JP3278177B2 - 酒類の製造方法 - Google Patents

酒類の製造方法

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JP3278177B2 JP24620291A JP24620291A JP3278177B2 JP 3278177 B2 JP3278177 B2 JP 3278177B2 JP 24620291 A JP24620291 A JP 24620291A JP 24620291 A JP24620291 A JP 24620291A JP 3278177 B2 JP3278177 B2 JP 3278177B2
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美和 加藤
史彦 古郡
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は酒類の製造方法に係り、
特に低温連続発酵による酒類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】酒類のうち、例えばビールの製造におけ
る発酵工程は、糖化工程において得られた醸造原料液
(麦汁)に酵母を添加し、その酵母が増殖しながら発酵
が進行する主発酵と、その後の比較的低温で行われ酵母
が増殖しないで発酵が進行する後発酵とからなる。しか
しながら、従来の発酵工程は回分式であるために作業が
繁雑であり製造効率の向上には限界があった。
【0003】このような従来の発酵工程の問題を解決す
る方法として、近年、連続発酵が試みられている。この
連続発酵は発酵槽に醸造原料液を連続的に供給し、均一
品質の発酵液を連続的にしかも迅速に作り出すことを目
的としている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、この連続発
酵を可能とするためには、酵母濃度を高く維持すること
が必要であるが、酵母の固定化技術を用いない従来の連
続発酵においては、酵母の増殖速度の遅い条件下で連続
発酵を行う場合、醸造原料液を発酵槽内に長時間滞留さ
せる必要があり、連続発酵の利点を充分に生かすことが
できないという問題があった。例えば、ビール製造の場
合、酵母の増殖速度の極めて遅い8℃程度での従来の連
続発酵方法による成功例はなかった。したがって、酵母
の増殖に適した条件(13℃以上)で連続発酵が行われ
るのが通常であった。
【0005】しかしながら、上述のような条件での連続
発酵により製造されたビールは、従来の回分式の発酵工
程に従って酵母が比較的増殖し易い13℃以上の温度で
発酵され製造されたビールに特徴的なエステルフレーバ
ーの強い香味を有するという問題があった。
【0006】また、酵母濃度を高く維持するために、発
酵槽から回収した発酵液に対して濾過、遠心分離等の機
械的、物理的分離を行い、分離した酵母を発酵槽に返送
する方法が考えられるが、システムの複雑化、分離過程
における酵母の活性低下、保守・点検の必要性、製造コ
ストの上昇等を伴うという問題がある。さらに、従来の
連続発酵において、醸造原料液を連続的に供給するとと
もに、新たな酵母を添加して酵母濃度を高く維持する場
合も、閉鎖系でなくなることにより余剰酵母の系外排出
操作等のシステムの複雑化が生じる。
【0007】本発明は、上記の事情に鑑みてなされたも
のであり、低温条件下で発酵を行った際に特徴的な香味
を有する酒類を効率よく連続的に製造することを可能と
する酒類の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】このような目的を達成す
るために、本発明は攪拌発酵槽と沈降分離槽とを12℃
以下の温度条件下に保ち、前記攪拌発酵槽に醸造原料液
を所定の割合で供給し、前記攪拌発酵槽から前記沈降分
離槽へ酵母を含有した発酵液を送り込み、前記沈降分離
槽で分離された酵母を前記攪拌発酵槽に返送することに
より前記攪拌発酵槽に酵母を新たに添加することなく前
記攪拌発酵槽中の発酵液の酵母濃度を30g/l以上に
維持するとともに、前記沈降分離槽で分離された発酵液
を回収するものである。
【0009】本発明は、発酵槽全体としての酵母菌体保
有数を大幅に上昇させるために、菌体を高濃度に懸濁し
迅速な発酵を目的とした攪拌発酵槽と、菌体の濃縮、回
収を目的とした沈降分離槽とを組み合わせることにより
循環を行うシステムとしたことを最大の特徴とする。
【0010】このようなシステムにおいては、攪拌発酵
槽の菌体濃度は沈降分離槽における菌体の分離効率(攪
拌発酵槽出の菌体濃度/沈降分離槽出の菌体濃度)に依
存し、この菌体の分離効率は麦汁の流量や希釈率(培地
通液量/攪拌発酵槽の容量と沈降分離槽の容量の和)、
循環率(培地通液量/酵母返送量)によって左右され
る。したがって、これらの操作変数の至適範囲を探索し
た。
【0011】また、沈降分離槽の底部形状は、沈降した
酵母が堆積して自己消化を起こして品質に悪影響を与え
ることのないように設定した。図1は本発明の酒類の製
造方法を説明するためのシステム構成図である。図1に
おけるビール製造のシステムの一例は、麦汁受けタンク
1と、この麦汁受けタンク1から送られた麦汁に酵母菌
体を高濃度に懸濁し酒類を短時間で醸造するための攪拌
発酵槽3と、酵母菌体の濃縮、回収を行うための沈降分
離槽4と、麦汁受けタンク1から攪拌発酵槽3への麦汁
通液、攪拌発酵槽3から沈降分離槽4への発酵液通液、
沈降分離槽4から攪拌発酵槽3への酵母返送、を行うた
めのポンプ2,…、および沈降分離槽4からオーバーフ
ローしたビールを受けるビール受けタンク5とで構成さ
れている。このように、発酵槽を攪拌培養槽と沈降分離
槽により構成し、沈降分離槽において物理的衝撃を与え
ることなく分離した酵母を攪拌培養槽に返送することに
より、2つの槽全体としての酵母保有数を高く維持する
ことが可能となる。
【0012】本発明に使用する醸造原料液は、上記の麦
汁の他に、コーンシロップ、マルトースシロップ、果
汁、デンプン糖化液、糖蜜等を挙げることができ、それ
ぞれ単独でも、あるいは組み合わせて使用してもよい。
例えば、麦汁を使用する場合、麦汁の糖度は10.0〜
13.5重量%程度が好ましい。
【0013】また、酵母種はS.cerevisiaeに属するビー
ル酵母、ワイン酵母、清酒酵母等を使用することができ
る。例えば、ビール酵母の場合、一般に下面発酵酵母と
称される株が好ましい。
【0014】本発明における発酵温度条件は12℃以下
であり、この温度条件下では酢酸エチル、酢酸イソアミ
ル等のエステルの発生は有効に抑制される。また、この
12℃以下の温度条件は、一般に酵母の最大の比増殖速
度μが0.05(h-1)以下となる温度条件でもある。
ここで、比増殖速度μは単位時間における酵母の増殖割
合である。
【0015】また、上記のシステムにおいて、攪拌発酵
槽3を出る発酵液の糖度が攪拌発酵槽3に供給される麦
汁の糖度の20%以下となるまで消費されるように通液
流量を制御し、循環率(培地通液量m/酵母返送量n)
を0.5〜2.0(-) の範囲とする。また、沈降分離槽
4の底部の形状は図示のように逆円錐形状とし、頂部の
角度θは70°以下とする。
【0016】上記の循環率が2.0(-) を越えると分離
効率が低下し、これに伴って攪拌発酵槽の酵母濃度の低
下、発酵液の残糖濃度の上昇がみられ、結果として生産
量が低下してしまい好ましくない。
【0017】また、上記のように沈降分離槽4の底部の
逆円錐形状の頂部角度θを70°以下とすることによ
り、沈降分離槽4内で沈降した酵母が堆積することがな
く常に攪拌発酵槽3へ返送されて循環に供されるため、
酵母が自己消化を起こして品質に悪影響を与えることは
ない。むしろ、常に新鮮な麦汁を得ることができるの
で、酵母活性が維持され発酵能の低下が防止される。
【0018】上述のように設定することにより、酵母菌
体の分離効率(攪拌発酵槽出の菌体濃度/沈降分離槽出
の菌体濃度)は15(-) 以上に維持され、これに伴っ
て、攪拌発酵槽3の菌体濃度が30g/l以上に上昇
し、高効率の連続発酵が可能となる。また、酵母菌体量
が飽和してくると、酵母は発酵液とともに沈降分離槽4
上部からオーバーフローしてビール受けタンク5に回収
され定常状態となるため、沈降分離槽4の底部の酵母量
は一定となる。したがって、定期的な余剰酵母の除去作
業は不必要である。
【0019】上述のようなシステムにより、連続発酵に
要する滞留時間(攪拌発酵槽の容量と沈降分離槽の容量
の和/培地通液量)は、12℃以下という低温条件にも
かかわらず20〜30時間程度と極めて短時間となる。
逆にこのような短い滞留時間が可能となることにより、
麦汁の希釈率(培地通液量/攪拌発酵槽の容量と沈降分
離槽の容量の和、すなわち滞留時間の逆数)は0.03
〜0.05(h-1)のような大きい数値が可能となる。
そして、このようなシステムは充分に実用に耐え得る生
産性をもつ連続発酵システムである。尚、ビール製造の
場合、沈降分離槽4において酵母と分離されオーバーフ
ローしてビール受けタンク5に回収された発酵液に対し
て後発酵を行うことが可能である。
【0020】
【実施例】以下、本発明の実施例を示して本発明を更に
詳細に説明する。図1に示したようなシステムにおい
て、攪拌発酵槽として図2に示されるような丸菱バイオ
エンジ(株)社製の発酵槽(容量=2.5 l)を用い、ま
た、沈降分離槽として図2に示されるような円筒形状
(内径=85mm)のガラス製カラムに逆円錐形状の底
部(頂角=70°)を装着した槽(容量=2.5 l)を用
いた。そして、各槽間の通液のラインはシリコンチュー
ブにより連結し、ペリスターポンプにより流量調整を行
いながら通液を行えるようにした。
【0021】麦汁はユナイテッドカナディアンモルト社
製のモルトエキスL.M.C.E.78/22 を糖度が11重量%と
なるように溶解し、ホップを添加して90分間煮沸し
後、4℃で数時間冷却し、濾紙で濾過して調製した。こ
の麦汁を実液量2.0 lとして攪拌発酵槽および沈降分離
槽に充填し酵母を添加した。酵母としては、ビール酵母
として典型的な下面発酵酵母とされるSaccharomyces ce
revisiaeBFY217を使用し、初発の酵母添加率は菌
体湿重量で0.5%とした。尚、攪拌発酵槽および沈降
分離槽とも通気は行わなかった。
【0022】図3は上述のシステムによりビールを試験
醸造したときのエタノール濃度の変化、および麦汁供給
流量を示す図であり、図4は同じく乾燥菌体重量、残糖
濃度の変化を示す図である。以下、この図3および図4
を参照しながら発酵工程を説明する。
【0023】発酵は、まず、攪拌発酵槽および沈降分離
槽においてそれぞれ回分培養とし、攪拌発酵槽の糖がほ
ぼ消費された100時間経過後に麦汁の供給、および循
環を50ml/時の流量(循環率=1)で開始し、その
後、連続発酵とした。図3に示されるように、回分培養
期は沈降分離槽よりも攪拌発酵槽の方が糖の消費が早
く、エタノール生産量、菌体量ともに高かった。
【0024】また、攪拌発酵槽における菌体量は、図4
に示されるように連続発酵開始直後に一時的に低下し、
残糖濃度に上昇がみられたが、その後は菌体の増殖分が
有効に攪拌発酵槽に濃縮され、約500時間経過後には
攪拌発酵槽の菌体量は乾燥菌体重量で30g/lとなっ
た。そして、500時間以降は菌体増殖はほとんど停止
し、1000時間経過までの間、菌体量は30g/l以
上を維持した。
【0025】また、麦汁供給流量および循環流量は、図
3に示されるように100〜200時間は50ml/時
200〜600時間は100ml/時、600〜900時
間は130ml/時、900〜1000時間は150ml/
とし、徐々に増大させたが、エタノールの生産、糖の
消費には影響はみられなかった。そして、最終的な流量
150ml/時)と総液量(4.0 l)から算出される滞
留時間は26.7時間(希釈率=0.0375)であり、この
滞留時間を製造に要した時間とすると、本発明により短
時間でビールの製造が行われたことになる。
【0026】また、上述のようにして製造したビール
と、同じモルトエキスを使用して従来法により得られた
ビール(主発酵終了段階)との分析結果を表1に示し
た。表1に示されるように本発明によるビールの分析結
果は従来法によるビールと同等であった。特に、ビール
香気成分として重要なエステルの代表成分である酢酸エ
チルの生成量は従来法によるビールと同レベルであっ
た。尚、酢酸エチルの生成量に関しては、従来法におけ
る低温発酵により得られた製品ビールについて測定し
た。
【0027】さらに、本発明によるビール、および従来
法によるビール(製品ビール)について6人のパネルに
より官能評価を行い、その平均値を表1に示した。エス
テル強度についての官能評価は、エステルを感じない場
合を0、強く感じる場合を2とし、総合評価は嗜好評価
により、嫌いな場合を−2、好きな場合を2として、そ
れぞれ0.5刻みで評価した。表1に示されように、本
発明のビールは官能的にもエステルは強くなく、総合的
にみて従来法により製造したビールと同等の香味を有し
ていた。
【0028】
【表1】
【0029】尚、上述の実施例はビール製造についての
ものであるが、本発明は発泡酒の製造においても適用さ
れ得ることは勿論である。
【0030】
【作用】12℃以下の温度条件下に保たれた攪拌発酵槽
に所定の割合で供給された醸造原料液は酵母により発酵
が行われ、この発酵液は酵母を含有した状態で攪拌発酵
槽から沈降分離槽へ送り込まれ、沈降分離槽で分離され
た酵母は攪拌発酵槽に返送され、これにより攪拌発酵槽
に酵母を新たに添加することなく攪拌発酵槽中の発酵液
の酵母濃度は30g/l以上に維持され、また、沈降分
離槽で分離された発酵液は回収される。
【0031】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば攪
拌発酵槽と沈降分離槽とを12℃以下の温度条件下に保
ち、攪拌発酵槽に醸造原料液を所定の割合で供給し、攪
拌発酵槽から沈降分離槽へ酵母を含有した発酵液を送り
込むとともに、沈降分離槽で分離された酵母を攪拌発酵
槽に返送することにより攪拌発酵槽に酵母を新たに添加
することなく攪拌発酵槽中の発酵液の酵母濃度を30g
/l以上に維持し、沈降分離槽で分離された発酵液を回
収するので、低温条件下で発酵を行った際に特徴的な香
味を有する酒類を効率よく連続的に製造することが可能
となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の酒類の製造方法を説明するためのシス
テム構成図である。
【図2】本発明の実施例において用いた攪拌発酵槽と沈
降分離槽の形状説明図である。
【図3】本発明によりビールを試験醸造したときのエタ
ノール濃度の変化、および麦汁供給流量を示す図であ
る。
【図4】本発明によりビールを試験醸造したときの乾燥
菌体重量、残糖濃度の変化を示す図である。
【符号の説明】
1…麦汁受けタンク 2…ポンプ 3…攪拌発酵槽 4…沈降分離槽 5…ビール受けタンク
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 三井 俊介 東京都渋谷区神宮前6丁目26番1号 麒 麟麦酒株式会社内 (72)発明者 吉田 正史 東京都渋谷区神宮前6丁目26番1号 麒 麟麦酒株式会社内 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12C 11/00 - 13/00 C12G 3/02 JICSTファイル(JOIS) JAFICファイル(JOIS)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 攪拌発酵槽と沈降分離槽とを12℃以下
    の温度条件下に保ち、前記攪拌発酵槽に醸造原料液を所
    定の割合で供給し、前記攪拌発酵槽から前記沈降分離槽
    へ酵母を含有した発酵液を送り込み、前記沈降分離槽で
    分離された酵母を前記攪拌発酵槽に返送することにより
    前記攪拌発酵槽に酵母を新たに添加することなく前記攪
    拌発酵槽中の発酵液の酵母濃度を30g/l以上に維持
    するとともに、前記沈降分離槽で分離された発酵液を回
    収することを特徴とする酒類の製造方法。
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