JP2739420B2 - 人工血管 - Google Patents

人工血管

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JP2739420B2
JP2739420B2 JP24381993A JP24381993A JP2739420B2 JP 2739420 B2 JP2739420 B2 JP 2739420B2 JP 24381993 A JP24381993 A JP 24381993A JP 24381993 A JP24381993 A JP 24381993A JP 2739420 B2 JP2739420 B2 JP 2739420B2
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一衛 片見
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、医療用途に用いられる
人工血管に関し、さらに詳しくは、大動脈、末梢動脈、
冠状動脈、あるいは静脈などの血行再建に適用する延伸
四フッ化エチレン(PTFE)チューブからなる人工血
管に関する。
【0002】
【従来の技術】人工血管は、生体血管の病変部位と切除
した欠損部の補填や病変部を迂回して血行を維持するバ
イパスとして、あるいは血液透析で血液の体外循環のた
めに使用する血液導管として、さらにはシャントチュー
ブ等として使用されている。人工血管の材質としては、
可撓性や生体適合性に優れる延伸PTFE製のチューブ
が汎用されている。延伸PTFEは、繊維と該繊維を連
結する結節とからなる微細な繊維−結節構造を有してお
り、該構造が多孔質体を形成している。延伸PTFEチ
ューブ製の人工血管は、素材のPTFE自体が抗血栓性
に優れていることに加えて、微細な繊維−結節構造が生
体適合性に優れているため、特に、中口径・小口径動
脈、あるいは静脈の血行再建術ならびに種々のシャント
手術などに広く使用されている。
【0003】しかしながら、延伸PTFEチューブで
も、抗血栓性が十分ではなく、長期開存率の向上が求め
られている。人工血管の長期開存率を向上させるために
は、素材自体の抗血栓性を向上させることと共に、内膜
(パンヌス)を安定して形成させることが重要である。
即ち、人工血管における内膜は、一般に、次のような機
序で形成される。先ず、人工血管内面(内腔面)に血小
板の付着等により初期血栓膜が形成される。移植後の血
液反応が落ち着くと、該血栓膜は安定化する。その上
を、主として生体血管との吻合部より平滑筋細胞及び内
皮細胞が内膜として進展し、人工血管内面に仮性内膜が
形成される。この内膜によって、長期抗血栓性が獲得さ
れ、長期開存を得る。人工血管内面に内膜が形成され、
長期開存率が向上するには、人工血管内面に薄い初期血
栓膜が安定して形成されること、形成された内膜が剥離
しないこと、内膜肥厚を来さないこと等が必要である。
【0004】ところで、現在、実用化されている延伸P
TFEチューブ製人工血管は、遠隔期での開存成績は必
ずしも良好ではない。その理由は、従来の延伸PTFE
チューブ製人工血管は、平均繊維長(平均結節間距離)
が10〜30μm程度と短いため、周辺組織から延伸P
TFEの多孔質孔隙へ侵入する組織量が少なく、吻合部
生体血管より進展した内膜に対して十分なアンカーリン
グ効果を示さないことにあると考えることができる。そ
のため、人工血管内面に形成された内膜の剥離を招来
し、結果的に吻合部内膜肥厚、さらには閉塞の一因にも
なるという問題がある〔赤羽ら、人工臓器 14,96
7(1985)〕。特に、小孔径の分野での開存率が低
い。また、平均繊維長が短いと、人工血管壁が堅くな
り、縫合時に針が通りにくく、手術失宜を起こし易いと
いう問題もある。
【0005】一方、実験的な研究例では、平均繊維長が
60〜100μmと長い延伸PTFEチューブ製人工血
管について報告されている〔Florian et a
l.,Arch Surg lll,267(198
0)〕。しかし、このように平均繊維長が長いと、人工
血管の壁孔隙や内腔面での血栓形成が大きく、しかも、
周囲組織からの壁孔隙への組織侵入性が高くなり、結果
的に内膜肥厚を招来し、閉塞するという問題点がある。
また、平均繊維長が長すぎると、血流再開時に壁孔を通
して漏血したり、人工血管自体の強度が小さくなるとい
う欠点がある。
【0006】これに対して、最近、異なる孔径を有する
少なくとも二層の多孔質PTFEチューブからなる多層
人工血管が提案されている(特開平3−280949
号)。この多層人工血管は、外層からの細胞の侵入性を
良くすることにより、人工血管の器質化を図るという点
では十分な効果が得られるものの、内腔面での内膜安定
性に関しては、従来の延伸PTFEチューブ製の人工血
管と同様、剥離し易く不満足なものである。さらに、各
層の厚さが極端に薄いため、強度が小さく、変形し易い
という欠点もある。この欠点を回避するため、各層の厚
さを確保すると、全体の壁厚が宿主血管より大幅に厚く
なり、口径のミスマッチを生じて、かえって閉塞の原因
となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、内膜
肥厚(吻合部を含む)を防止し、かつ、十分な内膜のア
ンカーリング効果を示し、しかも、縫合し易い延伸PT
FEチューブ製の人工血管を提供することにある。本発
明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意
研究した結果、人工血管を二層の延伸PTFEチューブ
から構成すると共に、外層の平均繊維長を内層の平均繊
維長より小さくすること、望ましくは、外層の平均繊維
長を20〜40μm、内層の平均繊維長を60〜200
μmとすることにより、前記目的を達成できることを見
出した。本発明の人工血管は、必要に応じて、外層と内
層の積層界面を剥離することができる。内外層の積層界
面が剥離可能であることにより、宿主血管との口径にミ
スマッチが生じた場合でも、吻合部近傍の外層部を剥離
・切除して縫合することが可能であり、その結果、宿主
血管断端部が内腔へ露出することがなく、手術失宜によ
る閉塞を回避することができる。本発明は、これらの知
見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】かくして、本発明によれ
ば、繊維と該繊維を連結する結節とからなる微細な繊維
−結節構造を有する延伸ポリ四フッ化エチレンからなる
チューブを二層積層した人工血管であって、外層の平均
繊維長が内層の平均繊維長より小さいことを特徴とする
人工血管が提供される。
【0009】以下、本発明について詳述する。図1は、
本発明の二層人工血管の外観図であり、平均繊維長は、
外層1の方が内層2よりも小さくなっている。人工血管
の内・外層は、接合面3で緩く接着しており、外層を内
層から容易に剥離できるようになっている。吻合に際し
ては、内・外層を一体的に生体血管と吻合することがで
きるが、孔径にミスマッチがある場合には、外層を剥離
・除去して、内層のみでも生体血管と縫合可能である。
したがって、本発明の人工血管は、宿主血管の壁厚にあ
る程度応じた壁厚で縫合できるという長所がある。
【0010】このような二層構造の延伸PTFEチュー
ブ製人工血管は、例えば、特開平3−280949号に
示される多層人工血管の製法を応用して製造することが
できる。具体的には、先ず、PTFE微粉末に液状潤滑
剤を混和し、次いで、ペースト押出によりチューブに成
型する。この成型物から液状潤滑剤を除去し、あるいは
除去することなく、成型物を少なくとも一軸方向に延伸
する。
【0011】この際、二種類の延伸PTFEチューブを
作る。一方は、内層用で平均繊維長の大きいチューブで
あり、他方は、外層用で平均繊維長が小さく、かつ、そ
の内径が前記内層用チューブの外径より少し大きくした
チューブである。平均繊維長は、一般に、延伸倍率を調
節することによって変えることができる。次に、前記内
層用チューブの内径に、その外径が概略等しいステンレ
スなどの耐熱性材料で形成したパイプまたは棒(支持
棒)を用意し、この支持棒を前記内層用チューブの内腔
に挿入し、次に、その外周に前記外層用チューブを挿入
する。両端部を固定した状態で、PTFEの融点以上に
加熱して、二種類のチューブを焼結一体化する。冷却
後、支持棒を抜き去ると、二層構造の延伸PTFEチュ
ーブが得られる。二層のチューブの接合面(積層界面)
は、二種類のチューブの元の延伸構造が保持されている
状態では完全に融合してしまうことはなく、容易に両者
を剥離することが可能である。また、接合面において隔
壁ができることもない。
【0012】一般に、延伸PTFEの繊維長を大きくす
ると、周囲組織による器質化が促進されることによって
新生内膜のアンカーリングが向上し、開存性にとってプ
ラス要因となる。しかし、他方で、繊維長を大きくする
と、漏血性が高くなり、血腫や漿液腫を生じ易くなるほ
か、人工血管としての強度が小さくなる。強度が小さく
なると、短縮、捩れなどの変形が起こり易くなり、内腔
面での血栓形成の素因となる。また、器質化の促進自体
が新生内膜の肥厚を促し、これらの原因によって内腔狭
窄、さらには閉塞を招来する可能性があるなどの欠点が
ある。
【0013】これに対して、本発明の特定の二層構造の
延伸PTFEチューブからなる人工血管は、これらの欠
点に対処し得るものである。即ち、漏血に対しては、外
層に平均繊維長20〜40μmの延伸PTFEを用いる
ことで防止でき、さらに、外層は、平均繊維長60〜2
00μmを有する内層の短縮、捩れなどの変形を阻止す
ることによって、過度の初期血栓形成を防止し、その後
の新生内膜の肥厚を抑制することが可能である。一方、
外層が繊維長20〜40μmの延伸PTFEであるた
め、周囲組織より人工血管壁内への組織侵入は比較的容
易ではあるが、過剰にならす、内・外層とも器質化が適
度に進行し、新生内膜は、内層延伸PTFEと強く密着
して、内膜剥離が生じ難いため、遠隔期においても安定
な薄い内膜が保持され、高い開存性が得られる。また、
二層化したことにより、壁厚が厚くなり宿主血管との口
径にミスマッチが生じる場合には、吻合部近傍の外層部
を剥離・切除して縫合することが可能であり、宿主血管
断端部が内腔へ露出することがなく手術失宜による閉塞
を回避することができる。すなわち、本発明の人工血管
は、吻合部近傍の外層を剥離・切除して使用することが
できる。
【0014】
【実施例】以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明に
ついてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実
施例のみに限定されるものではない。
【0015】[実施例1〜2、及び比較例1〜4] 延伸PTFEチューブとして、平均繊維長が30μm、
60μm、90μm、及び200μmの単層チューブ
(比較例1〜4)、ならびに90μm/30μm及び2
00μm/30μmの二層チューブ(実施例1〜2)を
作成した。単層チューブの外径は3.0mmで、内径は
2.0mmであった。平均繊維長90μm(内層)/3
0μm(外層)の二層チューブ、及び平均繊維長200
μm(内層)/30μm(外層)の二層チューブは、内
層の外径は3.0mmで、内径は2.0mmであり、外
層の外径は4.0mmで、内径は3.0mmであった。
これらの6種類の試作チューブをニュージーランド・ホ
ワイト系家兎(雄、体重3kg前後)の総頚動脈に移植
し、縫合性、漏血性、初期血栓膜形成ならびに移植12
週での開存率、内皮化率、内膜厚、内膜安定性などを調
べた。結果を表1に示す。
【0016】
【表1】
【0017】(脚注) (1)平均繊維長:走査型電子顕微鏡写真を用いて結節
間距離を測定した平均値。 (2)開存率:人工血管を家兎に移植後、12週飼育し
た後の、その時点で血流が認められた人工血管の本数の
移植した全体数に対する比率。 (3)短縮率:人工血管を家兎に移植後、12週飼育し
た後に取り出した人工血管の当初の長さに対する百分
率。
【0018】表1に示すように、縫合性については、平
均繊維長30μmの単層チューブ(比較例1)では、や
や堅く縫いずらいが、二層チューブ(実施例1〜2)
は、外層を剥離して、壁厚を宿主血管に合わせるように
して縫合したため、縫合性は良好であり、平均繊維長が
60μmや90μm、200μmの単層チューブの場合
と同様に縫い易かった。漏血性については、平均繊維長
が60μmや90μm、200μmの単層チューブ(比
較例2〜4)は、血流再開に際して壁孔隙から多量の漏
血が生じたが、二層チューブ(実施例1〜2)では、漏
血は殆ど認められなかった。
【0019】移植初期の内面の血栓膜は、平均繊維長が
60μmや90μm、200μmの単層チューブ(比較
例2〜4)に比べて、二層チューブ(実施例1〜2)で
は、かなり薄く形成された。開存率は、当該試験期間内
では、各チューブ間で大きな差は認められなかったが、
二層チューブ(実施例1〜2)で若干高い傾向を示し
た。内皮化率は、平均繊維長30μmの単層チューブ
(比較例1)に比べ、平均繊維長が60μmや90μ
m、200μmの単層チューブ(比較例2〜4)で大き
くなったが、二層チューブ(実施例1〜2)では、両者
の中間の値を示した。
【0020】短縮率については、平均繊維長が60μm
や90μm、200μmの単層チューブ(比較例2〜
4)では、10〜30%程度の長さの短縮が見られたの
に対して、二層チューブ(実施例1〜2)では、人工血
管の短縮は殆どないか10%未満であった。人工血管壁
内の器質化は、各チューブとも良好であった。内膜厚
は、平均繊維長が60μmや90μm、200μmの単
層チューブ(比較例2〜4)では、平均繊維長30μm
の単層チューブ(比較例1)と比べて、厚くなるととも
に不均一であった。一方、二層チューブ(実施例1〜
2)では、内膜は比較例1におけるよりも更に薄く、か
つ、均一であった。
【0021】平均繊維長が30μmの単層チューブ(比
較例1)では、延伸PTFEチューブ内腔面と新生内膜
との境界に一部剥離した所見が得られたが、平均繊維長
が60μmの単層チューブ(比較例2)では、その傾向
が改善され、平均繊維長が90μm、200μm(比較
例3〜4)や二層チューブ(実施例1〜2)では、剥離
所見がなく、新生内膜のアンカーリングは良好であっ
た。その他、平均繊維長が60μmや90μm、200
μmの単層チューブ(比較例2〜4)では、フィブリル
の弛みや内腔のたわみが認められたが、二層チューブ
(実施例1〜2)では、そのような所見も改善されてい
た。
【0022】以上の実施例及び比較例から、延伸PTF
Eチューブ製人工血管の内層の平均繊維長は、60μm
未満では問題はあるが、60μm以上であれば、所期の
目的を果たすことができると考えられる。また、外層の
平均繊維長は、初期の漏血を防ぎ、かつ、細胞の侵入を
防げない30μmを中心に、20〜40μmという比較
的狭い範囲に最適値がある。
【0023】
【発明の効果】本発明の人工血管によれば、延伸PTF
Eチューブを剥離可能な二層構造にして、かつ、外層の
平均繊維長を内層の平均繊維長より小さくしたことによ
り、実用的な強度が得られ、漏血が防止でき、初
期血栓膜及びその後の新生内膜が薄く、この内膜が人
工血管内腔面より剥離することなく、縫合性も良くな
った。その結果、閉塞を防止することができ、優れた性
能を発揮する人工血管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の二層構造の人工血管の斜視図で
ある。
【符号の説明】
1 外層の延伸PTFEチューブ 2 内層の延伸PTFEチューブ 3 内外層の接合面 4 人工血管内腔面 5 人工血管断端部

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 繊維と該繊維を連結する結節とからなる
    微細な繊維−結節構造を有する延伸ポリ四フッ化エチレ
    ンからなるチューブを二層積層した人工血管であって、
    外層の平均繊維長が内層の平均繊維長より小さいこと
    特徴とする人工血管。
  2. 【請求項2】 外層の平均繊維長が20〜40μmで、
    内層の平均繊維長が60〜200μmである請求項1記
    載の人工血管。
  3. 【請求項3】 吻合部近傍の外層の一部を内層から剥離
    ・切除して、宿主血管断端部と縫合することが可能な請
    求項1記載の人工血管。
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