JP2650737B2 - 応力測定方法 - Google Patents

応力測定方法

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、物体に生じる応力を、超音波を利用して測
定する応力測定方法に関する。
〔従来の技術〕
近年、機械加工はますますその高精度化が要望される
とともに、加工製品の高性能や長寿命等も要望されてい
る。ところで、加工製品の性能や寿命は、加工により加
工製品に生じる応力が大きく関与し、この応力を測定す
ることにより加工製品の性能や寿命を評価することがで
きる。従来、応力の測定方法として超音波を用いる測定
方法が理論的に知られている。その概略を図により説明
する。
第3図は超音波による応力測定方法を説明する系統図
である。図で、1は加工された試料、2は試料1を載置
する台、3は超音波プローブを示す。超音波プローブ3
は、球面レンズ3a、球面レンズ3aの上面に設置された圧
電薄膜3b、および圧電薄膜3bの電極3cで構成されてい
る。球面レンズ3aの開口は可成り広い寸法に選定されて
いる。4は電極3cにパルス電圧を印加するパルス発振
器、5は電極3cに発生する超音波反射波信号(エコー信
号)を受信してこれに応じたビデオ信号を出力する受信
器、6はビデオ信号を入力してエコー信号波形を表示す
るデイスプレイ装置(CRT)である。7は台2を駆動す
る駆動機構を示す。試料1と球面レンズ3の間には図示
されていないが水が介在せしめられている。
パルス発振器4から電極3cに電圧が印加されると、圧
電薄膜3bは超音波を放射し、この超音波は球面レンズ3a
および水を介して試料1に向けて集束され、その放射経
路に存在する各界面で反射する。反射された超音波は再
び水および球面レンズ3aを介して圧電薄膜3bに達する。
これにより圧電薄膜3bの電極3cには、反射された超音波
に応じた信号(エコー信号)が発生する。このエコー信
号は受信器5で受信処理された後、デイスプレイ6に表
示される。
ところで、球面レンズ3aから放射された超音波の焦点
と試料1の表面とが一致したときの両者の垂直方向(Z
軸方向)の位置を0とし、両者が接近する移動方向を負
方向とし、駆動機構7を駆動して試料1を球面レンズ3a
に接近させながらエコー信号の大きさを採取してゆく
と、特定の曲線(この曲線はV(Z)曲線と称されてい
る)が得られることが知られている。この曲線が第4図
に示されている。第4図で、横軸にはZ軸方向の距離
が、又、縦軸にはエコー信号の大きさがとられている。
ΔZはV(Z)曲線の周期を示す。このようなV(Z)
曲線が生じる理由を図により説明する。
第5図は加工母材表面近傍を示す図である。図でsは
母材、oは母材sを加工したときに生じる加工変質層、
fは水の層を示す。ZはZ軸方向の距離、XはZ軸と直
角のX軸方向の距離を示す。球面レンズ3aと試料1とが
位置0の関係にあるとき、超音波ビームAの焦点は破線
で示されるように加工変質層oの表面の一点に集束して
いるが、駆動機構7が駆動されて試料1が球面レンズ3a
に接近するにしたがって焦点のずれが大きくなり、図
中、距離Xで示される超音波照射領域が大きくなる。こ
のとき、加工変質層oにおける当該領域には弾性表面波
Rが生じ、この弾性表面波Rと表面反射波との間で干渉
が発生する。この干渉は試料1と球面レンズ3aとのZ軸
方向の位置に応じて強められたり弱められたりするの
で、その結果、第4図に示すV(Z)曲線が得られるこ
とになる。
ここで、線形弾性理論によれば、上記超音波の照射に
より試料1の表層に生じる弾性表面波の伝播速度VRは、
横波の伝播速度をVS、ポアツソン比をνとすると、 VR=VS(0.87+1.12ν)/(1+ν) ……(1) で表わされる。一方、伝播速度VRと前記V(Z)曲線の
周期ΔZとは、水中における音速をVW、超音波の周波数
をfとすると、 で表わされる。
式(1),(2)より、応力が変化することにより速
度Vsが変化するようであれば、速度Vsの変化はV(Z)
曲線の周期ΔZに影響を及ぼすことは明らかである。こ
の場合、基本的にはV(Z)曲線の周期を測定すること
により応力測定が可能であるということができる。
次に、上述した応力による横波伝播速度VSの変化につ
いて考察する。今、第6図に示すように応力の主軸Iに
対して角度Θ傾斜したξ軸の方向に伝播する横波を考え
る。そして、この横波の振動方向がξ軸と直交するη軸
およびζ軸(紙面と垂直方向の軸)方向であるとする。
横波の伝播速度をそれぞれVη、Vζとすると、これら
は非線形弾性理論により、 として求めることができる。但し、上式において は、主応力をσ12,ラメ定数をμ,密度をρとする
と、 である。このように横波の伝播速度は応力が作用する面
内で変化する。なお、第6図で、ξ軸上の左方に描かれ
ている多数の直線は、横波のζ軸方向の振動を表わすも
のである。
ここで、第6図に示したζ軸におけるζ=0の位置を
試料1の表面と考えると、試料1の表面において存在す
る横波はξ軸上の右方に描かれているように、η軸の方
向に振動しながらξ軸方向に伝播する波のみとなる。し
たがって、ξ軸方向に伝播する弾性表面波の伝播速度VR
は(3)式を(1)式に代入することにより、 として求めることができる。(9)式は球面レンズ3aと
してラインフオーカスレンズを用いれば速度VRと角度θ
との関係を得ることが可能であることを表している。
一方、球面レンズ3aで測定され速度VRは、 となる。
が(5)式のように表わされたことに留意すれば、(1
0)式は球面レンズ3aで主応力の和を測定することが可
能であることを示している。
さて、上記(1)〜(10)式から、試料1の表層にお
ける応力が変化すればこれを応じてV(Z)曲線の周期
ΔZが変化することが判る。したがって、測定対象物体
の応力が0のときのV(Z)曲線を実測し、このV
(Z)曲線からその周期ΔZを求めておき、一方、測定
対象物体に応力が作用したときのV(Z)曲線を実測し
てその周期ΔZを求め、さきの周期に対する変化分を求
めれば、作用している応力を推測することができること
になる。
〔発明が解決しようとする課題〕
ところで、上記手段による応力測定は、応力に対する
周期ΔZの変化分がμmオーダ、又はサブμmオーダで
あるため事実上測定不可能である。このように応力に対
する周期ΔZの変化分が微小であることは、上記(1)
〜(10)式による理論解析からも明らかである。即ち、
一例として測定対象物体にアルミニウムを想定し、主応
力σを0〜10kg/mm2の範囲で変化させた場合に理論解
析された速度VRの変化を第7図に示す。第7図で横軸に
は応力、縦軸には速度VRがとつてある。この図から、10
kg/mm2の応力変化に対する速度VRの変化は10m/s以下で
ある。そして、これを(2)式に基づいて周期ΔZの変
化に換算すると、超音波の使用周波数が100MHzの場合、
応力が10kg/mm2変化したときの周期ΔZの変化分は0.2
μm,200MHzの場合、0.1μmであると計算される。第8
図はアルミニウムについて理論解析により得られた応力
の変化に対するV(Z)曲線の周期の変化を示す図で、
横軸に応力の変化が、又、縦軸に周期の変化がとつてあ
る。
このように、応力の変化に対するV(Z)曲線の周期
の変化が微小であり、その測定が不可能であることは理
論解析からも明らかである。
本発明の目的は、上記従来技術における課題を解決
し、超音波による測定を可能とする応力測定方法を提供
するにある。
〔課題を解決するための手段〕
上記の目的を達成するため、本発明は、所定の物体に
超音波を放射したときの放射位置に対する反射波の大き
さの特性曲線を前記物体に既知の基準応力および他の複
数の応力が作用したときのそれぞれについて理論解析又
はモデルを実測することにより求め、前記基準応力にお
ける前記特性曲線に対する他の各応力における前記特性
曲線の周期のずれを所定の参照波の位相差で表わし、こ
れら位相差と応力との位相差−応力特性を予め作成して
おき、前記物体と同一材質の測定対象物体の前記特性曲
線を実測で求め、この特性曲線と前記基準応力における
前記特性曲線との間の前記位相差を求め、求められた位
相差から前記位相差−応力特性に基づき前記測定対象物
体の応力を求めることを特徴とする。
〔作 用〕
定められた基準応力(応力0又は所定の値の応力)が
作用したときの超音波位置に対する超音波反射波の大き
さの特性曲線(V(Z)曲線)、および他の異なる複数
の応力が作用したときのV(Z)曲線を理論解析又はモ
デルを実測することにより求め、基準応力のV(Z)曲
線の周期に対する他の応力のV(Z)曲線の周期のずれ
を、所定の周波数の参照波の位相差に変換し、位相差−
応力特性を予め作成しておく。一方、未知の応力が作用
したときの物体のV(Z)曲線を実測し、理論解析によ
り求められた基準応力におけるV(Z)曲線の周期に対
する実測したV(Z)曲線の周期のずれを参照波を用い
て当該参照波の位相差として求め、この位相差から、前
記予め作成されている位相差−応力特性に基づいて応力
を求める。
〔実施例〕
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
本実施例では、まず、既知の材料について応力0(基
準応力)であるときのV(Z)曲線、およびいくつかの
異なる応力が作用したときのV(Z)曲線を理論解析に
より求める。これらのV(Z)曲線は次のようにして求
められる。
今、第5図に示すように、水の層fから加工変質層o
に入射角Θで入射する超音波について着目する。ここ
で、縦波を表すスカラポテンシヤルをΦ、横波を表すベ
クトルポテンシヤルをΨとし、ラメ定数をλ、μとする
と、加工変質層oに生じる変位(U,W)、および応力
(σZZXZ)は次式で表される。
例えば、加工変質層oを伝播する縦波のポテンシヤル
をФとし、当該縦波の入射波と反射波の振幅をそれぞ
れ▲Фo 1▼、▲Фo 2▼とすると、ポテンシヤルФただし、▲ζo Q▼は、 である。(16)式で、ωは円振動数、Cfは音響媒体であ
る水中fを伝播する縦波の音速を示す。又、▲o Q▼は
複素音速であり、加工変質層oを伝播する縦波の音速、
減衰定数、波長をそれぞれ▲Co Q▼,▲αo Q▼,▲λo Q
▼とすると次式で定義される。
さらに、上記(15)式におけるηは、 である。
一方、水の層fと加工変質層oの界面、および加工変
質層oと母材sの界面においては、 の境界条件が成り立つ。したがつて、この(19)式の境
界条件を上記(11)〜(18)式に代入し、複素連立方程
式を解くことにより第4図に示すようなV(Z)曲線を
得ることができる。
次に、このような理論解析により得られた各V(Z)
曲線について、応力0のときのV(Z)曲線の周期と他
のV(Z)曲線の周期とを、所定周波数の参照波を基準
として比較し、前者の周期に対する後者の周期のずれを
参照波の位相差として求める。この位相差は演算により
求めることができるが、実測によつても求めることがで
きる。以下参照波についての理解を容易にするため、実
測により位相差を求める方法を第1図により説明する。
第1図は表示装置上に表示されたV(Z)曲線および
参照波の波形図である。図で、A1は理論解析により得ら
れた応力0(基準応力)のときのV(Z)曲線、A2は同
じく理論解析により得られたある応力が作用したときの
V(Z)曲線である。各V(Z)曲線A1,A2は、横軸、
即ち距離Zが極端に拡大された状態で表示され、したが
つて各V(Z)曲線A1,A2はそれらの1つの谷の部分の
近辺のみの表示となつている。
このように拡大して表示しても、作用する応力の差に
よるV(Z)曲線A1,A2のずれは極めて小さい。A3は各
V(Z)曲線A1,A2の横軸と平行な軸上に表示された参
照波である。参照波A3は正弦波形を有し、各V(Z)曲
線A1,A2の周波数に比較して遥かに高い周波数を有す
る。Bはカーソル表示を示す。
ここで、まず、V(Z)曲線A1の谷の点P1に着目し、
カーソルBをこの点P1に合せる。次に、参照波A3を左右
に移動させ、参照波A3上の任意の谷の点P3をカーソルB
に一致させ図示の状態とする。このときの参照波A3の点
P3の位相角(初期位相角)を読み取る。次に、カーソル
BをV(Z)曲線A2の谷の点P2に一致させた後、参照波
A3を右へ移動させて点P3をカーソルBに一致させる。こ
のときの参照波A3の右への移動量が点P1,P2間のずれの
量に対応する位相角の差(位相差)となる。このように
して、応力が0である基準のV(Z)曲線A1に対し、あ
る既知の応力が作用している場合のV(Z)曲線A2の周
期のずれの量を参照波の位相差として得ることができ
る。
今、V(Z)曲線A2の周期のずれの量をδZ、参照波
A3の波長をλとすると、位相差Δθは次式で表わすこ
とができる。
Δθ=2π・δZ/λ ……(20) 本実施例では、種々の応力についてそれぞれ理論解析
でV(Z)曲線を求め、求められたV(Z)曲線と応力
0のV(Z)曲線A1とを上記の手段を用いて比較し、両
者の周期のずれを参照波A3の位相差としてとり出す。そ
して、応力と位相差との関係を作成しておく。第2図は
位相差と応力の関係を示す図であり、横軸に応力が、縦
軸に位相差がとつてある。全く同様の手段により、種々
の材料について位相差と応力の関係が作成される。
次に、測定対象物体に対する応力測定ついて説明す
る。まず、第3図に示す構成により測定対象物体の表面
に対して超音波を放射し、V(Z)曲線を実測により求
める。求められたV(Z)曲線は表示装置に表示され
る。同時に、当該表示装置には測定対象物体と同一材料
の基準となるV(Z)曲線A1、および参照波A3が表示さ
れる。上述と全く同じ手段により、V(Z)曲線A1に対
する実測されたV(Z)曲線のずれが参照波A3の位相差
として求められる。そして、第2図に示すように予め作
成されている位相差−応力の関係に基づき、求められた
位相差に対応する応力を求める。これにより応力を知る
ことができる。
このように、本実施例では、V(Z)曲線の周期のず
れを参照波の位相角の差に変化するようにしたので、超
音波による応力測定を可能とすることができる。
なお、上記実施例の説明では、V(Z)曲線を理論解
析により求める例について説明したがこれに限ることは
なく、同材質の基準となる部材をモデルとし、このモデ
ルについて実測によりV(Z)曲線を求めておくことも
できる。又、上記実施例の説明では、応力が0であると
きを基準として説明したが、これに限ることはなく、あ
る定められた所定の応力を基準とすることもできるのは
明らかである。又、参照波として正弦波を用いる例を説
明したが、三角波その他の適宜の波形のものを用いるこ
ともできる。又、参照波として、球面レンズ中心部から
の縦波の反射を用いることもできるし、又、球面レンズ
外周部に縦波送受信専用のトランスデユーサを新たに設
けることもできる。
さらに、上記実施例の説明では、V(Z)曲線と参照
波との重ね合せを表示画面上で目測により行なう例につ
いて述べたがV(Z)曲線と参照波のデータに基づき演
算により求めることもできる。
〔発明の効果〕
以上述べたように、本発明では、基準応力と他の応力
の理論解析による、又はモデルの実測によるV(Z)曲
線の周期ずれを参照波の位相差に変換し、各応力と位相
差の関係を予め求めておき、測定対象物体に対しては実
測によりV(Z)曲線を求め、このV(Z)曲線と基準
応力のV(Z)曲線との周期ずれを参照波の位相差とし
て求め、前記予め求められている関係から、この位相差
に対応する応力を得るようにしたので、従来ほとんど不
可能であつた超音波による応力測定を可能とすることが
できる。
【図面の簡単な説明】
第1図はV(Z)曲線および参照波の波形図、第2図は
位相差と応力の特性図、第3図は超音波照射装置の系統
図、第4図はV(Z)曲線の波形図、第5図は物体表面
近辺の拡大図、第6図は応力と横波伝播速度の関係の説
明図、第7図は弾性表面波伝播速度と応力の特性図、第
8図はV(Z)曲線の周期と応力の特性図である。 A1,A2……V(Z)曲線、A3……参照波。
フロントページの続き (72)発明者 谷 泰弘 東京都世田谷区宮坂3丁目47番12号 (72)発明者 佐藤 壽芳 東京都世田谷区成城2丁目24番7号 (72)発明者 早川 泰夫 茨城県土浦市神立町650番地 日立建機 株式会社土浦工場内 (56)参考文献 特開 昭61−207938(JP,A) 国際公開83/3470(WO,A1)

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】所定の物体に超音波を放射したときの放射
    位置に対する反射波の大きさの特性曲線を前記物体に既
    知の基準応力および他の複数の応力が作用したときのそ
    れぞれについて予め求め、前記基準応力における前記特
    性曲線に対する他の各応力における前記特性曲線の周期
    のずれを所定の参照波の位相差で表わし、これら位相差
    と応力との位相差−応力特性を予め作成しておき、前記
    物体と同一材質の測定対象物体の前記特性曲線を実測で
    求め、この特性曲線と前記基準応力における前記特性曲
    線との間の前記位相差を求め、求められた位相差から前
    記位相差−応力特性に基づき前記測定対象物体の応力を
    求めることを特徴とする応力測定方法。
  2. 【請求項2】請求項(1)において、前記参照波は、前
    記特性曲線の周波数に対して充分に高い周波数を有する
    ことを特徴とする応力測定方法。
  3. 【請求項3】請求項(1)において、前記基準応力は、
    0であることを特徴とする応力測定方法。
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