存したものを紡糸原液とし、メタノールとジメチルスルホキシドの重量割合が35:65〜90:10である凝固浴に紡糸し、メタノールでジメチルスルホキシドを抽出したのち、乾燥、乾熱延伸、熱処理を行うことを特徴とするPVA系難燃繊維の製造方法である。
【0008】
本発明者らは、まず原料であるPVAとPVCの原液での混合安定性を向上させることを念頭におき、PVAの水溶液にPVCあるいはPVCとPVA、またはPVCと酢酸ビニルのブロック共重合体やグラフト共重合体などと様々な安定剤を添加することを試みた。しかし、いずれも従来のPVCエマルジョンを用いる方法と比較して殆ど改善効果が認められなかったのである。
【0009】
そこで根本的に考え方を改め、PVAとPVCが相溶する原液を調製する方法について検討した。PVAとPVCを相溶させるには、双方に共通の溶剤を用いることが有効な手段であり、そのような共通溶剤として、ロダンソーダ水溶液や、グリセリン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシドなどの種々の溶媒があるが、これらの溶媒とPVAおよびPVCとの関係について検討を加えた結果、溶媒としては唯一ジメチルスルホキシド(以下DMSOと略記)を用いた場合に限り、PVAとPVCとが相溶する原液を調製し得ることを見出だし、本発明に至ったのである。特にPVAとして重合度1500以上4000以下、PVCとして重合度が5000以下のものを用いた場合に顕著に相溶性に優れたものとなる。
【0010】
本発明で用いるPVAは、繊維の機械的物性を決定付ける成分であり、十分な物性を得るにはその重合度は1500以上、ケン化度は98モル%以上が好ましい。しかし、PVCとの相溶性を満足するには、PVA、PVCの重合度をそれぞれ4000以下、5000以下とすることが好ましい。PVA、PVCいずれか一方でも上記の重合度範囲を越えるものを用いた場合には、原液中で相分離が生じやすく、紡糸することが難しくなる場合がある。
なお、PVAやPVCがエチレンやスチレンあるいは酢酸ビニルやアクリル酸エステルなどの共重合可能なビニルモノマーで20モル%以下の割合で共重合されたものについては、相溶性を阻害することなく、安定な原液を調製することができる。
PVAとPVCの混合比は、目的とする難燃度合い(難燃指数LOI)によって決まるものであり適宜設定すればよいが、繊維形成性からPVAとPVCの重量比率は60:40よりもPVAリッチが好ましい。それでもLOIとしては40程度の十分な難燃性を有するものを得ることができる。また、難燃の範疇に入るにはLOIが25以上必要であるが、そのためにはPVCの混合比率を5重量%以上とするのが好ましい。
【0011】
一方、溶媒はDMSOを主体とするものでなければ、安定な原液を調製することができない。DMSOには、水の他に、エチレングリコールやグリセリンなどのグリコール類、メタノールやエタノールなどのアルコール類、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類などのDMSOと混和しやすい成分を混合することも可能であるが、これらはいずれもDMSOの溶媒としての性能を低下させるものであるので、混合率は20重量%以下が好ましく、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0012】
その他、従来周知のPVCの分解を促進するスズ系化合物(錫酸やメタ錫酸等)あるいはアンチモン系化合物(三酸化アンチモンや五酸化アンチモン等)等については、本発明においても同様に好ましく使用することができ、またスズ系で代表される熱安定剤や各種添加剤や着色剤等も用いることができる。
また、本発明はPVAとPVCを相溶させているため、本来、混合安定剤を用いる必要はないが、例えば顔料や抗菌性、消臭性を有する物質などを原液に添加する場合は、エチレン−酢酸ビニル共重合体や、エチレン−ビニルアルコール共重合体などをPVAに対して0.1〜5%添加することで安定性を向上させることもできる。
【0013】
原液の調製方法は特に限定するものではないが、PVAとPVCをポリマー混合してDMSOに溶解した場合、長期間紡糸すると原液のフィルターが詰まりやすくなる傾向にある。特に長期にわたって良好な安定性を必要とする場合には、PVAまたはPVCの一方を、まずDMSOに溶解し、次いで他方を必要時に添加して溶解混合する方法や、PVAのDMSO溶液にPVCのDMSO溶液をパイプライン中で添加、混合する方法が好ましい。恐らく、両者のDMSOに対する溶解速度の違いから、溶解当初は相溶していても経時的に相分離が進行するものと推察される。
パイプライン中での添加混合は、具体的にはPVAとPVCを別々にDMSOに溶解し、PVAのDMSO溶液をギヤーポンプなどで計量して送液した配管に、PVCのDMSO溶液を同様に計量して押し出し、添加したのちミキサーで攪拌混合するものである。
【0014】
凝固浴はメタノールを主体とする組成が好ましいが、必然的に原液からDMSOが持込まれるためメタノールとDMSOの混合組成とすることが好ましく、その混合重量比率は、メタノール:DMSO=35:65〜90:10の範囲が好ましい。35:65よりもメタノール比率が低い場合には、凝固が不十分であるため繊維形成が困難であったり、膠着が生じることになる。逆に9:1よりもメタノール比率が高い場合は、原液からのDMSOの持込みの影響を受けやすく、その組成を維持するためには多量のメタノールを補充する必要があり、現実的には生産プロセスとしては成立しえないものである。また、凝固浴に水やケトン類など凝固性を促進するような物質を添加することは特に支障なく行うことができる。メタノール以外のアルコール類やケトン等も用いることができる。なお本発明で言う、有機溶媒からなる凝固浴とは、メタノールやケトン類のように、DMSOとは相溶性を有するが、PVAやPVCとは相溶性を有していない有機溶媒を含む浴を意味しており、もちろん浴中に吐出された紡糸原液中のポリマー成分を凝固させ、繊維状の形態を与えるものである。
【0015】
紡糸方式は、湿式紡糸方法でも、またノズルと凝固浴に間に空気層を設けた乾・湿式紡糸方法でもよい。凝固浴で形成した糸条は引き続き、1.5〜5倍に延伸しながらメタノールでDMSOや水の抽出を行い、必要に応じて油剤を付与して乾燥する。その後は、乾熱延伸、熱処理を行い必要に応じてアセタール化等の化学処理を定法に従って実施することができる。
かくして得られた繊維は、従来の難燃性PVA系繊維と比較して、同等のLOIでありながら強度が1割以上高いという特長を有している。その理由については、定かではないが基本的に、PVAとPVCを原液で相溶させたこと、およびその波及効果として種々の安定剤の添加が不要になったことが強度の向上に寄与したものと思われる。
【0016】
【実施例】
以下実施例を以て本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の強伸度はJIS L−1013に準拠して測定したものである。また、難燃指数(LOI)はJIS K 7201に準拠して測定した。
【0017】
実施例1
粒子径0.4μの酸化スズをPVAに対して4重量%の添加率となるようDMSOに分散させた分散液に重合度1750、ケン化度99.7モル%のPVAを70℃で濃度18重量%となるように溶解した(A液)。一方、別の溶解機でPVCに対して2%のスズ系熱安定剤(旭電化工業株式会社製 MARK BT−18)と重合度400のPVCをDMSOに濃度20%で溶解した(B液)。A液をギヤーポンプで毎分189gを計量して紡糸機へ送液し、その途中にギヤーポンプでB液を毎分73g計量して押出して添加し、特殊機化工業株式会社製T.K.パイプラインホモミクサー2SL6型で毎分3000回転で攪拌混合した(PVAとPVCの重量比率は7:3)。
かくして調製した紡糸原液を2000ホール、孔径0.08mmのノズルを通じてメタノール/DMSOの重量比が70/30である5℃の凝固浴中に湿式紡糸した。引き続き10℃のメタノールでDMSOを抽出しながら3.5倍に延伸し、120℃の熱風で乾燥、さらに228℃で4.0倍延伸して巻き取った。以上の製造工程は安定しており、得られた繊維は4000デニール、強度9.2g/d、伸度13.5%、LOI値は34と優れたものであった。
【0018】
実施例2〜3
実施例1においてPVAの重合度を5000とした(実施例2)、あるいはPVCの重合度を8000とした(実施例3)以外は、実施例1と同様の方法で製造することを試みた。得られた繊維の性能においては実施例1で得られたものと遜色はなかったものの、いずれも原液の相分離が生じ、安定な紡糸が困難であった。
【0019】
実施例4
重合度2400、ケン化度99.8モル%のPVA850gと酸化スズ17gを4KgのDMSOに80℃で溶解し、次いで重合度2000のPVC213gとスズ系熱安定剤(旭電化工業株式会社製 MARK BT−18)3g、さらに1.56KgのDMSOを加えて添加溶解し紡糸原液を調製した(PVA:PVC=8:2)。その後、実施例1と同様に紡糸、抽出、乾燥、延伸して巻き取った。
工程は安定しており、得られた繊維は4000デニール、強度12.5g/d、伸度15.3%、LOI値30と産業資材としても十分な強度と難燃性を有するものであった。
【0020】
実施例5〜6
実施例4において、凝固浴組成をメタノール/DMSO=45/55(実施例5)及び30/70(実施例6)に変更する以外は実施例4と同様にして繊維の製造を行った。実施例5では、ほぼ実施例4と同様に安定に同等の性能を有する繊維が製造上問題なく得られた。実施例6でも、同等の繊維は得られたものの、繊維間膠着の全くない繊維を形成させることはできなかった。
【0021】
【発明の効果】
本発明の方法により、衣料用途、産業資材用途共に展開が容易である高い強度、優れた難燃性を有するPVA系難燃繊維が安価にかつ安定に製造することが可能となった。
Claims (4)
- ポリビニルアルコールとポリ塩化ビニルをジメチルスルホキシドに溶解した紡糸原液を有機溶媒からなる凝固浴に紡糸し、繊維中のジメチルスルホキシドを抽出したのち、乾燥、乾熱延伸、熱処理を行うポリビニルアルコール系難燃繊維の製造方法。
- 重合度が1500以上4000以下であり、かつケン化度が98モル%以上のポリビニルアルコールと重合度5000以下のポリ塩化ビニルが、重量比で95:5〜60:40の割合でジメチルスルホキシドに溶解したものを紡糸原液とし、メタノールとジメチルスルホキシドの重量割合が35:65〜90:10である凝固浴に紡糸し、メタノールでジメチルスルホキシドを抽出したのち、乾燥、乾熱延伸、熱処理を行うことを特徴とするポリビニルアルコール系難燃繊維の製造方法。
- ポリビニルアルコールまたはポリ塩化ビニルの一方を、まずジメチルスルホキシドに溶解し、次いで他方を添加して溶解混合する請求項1記載の方法。
- ポリビニルアルコールのジメチルスルホキシド溶液にポリ塩化ビニルのジメチルスルホキシド溶液をパイプライン中で添加、混合する請求項1記載の方法。
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