JP3209105B2 - 銀の硫化被膜洗浄剤 - Google Patents

銀の硫化被膜洗浄剤

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、銀又は銀を主成分
とする合金の表面洗浄剤に関し、特に宝飾品及び洋食器
などとして使用される銀あるいは銀合金に特有の硫化被
膜を洗浄して除去するための洗浄剤に関する。
【0002】
【従来の技術】銀あるいは銀を主成分とする合金は、宝
飾品や洋食器などとして広く用いられている。しかし、
このような銀及び銀合金には、長期間の使用中に汚れや
硫化腐食により変色して、銀本来の美しい輝きが失われ
るという問題がある。即ち、銀及び銀合金は、空気中の
二酸化硫黄や硫化水素と反応して表面に硫化銀からなる
被膜を生成するため、この硫化被膜の厚さにより表面の
色調が黄色ないし黒色に変色するのである。
【0003】そこで、このような汚れや硫化被膜による
変色を除去するために、銀の洗浄剤が市販されている。
かかる従来の銀の洗浄剤は、主成分の違いにより、主成
分が界面活性剤であるもの、研磨剤であるもの、及び硫
酸であるものの3種類に大別される。しかし、これら従
来の洗浄剤には以下のような問題点があった。
【0004】即ち、主成分が界面活性剤である洗浄剤
は、手垢などの汚れに対しては効果が認められるもの
の、銀及び銀合金に特有な黄変や黒ずみなどの原因であ
る硫化被膜を除去することは困難であった。また、主成
分が研磨剤である洗浄剤は、前記の硫化被膜に対して効
果があるが、基本的に銀表面を削り落とすことによって
硫化被膜を除去するため、かなりの労力を要する上、銀
製品の表面を傷付けるという欠点があった。しかも、洗
浄作業中に微細な研磨粉が手の指紋の間に入り、吸着す
ると洗っても容易には落ちないという問題があった。
【0005】一方、硫酸を主成分とする洗浄剤は、銀の
硫化被膜を溶解除去することができるが、劇物である硫
酸を含むため、一般家庭向けとしては危険性が高く適し
ていない。また、銀が洗浄剤に溶解されるため、使用後
の洗浄剤が手に付着すると、付着した部分が黒く変色し
てしまうという問題があった。更に、硫酸と共存する他
の有効成分が硫酸により分解して沈澱するため、流通や
保管の途中で変質し易いという欠点があった。
【0006】しかも、これらの洗浄剤を用いての銀の洗
浄は、家庭での使用を含めて人手に頼ることが多いた
め、洗浄剤そのものから臭気が発生することが嫌われ
る。しかし、硫酸などの強酸あるいは揮発性の酸を用い
た洗浄剤では、臭気の発生が避けられなかった。
【0007】
【発明が解決しようとす課題】本発明は、このような従
来の事情に鑑み、浸漬などの簡単な処理だけで銀の硫化
被膜の除去ができ、化学的に安定で長期の保存が可能で
あって、安全且つ無臭で、人体や環境にも殆ど悪影響を
及ぼすことがない、銀の洗浄剤を提供することを目的と
する。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するた
め、本発明が提供する銀の硫化被膜洗浄剤は、硫黄を硫
化物として分子中に含有する水溶性有機化合物と、pK
a2〜4の弱酸とを含む水溶液からなることを特徴とす
るものである。
【0009】この銀の硫化被膜洗浄剤は、硫黄を硫化物
として分子中に含有する水溶性有機化合物として、1〜
9重量%のチオ尿素を含むことが好ましい。また、pK
a2〜4の弱酸として、1〜15重量%のクエン酸及び
/又はリン酸を含むことが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】銀は空気中の二酸化硫黄や硫化水
素と反応して表面に硫化銀からなる薄膜を生成するが、
この硫化銀は金属硫化物の中でも水に対する溶解度が小
さく、希薄な酸には溶解しない。しかし一方では、チオ
硫酸塩やチオシアン酸塩のような錯形成剤は、銀イオン
と安定な錯イオンを形成することが知られている。
【0011】本発明の銀の硫化被膜洗浄剤は、かかる錯
形成剤が銀イオンと安定な錯イオンを形成する性質を利
用して、硫化銀を水溶性の錯イオン形成により溶解する
ものである。その一方、金属状の銀は、酸化剤が存在し
ない条件下では錯形成剤に殆ど溶解しないので、銀又は
銀合金の表面に形成された硫化被膜のみを選択的に溶解
して除去することができるのである。
【0012】銀と安定な錯イオンを形成し、毒性が低
く、また爆発性の副物を生成し難い錯形成剤としては、
硫黄を硫化物として分子中に含有する化合物が知られて
いる。その中でも、チオ硫酸塩、チオシアン酸塩、ポリ
硫化物などの無機化合物は、特に安価なため、既に精錬
分野において銀の浸出のために使用されているものもあ
る。しかし、これらの硫黄を硫化物として分子中に含有
する無機化合物は、いずれも酸性領域では不安定で分解
しやすく、一般向けの洗浄剤に用いる成分としては不適
当である。
【0013】このため、本発明の銀の硫化被膜洗浄剤に
用いる錯形成剤としては、硫黄を硫化物として分子中に
含有する安定な水溶性有機化合物、例えばチオグリコー
ル酸及びそのエステル、チオ尿素及びその誘導体などが
適しており、その中でも価格の点からチオ尿素 (NH2)
2CSが最も実用的である。
【0014】次に、本発明の洗浄剤による硫化被膜の選
択的な溶除去作用を、硫黄を硫化物として分子中に含有
する水溶性有機化合物がチオ尿素である場合を例とし
て、詳しく説明する。まず、銀表面の硫化銀は、水素イ
オンの存在下においてチオ尿素と下記化学式(1)に示す
反応により、安定な錯イオンを形成して溶解する。
【0015】
【化1】Ag2S+2H++4TU → 2[Ag(T
U)2++H2S 但し、式中においてTUはチオ尿素を意味する(以下同
じ)。
【0016】この反応に必要な水素イオンを供給するた
めには、洗浄剤水溶液の水素イオン濃度(pH)を4以
下に保持することが望ましく、この目的及び後述するチ
オ尿素の分解防止のために、洗浄剤には弱酸を添加含有
させる。尚、上記の反応で発生する硫化水素H2Sは、
銀の表面が黄色又は褐色を呈する程度の通常の硫化被膜
の溶解では極めて微量なため、臭気としては感じられな
い。
【0017】一方、下地の金属銀は、初めから化合物イ
オンとして存在する硫化銀とは異なり、チオ尿素に溶解
させるためには下記化学式(2)に示すように酸化剤の存
在が不可欠である。従って、酸化剤を含まない本発明の
洗浄剤は、銀の下地を溶解することがなく、銀表面の硫
化被膜のみを溶解除去することができる。
【0018】
【化2】2Ag+2H++(O)+4TU → 2[Ag
(TU)2++H2
【0019】洗浄剤に含まれるチオ尿素などの硫黄を硫
化物として分子中に含有する水溶性有機化合物の濃度
は、上記化学式(1)による硫化銀の溶解を促進させるた
め1重量%以上とすることが好ましい。また、その濃度
の上限は溶解限度付近まで可能であり、例えばチオ尿素
の場合には溶解限度である9重量%程度まで含有させる
ことができる。従って、チオ尿素を用いる場合、その濃
度は1〜9重量%の範囲が好ましく、硫化銀の望ましい
溶解速度を得るためには5〜9重量%の範囲が更に好ま
しい。
【0020】また、硫黄を分子中に含有する水溶性有機
化合物は、強酸の共存下では分解され易いが、弱酸には
分解されにくい。例えばチオ尿素は、下記化学式(3)に
示すごとく酸性水溶液中で徐々に加水分解を起こし、硫
化水素を経て最終的に化学式(4)に示すように硫黄を生
成する性質がある。
【0021】
【化3】 (NH2)2CS+H2O → 2(NH2)2CO+H2
【化4】H2S+(O)→ S+H2
【0022】上記化学式(3)の加水分解反応は、中性よ
り酸性側ではpHが低いほど迅速に進行するが、酸性側
であってもpHが高い弱酸性では加水分解反応を抑制す
ることができる。しかしながら、pHを高めるため酸濃
度を低下させると、主反応である上記化学式(1)の反応
に必要な水素イオンの供給が少なくなるので、本来目的
としている硫化銀の溶解も抑制されることになり、硫化
被膜洗浄剤として好ましくない。
【0023】従って、硫黄を硫化物として分子中に含有
する水溶性有機化合物の分解を抑制するためには、高濃
度に添加しても、あまりpHが低くならない化合物、例
えば弱酸、酸性塩、緩衝液などが適している。弱酸を使
用する場合はpKa値が2以上、また酸性塩若しくは緩
衝液の場合はpH2以上であれば、長期にわたってチオ
尿素等の硫黄を硫化物として分子中に含有する水溶性有
機化合物の分解を抑制することができる。
【0024】このような弱酸、酸性塩、緩衝液等の化合
物の中でも、化合物自体の安定性、価格、不揮発性で無
臭である等の点から、弱酸の使用が好ましい。弱酸の場
合、チオ尿素等の分解防止のためにはpKa2以上が必
要であることは前記したとおりである。また、pKaが
4を越えると水素イオン濃度が低下して、逆に主反応で
ある前記化学式(1)の反応が抑制される。従って、本発
明の洗浄剤に用いる弱酸としては、pKa2〜4の弱酸
が好ましく、その中でもクエン酸又はリン酸が最も適し
ている。
【0025】洗浄剤に含まれる弱酸がクエン酸及び/又
はリン酸である場合、その濃度が1重量%未満では前記
化学式(1)に示す硫化銀の溶解反応に必要な水素イオン
濃度を確保することが難しく、逆に15重量%を越える
とpKa2以上の弱酸であるとはいえ液のpHが低下し
て、前記化学式(3)のチオ尿素等の加水分解反応が促進
される可能性がある。そのため、洗浄剤中のクエン酸及
び/又はリン酸の濃度は、合計で1〜15重量%の範囲
が好ましく、5〜10重量%の範囲が更に好ましい。
【0026】尚、本発明の洗浄剤で宝飾品や洋食器等の
銀製品を洗浄する場合には、銀製品を洗浄剤に浸漬する
方法、又は洗浄剤を染み込ませた布等を用いて銀製品を
拭く方法などがある。また、本発明の洗浄剤は、容器に
入れて密栓することにより、数カ月以上の長期間にわた
って保存することが可能である。
【0027】
【実施例】実施例1 水にチオ尿素5重量%と、pKa2.87のクエン酸5
重量%とを混合して溶解し、本発明の洗浄剤とした。こ
の洗浄剤を容器に入れ、密栓して室温にて2ケ月放置し
たが、沈澱等の生成はみられなかった。
【0028】一方、純度99.99%の銀板を空気中に
5ケ月間放置したところ、表面が僅かに黄褐色に暗色化
され、硫化銀の被膜が形成された。この銀板を、上記の
洗浄剤に浸漬したところ、約3秒で表面は元の銀白色の
光沢に戻った。また、銀板の浸漬中臭気の発生はなく、
洗浄後の銀板にも全く臭気は残らなかった。
【0029】実施例2 上記と同じ銀板を、10%硫化ナトリウム水溶液に硫黄
を飽和させたポリ硫化ナトリウム水溶液に浸漬し、硫化
被膜の形成により表面が完全に黒化した時点で銀板を引
き上げて水洗した。
【0030】この銀板を、実施例1と同じ洗浄剤に浸漬
したところ、約1分で表面は元の銀白色の光沢に戻っ
た。また、銀板の浸漬中臭気の発生はなく、洗浄後の銀
板にも全く臭気は残らなかった。
【0031】
【発明の効果】本発明によれば、浸漬などの簡単な処理
だけで硫化被膜を確実に除去でき、化学的に安定で長期
の保存が可能であって、安全且つ無臭で、人体や環境に
も殆ど悪影響を及ぼすことがない、銀の硫化被膜洗浄剤
を提供することができる。

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 硫黄を硫化物として分子中に含有する水
    溶性有機化合物と、pKa2〜4の弱酸とを含む水溶液
    からなることを特徴とする銀の硫化被膜洗浄剤。
  2. 【請求項2】 硫黄を硫化物として分子中に含有する水
    溶性有機化合物として、1〜9重量%のチオ尿素を含む
    ことを特徴とする、請求項1に記載の銀の硫化被膜洗浄
    剤。
  3. 【請求項3】 pKa2〜4の弱酸として、1〜15重
    量%のクエン酸及び/又はリン酸を含むことを特徴とす
    る、請求項1又は2に記載の銀の硫化被膜洗浄剤。
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CN103898537B (zh) * 2014-04-18 2016-04-06 邯郸学院 用于去除银器表面色斑的喷涂液和方法
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