JP3300314B2 - 交互吸着膜を用いたフィルタおよびその応用 - Google Patents

交互吸着膜を用いたフィルタおよびその応用

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、空気清浄機などに
利用できる集塵・集煙機能をもったフィルタに関し、特
に、煙や匂いの素となる粒子、分子、イオンを吸着する
性質をもった交互吸着膜を利用したフィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】産業の発達とともに、空気汚染に対する
関心が高まってきており、一般家庭においても空気清浄
機が普及し始めている。特に、煙草の煙による空気汚染
は、空港、駅など公共の場において、大きく社会問題化
してきており、様々な原理に基づく空気清浄機の開発に
拍車をかけている。
【0003】現在、一般に利用されている空気清浄機
は、大別すると2つのタイプに分けられる。第1のタイ
プは、紙フィルタや繊維フィルタを利用したもので、空
気を目の細かなフィルタに通すことにより、煙の粒子な
どを除去するものである。第2のタイプは、静電吸着の
原理を利用したもので、電圧を印加した電極板に空気を
流すことにより、煙の粒子などを電極板に吸着させて除
去するものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述した第1のタイプ
の空気清浄機には、比較的安価に導入できるというメリ
ットがある。これは、紙フィルタや繊維フィルタのコス
トが安く、使い捨てもでき、また、交換も簡単なためメ
ンテナンスが容易になるためである。しかしながら、そ
の機能面においては、必ずしも十分なフィルタ機能を果
たすことはできず、特に、煙草の煙などを除去する機能
が不十分であるという問題がある。これに対し、第2の
タイプの空気清浄機は、煙草の煙などを効率良く除去す
ることができるというメリットをもつ。しかしながら、
電極板への電圧印加が必要になるため、通常動作におい
て電力供給が不可欠となり、装置が大型化し高価になる
という問題がある。また、メンテナンス時には、特殊な
洗剤を用いた念入りな洗浄も欠かせない。このように、
従来の一般的な空気清浄機は、それぞれ一長一短を持ち
合わせており、用途に応じて使い分けているのが実状で
ある。
【0005】そこで本発明は、煙や匂いの素になる粒
子、分子、イオンに対して十分な除去機能を有する安価
なフィルタを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】(1) 本発明の第1の態
様は、正の電荷をもった第1の帯電膜と、負の電荷をも
った第2の帯電膜と、を交互に吸着させてなる交互吸着
によりフィルタを構成するようにしたものである。
【0007】(2) 本発明の第2の態様は、上述の第1
の態様に係るフィルタにおいて、第1の帯電膜を正の電
解質ポリマーから構成し、第2の帯電膜を負の電解質ポ
リマーから構成するようにしたものである。
【0008】(3) 本発明の第3の態様は、上述の第1
または第2の態様に係るフィルタにおいて、第1の帯電
膜の厚みを第2の帯電膜の厚みのほぼ2倍に設定するよ
うにしたものである。
【0009】(4) 本発明の第4の態様は、正の電荷を
もった第1の帯電膜と、負の電荷をもった第2の帯電膜
と、を交互に吸着させてなる交互吸着膜によりフィルタ
を構成するようにし、第1の帯電膜または第2の帯電膜
として、除去の対象となる分子と化学反応を生じる材料
を用いるようにしたものである。
【0010】(5) 本発明の第5の態様は、上述の第1
〜第4の態様に係るフィルタに形成されている交互吸着
膜を、カーテンもしくは建材の表面に形成するように
し、フィルタとしての効果をもったカーテンもしくは建
材を実現するようにしたものである。
【0011】(6) 本発明の第6の態様は、上述の第1
〜第4の態様に係るフィルタと、このフィルタに水を通
すための濾過機構と、によって水処理装置を構成するよ
うにしたものである。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図示する実施形態
に基いて説明する。§1.交互吸着膜の一般的な製造方法 本発明の発端は、交互吸着膜が煙草や香などの煙に対し
て高い吸着性を有することを見出だしたことにある。こ
こで、交互吸着膜とは、もともと複合有機薄膜を作成す
る方法として、1992年にG.デッカーらによって発
表された(Decher.G, Hong.J.D. and J.Schmit: Thin S
olid Films, 210/211, p.831(1992))方法により作成さ
れる膜であり、その作成プロセスにおいて、交互吸着
(Layer-by-Layer Electrostatic Self-Assembly)の手
法が利用される。G.デッカーらによって発表された基
本的な方法によれば、まず、正の電解質ポリマー(カチ
オン)の水溶液と、負の電解質ポリマー(アニオン)の
水溶液とが別々の容器に用意される。そして、これらの
容器に、初期表面電荷を与えた基板(被成膜材料)を交
互に浸すことにより、基板上に多層構造を有する複合有
機超薄膜(交互吸着膜)が得られる。たとえば、被成膜
材料としてガラス基板を用いた場合、このガラス基板の
表面を親水処理して表面にOH基を導入して、初期表
面電荷として負の電荷を与える。そして、この表面が負
に帯電した基板を、正の電解質ポリマー水溶液に浸せ
ば、クーロン力により、少なくとも表面電荷が中和され
るまで正の電解質ポリマーが表面に吸着し、1層の超薄
膜が形成される。こうして形成された超薄膜の表面部分
は、正に帯電していることになる。そこで、今度はこの
基板を負の電解質ポリマー水溶液に浸せば、クーロン力
により負の電解質ポリマーが吸着し、1層の超薄膜が形
成されることになる。このようにして、基板を2つの容
器に交互に浸すことにより、正の電解質ポリマーからな
る超薄膜層と負の電解質ポリマーからなる超薄膜層とを
交互に成膜することができ、多層構造をもった複合有機
薄膜を形成することができる。
【0013】最近では、M.F.ルブナーらによって、
この交互吸着膜の製造を自動化する技術が発表されてお
り(A.C.Fon, O.Onitsuka, M.Ferreira, B.R. Hsieh an
d M.F.Rubner: J. Appl. Phys. 79(10) 15 May 1996 )
、交互吸着膜の自動製造装置の構成が提案されてい
る。この装置を用いれば、被成膜材料となる基板がロボ
ットアームにより2つの水槽に交互に浸されるので、基
板上に交互吸着膜が自動的に成膜される。また、本願発
明者によって、膜厚を正確に制御する成膜方法が、特許
協力条約に基づく国際公開公報WO00/13806号
に開示されている。
【0014】ここでは、まず、この交互吸着膜の基本的
な製造原理を述べておく。図1は、一般的な交互吸着膜
の製造原理を示す概念図である。図において、第1の槽
100には、正の電解質ポリマー(カチオン)の水溶液
が入れられており、第2の槽200には、負の電解質ポ
リマー(アニオン)の水溶液が入れられている。ここ
で、被成膜材料として、たとえばガラスやシリコンなど
の基板10を用意し、その表面を親水処理して表面にO
基を導入して、初期表面電荷として負の電荷を与え
る。図2(a) は、このようにして、基板10の表面が負
に帯電した状態を示す概念図である。続いて、この負に
帯電した基板10を第1の槽100内に入れると、基板
10の表面に正の電解質ポリマーが接触し、クーロン力
により吸着することになる。図2(b) は、正の電解質ポ
リマーが吸着した状態を示す概念図である。ここで、こ
の基板10を第2の槽200内に入れると、今度は、基
板10の表面に負の電解質ポリマーが接触し、クーロン
力により吸着することになる。図2(c) は、負の電解質
ポリマーが吸着した状態を示す概念図である。このよう
に、基板10を第1の槽100と第2の槽200とに交
互に浸漬させてゆけば、基板10の表面には、正の電界
質ポリマーからなる層と負の電解質ポリマーからなる層
とが交互に成膜されてゆくことになり、最終的に多層構
造をもった交互吸着膜が形成される。
【0015】もっとも、図2に示す概念図は、原理を説
明するために単純化したモデルを示すものであり、実際
には、図3あるいは図4に示す概念図に近い状態で薄膜
形成が行われるものと思われる。図3は、2回目の浸漬
処理(第1の槽100から基板10を取り出し、第2の
槽200に浸したときの処理)における吸着状態を示す
概念図である。基板10の表面には、既に、1回目の浸
漬処理によって、正の電解質ポリマーからなる第1層目
の薄膜A1が形成されており、この薄膜A1によって作
用するクーロン力により、第2の槽200内の負の電解
質ポリマーbが表面に吸着することになる。基板10を
第2の槽200内に一定時間浸漬させておけば、第2の
槽200内の負の電解質ポリマーbが次々と表面に吸着
し、第2層目の薄膜B2が形成されることになる。ただ
し、ある程度の時間が経過して、負の電解質ポリマーb
からなる第2層目の薄膜B2が厚くなってくると、もは
や薄膜A1によるクーロン力は作用しなくなり、その時
点で吸着は飽和点を迎えることになる。
【0016】なお、この吸着処理に用いる電解質ポリマ
ーの濃度やpH値、吸着時間などの条件によって、ポリ
マー分子内のセグメント間のクーロン力による反発が大
きくなったり小さくなったり変化するため、分子の充填
密度は、これらの条件に左右されることになる。したが
って、これらの条件の設定次第によって、非常に薄い膜
を形成することも、比較的厚い膜を形成することも可能
になる。図4は、このような浸漬処理を合計6回行った
ときに形成される交互吸着膜の構造を示す概念図であ
る。ここで、奇数番目の層を構成する薄膜A1,A3,
A5は、正の電解質ポリマーからなる帯電膜であり、偶
数番目の層を構成する薄膜B2,B4,B6は、負の電
解質ポリマーからなる帯電膜である。これら各層の厚み
は、浸漬処理の時間によって制御することが可能であ
る。上述したように、ある程度の厚みに達すると、電気
的中和によりクーロン力が作用しなくなるため吸着は飽
和点を迎えることになるが、この飽和点に至るまでは、
浸漬時間が長ければ長いほど膜厚は厚くなる。
【0017】結局、このようにして形成された交互吸着
膜は、正の電荷をもった第1の帯電膜A1,A3,A5
と、負の電荷をもった第2の帯電膜B2,B4,B6
と、を基板10上に交互に吸着させてなる膜ということ
ができる。しかも、図3あるいは図4の概念図からわか
るように、各帯電膜は、クーロン力やファン・デル・ワ
ールス力のような分子間力によって互いに結び付いた多
数のポリマーからなる自己組織化膜(Self-Assembly Fi
lm)を構成しているため、本質的に内部に空洞構造を有
している。別言すれば、各帯電膜は、多孔質膜あるいは
繊維質膜を形成していることになり、その内部には、匂
いの素となるような分子、イオン、煙の粒子など、検出
対象となる粒子や分子が侵入可能な空洞構造が形成され
ている。
【0018】このような交互吸着膜が、特に、煙草や香
などの煙に対して高い吸着効率を示す理由について、本
願発明者は次のような物理吸着作用が主たる原因ではな
いかと考えている。すなわち、この交互吸着膜では、正
電荷をもった第1の帯電膜と、負電荷をもった第2の帯
電膜とが交互に積層されており、しかも、検出対象とな
る粒子が侵入可能な空洞構造が形成されている。これに
対して、煙草や香などの煙は、コロイド状の粒子群であ
り、そこには、正電荷を帯びた粒子と、負電荷を帯びた
粒子とが混在していると考えられる。したがって、この
コロイド粒子群は、多孔質膜あるいは繊維質膜を形成し
ている交互吸着膜内の空洞構造に侵入する過程で、逆極
性の帯電膜に吸着されるのではないか、と思われる。す
なわち、正電荷を帯びたコロイド粒子は負の帯電膜中に
吸着され、負電荷を帯びたコロイド粒子は正の帯電膜中
に吸着され、いずれにしても、クーロン力に基づく物理
的な吸着作用により、交互吸着膜中の帯電膜に捕らえら
れることになる。同様の理由により、イオン粒子に対し
ても高い吸着性がみられる。なお、帯電膜の材料によっ
ては、物理的な吸着作用だけでなく、化学的な吸着作用
も行われる場合もある。これについては、§5で述べる
ことにする。
【0019】§2.本発明に係るフィルタの基本構造 続いて、本発明に係るフィルタの基本構造について述べ
る。本発明の基本概念は、上述した交互吸着膜の吸着特
性を利用して、フィルタを実現する点にある。たとえ
ば、図4に示す交互吸着膜の近傍に煙草の煙を流すと、
煙を構成するコロイド粒子が吸着することになる。この
ような吸着現象を利用すれば、フィルタを実現すること
ができる。すなわち、何らかの基材の表面上に、上述し
た交互吸着膜を形成すれば、この基材全体をフィルタと
して利用することができる。ただ、吸着効率を高める上
では、基材上に形成された交互吸着膜の表面積をできる
だけ広く確保するのが好ましく、また、フィルタによる
清浄化の対象となる空気が交互吸着膜の表面近傍を流れ
易くするのが好ましい。このような点を考慮すると、本
発明に係るフィルタに用いる基材としては、メッシュ
状、多孔質状、あるいは繊維状の構造(交互吸着膜内の
空洞構造を構成する多孔質あるいは繊維質に比べると、
十分に大きな多孔質あるいは繊維質構造)をもったもの
が好ましい。
【0020】図5は、本発明の一実施形態において基材
として用いられたガラス繊維片30の部分拡大図であ
る。このガラス繊維片30は、細いガラスファイバから
なる束を縦横に編むことにより構成されている。図示の
例では、1本の束の幅d1が約1mm程度、隣接する束
の間隔d2も約1mm程度である。この程度の粗い網目
であれば、ガラス繊維片30の隙間を空気が十分に流れ
ることができる。本発明に係るフィルタを作成するに
は、図1に示す基板10の代わりに、このガラス繊維片
30を、2つの水槽100,200に交互に浸し、ファ
イバ束の表面全体に交互吸着膜を形成すればよい。結
局、ここに示すフィルタの外観は、図5に示すような一
般のガラス繊維片30と変わりはないが、その表面に
は、薄い交互吸着膜が形成されており、煙のコロイド粒
子に対して高い吸着性を有している。
【0021】図6は、このようなガラス繊維片30の表
面に形成された交互吸着膜20による煙粒子Sの物理吸
着作用を示す原理図である。ガラス繊維片30の表面上
には、正の電荷をもった第1の帯電膜A1,A3,A5
と、負の電荷をもった第2の帯電膜B2,B4,B6と
が交互に形成されており、これら全6層の膜によって交
互吸着膜20が形成されている。図では、便宜上、各層
の厚みを極端に厚く描いてあるが、実際には、いずれも
薄膜層である。また、図示の例では、全6層からなる交
互吸着膜20が示されているが、実際には、より多層か
らなる交互吸着膜20を形成した方が吸着効率を高める
ことができる。この交互吸着膜20を煙の中に置くと、
煙粒子S(正電荷を帯びたコロイド粒子と負電荷を帯び
たコロイド粒子)が、交互吸着膜20(多孔質膜あるい
は繊維質膜)内の空洞構造内に侵入し、逆極性の帯電膜
に物理吸着されることになる。
【0022】なお、交互吸着膜20の吸着作用は、永久
に持続するわけではない。物理吸着した煙粒子Sの量が
増えるに従って、徐々に吸着効率は低下し、ある程度の
量の煙粒子Sが吸着してしまうと、飽和状態となってし
まう。そうなると、もはや効率的なフィルタとしての機
能を果たすことができない。このような現象は、一般の
フィルタにおけるいわゆる「目詰まり」と同様である。
このように、飽和状態となったフィルタは、そのまま使
い捨てにしてもかまわないが、吸着粒子を離脱させれ
ば、もとの状態に戻すことも可能である。たとえば、ド
ライヤーなどを用いて温度90°C程度の熱風を、この
フィルタの全面にわたって3分間程度吹き付けると、表
面の交互吸着膜20に物理吸着していた煙粒子Sが離脱
除去され、交互吸着膜20は初期状態に回復することに
なる。これは、クーロン力で物理吸着していた煙粒子S
に対して、より大きな分子熱振動のエネルギーを与えた
ためである。このように、本発明に係るフィルタは、使
い古された状態になったとしても、熱風による洗浄を行
うことにより、再び、フィルタ処理の機能を果たすこと
ができるようになる。なお、熱風の代わりに温水を用い
た洗浄を行うと、より高い洗浄効果が得られる。実用上
は、温水洗浄の後、熱風を吹きつける処理を行うのが好
ましい。ただし、§5で述べるように、帯電膜の材料に
よっては化学吸着が生じる場合があり、このような化学
吸着によって帯電膜に取り込まれた分子は、熱風や温水
による物理的洗浄によって除去することはできない。
【0023】§3.具体的な実施形態および実験例 続いて、本発明に係るフィルタの具体的な実施形態を、
本願発明者が行った実験例とともに述べる。まず、図1
に示す第1の槽100内に入れる正の電解質ポリマーと
して、ポリアリルアミン塩酸塩(poly-allylaminehydro
chloride:略称PAH:分子量=55000)を用意
し、第2の槽200内に入れる負の電解質ポリマーとし
て、ポリアクリル酸(poly-acrylic acid :略称PA
A:分子量=90000)を用意した。いずれも、10
−2mol/lの濃度の水溶液を作成して各槽に収容した。
また、リンス浴などに利用する純水として、18MΩ・
cm以上の超純水を用意した。
【0024】交互吸着膜20を形成する基材としては、
上述したように、図5に示すようなガラス繊維片30を
用いた。このガラス繊維片30を、エタノールで洗浄
後、硫酸と過酸化水素水の混合溶液に1時間漬けた後、
アンモニア水と過酸化水素水の混合溶液に1時間漬けて
おき、更に純水で洗浄して乾燥させた。これにより、ガ
ラス繊維片30を構成するファイバ表面を親水処理する
ことができ、かつ、OH 基の導入により表面を負に帯
電させることができる。帯電はやはり飽和状態になって
いる。
【0025】こうして用意したガラス繊維片30を、図
1に示す水槽100,200に交互に浸し、ファイバ束
の表面上に交互吸着膜20を形成した。なお、一方の水
槽から引き上げて他方の水槽に浸す前に、用意した超純
粋によるリンス浴に通すようにした。このようにして、
1層の膜厚が約10〜40nm程度(各層の膜厚が異な
る複数のサンプルを作成)となるように各水槽への浸漬
時間を制御し、合計60〜360層(積層数の異なる複
数のサンプルを作成)からなる交互吸着膜20を形成し
た。この交互吸着膜の表面微細構造を原子間力顕微鏡を
用いて観察したところ、各帯電層いずれもポリマー鎖が
複雑にからみあった構造を有し、0.1μm程度までの
大きさを持った粒子であれば、十分に浸透可能な空洞構
造(多孔質構造・繊維質構造)が確認できた。
【0026】このようにして作成したフィルタを、特定
の吸着対象物質(煙や匂いの粒子や分子)が充満した瓶
の中に入れ、フィルタへの対象物質の吸着量の時間変化
を所定の方法(フィルタ全体の重量を測定する方法)で
測定した結果を図7のグラフに示す。ここでは、1層の
膜厚15nm、合計積層数20の交互吸着膜が表面に形
成されたフィルタについて得られた結果が示されてい
る。実験としては、煙草の煙、α−ピネン、シトラル、
ベンゼン、アセトン、エタノールの6種類の粒子が充満
した瓶に、それぞれ別々のフィルタを入れ、時間経過と
ともに吸着量の変化を観測した。図7のグラフの横軸は
時間軸(単位:秒)、縦軸は吸着量(重量に比例した任
意単位)である。図示のとおり、煙草の煙については、
60秒程度で急激な吸着が行われている様子がわかる。
また、α−ピネンやシトラル(いずれも匂いの素として
知られている物質)については、煙草の煙ほどの顕著な
吸着効果ではないものの、ある程度の吸着効果が得られ
ている。
【0027】なお、図7のグラフにおける煙草の煙のカ
ーブを見ると、60秒程度で大きなピークPが得られた
後、吸着量は時間の経過とともに逆に減少しており、5
00秒を過ぎたあたりでほぼ一定値となり、グラフはほ
ぼ水平の状態になる。これは、煙粒子Sが60秒程度で
急速に吸着された後、逆に吸着粒子が徐々に離脱し、や
がて平衡状態に達するという現象が生じていることを意
味している。このような現象が生じる理由についての詳
細な解析はまだなされていないが、本願発明者は、最初
の60秒程度の間に、ファン・デル・ワールス力による
急速な吸着現象が起こった後、一部の粒子だけがクーロ
ン力によって吸着状態を維持し、他の一部の粒子は徐々
に離脱してゆくためではないかと考えている。
【0028】上述したように、ここでは、正の電解質ポ
リマーとしてPAHを用い、負の電解質ポリマーとして
PAAを用いているため、たとえば、図6に示す構造に
おいては、正の帯電層A1,A3,A5はPAHから構
成され、負の帯電層B2,B4,B6はPAAから構成
されていることになる。ここで、正の帯電層A1,A
3,A5は負の粒子に対してクーロン力による高い吸着
効率を有し、負の帯電層B2,B4,B6は正の粒子に
対してクーロン力による高い吸着効率を有する。そこ
で、本願発明者は、正の帯電層と負の帯電層との膜厚比
を変えて交互吸着膜を作成し、煙草の煙に対する吸着特
性を測定してみた。図8は、このような吸着特性の相違
を示すグラフである。図に実線で示すPAH:PAA=
150:75なるグラフは、PAHの1層の質量を15
0ng(厚みにして約3nm)、PAAの1層の質量を
75ng(厚みにして約1.5nm)に制御して作成し
た交互吸着膜についての吸着特性を示している。このよ
うな交互吸着膜では、正の帯電層の厚みが、負の帯電層
の厚みの2倍に設定されていることになる。一方、図に
点線で示すPAH:PAA=75:150なるグラフ
は、PAHの1層の質量を75ng(厚みにして約1.
5nm)、PAAの1層の質量を150ng(厚みにし
て約3nm)に制御して作成した交互吸着膜についての
吸着特性を示している。このような交互吸着膜では、正
の帯電層の厚みが、負の帯電層の厚みの1/2倍に設定
されていることになる。なお、図に破線で示すグラフ
は、アラキジン酸とフラーレンとの組み合わせからなる
LB膜についての吸着特性を参考のために測定した結果
を示すものである。
【0029】この図8に示す結果から、本発明に係る交
互吸着膜は、LB膜に比べれば大きな吸着特性を有して
いるが、PAH/PAAの膜厚比によって、吸着特性に
若干の相違が生じるということがわかる。具体的には、
正の帯電層であるPAH膜の厚みを、負の帯電層である
PAA膜の厚みよりも大きく設定した方が、煙草の煙に
対する吸着特性が高いという結果が得られたことにな
る。これは、煙草の煙には、負に帯電した粒子の方が多
く含まれているためと考えられる。
【0030】図9に示すグラフは、PAH/PAAの膜
厚比を5通りに変えた場合の煙粒子に対する吸着特性を
示す結果である。カーブ(1) 〜(5) は、それぞれグラフ
の右下に記載された膜厚比(実際には1層ごとの質量
比)からなる交互吸着膜の吸着特性を示している。たと
えば、カーブ(1) は、PAHの1層の質量を200ng
(厚みにして約4nm)、PAAの1層の質量を50n
g(厚みにして約1nm)に制御して作成した交互吸着
膜についての吸着特性を示している。図10は、この図
9に示す結果に基づいて、各膜厚比ごとに、煙粒子Sに
対する最大吸着量(図7に示すグラフにおけるピークP
に相当する吸着量)をプロットしたグラフである。この
結果によると、煙草の煙に対しては、PAH/PAAの
膜厚比を2に設定した場合(すなわち、図9のカーブ
(3) の場合、別言すれば、PAH膜の厚みをPAA膜の
厚みのほぼ2倍に設定した場合)に、最も高い吸着特性
が得られることがわかる。煙草の煙を構成する物質だけ
でなく、その他の吸着対象となる物質ごとにそれぞれ図
10に示すようなグラフを実測して求めれば、各物質ご
とに、最も高い吸着特性が得られる膜厚比を決定するこ
とができる。したがって、フィルタの用途に応じて、そ
れぞれ膜厚比を変えることにより、特定の物質が最も効
率的に除去されるような最適のフィルタを作成すること
が可能になる。
【0031】なお、上述した各グラフに示す結果は、合
計積層数を120層とした交互吸着膜(PAH膜とPH
H膜とを交互に60回ずつ積層してなる交互吸着膜)に
ついてのものであるが、本願発明者は、この積層数を6
0〜360の範囲で変えて、吸着特性にどのような変化
が生じるかを確認する実験も行った(PAH:PAA=
150:75なる膜厚比の交互吸着膜について)。その
結果、一般的には、積層数を増加させればさせるほど、
吸着効率が高まる傾向にあるが、積層数が180層を越
えるあたりから、吸着効率の差はほとんどみられなくな
った。これは、煙粒子Sが交互吸着膜内に侵入する深さ
に限界があるため、交互吸着膜の全体の厚みがある程度
以上になると、もはや吸着効率に差は生じなくなるため
と思われる。
【0032】また、上述の実験で用いた各フィルタに対
して、90°Cの温水で3分間洗浄を行ったところ、交
互吸着膜に吸着されていた煙粒子Sはほとんど離脱し、
このフィルタの吸着効率は著しく回復した。
【0033】§4.種々の変形例および応用例 続いて、本発明に係るフィルタの変形例を述べておく。
まず、上述した実施形態では、図5に示すようなガラス
繊維片30を基材として用いていたが、本発明に係るフ
ィルタを作成する上での基材は、必ずしもこのようなガ
ラス繊維片30に限定されるものではない。従来から一
般的に用いられている紙フィルタをそのまま基材として
用いることも可能であるし、ガラス以外にも種々の繊維
片を基材として用いることが可能である。要するに、従
来から一般的なフィルタとして利用されてきた材料であ
れば、それをそのまま本発明に係るフィルタ用の基材と
して利用することが可能である。もちろん、繊維片に限
らず、スポンジ、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ
スチレン、不織布などを基材として利用してもかまわな
い。
【0034】なお、ガラス繊維片30などを基体として
用いる場合、実用上は、図11に示すように、複数枚の
ガラス繊維片30(既に表面に交互吸着膜が形成済みの
もの)を積層して積層体40を形成し、この積層体40
をフィルタとして用いる方が、吸着効率を更に高めるこ
とができるので好ましい。
【0035】また、上述した実施形態では、正の帯電膜
としてPAH、負の帯電膜としてPAAを用いている
が、本発明に係るフィルタを実現する上で交互吸着膜を
構成する材料は、これらの材料に限定されるものではな
い。本発明に利用される交互吸着膜は、正の電荷をもっ
た第1の帯電膜と、負の電荷をもった第2の帯電膜とを
交互に積層してなり、しかも、フィルタによる除去の対
象となる粒子や分子が侵入可能な空洞構造(多孔質構造
あるいは繊維質構造)を有していればよい。このような
性質をもった交互吸着膜を形成するには、一般的には、
正の電解質ポリマー(カチオン)水溶液と、負の電解質
ポリマー(アニオン)水溶液と、に基材を交互に浸す作
業を行えばよい。正の電解質ポリマーとしては、上述し
たPAHの他にも、たとえば、ポリピロール、ポリアニ
リン、ポリパラフェニレン(+)、ポリパラフェニレン
ビニレン、ポリエチルイミンなどを用いることができ、
負の電解質ポリマーとしては、上述したPAAの他に
も、たとえば、ポリパラフェニレン(−)、ポリスチレ
ンスルホン酸、ポリチオフェン−3−アセティックアシ
ド、ポリアミック酸、ポリメタクリル酸などを用いるこ
とができる。
【0036】上述の実施形態で用いられているPAAは
弱酸、PAHは弱塩基であり、上述のフィルタでは弱酸
/弱塩基の組み合わせからなる交互吸着膜が形成されて
いることになる。これに対して、強酸や強塩基を用いて
交互吸着膜を形成すると、クーロン力による物理吸着作
用がより強まり、更に高い吸着効率が期待できる。本願
発明者は、弱塩基PAHの代わりに、強塩基PBCE
(Poly[bis(2-chloroethyl)ether-alt-1,3-bis[3-(dime
thylamino)propylurea]]) を用い、PAA(負の電解質
ポリマー)とPBCE(正の電解質ポリマー)とから構
成される交互吸着膜を作成し、実験を行ったところ、P
AAとPAHとの組み合わせからなる交互吸着膜よりも
強い吸着特性が得られることを確認した。また、弱酸P
AAの代わりに、強酸PSS(Poly styrene sulfonic
acid) を用い、PSS(負の電解質ポリマー)とPAH
(正の電解質ポリマー)とから構成される交互吸着膜を
作成し、実験を行ったところ、やはりPAAとPAHと
の組み合わせからなる交互吸着膜よりも強い吸着特性が
得られることを確認した。したがって、PSSとPBC
Eとから構成される交互吸着膜を用いれば、更に強い吸
着特性が得られるものと予想される。
【0037】もっとも、一般に「電解質」という言葉
は、水溶性の材料に対して用いられるが、本発明に利用
可能な交互吸着膜を作成する上では、必ずしも水溶性の
材料を用いる必要はない。たとえば、荷電微粒子(たと
えば、フェライト微粒子)のような不溶性の材料であっ
ても、有機溶媒に分散した状態で用いれば、本発明の交
互吸着膜の材料として利用可能である。また、本発明の
交互吸着膜の材料は、必ずしもポリマー(高分子材料)
である必要はない。たとえば、ルテニウム錯体モノマ
(Ru(bpy)(PF ++)を正の帯電膜と
して用い、PAAを負の帯電膜として用いた交互吸着膜
を形成することも可能である。
【0038】本発明に係るフィルタは、特に、煙草の煙
などの吸着特性に優れているため、空気清浄機などへの
利用に適していると思われるが、もちろん、その他の用
途にも広く利用可能である。たとえば、人体用のマスク
などに本発明に係るフィルタを組み込むようにすれば、
排気ガスなどを効率的に吸着することができるため、大
気汚染の一対策としても活用することができる。上述し
た高分子材料を用いた交互吸着膜は、人体に対しての安
全性が確認されており、マスクなどに利用しても人体に
対しては無害である。
【0039】図12は、本発明に係るフィルタを灰皿に
利用した例である。灰皿本体51に、支柱52を立てて
屋根部53を支持する構造とし、この屋根部53の上面
に、本発明に係るフィルタ54(たとえば、図5に示す
ガラス繊維片30を基材としたフィルタ)を取りつけて
おく。このような灰皿では、煙草60から立ち上ぼる紫
煙の粒子が、屋根部53で集められてフィルタ54によ
って吸着されてしまうため、紫煙が外部に漏れにくくな
る。図13は、フィルタ54の上方に吸気ファン55を
取りつけて上方への吸引を行い、浄化効率を更に高めた
例である。
【0040】また、本発明に係る交互吸着膜は脱臭剤と
して利用することも可能である。上述の例では、交互吸
着膜を形成させる基材として、図5に示すようなガラス
繊維片30を用いることによりフィルタを作成している
が、たとえば、多数の球状体を基材として用い、この球
状体の表面に交互吸着膜を形成するようにすれば、顆粒
状の脱臭剤を実現することができる。更に、カーテン用
の生地や、壁紙などの内装用建材を基材として用い、そ
の表面に本発明に係る交互吸着膜を形成するようにすれ
ば、集塵や脱臭機能をもったカーテン、建材を実現する
ことができる。
【0041】更に、本発明に係る交互吸着膜を用いたフ
ィルタを利用すれば、種々の水処理装置を実現すること
ができる。たとえば、図14には、食塩水から純水を抽
出するための水処理装置の一例を示す。この装置は、本
発明に係るフィルタと、このフィルタに水を通すための
濾過機構とを有している。すなわち、貯水槽310内に
収容された食塩水は、管路315、ポンプ320、管路
325を介して濾過室330へと送られる。濾過室33
0内には、本発明に係る交互吸着膜を用いたフィルタ3
40が備わっており、ポンプ320の圧力により図の右
方へと押し出された食塩水は、フィルタ340を通るこ
とによって濾過され、管路350から純水として取り出
される。これは、食塩水中に解離しているNaイオンお
よびClイオンがフィルタ340によって、物理吸着さ
れるためである(§5で述べるように、化学吸着作用を
もった特定の物質でフィルタを構成すれば、物理的吸着
とともに化学的吸着も行われる。)
【0042】図15に示す例は、ポンプを用いずに食塩
水の自重により圧力をかけられるようにした例である。
すなわち、濾過槽410は、本発明に係る交互吸着膜を
用いたフィルタ420によって、上部濾過室430と下
部濾過室440とに分けられている。フィルタ420と
して、ある程度密なものを用いれば、上部濾過室430
に収容した食塩水は自重によりある程度の時間をかけて
徐々にフィルタ420を通過し、下部濾過室440内に
純水として滴下する。このような濾過機構を用いれば、
モータのような動力を用いることなしに濾過が可能にな
る。
【0043】上述のような水処理装置を用いれば、たと
えば、抵抗値100KΩ・cm程度の食塩水から、抵抗
値1MΩ・cm程度の純水を作製することができ、海水
から純水(あるいは低塩濃度水)を作製することができ
る。もちろん、上述の水処理装置は、食塩水の処理を行
うだけでなく、汚水や排水の処理を行うことも可能であ
る。本発明に係るフィルタは、表面に交互吸着膜が多層
にわたって積層されているため、非常に吸着効率が高
い。したがって、小型で高性能な水処理装置を実現する
ことができる。
【0044】§5.化学吸着作用 これまで述べてきたように、本発明に係るフィルタは、
交互吸着膜の物理吸着作用を利用して煙の粒子などを除
去する機能を有するものである。すなわち、煙草の煙な
どを構成するコロイド状の粒子は、正または負に帯電し
ているものと考えられ、これらの帯電粒子がクーロン力
によって、交互吸着膜を構成するいずれかの帯電膜に物
理的に吸着されることになる。ところが、帯電膜の材料
によっては、物理的な吸着作用だけではなく、化学的な
吸着作用が行われることもあることが判明した。
【0045】前述の§3で述べた実施形態では、PAA
とPAHとから構成される交互吸着膜を有するフィルタ
を作成し、煙草の煙についての吸着実験を行った。その
結果、煙草の煙や匂いを構成する物質がフィルタに効果
的に吸着されたことは既に述べたとおりであり、本願発
明者は、当初、この吸着現象は専らクーロン力による物
理的な吸着現象であるものと考えていた。ところが、当
該実験に用いた交互吸着膜について、赤外線吸収スペク
トルによる組成分析を行った結果、吸着の前後でその化
学的な組成が変化していることが判明した。具体的に
は、赤外線吸収スペクトルにおける「C=N」の結合を
示す位置(波数1690cm−1)のピークが、吸着後
に著しく増大する現象が見られた。これは、PAAとP
AHとから構成される交互吸着膜を有するフィルタが、
煙草の煙や匂いを構成する物質に対して、物理吸着を行
う性質を有するとともに、化学吸着を行う性質を有する
ことを示している。
【0046】図16は、煙草の煙の一般的な匂い成分の
構成を示すグラフである。これらの成分の多くは、燃焼
中の煙草の葉から発生した時点では気体状態であるが、
やがて冷えると固体や液体に戻るものと考えられてい
る。これらの中でも、最も多量に含まれている成分はニ
コチンであり、このニコチンの多くはコロイド状粒子と
して空気中に漂うことになる。既に述べたように、この
ようなコロイド状粒子は、本発明に係る交互吸着膜の物
理的吸着作用によって吸着される。したがって、煙草の
煙に含まれているニコチンの多くは、本発明に係るフィ
ルタの物理的吸着作用によって除去されるものと考えて
よい。
【0047】図16のグラフによれば、アルデヒドも、
煙草の煙に多く含まれている成分である。このアルデヒ
ドは、刺激臭をもった気体であり、気体分子として空気
中に漂うことになる。上述した赤外線吸収スペクトルが
示す組成変化は、このアルデヒドがPAHからなる帯電
膜と化学反応を生じた結果であると考えられる。アルデ
ヒドは図17の左側に示すような組成をもつ物質であ
り、アルキル基RがHの場合はホルムアルデヒド、アル
キル基RがCHの場合はアセトアルデヒドとなる。一
方、PAHは図17の右側に示すような組成をもつポリ
マーである。ここで、アルデヒドに含まれるカルボニル
基(−CHO)と、PAHに含まれるアミノ基(−NH
)とに着目すると、図18に示すような化学反応を生
じ、水が生じることになる。すなわち、 2R−CHO + N →R・CH=NN=CH
・R + 2HO なる反応が生じることになる。この化学反応によって生
じる物質には、「C=N」の結合が含まれており、上述
した赤外線吸収スペクトルにおける「C=N」の結合を
示す位置のピークが著しく増大したのは、このような化
合物が多量に生じたためと考えられる。
【0048】結局、アルデヒドとPAHとは化学反応を
生じることになるので、本発明に係るフィルタを構成す
る交互吸着膜の一方の帯電膜をPAHで構成しておけ
ば、PAHからなる層によるアルデヒドの化学吸着も生
じることになり、物理吸着作用と化学吸着作用との相乗
効果により、煙草の煙や匂いを構成する物質に対する効
果的な吸着が可能になる。
【0049】図16に示す成分のうち、カテコール、フ
ェノール、クレゾールは室温で固体の物質であるので、
その多くはニコチンと同様にコロイド状粒子として空気
中に漂っているものと思われる。このようなコロイド状
粒子は、通常、電荷を帯びているので、本発明に係るフ
ィルタの物理吸着作用による吸着が期待できる。一方、
酢酸、シアン化水素、アンモニア、硫化水素、ピリジン
は室温で液体または気体である。したがって、これらの
物質に対して何らかの化学反応を生じる材料を交互吸着
膜の材料として用いれば、化学吸着作用による吸着が期
待できる。前述の実施例で帯電膜として用いたPAA
は、アンモニアを吸収する作用がある。すなわち、ポリ
マーユニット内のCOO(カルボン酸)にNHが化
学吸着することになる。したがって、PAHとPAAと
によって構成される交互吸着膜は、煙草の煙に含まれる
粒子だけでなく、アルデヒドやアンモニアなどの悪臭ガ
スを化学吸着により補集する機能を有している。このよ
うに相互に化学反応を生じる物質の組み合わせは多数知
られているので、吸着対象となる分子やイオンについて
化学反応を生じる適当な材料を交互吸着膜の材料として
適宜選択すれば、任意の吸着対象物質に対して化学吸着
作用をもったフィルタを作成することも可能である。
【0050】特に、アルデヒドは、煙草の煙に含まれる
主たる匂い成分であるだけでなく、建材にも多く含まれ
る物質としても注目されている。このため、新建材など
を多用した新築住宅などでは、壁などから発生するアル
デヒドの匂いのために、住人に対して極度の不快感やア
レルギーなどが引き起こされる問題が生じてきている。
そこで、カーテン生地や建材を基材として用い、たとえ
ば、PAAおよびPAHからなる交互吸着膜をその表面
に形成すれば、アルデヒドを化学吸着する機能をもった
カーテンや建材を実現することが可能である。
【0051】もちろん、PAHは、交互吸着膜の形態に
しなくても、アルデヒドに対して上述したような化学反
応を生じる性質があるので、このPAHのみを単体で用
いても、アルデヒドに対する脱臭剤を実現することが可
能である。しかしながら、単体のPAHは、吸湿性に富
んでいるため、フィルタ、カーテン、壁紙などの表面
に、単体のまま層状に形成して固定することは困難であ
る。ところが、交互吸着膜の形態にすれば、これらの表
面にPAHを層状に形成することが可能になり、カーテ
ンや壁紙として利用した場合であっても、通常の使用に
あたっては十分な耐久性を確保することができるように
なる。
【0052】
【発明の効果】以上のとおり本発明によれば、交互吸着
膜を用いてフィルタを構成するようにしたため、煙や匂
いの素になる粒子、分子、イオンに対して十分な除去機
能を有し、しかも安価なフィルタを実現することが可能
になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般的な交互吸着膜の製造原理を示す概念図で
ある。
【図2】図1に示す製造原理に基いて、基板10表面に
電解質ポリマーが吸着する様子を示す概念図である。
【図3】図1に示す製造原理に基く2回目の浸漬処理に
おけるより具体的な吸着状態を示す概念図である。
【図4】図3に示す浸漬処理を合計6回行ったときに形
成される交互吸着膜の構造を示す概念図である。
【図5】本発明に係るフィルタを作成する基材となるガ
ラス繊維片30の構成を示す拡大平面図である。
【図6】本発明に係るフィルタ上の交互吸着膜20の部
分による粒子吸着の様子を示す概念図である。
【図7】本発明に係るフィルタによる種々の粒子に対す
る吸着特性を示すグラフである。
【図8】本発明に係るフィルタにおいて、各帯電膜の膜
厚比の相違による吸着特性の相違を示すグラフである。
【図9】本発明に係るフィルタにおいて、各帯電膜の膜
厚比の相違による吸着特性の相違を示す別なグラフであ
る。
【図10】本発明に係るフィルタにおいて、各帯電膜の
膜厚比の相違による吸着特性の相違を示す更に別のグラ
フである。
【図11】本発明に係るフィルタのより実用的な構成例
を示す斜視図である。
【図12】本発明に係るフィルタを利用した灰皿の構成
例を示す斜視図である。
【図13】図12に示す灰皿に更に吸気ファンを取りつ
けた例を示す斜視図である。
【図14】本発明に係るフィルタを用いて構成した水処
理装置の一例を示す断面図である。
【図15】本発明に係るフィルタを用いて構成した水処
理装置の別な一例を示す断面図である。
【図16】煙草の煙の一般的な匂い成分の構造を示すグ
ラフである。
【図17】アルデヒドおよびPAHの組成を示す図であ
る。
【図18】アルデヒドおよびPAHの特定の反応基につ
いての化学反応を説明する図である。
【符号の説明】 10…基板 20…交互吸着膜 30…ガラス繊維片 40…積層体 51…灰皿本体 52…支柱 53…屋根部 54…フィルタ 55…吸気ファン 60…煙草 100…第1の槽 200…第2の槽 310…貯水槽 315…管路 320…ポンプ 325…管路 330…濾過室 340…交互吸着膜を用いたフィルタ 350…管路 410…濾過槽 420…交互吸着膜を用いたフィルタ 430…上部濾過室 440…下部濾過室 A1,A3,A5…正の電解質ポリマーからなる薄膜 B2,B4,B6…負の電解質ポリマーからなる薄膜 b…負の電解質ポリマー d1…ファイバ束の幅 d2…ファイバ束の間隔 P…ピーク S…煙粒子
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI B03C 3/28 B03C 3/28 C02F 1/44 C02F 1/44 A

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 正の電荷をもった第1の帯電膜と、負の
    電荷をもった第2の帯電膜と、を交互に吸着させてなる
    交互吸着膜を有することを特徴とするフィルタ。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載のフィルタにおいて、第1の帯電膜は正の電解質ポリマーからなり、第2の帯
    電膜は負の電解質ポリマーからなることを特徴とするフ
    ィルタ。
  3. 【請求項3】 請求項1または2に記載のフィルタにお
    いて、 第1の帯電膜の厚みを第2の帯電膜の厚みのほぼ2倍に
    設定したことを特徴とする交互吸着膜を用いたフィル
    タ。
  4. 【請求項4】 正の電荷をもった第1の帯電膜と、負の
    電荷をもった第2の帯電膜と、を交互に吸着させてなる
    交互吸着膜を有し、前記第1の帯電膜または前記第2の
    帯電膜として、除去の対象となる分子と化学反応を生じ
    る材料を用いたことを特徴とするフィルタ
  5. 【請求項5】 請求項1〜4のいずれかに記載のフィル
    タに形成されている交互吸着膜が表面に形成されている
    ことを特徴とするカーテンもしくは建材。
  6. 【請求項6】 請求項1〜4のいずれかに記載のフィル
    タと、このフィルタに水を通すための濾過機構と、を有
    することを特徴とする水処理装置。
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