JP2967982B1 - 耐熱性潤滑油組成物 - Google Patents

耐熱性潤滑油組成物

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政美 南
藤井  健次
祥伸 藤井
民生 赤田
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株式会社先進材料利用ガスジェネレータ研究所
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Abstract

【要約】 【課題】 ポリフェニルエーテル固有の耐熱性および耐
酸化性の長所を有し、かつ摩耗防止性に優れた潤滑油で
あり、しかも低流動点で粘度指数が低いという特性を有
する耐熱性潤滑油を提供することである。 【解決手段】 芳香環を3〜6個、好ましくは4個の芳
香環を有するポリフェニルエーテルまたはその炭化水素
置換体と、下記の式で表わされるジフェニルチオエーテ
ルとの混合物からなる耐熱性潤滑油組成物とする。 (式中、R1 およびR2 は水素原子または炭素数1〜2
4の炭化水素基であり、R1 およびR2 は互いに同一で
あっても相異なるものであってもよい。)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、耐熱性潤滑油組
成物に関し、さらに詳しくは、ポリフェニルエーテルと
ジフェニルチオエーテルとの混合油からなり、ジェット
エンジン、ガスタービンまたはターボエンジンに適用で
きる耐熱性潤滑油組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、機械装置および動力装置などの技
術進歩による高性能化および高効率化に伴って、過酷な
使用条件に耐える高品質の潤滑油が要求されている。例
えば、ジェットエンジン、ガスタービン、ターボエンジ
ンなどの高温で運転される装置類においても、より優れ
た耐熱性および耐酸化性の潤滑油が不可欠なものになっ
ている。
【0003】また、国際的石油備蓄量の減少、地球環境
保護の観点から、熱効率の向上、小型軽量化、NOX
出量を削減したガスジェネレータの開発が要望されてい
る。これに伴い、転がり軸受の仕様も過酷なものとな
り、高温(200〜400℃)かつ高速(dn値240
〜400万)条件下での運転が必要となってきている。
【0004】たとえば、ジェットエンジン油の基油とし
て、ペンタエリスリトールやトリメチロールプロパンの
ようなヒンダードアルコールと脂肪酸とのエステルが提
案され、規格化された潤滑油も市販されている(例え
ば、規格としてMIL−L−23699Cなどがあ
る)。さらに高度の耐熱性、耐酸化性を有する耐熱性潤
滑油としては、2〜6個の芳香環を酸素原子で結合した
構造のポリフェニルエーテルが提案されている。
【0005】しかしながら、ポリフェニルエーテルは、
流動点が高く粘度指数が低く、摺動面に摩耗損失を起こ
す場合がある等の難点があり、特に過酷な潤滑条件で使
用されるエンジン内擦動面では摩耗損失を抑制する必要
があるなど、潤滑油として改良すべき点を有していた。
【0006】ポリフェニルエーテルにアルキル基を付加
すると、流動点、粘度指数、引火点などの物性を改良す
ることができるが、耐熱性や耐酸化性が低下するという
問題が生じ、全ての問題を解決することはできなかっ
た。
【0007】このような背景のもとに、ポリフェニルエ
ーテル固有の耐熱性、耐酸化性の長所を有し、かつ摩耗
防止性に優れた潤滑油の開発が切望されていた。
【0008】以上のような点を考慮して開発された潤滑
油としては、特開平9−151388号公報に、4環の
芳香環を有するポリフェニルエーテルと、3〜5環の芳
香環を有するポリフェニルチオエーテルと、リン系耐摩
耗剤(擦動面の摩耗防止性のあるもの)とからなるもの
が開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記した従来
のポリフェニルエーテル系の潤滑油は、いずれも100
℃の動粘度が低く、粘度指数が小さいために100℃以
上の高温下での動粘度は更に小さい値になり、充分な潤
滑油膜の強度が得られない。このように粘度指数が不良
の潤滑油は、ジェットエンジンやガスタービンなどの高
速回転シャフトを支持する軸受用潤滑油として適当なも
のではなかった。
【0010】また、前記した従来のポリフェニルエーテ
ル系の潤滑油は、リン系耐摩耗剤を含んでいて、生物環
境に好ましくない影響を与える場合があることにおいて
も、潤滑油の利用上に不利な点を有する。
【0011】そこで、本願の各発明の課題は、上記した
問題点を解決して、ポリフェニルエーテル固有の耐熱性
および耐酸化性の長所を有し、かつ摩耗防止性に優れた
潤滑油であり、しかも低流動点で粘度指数が良好な特性
を有する耐熱性潤油を提供することである。すなわ
ち、本願の各発明の課題は、従来のポリフェニルエーテ
ル系の潤滑油において100℃の動粘度が低く、粘度指
数が小さいために100℃以上の高温下での動粘度は更
に小さい値になり、充分な潤滑油膜の強度が得られない
という問題点を解決することである。
【0012】また、特にリン系耐摩耗剤を含まなくても
摩耗防止性に優れた潤滑油であり、しかも耐熱性、耐酸
化性、低流動点であり、粘度指数が良好であるという特
性を全て兼ね備えた耐熱性潤滑油とすることである。
【0013】
【課題を解決するための手段】本願の発明者らは、上記
した課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、芳
香環を3〜6個、好ましくは4個有するポリフェニルエ
ーテルまたはその炭化水素置換体と、下記の化3の式で
表わされるジフェニルチオエーテルとの混合物からなる
耐熱性潤滑油組成物とする手段を採用したのである。
【0014】
【化3】
【0015】(式中、R1 およびR2 は水素原子または
炭素数1〜24の炭化水素基であり、R1 およびR2
互いに同一であっても相異なるものであってもよい。)
または、前記課題を解決するために、上記の潤滑油組成
物からなる高温・高速回転軸受用耐熱性潤滑油組成物と
したのである。
【0016】本願の発明は、所定化学構造のポリフェニ
ルエーテルおよびポリフェニルチオエーテルを併用(混
合)したことにより、ポリフェニルエーテル固有の耐熱
性、耐酸化性を発揮し、かつリン系耐摩耗剤などの添加
がなくても充分な摩耗防止性があり、しかも低流動点で
粘度指数が良好であるという特性を全て満足する潤滑油
であり、特に、高温・高速回転軸受用耐熱性潤滑油組成
物に適用できるものである。
【0017】
【発明の実施の形態】この発明に用いるポリフェニルエ
ーテルは、芳香環を酸素原子で結合した化学構造を有す
る周知のポリフェニルエーテル油を使用することができ
るが、分子内に4個の芳香環を有するものは耐熱性その
他の特性のバランスにおいてこの発明に特に好ましいも
のである。また、潤滑性を考慮すれば、ポリフェニルエ
ーテル1分子当たり1〜4個のアルキル基を結合した炭
化水素置換体が好ましく、そのような炭化水素基として
は、直鎖状または分岐状のアルキル基であって炭素数が
1〜24、特に5〜20のものが好ましい。
【0018】分子内に芳香環を3〜6個有するポリフェ
ニルエーテル油の具体例としては、以下の化4〜7に示
す化学構造のものが挙げられ、特に分子内に4個の芳香
環を有するポリフェニルエーテルの具体例としては、以
下のものが挙げられる。なお、〔 〕内には、略称を
示した。
【0019】すなわち、モノアルキルビス−(m−フェ
ノキシフェノキシ)エーテル〔R−m,m−4P3
E〕、モノアルキルm−フェノキシフェノキシm−ビフ
ェニル〔R−m,m−4P2E〕、モノアルキルm−フ
ェノキシフェノキシo−ビフェニル〔R−m,o−4P
2E〕(化5に示すもの)およびジアルキルm−フェノ
キシフェノキシo−ビフェニル〔R2 −m,o−4P2
E〕などが挙げられる。
【0020】
【化4】
【0021】
【化5】
【0022】
【化6】
【0023】
【化7】
【0024】特に好ましいポリフェニルエーテルとして
は、ジアルキルm−フェノキシフェノキシo−ビフェニ
ル〔R2 −m,o−4P2E〕であり、市販品として松
村石油研究所製のモレスコハイルーブS−3230が挙
げられる。
【0025】この発明で用いるジフェニルチオエーテル
は、前記化3の式で示されるものであるが、R1 および
2 がいずれも水素原子である化合物は、炭化水素非置
換ジフェニルチオエーテルを表わす。炭素数1〜24の
炭化水素基としては、直鎖状または分岐状のアルキル
基、炭素数2〜24の直鎖状または分岐状のアルケニル
基、炭素数6〜24のシクロアルキル基、炭素数6〜2
4のアリール基などが挙げられる。
【0026】前記アリール基は、置換基として、炭素数
1〜12のアルキル基または炭素数2〜12のアルケニ
ル基からなる炭化水素基を有していても良い。好ましい
炭化水素基は、炭素数6〜20のアルキル基であり、そ
の具体例としては、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル
基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、
トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキ
サデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデ
シル基、エイコシル基などがあり、これらの分岐を有す
るものでもよく、さらに好ましくは炭素数8〜18のも
のである。なお、このような炭化水素基は、2つの芳香
環を有するジフェニルチオエーテルのいずれの芳香環の
いずれの位置に結合したものであってもよい。
【0027】本願の発明の耐熱性潤滑油組成物は、その
組成(配合割合)において、芳香環4環のポリフェニル
エーテル10〜90重量%、芳香環2環のジフェニルチ
オエーテル90〜10重量%を混合する。より好ましい
混合割合は、ポリフェニルエーテル20〜60重量%、
ジフェニルチオエーテル80〜40重量%である。
【0028】ポリフェニルエーテルとジフェニルチオエ
ーテルを上記配合割合で混合することにより、流動点を
低下させ、所望の粘度の潤滑油基油を得ることができ
る。この混合基油の耐摩耗性は、各々単独で用いた場合
より改善され、耐熱・耐酸化性もさらに向上させること
ができる。ポリフェニルエーテルの混合割合が、10重
量%未満では耐摩耗性が劣り、他方、90重量%を超え
た場合も同様に耐摩耗性が低下し、さらに潤滑性も低下
する。
【0029】本願の発明の耐熱性潤滑油組成物には、必
要に応じて耐摩耗剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流
動点降下剤、腐食防止剤、金属不活性剤などの添加剤を
配合したものであってもよい。
【0030】このようにして得られる耐熱性潤滑性油組
成物は、高温条件で使用されるジェットエンジン油、タ
ーボチャージャーエンジン油、超耐熱断熱エンジン油、
ガスタービン油、無段変速機油、拡散ポンプ油、ロータ
リーポンプ油、含油プラスチック油、含油軸受油、耐放
射線用潤滑油として使用可能である。
【0031】
【実施例】〔実施例1〜8〕表2に示す配合割合(重量
%)でo−4P2Eモノアルキル化物とo−4P2Eジ
アルキル化物に対し、それぞれジフェニルサルファイド
ジアルキル化物を混合して潤滑油組成物を調製した。
【0032】得られた潤滑油組成物について、一般性状
として引火点、流動点、40℃および100℃における
動粘度、粘度指数を測定し、これらの結果を表2中に併
記した。また、得られた潤滑油組成物について、下記の
方法で熱安定性(熱劣化)試験と軸受運転試験を行い、
これらの結果を表2中に併記した。
【0033】(1)熱安定性試験 ガラス容器に試料油を15g秤量し、250℃に保持し
た恒温槽に144時間静置し、蒸発量(質量%)および
全酸価変化量(mgKOH/g)、動粘度変化率(10
0℃における動粘度(mm2 /s)の変化より算出)を
測定した。
【0034】(2)軸受運転試験 軸受運転試験機は、図1および図2にその横断面図およ
び正面図をそれぞれ示すように、所定位置に固定された
回転軸1に試験用軸受2を取り付け、その軸受箱3の外
周面に300℃以上に加熱可能なバンドヒータ4を装着
すると共に軸受箱3に負荷軸受5を圧接させてラジアル
荷重を負荷し、所定温度の潤滑油を霧状にして孔6から
供給し、ロードセル7により試験軸受外輪の回転力から
求めた軸受トルクを測定し、試験時の外輪温度を測定孔
8から測温するようにしたものである。
【0035】なお、試験軸受2には、内径φ40mm、
外径φ68mm、幅15mmの円筒ころ軸受を採用し、
試験温度を考慮して内輪、外輪、ころの材質はM50と
した。試験条件は、軸受組み立て後のラジアル隙間を内
輪および外輪のはめあい代で調整することにより、2水
準の条件(−10μm、+25μm)の軸受を使用して
行なった。これらの試験条件を表1に示した。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】〔比較例1〜4〕表3に示すように、比較
例1〜3の潤滑油は、それぞれo−4P2Eモノアルキ
ル化物、o−4P2Eジアルキル化物およびジフェニル
サルファイドジアルキル化物を単独で使用したものであ
る。また、比較例4は、MIL規格(MIL−L−23
699C)に合格したペンタエリスリトールエステルで
あり、ガスタービンなどにおいて使用実績のある潤滑油
である。
【0039】以上の比較例についても一般性状を調べる
と共に、試験(1)、(2)を行ない、これらの結果を
表3中に併記した。
【0040】
【表3】
【0041】表3の結果からも明らかなように、比較例
1、2は、熱劣化による特性の変化が、小さく耐熱性に
優れているが、流動点が−20℃より高いうえに室温付
近での動粘度が高いので、高速用軸受で広く採用されて
いるジェット給油やオイルミスト給油などの給油方法に
適さなかった。
【0042】比較例3は、引火点、流動点、室温付近で
の動粘度のいずれにも問題はないが、熱劣化による特性
の変化が大きく、高温での長時間使用には適さなかっ
た。比較例4は、引火点が260℃であって実施例より
50℃近く低いうえに、熱劣化による特性の低下が著し
く、高温での長時間使用に適さないものであった。
【0043】これに対して、表2の結果からも明らかな
ように、実施例1〜8は、いずれのものも引火点が30
0℃以上でありかつ、流動点が−20℃以下であり、常
温から高温状態まで何ら問題なく、高速用軸受で広く採
用されているジェット給油やオイルミスト給油などの給
油方法を採用することができる。また、実施例1〜8
は、いずれのものも熱劣化による特性の変化が少なく、
耐熱性に優れたものであった。
【0044】〔比較例5および6〕所定のジフェニルチ
オエーテルを配合しなかった比較例5、6のうち、比較
例5は、流動点が−20℃より高く粘度指数も−30と
不適な値であり、また比較例5、6は、共に添加剤とし
てリン系耐摩耗剤としてトリクレジルフォスフェートを
配合しており、この発明の所期の目的に沿わないもので
あった。
【0045】
【発明の効果】この発明は、以上説明したように、所定
化学構造のポリフェニルエーテルおよびフェニルチオ
エーテルを併用(混合)したことにより、ポリフェニル
エーテル固有の耐熱性、耐酸化性を発揮し、かつリン系
耐摩耗剤などの添加がなくても充分な摩耗防止性があ
り、しかも低流動点で粘度指数が良好であるという特性
を全て満足する潤滑油になるという利点がある。
【0046】また、この発明の耐熱性潤滑油組成物は、
特に、高温・高速回転軸受用耐熱性潤滑油組成物に適用
できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】軸受運転試験機の横断面図
【図2】軸受運転試験機の正面図
【符号の説明】
1 回転軸 2 試験用軸受 3 軸受箱 4 バンドヒータ 5 負荷軸受 6 孔 7 ロードセル 8 測定孔
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C10N 40:13 40:25 (72)発明者 藤井 祥伸 西宮市芦原町10番33号 株式会社松村石 油研究所内 (72)発明者 赤田 民生 西宮市芦原町10番33号 株式会社松村石 油研究所内 (56)参考文献 特開 平9−151388(JP,A) 特開 平9−125085(JP,A) 特開 昭58−208392(JP,A) 特公 昭37−11717(JP,B1) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C10M 105/18 C10M 105/72 C10M 135/28

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 芳香環を3〜6個有するポリフェニルエ
    ーテルまたはその炭化水素置換体と、下記の化1の式で
    表わされるジフェニルチオエーテルとの混合物からなる
    耐熱性潤滑油組成物。 【化1】 (式中、R1 およびR2 は水素原子または炭素数1〜2
    4の炭化水素基であり、R1 およびR2 は互いに同一で
    あっても相異なるものであってもよい。)
  2. 【請求項2】 4個の芳香環を有するポリフェニルエー
    テルまたはその炭化水素置換体と、下記の化2の式で表
    わされるジフェニルチオエーテルとの混合物からなる耐
    熱性潤滑油組成物。 【化2】 (式中、R1 およびR2 は水素原子または炭素数1〜2
    4の炭化水素基であり、R1 およびR2 は互いに同一で
    あっても相異なるものであってもよい。)
  3. 【請求項3】 請求項1記載の耐熱性潤滑油組成物から
    なるジェットエンジン用耐熱性潤滑油組成物。
  4. 【請求項4】 請求項1記載の耐熱性潤滑油組成物から
    なるガスタービン用耐熱性潤滑油組成物。
  5. 【請求項5】 請求項1記載の耐熱性潤滑油組成物から
    なるターボエンジン用耐熱性潤滑油組成物。
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