JP3510612B2 - 摩擦撹拌接合方法 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は摩擦攪拌接合により
複数の被接合部材間を接合する方法に関する。ここで被
接合部材とは、摩擦攪拌接合に好適なアルミ合金などの
金属材料からなる部材で、とくに鉄道車両の車体の製作
において各部構体を構成する部材の接合に最適な接合方
法に関する。なお、摩擦攪拌接合方法は、接合部に挿入
される丸棒状のピンを備えた回転工具を回転させながら
接合線に沿って移動させることにより、接合部を摩擦熱
により発熱させて塑性流動化させて固相接合する方法で
ある。

【０００２】

【従来の技術】上記した鉄道車両用の車体の製作におい
て、たとえば側構体については複数枚の押し出し形材を
摩擦攪拌接合して構成している。この場合、押し出し形
材の長手方向を車体の長手方向に向け、幅方向を車体の
周方向に沿って並べている。そして、押し出し形材つま
り被接合部材の摩擦撹拌接合に際して、被接合部材を通
常は長手方向に沿って突き合わせ、突き合わせ部を一定
間隔をあけて溶接により仮止め（仮付け）した状態で接
合するのが一般的である。この場合、摩擦撹拌接合作業
は仮止め溶接部（仮付け溶接部）を含めて突き合わせ部
の全長にわたって連続的に行なわれる。

【０００３】そのほかにこの種の摩擦撹拌接合方法に関
する先行技術として、たとえば特開２０００−３４３２
５０号公報に記載の構造体の制作方法がある。この方法
も接合部をＩ形開先（すなわちＶ形開先を設けず）にて
仮止め溶接した状態で行なわれるが、仮止め溶接部を避
けて摩擦撹拌接合するものである。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記公
報に記載の接合方法を含めて従来の摩擦撹拌接合方法で
は、以下の点で不都合がある。すなわち、 前者の場合、仮止め溶接部を含めて突き合わせ部の
全長にわたって摩擦撹拌接合するので、摩擦撹拌接合用
の回転工具のピンが溶接部ではその下方の突き合わせ部
において十分に挿入されないために、被接合部材間の摩
擦撹拌接合が十分に行われない。つまり、回転工具は、
突き合わせ部の外方に位置する大径部の中心（同軸上）
に突き合わせ部内に挿入される小径のピンが位置し、ピ
ンと大径部との境である段差部分（ショルダー部ともい
う）が突き合わせ部に若干挿入された状態で、回転工具
を突き合わせ部の進行方向に対して後方に傾斜させて回
転させながら摩擦撹拌接合作業が行われる。したがっ
て、仮止め溶接部は突き合わせ箇所の被接合部材表面よ
り溶接材料が上方に盛り上がった、いわゆる肉盛り状態
になっており、溶接部ではピンと大径部との境である段
差部分が溶接部の頂面上に乗り上げるような状態で回転
するからであり、ピンが突き合わせ部内に十分に挿入さ
れないことにより摩擦撹拌接合部位が浅くて接合力が十
分に得られないことに加えて、溶接部にピンが挿入され
ることによって溶接部が切断され、被接合部材の間隔が
変わるおそれがある。

【０００５】 後者の場合、仮止め溶接部では摩擦撹
拌接合が行われないから、前者に比べてさらに接合力が
弱い。しかも、摩擦撹拌接合時に回転工具を仮止め溶接
部の手前で上昇させたのち、その溶接部を通過後に回転
工具を下降させる必要があるので、回転工具の操作がや
や複雑になり、作業に時間がかかるうえに、回転工具を
自動的に昇降操作する場合には、仮止め溶接部を挟んで
前後に非摩擦撹拌接合箇所が生じるので、接合力が一層
弱くなる。

【０００６】また、前者を含めて仮止め溶接部が被接合
部材の表面から盛り上がる状態で残るから、摩擦撹拌接
合作業のあとで切削作業により除去する必要がある。

【０００７】この発明は上述の点に鑑みなされたもの
で、突き合わせ部を仮止め溶接したのちに比較的容易に
かつ強固に接合でき、仕上がりが美しい摩擦撹拌接合方
法を提供することを目的としている。

【０００８】

【課題を解決するための手段】上記した目的を達成する
ために本発明に係る摩擦撹拌接合方法は、複数の被接合
部材を突き合わせ、この突き合わせ部に沿ってＶ形開先
溝を一定の間隔をあけて形成し、前記各開先部をＴＩＧ
溶接やＭＩＧ溶接などにより溶接材料を用いて仮止め溶
接し、その仮止め溶接部の盛り上がり箇所を前記被接合
部材の表面と面一になるように切削除去したのち、前記
突き合わせ部を全長にわたり連続して摩擦撹拌接合する
ことにより前記被接合部材間を接合することを特徴とす
るものである。

【０００９】上記の構成を有する本発明の摩擦撹拌接合
方法によれば、被接合部材間に形成されるＶ形開先溝間
で溶接材料を溶融させながら仮止め溶接するので、仮止
め溶接部における接合力が大きく、被接合部材間の表面
上に肉盛り溶接する仮止め溶接と違って、溶接後の仮止
め力が強固である。そして、被接合部材間の表面上に盛
り上がった仮止め溶接部分を面一に切削除去し、この状
態で、つまり被接合部材間に溶接部の盛り上がり箇所の
ない、全長にわたり面一になった状態で、専用の回転工
具によって摩擦撹拌接合を行うので、仮止め溶接部を含
む突き合わせ部の全長にわたり回転工具を昇降させるこ
となく連続して作業を行うことができ、作業が容易で作
業効率が高い。とくに、仮止め溶接部の表面が被接合部
材間の他の突き合わせ部と同様に面一で高低差がないの
で、回転工具のピンが突き合わせ部内に十分に挿入され
て回転することから、被接合部材間の表面から裏面付近
まで十分に塑性流動されて固相接合されるために強大な
接合力が得られる。また、仮止め溶接部内に回転工具の
ピンが十分に挿入されるが、Ｖ形開先溝内に溶接部が設
けられているので、従来の肉盛り溶接と違って溶接部が
切断されるおそれがない。さらに、仮止め溶接部におい
てもＶ形開先溝内で溶融固化した溶接材料とともに被接
合部材の母材が塑性流動化されて固相接合されるので、
仮止め溶接部分も含めて突き合わせ部の全長にわたり摩
擦撹拌接合される。さらにまた、被接合部材の突き合わ
せ部は全長にわたってあらかじめ面一にしているので、
摩擦撹拌接合作業後に仕上げする必要がない。

【００１０】請求項２に記載のように、前記仮止め溶接
の間隔を４００ｍｍ〜７００ｍｍにすることができる。

【００１１】請求項２記載の摩擦撹拌接合方法によれ
ば、接合する被接合部材の長さにもよるが、たとえば２
０００〜３０００ｍｍあるいはそれ以上に長尺の被接合
部材において突き合わせ部に４００〜７００ｍｍピッチ
で仮止め溶接を行うので、仮止めした状態で溶接部の盛
り上がり部分を切削するなどの作業を行っても、突き合
わせ部が離れるおそれがない。この場合、Ｖ形開先溝の
長さは３０ｍｍ位をとるのがよい。

【００１２】請求項３に記載のように、前記仮止め溶接
部の盛り上がり箇所の切削除去を、砥石又は刃具を用い
て行うことができる。

【００１３】請求項３記載の摩擦撹拌接合方法によれ
ば、比較的簡単にかつ短時間で行うことができ、また切
削除去後の仕上がりがきれいである。

【００１４】請求項４に記載のように、前記仮止め溶接
をＭＩＧ溶接又はＴＩＧ溶接により、溶接材料に前記被
接合部材の母材と強度が近い金属材料を用いて行うこと
が好ましい。

【００１５】請求項４記載の摩擦撹拌接合方法によれ
ば、溶融した溶接材料が固化した状態でＶ形開先溝面の
母材と溶接部との融和性に優れ、相対向する広いＶ形開
先溝面と相俟って被接合部材の突き合わせ状態を確実に
維持できる。また、摩擦撹拌接合した際に、回転工具
（ピン部）により溶接部とともに被接合部材の母材が塑
性流動化され両方の材料がほぼ均等に混合されて固相接
合されるので、仮止め溶接部も他の突き合わせ部と同様
に強大な接合力が得られる。

【００１６】

【発明の実施の形態】以下、この発明に係る摩擦撹拌接
合方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。

【００１７】図１は本発明の摩擦撹拌接合方法の実施例
により２枚のワークを突き合わせて接合する作業状態を
概略的に示す全体斜視図、図２は仮止め溶接作業前のワ
ークを突き合わせた状態を拡大して示す部分斜視図、図
３（ａ）〜（ｅ）は図２のＣ−Ｃ線拡大断面図で、ワー
クを突き合わせて摩擦撹拌接合するまでの作業工程を順
に示している。図４は摩擦撹拌接合作業状態を示すワー
クの一部を拡大して示す斜視図、図５は図４のＥ−Ｅ線
断面図である。

【００１８】摩擦撹拌接合装置１の全体構造は、図１に
示すように接合予定の２枚の押し出し形材からなる被接
合部材、すなわちワークｋ・ｋを載置する平坦なベッド
２の長手方向に沿って門形フレーム３が走行可能に配備
され、この門形フレーム３の水平フレーム部４に接合ヘ
ッド１０がスライダ５を介して横移動可能にかつ上下に
昇降可能に設けられている。接合ヘッド１０は上部にモ
ータ（図示せず）を備え、下端部に回転工具１１が回動
自在に支承されており、回転工具１１はモータ（図示せ
ず）の駆動軸の下端に一体回転可能に接続されている。
回転工具１１は下向きに先細の円錐状で、図４・図５の
ようにその先端に円柱状のショルダー部１１ａが一体に
形成され、その先端面中心部にピン１１ｂが一体に突設
されている。これらのショルダー部１１ａとピン１１ｂ
とは、本例ではワークｋの材質がアルミ合金であるか
ら、それよりも硬質で剛性の高い金属材料で形成されて
おり、またそれらの中心軸線を鉛直線に対して傾斜角α
（好ましくは３°前後）で進行方向前方へ下向きに傾斜
させている。

【００１９】さて、上記した２枚のワークｋ・ｋをベッ
ド２上に長手方向に沿って載置し、ワークｋ・ｋの長辺
を突き合わせた状態で治具（図示せず）にて固定する
（図３(ａ)参照）。

【００２０】門形フレーム３はベッド２の両側のレール
６に沿って走行可能で、２枚のワークｋ・ｋの突き合わ
せ部Ｌの接合線の上方を門形フレーム３に備えた回転工
具１１が突き合わせ部Ｌに沿って移動する。

【００２１】上記のようにして２枚のワークｋ・ｋを固
定した状態で、図２に示すように突き合わせ部Ｌに沿っ
て一定間隔（たとえば５００ｍｍ）で所定長さ（たとえ
ば３０ｍｍ）のＶ形開先溝ｓを形成する（図３(ｂ)参
照）。この開先溝ｓの形成には、専用の工具（図示せ
ず）を使用するので、比較的簡単にかつ短時間で作業が
終了する。なお、ワークｋ・ｋの両端には、図２のよう
に２枚の小方形のタブ板（捨て板）ｊ・ｊが肉盛り溶接
ｍ・ｍによりそれぞれ仮止めされている。また２枚のタ
ブ板ｊ・ｊも突き合わされ、突き合わせ部Ｌ’も間隔を
あけて肉盛り溶接ｍ・ｍにより仮止めされている（図２
参照）。すなわち、２枚のタブ板ｊ・ｊの仮止め溶接ｍ
はＩ形開先で行っている。

【００２２】このようにワークｋ・ｋをベッド２上に固
定した状態で、突き合わせ部ＬのＶ形開先溝ｓをワーク
ｋの材質に近いアルミ合金からなる溶接材料を用いて本
例ではＴＩＧ溶接又はＭＩＧ溶接などのアーク溶接によ
って仮止め溶接する。この仮止め溶接状態で、Ｖ形開先
溝ｓ内の溶接材料が溶融され固化した溶接部ｔの一部
ｔ’がワークｋの表面より上方に盛り上がるように露出
している（図３(ｃ)参照）。

【００２３】そこで、切削用の刃具（図示せず）および
グラインダー（図示せず）を用いて、各Ｖ形開先溝ｓか
らワークｋより上方へ露出する溶接部分ｔ'((図３(ｃ))
を切削除去し、突き合わせ部Ｌの表面を全長にわたって
面一にする(図３(ｄ)参照)。

【００２４】この状態で、一方のタブ板ｊ・ｊの突き合
わせ部Ｌ’を図２のように始点ｙとし回転工具１１を回
転させながら下降させ所定深さまで挿入する。そして、
他方のタブ板ｊ・ｊの突き合わせ部Ｌ’までワークｋ・
ｋの突き合わせ部Ｌの全長にわたり、摩擦撹拌接合装置
１の門形フレーム２をレール６に沿って走行させ、回転
工具１１を回転させながら突き合わせ部Ｌの接合線に沿
って移動させる。この結果、ワークｋ・ｋの突き合わせ
部Ｌは全長にわたって回転工具１１の回転により摩擦熱
が発生し、塑性流動化されて固相接合されるので、仮止
め溶接部ｔも含めて突き合わせ部Ｌの全長にわたり摩擦
撹拌接合される（図３(ｅ)参照）。なお、図２および図
３(ｅ)中の符号ｗは摩擦撹拌接合部である。とくに、溶
接材料にワークｋの母材に近いアルミ合金を使用してい
るので、ワークｋの母材と溶接材料とがほぼ均等に塑性
流動化されて固相接合されるため、接合力が強固であ
る。また、ワークｋ・ｋの突き合わせ部Ｌは全長にわた
ってあらかじめ面一にしているので、摩擦撹拌接合作業
後の仕上げ作業は、タブ板ｊ・ｊをワークｋから除去す
る程度で、その他の作業はほとんど不要である。

【００２５】上記に本発明の摩擦撹拌接合方法の一実施
例を示したが、ワークｋは中空の押し出し形材であって
も同様に実施できる。また、２枚のワークに限らず３枚
以上のワークを突き合わせて接合することも可能である
ことは言うまでもない。この場合、突き合わせ部の数に
対応する複数の回転工具１１を用いて、一斉に摩擦撹拌
接合作業を行えばよい。

【００２６】

【発明の効果】以上説明したことから明らかなように、
本発明に係る摩擦撹拌接合方法には、次のような優れた
効果がある。

【００２７】（１）本発明の摩擦撹拌接合方法は、被接
合部材間に形成されるＶ形開先溝間で溶接材料を溶融さ
せながら仮止め溶接するので、仮止め溶接部における接
合力が大きく、仮止めが強固であり、また被接合部材間
の表面上に露出する仮止め溶接部分を面一に切削除去し
た状態で摩擦撹拌接合を行うので、仮止め溶接部を含む
突き合わせ部の全長にわたり連続して作業を行うことが
でき、回転工具を昇降させる必要がなく、作業が容易で
作業効率が高い。とくに、仮止め溶接部の表面が被接合
部材間の他の突き合わせ部と同様に面一で高低差がない
ので、回転工具のピンが突き合わせ部内に十分に挿入さ
れて回転するので、被接合部材間の表面から裏面付近ま
で十分に塑性流動されて固相接合され、強大な接合力が
得られる。また、仮止め溶接部においてもＶ形開先溝内
で溶融固化した溶接材料とともに被接合部材の母材が塑
性流動化されて固相接合されるので、仮止め溶接部も含
めて突き合わせ部の全長にわたり摩擦撹拌接合される。
さらに、被接合部材の突き合わせ部は全長にわたってあ
らかじめ面一にしているので、摩擦撹拌接合作業後の仕
上げ作業がほとんどない。

【００２８】（２）請求項２記載の摩擦撹拌接合方法
は、被接合部材の突き合わせ部に４００〜７００ｍｍピ
ッチで仮止め溶接を行うので、仮止めした状態で溶接部
の盛り上がり部分を切削するなどの作業を行っても、突
き合わせ部が離れるおそれがない。

【００２９】（３）請求項３記載の摩擦撹拌接合方法で
は、比較的簡単にかつ短時間で行うことができ、また切
削除去後の仕上がりがきれいである。

【００３０】（４）請求項４記載の摩擦撹拌接合方法で
は、溶融した溶接材料が固化した状態でＶ形開先溝面の
母材と溶接部との融和性に優れ、相対向する広いＶ形開
先溝面と相俟って被接合部材の突き合わせ状態を確実に
維持でき、摩擦撹拌接合した際に、回転工具により溶接
部とともに被接合部材の母材が塑性流動化され両方の材
料が均等に混合されて固相接合されるので、仮止め溶接
部も他の突き合わせ部と同様に強固な接合力が得られ
る。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の摩擦撹拌接合方法の実施例により２枚
のワークを突き合わせて接合する作業状態を概略的に示
す全体斜視図である。

【図２】図１において仮止め溶接作業前のワークを突き
合わせた状態を拡大して示す部分斜視図である。

【図３】図３（ａ）〜（ｅ）はそれぞれ図２のＣ−Ｃ線
拡大断面図で、ワークを突き合わせて摩擦撹拌接合する
までの作業工程を順に示している。

【図４】図１において摩擦撹拌接合作業状態を示すワー
クの一部を拡大して示す斜視図である。

【図５】図４のＥ−Ｅ線断面図である。

【符号の説明】

１ 摩擦撹拌接合装置 ２ ベッド ３ 門形フレーム ４ 水平フレーム部 ５ スライダ ６ レール（軌道） １０ 接合ヘッド １１ 回転工具 １１ａショルダー部 １１ｂピン ｋ ワーク ｓ Ｖ形開先溝 ｔ 溶接部 ｍ 肉盛り溶接部

Claims (4)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 複数の被接合部材を突き合わせ、この突
   き合わせ部に沿ってＶ形開先溝を一定の間隔をあけて形
   成し、 前記各開先部をＴＩＧ溶接やＭＩＧ溶接などにより溶接
   材料を用いて仮止め溶接し、 その仮止め溶接部の盛り上がり箇所を前記被接合部材の
   表面と面一になるように切削除去したのち、 前記突き合わせ部を全長にわたり連続して摩擦撹拌接合
   することにより前記被接合部材間を接合することを特徴
   とする摩擦撹拌接合方法。
2. 【請求項２】 前記仮止め溶接の間隔を４００ｍｍ〜７
   ００ｍｍにすることを特徴とした請求項１記載の摩擦撹
   拌接合方法。
3. 【請求項３】 前記仮止め溶接部の盛り上がり箇所の切
   削除去を、砥石又は刃具を用いて行うことを特徴とした
   請求項１又は２記載の摩擦撹拌接合方法。
4. 【請求項４】 前記仮止め溶接をＭＩＧ溶接又はＴＩＧ
   溶接により、溶接材料に前記被接合部材の母材と強度が
   近い金属材料を用いて行うことを特徴とした請求項１〜
   ３のいずれか記載の摩擦撹拌接合方法。