JP3389814B2 - 静磁波装置 - Google Patents

静磁波装置

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Description

【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は静磁波装置に関し、
特に、1GHz以下の周波数で使用される酸化物磁性ガ
ーネット単結晶を用いた静磁表面波装置に関するもので
ある。 【0002】 【従来の技術】磁性ガーネット単結晶膜は、従来、バブ
ルメモリー用あるいは光アイソレーター用の磁性材料と
して利用されてきたが、最近では、マイクロ波装置すな
わち静磁波装置にも利用されている。静磁波装置には、
たとえばFeを含む磁性ガーネット単結晶膜が利用され
る。このFeを含む磁性ガーネット単結晶膜は、組成式
Gd3 Ga5 12で示される単結晶基板(以下、GGG
単結晶基板と略記する)上に、たとえば液相エピタキシ
ャル法によって数10μm程度の膜厚にエピ成長させた
ものである。なお、GGG単結晶基板が用いられるの
は、量産および品質の観点から最も実用的だからであ
る。 【0003】静磁波は、酸化物磁性体としての磁性ガー
ネット単結晶に直流磁界を印加して磁化し、その磁化方
向に垂直に高周波磁界を加えることによって、励振され
る。すなわち、上述した磁性ガーネット単結晶膜面に垂
直あるいは水平な方向に直流磁界を印加するとともに、
磁性ガーネット単結晶膜に結合したマイクロストリップ
線路に高周波を加えると電子スピンによる磁気モーメン
トに歳差運動が生じる。この歳差運動を介して伝搬する
波が静磁波と呼ばれる。伝搬する静磁波のモードは、印
加される直流磁界の方向によって変わる。たとえば、磁
性ガーネット単結晶膜表面に平行で、かつ静磁波の伝搬
方向に垂直な方向に直流磁界を印加すると静磁表面波が
伝搬する。この場合、磁性ガーネット単結晶膜内の内部
磁界Hi と静磁表面波伝搬周波数との間には下記の式
および式の関係がある(Hewlett−Packa
rd Journal Feb.,10−20,198
5.)。すなわち、fを静磁波の周波数、γをジャイロ
回転比、4πMs を飽和磁化、Hexを外部から印加する
直流磁界、Nを反磁界係数、Ha を異方性磁界とする
と、静磁表面波が伝搬する周波数の上限値fh、および
静磁表面波が伝搬する周波数の下限値fl は、 fh =γ(Hi +2πMs ) ・・・ fl =γ{Hi ×(Hi +4πMs )}0.5 ・・・ で表される。 ここで、 Hi =Hex−N4πMs +Ha ・・・ である。上式式および式は、静磁表面波装置の周波
数帯域を規定する重要な関係を示す。従来、これらの関
係を用いて静磁表面波装置の動作周波数および周波数帯
域の設定、外部から印加する直流磁界の決定、材料の飽
和磁化の決定、および動作温度特性の決定等が行われて
きた。 【0004】上述の関係に基づき、{111}結晶面
(以下単に、面という)方位に成長させた磁性ガーネッ
ト単結晶膜を用いた静磁表面波装置を作製するには、ま
ず、GGG基板上にエピ成長させた直径2インチないし
3インチの磁性ガーネット単結晶膜が準備される。磁性
ガーネット単結晶膜は、{111}面方位へエピ成長さ
れて得られたものである。{111}面方位は、磁性ガ
ーネット単結晶膜の磁化容易軸としての〈111〉結晶
軸(以下単に、軸という)方位に垂直に延びる面であ
る。次に、こうして準備された磁性ガーネット単結晶膜
上に、フォトリソグラフィーなどの方法により線幅数1
0μmのマイクロストリップ線路が形成される。さら
に、この磁性ガーネット単結晶膜は、チップ状に切り分
けられる。そして、それらのチップに永久磁石等で構成
された磁気回路が取り付けられる。このとき、磁気回路
は、磁性ガーネット単結晶膜の磁化容易軸である〈11
1〉軸方位に垂直な面方位である{111}面方位に水
平な方向に直流磁界が印加されるように形成される。 【0005】この場合、従来は、磁性ガーネット単結晶
膜の{111}面内のいずれの方向から直流磁界を印加
しても同等の特性が得られると考えられていた。つま
り、結晶学的にみた磁性ガーネット単結晶における磁化
容易軸は〈111〉軸であるので、異方性エネルギーは
〈111〉軸方位が最も小さくなる。すなわち、〈11
1〉軸方位は、エネルギー的に最も低い状態にある。逆
に異方性エネルギーの最も高い結晶軸方位としての〈1
00〉軸は、磁化困難軸と呼ばれている。しかし、{1
11}面方位の面内にこの〈100〉軸方位は存在しな
い。そのため、静磁表面波を伝搬させるに際し、直流磁
界を{111}面内に存在するいずれの結晶軸に印加し
ても、動作周波数等の静磁表面波装置としての特性に差
異はないと考えられてきた。この考えについては、実験
的な根拠も得られている。すなわち、磁気的な異方性の
測定が可能なX−バンド帯(9.2GHz)で測定する
市販の電子スピン共鳴装置を用いた強磁性共鳴測定を行
い、{111}面方位の磁性ガーネット単結晶膜につい
て水平共鳴磁界の{111}面内の結晶軸方位依存性を
測定した結果、{111}面内に存在するいずれの低指
数の軸方位についてもほとんど同じ値を示す。実際、1
GHzの周波数で静磁表面波装置を使用するにあたって
は、{111}面内のいずれの低指数の軸方位に直流磁
界を印加しても静磁表面波装置の動作周波数および帯域
における差異はみられなかった。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来、
静磁表面波装置の動作周波数を下げる場合には、上述し
た式および式の関係に従い、直流印加磁界を弱くし
たり材料の飽和磁化を下げたりしている。ところが、特
に1GHzに満たない周波数での使用においては、直流
印加磁界の強さが磁化の安定性に大きく影響する。その
ため、1GHz以下の周波数、具体的には500MHz
付近に中心周波数を設定しようとして直流印加磁界を弱
くすると、磁性ガーネット単結晶膜が十分磁化されなく
なり、静磁表面波装置が実用的使用に耐えることのでき
る静磁表面波装置が得られない。つまり、従来は、1G
Hz以下の周波数、具体的には500MHz付近に中心
周波数を持つ静磁表面波装置を上述と同様な工程にて作
製しようとしても、周波数−印加磁界の関係が異なった
り、安定したフィルタ特性が再現性良く得られないとい
う問題があった。 【0007】それゆえに、本発明の主たる目的は、1G
Hz以下の周波数で安定した特性を発揮することができ
る静磁波装置を提供することである。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明にかかる静磁波装
置は、組成式Gd3 Ga5 12で示される単結晶インゴ
ットを{111}面方位に切断し研磨処理を施してなる
単結晶基板と、単結晶基板上にエピ成長される組成式
(YR1)3 (FeR2)5 12〔YおよびFeを主体
とし、組成式中のR1は、La,Bi,Lu,Gdの中
から選ばれる少なくとも一つの元素であり、R2は、G
a,Al,In,Scの中から選ばれる少なくとも一つ
の元素である〕で表される磁性ガーネット単結晶膜とを
含む静磁波装置であって、{111}結晶面方位の面内
に存在する〈110〉軸方位に静磁表面波を伝搬させる
ことを特徴とする、静磁波装置である。 【0009】発明者らは、直流磁界の印加方向を単結晶
基板面内の低指数の結晶軸の各方向に変化させ、静磁表
面波装置としての最低動作周波数との関係を検討した。
その結果、静磁表面波の伝搬方位を〈110〉軸方位と
平行にしたとき、磁性ガーネット単結晶基板の{11
1}面内を静磁表面波が伝搬し始めるいわゆる最低動作
周波数が最も低いことを見いだした。また、通常、静磁
表面波装置においては、磁性ガーネット単結晶膜に印加
する直流磁界を0から徐々に増加させた場合、ある磁界
に達するまではフィルタ特性が現れない。この現象は、
印加される磁界が所定の磁界以上にならないと静磁表面
波が伝搬しないことに対応する。これは、磁性ガーネッ
ト単結晶膜がある磁界に達するまでは十分磁化されない
ことによるものと考えられる。しかし、〈110〉軸方
位に静磁表面波が伝搬する場合、すなわち、〈112〉
軸方位に直流磁界を印加した場合には、他の軸方位に直
流磁界を印加することに比較してより低い直流磁界で実
用的なフィルタ特性が再現性良く得られることを発明者
らは見いだした。1GHz以下の周波数、たとえば50
0MHz付近の周波数は、磁性ガーネット結晶の使用可
能な周波数の限界に近い値であり、このような周波数下
では、異方性エネルギーの微小な差が静磁表面波装置と
しての性能に大きく影響すると考えられる。ここで、
{111}面方位面内に存在する〈112〉軸方位は、
他の面内の低指数の軸方位に比較して比較的異方性エネ
ルギーの小さい方位である。そして、〈112〉軸方位
に直流磁界を印加すると、{111}結晶面方位の面内
に存在する〈110〉軸方位に静磁表面波が伝搬する。
つまり、〈110〉軸方位に静磁表面波を伝搬させるこ
とにより、最低動作周波数および直流印加磁化を低くす
ることができる。したがって、本発明にかかる静磁波装
置によれば、1GHz以下で動作させる際に安定した特
性を再現性良く得ることができる。 【0010】本発明の上述の目的,その他の目的,特徴
および利点は、図面を参照して行う以下の発明の実施の
形態の詳細な説明から一層明らかとなろう。 【0011】 【発明の実施の形態】 【実施例】図1は、本発明にかかる静磁波装置の一例と
しての静磁表面波装置を示す図解図である。図1に示す
静磁表面波装置10は、GGG単結晶基板12を含む。
GGG単結晶基板12の上には、磁性ガーネット単結晶
薄膜14が形成される。この磁性ガーネット単結晶薄膜
14は、たとえば飽和磁化1300G,膜厚=20μm
のねらい組成式(Y2.97La0.03)(Fe4.60
0.40)O12で表される薄膜である。磁性ガーネット単
結晶薄膜14の上には、互いに5mmの間隔をあけて対
向しながら平行に延びる2本のマイクロストリップ線路
16が形成される。このマイクロストリップ線路16
は、アルミニウム製であり、それぞれの線幅は50μm
である。静磁表面波は、マイクロストリップ線路16の
延びる方向と直交する方向へ伝搬する。マイクロストリ
ップ線路16は、それぞれ外部のトランスデューサ20
に接続されて、一方が高周波信号の入力用に用いられ、
他方が出力用に用いられる。また、磁性ガーネット単結
晶薄膜14上の静磁波伝搬方向の両端部には、不要な静
磁波を吸収するための静磁波吸収体18が形成される。 【0012】次に、この静磁表面波装置10の製造法に
ついて説明する。まず、組成式Gd3 Ga5 12で示さ
れる単結晶インゴットを(111)面方位に切断し研磨
処理を施してなるGGG単結晶基板12が準備される。
一方、原料組成Y2 3 =0.40mol%,Fe2
3 =9.24mol%,La2 3 =0.06mol
%,Ga2 3 =0.30mol%,PbO=84.0
0mol%,B2 3 =6.00mol%が混合され
る。次に、その混合物が約1200℃に加熱されて溶液
にされる。その後、その溶液が890℃に降温されて静
置される。そして、その溶液中に2インチφ(111)
面方位Gd3Ga5 12単結晶基板が浸漬されて、水平
ディッピング法により、上述のねらい組成式(Y2.97
0.03)(Fe4.60Ga0.40)O12の磁性ガーネット単
結晶薄膜14が(111)面方位に成長されて作製され
る。そして、この磁性ガーネット単結晶膜14上に、マ
イクロストリップ線路16がフォトリソグラフィーによ
り形成される。さらに、磁性ガーネット単結晶薄膜14
上に静磁波吸収体18が形成される。その後、縦長1
0.0mm、横長2.5mmの大きさのチップに切り分
けられる。さらに、マイクロストリップ線路16に外部
のトランスデューサ20が接続されて、静磁表面波装置
10とされる。 【0013】図2は、磁性ガーネット結晶の(111)
面内に存在する低指数軸方位の位置関係を示す図であ
る。なお、(111)面内には、〈110〉軸,〈11
2〉軸の他、低指数の軸方位として〈123〉軸が存在
するがここでは省略した。この実施例では、結晶軸の方
位と静磁表面波の伝搬方位との関係を調べるため、静磁
波の伝搬される方位の異なる静磁表面波装置10を3種
類作製した。具体的には、静磁表面波が〈110〉軸方
位に伝搬するようにした静磁表面波装置10と、〈11
2〉軸方位に伝搬するようにした静磁表面波装置10
と、〈123〉軸方位に伝搬するようにした静磁表面波
装置10とをそれぞれ上述の製造方法により作製した。 【0014】図3および図4を参照しながら、(11
1)面内の各軸方位に静磁波を伝搬させて検討した結果
を説明する。ここで、図3は、電磁石を用いて直流磁界
を変化させながら〈110〉軸,〈112〉軸および
〈123〉軸方位にそれぞれ平行に静磁表面波を伝搬さ
せた場合について、静磁表面波が伝搬する周波数の下限
値fl と挿入損失(相対値)との関係を示したグラフで
ある。また、図4は、〈110〉軸および〈112〉軸
方位に平行に静磁表面波を伝搬させた場合についての、
直流磁界と静磁表面波が伝搬する周波数の下限値fl
の関係を示したグラフである。なお、このグラフ中の実
線は、上述の式より求めた理論値をプロットした線で
ある。 【0015】図4に示すように、〈112〉軸方位に静
磁表面波を伝搬させた場合は、直流磁界を10(Oe)
印加した時点でフィルタ特性が現れる。しかし、フィル
タ特性が実用的なレベルにまで達するためには、さらに
40(Oe)まで直流磁界を印加する必要があった。ま
た、40(Oe)未満の磁界範囲においては、図4に示
すように、式で予想される理論的な挙動と異なった挙
動を示すフィルタ特性が観測された。したがって、実質
的には、40(Oe)以上の直流磁界を印加した時に得
られる中心周波数600MHz以上のフィルタ特性が観
測されるまでは、実用的な特性が得られなかった。一
方、〈110〉軸方位に平行に静磁表面波を伝搬させた
場合は、直流磁界を24(Oe)印加した時点ではじめ
てフィルタ特性が観測された。しかも、その直後からフ
ィルタ特性上、実用的なレベルに達した。すなわち、図
4に示すように〈112〉軸方位の伝搬と異なり、〈1
10〉軸方位への伝搬は、フィルタ特性が表れた時点か
ら式に対応したフィルタ特性の挙動が得られ、500
MHz付近から実用的なフィルタ特性が得られた。ま
た、フィルタ特性の再現性にも優れていた。なお、〈1
23〉軸方位と平行に静磁表面波を伝搬させた場合につ
いては、〈110〉および〈112〉軸方位で得られた
フィルタ特性の中間的な結果が得られた。 【0016】なお、上述の実施形態において、イットリ
ウム(Y)をビスマス(Bi),ルテチウム(Lu)ま
たはガドリニウム(Gd)にそれぞれ置換した組成の磁
性ガーネット単結晶薄膜を用いても同様の効果が得られ
る。また、それらの組成の磁性ガーネット単結晶薄膜に
おいて、ガリウム(Ga)をアルミニウム(Al),イ
ンジウム(In)またはスカンジウム(Sc)にそれぞ
れ置換した組成の磁性ガーネット単結晶薄膜を用いても
同様の効果を得ることができる。 【0017】 【発明の効果】本発明にかかる静磁波装置によれば、1
GHz以下で動作させる上で安定した特性が再現性良く
得られる。
【図面の簡単な説明】 【図1】本発明にかかる静磁波装置の一例としての静磁
表面波装置を示す図解図である。 【図2】磁性ガーネット結晶の(111)面内に存在す
る低指数軸方位の位置関係を示す図である。 【図3】電磁石を用いて直流磁界を変化させながら〈1
10〉軸,〈112〉軸および〈123〉軸方位にそれ
ぞれ平行に静磁表面波を伝搬させた場合について、静磁
表面波が伝搬する周波数の下限値fl と挿入損失(相対
値)との関係を示したグラフである。 【図4】〈110〉軸および〈112〉軸方位に平行に
静磁表面波を伝搬させた場合についての、直流磁界と静
磁表面波が伝搬する周波数の下限値fl との関係を示し
たグラフである。グラフ中の実線は、上述の式より求
めた理論値をプロットした線である。 【符号の説明】 10 静磁表面波装置 12 GGG単結晶基板 14 磁性ガーネット単結晶薄膜 16 マイクロストリップ線路 18 静磁波吸収体 20 トランスデューサ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平9−46103(JP,A) 特開 平9−223627(JP,A) 特開 平7−130539(JP,A) 特開 平7−14713(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H01F 10/00 - 10/32 C30B 29/28 H01P 1/215

Claims (1)

  1. (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 組成式Gd3 Ga5 12で示される単結
    晶インゴットを{111}面方位に切断し研磨処理を施
    してなる単結晶基板と、 前記単結晶基板上にエピ成長される組成式(YR1)3
    (FeR2)5 12〔YおよびFeを主体とし、組成式
    中のR1は、La,Bi,Lu,Gdの中から選ばれる
    少なくとも一つの元素であり、R2は、Ga,Al,I
    n,Scの中から選ばれる少なくとも一つの元素であ
    る〕で表される磁性ガーネット単結晶膜とを含む静磁波
    装置であって、 {111}結晶面方位の面内に存在する〈110〉結晶
    軸方位に静磁表面波を伝搬させることを特徴とする、静
    磁波装置。
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JPH10284322A (ja) 1998-10-23

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