JP2916205B2 - 生理活性ペプチド - Google Patents

生理活性ペプチド

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Description

【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明はキモトリプシン阻害作用等を示す家蚕Bombyx
morii10の血漿由来の生理活性ペプチドに関するもので
ある。
[従来の技術] 微生物、各種臓器或は培養基等よりペプチド結合を有
する種々の物質を分離・精製する場合、或は微生物を培
養してタンパク質等を作らせる場合、更に生体に対して
各種生理活性ペプチドを作用させる場合等において、プ
ロテアーゼが存在することによってタンパク質の収率が
低下したり、或は目的タンパク質が全く得られなかった
りといったことはしばしば経験するところである。そこ
でこのような場合には温度を上げる・下げる、或は塩を
加える等の手段によってプロテアーゼ活性を抑制した
り、若しくは失活させるというようなことが行なわれて
いる。しかしこれらの方法ではプロテアーゼと同様にペ
プチド結合を有するタンパク質である目的物質も何らか
の影響を受けることは避けられず、例えば微生物にタン
パク質を作らせる場合などでは微生物の生育が阻害され
ることも多い。
[発明が解決しようとする課題] 上記の問題を解決するにはプロテアーゼだけに働く阻
害剤、即ち、プロテアーゼインヒビターを利用すること
が考えられる。
[課題を解決するための手段] 本発明に係る家蚕Bombyx morii10の血漿由来の生理活
性ペプチドは次に示す理化学的特性を有するものである
ところに要旨を有する。
分子量:SDS電気泳動による測定で約10,400 HPLCによる測定で約10,900 等電点:7.12 N末端からの20アミノ酸の推定1次構造: 生理活性:キモトリプシン阻害活性を有する [作用及び実施例] 本発明の生理活性物質は九州大学家蚕遺伝子資源セン
ターが系統保存している家蚕Bombyx morii10の血漿より
精製することができたもので、次のような理化学的物性
により特定することができる。
1)分子量:SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法によ
る測定で約10,400。HPLCによる測定で約10,900。
2)等電点:7.12 3)N末端からの20アミノ酸の推定1次構造: 4)生理活性:キモトリプシン阻害活性を示す。
(カゼインを基質に用いてKi=1.33μM) 更に実施例において示す様に優れた熱安定性及びpH安
定性も有している。また生理活性においてもキモトリプ
シン阻害活性以外の生理活性も有することが期待されて
いる。
本発明の生理活性ペプチド(以下CI−1と略す)は家
蚕血漿を原料とし、常法により精製して得ることができ
る。例えば、硫安塩析後、DEAE或はCM−イオン交換クロ
マトグラフィー及びキモトリプシンを用いたアフィニテ
ィークロマトグラフィーを組み合せることによって高純
度に精製できる。更にアミノ酸のN−末端から一次構造
が決定されたので、遺伝子を取り出すこと(単離するこ
と)が出来るようになり、遺伝子組み換え技術を応用し
て大量生産することも可能である。
以下、実施例に基づいて具体的に説明する。
実施例1 <精製方法> 原料 Bombyx mori i10の幼虫5齢3日に血漿を採取し、遠
心分離によって血液細胞を取り除いたもの。
硫安塩析 上記家蚕血漿20mlに硫酸アンモニウムを加え70%飽和
で沈澱した沈澱物を遠心分離した。得られた沈澱物に少
量の0.05Mクエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.
5)を加え溶解させた後、同緩衝液に対して透析した。
イオン交換カラムクロマトグラフィー 前記クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液で平衡化さ
せたCM−Sephadex C50(Pharmacia社製)カラム(2×4
0cm)に、硫安分画によって得た活性画分を通し、同緩
衝液で洗浄後同緩衝液に溶かしたNaClの0〜0.5Mの直線
的濃度勾配により溶出し、0.26〜0.38M NaClの範囲で溶
出するCI−1の活性画分を得た。溶出パターンを第1図
に示す。濃縮後0.5Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)
に対して透析し、遠心分離により上清を得た。
アフィニティーカラムクロマトグラフィー 前記リン酸ナトリウム緩衝液で平衡化させたキモトリ
プシン結合Sepharose 4B(Pharmacia社製)カラム(1
×10cm)に前記上清を通し、同緩衝液で洗浄した。0.1M
酢酸ナトリウム緩衝液(HClでpH1.0に調整。0.5M NaCl
及び4M Urea含有)で溶出し、精製CI−1を得た。溶出
パターンを第2図に示す。
第1表に各精製段階での体積、総タンパク質量、比活
性、総キモトリプシン阻害活性及び回収率を示す。尚、
キモトリプシン阻害活性の測定、CI−1であることを確
認するための電気泳動及び活性染色は下記の方法で行っ
た。
<実験方法> キモトリプシン阻害活性の測定 Kunitzらの方法(J.Gen.Physiol.30,291−310,1947)
に基づいて行なった。
試料溶液0.1mlを0.22mlのキモトリプシン溶液(200pm
ole)に加え37℃で10分間インキュベーションした後、
予め緩衝液に溶解したHammarstenカゼインを終濃度で30
mg/mlになる様に加えた。この時の反応液量は0.32mlと
した。37℃で10分間反応させた後、トリクロロ酢酸を最
終で5%になるように加え、反応を停止し、反応液を遠
心分離した後、上清の280nmにおける吸光度(A280)を
測定した。試料溶液を加えないものについても同様の測
定を行ない、試料溶液を加えないもののA280をA、加え
たもののA280をBとした場合、阻害活性は(A−B)/A
×100で表わされる。即ち、上述した反応条件で40pmole
のキモトリプシンを50%阻害する活性量をキモトリプシ
ンインヒビター1単位(u)とした。
アクリルアミドゲル電気泳動 Davis,B.J.and Ornstein,L.らの方法(Ann.N.Y.Acad.
Sci.121,Art 2,321−349,404−427,1964)に準じて行な
った。
活性染色 UrielとBergesの方法(Nature 218,578−580,1968)
により実施した。
この方法ではキモトリプシンの活性を示す部位が染色
されるので、染色されない部位、すなわちキモトリプシ
ンインヒビターの存在する部位は活性染色されずに白く
抜けることから、キモトリプシンインヒビターの存在部
位が明らかとなる。
第1表に示したように、原料より約20%の回収率で、
比活性が約942倍を示す迄に精製された。尚、精製品の
比活性は14,710u/mg proteinであった。
実施例2 <理化学的性質> 実施例1で得た精製品を用いて次の分析及び試験を行
なった。
分子量 1)SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による測定 Laemmliの方法(Nature,227;680,1970)により12.5%
gel SDS電気泳動を行なった結果を第3図に示す。還元
状態での分子量が約10,400であることがわかった。
2)HPLC(非還元状態)による測定 TSKgel G 3000 SW[東ソー(株)製、カラム(8×30
0mm)]を用いて実施した結果を第4図に示す。非還元
状態(自然な状態)での分子量が約10,900であることが
わかった。
以上の結果よりCI−1は単量体であると推定される。
等電点 Ampholine(ファルマシア社製)(2%V/V)を用いた
6.4%ポリアクリルアミドゲルによるpH3.5−10のpH勾配
を持つ等電点ゲル電気泳動を行ない(300V,5hr)、活性
染色により泳動位置を求めた。一方、同様に泳動した別
のゲルを5mmずつスライスしてpHを測定し、泳動位置か
らキモトリプシンインヒビターの等電点を求めた。結果
を第5図に示す。等電点は7.12であることがわかった。
N末端からの20アミノ酸の1次構造 エドマン分解により1次構造を決定した。まず、アミ
ノアシド シークエンサー890M/E(ベックマン社製)を
使用してフェニルチオヒダントイン(PTH)誘導体を
得、該誘導体をODSカラム(4.6×250mm)[東ソー
(株)製、120T]を用いたHPLCにより同定し、N末端側
20残基のアミノ酸の1次構造を決定した。推定される1
次構造は下記の通りであった。
アミノ酸分析 Moore and Steinらの方法(Methods in Enzymology
:819,1963)に準じて行なう。即ち、精製された試料
に0.05%メルカプトエタノールを含むFe Freeの6N−HCl
を加え、110℃で24時間加水分解した後、アミノ酸自動
分析計[日立(株)製、アミノアシドアナライザー型65
5A]を用いて構成アミノ酸比を求めた。HPLCによる分子
量の測定結果をもとに、各アミノ酸数を推定した。結果
を第2表に示す。
第2表より明らかなようにMetを含有していないとい
う特徴を有している。
[キモトリプシンに対する阻害活性] キモトリプシン(200pmole)に種々の量のCI−1を加
え37℃で10分間インキュベーションした後、カゼインを
基質に用いてキモトリプシン活性を測定した。測定結果
をLineweaverBurkの逆数プロットにして第6図に示す。
図より求められたCI−1のKi値は1.33μMであった。
[キモトリプシンに対する100%の阻害比] キモトリプシン(200pmole)に種々の量のCI−1を加
え37℃で10分間インキュベーションした後、カゼインを
基質に用いてキモトリプシン活性を測定した。第7図に
阻害されたキモトリプシン量とCI−1の量の関係を示
す。実験に使用したキモトプリシン(牛膵臓由来、EC3
4.21.1)の分子量が25,200であるので、HPLCより推定さ
れた分子量10,900のCI−1のキモトプリシンに対する10
0%阻害比[I/E]はモル比で2.08:1である。
生理活性 種々のプロテアーゼにCI−1を反応させた後のプロテ
アーゼの残存活性を測定した。尚夫々のプロテアーゼの
使用量及び活性測定法は下記第3表の通りである。
結果を第4表に示す。
CI−1はキモトリプシンに対して阻害活性を示し、他
のプロテアーゼに対しては殆んど阻害活性を示さなかっ
た。
pH安定性 pH2〜12で室温に24時間放置した後、キモトリプシン
インヒビター活性がどのように変化するかを調べた結果
を第8図に示す。尚、本反応に用いた緩衝液は、pH2〜
3はグリシン−塩酸緩衝液を、pH4〜5は酢酸緩衝液
を、pH6〜7はリン酸緩衝液を、pH8〜9はトリス−塩酸
緩衝液を、pH10〜11はグリシン−水酸化ナトリウム緩衝
液を、pH12はグリコール−水酸化ナトリウム緩衝液を夫
々使用した。
図より、安定性が最も悪いと考えられるpH2付近にお
いても80%の阻害活性を維持しており、この生理活性ペ
プチドが優れたpH安定性を示すことがわかる。
熱安定性 この生理活性ペプチドをリン酸緩衝液(pH7.4)に溶
解し、種々の温度で10分間加熱処理した後の残存活性を
調べた。結果を第9図に示す。図より、90℃で10分間処
理を行なってもなお70%のキモトリプシン阻害活性が維
持されており、本生理活性ペプチドが優れた耐熱性を有
していることがわかる。
糖鎖 Shiff反応(Zaccharias,R.J.,Morisson,J.H.and Wood
lock,J.J.,Anal.Biochem.,31,148,1969)が陰性であ
り、またCI−1を電気泳動後、Western blotで膜に移
し、蛍光標識レクチン[Fluorescenin Lectin Kit I
(ベクター社製)]と反応させても蛍光バンドが無かっ
た(陰性であった)ことから、本生理活性ペプチドに糖
鎖の結合はないと考えられる。
[発明の効果] 本発明のキモトリプシン阻害活性を有する生理活性ペ
プチドは上記のように優れたpH安定性及び熱安定性を有
しており、その活性を種々の分野に応用できる。例えば
ペプチド結合を有する物質の生産及び精製の際に加える
と収量を上げることができ、ペプチド結合を有する生理
活性物質と共存させることにより生理活性物質を経口投
与することができる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
第1図はCMカラムクロマトグラフィーの溶出パターン、
第2図はアフィニティカラムクロマトグラフィーの溶出
パターン、第3図はSDS電気泳動による分子量測定結果
を示す図、第4図はHPLCによる分子量測定結果を示す
図、第5図は等電点電気泳動の結果を示すグラフ、第6
図はCI−1のカゼインを基質に用いた時のキモトリプシ
ンの阻害活性を表わすグラフ、第7図はキモトリプシン
1Mに対するCI−1の阻害モル比[I/E]を表わすグラ
フ、第8図はCI−1のpH安定性を示すグラフ、第9図は
CI−1の熱安定性を示すグラフである。

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】次に示す理化学的特性を有するものである
    ことを特徴とする家蚕Bombyx morii10の血漿由来の生理
    活性ペプチド。 分子量:SDS電気泳動による測定で約10,400 HPLCによる測定で約10,900 等電点:7.12 N末端からの20アミノ酸の推定1次構造: 生理活性:キモトリプシン阻害活性を有する
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