JP2940099B2 - 高熱伝導性ダイヤモンド単結晶の合成方法 - Google Patents

高熱伝導性ダイヤモンド単結晶の合成方法

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、温度差法により高熱伝導性ダイヤモンド単
結晶を合成する方法に関する。
〔従来の技術〕
ダイヤモンドは既知の物質中で最も高い熱伝導率を有
する物質であり、この性質を利用してヒートシンク材料
等として利用されている。
ところが、ダイヤモンドの構成元素である炭素がもと
もと質量数13の同位体を約1.1%含有しているため、質
量数12の炭素のみからなる理想のダイヤモンドに比べる
と熱伝導率は低くなり、室温において約20W/cm・Kの値
を示すに過ぎない。然るに、「Diamond Research」1976
年号の7〜13頁によれば、もし完全な質量数12の炭素の
みからなるダイヤモンドが出来れば、その熱伝導率は少
なくとも50W/cm・Kを示すとされている。
一方、ダイヤモンドの合成法は公知であり、炭素源と
金属溶媒を共存させ、ダイヤモンドが熱力学的に安定な
超高圧・高温の条件下においてダイヤモンドが合成され
る。特に、大粒で良質なダイヤモンドの合成方法として
温度差法があり、その一般的な試料室内の部品構成図を
第4図に示す。この方法では、超高圧発生装置の試料室
内にfE,Ni,Co等の金属溶媒3を挟んで黒鉛のような炭素
源1とダイヤモンドの種結晶2を配置し、圧力媒体5を
介して超高圧を加え且つヒーター4で金属溶媒3に炭素
源1側の高温部と種結晶2側の低温部との間に数十度の
温度差を生じさせ、金属溶媒3に溶解した炭素を低温部
に輸送してダイヤモンドが熱力学的に安定した圧力・温
度条件下にて、シードベツド6に支持した種結晶2上に
ダイヤモンドの単結晶を成長させる。
かかる温度差法等のダイヤモンド合成法により、前記
の質量数12の炭素のみからなる高熱伝導率のダイヤモン
ド単結晶を合成するには、炭素源として質量数12の炭素
を用いなければならない。
通常、質量数12の炭素は一酸化炭素ガスやメタンガス
を質量分離した後、炭化する方法により生成され、その
純度は約99.9〜99.99%に達している。ところが、この
方法で得られる質量数12の炭素はアモルフアス状態であ
つて結晶化度が低く、個々の粒子が微細なものであつ
た。
この質量数12の炭素を99.9%以上含むアモルフアス状
炭素を炭素源として高熱伝導率ダイヤモンドを合成する
ことは既に試みられているが、アモルフアス状炭素を用
いたのでは同一粒度で比較しても結晶化度の高い天然黒
鉛や人造黒鉛に比べ成長結晶に金属インクルージヨンや
骸晶が発生し、良質や結晶が得られにくい欠点があつ
た。その理由は、結晶化度が炭素源の金属溶媒への溶解
速度に影響して炭素の適切な輸送速度が達成されなくな
るためと考えられ、又アモルフアス状炭素が種種の不純
物ガスを吸着しやすく、ダイヤモンド合成雰囲気が汚染
されるという問題もある。
又、通常は炭素源として粉末の型押体が使用される
が、従来の質量数12の炭素を99.9%以上含むアモルフア
ス状炭素は粉末が微細なため型押体の密度が上らず、天
然黒鉛粉末の型押体の密度2.0g/cm3に比べその約50%に
相当する約1.1g/cm3までしか至らなかつた。そのため、
合成条件の超高圧下で型押体の厚さが通常の黒鉛粉末型
押体に比べて薄くなり、炭素の溶解方向及び輸送方向の
温度分布が変化するので、炭素の適切な輸送速度が達成
されず上記と同様に良質な結晶が得られなくなる欠点が
あつた。又、型押体の密度が低いとダイヤモンドが安定
な条件である約55Kb以上の圧力を発生させるために過大
な荷重を負荷することが必要になり、従つて装置の寿命
が低下し、製造コストが高くなる等の問題があつた。
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明はかかる従来の事情に鑑み、炭素源として質量
数12の炭素を99.9%以上含む炭素を使用して、従来の合
成ダイヤモンド単結晶よりも熱伝導率が高く、金属イン
クルージヨンや骸晶の無い良質なダイヤモンド単結晶の
合成方法を提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段〕
上記目的を達成するため、本発明は、質量数12の炭素
を99.9%以上含む炭素源を使用し、炭素源と金属溶媒の
共存下にダイヤモンドが熱力学的に安定な温度・圧力条
件で高熱伝導性ダイヤモンド単結晶を合成する方法にお
いて、質量数12の炭素を99.9%以上含むアモルフアス状
炭素を不活性ガス雰囲気中にて1800℃以上で黒鉛化処理
し、得られた高結晶性炭素を質量数12の炭素を99.9%以
上含む炭素源として用いることを特徴とする。
〔作用〕
炭素の結晶化度を高める方法として一般に黒鉛化処理
が有効であることは知られているが、炭素材料毎に適切
な処理温度が異なることが通例であつて、質量分離した
一酸化炭素ガスやメタンガスを炭化して得られる質量数
12の炭素を99.9%以上含むアモルフアス状炭素を、ダイ
ヤモンド合成に有効となる程度に結晶化させ得る処理温
度については全く知られていなかつた。
そこで、質量数12の炭素を99.9%以上含むアモルフア
ス状炭素について種々の温度で黒鉛化処理を行ない、得
られた結晶化度の異なる高結晶性炭素を用いてダイヤモ
ンドを合成した結果、1800℃以上の処理温度で得られた
高結晶性炭素を炭素源とすれば良質で高熱伝導率のダイ
ヤモンド単結晶が合成できることが判つた。
又、結晶化度をX線回析における(002)回析線の半
値幅で表わし、黒鉛化処理の処理温度と得られた高結晶
性炭素の結晶化度の関係を確認した。その結果、第1図
に示す如く処理温度の上昇に伴なつて結晶化度も高くな
り、処理温度が1800℃以上になればX線回析における
(002)回析線の半値幅が0.5度以下となることが判つ
た。尚、X線回析には陽極物質Cu及び加速電圧40KVでの
α線を用いた。又、(002)回析線とはブラツグの法
則に従つて黒鉛結晶の(002)面から回析されるX線の
回析線を云う。
一例を挙げれば、第2図は上記条件でのX線回析によ
る通常の質量数12の炭素を99.9%以上含むアモルフアス
状炭素粉末のX線回析図形であり、(002)回析線の半
値幅が1.2度であつて黒鉛の結晶化度が極めて低い。こ
のアモルフアス状炭素粉末をアルゴン雰囲気中において
2700℃で2時間黒鉛化処理することにより、得られた炭
素粉末は第3図に示す如く(002)回析線の半値幅が0.2
4度に低下し、結晶化度が大幅に向上したことが判る。
上記の如く黒鉛化処理して得られた高結晶化炭素は、
質量数12の炭素を99.9%以上含んでいて黒鉛の結晶化度
が高く、更には吸着不純物ガスも離脱して少なくなる。
又、型押体とした場合、その密度を従来のアモルフアス
状炭素粉末の場合よりも高めることが出来る。従つて、
この高結晶化炭素を炭素源とすることにより、ダイヤモ
ンドの合成条件下で炭素の適切な溶解速度と輸送速度が
得られ、金属インクル−ジヨンや骸晶がなく良質で、質
量数12の炭素を原子比で99.9%%以上含む高熱伝導率の
ダイヤモンド単結晶が合成される。
尚、通常の合成方法で得られるダイヤモンド単結晶は
一般に不純物として窒素を10〜100ppm含有し、この窒素
不純物は質量数13の炭素と同様に熱伝導率を低下させる
作用をもつが、質量数13の炭素に比べ含有量が桁違いに
少ないので熱伝導率低下に与える影響は小さい。しかし
ながら、窒素不純物を完全に除去すれば、更に熱伝導率
の上昇が期待出来る。そこで、通常のFe,Ni,Co等の金属
溶媒に窒素のゲツター作用を有するAl,Zr,Tiを1〜5重
量%添加した金属溶媒、例えばFe−4AlやFe−30Ni−2Al
等を用いることによつて、窒素含有量を1ppm以下まで低
下させることが出来る。
〔実施例〕
実施例1 質量数12の炭素(12C)の純度99.9%のアモルフアス
状炭素粉末(ISOTEC Inc.製)を、Arガス雰囲気中にて2
400℃で2時間黒鉛化処理して、陽極物質Cu及び加速電
圧40KVでのKα線を用いたX線回析図形の(002)回析
線の半値幅が0.28度の高結晶性炭素粉末を得た。この高
結晶性炭素粉末を5ton/cm2の圧力で直径7mm及び厚さ3mm
の円板状に成形して密度1.6g/cm3の型押体を得た。
この型押体を第4図に示すように超高圧発生装置の試
料室内に炭素源1として配置し、炭素源1に接してFe−
42Ni合金からなる直径7mm及び厚さ5mmの金属溶媒3を、
更に金属溶媒3の下にNaClからなる直径7mm及び厚さ2mm
のシードベツド6に埋め込んだ粒径500μmのダイヤモ
ンドの種結晶2を互いに接触させて配置した。この試料
部分に圧力52Kb及び温度1400℃(炭素源1と種結晶2の
温度差約50℃)を付与し、50時間保持した。この時必要
とした荷重は450tonであつた。降温減圧後に試料を回収
し、金属溶媒を王水で溶解してダイヤモンドを抽出し
た。
得られたダイヤモンドは0.66カラツトであり、金属イ
ンクル−ジヨンや骸晶がなく、窒素を約60ppm含有する
黄色の単結晶であつた。このダイヤモンド単結晶を研磨
して一辺2mm、長さ3mmの直方体とし、定常熱流束下に試
料の温度勾配を測定し、既知の材料と比較する方法で熱
伝導率を測定したところ、28W/cm・Kを示した。この熱
伝導率は従来の質量数13の炭素(13C)を1.1%含むダイ
ヤモンド単結晶と比較して1.4倍高い値であつた。
実施例2 実施例1と同じ12Cの純度99.9%のアモルフアス状炭
素粉末を用い、処理温度を1800℃とした以外は同様に黒
鉛化処理したところ、実施例1と同一条件での(002)
回析線の半値幅が0.47度の高結晶性炭素粉末を得た。こ
の高結晶性炭素粉末を用い実施例1と同様に型押しダイ
ヤモンドの合成を行なつたところ、型押体の密度は1.4g
/cm3となり且つ合成圧力52Kbを得るために必要とした荷
重は470tonであつた。
得られたダイヤモンドは0.53カラツトの大きさで、若
干量の金属インクル−ジヨンがあつたが、良質な黄色の
単結晶であつた。
比較例 実施例1と同じ12Cの純度99.9%のアモルフアス状炭
素粉末と、これを処理温度1600℃とした以外は実施例1
と同様に黒鉛化処理した高結晶性炭素粉末とを使用し、
実施例1と同様にダイヤモンドを合成した。
炭素粉末を比較すると、粉末の実施例1と同一条件で
のX線回析図形における(002)回析線の半値幅が前者
で1.2度及び後者で1.0度であり、型押体の密度が前者で
1.1g/cm3及び後者で1.2g/cm3であつた。
又、ダイヤモンドの合成においては、前者の場合は荷
重500tonを負荷して温度1300℃で合成を試みたが、圧力
が52Kbに至らず、種結晶の周囲に黒鉛が析出するのみで
ダイヤモンドは得られなかつた。後者の場合、同じ荷重
500tonを負荷して温度1300℃で合成したところ、種結晶
上に3個の結晶が骸晶状態で析出しており、良質な単結
晶は得られなかつた。
実施例3 実施例1と同じ12Cの純度99.9%のアモルフアス状炭
素粉末を処理温度2700℃とした以外は同様に黒鉛化処理
し、実施例1と同一条件での(002)回析線の半値幅が
0.24度の高結晶性炭素粉末を得た。この高結晶性炭素粉
末を実施例1と同様に型押し同一条件でダイヤモンドの
合成を行なつたところ、型押体の密度は1.65g/cm3とな
つた。次に、金属溶媒としてFe−4Alを用い、荷重450to
nを負荷して得た圧力53Kbの下に1450℃の温度で60時間
保持してダイヤモンドを合成した。
得られたダイヤモンドは0.72カラツトの大きさで、金
属インクル−ジヨンが無く又窒素を殆ど含まない良質な
無色透明な単結晶であつた。この単結晶を研磨して一辺
2.5mmで長さ3mmの直方体を作成し、実施例1と同様の方
法で熱伝導率を測定したところ、窒素を含む実施例1の
ダイヤモンドより更に高い32W/cm・Kを示した。
〔発明の効果〕
本発明によれば、炭素源として質量数12の炭素を99.9
%以上含む炭素を使用して、従来の合成ダイヤモンド単
結晶及び天然の窒素を殆ど含まないIIa型ダイヤモンド
に比べて約1.5倍以上高い熱伝導率を有する良質なダイ
ヤモンド単結晶を合成することが出来る。
従つて、本発明方法により得られる高熱伝導率ダイヤ
モンド単結晶は、高出力レーザーのヒートシンク材やCO
2レーザー用の窓材等として好適であり、その優れた熱
伝導率によつて自身の著しい寿命向上と同時にレーザー
装置など装置全体の大幅な信頼性の向上に寄与しうるも
のである。
【図面の簡単な説明】
第1図は質量数12の炭素を99.9%以上含むアモルフアス
状炭素の黒鉛化処理温度と、処理により得られる高結晶
性炭素の結晶化度を表わすX線回析における(002)回
析線の半値幅との関係を示すグラフである。第2図は質
量数12の炭素を99.9%以上含むアモルフアス状炭素粉末
のX線回析図形であり、第3図は同じアモルフアス状炭
素粉末を2700℃で黒鉛化処理して得られた高結晶化炭素
のX線回析図形である。第4図は温度差法によるダイヤ
モンド合成の一般的な部品構成図を示す概略断面図であ
る。 1……炭素数、2……種結晶 3……金属溶媒、4……ヒーター 5……圧力媒体、6……シードベツド

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】質量数12の炭素を99.9%以上含む炭素源を
    使用し、炭素源と金属溶媒の共存下にダイヤモンドが熱
    力学的に安定な温度・圧力条件で高熱伝導性ダイヤモン
    ド単結晶を合成する方法において、質量数12の炭素を9
    9.9%以上含むアモルフアス状炭素を不活性ガス雰囲気
    中にて1800℃以上で黒鉛化処理し、得られた高結晶性炭
    素を質量数12の炭素を99.9%以上含む炭素源として用い
    ることを特徴とする前記高熱伝導性ダイヤモンド単結晶
    の合成方法。
  2. 【請求項2】前記高結晶性炭素の結晶化度がX線回折に
    おける(002)回折線の半値幅で表わした時0.5度以下で
    あることを特徴とする、請求項(1)記載の高熱伝導性
    ダイヤモンド単結晶の合成方法。
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