JP2551130B2 - ディスクブレーキパッドの熱処理方法 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 （産業上の利用分野） 本発明は摩擦材の熱処理方法に係わり、特に自動車用
ブレーキパッドの耐フェード性を向上させるのに好適な
摩擦材の熱処理方法に関する。

（従来の技術） 従来、自動車用ブレーキパッドには、金属繊維、ガラ
ス繊維、セラミック繊維等を基材とし、この基材に充填
材及び結合材を混合した摩擦材を用いている。

この摩擦材の熱処理方法には、特開昭59−113038号公
報に示されるように非酸化雰囲気中400〜1000℃の熱処
理条件によって熱処理を行い、熱硬化性樹脂、好ましく
はフェノール樹脂の結合材を部分的に炭化せしめ、高温
時における分解生成物の発生量の少ない熱的に安定な炭
素質系物質を形成させることにより、摩擦材の摩擦係数
の低下原因を取り除くとともに、高温・高負荷時に摩擦
材の劣化による制動力の低下現象（フェード現象）の発
生を未然に防止したものがある。

この熱処理方法により、低速での制動時における鳴き
の発生を少なくし、かつ高温下での摩擦特性を高めるよ
うになっている。

（発明が解決しようとする課題） しかしながら、レジンモールドディスクブレーキパッ
ドを熱処理する場合、バックプレートと摩擦材とを接着
する接着剤が熱により劣化し、クラック等が生じること
で接着力が低下するという問題があった。

このような問題点を解消するために、本発明な熱処理
の際バックプレート側を冷却し接着剤層を冷却すること
で接着剤の劣化を防ぎ、同時に摩擦材を加熱することで
機械的強度に優れ、かつ耐フェード性を有する摩擦材を
提供することを目的としている。

（課題を解決するための手段） 上記目的を達成するため、本発明は、スチール繊維、
無機繊維等の繊維を基材とし、この基材に黒鉛、硫酸バ
リュウム等の充填材とフェノール樹脂、NBR等の熱硬化
性樹脂による結合材とを混合して成形した摩擦材を、非
酸化雰囲気中において摩擦材の温度を250℃以上1200℃
未満とする設定条件下で熱処理を行い、またこのときバ
ックプレートは冷却水によって冷却し、接着剤層の温度
を250℃未満とすることを特徴としている。

（作用） このような方法により、熱処理中摩擦材はその成分で
ある樹脂の酸化分解及びスチール繊維の酸化によって素
材を劣化させることなく、結合材の炭化が進行すること
になる。このときバックプレートが冷却されているの
で、摩擦材とバックプレートを接着する接着剤は熱によ
る劣化はない。

（実施例） 本発明に係わる摩擦材の熱処理方法を第１図に基ずい
て説明する。

まず、基材のスチール繊維、結合材のフェノール樹
脂、及び黒鉛やその他の充填材を表−１に示す体積比
（％）に従って配合し、これを均一に混練する。

次に上記複合材料を金型に充填し、温度150℃、圧力5
00kg/cm²で圧縮成形する。できた成形品を200℃で４時
間の所定条件によりアフターキュアを施した後、窒素ガ
ス中で第１図に示す装置で熱処理を行う。

即ち、非酸化雰囲気炉９で摩擦材１、断熱層２、バッ
クプレート３からなるレジンモールドディスクブレーキ
パッドを冷却板４と加熱板６の間にはさみ、加熱板６に
より摩擦材の熱処理を行い、同時に冷却板４によりバッ
クプレート３を50℃未満に冷却することで、断熱層２と
バックプレート３を接着する接着剤を冷却し、接着剤の
熱による劣化を防いでいる。

摩擦面側の熱処理の条件として満足な設定温度は250
℃以上1200℃未満より、好ましくは350℃以上800℃未満
が最適なものとなった。また処理時間については５時間
未満、より好ましくは30分以上２時間以下がよい。冷却
温度については50℃以下、好ましくは30℃以下がよい。

上記設定条件である熱処理温度、処理時間及び冷却水
温度を選んだ理由は、処理温度が1200℃を越えると急激
な分解が起こるため、摩擦材内部に生じたガスが外部へ
逃げきれず、膨れやワレを生じやすくなるからである。

また250℃以下では４時間以上の長時間の熱処理を行
っても結合材であるフェノール樹脂の分解がわずかしか
起こらず、耐フェード性を向上させることが不可能とな
るからである。

一方、処理時間は５時間以上ではさらに処理を施して
も変化はほとんど生じないという理由による。

また冷却水の温度は、バックプレートの温度が50℃以
上になると接着剤の温度が250℃以上になり、接着剤の
熱による劣化が開始し始め強度が低下し始めるためであ
る。

上記実施例において、硬さ（シャアー硬さ）について
は上記設定条件で最低の硬さはHRS48であった。現在実
用されている摩擦パッドの硬さはHRS60から90程度とな
っているが、HRS50程度の硬さがあれば実用上問題とは
ならなかった。

さらに、耐フェード性向上の硬化を確かめるために、
その具体例として、窒素雰囲気中において熱処理温度50
0℃、処理時間１時間の熱処理を施したディスクブレー
キパッドについてその特性を調べてみた。

この熱処理されたディスクブレーキを、JASOC 406
^-82に基ずき35秒毎の連続制動させたときの摩擦係数は
第２図に示す曲線で、Ａは上記熱処理条件を施した具体
例であり、Ｂが通常の熱処理品の従来例であって、空気
中で200℃、４時間の熱処理を行ったものである。

曲線Ａは初期摩耗（制動回数ｎが10回以内）につい
て、その摩擦係数が0.35で安定しており、曲線Ｂに比較
して顕著な差異を示しており、曲線Ａの具体例における
熱処理効果による耐フェード性は十分実証された。

尚、本発明の実施例は、その基材がスチール繊維であ
る摩擦材についてのみ説明したが、本発明はこれに限定
されるものではなく、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂
を結合材とするものであれば、アルミナ繊維、炭素繊維
などの無機繊維や、アラミド繊維などの有機繊維を基材
としたものであっても、同様の熱処理を行うことによ
り、あらかじめフェノール樹脂等の炭化を生じさせ、耐
フェノール性を向上させることができる。

（発明の効果） 以上説明したことから明らかなように、本発明は摩擦
材の熱処理中、バックプレートを冷却することでバック
プレートと摩擦材とを接着する接着剤を冷却し、熱によ
る劣化を防ぎつつ摩擦材を非酸化雰囲気下で熱処理する
方法である。

そのために、摩擦材の機械的強度の低下を防ぎ、しか
も高温下による結合材の熱分解を予め非酸化雰囲気中で
の熱処理によって炭化させることによって耐フェード性
を向上させることができる。

また高温下での摩擦材の摩擦係数を安定させると共
に、高速時からの急制動に対して摩擦係数を低下させる
ことなく、かつ制動時に発生した熱分解ガスによる発火
現象も抑えることができる。さらに、制動時の鳴きを防
ぐ副次的効果も有する。

【図面の簡単な説明】

第１図は本発明が実施されるレジンモールドディスクブ
レーキパッドの熱処理装置の断面図、第２図は、本実施
例と従来例における摩擦材の制動回転数に対する摩擦係
数の関係を示す特性曲線である。 符号の説明 １……摩擦材、２……断熱層 ３……バックプレート、４……冷却板 ５……冷却水、６……加熱板 ７……電気ヒータ、８……窒素ガス ９……非酸化雰囲気炉

Claims (5)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】非酸化雰囲気中で、レジンモールドディス
   クブレーキパッドのバックプレート側を冷却しながら摩
   擦面側を加熱するディスクブレーキパッドの熱処理方
   法。
2. 【請求項２】非酸化雰囲気が、窒素、アルゴン等である
   請求項１記載のディスクブレーキパッドの熱処理方法。
3. 【請求項３】レジンモールドディスクブレーキパッドの
   結合剤にフェノール樹脂が含まれている請求項１記載の
   熱処理方法。
4. 【請求項４】ブレーキ材層とバックプレート間に断熱層
   を有するディスクブレーキパッド。
5. 【請求項５】非酸化性気体を充満させた容器内で冷却用
   ジャケットを有する冷却板をレジンモールドディスクパ
   ッドのバックプレート側に接触させ、電気ヒータを有す
   る加熱板を摩擦面側に接触させてディスクブレーキパッ
   ドを熱処理するディスクブレーキパッドの熱処理方法。