JP3542935B2 - 光ファイバー分散補償方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光パルスをファイバー伝送した時に波形歪みをもたらす4次分散を補償するための分散補償方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光パルスをファイバー伝送すると、ファイバーのもつ分散により波形が歪む。この分散は光波の伝搬定数を光周波数に関してテイラー展開することにより得られ、1次分散、2次分散、3次分散および4次分散から成る。
【0003】
1次分散は光パルスの時間遅延を決める値であり、波形に歪みを与えることはない。
【0004】
2次分散は群速度分散ともいわれ伝送中の光パルスの広がりを決める値である。従って、2次分散は光パルスの波形の歪みをもたらす。この2次分散を補償するために、光通信波長の1.55ミクロン帯で分散がゼロになる分散シフトファイバーが開発され実用に供されている。
【0005】
しかし、伝送速度が上がりパルス幅が短くなると光パルスのスペクトル幅が拡がるために2次分散の波長依存性による3次分散が効いてくる。2次分散と3次分散を同時にゼロにするファイバーは無いため、例えば1998年に刊行されたエレクトロン・レター(Electron. Lett.)、第34巻、第907−908頁に示されているように、3種類の異なるファイバーを組み合わせる方法が用いられている。
【0006】
即ち、標準ファイバーに、標準ファイバーと逆符号の2次分散と3次分散を持つ分散補償ファイバーと3次分散を微調整するための分散シフトファイバーを組み合わせる方法である。この方法を用いて伝送速度100Gb/s程度のファイバー伝送実験が行われている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、伝送速度が100Gb/sを超えるファイバー伝送においては、2次分散と3次分散が補償されても、3次分散の波長依存性による4次分散の効果が効き、それにより波形が歪む。標準ファイバー、分散補償ファイバー、分散シフトファイバーいずれのファイバーにおいても4次分散の値は同符号であるため、ファイバーの組合せで4次分散をゼロにすることはできない。そのために、ファイバーの組合せに代わる新規な4次分散の補償方法が望まれていた。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて成されたものであり、その目的は、光パルスをファイバー伝送した時に波形歪みをもたらす4次分散を補償することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明では、光パルスをファイバー伝送した時の4次分散を補償する光ファイバーの分散補償方法において、光パルスを時間軸上で拡張してパルス幅が拡張されると同時にスペクトル成分が分散された拡張光パルスを生成し、拡張光パルスに光パルス波形の中心が原点となる余弦関数の位相変調を加え、位相変調を加えられた拡張光パルスを時間軸上で圧縮し、ファイバー伝送路全体で余弦関数の位相変調が持つ2次分散を相殺するようにする。
【0010】
前記位相変調においては、余弦関数がファイバー伝送路の4次分散を補償するように与えられる。
【0011】
また、前記ファイバー伝送路が、任意の大きさと符号の2次分散、3次分散、4次分散を持ち任意の長さを有する任意の数のファイバーセグメントから成る。
【0012】
また、前記ファイバー伝送路が、任意の大きさと符号の2次分散、3次分散、4次分散を持ち任意の長さを有する任意の数のファイバーセグメントから成り、かつファイバー伝送路全体での3次分散がゼロであるようにする。
【0013】
また、前記ファイバー伝送路が、任意の大きさと符号の2次分散、3次分散、4次分散を持ち任意の長さを有する任意の数のファイバーセグメントから成り、かつファイバー伝送路全体での2次分散と4次分散が逆符号になるようにする。
【0014】
ここで、前記余弦関数の位相変調は、余弦電気信号により駆動された光位相変調器により行われるのが好ましい。
【0015】
そして、前記ファイバー伝送路が、2次分散が互いに逆符号の第1のファイバー伝送路と第2のファイバー伝送路とから成り、第1のファイバー伝送路と第2のファイバー伝送路の間で光パルスに余弦関数の位相変調を加えるようにする。
【0016】
さらに、前記光パルスを時間軸上で拡張した時に、各スペクトル成分が時間軸上で直線的に分散されている。
【0017】
【作用】
本発明は、4次分散を補償するために、光パルスを時間軸上で拡張すると同時に光パルスのスペクトル成分を時間軸上で分散させ、この拡張された光パルスに、光パルス波形の中心が原点となる余弦関数の位相変調を加え、さらにファイバー伝送路全体で余弦関数の位相変調がもつ2次分散を相殺するという構想に立脚する。
【0018】
より具体的には、光パルスを時間軸上で拡張してパルス幅が拡張されると同時にスペクトル成分が分散された拡張光パルスを生成し、この拡張光パルスに光パルス波形の中心が原点となる余弦関数の位相変調を加えることにより補償すべき4次分散と逆符号の4次分散を与え、この位相変調を加えられた拡張光パルスを時間軸上で圧縮し、さらにファイバー伝送路全体で余弦関数の位相変調がもつ2次分散を相殺することにより、4次分散を補償することができる。
【0019】
位相変調に用いられる前記余弦関数の振幅・周波数は、補償すべき光伝送路の4次分散、伝送する光パルスのスペクトル幅、拡張光パルスのパルス幅等に応じて適宜選択することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の4次分散の補償方法を適用した光パルス伝送装置を概略的に示す。
【0022】
本発明に係わる光パルス伝送装置は、光パルスを発生するための、例えばモード同期半導体レーザのような光パルス源1、光パルス源1からの光パルスを伝送するための伝送ファイバー2及び4、伝送ファイバー2及び4の間に挿入される光位相変調器3を含む。
【0023】
本発明に係わる光パルス伝送装置は、光パルスの波長、波形、パルス幅に関して限定されることはなく、所望の波長のパルス波形・幅をもつ光パルスの伝送に用いることができるが、以下では、光パルス源1から1.55μmの波長の光が、トランスフォームリミットのすなわちチャープがゼロの光パルスをファイバー伝送する例に沿って説明する。
【0024】
伝送路は、図示の例では、伝送ファイバー2及び伝送ファイバー4から成る。各伝送ファイバー2及び4はそれぞれ固有のファイバー長、2次分散係数、4次分散係数を有する。3次分散は、例えば、異なる種類のファイバーの組合せにより補償されゼロであるとする。
【0025】
伝送ファイバー2は、2次分散係数−βとファイバー長Lの積で表される光パルス拡張のための2次分散−βLを光パルスに与える。これにより光パルスは時間軸上で拡張され、パルス幅が拡がると同時に各スペクトル成分が時間軸上で分散される。
【0026】
伝送ファイバー2及び4による4次分散を補償するために光位相変調器3が挿入されている。光位相変調器3は入力する拡張光パルスに光パルス波形の中心が原点となる余弦関数の位相変調を加える。
【0027】
拡張光パルスは伝送ファイバー2と逆符号の光パルス圧縮のための2次分散βLをもつ伝送ファイバー4により圧縮される。伝送ファイバー4の2次分散−β2rLは光位相変調器3自体が持つ2次分散を相殺するためのものである。
【0028】
本発明によれば、4次分散を補償するための最適な位相変調の余弦関数と、光位相変調器3自体が持つ2次分散を相殺するためにファイバー4で与える2次分散は次のようにして得られる。
【0029】
即ち、伝送ファイバー2および4から成る光伝送路を伝送後の2次分散及び4次分散による位相シフトφは、光パルスの中心周波数fに関して展開し、数式1のように表される。
【0030】
【数1】
Figure 0003542935
ここで、βは4次分散係数である。また、伝送ファイバー2により時間軸上で拡張された拡張光パルスの光周波数の時間変化は数式2のように表される。
【0031】
【数2】
Figure 0003542935
ここでFBWおよびTはそれぞれ入力光パルスの周波数帯域幅とパルス幅である。数式2のように時間軸上で各スペクトル成分が直線的に分散された拡張光パルスに対し余弦関数の位相変調を加えることによって4次分散を補償することができる。
【0032】
光位相変調器で加える位相変調の余弦関数は(cos(x)=1−x/2+x/24・・・)のように多項式展開できる。この式からわかるように光位相変調器の2次分散と4次分散は逆符号である。従って伝送ファイバー4で与える2次分散は4次分散の逆符号である必要がある。
【0033】
数式2を数式1に代入することにより位相シフトφの時間関数が得られ、これより位相変調の余弦関数の振幅φpが計算される。位相変調の余弦関数の繰返し周波数R(Hz)は数式3で表される。
【0034】
【数3】
Figure 0003542935
また、この時光位相変調器の2次分散を相殺するために伝送ファイバー4で加える2次分散は数式4で与えられる。
【0035】
【数4】
Figure 0003542935
さらに、より効果的に4次分散を補償するために、数式5で表されるように繰返し周波数Rに補正係数0.94を掛けることが必要である。
【0036】
【数5】
Figure 0003542935
以下、具体的な計算例を示す。
【0037】
図2はパルス幅250fsecの繰返し5GHzの光パルスを4次分散1.1×10−3ps/kmをもつ全長50kmのファイバー伝送路を伝送した場合について数式1〜5を用いて計算した結果である。
【0038】
振幅φpを3.5πとすると光位相変調器のもつ2次分散量は0.898psとなるが、これは長さ44mの標準ファイバーの2次分散量に等しい。従って、標準ファイバ−の長さを調整することにより光位相変調器のもつ2次分散を相殺することは容易に可能である。
【0039】
図ではファイバー伝送路がもつ4次分散、ファイバー伝送路で相殺する2次分散、位相変調器により印加された余弦関数の位相シフト量を示している。
【0040】
また、数式3から計算される4次分散の補償に必要な拡張光パルスのパルス幅は75.2psecであるが、一方、図2からわかるように本発明による分散補償方法では220psecにわたり4次分散をゼロにすることができる。従って、入力した光パルスの広いスペクトル幅全域において4次分散の補償が可能である。
【0041】
本発明を用いれば250fsecの光パルスを50kmファイバー伝送した時に生じる波形歪みを低減することができる。
【0042】
図3はその計算結果である。図中の破線は、4次分散の補償を行なわないと、2次分散、3次分散がゼロであってもパルス幅が736fsecまで拡がってしまうことを示している。
【0043】
一方、光位相変調器3を用いて光パルスに位相シフト量φ=3.5πを加えることにより、図3の実線に示されたように4次分散が補償され、50kmファイバー伝送後のパルス幅は342.3fsecまで改善される。
【0044】
50km伝送後のパルス幅が伝送前の250fsecまで戻らず、若干拡がってしまうのは、補償できる光パルスのスペクトル帯域が制限されているためで、これは光位相変調器3で与える位相シフト量φを大きくすることにより改善できる。
【0045】
尚、本実施例において使用して各パラメータの値はそれに限定されるものではなく、入力パルス幅、拡張パルス幅、繰返し周波数、ファイバー長に対応して適宜選択することができる。
【0046】
また、2次分散、3次分散、4次分散を制御するためにいかなるファイバの組合せを用いてもよい。さらに、2次分散、3次分散を制御するための他のいかなる分散補償方法と組み合わせてもよい。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、光パルスを時間軸上で拡張すると同時に光パルスのスペクトル成分を時間軸上で分散させ、この拡張された光パルスに、光パルス波形の中心が原点となる余弦関数の位相変調を加え、さらにファイバー伝送路全体で余弦関数の位相変調がもつ2次分散を相殺することにより、4次分散を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の4次分散の補償方法を適用した光パルス伝送装置の概略図である。
【図2】パルス幅250fsecの繰返し5GHzの光パルスを4次分散(1.1×10−3ps/km)を持つ全長50kmのファイバー伝送路を伝送した場合について、数式1〜5を用いて計算した結果である。
【図3】250fs光パルスの光ファイバー50km伝送後の波形である。
【符号の説明】
1 光パルス源
2 伝送ファイバーL
3 光位相変調器
4 伝送ファイバーL

Claims (8)

  1. 光パルスをファイバー伝送した時の4次分散を補償する光ファイバーの分散補償方法において、
    光パルスを時間軸上で拡張してパルス幅が拡張されると同時にスペクトル成分が分散された拡張光パルスを生成し、
    拡張光パルスに光パルス波形の中心が原点となる余弦関数の位相変調を加え、
    位相変調を加えられた拡張光パルスを時間軸上で圧縮し、
    ファイバー伝送路全体で余弦関数の位相変調が持つ2次分散を相殺することを特徴とする光ファイバー分散補償方法。
  2. 前記位相変調において、余弦関数がファイバー伝送路の4次分散を補償するように与えられることを特徴とする請求項1の光ファイバー分散補償方法。
  3. 前記ファイバー伝送路が、任意の大きさと符号の2次分散、3次分散、4次分散を持ち任意の長さを有する任意の数のファイバーセグメントから成ることを特徴とする請求項1の光ファイバー分散補償方法。
  4. 前記ファイバー伝送路が、任意の大きさと符号の2次分散、3次分散、4次分散を持ち任意の長さを有する任意の数のファイバーセグメントから成り、かつ前記ファイバー伝送路全体での3次分散がゼロであることを特徴とする請求項1の光ファイバー分散補償方法。
  5. 前記ファイバー伝送路が、任意の大きさと符号の2次分散、3次分散、4次分散を持ち任意の長さを有する任意の数のファイバーセグメントから成り、かつ前記ファイバー伝送路全体での2次分散と4次分散が逆符号であることを特徴とする請求項1の光ファイバー分散補償方法。
  6. 前記余弦関数の位相変調が、余弦電気信号により駆動された光位相変調器により行われることを特徴とする請求項1の光ファイバー分散補償方法。
  7. 前記ファイバー伝送路が、2次分散が互いに逆符号の第1のファイバー伝送路と第2のファイバー伝送路とから成り、第1のファイバー伝送路と第2のファイバー伝送路の間で光パルスに余弦関数の位相変調を加えることを特徴とする請求項1の光ファイバー分散補償方法。
  8. 前記光パルスを時間軸上で拡張した時に、各スペクトル成分が時間軸上で直線的に分散されていることを特徴とする請求項1の光ファイバー分散補償方法。
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