JP2839724B2 - セメント組成物 - Google Patents

セメント組成物

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、セメント組成物、とく
には従来に比べ同等もしくはそれ以上の強度のセメント
成形品を与えるセメント組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、建築物の外壁材、屋根材、床材等
として、アスベスト繊維で補強されたセメント板が広く
用いられてきた。これは、セメントと10重量%程度の
アスベスト繊維、骨材等との混合物に、水を添加して混
練し所望の形状のダイスを用いて押出成形するか、水に
希釈してスラリー状とし抄造成形、型枠流し込み成形等
の方法によって製造されていた。
【0003】このアスベスト繊維は混練、混合時の分散
性が極めてよく、これによって得られる混練物は押出成
形に際しての保形性がよく、また水と共にセメント粒子
を繊維の隙間に保持する能力に優れ、容易に厚めの抄造
成形板が得られる性能を持っている。さらには成形品に
寸法安定性と必要強度を付与するために行う170℃以
上の高温での水蒸気圧力釜による養生においても、これ
が耐熱性に優れているために強度補強繊維としての性能
を充分に発揮している。このようにアスベスト繊維は成
形品の製造に際して要求される、分散性、保形性、保水
性、スラリー中での無機粒子の保持性、耐熱性などの諸
性質を同時に満足する他に類を見ない補強繊維であるこ
とから、押出成形、抄造等による各種成形品の製造に専
ら使用されてきた。
【0004】しかし、近年に至りアスベスト繊維はその
独特の繊維形状に起因するといわれる発ガン性のため
に、上記の各種成形品においてもアスベストを全く用い
ないか、その添加量を極力少なくすることが要求されて
きている。アスベストに代る繊維として、まず有機の合
成繊維が検討されたが、いずれも分散性、保形性、保水
性、スラリー中での無機粒子の保持性が悪く、さらに有
機系の繊維であるがために耐熱性も劣り、前述した水蒸
気圧力養生のできない繊維もある。またコスト面からも
補強強度の高いものはアスベスト繊維に比べて可成高価
となるものがあり、本当に満足できるものは見当らない
という状態にある。
【0005】これに対し、有機天然繊維であるパルプ繊
維はコストが比較的安く、分散性についてアスベスト繊
維には及ばないものの他の有機繊維に比べて優れてお
り、さらにこれを一定量添加して得た成形品は、従来の
アスベスト繊維含有セメント成形品では困難であった、
釘打ち、鋸引き等の加工が可能になり、建築物の外装材
としての取付けが容易になるという利点が与えられるこ
とから、アスベスト繊維に代る材料として近年注目され
てきている。
【0006】一方、セメントモルタル組成物の押出成形
においては、一般に成形時に多くの圧力がかかり、アス
ベスト繊維やパルプ繊維を含有するセメント組成物の場
合でも、これらの繊維が持っている保水性能だけでは成
形体内に水を均一に保持させることができず、押出成形
体が凝結硬化するまでの間に水を分離して成形物同士を
粘着させるので、ダイスから吐出した成形体をそのまま
の形に維持させることが困難であった。
【0007】この成形性を改善するため押出成形溶の組
成物に有機系のバインダーを使用する方法が提案されて
いる。この有機バインダーとしては、例えば特公昭43
−7134号公報に記載されているメチルセルロース、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のほかに、ヒド
ロキシエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシ
エチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリアク
リル酸ソーダ、カゼイン等があり、なかでもセメント、
骨材等の分散性能がよく保水性と粘着性とに優れている
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースが広く使用され
ている。
【0008】このようなバインダーを添加したパルプ繊
維を含有する成形用組成物についても、これまでに幾つ
かの提案がなされている。例えば、特公昭63−127
6号公報には、パルプ繊維と一次発泡した球形樹脂とメ
チルセルロース等のバインダーとを添加したセメント組
成物を押出成形することにより、鋸引きや釘打ちの可能
な成形体の得られることが示されている。
【0009】しかし、これらの従来技術に開示されてい
るパルプ繊維は、繊維長が最高6mm程度の針葉樹ない
しは最高2mm程度の広葉樹からのウッドパルプか、こ
れから再生された故紙パルプであり、とくにウッドパル
プを用いた場合にパルプ中のリグニンの含量が多いと、
セメントの硬化時間を遅らせ養生に多くの時間がかかる
ので、通常化学処理によりその30〜50%を占めるリ
グニンを除去したパルプが用いられる。
【0010】この化学処理を施したパルプは高価な上、
繊維長が一層短くなるため、最高25mmまで観察され
るアスベスト繊維に比べ、補強繊維としての効果、とり
わけ衝撃強度補強効果に著しく劣ることになる。他方、
再生された故紙パルプではリグニンによる硬化の遅れは
なくなるものの繊維長の一層短いものが多く、強度補強
効果に欠けるものとなる。
【0011】この繊維補強効果をウッドパルプでもって
アスベスト並にしようとすると、かなりの量添加しなけ
ればならず、それによるコスト高がもたらされた。この
ような繊維長の短いパルプでは(アスベスト繊維を使用
する場合と異なって)セメントスラリー中の無機粒子の
保持性が悪いため、厚手の抄造板を作る際に、ポリアク
リルアミド等の高分子凝集剤によりセメントなどの無機
粒子を凝集させて抄造する必要があり、このことからも
コスト高を招くことになった。同様に、特開昭63−2
56558号公報には硬化促進剤を添加したセメント/
ウッドパルプの押出成形が開示されているが、この方法
は硬化促進剤の採用により一層高価なものとなってい
る。そして、このウッドパルプの増加はセメント成形体
の不燃性を低下させることにもなっていた。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】このような事情から、 有機繊維の添加量が極力少ない; 釘打ち、鋸引きが可能; 成形板の輸送途中での破損が起きにくい; 使用上、必要かつ充分な衝撃・曲げ・圧縮強度を有す
る; できるだけ少ない有機バインダー量で成形可能; 製造コストが低い; の諸要件を満足する有機繊維含有成形用セメント組成物
の出現が望まれていた。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は、これらの課題
を解決すべく鋭意検討の結果達成されたもので、成形用
セメント組成物として未精製粗リンターを補強繊維とし
て含有するものとしたことを要旨とするものである。以
下、本発明の詳細を説明すると、本発明において補強繊
維として用いられる未精製粗リンターとは、綿実から長
毛繊維(リント)を刈り取った後、さらに綿実の殻から
分離される最大長さが10mm程度の低価格の短毛繊維
(粗リンター)を、アルカリ溶液や塩素系漂白剤などで
精製する前の、そのままの状態のもので、これを使用し
て押出しまたは抄造成形して得られる成形体では、セメ
ント、ケイ石粉等の無機成分の総和100重量部に対し
て僅か2〜5重量部という未精製粗リンターの添加量で
アスベスト/セメント系成形体並の衝撃強度の得られる
ことを見出し、本発明に至ったものである。
【0014】なお、この短毛繊維(粗リンター)には1
0%以下の油脂成分を含有するが、これはセメントの硬
化に悪影響を与えるものではなく、むしろ成形を円滑に
する潤滑剤として働くので、成形時に必要な有機バイン
ダーの量を減少させることができる。上述したように、
この粗リンターのセメント、ケイ石粉等の無機成分の総
和100重量部に対する添加量は2〜5重量部という僅
かな量で有効である。
【0015】押出成形に際し併用されるバインダーとし
ては、従来の押出成形用セメント組成物において一般に
用いられてきた水溶性のアルキルセルロースおよび/ま
たはヒドロキシアルキルアルキルセルロースが使用で
き、具体的にはメチルセルロース、ヒドロキシプロピル
メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロー
ス、ヒドロキシエチルエチルセルロース等が例示され
る。
【0016】この添加量はコスト低下のためにできるだ
け少ないことが望ましいが、極端に低下させると成形状
態が悪くなることから、セメント、ケイ石粉等の無機成
分の総和100重量部に対して0.3〜0.5重量部と
することが好ましい。また使用するバインダーの重合度
に対応する粘度指標としては、2%水溶液における粘度
が高いものほど、添加量を減らすことができるので好ま
しい。具体的には2%水溶液の20℃における粘度で1
5,000cps以上、とくには30,000cps以
上のものが採用される。
【0017】抄造成形に際し使用される凝集剤には、通
常使用されるポリアクリルアミド等の水溶性高分子凝集
剤のほか、硫酸アルミニウム等の無機凝集剤でも差し支
えない。この添加量は所望の厚みの成形が容易となる程
度のスラリーに対し0.5%以下で充分である。型枠流
し込み成形に使用される流動性改良およびブリージング
防止用の混和剤としては、水溶性のアルキルセルロース
および/またはヒドロキシアルキルアルキルセルロース
が使用でき、具体的にはメチルセルロース、ヒドロキシ
プロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセ
ルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロースなどが例
示される。これらの成形時における保形性、潤滑性、保
水性、無機粒子の保持性などの向上のために、粗リンタ
ーに加えてアスベスト繊維を添加することもできるが、
従来の成形用アスベスト繊維であればコストに影響しな
い程度に少量、具体的には5重量%以下添加しても本発
明の目的は達成できる。
【0018】本発明のセメント組成物の主剤であるセメ
ントモルタルは周知のセメント材料である、骨材、水、
その他の添加剤等からなるが、ここに使用されるセメン
ト材料には通常のポルトランドセメントのほか、アルミ
ナセメント等の特殊セメントもコストに影響しない範囲
で使用することもできる。骨材としてはケイ石、好まし
くはセメント程度の粒度のシリカ粉も使用でき、さらに
パーライト、パーミキュライト、フライアッシュなどの
軽量骨材のほか、ケイ砂5〜12号も本発明に支障のな
い範囲で使用できる。添加する水の量としては押出また
は抄造成形できる範囲内であれば差し支えなく、例えば
セメントおよびケイ石などの無機成分100重量部に対
し、押出成形の場合で概ね20〜50重量部、抄造成形
および型枠流し込み成形の場合で50〜400重量部の
割合で添加するのが好ましい。
【0019】
【実施例】以下、本発明の具体的態様を実施例および比
較例により説明するが、本発明はこの実施例に限定され
るものではない。 実施例1 綿実から長毛繊維(リント)を刈り取った後に分離され
たままの短毛繊維である、未精製粗リンターを綿状のま
ま、普通ポルトランドセメント70重量部、ケイ石(鳥
屋根社製)30重量部と共に、表1に示す条件で、さら
に水、バインダーを加え、ヘンシェルミキサーにより5
00rpmで3分間混合した後、容量10リットルの双
腕ニーダーで5分間混練し、ついで押出成形機(石川時
製作所社製)を用いて幅75mm、間隙6mm、ダイス
よりシート状に押出成形して成形状態を観察した、この
際、シート両端に亀裂が生じない状態を○、亀裂が生じ
た場合を×として評価した。
【0020】また、押出成形機より吐出直後の成形物を
30g採取し、丸めてビニール袋に入れ、45℃の恒温
装置内で養生し、この丸めた成形物に20kgの重石を
かけて変形しなくなるまで要する時間を測定し、硬化時
間とした。さらに、得られた成形体(シート)につい
て、まず45℃、相対湿度100%の下で24時間養生
し、ついでオートクレーブ中で170℃、9kg/cm
2の加圧下に8時間養生した後、下記の方法で衝撃強
度、曲げ強度、圧縮強度と釘打ち性を測定した。また、
表中のパルプコストは故紙パルプの添加量5重量部にお
ける成形体に占めるコストを1とした場合の比率で表わ
した。なお、使用したバインダーの詳細も下記に示し
た。
【0021】(測定法) 衝撃強度: JIS K−6971に準じたシャルピー衝撃強度によ
る。 曲げ強度および圧縮強度: JIS R−5201に準じた曲げ圧縮強度による。 釘打ち性: 成形体(押出成形の場合は間隙15mmのダイスより成
形したもの)を、45℃、相対湿度100%の下で24
時間養生し、さらにオートクレーブ中で170℃、9k
g/cm2の加圧下で8時間養生したものについて、直
径2mmの釘を打ったときに、成形体が割れなかったも
のを○、割れたものを×とした。
【0022】(バインダー) A:90SH−100000(信越化学工業社製、ヒド
ロキシプロピルメチルセルロース、2%水溶液の20℃
での粘度が80,000cps) B:90SH−15000(同社製、同、2%水溶液の
20℃での粘度が15,000cps) C:SEW−15T(同社製、ヒドロキシエチルメチル
セルロース、2%水溶液の20℃での粘度が15,00
0cps) D:SM−8000(同社製、メチルセルロース、2%
水溶液の20℃での粘度が8,000cps)
【0023】比較例1 故紙パルプ(未晒し砕木パルプよりの)、未晒し広葉樹
および針葉樹砕木パルプ、並びにリンターパルプ(棉か
ら得られたリンターに希薄水酸化ナトリウム水溶液によ
る煮沸、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系漂白剤による漂
白、酸による脱灰等の一連の処理を施して得られたも
の)について、予め各シート重量の16倍の水に分散さ
せた後、表1、表2に示す添加水量(水比)となるよう
に脱水し、セメント70重量部、ケイ石30重量部と共
に表示のバインダーを加えてヘンシェルミキサーに投
じ、実施例と同様に処理し同様に測定した。
【0024】比較例2 実施例1において未精製粗リンターの代わりにアスベス
ト6D−3(レイク社製)を加えたほかは表2に示す条
件で同様に成形し、同様の測定を行った。以上の結果を
表1および表2に示した。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】実施例2 実施例1で用いたのと同じ未精製粗リンターを、表3に
示す条件で、普通ポルトランドセメント70重量部、ケ
イ石(鳥屋根社製)30重量部と共に、ヘンシェルミキ
サーにより500rpmで3分間混合した後、これを同
表に示す水を満たしたアイリッヒミキサーに入れて5分
間撹拌混合し、得られたスラリーをアジテーターの付い
た70×90×60cmの容量の抄造槽に移し替え、表
示量の凝集剤としてのポリアクリルアミドを加え、直径
500mm、長さ480mmのワイヤーシリンダーを1
0m/分の速度で回転させて抄造し、圧力50kg/c
2のプレスロールでプレスして厚み10mmのシート
とした。
【0028】この成形物を45℃、関係湿度100%の
下で24時間養生した後、成形物表面をB鉛筆で擦って
も傷が付かない程度に硬化し、これに要した時間をもっ
て硬化時間とした。この成形物をさらに170℃、95
0kg/cm2のオートクレーブ内で8時間養生し、前
例と同様の方法で衝撃強度、曲げ強度、釘打ち性を測定
し、これらの結果を前例と同様の方法で求めたパルプコ
ストと共に表3に併記した。
【0029】比較例3 故紙、未晒しの広葉樹および針葉樹パルプ、並びにリン
ターパルプ(棉から得られたリンターに希薄水酸化ナト
リウム水溶液による煮沸、亜塩素酸ナトリウム等の塩素
系漂白剤による漂白、酸による脱灰等の一連の処理を施
して得られたもの)をそれぞれの重量の16倍の水に分
散させた後、セメント70重量部とケイ石30重量部を
加え、さらに表3に示す条件となるように水を加えてア
イリッヒミキサー中で混合し、実施例2と同様に成形し
て測定を行った。
【0030】比較例4 実施例2における未精製粗リンターに代えてアスベスト
6D−3を使用し表3に示す条件で行った他は同様に成
形して測定した。
【0031】
【表3】
【0032】実施例3 実施例1で用いたのと同じ未精製粗リンターを表4に示
す条件で普通ポルトランドセメント70重量部、ケイ石
(前出)30重量部と共に、実施例1で示した略符号の
バインダーを表4に示す量加えて、ヘンシェルミキサー
により500rpmで3分間混合した後、オムニミキサ
ー(千代田技研社製)へ入れ、表4に示す水比の水を添
加して最大速度で回転させ、5分間混合した。混合によ
って得られたスラリーを厚さ15mm、幅20mm、奥
行き40mmの型枠に流し込み、25℃、100%の湿
度下で養生して成形体がB鉛筆で擦っても傷つかない程
度まで硬化させた(これに要した時間を硬化時間とし
た)。硬化した成形体を脱型して、衝撃強度、曲げ強
度、釘打ち性を測定し、これらの結果を前例と同様にし
て求めたパルプコストと共に表4に示した。
【0033】比較例5 故紙、未さらしの広葉樹および針葉樹パルプ並びにリン
ターパルプ(綿から得られたリンターに希薄水酸化ナト
リウム水溶液による煮沸、次亜塩素酸ソーダ等の塩素系
漂白剤による漂白、酸による脱灰等の一連の処理をして
得られたもの)をそれぞれ実施例3に示す粗リンターに
代えて使用し、表4に示す条件で成形して測定した。
【0034】比較例6 実施例3における未精製粗リンターに代えてアスベスト
6D−3を使用し表4に示す条件で行ったほかは同様に
成形して測定した。
【0035】
【表4】
【0036】
【発明の効果】本発明によれば、従来のアスベスト/セ
メント系の成形体と同等ないし1/3程度のコストであ
りながら、これと同程度の衝撃・曲げ・圧縮強度を有
し、優れた押出し、抄造、型枠流し込み成形性を確保
し、得られる成形品に釘打ちや鋸引き等の加工性を付与
することができる。

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】未精製粗リンターを補強繊維として含有す
    るセメント組成物。
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