JP3020930B1 - フェニルボロン酸基を含む高分子によりコーティングされた培養床を用いた、初代肝細胞のスフェロイド形成および長期培養を可能とする、培養方法、培養床およびコーティング剤 - Google Patents

フェニルボロン酸基を含む高分子によりコーティングされた培養床を用いた、初代肝細胞のスフェロイド形成および長期培養を可能とする、培養方法、培養床およびコーティング剤

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Abstract

【要約】 【課題】 初代肝細胞のスフェロイド形成および長期培
養を可能とする技術を開発する。 【解決手段】 フェニルボロン酸基を含む高分子により
コーティングされた培養床を提供する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、初代肝細胞のスフ
ェロイド形成および長期培養を可能とする、フェニルボ
ロン酸基を含有するモノマー、アミノ基を含有するモノ
マー、及び2ーヒドロキシエチルメタクリレートの共重
合体からなる高分子物質をコーティングしたシャーレを
用いた細胞培養方法に関する。
【0002】
【従来の技術】機能低下や障害を起こしている臓器に対
して、本来の機能発現を取り戻すための組織再生技術の
開発は、現在の臓器移植に代わる医療として重要な課題
である。例えば、肝臓は解毒作用や血清中のタンパク質
を合成するなどの機能を持つ大切な臓器であるが、肝機
能障害を起こした場合、その機能を再生することは容易
ではない。細胞培養のレベルで見た場合にも、従来、正
常細胞である初代肝細胞は継代培養が困難で、培養開始
5日目以降より機能低下を引き起こす。
【0003】従って、初代肝細胞の機能を長期に維持し
ながら培養する技術の開発は、薬物の毒性評価を動物実
験に頼らず細胞レベルの初期のスクリーニング法により
行うことが可能となるばかりではなく、体外循環回路に
よる人工肝臓や体内での肝細胞組織構築化を実現する手
段として重要な領域となってきている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】組織を再生させる技術
としては、細胞外マトリックスや各種細胞の増殖因子な
どの生理活性物質を利用した組織再生技術が研究されて
いるが、人工臓器材料による細胞の組織構築の誘導も大
切な研究課題である。それは、人工材料の組成、分子量
などの制御が可能であるばかりでなく、大量生産などに
おいて容易で、有利であるからである。肝組織において
そのような課題を達成するためには、肝実質細胞の組織
構築と5日以上の長期培養を可能とする技術の確立が必
須となる。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記で述べたように、初
代肝細胞の組織構築を誘導し、機能を維持させるための
環境を提供できる人工材料の開発は、再生医学において
大切な研究課題である。発明者らは、これまでにグルコ
ースのようなジオール化合物と結合する性質を持つフェ
ニルボロン酸基を高分子側鎖に導入し、細胞膜表面の糖
鎖と特異的に相互作用を起こす人工材料を目指して、こ
の材料上での血管内皮細胞の培養とその細胞の応答性に
ついて検討してきた。合成した人工材料はフェニルボロ
ン酸基と3級アミノ基を有し、この材料表面上で培養し
た血管内皮細胞が管腔形成を誘導することを見出した。
【0006】そこで、肝実質細胞において組織再生を誘
導できる高分子材料を目指して、次のような特長を持つ
共重合体を合成した。 (1)細胞膜表面の糖鎖と特異的に相互作用を起こすフ
ェニルボロン酸基を高分子側鎖に導入した。このフェニ
ルボロン酸基は、グルコースのようなジオール化合物と
結合する性質を持ち、細胞への特異的なシグナルを送り
細胞の組織構築を誘導することが期待される。そのよう
な目的で、メタクリルアミドフェニルボロン酸(MP
B)を用いた。 (2)フェニルボロン酸基と細胞表面の糖鎖との相互作
用を効率よく生起させるために、3級アミノ基を有する
N−(3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド
(DPA)を導入した。 (3)水溶液中で安定した製膜性を維持するために、生
体適合性の高い2ーヒドロキシエチルメタクリレート
(HEMA)を導入した。
【0007】組織構築を実現するために、これらのモノ
マーの親水性−疎水性そしてフェニルボロン酸基−アミ
ノ基の良好なバランスを鋭意工夫して見出し、この共重
合体が初代肝実質細胞で特異的なシグナルを送り、組織
構築を誘導し、細胞の機能を維持したまま30日以上の
長期培養を可能とする材料を開発した。
【0008】
【実施例】(ポリマーの合成)本研究で用いた各ポリマ
ーの構造式を図1に示した。各ポリマーの仕込比、重合
溶媒、モノマー濃度を表1に示した。各ポリマーは、モ
ノマーを所定の溶媒に溶解し重合管内で真空脱気して封
管した後、重合した。開始剤の濃度を5mMとし、70
℃、3.5時間で反応させた.その後、ジエチルエーテ
ルを用いて2回再沈殿した。
【0009】
【表1】
【0010】(ポリマーの解析) (1)過塩素酸/ 酢酸0.05N非水滴定 ポリマーの共重合比を決定するために、過塩素酸/酢酸
非水滴定によりアミノ基の含量を算出した。サンプルは
仕込比から換算して、ポリマー中のアミンユニットが約
0.1mmolに相当する量のポリマーを10mlの溶
媒に溶解し非水滴定を行った。3元系のポリマーはエタ
ノール、それ以外のポリマーはメタノールに溶解し非水
滴定を行った。 (2)合成ポリマーの1 H−NMR測定 ポリマーの共重合比を確認するために、1 H−NMR測
定を行った。3元系のポリマーは重水素化エタノール、
それ以外のポリマーは重水素化メタノールで測定した。
【0011】(合成ポリマーの組成比と収率)各ポリマ
ーの組成比と収率を表1に示した。ポリマー名は、コモ
ノマーであるHEMAのH、ボロン酸基のB、そして、
アミノ基のAをそれぞれとった。なお、PHEMAは、
HEMAのホモポリマーである。3元系であるHAB
は、ボロン酸基が10.0mol%そして、アミノ基が
6.6mol%含まれており、2元系であるHBとHA
は、ボロン酸基とアミノ基をそれぞれ9.2mol%と
8.3mol%含んでいた。
【0012】(ポリマーキャスト膜の作成)0.5wt
%のポリマー溶液を作り、シリンジフィルターでろ過し
た。窒素袋内で、乾燥窒素を流し込みながら、直径35
mmのシャーレ中に0.2mlのポリマー溶液を注ぎ静
置した。用いた溶媒を表1に示した。シャーレの蓋をか
ぶせたままで窒素袋中で一晩乾燥させた後、減圧乾燥器
で一晩乾燥させた。なお、溶媒雰囲気下にするために溶
媒を満たしたビーカーと乾燥剤として塩化カルシウムを
置いてこれらの操作を行なった。
【0013】(ポリマーキャスト膜の表面解析) (1)静的接触角測定 上記の方法により作成したそれぞれのポリマーコートシ
ャーレを約2×3cmの大きさに切断し、再度減圧乾燥
器で一晩十分に乾燥させ、これを静的接触角用のサンプ
ルとした。室温下で超純水(1滴)をサンプル表面上に
滴下し、表面の水に対する静的接触角を14秒間に1秒
ごと測定した。測定は、接触角測定装置で行った。 (2)Electron Spectrometry
for Chemical Analysis (ESC
A) 測定 それぞれのポリマー膜をコートしたシャーレを約2cm
2 に切断し、減圧乾燥器で一晩乾燥させた後、ESCA
測定装置により膜表面近傍付近の元素分析を行なった。
【0014】(ポリマーのキャスト膜表面の物性) (1)ポリマーキャスト膜の静的接触角測定 室温下、超純水の水滴をポリマー膜表面に滴下してか
ら、14秒間の水に対する静的接触角を、1秒ごとに測
定した。その結果を図2に示した。いずれのポリマー膜
表面も、コーティングしていない培養シャーレ(TC)
表面より親水性であった。HA膜表面は、調製したキャ
スト膜の中で最も親水性を示した。これは、導入された
アミノ基のプロトン化によるものと考えられる。総じて
HAB,HBそしてPHEMA表面は比較的同じ接触角
の値を示した。これは、主成分であるHEMAの性質が
現れているものと思われる。しかし、HB膜は、PHE
MA膜よりもやや疎水性表面であった。これは、疎水性
のボロン酸基モノマーであるMPBAの性質が表面に反
映されたものと考えられる。HAB膜表面は経時変化に
伴い親水性を示した。これは、アミノ基の効果によるも
のと考えられるが、ボロン酸基の疎水性も反映してお
り、HA表面ほど親水性にはならなかった。 (2)ESCAによるポリマーキャスト膜表面近傍のホ
ウ素元素分析 表2に示した通り、ボロン酸基を含むポリマーのキャス
ト膜表面近傍にホウ素が確認されたことから膜の表面近
傍にボロン酸が存在していることを確認した。
【0015】
【表2】
【0016】(ラット肝細胞の初代培養) (滅菌操作)上記作成したポリマーをコーティングした
シャーレを、エチレンオキサイドガス滅菌処理して細胞
培養床として用いた。その他の器具、例えば培地保存用
ギアマン瓶などは、それぞれアルミホイルを巻きオート
クレーブで20分間加熱、加圧滅菌1atm/120℃
の後、乾熱滅菌を160℃/60分間行ってから使用し
た。また、乾熱滅菌に耐えられない灌流用チューブなど
はオートクレーブのみとし、また、手術用のガーゼは、
160℃, 30分間乾熱滅菌とした。
【0017】(ラット肝細胞培養の種々の溶液の調製) (1)Williams’E培地の調製 滅菌水にWilliams’E培地(GIBCO) 1
袋、硫酸カナマイシン(山之内製薬, 最終濃度:50m
g/l)、セファメジン (藤沢薬品工業, 最終濃度:2
5mg/l)、プロリン( 最終濃度、30mg/l) 、
アスコルビン (最終濃度、0.2mM)を加え、メイロ
ン(7%w/v炭酸水素ナトリウム注射液、大塚製薬)
31.4mlを添加した。さらに滅菌水を加えて全量を
1lとし、メンブレンフィルターを用いて濾過滅菌し
た。 (2)合成培地の調製 5%のウシ胎児血清 (FCS,GIBCO) 、インシュ
リン(最終濃度:10 -7M)、デキサメサゾン( 最終濃
度:10-8M)、ニコチン酸アミド(244mg)をメ
スシリンダーに入れ、Williams’E培地を加え
て全量を200mlとした。これをメンブレンフィルタ
ーを通して濾過滅菌した。その後、Epidermal
Growth Factor(EGF、湧永製薬・最
終濃度:10ng/ml)と、アプロチニン (トラジオ
ール, BAYER・最終濃度:5U/ml) を加えた。 (3)MEM培地の調製 MEM培地(日水製薬)9.4gを再蒸留滅菌水に入れ
て溶かした。メイロン25ml、グルタミン(最終濃
度:292mg/l)を入れ、滅菌水を加えて全量を1
000mlとした。その後、メンブレンフィルターを通
して濾過滅菌した。 (4)PBS(−)の調製 PBS粉末(日水製薬)9.6gを滅菌水1lに溶解さ
せ、メンブレンフィルターを用いて濾過滅菌した。 (5)0.05%トリプシン−0.02%EDTA溶液 0.05%トリプシン−0.02%EDTA生理食塩水
溶液 (GIBCO)10mlをPBS(−)で100m
lに希釈し、ボトルトップフィルターで濾過滅菌した。
【0018】(ラット肝細胞の単離と初代培養)肝細胞
の単離はSeglenらのコラゲナーゼ灌流法を用いて
行った。単離した肝実質細胞を合成培地に懸濁させ、
1.5mlずつ1枚のシャーレに播種した。これらを、
37℃、5%CO2 インキュベーター内で培養した。培
地交換は、播種後1日目に培地をガラスの綿栓つきパス
ツールピペットで吸い取り、新しい培地をピペットでゆ
っくりと1ml注いだ。その後は3日後、6日後に0.
5mlの培地を1mlのピペットで吸い取り、新たに
0.5mlの培地を加えることにより交換を行なった。
その後は、4日毎に0.5mlの培地を新たに交換し
た。
【0019】(初期接着率の測定)単離した肝細胞をポ
リマーキャスト培養床上に3×104 cells/cm
2で播種し、接着した細胞を所定時間後に測定した。ま
ず、浮遊している細胞を取り除くために、シャーレ上の
培養液を吸い取った。37℃に温めたトリプシンEDT
A溶液を1mlずつ培養床に注ぎ、37℃で5分間イン
キュベートした後、細胞を懸濁させて試験管に移した。
シャーレ上に残っている細胞を集めるため、さらに1m
lの血清を含んだ培養液をシャーレに注ぎ懸濁させたあ
とで、同じ試験管に懸濁液を集めた。その溶液の細胞数
を血球計算盤を用いて計測し、シャーレ当たりの細胞数
を求めた。
【0020】前述の表2に、細胞播種24時間後の細胞
の初期接着率を示した。ポリマーをコートしていないシ
ャーレ上には、細胞は100%の接着率を示した。ボロ
ン酸基とアミノ基を有する3元系ポリマーであるHAB
は、約91%の高い接着率を示し、ボロン酸基のみを有
する2元系のポリマーHBは、76%の接着率であっ
た。ボロン酸基の多価水酸基化合物との相互作用は平衡
反応であり、フェニルボロン酸基のpKaであるpH
8.6以上で有効に相互作用する。従って、生理条件下
の培養では、HB表面のボロン酸基と細胞表面の糖鎖と
の相互作用が効率良く生起せず、比較的低い接着率を示
したものと考えられる。しかし、3級アミノ基を共存さ
せるとpH7付近でもボロン酸基は水酸基化合物と安定
に相互作用することから、培養条件下においても3元系
のHAB上のボロン酸基と細胞表面の糖鎖との相互作用
が起こり、HB上の接着率より高い接着性を示した。ア
ミノ基を含んだ2元系ポリマーのHA表面では、ポリマ
ー表面の親水性が細胞接着を抑制した。すなわち、ポリ
マー表面のカチオン的性質と細胞表面との静電的相互作
用を介した細胞接着が誘導されていないことが分かっ
た。このことから、HAB上の細胞接着は、含まれてい
るアミノ基による静電的相互作用でないことを現してい
る。HABとHBは、ともにHEMAを主な成分として
含み、静的接触角の値もPHEMAとほとんど変わりの
ないことを考慮すると、材料間により認められた細胞の
接着性の違いは、材料表面の物理化学的性質に依存した
のではなく、フェニルボロン酸基が細胞表面への結合サ
イトとして働いた結果と考えられる。
【0021】(フェニルボロン酸基含有ポリマー上の細
胞増殖性)肝細胞をポリマーキャスト培養床上に3×1
4 cells/cm2 で播種し、培養開始1日後から
4日後にディッシュ上に接着している細胞を計測し、増
殖曲線を図3に示した。細胞の増殖が認められたのが、
コーティングしていない培養シャーレ(TC)上とPH
EMA上で培養された細胞であった。PHEMA表面上
への細胞の初期接着率が低かったものの、TC上の細胞
と同じ増殖性を示した。一方で、HAB,HB,HAの
ポリマー上の細胞の増殖性は、低く抑えられていた。従
って、これらポリマー上で培養した細胞が分化相に位置
していることが示唆された。
【0022】(フェニルボロン酸基含有ポリマー上での
ラット肝細胞の形態変化)位相差顕微鏡により経時的な
肝細胞の形態変化を観察した。 (HABコーティング)播種2時間後に伸展した細胞が
観察された。播種6〜16時間後には接着している細胞
の半分が1個の丸い形態や、細胞数個からなる小さな塊
になっているのが観察された。播種後24時間後では、
ほぼすべての細胞が1 個の丸い形態の細胞や、細胞数個
からなる小さな塊として観察された。3日後には、明ら
かな細胞の多層集合体が形成された。図4にHAB上に
おける培養5日後の位相差顕微鏡写真を示す。この多層
集合体は、30日間以上にわたって安定に存在した。
【0023】(HBコーティング)播種1時間後には細
胞同士で少し凝集していた。播種4時間後には、伸展し
た細胞が観察された。しかしながら、播種6時間後には
1個の丸い形態の細胞や、細胞数個からなる小さな凝集
塊が観察された。播種7時間後では観察される塊が少し
大きくなる一方で、伸展している細胞も観察された。1
6時間後では、伸展した細胞をより多く観察した。24
時間後には、再び1個の丸い形態の細胞や、細胞数個か
らなる小さな塊が観察された。2日目には、細胞は1日
目より大きい塊が観察され、その塊のシャーレ表面との
接着部分が少し伸展していた。HABと同様に3日後に
多層集合体が形成され、30日間以上にわたって安定に
シャーレ上に存在した。図5にHB上における培養5日
後の位相差顕微鏡写真を示す。
【0024】前述した通り、ボロン酸基と多価水酸基と
の相互作用は平衡反応に基づいている。また、ボロン酸
基のpKaが8.6であることから、生理pH条件下に
おいては、この両者の相互作用は有利に働かない。従っ
て、HB上の細胞は少ない結合点でポリマー表面と接着
しているものと考えられる。その不安定な結合による接
着を、安定な接着とするために、細胞自身が伸展形態と
球状形態を繰り返し、足場作りをしていたと考察され
る。これに対し、HAB上の細胞は、アミノ基の存在に
よりボロン酸基と細胞表面の糖鎖との相互作用が安定に
起こり、特異的な刺激を受けて球状の接着形態を示した
と考えられる。
【0025】(HAコーティング)播種2時間後、伸展
した細胞が観察された。7時間後には半数以上の細胞が
接着し伸展形態を示した。播種後24時間後にも、細胞
が伸展した接着形態を示していた。5日目においてHA
は伸展した状態を保っている部分と、伸展した細胞が単
層のシートで剥がれて凝集し、再びシャーレ表面に接着
した部分が観察された。図6にHA上における培養5日
後の位相差顕微鏡写真を示す。
【0026】(PHEMAコーティング)播種2時間後
は、少し凝集した状態で観察された。播種4時間後に
は、伸展した細胞が観察された。24時間後には、伸展
形態と凝集形態をとった細胞が観察された。2日目には
培養床のどの部分の細胞も伸展形態を示した。コーティ
ングしていない培養シャーレ(TC)と同様に5日目か
ら非実質細胞が観察されるようになり、8日目の培地交
換で細胞が剥離した。図7にPHEMA上における培養
5日後の位相差顕微鏡写真を示す。
【0027】(ラット初代肝細胞のアルブミン分泌量の
測定) (各種試薬の調製) (1)0.1Mリン酸緩衝溶液 (pH7.4) リン酸二水素ナトリウム1.56gを全量が100ml
になるように精製水に溶解させ0.1Mのリン酸水素二
ナトリウム溶液を調製した。また、リン酸水素二ナトリ
ウム17.9gを全量が500mlになるように精製水
に溶解させて0.1Mのリン酸水素二ナトリウム溶液を
調製した。0.1Mリン酸水素二ナトリウム溶液390
mlに、0.1Mリン酸水素二ナトリウム溶液を混合し
てpH7.4に調整した。 (2)0.15M塩化ナトリウム水溶液 塩化ナトリウム8.77gを全量が1000mlになる
ように精製水に溶解させた。 (3)0.1Mトリス塩酸溶液 (pH8.0at4℃) トリス12.1gを全量が1000mlになるように精
製水に溶解させた溶液を、4℃に保ちながら0.1M塩
酸を用いてpH8.0に調整した。 (4)50mMクエン酸ーリン酸緩衝溶液 (pH5.
0) クエン酸1.57gを全量が150mlになるように精
製水に溶解させ50mMクエン酸水溶液を調製した。リ
ン酸水素二ナトリウム5.37gを全量が300mlに
なるように精製水に溶解させ50mMリン酸水素二ナト
リウム溶液を調製した。50mMリン酸水素二ナトリウ
ム溶液250mlに50mMクエン酸水溶液を加えpH
5.0に調整した。 (5)Assay buffer 0.1Mリン酸緩衝溶液 (pH7.4)200mlに等
量の精製水を加え0.5mMリン酸緩衝溶液 (pH7.
4)400mlとし、これに0.88w/v%のゼラチ
ン(国産化学)を加え電子レンジで軽く加熱してゼラチ
ンを溶かし、0.04gのチメロザール (Sodium
Ethylmercurithiosalicyla
te)(SIGMA)を加えた。 (6)ペルオキシダーゼ結合抗ラットアルブミンウサギ
IgG画分(anti−albumin−POX,Ca
ppel) anti−albumin−POXを蒸留水に3mg/
mlになるように溶解し、0.5mlずつ分注して冷凍
庫内で保存した。使用時に、Assay buffer
で6000倍に希釈して0.5mg/mlにして用い
た。 (7)基質溶液 50mMクエン酸ーリン酸緩衝溶液(pH5.0)10
0mlに250mgのo−フェニレンジアミン(和光純
薬工業)(2.5mg/ml)を加えよく攪拌して溶解
させた後、50μlの31%過酸化水素水溶液(和光純
薬工業)(0.5μl/ml)を加えたものを用時調製
し使用した。 (8)1.5N硫酸水溶液 濃硫酸12mlを精製水で300mlに希釈した。
【0028】(抗体ビーズの作製)ポリスチレンビーズ
(積水化学工業)は水でよく洗い、次にメタノールで洗
い再び蒸留水で洗浄したものを用いた。抗ラットアルブ
ミンIgG画分(Cappel)を0.1Mトリス塩酸
溶液 (pH8.0at4℃)で50〜10μg pro
tein/mlに調整し、ポリスチレンビーズ(4個ビ
ーズ/ml)を加えた。室温で攪拌しながら脱気操作を
2時間行った後、冷蔵庫内で一晩攪拌させ、0.15M
塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄した後、Assay
buffer中に入れ冷蔵庫内で保存した。
【0029】(アルブミン分泌量の測定用のサンプル調
整) (1)無血清培地の調整 インシュリン (10-7M)、デキサメサゾン (10
-8M)、ニコチン酸アミド(244mg) をメスシリン
ダーに入れ、Williams’E培地を加えて全量を
200mlにし、十分攪拌した。これをメンブレンフィ
ルターを通して濾過滅菌した。その後、EGF(10n
g/ml)と、アプロチニン(5U/ml)を加えた。 (2)アルブミン分泌量の測定用のサンプル調整 前述の無血清培地を所定時間培養したシャーレ上に1m
l注いで一定時間インキュベートしたものを、Assa
y bufferで任意の倍率で希釈することにより測
定に用いた。 (3)ラットアルブミンの標準溶液の調製 ラットアルブミンの希釈系列 (0,10,50,10
0,500、1000、5000ng/ml)をAss
ay bufferを用いて調製した。 (4)アルブミン分泌量の測定 試験管にあらかじめ500μlのAssay buff
erを加えておき、サンプルもしくは標準溶液を50μ
l、作製した抗体ポリスチレンビーズを1個入れ蓋をし
て、冷蔵庫内で一晩ゆっくりと攪拌した。水流アスピレ
ーターを用いて溶液を吸引除去後、0.15M塩化ナト
リウム水溶液2mlを勢いよく注入し、再び水流アスピ
レーターを用いて溶液を吸引するという操作を4回繰り
返しビーズを洗浄した。上記調製したanti−alb
umin−POXを500μl加え、冷蔵庫内で3時間
ゆっくりと攪拌した。再び0.15M塩化ナトリウム水
溶液を用いて4回ポリスチレンビーズを洗浄した後、ガ
ラスの試験管にビーズを移し基質溶液を500μl加え
約20℃で30分間静置した。その後1.5N硫酸水溶
液を正確に3mlずつ加え酵素反応を停止した後、マイ
クロプレートリーダーを用いて492nmの吸光度を測
定した。
【0030】(アルブミン分泌定量)細胞培養開始5日
目と30日目のラット肝細胞から分泌されたアルブミン
の量を測定した。図8に、5日目の培養細胞からのアル
ブミン分泌の定量の結果を示した。ボロン酸基を含んだ
HABとHB上の細胞は、高いアルブミン分泌量を示し
たのに対し、HA, PHEMAそしてコーティングして
いない培養シャーレ(TC)上の細胞からは低いアルブ
ミン分泌量が認められた。細胞増殖が低く抑えられてい
たことと、接着形態は多層集合体を形成していたことか
ら、HABとHB表面はラット初代肝細胞をスフェロイ
ド形成に誘導する機能を発現することが分かった。HA
上の細胞は、同様に増殖性が低く、多層集合体を一部形
成していたものの、このアルブミン定量の結果から、機
能を維持したスフェロイド形成に至っていないことが明
らかになった。また、細胞の明らかな増殖性と伸展形態
を示していたその接着形態から、PHEMAそしてTC上
の細胞は、機能分化への変化を示さなかった。
【0031】図9に、長期培養した場合のアルブミン分
泌量の定量を行った。3元系の共重合体であるHAB上
の肝細胞は、30日間の長期にわたって高いアルブミン
分泌量が認められ、機能を維持していた。この後培養を
継続したところ、95日間はこのアルブミン産生能を維
持していた。また、2元系のHB上の細胞もHAB上の
細胞と比較すると低い値であったが、アルブミン分泌が
維持されていることが認められた。TCとPHEMA上
で培養された細胞は、2週間後には脱着し、長期培養で
の機能評価をすることが不可能であった。HA上では、
接着した細胞が不安定で、培地交換をした際にシャーレ
中央に接着していた細胞が脱着し、機能評価を議論する
ことが困難であった。30日間の長期培養で安定にスフ
ェロイドを形成し、アルブミン分泌能を維持していたの
は、ボロン酸基を有するポリマーだけであった。
【0032】
【発明の効果】本発明により、フェニルボロン酸基を含
有するモノマー、アミノ基を含有するモノマー、及び2
ーヒドロキシエチルメタクリレートの共重合体からなる
高分子物質をコーティングしたシャーレを用いることに
より、初代肝細胞のスフェロイド形成および30日以上
の長期培養が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に関与するコポリマーの化学構造式。
【図2】ポリマーコートシャーレ表面の静的接触角値の
経時変化。
【図3】それぞれのポリマー表面上において培養された
ラット肝細胞の増殖。
【図4】HABコートシャーレ表面上において5日間培
養されたラット肝細胞の形態の、位相差顕微鏡写真。
【図5】HBコートシャーレ表面上において5日間培養
されたラット肝細胞の形態の、位相差顕微鏡写真。
【図6】HAコートシャーレ表面上において5日間培養
されたラット肝細胞の形態の、位相差顕微鏡写真。
【図7】PHEMAコートシャーレ表面上において5日
間培養されたラット肝細胞の形態の、位相差顕微鏡写
真。
【図8】それぞれのポリマー表面上において5日間培養
されたラット肝細胞における、アルブミン分泌。
【図9】それぞれのポリマー表面上において長期培養を
おこなったラット肝細胞における、アルブミン分泌。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 片岡 一則 千葉県柏市大室1083−4 柏ビレッジ 141−9 (72)発明者 緒方 直哉 東京都杉並区阿佐ヶ谷北6丁目29番6号 (72)発明者 讃井 浩平 東京都世田谷区若林4丁目29番8号 (72)発明者 青木 隆史 神奈川県川崎市宮前区土橋3丁目24番8 −6号 (72)発明者 廣山 麻美 千葉県八千代市勝田台3丁目32番6号 (56)参考文献 特開 平6−339367(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12N 1/00 - 7/08 C12M 1/00 - 3/10 BIOSIS(DIALOG) WPI(DIALOG)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 初代肝細胞の30日以上の培養維持を可
    能とする、フェニルボロン酸基を含有するモノマー、ア
    ミノ基を含有するモノマー、及び2ーヒドロキシエチル
    メタクリレートの共重合体からなる高分子物質をコーテ
    ィングした培養床を用いた、初代肝細胞の培養方法。
  2. 【請求項2】 初代肝細胞を30日以上培養しても、細
    胞がアルブミン分泌作用を維持することを可能とする、
    請求項1記載の初代肝細胞の培養方法。
  3. 【請求項3】 初代肝細胞の培養床であって、フェニル
    ボロン酸基を含有するモノマー、アミノ基を含有するモ
    ノマー、及び2ーヒドロキシエチルメタクリレートの共
    重合体からなる高分子物質によりコーティングされてい
    る、培養床。
  4. 【請求項4】 初代肝細胞の培養床に用いるコーティン
    グ剤であって、フェニルボロン酸基を含有するモノマ
    ー、アミノ基を含有するモノマー、及び2ーヒドロキシ
    エチルメタクリレートの共重合体からなる高分子物質か
    らなるコーティング剤。
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