JP3036988B2 - 土木建築構造用防錆厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents

土木建築構造用防錆厚鋼板およびその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ブラスト処理および
次プライマー塗布の省略が可能で、かつ塗膜付着性およ
び塗装後の耐食性に優れた土木建築構造用防錆厚鋼板の
造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】橋梁や海洋構造物等の土木建築構造物
は、汚染物質や塩化物を含む大気雰囲気に長い年月さら
され、かつ高い耐久性が要求される。また、周囲の環境
と景観調和する必要がある。そのため、耐食性および色
彩の付与を目的として塗装が施されている。
【0003】この種の用途に用いられる従来の鋼板は、
熱間圧延後、鋼構造物に組み立てられるまでの間、錆の
発生を防止する必要があることから、ミルメーカでブラ
スト処理によって圧延鋼材表面の黒皮が除去されたの
ち、一次プライマー(ウオッシュプライマーあるいはジ
ンクリッチプライマー)が塗布されて、ファブリケータ
に納入される。
【0004】ファブリケータにおいては、工場でブロッ
クを製作後、素地調整して防錆性や耐水性等の付与を目
的とした下塗り塗装が行われている。ブロックは現地に
輸送され、組み立て、据え付けされたのち、最終的に耐
候性や色彩等の付与を目的とした中・上塗り塗装が施さ
れて供用されている。供用期間中においては、一般に錆
発生面積やふくれの程度に応じて、塗替え塗装を繰り返
し行っている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の
鋼材を使用する場合、ブロック製作時および据え付け時
の素地調整および供用期間中の防錆の維持管理に、多大
の労力とコストが必要となっている。すなわち、ブロッ
ク製作段階においては、一次プライマーが塗布されたま
まで溶接すると、溶接部にブローホール等の欠陥が発生
するとともに、溶接焼け部が生じ、塗膜の付着性に悪影
響を与える。そのため、溶接前に、溶接予定線上のプラ
イマーを除去する必要がある。
【0006】また、溶接組立後においても、下塗り塗料
の付着性を確保するために、溶接焼けや赤錆発生により
劣化した一次プライマーの除去および適度なアンカーパ
ターンの付与を目的として、素地調整が必要である。と
りわけ、下塗り塗料に厚膜型ジンクリッチペイントを適
用した場合は、一次プライマー面に赤錆のみならず、白
錆が発生していても塗膜付着性を悪くすることから、全
面ブラスト処理を余儀なくされている。そのため、これ
らの素地調整作業は作業環境の悪いなかでの多大の労力
と高い施工コストを必要としている。
【0007】鋼構造ブロックの輸送時や現地での据え付
け時においては、下塗り塗装材の塗膜が損傷することが
あり、その場合、容易に鋼地が露出して発錆するため、
現地での仕上げ塗装時に損傷部の素地調整およびタッチ
アップ等の部分補修が必要となっている。
【0008】供用期間中においては、塗料の防錆寿命が
現状、鋼構造物の耐用年数に及ばないため、防錆維持を
目的として、塗替え塗装を繰り返し行う必要がある。橋
梁の場合、滞水しやすい下フランジ下面および濡れや湿
潤状態と乾燥状態が繰り返される飛沫帯に位置する部材
は、他の部位に比べて早期に腐食しやすく、かつ没水部
で適用されることの多い電気防食も効果がない。そのた
め、これらの部材の腐食に律速されて全面塗替え塗装の
間隔を短くせざるを得ない。
【0009】これらの問題点の解決策として、JIS で定
められている 1mm以上の合せ材厚を有する厚板クラッド
鋼材の適用が考えられるが、この鋼材は一般鋼材に比較
してかなり高価である。また、現状、化学精製プラント
や圧力容器等、塗装では耐えられないような極めて厳し
い腐食環境に裸使用されている。このため、合せ材の表
面性状については、製造過程で発生した酸化スケールや
疵を表面研磨で除去したのみの状態であり、土木建築構
造用塗料の塗膜付着性については考慮されていない。し
たがって、JIS で定められている 1mm以上の合せ材厚を
有する厚板クラッド鋼材をそのまま土木建築構造用部材
に適用することは困難である。
【0010】また、土木建築構造用として、コスト低減
および塗膜付着性の観点から厚板クラッド鋼材の合せ材
厚を薄くして、圧延後に砥石やブラスト等で合せ材表面
の素地調整を行うことが考えられる。しかしながら、従
来の厚板クラッド鋼材の製造方法を踏襲すると、製造過
程において酸化スケール層およびスケールや分離剤の押
し込みによる深い疵が発生する。そのため、薄い合せ材
の素地調整を所望の合せ材厚に制御しながら行うこと
は、極めて困難なことから、上記用途に適う厚板クラッ
ド鋼材は製造し得なかった。
【0011】本発明は、上記の問題点を解決するために
なされたもので、合せ材厚を薄くし、合せ材表面にアン
カーパターンを形成することによって、一次プライマー
の塗布と素地調整を省略し、部位による塗膜劣化速度の
平準化および全面塗替え周期の長期化を可能ならしめる
土木建築構造用防錆厚鋼板およびその製造方法を提供す
ることを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】その要旨は、防錆鋼板の
製造に際して、母材鋼とNiまたはオーステナイト系ステ
ンレス鋼の合せ材とからなるサンドイッチ型およびセミ
サンドイッチ型コンポジットスラブにおいて、前記合せ
材と合せ材との間または合せ材とダミー鋼との間に、粒
径10μm 以下の窒化硼素を 5g/m 2 以上、200g/m 2 以下介
在させ、このコンポジットスラブを総圧下比 3以上、10
以下で熱間圧延し、その後、窒化硼素が介在する面で合
せ材と合せ材または合せ材とダミー鋼を分離した状態
で、前記母材鋼の表面に、被覆量が 250g/m 2 以上、7500
g/m 2 以下で、かつ表面粗度がRz15μm 以上、70μm 以下
のNiまたはオーステナイト系ステンレス鋼の金属被覆層
が形成されていることを特徴とする土木建築構造用防錆
厚鋼板の製造方法である
【0013】
【0014】
【作用】本発明者らは、上記目的を達成するために種々
検討を重ねたすえ、分離剤の種類、粒度、量および総圧
下比を規定した圧延接合法により厚鋼板表面に、Niまた
はオーステナイト系ステンレス鋼の金属被覆層を形成す
ることにより一次防錆性が得られ、また、塗装後におい
ても、母材鋼素地に達する疵がつきにくく、たとえ金属
被覆層を貫通したとしても、金属被覆層の無い場合に比
べて塗装後の耐食性を向上させることを見出した。さら
に、圧延過程で金属被覆層の表面粗度を制御することに
より良好な塗膜付着性を得ることができることを見出し
た。
【0015】すなわち、本発明は圧延接合法により厚鋼
板の表面に被覆量が 250g/m2以上、7500g/m2以下で、表
面粗度がRz15μm 以上、70μm 以下のNiまたはオーステ
ナイト系ステンレス鋼の金属被覆層が圧延した状態で形
成されている土木建築構造用防錆厚鋼板の製造方法であ
る。
【0016】本発明の土木建築構造用防錆厚鋼板の厚鋼
板表面に被覆する金属としては腐食電位において母材鋼
よりも貴なNiおよびオーステナイト系ステンレス鋼が該
当する。
【0017】まず、本発明の防錆厚鋼板の層構成につい
て説明する。図1は防錆厚鋼板の層構成の概念図で、図
1(1) 、(2) は塗装前の状態を、(3) 、(4) は塗装後の
状態を示す。図中aは母材鋼よりも貴な金属被覆層を、
bは母材鋼を、cは塗料層を示す。
【0018】図1(1) は母材鋼bの片面に金属被覆層a
を形成したもので、図2(1) に示すサンドイッチ型、図
2(2) に示すセミサンドイッチ型コンポジットスラブを
用いて圧延接合法により製造されたものである。図1
(2) は母材鋼bの両面に金属被覆層aを形成したもの
で、図2(3) に示すサンドイッチ型コンポジットスラブ
を用いて圧延接合法により製造されたものである。
【0019】図2は上記したように、本発明の防錆厚鋼
板を製造するためのコンポジットスラブの概念図で、図
2(1) はサンドイッチ型で2枚の母材鋼より貴な合せ材
2の間に分離剤3を介在させ、合せ材2を2枚の母材鋼
1で挟み、周囲をシールド溶接4したものである。図2
(2) はセミサンドイッチ型で母材鋼より貴な合せ材2と
ダミー鋼5との間に分離剤3を介在させ、合せ材2を母
材鋼1とダミー鋼5とで挟み、周囲をシールド溶接4し
たものである。図2(3) はサンドイッチ型で母材鋼1の
両面に母材鋼より貴な合せ材2を配し、合せ材2とダミ
ー鋼5との間に分離剤3を介在させ、母材鋼1とダミー
鋼5の周囲をシールド溶接4したものである。
【0020】いずれのコンポジットスラブも内部が外気
から遮断されているため、熱間圧延することによって、
母材鋼1と合せ材2は冶金的に接合され、かつ黒皮の形
成されない清浄な金属被覆層表面が得られる。さらに分
離剤3として窒化硼素を介在させているため、金属被覆
層表面には塗膜付着性の良いアンカーパターンが得られ
る。なお、母材鋼1と合せ材2との接合性が劣る場合
は、母材鋼1と合せ材2との間に、健全な接合性を確保
するためのインサート金属を適宜挿入する。
【0021】以下に、金属被覆層を有する厚鋼板の裸耐
食性、塗膜付着性および塗装後の耐食性について調査し
た結果に基づいて、本発明の限定理由について説明す
る。
【0022】まず、図2(1) に示す分離剤に窒化硼素を
使用したコンポジットスラブから圧延接合法によって被
覆量を変化させたNi被覆厚鋼板を製造し、これらのNi被
覆厚鋼板について24時間の塩水噴霧試験(JIS Z 2371)を
行い、試験後の被覆層表面の赤錆発生面積率に及ぼす被
覆量の影響を調査した。なお、コンポジットスラブの加
熱温度は1150℃で、総圧下比は10で、分離後のNi被覆厚
鋼板の厚みは12mmである。調査結果を図3に示す。
【0023】図3から明らかなように、被覆量が 250g/
m2以上になると赤錆が発生しないことがわかる。被覆量
が 250g/m2未満になると図4に示すように、圧延接合過
程で生じる被覆層厚のばらつきおよび分離剤の窒化硼素
の押し込みによるピット等の存在により、塩水噴霧試験
中、電解質溶液が直接母材鋼素地に接触するようになり
赤錆が発生するようになる。また、過度の被覆量の増量
は、従来の被覆層のない鋼板に比べて溶断性および経済
性の点で劣ってくるため、被覆量の上限は7500g/m2とす
る。したがって、被覆量は 250g/m2以上、7500g/m2以下
の範囲に限定する。
【0024】つぎに、一次(腐食試験前)および二次
(腐食試験後)塗膜付着性に及ぼす被覆層の表面粗度の
影響を調査した。供試材は分離剤の粒径、量および総圧
下比(圧延前のコンポジットスラブ厚/コンポジットの
圧延後の厚さ)を変化させて製造した各種表面粗度のNi
被覆厚鋼板を用いた。ただし、被覆量はいずれも 250g/
m2である。なお、コンポジットスラブは図2(1) に示す
形状で、コンポジットスラブの加熱温度は1150℃で、分
離後のNi被覆厚鋼板の厚みは12mmである。
【0025】腐食試験は海洋雰囲気を想定した図5に示
す塩水噴霧→乾燥→湿潤の工程を繰り返す複合サイクル
腐食試験で、腐食試験条件は複合サイクルを 120回繰り
返す促進条件とした。また、使用した塗装系は表4に示
すa仕様である。調査結果を表1に示す。
【0026】表1から、金属被覆層の表面粗度が Rz2〜
155 μm のいずれの場合も良好な一次塗膜付着性を示す
が、二次塗膜付着性を確保するには金属被覆層の表面粗
度をRz15〜70μm に制御する必要があることがわかっ
た。すなわち、金属被覆層の表面粗度が15μm 未満およ
び70μm 超えになると、JIS K 5400にしたがった碁盤目
付着性試験において二次塗膜付着性に劣るため組立後最
終的に塗装を施す鋼構造物への適用は困難である。した
がって、金属被覆層の表面粗度はRz15〜70μm の範囲に
限定する。
【0027】圧延した状態での金属被覆層の表面粗度を
Rz15〜70μm にするには、図6に示すように、分離剤に
粒径10μm 以下の窒化硼素を使用し、かつ総圧下比 3以
上、10以下で熱間圧延することが肝要である。また、分
離剤として使用する窒化硼素の量は、表2に示すよう
に、合せ材同士、または合せ材とダミー材との圧着防止
の観点から 5g/m2以上、200g/m2 以下とすべきである。
【0028】窒化硼素の粒径が10μm を超える場合は、
圧延後の金属被覆層の表面粗度がRz15〜70μm を満足し
なくなることがあり、二次塗膜付着性を阻害することに
なる。表2から窒化硼素の量が 5g/m2未満になると、圧
延後の合せ材同士、または合せ材とダミー材とが圧着す
ることがある。窒化硼素の量が200g/m2 を超えると、圧
延後の金属被覆層の表面粗度がRz70μm 以下を満足しな
くなり、二次塗膜付着性を阻害する。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】また、図6から窒化硼素の粒径が10μm 以
下で、窒化硼素の量が 5g/m2以上、200g/m2 以下であっ
ても、総圧下比が 3未満、10超えでは、金属被覆層の表
面粗度がおのおのRz15μm 未満、70μm 超えとなること
があり、いずれの場合も二次塗膜付着性を阻害する。し
たがって、合せ材と合せ材との間または合せ材とダミー
鋼との間に介在させる窒化硼素の粒径は10μm 以下で、
量は 5g/m2以上、200g/m2 以下に限定し、熱間圧延時の
総圧下比は 3以上、10以下の範囲に限定する。
【0032】さらに、塗装後の耐食性に及ぼす金属被覆
層の有無の影響を調査した。被覆量250g/m2 、表面粗度
Rz15〜30μm のNi被覆厚鋼板の表面に塗装を施し、図7
に示すように、塗膜のみに幅0.6mm の貫通人工疵を付与
した試験片と塗膜および被覆層に幅0.6mm の貫通人工疵
を付与した試験片を作製し、これらの試験片を海洋雰囲
気を想定した図5の複合サイクル腐食試験に供した。サ
イクル数は120 回で、塗装系は表4のa仕様である。
【0033】塗膜のみに付与した貫通人工疵は、塗膜の
劣化あるいは塗料層における疵やピンホール等の欠陥の
発生によって、環境遮断性がなくなった場合を想定した
ものであり、塗膜および金属被覆層に付与した貫通人工
疵は、架設時あるいは供用時に擦過や衝撃を受けて、母
材鋼素地が一部露出する疵が発生した場合を想定したも
のである。調査結果を図8に、それらの腐食孔断面を図
9に示す。
【0034】図8に示すように、従来の鋼素地に直接塗
装したものは、塗膜貫通の人工疵の直下の鋼部に幅方向
に 5.1mm、板厚方向に0.6mm 進展した腐食孔が認められ
る。一方、金属被覆層の表面に塗装を施したものは、人
工疵が塗膜および被覆層を貫通した場合においては、従
来の無被覆材に比べて腐食長さは幅方向および板厚方向
とも大幅に小さく、腐食の進展を顕著に遅らせる効果の
あることがわかった。この理由は以下のとおりである。
【0035】鋼素地に直接塗装した場合は、塗膜貫通の
疵から浸入する水分と酸素で鋼部が腐食し錆が発生する
が、その際の体積膨張による持ち上げで塗膜が容易に鋼
素地から剥離して新生面が現れる。錆による塗膜の持ち
上げが進むと塗膜は破断するようになるため、腐食孔へ
の酸素供給量が増えて、腐食反応量そのものが増大す
る。そのため、鋼部の表面方向および板厚方向への腐食
の進展速度が大きいものと考えられる。
【0036】一方、金属被覆層は塗料層に比べてはるか
に硬く、損傷しにくいため、鋼部を腐食環境から遮断し
て防食する。万一、金属被覆層を貫通する損傷を受けた
場合、露出した鋼部に錆が生じても、金属被覆層と鋼部
との接合力が、上述の塗料層と鋼部との付着力に比べて
極めて高いため、金属被覆層と鋼部との剥離は起こりに
くい。さらに、錆による金属被覆層の持ち上げが進んで
も、金属被覆層は塗料層に比べて破断しにくいため、鋼
素地に直接塗装された場合に比べて、腐食孔への酸素供
給量は少なく、腐食反応量も小さいものと考えられる。
【0037】また、図8から濡れや湿潤状態が繰り返さ
れる環境下においては、母材鋼より腐食電位が貴な金属
で被覆した場合でも、ガルバニック腐食の影響は極めて
小さいことが判明した。これは、ガルバニック腐食が顕
在化する浸漬状態に比べて、電解質溶液の膜厚が極めて
薄くなることに起因するものと考えられる。
【0038】以上のことから明らかなように、本発明に
よって金属被覆された厚鋼板は裸耐食性、塗膜付着性お
よび塗装後耐食性に優れているため、構造物の組立時お
よび飛沫帯、海洋大気部のような電気防食が効かない腐
食環境下に置かれても、優れた耐食性を発揮する。その
ため、一次プライマーの塗布および組立時の素地調整作
業を省略できるとともに、発錆面積を低減できることか
ら塗装を施され供用される鋼構造物において、部位によ
る塗膜劣化速度の平準化や全面塗替え間隔の長期化を図
ることができる。
【0039】
【実施例】以下に、本発明の実施例について説明する。
まず、分離剤に粒径 1〜10μm の窒化硼素を50g/m2使用
し、図2(1) のサンドイッチ型コンポジットスラブを使
用して、Rz15〜30μm の表面粗度を有する被覆量54g/m2
と 250g/m2のNi被覆厚鋼板および被覆量 350g/m2のSUS
316L被覆厚鋼板を製造した。なお、加熱温度は1150℃、
総圧下比は10、分離後の被覆厚鋼板の厚みは12mmであ
る。図10に 250g/m2のNi被覆厚鋼板の顕微鏡組織の一例
を示す。
【0040】これらの3種類の被覆厚鋼板から70mm幅×
150mm 長さの試験片を採取し、採取した試験片を金属被
覆面を無塗装状態で、週1回 5%NaCl水溶液を散布する
大気暴露試験を 270日行い、裸耐食性を調査した。な
お、比較例として、鋼板のブラスト面に2種類の一次プ
ライマー(ビニルブチ−ル樹脂系長暴形ウオッシュプラ
イマー、アルキルシリケート樹脂系ジンクリッチプライ
マー)をそれぞれ塗布した鋼板も同試験に加えた。その
結果を表3に示す。
【0041】表3から明らかなように、比較例のNo.3の
被覆量54g/m2のNi被覆厚鋼板および比較例No.4、5 の鋼
板のブラスト面に一次プライマーを塗布した鋼板には赤
錆の発生が認められた。これに対して、本発明の被覆量
250g/m2のNi被覆厚鋼板および被覆量 350g/m2のSUS 31
6L被覆厚鋼板には赤錆は発生していない。したがって、
本発明の土木建築構造用防錆厚鋼板は一次プライマー無
しでも従来の防錆方法を上回る裸耐食性を有している。
【0042】
【表3】
【0043】つぎに、上記の被覆量 250g/m2のNi被覆厚
鋼板および被覆量 350g/m2のSUS 316L被覆厚鋼板から70
mm幅×150mm 長さの試験片を採取し、採取した試験片の
金属被覆面に素地調整なしで塗装したのち、一部の試験
片には図7に示した人工疵を付与し、腐食試験を行い、
塗膜付着性および人工疵を付与した場合の塗装後の耐食
性について調査した。
【0044】塗装は表4に示す条件で行い、腐食試験は
図5に示した複合サイクル腐食試験を 120サイクル行っ
た。塗膜付着性はJIS K 5400にしたがった碁盤目テープ
試験で腐食試験前後について調べた。また、比較例とし
て、ブラスト処理により素地調整された表面に直接塗装
したものも同試験に加えた。その結果を表5に示す。
【0045】No.1〜4 の本発明の土木建築構造用防錆厚
鋼板は、圧延した状態で金属被覆面に酸化スケールは発
生しておらず、その表面粗度もRz15〜70μm の範囲内に
制御されているため、腐食試験前後における塗膜付着性
は良好であり、また、塗膜のみ貫通した人工疵が付いた
場合は、鋼部には錆は発生しない。
【0046】塗膜および金属被覆層を貫通して鋼板素地
が露出した人工疵が付いた場合には、同様に塗膜を貫通
して鋼板素地が露出した人工疵が付いた場合のNo.5〜7
の比較例に比べて、鋼部の鋼板表面方向および板厚方向
への腐食の進展が抑制されており、発錆量そのものも少
なくなっている。したがって、本発明の土木建築構造用
防錆厚鋼板は素地調整なしで従来の防錆方法と同等の塗
膜付着性を有し、さらに従来の防錆方法よりも優れた塗
装後の耐食性を有している。
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】つぎに、上記の被覆量 250g/m2のNi被覆厚
鋼板について、溶接継手部の塗装後の耐食性を調査し
た。なお、厚さは12mmである。溶接継手は母材鋼側をサ
ブマージアーク溶接で、金属被覆側を逆極性プラズマア
ーク溶接で、共金系の溶接材料を用いて製作した。この
溶接継手材から70mm幅×150mm 長さの試験片を採取し、
採取した試験片の金属被覆面に素地調整なしで塗装した
のち、溶接熱影響部に図11に示す人工疵を付与し、腐食
試験を行い、人工疵を付与した場合の塗装後の耐食性に
ついて調査した。
【0050】塗装は表4に示すa仕様で行い、腐食試験
は図5に示した複合サイクル腐食試験を 120サイクル行
った。また、比較例として、鋼板を共金溶接材料でサブ
マージアーク溶接して溶接継手を製作し、この溶接継手
材から70mm幅×150mm 長さの試験片を採取し、採取した
試験片の表面を素地調整したのち、表4に示すa仕様で
塗装し、溶接熱影響部に塗膜貫通の人工疵を付与したも
のも同試験に加えた。その結果を表6に示す。
【0051】No.2の比較例の溶接継手においては、塗膜
貫通の人工疵の直下に幅方向の長さが 5.6mmで板厚方向
の長さが 0.7mmの腐食孔が生じた。これに対して、No.1
の本発明例の溶接継手においては、塗膜のみ貫通の人工
疵がついても、鋼部に発錆は認められなかった。熱影響
部の金属被覆層を貫通する人工疵が付いて鋼部が露出し
た場合では、No.2の比較例と比べて鋼部の鋼板表面方向
および板厚方向への腐食の進展が抑制され、発錆量その
ものも大幅に少なくなっている。したがって、本発明の
土木建築構造用防錆厚鋼板は一般部のみならず溶接継手
部においても、従来の防錆方法より高い塗装後の耐食性
を有している。
【0052】
【表6】
【0053】
【発明の効果】本発明は、圧延接合法により厚鋼板の表
面に、被覆量が 250g/m2以上、7500g/m2以下で、かつ表
面粗度がRz15μm 以上、70μm 以下のNiまたはオーステ
ナイト系ステンレス鋼の金属被覆層が形成されている土
木建築構造用防錆厚鋼板の製造方法であって、本発明に
よる土木建築構造用防錆厚鋼板は優れた裸耐食性、塗膜
付着性および塗装後の耐食性を有しているため、従来の
一次プライマーの塗布作業および構造物の本塗装時の素
地調整作業が省略できるとともに、電気防食が効かない
厳しい腐食環境下で供用されても防食に係わるメンテナ
ンスそのものを軽減でき、大きな経済効果を発揮するも
のである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の防錆厚鋼板の層構成の説明図である。
【図2】本発明の防錆厚鋼板を製造するためのコンポジ
ットスラブの概念図である。
【図3】塩水噴霧試験後の被覆層表面の赤錆発生面積率
に及ぼす被覆量の影響を示す図である。
【図4】250g/m2未満のNi被覆厚鋼板の顕微鏡金属組織
の一例を示す図である。
【図5】複合サイクル腐食試験の説明図である。
【図6】金属被覆層の表面粗度に及ぼす総圧下比および
分離剤の粒度の影響を示す図である。
【図7】腐食試験に用いた人工疵のタイプを示す図であ
る。
【図8】腐食試験後の人工疵のタイプと腐食状態を示す
図である。
【図9】腐食試験後の腐食孔断面を示す金属組織図であ
る。
【図10】250g/m2のNi被覆厚鋼板の顕微鏡金属組織の
一例を示す図である。
【図11】溶接継手部の腐食試験に用いた人工疵のタイ
プを示す図である。
【符号の説明】
1…母材鋼、2…合せ材、3…分離剤、4…シールド溶
接、5…ダミー鋼、a…金属被覆層、b…母材鋼、c…
塗料層。
フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C23C 26/00 B21B 1/22 B23K 20/04 B32B 15/01

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 防錆鋼板の製造に際して、母材鋼とNiま
    たはオーステナイト系ステンレス鋼の合せ材とからなる
    サンドイッチ型およびセミサンドイッチ型コンポジット
    スラブにおいて、前記合せ材と合せ材との間または合せ
    材とダミー鋼との間に、粒径10μm 以下の窒化硼素を 5
    g/m 2 以上、200g/m 2 以下介在させ、このコンポジットス
    ラブを総圧下比 3以上、10以下で熱間圧延し、その後、
    窒化硼素が介在する面で合せ材と合せ材または合せ材と
    ダミー鋼を分離した状態で、前記母材鋼の表面に、被覆
    量が 250g/m 2 以上、7500g/m 2 以下で、かつ表面粗度がRz
    15μm 以上、70μm 以下のNiまたはオーステナイト系ス
    テンレス鋼の金属被覆層が形成されていることを特徴と
    する土木建築構造用防錆厚鋼板の製造方法
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