JP3329871B2 - プレス加工用高張力薄鋼板およびその製造方法 - Google Patents

プレス加工用高張力薄鋼板およびその製造方法

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JP3329871B2 JP03865393A JP3865393A JP3329871B2 JP 3329871 B2 JP3329871 B2 JP 3329871B2 JP 03865393 A JP03865393 A JP 03865393A JP 3865393 A JP3865393 A JP 3865393A JP 3329871 B2 JP3329871 B2 JP 3329871B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、プレス加工用高張力薄
鋼板、すなわち高強度を有するプレス加工用の、冷延鋼
板, 熱延鋼板およびめっき鋼板などの薄鋼板と、それら
の製造方法に関するものである。とくに、穴拡げ特性に
優れたプレス加工用高張力薄鋼板に関しての提案であ
る。
【0002】
【従来の技術】近年、加工用鋼板は高強度化によって軽
量化したものが望まれている。加工用鋼板の高強度化を
図る方法には、第2相を利用する複合組織強化法が一般
的である。この方法で得られた複合組織強化鋼は、強度
−延性バランスに優れるだけでなく、低降伏比(YR=YS
/TS)や遅時効性という特性にも優れている。しかしな
がら、このようにして得られた従来の複合組織強化鋼
は、穴拡げ加工のような伸びフランジを伴うプレス加工
において、端面の亀裂発生により破断を起こし易いとい
う欠点があった。
【0003】上記欠点を克服する方策として従来、例え
ば特開昭61-48520号公報では、第2相の低減、微細分布
化および表面性状の改善などを組み合わせた方法を提案
している。しかし、このような各要素の最適化の組み合
わせによる従来法では、工程管理が複雑化するだけでな
く、第2相による組織内への歪導入という、穴拡げ性を
低下させる要因が解決されず、大きな改善効果が期待で
きなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題
を有利に解決するもので、複合組織鋼板の利点を活かし
つつ、穴拡げ性に劣るという複合組織鋼板の弱点を克服
したプレス加工用高張力薄鋼板を、その有利な製造方法
と共に提案することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】従来、複合組織型鋼板
は、局部的な残留応力が存在するために、伸びフランジ
成形における割れが発生し易く、穴拡げ性の低下は避け
られないものと考えられてきた。そこで本発明者らは、
この点を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、前記
穴拡げ性の低下は、第2相の濃度分布を板厚方向におい
て変化させることにより改善できることを突き止めた。
なお、本発明のプレス加工用高張力薄鋼板については、
本発明者らが推奨する指標( 穴拡げ指数) である, 後述
する試験方法による穴拡げ率とTSの2乗との積(TS2×穴
拡げ率)が24.0×104%・kgf2/mm4以上を示すほか、TS≧
35 (kgf/mm2)、TS×El≧1600(kgf/mm2・%) 、YR≧70
(%) を満たし、さらに冷延鋼板ではr値≧1.6 を満足す
る特性値を有することが望ましい。
【0006】上述した知見の下に得られた本発明は、次
のとおりの要旨構成を有するものである。 1.フェライト相と、マルテンサイト、ベイナイト、パ
ーライト、残留オーステナイトおよび低温変態フェライ
トの少なくともいずれか一つの相による第2相との複合
組織からなる加工用の高張力鋼板であって、鋼板の表面
から板厚 1/4深さまでの表面近傍における第2相の体積
率が、板厚 1/4深さから板厚中心までの中心部における
第2相の体積率の 1.3倍以上であるプレス加工用高張力
薄鋼板。
【0007】2.上記の鋼板は、その成分組成が、C:
0.004 〜0.2 wt%、Si:2.0 wt%以下、Mn:3.5 wt%以
下、P:0.25wt%以下、S:0.10wt%以下およびN:0.
0050wt%以下を含み、かつTi:0.002 〜0.2 wt%および
Nb:0.002 〜0.2 wt%のうちから選んだ1種または2種
を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなるもの
であるプレス加工用高張力薄鋼板。
【0008】3.上記2の鋼板成分組成に、さらにMo:
0.03〜5.0 wt%、Cr:0.1 〜5.0 wt%、Ni:0.1 〜5.0
wt%、Cu: 0.1〜5.0 wt%およびB:0.0002〜0.10wt%
のうちから選んだ少なくとも1 種または2種以上を添加
含有させてなるプレス加工用高張力薄鋼板。
【0009】4.表面にめっき層を有する上記1〜3の
いずれか1つに記載のプレス加工用高張力薄鋼板。
【0010】5.C:0.009 wt%以下で、かつ(12/48)
Ti* +(12/93) Nb≧C( ただし、Ti*=Ti-(48/32)S-(4
8/14)N) を満足する組成の鋼材を熱間圧延して熱延鋼
板とし、次いでこの熱延鋼板を、該鋼板の(Ac1変態点
−50℃)〜(Ac1変態点+30℃)の範囲内の温度にて
(0.9/t)ppmC/sec以上(Cは板厚貫通分析値(%) 、tは
鋼板板厚(mm))の浸炭速度で15秒以上浸炭処理し、その
後、少なくとも 500℃までは10℃/sec以上の冷却速度で
冷却することを特徴とするプレス加工用高張力薄鋼板の
製造方法。
【0011】6.C:0.009 wt%以下で、かつ(12/48)
Ti* +(12/93) Nb≧C( ただし、Ti*=Ti-(48/32)S-(4
8/14)N) を満足する組成の鋼材を熱間圧延と冷間圧延
とを行って冷延鋼板とし、次いでこの冷延鋼板を 700〜
950 ℃の温度で再結晶焼鈍し、次に、該鋼板の(Ac1
態点−50℃)〜(Ac1変態点+30℃)の範囲内の温度に
て(0.9/t)ppmC/sec以上(Cは板厚貫通分析値(%) 、t
は鋼板板厚(mm))の浸炭速度で15秒以上浸炭処理し、そ
の後、少なくとも 500℃までは10℃/sec以上の冷却速度
で冷却することを特徴とするプレス加工用高張力薄鋼板
の製造方法。
【0012】7.C:0.009 wt%以下で、かつ(12/48)
Ti* +(12/93) Nb≧C( ただし、Ti*=Ti-(48/32)S-(4
8/14)N) を満足する組成の鋼材を熱間圧延と冷間圧延
とを行って冷延鋼板とし、次いでこの冷延鋼材を 700℃
以上、しかも該鋼材の(Ac1変態点−50℃) 以上で、 9
50℃以下、しかも該鋼材の (Ac3変態点+30℃) 以下の
範囲内の温度にて(0.9/t)ppmC/sec以上(Cは板厚貫通
分析値(%) 、tは鋼板板厚(mm))の浸炭速度で15秒以上
浸炭しつつ再結晶焼鈍し、その後、少なくとも 500℃ま
では10℃/sec以上の冷却速度で冷却することを特徴とす
るプレス加工用高張力薄鋼板の製造方法。
【0013】8.上記5, 6または7に記載の各方法に
おいて、 500℃以下の温度まで冷却した後、引き続き冷
却するときに 150〜550 ℃の範囲内の温度に30〜300 秒
間保持することを特徴とする、請求項1, 2 , 3または
4のいずれか1つに記載のプレス加工用高張力薄鋼板の
製造方法。
【0014】以下、本発明にかかる高張力薄鋼板を開発
するに至った基礎実験の結果について説明する。 実験条件; ・成分:C:0.0025〜0.0036%wt%, ただし、比較用の
非浸炭鋼はC:0.04〜0.08wt%、Si:0.01〜0.30wt%、
Mn:0.5 〜2.0 wt%、P:0.01〜0.05wt%、S:0.005
wt%、Al:0.03〜0.05wt%、Ti:0.04wt%、N:0.0030
wt%(Ac1変態点:850 〜910 ℃) ・工程: (1) 連続鋳造 (2) 熱間圧延:スラブ加熱温度(SRT):1200℃ 熱延終了温度(FDT) :900 ℃ コイル巻取温度(CT):650 ℃ 最終板厚:3.0 mm (3) 冷間圧延:最終板厚:0.75mm(圧下率75%) (4) 連続焼鈍:加熱温度:800 〜850 ℃ 浸炭処理:CO含有雰囲気(CO 0.5〜25%、H2 1〜10%、
残部N2露点−40℃以下)中で 600〜900 ℃, 2分間。た
だし比較としてCOを含まない雰囲気も使用。 冷却速度:40℃/sec (5) 調質圧延:圧下率:0.7 %
【0015】上記の実験において、高温浸炭処理をした
ものは、浸炭部に比較的C濃度の高いオーステナイト
(γ) 相が生じ、その結果、鋼板表面近傍の第2相の体
積を、鋼板中心部のそれよりも多く分布させることがで
きた。なおこの実験では、浸炭処理後の冷却速度を40℃
/secとした結果、第2相はベイナイトまたは(ベイナイ
ト+マルテンサイト)となった。
【0016】この実験で得られた鋼板について、さらに
TS−穴拡げ性の関係についても調べた。その結果を図1
に示す。この図1において、Rは、表面近傍(表面から
板厚1/4深さまでの領域と定義する)における第2相体
積率と、中心部(板厚 1/4深さから中心までの領域と定
義する)における第2相体積率との比である。なお、各
相の堆積率は、光学顕微鏡像より算出した。また、穴拡
げ性は、20mmの円形穴を50mmR半球ポンチで押し広げた
とき、亀裂が発生までの拡大率で評価したものである。
【0017】図1より明らかなように、Rの値が大き
い、すなわち第2相が表面近傍に偏っているほど、TS−
穴拡げ特性の関係がより直線的でバランスに優れている
ことが判る。なお、図中R=∞とは、中心付近で第2相
が存在しない、すなわちフェライト(α)単相組織であ
ることを示す。この場合、TSは幾分低めになる傾向があ
るけれども、TS−穴拡げ性のバランスは最も優れてい
た。
【0018】ここに本発明で目標とする、従来の複合組
織鋼板よりも優れた穴拡げ性 TS2×穴拡げ率≧24.0×10
4%・kgf2/mm4を得るには、表面近傍における第2相の体
積率を中心付近における第2相の体積率の1.3 倍以上と
することが必要である。このように第2相を表面近傍に
偏在させることによって穴拡げ性を改善できる理由は、
まだ明確に解明されたわけではないが、残留応力の分布
状態の変化が重要な役割を果たしているものと推測され
る。なお、第2相が上記マルテンサイト、ベイナイトの
他、パーライトや残留γ低温変態フェライトの場合であ
っても、同様の穴拡げ性改善効果が認められた。
【0019】また、本発明者らが知見したところによれ
ば、浸炭速度の制御も、目標とする第2相分布Rを得る
上で重要な役割を果たす。図2に、浸炭速度と第2相分
布Rの関係を示す。ここで、浸炭速度(ppmC/sec) は、
鋼中C%の板全厚(t) での平均増加速度と定義した。こ
の図2より、浸炭速度×板厚(mm)の値が 0.9以上、すな
わち浸炭速度が 0.9/板厚以上でないと、Rが 1.3以上
を得ることができないことがわかる。さらに、浸炭無し
では第2相が得られない鋼板(C:0.0020wt%, Si:0.
1 wt%, Mn:0.7 wt%, P:0.04wt%, S:0.010 wt
%, Al:0.045 wt%, Ti:0.03wt%, N:0.0025wt%)
について、浸炭速度×板厚(mm)とRの関係を表1に示
す。
【0020】
【表1】
【0021】表1に示すとおり、上記鋼板においても、
浸炭速度×板厚(mm)の値が 0.9以上、すなわち浸炭速度
が 0.9/板厚以上でないと表面近傍に第2相が出現せ
ず、Rが 1.3以上を得ることができないことがわかる。
【0022】しかも、このように第2相分布を偏在化さ
せた鋼板については、これを 150℃〜550 ℃の範囲内の
温度に30秒以上保持すると、さらなる延性および穴拡げ
性の改善が得られることも判った。
【0023】この現象について、以下に、このことを突
きとめた実験結果に基づき説明する。 実験条件; ・成分:C:0.0042wt%, Si:0.5 wt%、Mn:1.2 wt
%、P:0.07wt%、S:0.005 wt%、Al:0.036 wt%、
Ti:0.04wt%、N:0.0025wt%(Ac1変態点: 920℃) ・工程: (1) 連続鋳造 (2) 熱間圧延:スラブ加熱温度(SRT):1200℃ 熱延終了温度(FDT) :900 ℃ コイル巻取温度(CT):600 ℃ 最終板厚:3.5 mm (3) 冷間圧延:最終板厚:0.9 mm(圧下率74%) (4) 連続焼鈍:加熱温度:850 ℃ 浸炭処理:CO含有雰囲気(CO 20 %、H2 20 %, 残部N2
露点−40℃以下)中で 910℃−2分間。 浸炭速度: 2.1ppm C/sec 1次冷却速度:50℃/sec 1次冷却終点速度:50〜800 ℃ 1次冷却後保持時間:150 秒 1次冷却後保持温度:終点温度に一致させて保持 2次冷却速度:30℃/sec (5) 調質圧延:1.0 % 以上の条件で冷延鋼板を製造した。図3は、この実験に
おける処理条件の模式図である。
【0024】上記の実験において、高温浸炭処理をした
ものは、第2相がベイナイトとマルテンサイトであっ
た。しかも、表面近傍の第2相体積率と中心部の第2相
体積率との比Rは、1次冷却後の保持温度:50〜700 ℃
では5、一方、従来冷却後の保持温度:800 ℃では3で
あった。また、TSと穴拡げ性に及ぼす1次冷却後保持
温度の影響を図4に示す。この図から判るように、1次
冷却後に行う保持の温度が 150〜550 ℃の範囲内では、
TSおよび穴拡げ性とも一定しており、この両者の関係
は1次冷却後の保持処理がない場合に比べると、さらに
バランスが良いことがわかる。
【0025】さらに、上述のものと同じ鋼種を同様の工
程を経て冷延鋼板とし、その後、図5に示す如く急冷後
に均熱でない低温保持処理を施した場合も、TS59.0kg
f/mm2、穴拡げ率 150%と優れたTS−穴拡げ性のバラ
ンスを得た。ただし、均熱時間が30秒未満ではこれらの
効果が得られず、また、均熱時間が 300秒を超えると焼
もどし状態となり、著しい強度低下を生じるので、均熱
時間は30〜300 秒としなければならないことが判った。
【0026】なお、上記低温保持処理により穴拡げ性が
さらに改善される理由については明確ではないが、本発
明者らの考えでは、浸炭後の低温保持処理が不安定な固
溶位置に存在する固溶Cの再配置を促すことにより、内
部応力分布が均一に近づくのではないかと推測される。
しかも、このような均熱処理では、従来の焼もどし処理
で見られる強度低下がほとんど観察されず、通常の焼も
どしでの過剰固溶Cの析出とは、異なる現象と考えられ
る。
【0027】
【作用】次に、本発明を適用して好適な鋼板の成分組成
範囲について述べる。 C:0.004 〜0.2 wt% 本発明では、鋼板の板厚中心部はC含有量が低減して第
2相の生成を抑制するように作用する。一方、鋼板の表
層部はC含有量を増大させて第2相を積極的に生成させ
る必要がある。そのためには、先の実験例にも示したよ
うに、出発材料成分中のC量は 0.009wt%以下とし、そ
の後の浸炭処理により表層部のC量を0.01〜0.5 wt%程
度まで上昇させるのが有利である。しかし、このC含有
量を一義的に定めることはできないけれども、平均C含
有量が0.004 wt%に満たない極低C化は、工業的に不経
済なだけでなく、第2相の形成にも不利に作用し、一方
0.2wt%を超えると延性、耐時効性が劣化し易くなるの
で、0.004 〜 0.2wt%程度が望ましい。
【0028】なお、上記実験例にも示したように、C:
0.009 wt%以下で、かつ(12/48)Ti+(12/93
Nb≧C(ただしTi=Ti−(48/32)S−(48/14)
N )を満足する組成の鋼を、まず熱延鋼板または冷延鋼
板として延性および深絞り性を確保し、その上で、浸炭
処理を施して強度上昇および第2相化の促進を図ること
により、極めて優れた加工性を得ることができる。
【0029】次に、Si, Mn, P について説明する。これ
らの元素については、不可避的不純物のレベルまで下げ
てもよいし、また強化元素および第2相安定化元素とし
て適量添加してもよい。ただし、各元素とも添加量が多
すぎると、加工用鋼板として以下に述べるような不都合
を生じる。
【0030】Si:2.0 wt%以下 Siは、その含有量が 2.0wt%を超えると変態点が上昇
し、高温焼鈍が必要になるので、 2.0wt%以下とするの
が望ましい。
【0031】Mn:3.5 wt%以下 Mnは、その含有量が 3.5wt%を超えると伸び−強度バラ
ンスが劣化する傾向にあるので、 3.5wt%以下とするの
が望ましい。
【0032】P:0.25wt%以下 Pは、その含有量が0.25wt%を超えると偏析による表面
欠陥が顕著になる傾向にあるので、0.25wt%以下とする
のが望ましい。
【0033】S:0.10wt%以下 Sは、0.10wt%を超えると熱間加工性が劣化する傾向に
あり、また後述の添加Tiの歩留まりも低下するので、0.
10wt%以下とするのが望ましい。
【0034】N:0.0050wt%以下 Nは、その含有量が0.0050wt%を超えると加工性や常温
非時効性が劣化するので、0.0050wt%以下とするのが望
ましい。
【0035】Tiおよび/またはNb:0.002 〜0.2 wt% Ti, Nbはいずれも、強化元素であるだけでなく、フェラ
イト相中の固溶C、N、Sを固定して加工性の向上に有
効に寄与する。しかしながら、これらの含有量が 0.002
wt%未満では実質的な添加の効果がなく、一方、 0.2wt
%を超えると添加の効果が飽和に達し経済的不利が増大
するので、単独添加、複合添加いずれの場合においても
0.002〜0.2 wt%の範囲で含有させることが好ましい。
【0036】なお、前述の如く、(12/48)Ti+(12
/93)Nb≧C(ただしTi=Ti−(48/32)S−(48/14)
N )を満たす成分を出発材とし、固溶C、N、Sを除い
た状態で熱延鋼板、冷延鋼板または焼鈍済鋼板としたの
ち、浸炭処理を施すことにより、優れた延性および深絞
り性を得ることができる。
【0037】Mo:0.03〜5.0 wt% Cr,Ni, Cu:それぞれ 0.1〜5.0 wt% B:0.0002〜0.10wt% Mo,Cr,Ni, CuおよびBはいずれも、鋼板の高強度化に
有効な元素である。これらの元素の添加量が、それぞれ
上記した下限値に満たないと、所望の強度が得られず、
一方上限値を超えると材質が劣化するので、それぞれ上
記の範囲内で添加することが望ましい。なお、マルテン
サイトおよび/またはベイナイトを第2相とする複合組
織鋼板を得るためには、通常、浸炭処理後の 500℃以上
での冷却速度を30℃/sec以上とするのが望ましいが、と
くにMn+3Mo+2Cr+Ni+10B≧1.5 であれば 500℃以
上での冷却速度は10℃/sec程度以上で充分である。
【0038】次に、本発明の製造方法について工程順に
説明する。 (1) スラブは、通常の連続鋳造法ないし造塊法に従って
製造する。 (2) 熱間圧延は、 Ar3変態点以上で圧延を終了するよう
にすればよい。なお、近年着目されている温間圧延法の
適用も可能である。コイル巻き取り温度は特に限定され
ない。 (3) 上記熱間圧延によって得られた熱延鋼板は、冷間圧
延するものを除き、その後直ちに浸炭処理を行う。 (4) 未浸炭処理の熱延鋼板については、次に冷間圧延を
行って冷延鋼板とする。この冷延鋼板は、さらに再結晶
焼鈍を行ってから浸炭処理を行う。このときの焼鈍温度
は 700〜950 ℃が適切である。 700℃以下では再結晶が
不十分となる。一方、 950℃以上の温度では、Ac1変態
点の高い低炭素・極低炭素IF(Interstitial Free)鋼
であっても、浸炭前に板厚全体が変態し、通常の複合組
織鋼と何ら変わりなくなってしまうことが多い。
【0039】さて、出発材とする鋼板の成分組成につい
ては、C量が 0.009wt%以下の極低炭素で、かつ(12/4
8)Ti+(12/93)Nb≧C(ただしTi=Ti−(48/3
2)S−(48/14)N )を満足する組成とし、その後に施す
再結晶焼鈍を固溶Cのない状態で施すことが、r値の非
常に高い鋼板を得るのに都合がよく、加工上有利であ
る。 そこで、本発明では、出発材の成分組成につき、
C≦0.009 wt%で、かつ(12/48)Ti+(12/93)Nb≧
C(ただしTi=Ti−(48/32)S−(48/14)N)を満
足させるものとした。
【0040】浸炭処理における浸炭速度の必要条件およ
び、浸炭後低温保持の効果については既に述べたので、
ここではそれ以外の限定理由を記す。本発明の方法で
は、浸炭により第2相の表面形成を促すために、浸炭温
度を(Ac変態点−50)〜(Ac変態点+30℃)の
範囲とする。というのは浸炭温度が上記温度範囲の下限
を下回ると第2相形成が困難であり、一方上限を超える
と第2相が板厚全域に出現し、表面に第2相を集中して
形成することが困難になるからである。
【0041】ここで、出発材のAc1変態点は実際に測定
することが望ましいが、下記式により簡便に算出したA
c1変態点を用いてもよい。下記式は本発明者らが見いだ
した実験式である。
【数1】 また、この式から、出発材のAc1変態点以下の温度で浸
炭を開始しても、浸炭中に表層近傍においてC量に起因
するAc1変態点低下が起こり、第2相がこの表面近傍に
多く生じることが判る。すなわち、図6に模式的に示す
ごとく、浸炭により表面近傍の鋼中C量が多くなり、板
厚中心付近に比べてAc1変態点が低下する。その結果、
出発材のAc1変態点より低い温度(図中浸炭温度A)で
浸炭すると表面近傍のみ第2相が出現する。また、出発
材のAc1変態点より高い温度(図中浸炭温度B)で浸炭
しても、表面近傍の方が相対的にAc1変態点との温度差
が大きいため第2相の出現量が多くなる。なお、充分浸
炭させるために、浸炭処理は15秒以上 (好ましくは 300
秒以下)とする必要がある。
【0042】浸炭手段としては、炭素含有液体の塗布、
炉内雰囲気への浸炭性ガス(CO, CH 4 など)添加、揮発
性炭素含有液体の炉内直接投入などが有効である。な
お、再結晶焼鈍中に浸炭するよりも、再結晶焼鈍終了後
に浸炭処理を行う方が、工程は長くなるものの、高r値
を得る上では有利である。
【0043】上記浸炭処理後の冷却速度は、10℃/sec以
上にすることが必要である。この速度よりも遅い冷却速
度では、第2相による強化が得にくくなるうえ、第2相
の板厚方向分布が均一化する傾向にある。この冷却の終
点温度は 500℃以下になるようにすればよい。それは、
500℃以上で均熱または徐冷を開始すると、冷却速度を
低くした場合と同様に、第2相による強化が得にくくな
るうえ、第2相の板厚分布が均一化する傾向となるから
である。なお、調質圧延は特に必要ではないが、板の形
状矯正のために3%以下程度の圧下を加えても問題はな
い。また、本発明の鋼板に、溶融亜鉛めっきなどの表面
被覆処理を施して使用することも可能である。
【0044】
【実施例】表2に示す成分組成の種々の鋼素材(発明
例, 比較例)を出発材として、表3に示す条件下にて処
理した。ただし、冷延鋼板の最終板厚は0.75mm、また連
続焼鈍における最高温度保持時間は20秒である。かくし
て得られた鋼板の機械的特性について調べた結果を表4
に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】記号1Aは、熱延板浸炭による発明例であ
る。この例は熱延鋼板であるため、本来r値は低いもの
の、穴拡げ指数( TS2×穴拡げ率) をはじめ、他の特性
は良好である。同1Bは、冷間圧延焼鈍板を浸炭したも
のの発明例であり、この例では、全ての特性について良
好である。同1Cは、浸炭処理温度が適性温度範囲の下
限に満たない比較例である。この例では、フェライト域
浸炭であるため、TS−Elバランス(TS×El)やr値が劣
るだけでなく、高YR化となり、さらには降伏伸びが発生
(YEl>0)するなどの弊害が生じた。同1Dは、浸炭
処理温度が適性温度範囲の上限を上回る比較例である。
この例では、第2相が内部まで多量に生成されるので、
高穴拡げ性を得ることができない。 また第2相が多い
ことから、r値にも劣っていた。同1Eは、再結晶焼鈍
が浸炭処理を兼ねた発明例である。この例では、ほぼ良
好な特性が得られたけれども、再結晶焼鈍と浸炭処理を
分離した場合に比べると幾分低r値であった。同1F
は、浸炭処理を施さない比較例である。この例では、フ
ェライト単相の固溶強化のみでは、低YR、高TS−Elバラ
ンスは得られていない。
【0049】記号2は、C量が上限を超え、しかも浸炭
処理なしの複合組織材からなる比較例である。この例で
は、第2相の分布が一様であるため、穴拡げ性に劣って
いる。また、出発鋼材のC含有量が多いため、低r値で
あり、降伏伸びも完全に消すことができなかった。
【0050】記号3は、第2相を低温変態フェライトと
した発明例である。この例は、すべての特性において良
好である。とくにr値が優れている。記号4Aは、第2
相をベイナイトとした発明例(Mn+3Mo+2Cr+Ni+10
B≧1.5)である。この例は、全ての特性が良好であっ
た。記号4Bは、板厚中央部付近をフェライト単相とし
た発明例である。この例は、全ての特性が良好である
が、とくに穴拡げ性に優れていた。記号5Aは、第2相
をベイナイトとした発明例(Mn+3Mo+2Cr+Ni+10B
<1.5)である。この例は、全ての特性に優れていた。記
号5Bは、第2相をベイナイトとした発明例(Mn+3Mo
+2Cr+Ni+10B<1.5 、冷却速度15℃/sec)である。
この例は、ほぼ良好な特性を示すが、YR、TS−Elバラン
スで他の発明例より幾分劣っていた。記号6は、第2相
に残留γ相を含ませた発明例である。この例では全ての
特性が良好であったが、とくにTS−Elバランスに優れて
いた。
【0051】記号7は、Cが0.009 wt%を超える鋼を出
発材として浸炭を行なった比較例である。この例は、目
標とする第2相分布を得るには初期のC量が多すぎ、ほ
ぼ一様に近い第2相分布となった。このため降伏伸びは
抑えられたものの、穴拡げ性, r値に劣っていた。記号
8は、第2相をベイナイトとパーライトの混合とした発
明例であり、全ての特性が良好であるが、とくに穴拡げ
性に優れていた。
【0052】記号9は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に適
用した発明例である。図7(a) に示す熱処理サイクルに
より再結晶焼鈍後、浸炭処理および低温保持処理を施し
た。しかし、この例に示すように、溶融亜鉛めっき処理
および/または合金化処理を所定の低温保持温度範囲で
行うことが、材質・コストの面で望ましい。記号10は、
冷延鋼板に適用した発明例であり、図7(b) に示す熱処
理サイクルにより再結晶焼鈍後、浸炭処理を施し室温ま
で急冷した後、再加熱により低温保持を行った例であ
る。記号11は、冷延鋼板に適用した発明例であり、図7
(c) に示す熱処理サイクルにより再結晶焼鈍後、浸炭処
理を施し、 500℃まで急冷した後、徐冷却タイプの低温
保持を行った例である。このように、低温保持は均熱で
なくてもよく、また、記号9のごとく、2種の温度に保
持して行ってもよい。記号12は、溶融亜鉛めっき鋼板に
適用した発明例であり、図7(d) に示す熱処理サイクル
により再結晶焼鈍後、引続き同一温度で浸炭処理を施
し、低温保持を兼ねた溶融亜鉛めっき処理を行った例で
ある。記号13は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に適用した
発明例であり、図7(e) に示す熱処理サイクルにより再
結晶焼鈍, 浸炭処理, 低温保持後にあらためて合金化溶
融亜鉛めっき処理を施した例である。
【0053】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、複
合組織鋼板のもつ優れた特性を損なうことなしに、従来
に比べて穴拡げ性が格段に向上した加工用高張力薄鋼板
を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼板のTS−穴拡げ性のバランスを、表面近傍に
おける第2相体積率の中心付近における第2相体積率に
対する比をパラメータとして示したグラフである。
【図2】図2は、浸炭速度と第2相分布の関係を示す図
である。
【図3】図3は、本発明の熱処理サイクルの例である。
【図4】図4は、浸炭処理後、低温保持の効果を示した
図である。
【図5】図5は、本発明の熱処理サイクルの例である。
【図6】図6は、本発明法において所定の第2相分布が
得られる原理を示した模式図である。
【図7】図7(a),(b),(c),(d),(e) は、実施例の記号9
〜13までの各熱処理サイクルの例である。
フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C22C 38/14 C22C 38/14 C23C 8/22 C23C 8/22 (72)発明者 森田 正彦 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎 製鉄株式会社技術研究本部内 (72)発明者 中川 二彦 岡山県倉敷市水島川崎通り1丁目(番地 なし) 川崎製鉄株式会社水島製鉄所内 審査官 奥井 正樹 (56)参考文献 特開 昭62−202048(JP,A) 特開 平3−94022(JP,A) 特開 昭62−20820(JP,A) 特開 平3−150317(JP,A) 特開 昭58−39736(JP,A) 特開 平3−94018(JP,A) 特開 平3−72032(JP,A) 特開 平1−96330(JP,A) 特開 平3−90402(JP,A) 特開 平2−97620(JP,A) 特開 平1−242721(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 - 38/60

Claims (8)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 フェライト相と、マルテンサイト、ベイ
    ナイト、パーライト、残留オーステナイトおよび低温変
    態フェライトの少なくともいずれか一つの相による第2
    相との複合組織からなる加工用の高張力鋼板であって、
    鋼板の表面から板厚 1/4深さまでの表面近傍における第
    2相の体積率が、板厚 1/4深さから板厚中心までの中心
    部における第2相の体積率の 1.3倍以上であるプレス加
    工用高張力薄鋼板。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載の鋼板は、その成分組成
    が、C:0.004 〜0.2 wt%、Si:2.0 wt%以下、Mn:3.
    5 wt%以下、P:0.25wt%以下、S:0.10wt%以下およ
    びN:0.0050wt%以下を含み、かつTi:0.002 〜0.2 wt
    %およびNb:0.002 〜0.2 wt%のうちから選んだ1種ま
    たは2種を含有し、残部が鉄および不可避的不純物から
    なるものであるプレス加工用高張力薄鋼板。
  3. 【請求項3】 請求項2に記載の鋼板成分組成に、さら
    にMo:0.03〜5.0 wt%、Cr:0.1 〜5.0 wt%、Ni:0.1
    〜5.0 wt%、Cu: 0.1〜5.0 wt%およびB:0.0002〜0.
    10wt%のうちから選んだ少なくとも1 種または2種以上
    を添加含有させてなるプレス加工用高張力薄鋼板。
  4. 【請求項4】 表面にめっき層を有する請求項1〜3の
    いずれか1つに記載のプレス加工用高張力薄鋼板。
  5. 【請求項5】 C:0.009 wt%以下で、かつ(12/48) Ti
    * +(12/93) Nb≧C( ただし、Ti* =Ti-(48/32)S-(48
    /14)N) を満足する組成の鋼材を熱間圧延して熱延鋼板
    とし、次いでこの熱延鋼板を、該鋼板の(Ac1変態点−
    50℃)〜(Ac1変態点+30℃)の範囲内の温度にて(0.9
    /t)ppmC/sec以上(Cは板厚貫通分析値(%) 、tは鋼板
    板厚(mm))の浸炭速度で15秒以上浸炭処理し、その後、
    少なくとも 500℃までは10℃/sec以上の冷却速度で冷却
    することを特徴とするプレス加工用高張力薄鋼板の製造
    方法。
  6. 【請求項6】 C:0.009 wt%以下で、かつ(12/48) Ti
    * +(12/93) Nb≧C( ただし、Ti* =Ti-(48/32)S-(48
    /14)N) を満足する組成の鋼材を熱間圧延と冷間圧延と
    を行って冷延鋼板とし、次いでこの冷延鋼板を 700〜95
    0 ℃の温度で再結晶焼鈍し、次に、該鋼板の(Ac1変態
    点−50℃)〜(Ac1変態点+30℃)の範囲内の温度にて
    (0.9/t)ppmC/sec以上(Cは板厚貫通分析値(%) 、tは
    鋼板板厚(mm))の浸炭速度で15秒以上浸炭処理し、その
    後、少なくとも 500℃までは10℃/sec以上の冷却速度で
    冷却することを特徴とするプレス加工用高張力薄鋼板の
    製造方法。
  7. 【請求項7】 C:0.009 wt%以下で、かつ(12/48) Ti
    * +(12/93) Nb≧C( ただし、Ti* =Ti-(48/32)S-(48
    /14)N) を満足する組成の鋼材を熱間圧延と冷間圧延と
    を行って冷延鋼板とし、次いでこの冷延鋼材を 700℃以
    上、しかも該鋼材の(Ac1変態点−50℃) 以上で、950
    ℃以下、しかも該鋼材の (Ac3変態点+30℃) 以下の範
    囲内の温度にて(0.9/t)ppmC/sec以上(Cは板厚貫通分
    析値(%) 、tは鋼板板厚(mm))の浸炭速度で15秒以上浸
    炭しつつ再結晶焼鈍し、その後、少なくとも 500℃まで
    は10℃/sec以上の冷却速度で冷却することを特徴とする
    プレス加工用高張力薄鋼板の製造方法。
  8. 【請求項8】 請求項5, 6または7に記載の各方法に
    おいて、 500℃以下の温度まで冷却した後、引き続き冷
    却するときに 150〜550 ℃の範囲内の温度に30〜300 秒
    間保持することを特徴とする、請求項1, 2 , 3または
    4のいずれか1つに記載のプレス加工用高張力薄鋼板の
    製造方法。
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