JP3443911B2 - 粉末冶金用アトマイズ鉄粉 - Google Patents

粉末冶金用アトマイズ鉄粉

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【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、優れた快削性をもった
粉末冶金製品を製造することのできる水を用いたアトマ
イズ法により製造される粉末冶金用鉄粉に関する。 【0002】 【従来の技術】粉末冶金用鉄粉は、鉄粉にCu粉、黒鉛粉
などを添加混合し、金型中で圧粉成形して焼結し、通常
5.0 〜7.2 g/cm3 の密度を有する焼結機械部品などの製
造に用いられる。粉末冶金法は寸法精度良く複雑形状の
焼結体を製造できるが、寸法精度の厳しい部品を製造す
る場合、焼結後旋削加工、あるいはドリル孔明け加工が
必要となることがある。 【0003】粉末冶金製品は一般に被削性が劣り、溶製
材製品に比べると工具寿命が短い問題点を有しているた
め機械加工時のコストが高価になる欠点を有している。
粉末冶金製品における被削性の劣化は、粉末冶金製品に
含まれる気孔による断続切削あるいは熱伝導率の低下に
よる切削温度の上昇に起因するといわれている。被削性
の改善を行うためにはS あるいはMnS などの快削成分が
鉄粉に混合されることが多い。これらS あるいはMnS は
切り屑の破断を容易にする効果、あるいは工具にS 、Mn
S の薄い構成刃先を形成し、工具すくい面での潤滑作用
により被削性の向上をもたらすと言われている。 【0004】一方、特公平3-25481 号公報においては、
若干のMn(0.1〜0.5wt%) とSi、C などを含む純鉄粉や成
分配合に、S を予合金した水アトマイズ鉄粉に関して
は、さらにSを0.03〜0.07wt% 添加した溶湯を、水また
は気体で噴霧した粉末冶金用粉末が記載されている。し
かしながら被削性の改善効果は工具寿命が1.63倍に延長
したに過ぎない。さらに一層の被削性の向上が望まれて
いた。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、被削性を一
層向上し、なおかつ焼結後に高強度の得られる高圧縮性
の純鉄粉を提供するものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は、S 含有量が0.
04〜0.2 wt% 、Mn含有量が0.05〜0.5wt%、Si含有量0.01
〜0.1 wt% 、残部がFeと不可避的不純物であり、かつMn
S 粒子数の5%以上が酸素を含有していることを特徴とす
る粉末冶金用アトマイズ鉄粉である。 【0007】 【作用】MnとS を含むアトマイズ鉄粉により製造された
焼結鋼の被削性があまり向上しない原因を鋭意検討し
た。従来、溶製材のS 快削鋼においてMnS の組成、とく
に酸素含有量が重要であり、AISI1200シリーズでは取鍋
での酸素量の制御とともに、凝固中にMnS の形態を丸く
することが重要であることが知られている。( 昭和59年
西山記念講座講演集p107) 水アトマイズ鉄粉ではアトマイズ中に水により表面が酸
化されるため、アトマイズ粉末( 仕上還元前) の平均酸
素量は0.3%以上と高く、その後の仕上還元、焼結工程で
種々の雰囲気にさらされるため、Mn、S を含む介在物(
ここではMnS と総称する) は酸化還元を受ける。MnS の
酸素の含有の有無は、被削性に大きな関係があると考え
られるが、MnS に含まれる酸素と被削性の関係に関する
公開された技術はほとんど見られない。たとえば特公平
3-25481 号公報に代表される従来の特許ではMnS の組成
にとりわけ酸素含有量については不可避の不純物として
記載されており、まったく検討されていなかった。 【0008】MnS の組成に関する研究の結果、仕上還元
後に含まれるアトマイズ鉄粉中のMnS 粒子数の5%以上が
酸素を含有すれば、その後の焼結工程をへても十分な被
削性を有することが分かった。本発明によるアトマイズ
鉄粉からの焼結体は5 μm 以下、そのほとんどは1 〜2
μm の大きさで、一部酸素を含有するMnS が、仕上還元
後のアトマイズ鉄粉、およびその焼結体中に微細に分散
し、被削性が向上する。またこの微細なMnS は焼結中に
γ相の成長に対し、ピンニング効果を発揮し、結果とし
て焼結体組織が微細化するため、S が含まれない場合に
比べ、強度の低下が認められないことを同時に見出し
た。またSiは、SiO2として単独で焼結体内に存在せず、
MnS の析出サイトとして機能し、微細なMnS を焼結体中
に均一に分散させるのに有効に機能することを見出し
た。MnS のSEM-EDX 観察の結果からはMn、S 以外に酸
素、Siの特性線のピークを観察された。EDX 分析におけ
る測定範囲は電子線の広がりを考慮すると5 μm 程度な
ので、MnS に含有される酸素の一部は、MnS の析出サイ
トとしてのSiO2の酸素であると考えられる。 【0009】以上述べたように、仕上還元後に含まれる
アトマイズ鉄粉中のMnS 粒子数の5%以上が酸素を含有
し、適量のSiを含有させることによりSiO2としてMnS の
析出サイトを供給し、微細なMnS を均一に分散させるこ
とによって被削性の向上が達成され、さらにこの微細な
MnS により焼結鋼の組織が微細化され、強度も向上す
る。 【0010】上述の研究の結果、仕上還元後に含まれる
アトマイズ鉄粉中のMnS 粒子数の5%以上が酸素を含有す
れば、その後の焼結工程をへても十分な被削性を有する
ことが分かった。仕上還元後に含まれるアトマイズ鉄粉
に含有される酸素を含むMnS 粒子数の割合を5%以上とす
るには、アトマイズ時の溶鋼中の酸素量を100ppm以上と
し、仕上還元条件( 温度、露点) は、水素雰囲気の露点
を30℃以上、仕上還元温度を950℃以上とすればよい。 【0011】以下に各成分元素の限定理由について説明
する。S は、MnS の源として添加する。鉄粉のS 含有量
を0.04wt% 以上0.2 wt% 以下に限定した理由は、以下の
通りである。S 含有量が0.04wt% 未満ではMnS の量が少
なく、被削性の向上が認められず、また同時にMnS の焼
結中にγ相の成長に対するピンニング効果が現れず、組
織が粗大化して強度も低いからである。S 含有量が0.2
wt% を超えると、これ以上増やしても被削性の向上は認
められず、また圧縮性が低下するため実際的でない。溶
鋼のS 含有量を0.05wt% 以上0.25wt% 以下に限定した理
由は、アトマイズごの仕上還元により若干脱硫が行われ
るので、仕上還元後のS 含有量が0.04wt%以上0.2 wt%
以下となるように設定したことによる。 【0012】Mnは、MnS のMn源として添加する。Mn含有
量を0.05wt% 以上0.5 wt% 以下に限定した理由は、以下
の通りである。Mn含有量が0.05wt% 未満ではMnS の量が
少なく、被削性の向上が認められないからである。Mn含
有量が0.5 wt% を超えると圧縮性が低下するから実際的
でない。Siは、MnS を均一に分布させるため、MnS の析
出サイトのSiO2源として添加する。またMnS に含有され
る酸素の一部は、MnS の析出サイトとしてのSiO2の酸素
であると考えられ、被削性の向上に寄与する。Si含有量
が0.01wt% 以上0.1 wt%以下に限定した理由は、以下の
通りである。Si含有量が0.01wt% 未満ではMnS が焼結体
内に均一に分散せず、被削性があまり向上しない。Si含
有量が0.1 wt% を超えると、SiO2が単独で焼結体内に析
出し被削性が低下する。 【0013】仕上還元後のアトマイズ鉄粉中のMnS 粒子
数の5%以上に酸素を含有させるのは、被削性を向上させ
るためである。仕上げ後のアトマイズ鉄粉に酸素を含有
するMnS 粒子数が5%未満では被削性が向上しない。仕上
還元後のアトマイズ鉄粉中のMnS 粒子数の5%以上に酸素
を含有させるには、アトマイズ時の溶鋼の酸素量を100p
pm以上とし、仕上還元条件( 温度、露点)を水素雰囲気
の露点を30℃以上、仕上還元温度を950 ℃以上とする。
露点が30℃未満では仕上還元後に酸素を含むMnS 粒子数
の割合が5%以上とならない。また仕上還元温度が950 ℃
未満では仕上還元中にMnS の酸化が起こりにくく、仕上
還元後に酸素を含むMnS 粒子数の割合が5%以上とならな
い。 【0014】アトマイズ時の溶鋼中の酸素量を100ppm以
上とすることにより、MnS 中に酸素を含有させることが
容易となり、100ppm未満では仕上還元後に酸素を含むMn
S 粒子数の割合が5%以上とならない。 【0015】 【実施例】 (実施例I)表1に示す化学組成のアトマイズ鉄粉を作
成した。これらの鉄粉は、溶鋼を水アトマイズした生粉
をN2雰囲気中で140 ℃で60分乾燥した後、表 1に示す条
件で仕上還元したのち、粉砕分級して製造した。また表
1に、ジルコニア酸素センサで測定した水アトマイズ直
前の溶鋼中の酸素量とボンブ分析による溶鋼中のMn、S
分析値を同時に示した。これらの仕上還元後の粉末に含
まれる酸素を含むMnSの比率は粉末の断面のEPMA分析を
行い、Mn、S 、O のマッピングの後、画像処理により各
元素のマッピング像を重ね合わせを行い、300 個のMnと
S を含む介在物について酸素の含有の有無の調査を行っ
た。表 1には仕上還元後の粉末に含まれるMnS の中の酸
素を含むMnS の比率を同時に示した。 【0016】 【表1】 【0017】引張強さの評価は、表 1に示す粉末に黒鉛
粉、銅粉、ステアリン酸亜鉛を混ぜFe-2%Cu-1.0%Gr-1.0
%Znst とし、圧粉密度6.85g/cm3 とし、1130℃窒素雰囲
気中で20分焼結して行った。被削性の評価は、外径60
φ、高さ10mmのリング形状、圧粉密度6.85g/cm3 とし、
窒素雰囲気中1130℃で20分焼結後、直径12mmのハイス製
ドリル3 本を用いて10000rpm、0.12mm/revの条件で加工
が不可能になるまでの加工した孔の数の平均値を工具寿
命として評価した。 【0018】圧縮性の評価は、各鉄粉にステアリン酸亜
鉛を1wt%添加した組成(Fe-1.0%ZnSt) において、5 t/cm
2 の成形圧力で11φ×10mmのタブレットを成形したとき
の圧粉密度により行った。市販の純鉄粉の圧粉密度は6.
86g/cc、引張強さ42kgf/mm2、工具寿命30回であった。
実施例 1から9 ではS 含有量が0.04〜0.2 wt% 、Mn含有
量が0.05wt% 以上0.5 wt% 以下残部がFeと不可避的不純
物であり、MnS 粒子数の5 % 以上が酸素を含有するなら
ば引張強さ、工具寿命、圧縮性とも優れていることが分
かる。またこの場合仕上還元条件(温度、露点)を水素
雰囲気露点30℃以上、仕上還元温度を950 ℃以上であ
り、かつアトマイズ時の溶鋼中の酸素量が100ppm以上で
あった。比較例 1ではS 含有量0.04wt% 未満では圧縮性
は優れるが、引張強さ、被削性が劣ることを示す。比較
例2 ではS 含有量が0.2 wt% を超えると圧縮性が低いこ
とを示す。比較例3ではMnが0.05wt% 未満で被削性が劣
ることが分かる。比較例4 ではMnが0.5 wt% を超えると
圧縮性が劣ることが分かる。比較例5、6、7では仕上
還元後のアトマイズ鉄粉中の酸素を含有するMnS 粒子数
が5%未満では被削性が向上しないことを示す。比較例5
では、アトマイズ時の溶鋼中の酸素量が100ppm未満であ
った。比較例6では仕上還元温度を950 ℃未満であり、
比較例7では仕上還元での水素雰囲気の露点30℃未満で
あった。 (実施例II)表2に示す化学組成のアトマイズ鉄粉を作
成した。これらの鉄粉は、溶鋼を水アトマイズした生粉
を窒素雰囲気中で140 ℃で60分乾燥した後、表 2に示す
条件で仕上還元したのち、粉砕分級して製造した。また
表2にジルコニア酸素センサで測定した水アトマイズ直
前の溶鋼中の酸素量とボンブ分析による溶鋼中のMn、S
i、S 分析値を同時に示した。これらの仕上還元後の粉
末に含まれる酸素を含むMnS 粒子数の比率は粉末の断面
のEPMA分析を行い、Mn、S 、O のマッピングの後、画像
処理により各元素のマッッピング像の重ね合わせを行
い、300 個のMnとSを含む介在物について酸素の含有の
有無を調査した。表 2には仕上還元後の粉末に含まれる
MnS のなかの酸素を含むMnS の比率を同時に示した。 【0019】 【表2】 【0020】引張強さの評価は、表 2に示す粉末に黒鉛
粉、銅粉、ステアリン酸亜鉛を混ぜ、Fe-2%Cu-1.0%Gr-
1.0%Znst とし、圧粉密度6.85g/cm3 とし、1130℃窒素
雰囲気中で20分焼結して行った。被削性の評価は外径60
mmφ、高さ10mmのリング形状、圧粉密度6.85g/cm3
し、1130℃窒素雰囲気中で20分焼結後、直径12mmのハイ
ス製ドリル3 本を用いて10000rpm、0.12mm/revの条件で
加工が不可能になるまでの加工した孔の平均値を工具寿
命として評価した。 【0021】圧縮性の評価は、各鉄粉にステアリン酸亜
鉛を1%添加した組成(Fe-1.0%ZnSt)において、5 t/cm2
の成形圧力で11φ×10mmのタブレットを成形したときの
圧粉密度により行った。市販の純鉄粉の圧粉密度は6.86
g/cc、引張強さ42kgf/mm2 、工具寿命30回であった。実
施例 1から9 ではS 含有量が0.04〜0.2 wt% 、Mn含有量
が0.05wt% 以上0.5 wt% 以下、Si含有量が0.01wt% 以上
0.1 wt% 以下、残部がFeと不可避的不純物であり、MnS
粒子数の5%以上が酸素を含有するならば引張強さ、工具
寿命、圧縮性とも優れることが分かる。比較例 1ではS
含有量が0.04wt% 未満では圧縮性は優れているが、引張
強さ、被削性が劣ることを示す。比較例2ではS 含有量
が0.2 wt% を超えると圧縮性が低いことを示す。比較例
3ではMnが0.05wt% 未満で被削性が劣ることが分かる。
比較例 4ではMnが0.5 wt% を超えると圧縮性が劣ること
が分かる。比較例 5ではSi含有量が0.01wt% 未満では被
削性が低下することを示した。比較例 6ではSi含有量が
0.1 wt% を超えると被削性が低下することを示した。比
較例 7、8 、9 では仕上げ後のアトマイズ鉄粉に含有す
る全MnS に対する酸素を含むMnS 粒子数の割合が5%未満
では被削性が向上しないことを示す。比較例7 ではアト
マイズ用の溶鋼中の酸素量を100ppm未満であった。比較
例8 では仕上還元温度を950 ℃未満であり、比較例9 で
は仕上還元での水素雰囲気の露点30℃未満であった。 【0022】 【発明の効果】本発明の粉末冶金用鉄粉は、従来の粉末
冶金用鉄粉に比べ、圧縮性に優れ、焼結したときに、被
削性および引張強さに優れた焼結体を容易に得ることが
できる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭55−122802(JP,A) 特開 昭59−93801(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B22F 1/00

Claims (1)

  1. (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 S 含有量が0.04〜0.2 wt% 、Mn含有量が
    0.05〜0.5wt%、Si含有量0.01〜0.1 wt% 、残部がFeと不
    可避的不純物であり、かつMnS 粒子数の5%以上が酸素を
    含有していることを特徴とする粉末冶金用アトマイズ鉄
    粉。
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