JP3153146B2 - ベクトル制御用パラメータ演算方法及びベクトル制御用電圧型インバータ装置 - Google Patents

ベクトル制御用パラメータ演算方法及びベクトル制御用電圧型インバータ装置

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JP3153146B2 JP07328497A JP7328497A JP3153146B2 JP 3153146 B2 JP3153146 B2 JP 3153146B2 JP 07328497 A JP07328497 A JP 07328497A JP 7328497 A JP7328497 A JP 7328497A JP 3153146 B2 JP3153146 B2 JP 3153146B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、交流モータへ電力
供給する電圧型インバータ装置に対してベクトル制御を
行う際に、このベクトル制御で用いるパラメータを予め
求めておくためのベクトル制御用パラメータ演算方法
と、この演算方法で求めたパラメータを用いてベクトル
制御を行うベクトル制御用電圧型インバータ装置とに関
するものである。
【0002】
【従来の技術】近時のインバータ装置のベクトル制御技
術の発達により、交流モータに対する速度制御を極めて
高精度且つ高速度で行うことが可能になった。ところ
で、このベクトル制御を行うためには、交流モータの種
々のパラメータを予め求めておく必要がある。
【0003】例えば、図10は交流モータの等価回路を
示したものであるが、この図に示すように、固定子側抵
抗R1 、回転子側抵抗R2 、固定子側インダクタンスL
1 、回転子側インダクタンスL2 、相互インダクタンス
Lm 、及び漏れインダクタンスLσ、さらに、図示はし
ていないが、回転子側時定数T2 などのパラメータを求
めておく必要がある。
【0004】従来、これらのパラメータを予め求めるた
めに、次のような方法が採用されていた。すなわち、正
規のインバータ運転を行う前のモードとして「自動計測
設定モード」を設けておき、この自動計測設定モードに
おいて、無負荷試験、単相試験、及び直流試験等を実施
し、所定の演算式を用いて、各試験において検出された
電圧及び電流の値からこれらパラメータを演算する方法
である。
【0005】例えば、交流モータが3相誘導モータであ
る場合、相互インダクタンスLm を求めるためには、無
負荷で3相交流電圧をインバータに印加し、定格の80
%の周波数で加速しながらV/f比を変化させ、さら
に、定格励磁や80%励磁を行うようにする(無負荷試
験)。また、漏れインダクタンスLσ及び回転子側抵抗
R2 を求めるためには、停止しているモータの2相線間
に30Hzの単相交流電圧を印加して定格電流を流し、
他の相には通電しないようにする(単相試験)。そし
て、固定子側抵抗R1 を求めるためには、停止している
モータの2相線間に直流電圧を印加して定格電流を流す
ようにする(直流試験)などの方法が行われていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記した従来
の方法では、無負荷試験、単相試験、及び直流試験等の
各試験を実施して、ある程度の時間はモータを回転させ
て実際に運転する必要がある。そして、モータに既に負
荷が組み込まれている場合には、一旦これを解除して無
負荷にした状態で試験を行わなければならず、また、単
相試験及び直流試験を行うためには、その都度電源の接
続を切り替えなければならない。したがって、従来の方
法では、ベクトル制御用のパラメータを得るために少な
からぬ時間及び労力を費やす結果となっていた。
【0007】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので
あり、短時間で且つ容易にベクトル制御用パラメータを
得ることが可能なベクトル制御用パラメータ演算方法
と、この方法を実施することが可能なベクトル制御用電
圧型インバータ装置を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
の手段として、請求項1記載の発明は、インバータ制御
回路及びインバータ回路を有する電圧型インバータ装置
に対してベクトル制御を行い、巻き線がスター結線され
た3相交流モータに対してこのインバータ装置から電力
供給を行う場合に、ベクトル制御時にパラメータとして
用いる3相交流モータの漏れインダクタンスLσを予め
求めておくためのベクトル制御用パラメータ演算方法に
おいて、前記3相交流モータの定格電流値を予め設定し
ておき、前記インバータ制御回路からインバータ回路に
対して矩形波状電圧パルス信号を出力させることによ
り、前記3相交流モータの巻線の3つの入力端子のうち
いずれか2つの共通接続された端子と残りの入力端子と
の間に直流電圧を印加し、前記インバータ装置の出力電
流が前記定格電流値に到達するまでの間に、所定サンプ
リング回数Nだけ各出力電流値を測定しておき、第n回
目のサンプリングの出力電流値をiun、演算係数をK、
モータ巻線の前記接続状態での総和漏れインダクタンス
をLσ0 とした場合に、前記測定した各出力電流値を次
式で表される演算式に適用して前記漏れインダクタンス
Lσを演算する、ことを特徴とする。
【数5】
【0009】請求項2記載の発明は、インバータ制御回
路及びインバータ回路を有する電圧型インバータ装置に
対してベクトル制御を行い、巻き線がスター結線された
3相交流モータに対してこのインバータ装置から電力供
給を行う場合に、ベクトル制御時にパラメータとして用
いる3相交流モータの固定子側抵抗R1 を予め求めてお
くためのベクトル制御用パラメータ演算方法において、
電流レベルがそれぞれ異なる矩形波状の第1及び第2の
電流出力信号が出力されるような第1及び第2の電圧指
令信号を前記インバータ回路に入力させ、この電圧指令
信号が前記3相交流モータの巻線の3つの入力端子のう
ちいずれか2つの共通接続された端子と残りの入力端子
との間に出力されるようにし、さらに、これら第1及び
第2の電圧指令信号がそれぞれ安定状態に達した時の値
V1 ,V2 を測定し、モータ巻線の前記接続状態での固
定子側総和抵抗をR10とした場合に、前記第1及び第2
の電流出力信号の値I1 ,I2 と前記第1及び第2の電
圧指令信号がそれぞれ安定状態に達した時の値V1 ,V
2 とを次式で表される演算式に適用して前記固定子側抵
抗R1 を演算する、ことを特徴とする。
【数6】
【0010】請求項3記載の発明は、インバータ制御回
路及びインバータ回路を有する電圧型インバータ装置に
対してベクトル制御を行い、巻き線がスター結線された
3相交流モータに対してこのインバータ装置から電力供
給を行う場合に、ベクトル制御時にパラメータとして用
いる3相交流モータの回転子側時定数T2 を予め求めて
おくためのベクトル制御用パラメータ演算方法におい
て、矩形波状の電流出力信号が出力されるような電圧指
令信号を前記インバータ回路に入力させ、この電圧指令
信号が前記3相交流モータの巻線の3つの入力端子のう
ちいずれか2つの共通接続された端子と残りの入力端子
との間に出力されるようにし、さらに、この電圧指令信
号が安定状態に達するまでの間に、所定サンプリング回
数Nだけ各電圧指令信号の値を測定しておき、第j回目
のサンプリングの電圧指令信号の値をVj 、この電圧指
令信号の定常値をV∞、演算係数をK1 とした場合に、
前記測定した各電圧指令信号の値を次式で表される演算
式に適用して前記回転子側時定数T2 を演算する、こと
を特徴とする。
【数7】
【0011】請求項4記載の発明は、インバータ制御回
路及びインバータ回路を有する電圧型インバータ装置に
対してベクトル制御を行い、巻き線がスター結線された
3相交流モータに対してこのインバータ装置から電力供
給を行う場合に、ベクトル制御時にパラメータとして用
いる3相交流モータの回転子側抵抗R2 を予め求めてお
くためのベクトル制御用パラメータ演算方法において、
矩形波状の電流出力信号が出力されるような電圧指令信
号を前記インバータ回路に入力させ、この電圧指令信号
が前記3相交流モータの巻線の3つの入力端子のうちい
ずれか2つの共通接続された端子と残りの入力端子との
間に出力されるようにし、さらに、この電圧指令信号が
安定状態に達するまでの間に、所定サンプリング回数N
だけ各電圧指令信号の値を測定しておき、第j回目のサ
ンプリングの電圧指令信号の値をVj 、この電圧指令信
号の定常値をV∞、演算係数をK2 、モータ巻線の前記
接続状態での回転子側総和抵抗をR20とした場合に、前
記測定した各電圧指令信号の値を次式で表される演算式
に適用して前記回転子側抵抗R2 を演算する、ことを特
徴とする。
【数8】
【0012】請求項5記載の発明は、インバータ電圧指
令信号を出力するインバータ制御回路と、前記インバー
タ電圧指令信号の入力に基づき、巻線がスター結線され
た3相交流モータに対して電流を出力するインバータ回
路と、前記インバータ制御回路及び前記インバータ回路
の各出力値の入力に基づき、前記3相交流モータの漏れ
インダクタンスLσ、固定子側抵抗R1、回転子側時定
数T2、及び回転子側抵抗R2を演算するパラメータ演算
回路と、を備えており、このパラメータ演算回路の演算
により得られたパラメータLσ,R1,T2,R2のうち
所要のものを用いてベクトル制御に基づく運転を行い、
しかも、前記パラメータ演算回路は、前記3相交流モー
タの巻線の3つの入力端子のうちいずれか2つの共通接
続された端子と残りの入力端子との間に矩形波状インバ
ータ電圧指令信号が印加されたときに発生するインバー
タ出力電流についての所定サンプリング回数分の出力電
流値を測定し、この測定に基づき前記漏れインダクタン
スLσを演算するものであり、また、前記3相交流モー
タの巻線の3つの入力端子のうちいずれか2つの共通接
続された端子と残りの入力端子との間にインバータ電圧
指令信号が印加されて矩形波状インバータ出力電流が発
生する場合に、そのときのインバータ電圧指令信号が安
定状態に達するまでの期間におけるこのインバータ電圧
指令信号についての所定サンプリング回数分の値、及び
インバータ出力電流についての所定サンプリング回数分
の値を測定し、この測定に基づき、前記固定子側抵抗R
1、回転子側時定数T2、及び回転子側抵抗R2を演算す
るものである、ことを特徴とする。
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図に基
づき説明する。図1は、本発明の実施形態に係るインバ
ータ装置の概略構成を示すブロック図である。まず、本
図を用いて、本発明の内容の概略を先に説明しておく。
【0017】図1において、交流電源1からの交流電力
がインバータ装置2に供給され、インバータ装置2は交
流モータ3に対して可変電圧及び可変周波数の交流電力
を出力するようになっている。インバータ装置2は、パ
ラメータ演算回路4、インバータ制御回路5、及びイン
バータ回路6を有している。
【0018】正規のインバータ運転を行う前に、まず、
パラメータ演算回路4からパラメータ演算開始指令信号
がインバータ制御回路5に出力される。すると、インバ
ータ制御回路5は、漏れインダクタンスLσの演算のた
めに矩形波状のインバータ電圧指令信号をインバータ回
路6に出力する。これにより、インバータ回路6は、イ
ンバータ電流出力信号を交流モータ3に出力する。この
ときのインバータ電圧指令信号及びインバータ電流出力
信号はパラメータ演算回路4により測定されるようにな
っている。そして、所定演算式を用い、この測定結果に
基づいて漏れインダクタンスLσを演算する。
【0019】次いで、インバータ制御回路5は、固定子
側抵抗R1 の演算のためのインバータ電圧指令信号をイ
ンバータ回路6に出力するが、このインバータ電圧指令
信号は、電流レベルがそれぞれ異なる矩形波状の第1及
び第2の電流出力信号が得られるような第1及び第2の
電圧指令信号である。このときのインバータ電圧指令信
号及びインバータ電流出力信号はパラメータ演算回路4
により測定されるようになっている。そして、所定演算
式を用い、この測定結果に基づいて固定子側抵抗R1 を
演算する。
【0020】さらに、インバータ制御回路5は、回転子
側時定数T2 及び回転子側抵抗R2の演算のためのイン
バータ電圧指令信号をインバータ回路6に出力するが、
このインバータ電圧指令信号は、矩形波状の電流出力信
号が得られるような電圧指令信号である。このときのイ
ンバータ電圧指令信号及びインバータ電流出力信号はパ
ラメータ演算回路4により測定されるようになってい
る。そして、所定演算式を用い、この測定結果に基づい
て回転子側時定数T2 及び回転子側抵抗R2 を演算す
る。
【0021】上記の場合、インバータ回路6に入力され
るインバータ電圧指令信号は、パラメータ演算を行うた
めだけに必要な信号であって、交流モータ3を実際に回
転させるために必要な信号ではない。つまり、このイン
バータ電圧指令信号及びインバータ電流出力信号は瞬時
に発生する信号であり、それ故、パラメータ演算回路4
は極めて短時間にパラメータLσ,R1 ,T2 ,R2 を
演算することができる。そして、本発明に係るインバー
タ装置では、このように短時間にパラメータを演算でき
るので、従来のような自動計測設定モードを特別に設け
る必要はなく、インバータ運転を行う毎に、パラメータ
をその都度自動的に演算する構成とすることが可能であ
る。
【0022】次に、本発明の実施形態に係るパラメータ
演算方法を具体的に説明する。本実施形態では、交流モ
ータ3として、巻線がスター結線されている3相誘導モ
ータを使用するものとする。図2は、このような実施形
態において用いられるインバータ回路6の構成を示す回
路図である。この図に示すように、インバータ回路6
は、IGBT等の6個のスイッチング素子G1 〜G6 に
より構成されており、2つの入力端子間に直流電圧Ed
が印加されるようになっている。なお、7は各スイッチ
ング素子に並列接続された逆電圧印加防止用のダイオー
ドである。
【0023】図3(a),(b),(c)は、電圧指令
信号Vu ,Vv ,Vw に基づき電流出力信号iu ,iv
,iw が流れる時の各相の接続状態を示したものであ
る。図3(a)の場合には、スイッチング素子G1 ,G
2 ,G6 がオンとなり、図3(b)の場合には、スイッ
チング素子G3 ,G4 ,G2 がオンとなり、図3(c)
の場合には、スイッチング素子G5 ,G4 ,G6 がオン
となる。本実施形態では、図3(a)の場合のみにおけ
るパラメータの演算を説明しているが、実際には、図3
(a),(b),(c)の各場合につきパラメータを演
算し、各場合の演算値の平均値を採用することとしてい
る。
【0024】図4は、漏れインダクタンスLσを求める
ためのU相の電圧指令信号Vu と電流出力信号iu との
対応関係を示す波形図であり、電圧指令信号Vu 及び電
流出力信号iu は、(a),(b),(c)の順に変化
していくようになっている。
【0025】ここで、図4(a)における電圧指令信号
Vu 及び電流出力信号iu の波形を図6(a),(b)
のように図示し直して、漏れインダクタンスLσの演算
方法を図8のフローチャートに基づき説明する。まず、
パラメータ演算回路4は、交流モータ3の定格電流ir
を設定する(ステップ1)。この場合の設定値は、原則
として前回使用時の設定値を継続して用いるが、係員が
任意に設定値を変更することも可能である。次いで、パ
ラメータ演算回路4はパラメータ演算開始指令信号をイ
ンバータ制御回路5に出力し、インバータ制御回路5
は、インバータ回路6のスイッチング素子G1 ,G2 ,
G6 をオンにして直流電圧Ed を印加する(ステップ
2)。そして、図6(a)に示すような直流電圧Ed の
印加により、図6(b)に示すような電流出力信号iu
が定格電流ir に達するまで流れるが、この時パラメー
タ演算回路4は、所定周期でN回のサンプリングを行
い、N個のサンプリング値iun(n番目のサンプリング
値を表している。)を収集し内部のメモリに記憶してい
る(ステップ3,4)。サンプリング値iunが定格電流
irより大きくなると、インバータ回路6の出力が停止
され(ステップ5)、パラメータ演算回路4は、所定の
演算式を用いてメモリの値に基づき漏れインダクタンス
Lσを演算する(ステップ6)。
【0026】次に、漏れインダクタンスLσの演算に用
いる演算式につき説明する。一般に、図3のように接続
した状態での総和漏れインダクタンスLσ0 は、次式の
ように、電圧Ed を電流変化率(diu /dt)で割る
ことにより求められる。
【0027】 Lσ0 =Ed /(diu /dt) … (1) (1)式は、最小二乗法の原理を用いると、Kを演算係
数として、次の(2)式で表すことができる。
【0028】
【数9】 そして、図3(a),(b),(c)のような結線状態
であることから、個別の漏れインダクタンスLσは、次
の(3)式で表すことができる。
【0029】Lσ=(2/3)・Lσ0 … (3) ここで、最小二乗法の原理により、(1)式が(2)式
のように表される理由につき説明しておく。最小二乗法
の原理によれば、xi ,yi を実験値、εi を理論値と
の誤差とすれば、なんらかの関数関係があるxとyとの
関係は、次式(4)で表される。
【0030】yi =f(xi )+εi … (4) この場合の関数f(x)は次式(5)のような、a0 ,
a1 を係数とする1次関数であるとする。
【0031】f(x)=a0 +a1 ・x … (5) そして、誤差εi (=yi −f(xi ))の二乗の総和
Sは次式(6)により表される。
【0032】
【数10】 (6)式は、a0 ,a1 の関数と見ることができるか
ら、(6)式のSを最小にするa0 ,a1 を求めるため
には、(6)式をそれぞれa0 ,a1 で偏微分したもの
をゼロとおくことにより得られる2つの連立方程式を解
けばよい。すなわち、(6)式をa0 ,a1 で偏微分し
て整理すると、(7)式が得られ、これをa0 ,a1 に
ついて解くと(8)式が得られる。
【0033】
【数11】 一方、(1)式は、次式(11)のように表すことがで
きるが、この(11)式は、(5)式におけるf(x)
をEd 、a0 をゼロ、ai をLσ0 、xを(diu /d
t)に置き換えたものと見ることができる。
【0034】 Ed =Lσ0 ・(diu /dt) … (11) したがって、(10)式の結果を利用して、(1)式の
Lσを(2)式のように表すことができる。
【0035】上記のように、パラメータ演算回路4は、
図8のステップ4において、図3(a)の結線状態にあ
る交流モータ3に対して僅かな電流出力信号iu が流れ
た時のサンプリング値を記憶しておき、このサンプリン
グ値に基づきステップ6で1相分の漏れインダクタンス
Lσを演算している。
【0036】次に、固定子側抵抗R1 、回転子側時定数
T2 、及び回転子側抵抗R2 の演算方法につき説明す
る。図5は、これらR1 ,T2 ,R2 を求めるためのU
相の電圧指令信号Vu と電流出力信号Iu との対応関係
を示す波形図であり、電圧指令信号Vu 及び電流出力信
号Iu は、(a),(b),(c)の順に変化していく
ようになっている。ところで、図5における電流出力信
号Iu は、矩形波状の信号となっているが、一般に、電
圧型インバータ装置により矩形波状の電流出力信号を得
るのは困難である。そこで、本実施形態では、電圧指令
信号Vu をPI制御することにより矩形波状の電流出力
信号Iu を得るようにしている。
【0037】すなわち、励磁指令電流をIg*、PI制御
のゲイン定数をKp ,KI として、Iu =Ig*となるよ
うに、次式(12)に基づきVu の制御を行う。なお、
図5における電流出力信号Iu は垂直に立ち上がった状
態に描かれているが、もちろん、これは理想的な状態を
図示したものであり、実際にはある程度傾斜した曲線を
描きながら立ち上がっている。
【0038】
【数12】 まず、固定子側抵抗R1 の演算方法につき説明する。イ
ンバータ制御回路5は、図5(a)に示すように、レベ
ルがそれぞれ異なる矩形波状の電流出力信号I1 ,I2
が得られるような電圧指令信号をインバータ回路6に出
力する。ここで、定格電流をIr とすると、I1 は例え
ばIr のルート2倍であり、I2 はI1の3分の1倍で
ある。I1 ,I2 を、このようにIr のルート2倍や3
分の1倍にしたのは、電流レベルと適切に設定するため
であり、特に深い意味はない。
【0039】電流出力信号I1 を得るための電圧指令信
号Vu は、立ち上がり後次第に減衰して、時刻t1 にお
いて安定状態となり、続いて電流出力信号I2 を得るた
めの電圧指令信号Vu が出力される。そして、時刻t2
において安定状態となる。この時刻t1 ,t2 における
電圧指令信号Vu の値をそれぞれV1 ,V2 とし、3相
分の固定子側抵抗をR10とすると、次式(13),(1
4)が成立する。 V1 =R10・I1 … (13) V2 =R10・I2 … (14) なお、図10に示したように、交流モータには固定子側
抵抗R1 の他に、回転子側抵抗R2 や他のインダクタン
スが存在するために、電圧印加の初期には上記の(1
3),(14)式は成立しないが、安定状態に入った時
点では、回転子側抵抗R2 や他のインダクタンスは無視
することができるので、(13),(14)式が成立す
る。そして、実際には、スイッチング素子G1 〜G6 の
電圧降下分やデッドタイム(スイッチング素子のスイッ
チング遅れ時間に起因する正負アームの短絡を回避する
ために設けられた空白時間帯のこと)による電圧誤差Δ
Vが存在するために、(13),(14)式は(1
5),(16)式のように表される。 V1 +ΔV=R10・I1 … (15) V2 +ΔV=R10・I2 … (16) しかし、(15),(16)式からR10を求めると、こ
のΔVは消去され、R10は(17)式により表される。
そして、1相分の固定子側抵抗R1 は(18)式により
得られる。 R10=(V1 −V2 )/(I1 −I2 ) … (17) R1 =(1/3)・R10 … (18) 上記のように、インバータ制御回路5は、電流レベルが
それぞれ異なる矩形波状の2つの電流出力信号I1 ,I
2 が得られるような2つの電圧指令信号を出力し、パラ
メータ演算回路4は、これら電圧指令信号が安定状態に
達した時の値V1 ,V2 を測定して固定子側抵抗R1 を
演算している。したがって、電圧誤差ΔVの影響を回避
することができ、正確且つ迅速に固定子側抵抗R1 を求
めることができる。
【0040】次に、回転子側時定数T2 及び回転子側抵
抗R2 の演算方法につき説明する。ここで、説明及び図
示が分かり易くなるように、図5(a)ではなく図5
(b)におけるT2 及びR2 測定分の信号部分を図7
(a),(b)のように図示し直して、回転子側時定数
T2 及び回転子側抵抗R2 の演算方法を図9のフローチ
ャートに基づき説明する。
【0041】まず、パラメータ演算回路4は、交流モー
タ3の励磁電流Ig*を設定する(ステップ11)。この
場合、Ig*の値は、例えば、Ir を定格電流の値とし
て、約(1/3)・Ir である。なお、ステップ11に
おける設定は、実際には、図8のステップ1における定
格電流Ir の設定と同時に行われている。
【0042】既述した、R1 を測定するための第2の電
圧指令信号が出力された後、インバータ制御回路5は電
圧指令信号の極性を反転させて(図5(a),(b),
(c)参照)振幅が(1/3)・Ir の矩形波状電流出
力信号が得られるような電圧指令信号を出力する。すな
わち、先に述べたように、Iu =Ig*となるように、
(12)式を用いてVu をPI制御する(ステップ1
2)。
【0043】図7(a)は、このときのVu の変化状態
を示したものであり、V0 を初期値として、定常値V∞
に達するまで曲線を描いて減衰する。パラメータ演算回
路4は、このときのVu を所定周期でサンプリングする
と共に、Vu が安定状態に達したか否かを監視している
(ステップ13)。そして、未だ安定状態に達していな
ければ、そのときのサンプリング値Vj をメモリに記憶
しておく(ステップ14)。その後、安定状態に達した
時点で、その時のVj を定常値V∞としてメモリに記憶
する(ステップ15)。次いで、パラメータ演算回路4
は所定の演算式を用いてメモりの値に基づき、T2 及び
R2 を演算する。
【0044】次に、T2 及びR2 の演算に用いる演算式
につき説明する。図7(a)において、Vu が初期値V
0 から定常値V∞に低下するまでの間のサンプリング値
Vjは、次式(19)により表され、また、(19)式
は(20)式のように表される。ここで、Δtはサンプ
リング周期であり、j・Δtは第1回目から第j回目ま
でのサンプリングに要した時間である。
【0045】
【数13】 ここで、ln(Vj −V∞)=Aj 、 ln(V0 −
V∞)=B と置き換えると、(20)式は、(2
1)式のように表され、(21)式はさらに(22)式
のように表される。 Aj =−(j・Δt/T2 )+B … (21) Aj =B+(−1/T2 )・(j・Δt) … (22) この(22)式は、(5)式におけるf(x)をAj 、
a0 をB、a1 を(−1/T2 )に置き換えたものと見
ることができる。したがって、(10)式の結果を利用
して、次の(23)式を得ることができ、また、(9)
式の結果を利用して(24)式を得ることができる。
【0046】
【数14】 ところで、図7(a)の減衰曲線において、V0 〜V∞
の区間を直線とみなし、演算係数をK2 とすると、次式
(25)を得ることができ、この(25)式は(26)
式のように表される。 R20=K2 ・(V0 −V∞)/iu … (25)
【0047】
【数15】 個別の回転子側抵抗R2 は、R2 =(2/3)・R20
で表されるから、ln(Vj −V∞)=Aj の式と、
(26)式及び(24)式により、R2 を演算すること
が可能になる。
【0048】上記のように、インバータ制御回路5は、
固定子側抵抗R1 を測定するための電圧指令信号を出力
した後、この信号の極性を反転させて、回転子側時定数
T2及び回転子側抵抗R2 を求めるための電圧指令信号
を出力している。そして、この電圧指令信号により発生
する電流出力信号をパラメータ演算回路4が所定周期で
サンプリングして、T2 及びR2 を演算している。
【0049】以上述べた各方法、及びこの方法を採用し
たインバータ装置によれば、実際に交流モータを運転さ
せる必要はなく、僅かなパルス電流を流すだけでよいの
で、ベクトル制御に用いる各種パラメータを迅速且つ容
易に求めることができる。
【0050】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、短時間
で且つ容易にベクトル制御用パラメータを得ることが可
能なベクトル制御用パラメータ演算方法と、この方法を
実施することが可能なベクトル制御用電圧型インバータ
装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るインバータ装置の概略
構成を示すブロック図。
【図2】図1におけるインバータ回路6の構成を示す回
路図。
【図3】図2における3相誘導モータ3のパラメータ測
定時の各相の接続状態を示す説明図。
【図4】漏れインダクタンスLσを求めるための信号の
波形図。
【図5】固定子側抵抗R1 、回転子側時定数T2 、及び
回転子側抵抗R2 を求めるための信号の波形図。
【図6】漏れインダクタンスLσを求めるための信号の
部分波形図。
【図7】回転子側時定数T2 及び回転子側抵抗R2 を求
めるための信号の部分波形図。
【図8】漏れインダクタンスLσの演算方法についての
フローチャート。
【図9】回転子側時定数T2 及び回転子側抵抗R2 の演
算方法についてのフローチャート。
【図10】ベクトル制御に必要な各種パラメータ成分を
含む交流モータの等価回路図。
【符号の説明】
1 交流電源 2 インバータ装置 3 交流モータ 4 パラメータ演算回路 5 インバータ制御回路 6 インバータ回路 7 ダイオード Lσ 漏れインダクタンス R1 固定子側抵抗 T2 回転子側時定数 R2 回転子側抵抗
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 川 由紀夫 東京都三鷹市下連雀8丁目3番11号 春 日電機株式会社内 (56)参考文献 特開 平7−75399(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H02P 5/408 - 5/412 H02P 7/628 - 7/632 H02P 21/00

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】インバータ制御回路及びインバータ回路を
    有する電圧型インバータ装置に対してベクトル制御を行
    い、巻き線がスター結線された3相交流モータに対して
    このインバータ装置から電力供給を行う場合に、ベクト
    ル制御時にパラメータとして用いる3相交流モータの漏
    れインダクタンスLσを予め求めておくためのベクトル
    制御用パラメータ演算方法において、 前記3相交流モータの定格電流値を予め設定しておき、 前記インバータ制御回路からインバータ回路に対して矩
    形波状電圧パルス信号を出力させることにより、前記3
    相交流モータの巻線の3つの入力端子のうちいずれか2
    つの共通接続された端子と残りの入力端子との間に直流
    電圧を印加し、 前記インバータ装置の出力電流が前記定格電流値に到達
    するまでの間に、所定サンプリング回数Nだけ各出力電
    流値を測定しておき、 第n回目のサンプリングの出力電流値をiun、演算係数
    をK、モータ巻線の前記接続状態での総和漏れインダク
    タンスをLσ0 とした場合に、前記測定した各出力電流
    値を次式で表される演算式に適用して前記漏れインダク
    タンスLσを演算する、 ことを特徴とするベクトル制御用パラメータ演算方法。 【数1】
  2. 【請求項2】インバータ制御回路及びインバータ回路を
    有する電圧型インバータ装置に対してベクトル制御を行
    い、巻き線がスター結線された3相交流モータに対して
    このインバータ装置から電力供給を行う場合に、ベクト
    ル制御時にパラメータとして用いる3相交流モータの固
    定子側抵抗R1 を予め求めておくためのベクトル制御用
    パラメータ演算方法において、 電流レベルがそれぞれ異なる矩形波状の第1及び第2の
    電流出力信号が出力されるような第1及び第2の電圧指
    令信号を前記インバータ回路に入力させ、この電圧指令
    信号が前記3相交流モータの巻線の3つの入力端子のう
    ちいずれか2つの共通接続された端子と残りの入力端子
    との間に出力されるようにし、さらに、これら第1及び
    第2の電圧指令信号がそれぞれ安定状態に達した時の値
    V1 ,V2 を測定し、 モータ巻線の前記接続状態での固定子側総和抵抗をR10
    とした場合に、前記第1及び第2の電流出力信号の値I
    1 ,I2 と前記第1及び第2の電圧指令信号がそれぞれ
    安定状態に達した時の値V1 ,V2 とを次式で表される
    演算式に適用して前記固定子側抵抗R1 を演算する、 ことを特徴とするベクトル制御用パラメータ演算方法。 【数2】
  3. 【請求項3】インバータ制御回路及びインバータ回路を
    有する電圧型インバータ装置に対してベクトル制御を行
    い、巻き線がスター結線された3相交流モータに対して
    このインバータ装置から電力供給を行う場合に、ベクト
    ル制御時にパラメータとして用いる3相交流モータの回
    転子側時定数T2 を予め求めておくためのベクトル制御
    用パラメータ演算方法において、 矩形波状の電流出力信号が出力されるような電圧指令信
    号を前記インバータ回路に入力させ、この電圧指令信号
    が前記3相交流モータの巻線の3つの入力端子のうちい
    ずれか2つの共通接続された端子と残りの入力端子との
    間に出力されるようにし、さらに、この電圧指令信号が
    安定状態に達するまでの間に、所定サンプリング回数N
    だけ各電圧指令信号の値を測定しておき、 第j回目のサンプリングの電圧指令信号の値をVj 、こ
    の電圧指令信号の定常値をV∞、演算係数をK1 とした
    場合に、前記測定した各電圧指令信号の値を次式で表さ
    れる演算式に適用して前記回転子側時定数T2 を演算す
    る、 ことを特徴とするベクトル制御用パラメータ演算方法。 【数3】
  4. 【請求項4】インバータ制御回路及びインバータ回路を
    有する電圧型インバータ装置に対してベクトル制御を行
    い、巻き線がスター結線された3相交流モータに対して
    このインバータ装置から電力供給を行う場合に、ベクト
    ル制御時にパラメータとして用いる3相交流モータの回
    転子側抵抗R2 を予め求めておくためのベクトル制御用
    パラメータ演算方法において、 矩形波状の電流出力信号が出力されるような電圧指令信
    号を前記インバータ回路に入力させ、この電圧指令信号
    が前記3相交流モータの巻線の3つの入力端子のうちい
    ずれか2つの共通接続された端子と残りの入力端子との
    間に出力されるようにし、さらに、この電圧指令信号が
    安定状態に達するまでの間に、所定サンプリング回数N
    だけ各電圧指令信号の値を測定しておき、 第j回目のサンプリングの電圧指令信号の値をVj 、こ
    の電圧指令信号の定常値をV∞、演算係数をK2 、モー
    タ巻線の前記接続状態での回転子側総和抵抗をR20とし
    た場合に、前記測定した各電圧指令信号の値を次式で表
    される演算式に適用して前記回転子側抵抗R2 を演算す
    る、 ことを特徴とするベクトル制御用パラメータ演算方法。 【数4】
  5. 【請求項5】インバータ電圧指令信号を出力するインバ
    ータ制御回路と、 前記インバータ電圧指令信号の入力に基づき、巻線がス
    ター結線された3相交流モータに対して電流を出力する
    インバータ回路と、 前記インバータ制御回路及び前記インバータ回路の各出
    力値の入力に基づき、前記3相交流モータの漏れインダ
    クタンスLσ、固定子側抵抗R1、回転子側時定数T2、
    及び回転子側抵抗R2を演算するパラメータ演算回路
    と、 を備えており、このパラメータ演算回路の演算により得
    られたパラメータLσ,R1,T2,R2のうち所要のも
    のを用いてベクトル制御に基づく運転を行い、 しかも、前記パラメータ演算回路は、 前記3相交流モータの巻線の3つの入力端子のうちいず
    れか2つの共通接続された端子と残りの入力端子との間
    に矩形波状インバータ電圧指令信号が印加されたときに
    発生するインバータ出力電流についての所定サンプリン
    グ回数分の出力電流値を測定し、この測定に基づき前記
    漏れインダクタンスLσを演算するものであり、 また、前記3相交流モータの巻線の3つの入力端子のう
    ちいずれか2つの共通接続された端子と残りの入力端子
    との間にインバータ電圧指令信号が印加されて矩形波状
    インバータ出力電流が発生する場合に、そのときのイン
    バータ電圧指令信号が安定状態に達するまでの期間にお
    けるこのインバータ電圧指令信号についての所定サンプ
    リング回数分の値、及びインバータ出力電流についての
    所定サンプリング回数分の値を測定し、この測定に基づ
    き、前記固定子側抵抗R1、回転子側時定数T2、及び回
    転子側抵抗R2を演算するものである、 ことを特徴とするベクトル制御用電圧型インバータ装
    置。
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