JP3516744B2 - ねずみ鋳鉄の溶接方法 - Google Patents

ねずみ鋳鉄の溶接方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ねずみ鋳鉄の溶接方法
に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ねずみ鋳鉄を溶接棒を用いて電気溶接す
ると、溶接金属部と母材熱影響部の共晶細胞の周囲にレ
ーデブライトが晶出し、この部分に溶接割れが発生す
る。ねずみ鋳鉄の溶接ではこの二箇所で発生するレーデ
ブライトをいかにして抑えるかがポイントとなる。
【0003】現在、ねずみ鋳鉄の溶接には、母材を予熱
する方法とNi等の低温溶接棒を使用する二つの方法が
採用されている。母材を予熱する方法は、かなり高い温
度、例えば700〜800°C程度に十分予熱しないと
レーデブライトの晶出を抑える効果は期待できない。し
かしながらこの様な高温予熱で溶接作業を行うのは実現
困難である。通常行われているのは300〜400°C
程度の予熱で、この程度の予熱では、主に溶接部にマル
テンサイトが発生するのを防ぐ程度の効果しか期待でき
ない。Ni等の低温溶接棒を使用するのは、母材熱影響
部への入熱を抑えて共晶細胞の周囲のレーデブライトの
晶出を減らすことと、Ni添加によって溶接金属の靱性
を上げて割れを防ぐことが目的であり、レーデブライト
そのものの晶出を防止することはできない。
【0004】したがって上記した二つの方法では、溶接
後のミクロ組織にレーデブライトが厳然と存在する。鋳
鉄の溶接は、ある意味では、レーデブライトの存在は認
め、少なくとも割れがなければ良しとする考えが支配的
であり、ミクロ組織の問題を本質的に解決できる方法は
見出されていないのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる問題
に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溶
接部に割れが発生せず、しかもミクロ組織も黒鉛の組織
を示す鋳鉄の新しい溶接方法を提供するにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記問題点に
関して鋭意研究を行った結果、次の知見を得た。すなわ
ち、 (1) 溶接棒を用いたねずみ鋳鉄の電気溶接において、溶
接部に晶出したレーデブライトは、溶接後ただちに10
00°C以上、溶融温度未満の温度に急速誘導加熱する
と、粒状の焼戻し黒鉛組織に変化し、割れが発生しない
こと。そしてその際使用する溶接棒としては、 (2) Fe−Si或いはNi−Siを基本成分とし、Si
量が2〜8%のもの。 (3) MはMC系の炭化物を形成する元素として、Fe−
Mを基本成分とし、M量が6〜20%のもの。 (4) MとしてVが好ましいことを見出した。本発明は上
記知見に基づいて成されたものである。
【0007】
【作用】ねずみ鋳鉄の溶接部を高周波で急速加熱(30
0〜500°C/min)すると、ミクロ組織に次のよ
うな変化が起こる。 1.溶接時に晶出したレーデブライト中のセメンタイト
は、加熱途上のある温度で分解されて粒状の黒鉛に変化
する。そして、この粒状黒鉛組織は球状黒鉛鋳鉄に類似
した材料特性を持ち、延性が発生する。 2.黒鉛化は1000°C以上の温度で起こり、この温
度は加熱速度によって変化する。 3.黒鉛化完了後、更に加熱して行くと、次にこの黒鉛
とオーステナイトの界面が反応して局部的に融液が生成
され、この融液部分から溶解が始まって全体に波及す
る。 つまり溶解の始まる前に必ず黒鉛化が起こり、しかも粒
状の黒鉛組織に変化し、溶解反応は黒鉛化の後始まるこ
とが判明した。
【0008】従来セメンタイトの黒鉛化は900〜10
00°Cで数時間から数十時間加熱するのが定説である
が、本発明では、これを1000°C以上、溶融温度未
満の温度に急速加熱途上に瞬時に黒鉛化する。つまり溶
接後わずか数秒から数十秒加熱するだけで黒鉛化できる
ので、現実の溶接スピードに十分対応することができ、
溶接の後を追いながら、同時に黒鉛化が可能である。
【0009】この結果、本発明では溶接部に溶接割れの
起こる温度(概ね700°C以下)に到達する前に黒鉛
化できるので溶接割れが発生しない。
【0010】本発明の黒鉛化処理が溶接割れ防止に著効
があるのは上記したミクロ組織(レーデブライト)が粒
状黒鉛組織に変化することの他に次のような理由もあ
る。すなわち、セメンタイトが黒鉛化するとき体積が膨
張するために、溶接部に残っている引っ張りの残留応力
が緩和されることによる。特に共晶細胞の周囲のレーデ
ブライトは、もともとは黒鉛組織であったものが、レー
デブライトに変化しまた元の黒鉛組織(元の組織とは黒
鉛の形状が異なるが)に帰るわけであるので、残留応力
はほとんど解消される。また、黒鉛化の際、表層部が選
択的に急速加熱されるので、表層部に圧縮の応力が生起
され、この圧縮応力が表層部の残留応力を相殺する。以
上3つの効果が相乗されて溶接割れが防止されるものと
推察される。
【0011】なお、本発明で、溶接割れだけを考えた場
合、レーデブライト中のセメンタイトは必ずしも100
%完全に焼戻し黒鉛に分解される必要はない。少なくと
も30%黒鉛化されておれば割れは防止できる。
【0012】本発明方法で使用できる溶接棒の組成は、
従来の鋳鉄の溶接の場合と異なり、低炭素から高炭素、
低合金から高合金まで幅広く選択できるが、中でも好ま
しい溶接棒の成分は、次の2種類である。 Fe−Si或いはNi−Si系で、Si量が2〜8
%の合金。 Fe−M系で、M量が6〜20%の合金。ただし、
MはMC系の炭化物を形成する元素である。 の成分は溶接金属部分のセメンタイトを黒鉛化するの
に好ましい成分である。Si量が2%未満では黒鉛化が
困難になる。8%を越えると、脆くなるので好ましくな
い。の成分は溶接金属部分のセメンタイトの粒状化に
効果があり、組織に延びが発生し、溶接割れが起こりに
くくなる。元素としては、V、Nb、Ta、Ti、Zr
等のV族、Ti族の元素が有効であるが、中でもVが最
も好ましい。M量が6%未満では粒状化が不完全で一部
網状の炭化物が残り、割れが起こりやすい。一方、V
族、Ti族の元素は酸素との親和力が強く酸化されやす
いので、20%を越える添加は溶接時に特別なガスシー
ルドを必要とし、好ましくない。
【0013】
【実施例】以下実施例によって本発明を説明する。
【0014】実施例1 母材 :φ50×200mmのFC30の片状黒鉛鋳
鉄の丸棒を使用。 開先 :円周上に深さ10mm、幅15mmのV溝を
形成した。 溶接棒 :下記組成の高Si低炭素鋼 C:0.1% Si:6.5% Mn:0.5% 溶接条件: 予熱温度 400°C 電流(交流) 110Aで一層溶接した後、ただちに高
周波加熱した。加熱前の溶接部の温度は概ね800°C
であった。 高周波加熱:1100°Cまで20秒で加熱した後、加
熱を中止し大気中放冷した。 <結果>溶接割れは全く認められなかった。 溶接部のミクロ組織:溶接部に未分解のレーデブライト
がかなり認められた。レーデブライト中のセメンタイト
と焼戻し黒鉛の面積比率は7:3であった。割れ防止だ
けを考えた場合、セメンタイトは30%分解されておれ
ば良いことが分かった。
【0015】実施例2 母材 :φ100×200mmの球状黒鉛鋳鉄の丸棒
を使用。 開先 :円周上に深さ5mm、幅10mmのV溝を形
成した。 溶接棒 :下記組成の高Si鋳鉄 C:3.5% Si:6.0% Mn:0.5% 溶接条件: 予熱温度 300°C 電流(交流) 140Aで一層溶接した後、ただちに高
周波加熱した。加熱前の溶接部の温度は概ね900°C
であった。 高周波加熱:1100°Cまで70秒で加熱した後、加
熱を中止し大気中放冷した。 <結果>溶接割れは全く認められなかった。 溶接部のミクロ組織:溶接金属部および共晶細胞周辺の
レーデブライトはほとんど分解されていた。未分解のセ
メンタイトはわずか(約8%)。
【0016】実施例3 母材 :φ100×200mmのFC30の片状黒鉛
鋳鉄の丸棒を使用。 開先 :なし。円周表面にそのまま溶接 溶接棒 :下記組成の高V低炭素鋼 C:0.1% Si:1.0% V:11% 溶接条件: 予熱温度 300°C 電流(交流) 150Aで一層溶接した後、ただちに高
周波加熱した。加熱前の溶接部の温度は概ね850°C
であった。 高周波加熱:1080°Cまで55秒で加熱した後、4
00°Cの炉内で炉冷。 <結果>溶接割れは全く認められなかった。 溶接部のミクロ組織:共晶細胞周辺のレーデブライトは
完全に分解されて黒鉛化していた。溶接金属部の組織
は、フェライト地に粒状のVC炭化物が分散した組織で
あった。
【0017】
【発明の効果】
1.溶接割れが発生しない。 2.溶接部はねずみ鋳鉄の組織である。 3.溶接部の機械的性質の劣化がなく、母材と同質であ
る。 4.溶接の自動化が可能である。 5.溶接スピードを早くできる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 川島真一ら,鋳鉄の被覆アーク溶接に おける溶接条件と溶接部の諸性質,鋳 物,日本,1994年,第66巻第6号,443 −448 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B23K 9/23,9/235,31/00 B23K 35/30 JICSTファイル(JOIS)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 溶接棒を用いたねずみ鋳鉄の電気溶接に
    おいて、溶接後直ちに溶接部を1000°C以上、溶融
    温度未満の温度に急速誘導加熱して溶接時晶出したセメ
    ンタイトを黒鉛化することを特徴とするねずみ鋳鉄の溶
    接方法。
  2. 【請求項2】 上記溶接の溶接棒の成分組成が、Fe−
    Si或いはNi−Siを基本成分とし、Si量が2〜8
    %である請求項1に記載の溶接方法。
  3. 【請求項3】 上記溶接の溶接棒の成分組成が、Fe−
    Mを基本成分とし、M量が6〜20%である請求項1に
    記載の溶接方法。ただし、MはMC系の炭化物を形成す
    る元素。
  4. 【請求項4】 上記MがVである請求項3に記載の溶接
    方法。
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