JP2690791B2 - 加工性の優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法 - Google Patents

加工性の優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法

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【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は、強度が50kgf/mm2以上、特に60〜90kgf/mm2
の高強度にて、伸びフランジ性等の加工性と溶接性が優
れる熱延鋼板及びその製造方法に関し、主に板厚4mm以
下の自動車の補強部材及び足回り部材の用途に好適であ
る。
(従来の技術及び解決しようとする課題) 近年、自動車等の構造材として用いられている熱延鋼
板は、安全性や燃費向上のために、板厚のゲージダウン
と高強度化の傾向を益々高めている。これに伴い加工
性、溶接性等の実用特性への要望も厳しくなりつつあ
る。
従来より、熱延鋼板において高強度を確保するための
方法として、鋼中にTi、Nb等の特殊元素を添加する方
法(例、特開昭60−56024号)、C量を増加する方法
(例、特開昭52−123920号)、硬質相(マルテンサイ
ト)を導入する方法(例、特開昭55−44551号)などの
技術が提案されている。
しかし、の方法は、Ti、Nb等の強力な炭窒化物形成
元素を利用するので、コスト高を招くばかりでなく、強
度確保に限界があり、しかも熱間圧延時の変形抵抗を高
めるため、圧延性を損なうという問題がある。
の方法のように、C量の増加は高強度を得るために
最も容易な方法ではあるが、加工性や溶接性の劣化を招
くという問題がある。
一方、の方法のように、マルテンサイトの導入は降
伏比を下げ、全伸びを改善させる有効な方法ではある
が、伸びフランジ性に好ましくない。また、溶接部の硬
度が母材部より低下する問題のほか、マルテンサイトの
安定導入のため熱間圧延後の巻取温度を400℃以下、好
ましくは300℃以下の極低温にする必要がある。このよ
うな低温域ではコイルの全長にわたって温度を安定化さ
せることが困難となり、このことが材質の不均一性を招
く原因となり、しかもコイルの形状性を損っていた。
以上のように、これらの方法は、いずれも高強度と加
工性、溶接性を同時に満足するには至っていない。
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、加工性、
溶接等の劣化をもたらすことなく、高強度化が可能であ
り、しかも製造が容易で高品質の熱延鋼板を安価に提供
し、またその製造方法を提供することを目的とするもの
である。
(課題を解決するための手段) 前記課題を解決するため、本発明者等は、従来技術で
は、 (1)Ti、Nb等のコスト高を招く特殊元素を必要としな
いこと、 (2)加工性や溶接性の劣化を招かないこと、 (3)製造が容易であり、かつ、鋼板の形状性が良好 のいずれかが未解決と考え、このために、鋼中の元素、
結晶組織、熱間圧延、冷却条件面での制御方法について
鋭意研究を重ねた。
その結果、C−Mn系鋼にて加工性、溶接性を改善する
見地から、低減したC量による強度低下をMn増とN量の
低減により補填せんとするもので、特にNの低減が変態
組織の生成に大きな影響を及ぼすという、これまで全く
知られていない新規な知見を得るに至り、ここに本発明
をなしたものである。
すなわち、本発明は、C:0.01〜0.08%、Si≦0.10%、
Mn:1.0〜3.0%、P≦0.08%、S≦0.008%、Al≦0.06%
及びN≦0.0035%を含有し、必要に応じて更に、Cr:0.1
〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜0.6%、Ca:0.003〜
0.010%、REM:0.003〜0.010%のうちの1種又は2種以
上を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる熱延
鋼板の組織がフェライトと面積率40%以上のベイナイト
との混合組織、乃至ベイナイト単相組織であることを特
徴とする加工性の優れた高強度熱延鋼板を要旨とするも
のである。
また、その製造方法に係る本発明は、上記化学成分を
有する鋼の熱間圧延において、常法にて加熱し、仕上温
度Ar3点以上として圧延を行い、その後、冷却停止温度6
00℃まで平均冷却速度1〜100℃/secにて冷却し、次い
で300〜600℃にて巻取り、最終組織として、フェライト
と面積率40%以上のベイナイトとの混合組織、乃至ベイ
ナイト単相組織を得ることを特徴とするものである。
以下に本発明を更に詳細に説明する。
(作用) まず、本発明者等が前述の知見を得るに至った基礎実
験の結果について説明する。
第1表に示す化学成分を有する鋼を溶製し、熱間粗圧
延により30mm厚のスラブにした後、加熱温度1200℃、仕
上げ温度900℃にて3.2mm厚に仕上げ、冷却停止温度600
℃までを平均冷却速度50℃/secにて冷却した後、第1図
に示す各種巻取温度に30分間保持後炉却し、実ラインで
の巻取り〜冷却過程をシュミレートした。更に、得られ
た熱延鋼板について、1.6mm厚に両面研削を行い、1%
の調質圧延を行った後、JIS5号引張試験と穴拡げ試験
(10mmφ打抜穴)を行い、強度と伸びフランジ性を調査
した。
機械的性質と巻取処理温度との関係を第1図に示す。
これより明らかなように、低N鋼(鋼A、○印)は巻
取処理温度350〜550℃にてTS≧60kgf/mm2の高強度で、
かつ120%以上の優れた穴拡げ性が得られるのに対し、
高N鋼(鋼B、●印)は穴拡げ性は低N鋼と同等であっ
てもTSが低く、強度と加工性のバランスが悪い。またNb
添加鋼(鋼C、△印)は巻取処理温度350〜450℃にて60
kgf/mm2までの強度は確保されるものの、穴拡げ性に劣
る。また、各鋼とも巻取処理温度が200℃では急激な強
度増加と共に穴拡げ性も急激に劣化することがわかる。
このように低N鋼の高強度と高加工性が得られる理由
を明らかにするために、本発明者等は更に、加工フォー
マスターによる熱間加工後の組織の変態特性を調べた。
その結果を第2図に示すとおり、高強度が比較的高温
の巻取処理により得られた低N鋼は、高N鋼に比べ、ベ
イナイト変態が速く起り易いことが明らかとなった。し
たがって、低N鋼はベイナイトの生成し易さと面積率の
増加が高加工性と高強度化に寄与したものと考えられ
る。なお、この理由については更に今後の詳細な調査を
必要とするが、加熱状態及び熱延直後のオーステナイト
粒度では説明できず、熱延段階でのAlN等析出物の析出
分散状態が異なったためと考えられる。
以上のように、N量の低下と変態組織の生成の関係を
究明し、これを利用することにより、C量の低減による
強度低下をMn量増加とN量低減で強度を確保し、高強度
と高加工性を同時に満足できる技術を開発したものであ
る。
次に本発明における化学成分の限定理由について説明
する。
C: Cは高加工性の確保のために限定される元素であり、
0.08%よりも多いと加工性、溶接性の劣化を招く。しか
し、0.01%未満では変態組織が得られにくい。したがっ
て、C量は0.01〜0.08%の範囲とする。
Si: Siは全伸びを損なわずに強度増加に有効であるが、表
面性状を損なうため、上限値を0.10%とする。
Mn: Mnは、Nと同様、本発明の重要な成分である。すなわ
ち、強度を確保することの他に、低温変態組織(ベイナ
イト組織)を得るために不可欠であるが、1.0%未満で
は強度や低温変態組織が得にくくなる。一方、3.0%を
超えると溶接性やマルテンサイト量の増加による加工性
劣化を招くので好ましくない。したがって、Mn量は1.0
〜3.0%の範囲とする。
P: Pは固溶強化元素であり、微量で強化に寄与するが、
余り多いと加工性、靱性を損なうので、その上限値を0.
08%とする。
S: Sは非金属介在物として析出し、鋼板の加工性を劣化
させるため、0.008%以下にする必要があり、好ましく
は0.003%以下である。
Al: Alは主に脱酸作用により鋼の健全性を確保するために
添加されるが、多すぎると析出物が増し、加工性を損な
うため、上限値を0.06%とする。なお、脱酸が充分に行
なわれば0.008〜0.030%が望ましい。
N: Nは、本発明ではC、Mnと同様、重要な成分であり、
前述のようにフェライト変態の抑制とベイナイト変態促
進のために規制される。すなわち、0.0035%より多いと
フェライト変態が促進され、目的とする強度が得られに
くくなるばかりでなく、目的とする材質を得るための冷
却条件の制御が厳しくなるので、上限値を0.0035%とす
る。なお、その下限値は低いほど好ましいので特に制限
されないが、現状の製鋼技術、コストを考慮すると、0.
0008%以上が望ましい。
本発明においては、上記成分の他に、必要に応じて以
下の元素の1種又は2種以上を適量で含有させることが
できる。
Cr、Ni: Cr、Niは焼入性向上元素であり、低温変態組織の生成
を促進して、強化に寄与するが、いずれも0.1%未満で
はその効果が小さく、また余りに多いとマルテンサイト
等の高硬質相を生成し、加工性を損なうばかりか、コス
ト増になる。したがって、Cr量とNi量はそれぞれ0.1〜
1.0%の範囲とする。
Cu: Cuは強化や耐食性に寄与する元素であり、その効果を
発揮するためには0.1%以上の添加が必要であるが、余
り多いと効果が飽和するばかりでなく、コスト増となる
ため、Cu量は0.1〜0.6%の範囲とする。
Ca、REM: Ca、REM(希土類元素)は硫化物形態制御を通して加
工性、特に伸びフランジ性の改善に寄与する成分であ
る。しかし、それぞれ0.003%未満ではその効果を発揮
できず、一方、0.010%を超えてもその効果が飽和に達
し、却ってコスト増を招き、また清浄性を劣化する。し
たがって、Ca量とREM量はそれぞれ0.003〜0.010%の範
囲とする。なお、REMは希土類元素の1種又は2種以上
を用いることができることは云うまでもない。
次に、本発明法の製造条件について説明する。
上記化学成分を有する鋼スラブは、常法による造塊又
は連続鋳造により得た後、ホットコイルにするが、以下
のとおり、熱間圧延と冷却条件を規定するものである。
スラブ加熱温度: スラブ加熱温度は特に限定するものではないが、常法
の1100℃以上であれば良い。また省エネルギーを図るに
は1000℃以上でも良い。
仕上温度: 熱間圧延の仕上温度は、冷却速度、冷却停止温度の影
響を小さくするため、ベイナイト組織が生成し易いAr3
点以上とする。好ましくは850〜950℃である。
冷却速度: 仕上圧延後の冷却速度については、前述のように本発
明の特徴であるN量の低減によるベイナイト変態の促進
のため、それほど速い冷却を必要とせず、平均冷却速度
で1〜100℃/secで良い。しかし、1℃/sec未満ではフ
ェライト、パーライト量が増え、ベイナイト量が少ない
ために目的とする強度が得られず、また100℃/secを超
えるとマルテンサイト量が増え、伸びフランジ性を劣化
させるので好ましくない。なお、冷却パターンは等速冷
却、及び途中でステップを行うステップ冷却のいずれを
用いても良い。
冷却停止温度: 上記冷却速度での冷却停止温度は、パーライト変態が
なく、ベイナイト変態が生じ易くなる600℃以下とす
る。
巻取温度: 第1図からも明らかなように350〜600℃の範囲とす
る。すなわち、350℃未満ではマルテンサイト量が増
し、加工性が劣化し、更に鋼板の形状性が悪くなって商
品価値を失うほか、コイル長手方向での材質変化が大き
くなるので好ましくない。一方、600℃を超えると上述
の冷却停止温度と同様の理由により目的とする強度が得
られないので好ましくない。
調質圧延: 必要により、伸び率0.5〜1.2%の圧延を実施すること
ができる。
得られたコイルは、必要により、酸洗が施される。
また、上記以外の圧延方法として、直接圧延法(HD
R)、熱片装入圧延法(HCR)を用いても良い。更に、冷
却停止温度から巻取温度までの冷却速度は特に規定する
ものではないが、1〜65℃/secが望ましい。
かくして、得られる熱延鋼板の組織の形態は、フェラ
イト以外の低温変態組織がベイナイトである。その面積
率は、強度確保のため、40%以上が必要であり、100%
(ベイナイト単相組織)も可能である。なお、この場合
のベイナイトは、いわゆるアシキュラーフェライト、ベ
イナイティックフェライト、下部ベイナイト、上部ベイ
ナイトを云い、上部ベイナイト中に生成する微細な島状
マルテンサイトも含包される。
(実施例) 次に本発明の実施例を示す。なお、本発明はこの実施
例のみに限定されないことは云うまでもなく、また前述
の基礎実験も実施例足り得るものである。
実施例1 第2表に示す化学成分を有する鋼を溶製し、30mm厚の
スラブとした。次いで、本発明範囲内の条件にて、3.2m
m厚の熱延鋼板を得た。すなわち、加熱温度1200℃、仕
上温度約900℃、冷却速度約50℃/sec、冷却停止温度450
℃とし、30分保持後、炉冷を行い、巻取処理を行った。
得られた熱延鋼板について、1.6mm厚まで機械研削し
た後、1%の調質圧延を行い、引張試験(JIS5号試
験)、穴拡げ試験(穴拡げ性)、重ね合わせアーク溶接
試験(溶接性)、ミクロ組織の同定等を行った。それら
の結果を第2表に併記する。
なお、穴拡げ率は、初期穴径10mmφとし、{(初期穴
径)−(試験後穴径)}/(初期穴径)×100の式によ
り求め、穴拡げ性を評価した。
また、溶接性は、溶接後のHAZの硬度が母材と同等或
いは高いものを○、母材よりも低いものを×にて評価し
た。
第2表より、本発明鋼のNo.1〜No.15は、フェライト
と50%以上のベイナイト組織からなり、強度、穴拡げ性
に優れ、しかも溶接性も問題がないことが明らかであ
る。
一方、比較鋼No.16〜No.28はいずれも本発明範囲外の
化学成分を有する鋼である。具体的には、No.16とNo.17
はC量が本発明範囲外であり、No.18はSi量が多く、No.
19はMn量が少なく、No.20はP量が多く、No.21はS量が
多く、No.22はAl量が多く、No.23はN量が多い例であ
る。またNo.24〜No.28はCr、Ni、Cu、Ca、Ce(REM)が
それぞれ本発明範囲外の例である。
これらの比較鋼はいずれも、強度、穴拡げ性、溶接性
のいずれかが目標に達せず、特にマルテンサイトが増す
と高強度は得られるものの、穴拡げ性、溶接性共に劣化
することが明らかである。
実施例2 実施例1で用いた本発明範囲内の化学成分を有するN
o.1の鋼を用いて、第3表に示す種々の条件で熱間圧
延、冷却を行った。なお、他の条件は実施例1と同様と
した。
得られた熱延鋼板について、実施例1と同様、組織構
成を調べると共に、機械的特性、穴拡げ性、溶接性を調
べた。それらの結果を第3表に併記する。
第3表において、No.1は実施例1における本発明鋼N
o.1と同じであり、No.1−1〜No.1−3は本発明範囲内
の条件による例であり、いずれも、目標組織が得られ、
機械的性質、穴拡げ性、溶接性共に優れていることがわ
かる。
これに対して、熱延仕上温度が低いNo.1−4、冷却速
度が本発明範囲外であるNo.1−5とNo.1−6、冷却停止
温度が高いNo.1−7、巻取温度が本発明範囲外であるN
o.1−8とNo.1−9は、いずれも、強度、穴拡げ性、溶
接性、ミクロ組織のいずれかが満足できず、本発明の目
標外にあることは明白である。
(発明の効果) 以上詳述したように、本発明によれば、引張強さ50kg
f/mm2以上、特に60〜80kgf/mm2の高強度熱延鋼板におい
て、加工性、特に伸びフランジ性の著しい向上と溶接性
の向上を図ることができる。しかも、本発明の方法によ
れば、Ti、Nb等の特殊元素を必要としないため安価であ
り、かつ、圧延中の変形抵抗が小さいため圧延が容易で
ある。更に、急速冷却や極低温巻取り等の厳しい条件を
必要としないため、鋼板の形状性が良く、コイル内での
材質変動も小さくなることから、生産性、製品の歩留り
等も格段に向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
第1図は各種化学成分を有する熱延鋼板における機械的
性質と巻取温度との関係を示す図、 第2図は上記鋼の加工フォーマスターによるフェライト
以外の相の変態率と冷却速度との関係を示す図である。

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で(以下、同じ)、C:0.01〜0.08
    %、Si≦0.10%、Mn:1.0〜3.0%、P≦0.08%、S≦0.0
    08%、Al≦0.06%及びN≦0.0035%を含有し、残部が鉄
    及び不可避的不純物からなる熱延鋼板の組織がフェライ
    トと面積率40%以上のベイナイトとの混合組織、乃至ベ
    イナイト単相組織であることを特徴とする加工性の優れ
    た高強度熱延鋼板。
  2. 【請求項2】前記鋼が、更に、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1
    〜1.0%、Cu:0.1〜0.6%、Ca:0.003〜0.010%、REM:0.0
    03〜0.010%のうちの1種又は2種以上を含有するもの
    である請求項1に記載の加工性の優れた熱延鋼板。
  3. 【請求項3】請求項1又は2に記載の化学成分を有する
    鋼の熱間圧延において、常法にて加熱し、仕上温度Ar3
    点以上として圧延を行い、その後、冷却停止温度600℃
    まで平均冷却速度1〜100℃/secにて冷却し、次いで300
    〜600℃にて巻取り、最終組織として、フェライトと面
    積率40%以上のベイナイトとの混合組織、乃至ベイナイ
    ト単相組織を得ることを特徴とする加工性の優れた高強
    度熱延鋼板の製造方法。
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