JP2545316B2 - 強度延性特性の優れた高強度冷延鋼板の製造方法 - Google Patents

強度延性特性の優れた高強度冷延鋼板の製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、500N/mm2以上
の引張強度で強度延性特性の優れた高強度冷延鋼板の製
造方法に係わる。
【0002】
【従来の技術】自動車用鋼板の高強度化は、これまでは
低燃費を望む自動車購入,利用者のニーズを車体軽量化
により実現するために行なわれてきた。ところが、直近
においては地球規模の環境問題から燃料消費そのものが
取り沙汰にされ、地球温暖化対策として二酸化炭素の排
出量を規制する意味から燃費を低減させるという社会的
な要請から、これまでに増して高強度鋼板に対する重要
性が指摘されるようになってきた。自動車部品の軽量化
は、その部品にとって必要な種々の強度特性(衝突強
度、剛体としての強度、溶接強度、疲労強度など)を維
持しながら板厚を減少させることにより行なわれる。従
って、強度を上げても成形性が劣化することは、当該部
品には用いることの不可能であることを意味し、高強度
でありながら加工性の優れた鋼材であることが当然重要
な要素となる。
【0003】現在、プレス成形により製造される車体部
品に用いられる鋼板は、そのほとんどが引張強度で30
0〜450N/mm2のものである。従って、この強度
クラス程度の加工性を具備する引張強度500〜700
N/mm2程度の高強度鋼板に対するニーズが非常に高
い。一方、高強度で加工性が優れたものとして、残留オ
ーステナイトを含む高強度鋼板の製造方法が提案される
ようになった。これは、変態誘起塑性(Transfo
rmation Induced Plasticit
y:TRIP)を利用したものであり、これまでの普通
鋼高強度鋼板では最も優れたDual Phase鋼の
強度延性特性を大きく上回るものとして脚光を浴びてい
る技術である。この鋼板の製造技術は、種々提案されて
いるが、その中でも600N/mm2級程度の強度を得
るための技術についての具体例としては、特開平1−7
9321号公報、特開平1−79322号公報、特開平
1−168819号公報などがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これら
の技術はいずれも工業的に製造する上でいくつかの問題
を含んでいる。特開平1−168819号公報は、安定
して高度の材質を得るための工夫がないため、最良の材
質を得るための焼鈍温度は限られた狭い範囲でしかな
く、工業的に製造する観点からは完成された技術という
ことができない。特開平1−79322号公報は、熱延
方法にその工夫の一端があるように思えるが、熱延にお
いてBs点以下の温度でコイルに巻取り、ベイナイトが
面積比で50〜100%にする必要があり、これは水冷
による冷却にとっては膜沸騰と核沸騰の境界で巻取るこ
とを意味し、安定して得られる技術とは言い難い。以上
のように、これまでの残留オーステナイトを含む高強度
冷延鋼板の製造方法は、最終製品として得られる特性こ
そ、これまでの高強度鋼板の中では最も強度延性特性に
優れたDual Phase鋼を大きく超えるものでは
あったが、これが市場に供給されないのは製造側におけ
る安定製造性にあったわけである。これを改良し、安定
して残留オーステナイトを含む強度延性特性に優れた高
強度冷延鋼板を製造することが課題として残っていたわ
けである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、これらの課題
に対して、安定して高い水準であるものを工業的に製造
する観点から、特定成分の鋼を特定の熱延、および冷延
後の連続焼鈍方法をとることにより解決しようとするも
のである。その骨子とするところは、質量割合で C:0.05%〜0.15% Si:0.5%〜2.5% Mn:0.5%〜3.0% S≦0.005%を含み、あるいはさらに Ca:0.0002%〜0.0
020%含有させ、残部実質上Feからなる方法にあ
る。
【0006】
【作用】次に各要件の作用および数値限定理由について
述べる。 C:Cは、残留オーステナイト相生成のために重要な元
素で、0.05%未満では十分な量の残留オーステナイ
トを得ることができずそのため良好な加工性を発揮する
ことができない。この意味からC量は高い方が良いが、
目標とする500〜700N/mm2強度特性を得る範
囲としてはその上限は0.15%である。好ましくは、
0.08〜0.12%の範囲とすべきである。 Si:Siは、400℃付近のオーステンパー処理にて
オーステナイトを残留させるために重要な元素である。
これは、この温度付近での変態時に粗大なセメンタイト
の析出を伴う変態を抑え、オーステナイトを安定化させ
る効果がSiにあるためと考えられる。このようなSi
の作用は、本発明にあっては0.5%以下では発揮され
ず、一方2.5%を超えるとその効果が飽和し、経済性
を損なうだけとなる。好ましくは、0.8〜1.8%の
範囲にすべきである。
【0007】Mn:Mnは、ある程度の焼き入れ性を付
与させるために添加する必要があり、これはMnにベイ
ナイトの変態を遅らせる効果とオーステナイトのマルテ
ンサイト変態開始温度を低くする効果があることから発
揮される効果と考えられる。本発明鋼においては、これ
らを有効的に発揮させるためにMnの含有範囲を規定す
る。0.5%未満であると十分なオーステナイトを確保
することができず、3.0%を超えると低温変態生成物
がいたずらに多くなり強度が高くなるだけである。より
好ましくは、0.8〜1.8%とするべきである。 S:Sは、本発明鋼においては伸びフランジ成形性を劣
化させる元素であるため徹底的に下げる必要がある。そ
のために0.005%以下にする。さらに、必要に応じ
てCaを0.0002〜0.0020%含有させるとそ
の効果がより明瞭に発揮される。続く熱延条件、ならび
に冷延後の連続焼鈍条件の限定は、本発明にあって成分
の限定とともに極めて重要である。
【0008】熱延工程においては、(フェライト変態開
始温度)〜(フェライト変態開始温度−70℃)の温度
範囲において平均5℃/s以上の冷却を施し600℃以
上で巻取る必要がある。これは、本発明にあって、連続
焼鈍後の最終製品において安定して高位の強度延性特性
を得るためになくてはならない条件である。本発明者ら
は、安定して高位の強度延性特性を得るための方策が、
単に成分や連続焼鈍条件の最適化にのみあるのではなく
熱延組織の最適化も重要であることを発見し、さらに現
在の製造工程においてより安定して採用できる条件の下
での最適な組織について検討に検討を重ねた。その結果
が熱延仕上圧延後の冷却条件と巻取温度の限定に至った
ものである。600℃未満の温度で巻取ると熱延組織に
低温変態生成物が混入することにより、冷延性が悪くな
るとともに焼鈍温度の条件が狭くなり工業的に不適当な
条件である。
【0009】600℃以上で巻取るに際しては、本発明
者らが高位に安定する材質特性を得るための条件が必ず
仕上圧延以降の冷却条件にあるものと考え、度重なる検
討を重ねたことはいうまでもない。その結果、(フェラ
イト変態開始温度)〜(フェライト変態開始温度−70
℃)の温度範囲において平均5℃/s以上の冷却を施す
ことが最適であることを見つけだした。この理由につい
ては未だ明らかになっていない部分が多いが、おそらく
この段階でのMnもしくはCの分散程度が最終製品の組
織分布に影響したものと考えている。フェライト変態開
始温度−70℃を超える温度で平均5℃/s以上の冷却
を施さない場合には、最終製品の破断伸び特性が劣化す
る。
【0010】連続焼鈍においては、まずAc1変態点以
上Ac3変態点以下の温度範囲において10秒以上保持
する必要がある。これは、この焼鈍過程においてフェラ
イト/オーステナイト二相の状態にする必要があるため
である。Ac3変態点以上であると焼鈍中全オーステナ
イト状態となりそのオーステナイトが粗大化するために
最終的にオーステナイトを残留させることが困難となり
所望の特性を得ることができない。また、Ac1変態点
以下の焼鈍ではオーステナイトが得られない。その後、
600〜480℃の温度範囲を20℃/s以上の冷却速
度で冷却する必要がある。これは、この温度域の急冷に
よりパーライトの変態を防止するとともにその後のオー
ステンパーを行なうための前段階の処理として重要な要
件である。この冷却速度未満であるとオーステナイトが
いたずらに炭化物の析出を伴う変態をおこしてしまい所
望の強度延性特性が得られない。上限の冷却速度は特に
規定しないが、温度制御性を考慮すると200℃/s程
度までかと考えられる。好ましくは、50〜120℃/
sの冷却速度とすべきである。
【0011】その後350℃〜480℃の温度範囲にて
60秒以上保持する必要がある。これは、最適なオース
テンパー処理を行なうことにより最終製品の段階でオー
ステナイトを残留させるために必要な条件である。35
0℃未満の温度まで冷却されてしまうとマルテンサイト
の生成によりオーステナイトが消費されてしまい最終製
品のオーステナイトが確保されないばかりか硬質化して
しまい、所望の特性が得られなくなる。また、480℃
を超えると余分な炭化物生成によりCが消費されてしま
い、これも所望とする特性が得られない。好ましくは、
380〜450℃の範囲とするべきである。さらに、該
温度範囲で60秒以上保持する必要がある。これは、ベ
イナイト変態の利用によるオーステンパー処理そのもの
を行なうために必要な条件であり、この時間未満である
と延性にとって最適なオーステナイトを得ることができ
ない。好ましくは250〜600秒の範囲とすべきであ
る。これより長い時間を採用することはいたずらにベイ
ナイト変態を進行させオーステナイト量を確保すること
ができない。
【0012】本発明方法による製品は、残留オーステナ
イト量が5〜10%とフェライトが70%以上が存在し
残部低温変態生成物からなる。これまで、残留オーステ
ナイトを含む加工性に優れた高強度鋼板は、そのほとん
どが特開昭61−157625号公報や特開平01−1
59317号公報にもあるように引張強度で800N/
mm2以上の製品またはその製造技術として提案されて
おり、その場合には残留オーステナイトが例えば15%
以上含むものである。本発明の場合には、引張強度がそ
れよりも低いレベルのものについて工業的に製造する上
で安定して所望の特性を得るための方策を検討した結果
であり、成分範囲を規定したうえでの残留オーステナイ
ト量は10%以下のものでも十分にTRIP効果が発揮
されるし、逆に10%を越える量の残留オーステナイト
量が確保されてもこのオーステナイトの場合には伸び特
性に反映されないオーステナイトになってしまい、不適
当なものである。なお、本発明は熱延において冷片を加
熱炉に挿入してもよいし、熱片をそのまま圧延してもよ
い。仕上圧延温度は、好ましくはAr3変態点以上で行
なうべきであろう。仕上圧延後の冷却は、ラミナーやス
プレーいずれの水冷またはそれにかわる冷却媒体を用い
ても本発明の効力は失わない。熱延後の酸洗は硫酸によ
ってもよいし塩酸でもよい。その後の冷延はタンデム、
リバースいずれでもよい。冷延率も工業的に製造できる
範囲で製造すればよいが、好ましくは50%以上であろ
う。連続焼鈍後の調質圧延は、形状が悪ければそれを矯
正する程度でよく、レベラーなどを用いてもよい。ま
た、この製品にさらに電気めっきを施してもよい。その
場合、Znめっき、Zn−Niめっきいずれを用いても
よい。
【0013】
【実施例】表1Aに示す鋼を連続鋳造にてスラブとした
後、表1Bにある条件で熱延を行なった。仕上圧延終了
後は2秒後からラミナー冷却による水冷を施した。この
冷却速度は平均で40℃/sであった。熱延板厚は3.
0mmとした。その後酸洗し1.0mmまで冷延した。
この冷延コイルを連続焼鈍するに際し、表1Bにある条
件にて連続焼鈍を行なった。連続焼鈍における加熱保持
(焼鈍)はすべて発明範囲内であり、焼鈍後の600〜
480℃の温度範囲における冷却速度は60℃/sとし
た。その後、0.3%の調質圧延を行い、試験に供し
た。
【0014】
【表1A】
【0015】
【表1B】
【0016】 To :当該条件の場合のフェライト変態開始温度(℃) FT:熱延仕上圧延終了温度(℃) T1 :仕上圧延終了2秒後開始された水冷による冷却の
終了温度(℃) CT:巻取温度(℃) ST:連続焼鈍における焼鈍温度(℃) T2 :600〜480℃での急冷に引き続き行なわれた
同冷速の冷却の終点温度 T3 :T2後320秒間保持された後の鋼材の温度 YP:降伏点強度(N/mm2) TS:引張強度(N/mm2) El:破断伸び(%)
【0017】引張試験は、JISZ2201記載の5号
試験片を用い、同Z2241記載の方法に従って行なっ
た。また、伸びフランジ成形性の評価は穴拡げ試験によ
り行なった。これは、打ち抜きクリアランス10%で打
ち抜いた直径20mm穴を30°円錐ポンチで広げてゆ
き、割れが板厚を貫通した時点での穴径を測定し、これ
を打ち抜き時のダイス直径で除した数値で評価した。仕
上圧延後1.5秒から50℃/sで水冷による冷却を開
始し、670℃で水冷による冷却を終了し、620℃で
巻取った。その製品の試験結果を表1Bに示す。
【0018】本発明鋼であるA−1,B−1,C−1,
D−1は、いずれもTS=500〜700N/mm2
範囲にあって破断伸び特性に優れかつ伸びフランジ性も
d/do≧1.5と優れた特性を示した。次に、A鋼を
用い製造条件をいろいろ変化させた場合について述べ
る。製造条件を表2Aに記した。熱延加熱温度=115
0℃、FT=830℃、熱延板厚=3.0mm、冷延板
厚=1.0mmとした。なお、A鋼のAc1変態点は7
50℃、Ac3変態点は850℃である。連続焼鈍後は、
0.3%の調質圧延を行い、引張試験に供した。
【0019】
【表2A】
【0020】CR1:仕上圧延終了後の冷却速度(℃/
s) To :当該条件でのフェライト変態開始温度(℃) T1 :仕上圧延終了後開始された冷却の終了温度(℃) CT:巻取温度(℃) ST:連続焼鈍における焼鈍温度(℃) CR2:600〜480(またはT2)℃の温度範囲での
冷却速度(℃/s) T2 :CR2 ℃/sでの冷却の終了温度(℃) t :T2後の保持時間(秒) T3 :T2後t秒保持後の温度(℃) 下線は発明範囲外であることを示す。表2Bは、表2A
にある製品の試験結果である。本発明鋼であるA−1,
A−5,A−6は、いずれもTS=600N/mm2
で破断伸び≧35%の特性を示した。
【0021】
【表2B】
【0022】
【発明の効果】以上のように、本発明は、自動車用素材
として全面的に適用が可能となり、これにより自動車の
軽量化を達成することができ、これを通じて地球規模の
環境保護に寄与する。また、高意匠の自動車設計にも適
用が可能となり、自動車購入者のニーズにも答えること
ができる。このように、本発明による製品は、地球規模
から個人に至る広い範囲での社会に貢献でき、その効果
は絶大なものである。

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量割合で C:0.05%〜0.15% Si:0.5%〜2.5% Mn:0.5%〜3.0% S≦0.005%を含み、あるいはさらに Ca:0.0002%〜0.0020%含有させ、 残部実質上Feからなる鋼を連続鋳造にてスラブとした
    後熱延するに際して、(フェライト変態開始温度)〜
    (フェライト変態開始温度−70℃)の温度範囲におい
    て平均5℃/s以上の冷却を施し600℃以上で巻取
    る。その後酸洗、冷延を施し、連続焼鈍するに際して、
    Ac変態点以上Ac変態点以下の温度範囲において
    10秒以上保持し、600℃から480℃の範囲を20
    ℃/s以上の冷却速度で冷却し、その後350℃〜48
    0℃の温度範囲にて60秒以上保持することにより得ら
    れる、引張強度が500N/mm以上で強度延性特性
    の優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
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