JP2025166315A - 高分子分散剤及びその製造方法、水性顔料分散液、並びに水性インクジェットインク - Google Patents

高分子分散剤及びその製造方法、水性顔料分散液、並びに水性インクジェットインク

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JP2025166315A JP2024070242A JP2024070242A JP2025166315A JP 2025166315 A JP2025166315 A JP 2025166315A JP 2024070242 A JP2024070242 A JP 2024070242A JP 2024070242 A JP2024070242 A JP 2024070242A JP 2025166315 A JP2025166315 A JP 2025166315A
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Abstract

【課題】顔料の分散性に優れた顔料分散液や、画質、基材への密着性、及び耐久性に優れた画像を記録しうる、吐出性に優れた水性インクジェットインクを調製することが可能な、バイオマス材料であるイタコン酸類に由来する構成単位を有効に含む高分子分散剤、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】顔料を分散させるための高分子分散剤である。イタコン酸等に由来する構成単位(i)5~20質量%と、アクリル酸イソボルニルに由来する構成単位(ii)15~45質量%と、アクリル酸テトラヒドロフルフリル等に由来する構成単位(iii)10~40質量%と、スチレン等に由来する構成単位(iv)15~45質量%と、を含み、数平均分子量が10,000~30,000である、カルボキシ基を有するポリマーであり、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されて水に溶解する。
【選択図】なし

Description

本発明は、高分子分散剤及びその製造方法、水性顔料分散液、並びに水性インクジェットインクに関する。
水性インク等の着色剤として用いられる水性顔料分散液に対しては、水性媒体中に顔料が微分散されていること、長期間にわたって顔料が凝集せず安定的に分散した状態が保持されることが要求される。水性顔料分散液に含まれる顔料分散剤としては、顔料の微分散性と分散長期安定性を保つために重要な要素であり、これまでに様々なものが開発されている。また、水性顔料分散液を用いて調製した水性インクで作製した画像については、基材への密着性、耐擦過性、耐水性、及び耐溶剤性等の耐久性が要求される。画像の耐久性を向上すべく、一般的には被膜形成成分であるバインダー成分が水性顔料分散液や水性インクに配合されている。しかし、顔料分散剤はバインダー成分の性能を低下させる場合がある。このため、顔料分散剤についても、記録する画像の耐久性等の特性向上を意識して設計する必要がある。
水性顔料分散液の用途の一つとして、水性インクジェットインクがある。水性インクジェットインクについては、顔料の微分散性や安定性の他、記録される画像の耐久性などの特性が特に高いレベルで要求される。水性インクジェットインクを搭載したプリンタや印刷機は、その高機能化により、個人用、事務用、業務用、記録用、カラー表示用、及びカラー写真用等、用途が多岐にわたってきており、近年では、産業用の高速印刷機としての検討が進んでいる。そして、高速化及び高画質化に対応すべく、顔料の微分散性及び画像の耐久性などの性能のさらなる向上が求められている。このような要求を満たすべく、配合する樹脂や界面活性剤の構成を工夫した、様々な顔料分散液がこれまでに提案されている(特許文献1~5)。
さらに、近年、カーボンニュートラルの観点から、石油由来の有機材料をバイオマス由来の材料へと置き換える動きが活発になっている。そして、インクジェット用の水性インクについても、バイオマス由来の材料を使用したいとの要求が高まっている。
アクリル樹脂を合成するために使用可能なバイオマス由来のアクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、及び(メタ)アクリル酸ステアリル等を挙げることができる。これらのアクリルモノマーは、植物由来のアルコール成分を用いて得られる化合物であり、工業的に広く生産されている材料である。
また、バイオマス由来スチレン系モノマーとしては、4-ビニルグアイアコールが知られている。4-ビニルグアイアコールは、フェルラ酸を脱炭酸することで得られる化合物である。そして、フェルラ酸は、米ぬかより得られる米ぬか油を生成する過程で生ずる米ぬか残渣を原料として製造されている。4-ビニルグアイアコールは、ラジカル消去活性を示すフェノール性水酸基をその分子中に有する。このため、ラジカル重合時には、重合阻害を回避すべく、アセチル化物等のフェノール性水酸基保護体を用いる場合がある(非特許文献1)。
また、カーボンニュートラルの観点から注目されている材料として、イタコン酸がある。イタコン酸は、植物由来のグルコースを原料として、発酵法によって工業的に生産されているバイオマス由来の材料である。イタコン酸は、ラジカル重合性を示し、高いポリマーTgを有し、かつ、一分子中に二つのカルボキシ基を有する化合物である。イタコン酸をモノマーとして用いることで、得られる顔料分散剤(高分子分散剤)のバイオマス由来の材料の含有率を向上することができる。さらに、成膜性、カルボキシ基の水素結合性による基材密着性、及びアルカリ中和した親水性のカルボキシ基による顔料の分散性向上が期待される。
しかし、イタコン酸を用いてラジカル重合する場合には様々な課題がある。イタコン酸のビニル基のα位にはサイズの大きな二つの官能基が結合している。このため、イタコン酸の重合速度、ポリマー転化率、及び他のモノマーとの共重合性は、(メタ)アクリレートやスチレン等の工業的に頻繁に用いられるモノマーと比較して低い。また、カルボキシ基の脂溶性が低いため、イタコン酸は疎水性モノマーと混和しにくい。このため、イタコン酸と疎水性モノマーを共重合する場合には、溶剤よってモノマーを均一化する必要がある。しかし、イタコン酸は水やエタノール等の極性が高い溶剤に溶解するが、疎水性モノマーやポリマーは極性の高い溶剤に溶解しにくい。以上のような理由により、イタコン酸を疎水性モノマーと共重合するのは一般的に困難である。しかし、疎水性モノマーは、顔料粒子に対する親和性を発揮した高分子分散剤を分子設計する上で重要である。
イタコン酸を用いてラジカル重合する場合の課題を解決すべく、様々な方策が提案されている。例えば、イタコン酸は、スチレンやアクリレートとの共重合性が、他のモノマーに比して高いことが知られている(非特許文献2)。
アクリレートは反応性が非常に高いため、大スケールでフリーラジカル重合する場合には、すべてのモノマーを反応系に一括して投入せず、重合進行と並行してモノマーを反応系に滴下し、急激な反応による熱暴走を抑制する必要がある。しかし、イタコン酸は疎水性のアクリレートと相溶しにくく、イタコン酸とアクリレートを均一な溶液の状態で滴下することは困難である。このため、モノマーを反応液に滴下しながら重合すると、得られる各ポリマー分子中のイタコン酸に由来する構成単位の含有量を均一に揃えることが困難である。
また、溶剤への溶解性を改善すべく、イタコン酸に代えて、イタコン酸のカルボキシ基を脂溶性官能基で保護したイタコン酸モノエステルやイタコン酸ジエステルを用いることが知られている。例えば、イタコン酸ジエステルと脂溶性アクリレートを乳化重合して得られる共重合体が知られている(特許文献6)。
特許第5403313号公報 特開2008-45023号公報 特許第4157868号公報 特表2009-515007号公報 国際公開第2013/008691号 特表2018-514634号公報
Macromolecues,2017,50,4206-4216 有機合成化学,第21巻第7号(1963),P542~547
しかし、イタコン酸のカルボキシ基を保護するための工程が増加したり、導入した保護基の立体障害によって重合速度、転化率、及び重合性が低下したりするといった課題がある。また、イタコン酸ジエステルを用いた場合には、カルボキシ基の水溶性を利用すべく、重合後に脱保護する必要性がある。しかし、工程が増加するだけでなく、脱保護して生じた保護基は顔料分散剤としての機能を有しないため、カーボンニュートラルの観点で課題があった。
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、顔料の分散性に優れた顔料分散液や、画質、基材への密着性、及び耐久性に優れた画像を記録しうる、吐出性に優れた水性インクジェットインクを調製することが可能な、バイオマス材料であるイタコン酸類に由来する構成単位を有効に含む高分子分散剤、並びにその製造方法を提供することにある。
また、本発明の課題とするところは、顔料の分散性に優れているとともに、画質、基材への密着性、及び耐久性に優れた画像を記録しうる、吐出性に優れた水性インクジェットインクを調製することが可能な、バイオマス材料であるイタコン酸類に由来する構成単位を有効に含む高分子分散剤を用いた顔料分散液を提供することにある。
さらに、本発明の課題とするところは、バイオマス材料であるイタコン酸類に由来する構成単位を有効に含む高分子分散剤を用いた、画質、基材への密着性、及び耐久性に優れた画像を記録しうる、吐出性に優れた水性インクジェットインクを提供することにある。
すなわち、本発明によれば、以下に示す高分子分散剤が提供される。
[1]水性インクジェットインクを調製するために用いられる水性顔料分散液に配合される、顔料を分散させるための高分子分散剤であって、イタコン酸及びイタコン酸モノエステルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(i)5~20質量%と、アクリル酸イソボルニルに由来する構成単位(ii)15~45質量%と、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸エチル、イタコン酸ジメチル、及びイタコン酸ジエチルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(iii)10~40質量%と、スチレン、4-ビニルグアイアコール、4-ビニルグアイアコールアセチル化物、及び4-ビニルグアイアコールメチル化物からなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(iv)15~45質量%と、を含み、前記構成単位(i)~(iv)の合計の含有量が90質量%以上であり、数平均分子量が10,000~30,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.7~2.7である、カルボキシ基を有するポリマーであり、前記カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されて水に溶解する高分子分散剤。
また、本発明によれば、以下に示す高分子分散剤の製造方法が提供される。
[2]前記[1]に記載の高分子分散剤の製造方法であって、前記構成単位(i)~(iv)を構成するすべてのモノマー及び水溶性有機溶剤を混合して40℃以上に加温した後、10時間半減期温度が50~80℃の重合開始剤を添加し、60~80℃で溶液重合する工程を有する高分子分散剤の製造方法。
[3]前記モノマーの合計100質量部に対する、前記重合開始剤の使用量が、2.0~5.0質量部である前記[2]に記載の高分子分散剤の製造方法。
さらに、本発明によれば、以下に示す水性顔料分散液が提供される。
[4]水性インクジェットインクを調製するために用いられる水性顔料分散液であって、顔料、水、水溶性有機溶媒、及び前記顔料を分散させるための高分子分散剤を含有し、前記高分子分散剤が、前記[1]に記載の高分子分散剤である水性顔料分散液。
[5]前記顔料の含有量が5~60質量%であり、前記水の含有量が20~80質量%であり、前記水溶性有機溶媒の含有量が30質量%以下であり、前記高分子分散剤の含有量が0.5~20質量%である前記[4]に記載の水性顔料分散液。
また、本発明によれば、以下に示す水性インクジェットインクが提供される。
[6]前記[4]又は[5]に記載の水性顔料分散液を含有する水性インクジェットインク。
[7]プラスチックメディア印刷用又は捺染用である前記[6]に記載の水性インクジェットインク。
本発明によれば、顔料の分散性に優れた顔料分散液や、画質、基材への密着性、及び耐久性に優れた画像を記録しうる、吐出性に優れた水性インクジェットインクを調製することが可能な、バイオマス材料であるイタコン酸類に由来する構成単位を有効に含む高分子分散剤、並びにその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、顔料の分散性に優れているとともに、画質、基材への密着性、及び耐久性に優れた画像を記録しうる、吐出性に優れた水性インクジェットインクを調製することが可能な、バイオマス材料であるイタコン酸類に由来する構成単位を有効に含む高分子分散剤を用いた顔料分散液を提供することができる。
さらに、本発明によれば、バイオマス材料であるイタコン酸類に由来する構成単位を有効に含む高分子分散剤を用いた、画質、基材への密着性、及び耐久性に優れた画像を記録しうる、吐出性に優れた水性インクジェットインクを提供することができる。
<高分子分散剤>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本明細書中の各種物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。以下、「水性顔料分散液」のことを単に「顔料分散液」とも記し、「水性インクジェットインク」のことを単に「インク」とも記す。
本発明の高分子分散剤の一実施形態は、水性インクジェットインクを調製するために用いられる水性顔料分散液に配合される、顔料を分散させるための高分子分散剤(顔料分散剤)である。本実施形態の高分子分散剤は、イタコン酸及びイタコン酸モノエステルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(i)5~20質量%と、アクリル酸イソボルニルに由来する構成単位(ii)15~45質量%と、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸エチル、イタコン酸ジメチル、及びイタコン酸ジエチルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(iii)10~40質量%と、スチレン、4-ビニルグアイアコール、4-ビニルグアイアコールアセチル化物、及び4-ビニルグアイアコールメチル化物からなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(iv)15~45質量%と、を含む、カルボキシ基を有するポリマーである。高分子分散剤(ポリマー)中、構成単位(i)~(iv)の合計の含有量が90質量%以上であり、ポリマーの数平均分子量は10,000~30,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.7~2.7である。そして、高分子分散剤は、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されて水に溶解するポリマーである。以下、本実施形態の高分子分散剤の詳細について説明する。
高分子分散剤は、イタコン酸及びイタコン酸モノエステルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(i)を含むポリマーである。ポリマー中の構成単位(i)の含有量は5~20質量%であり、好ましくは10~15質量%である。構成単位(i)を含むことで、カルボキシ基の少なくとも一部をアルカリで中和して水性媒体中に溶解させることができるとともに、画像等の塗膜の基材への密着性を向上させることができる。また、イタコン酸及びイタコン酸モノエステル(以下、纏めて「イタコン酸類」とも記す)をモノマーとして用いることで、アクリレートによる反応速度を抑制することができる。このため、モノマー滴下でなく、モノマーを一括して反応容器に仕込んで重合しても熱暴走しにくく、安全かつ再現性よく製造することができる。構成単位(i)の含有量が5質量%未満であると、高分子分散剤の水溶解性が不足する。一方、構成単位(i)の含有量が20質量%超であると、高分子分散剤の親水性が過度に高くなり、形成される塗膜の耐水性が低下する場合がある。
高分子分散剤は、アクリル酸イソボルニルに由来する構成単位(ii)を含むポリマーである。ポリマー中の構成単位(ii)の含有量は15~45質量%であり、好ましくは20~40質量%である。構成単位(ii)を含むことで、高分子分散剤の硬度が向上し、形成される塗膜の耐擦過性を高めることができる。また、高分子分散剤の疎水性が高くなるので、形成される塗膜の耐水性及び耐溶剤性が向上するとともに、高分子分散剤-顔料間の疎水性相互作用を高めることができる。構成単位(ii)の含有量が15質量%未満であると、所望の効果を得ることができない。一方、構成単位(ii)の含有量が45質量%超であると、ポリマーが過度に硬質化及び疎水化し、顔料の分散性が低下したり、塗膜の基材密着性及び追随性が低下したりする。
高分子分散剤は、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸エチル、イタコン酸ジメチル、及びイタコン酸ジエチルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(iii)を含むポリマーである。ポリマー中の構成単位(ii)の含有量は10~40質量%であり、好ましくは15~30質量%である。この構成単位(iii)を含むことで、形成される塗膜の基材密着性及び柔軟性を向上させることができる。構成単位(iii)の含有量が10質量%未満であると、所望の効果を得ることができない。一方、構成単位(iii)の含有量が40質量%超であると、他の構成単位の割合が相対的に減少するので、所望の効果を得ることができない。
高分子分散剤は、スチレン、4-ビニルグアイアコール、4-ビニルグアイアコールアセチル化物、及び4-ビニルグアイアコールメチル化物からなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(iv)を含むポリマーである。ポリマー中の構成単位(iv)の含有量は15~45質量%であり、好ましくは20~45質量%である。スチレン等をモノマーとして用いることで、アクリレートによる反応速度を抑制することができる。このため、モノマー滴下でなく、モノマーを一括して反応容器に仕込んで重合しても熱暴走しにくく、安全かつ再現性よく製造することができる。また、芳香環と顔料がππスタッキングによって強固な結合を形成し、高い分散性が発揮される。さらに、OPPフィルム等の高疎水性基材に対しては、疎水性相互作用により塗膜の密着性が向上する。そして、PETフィルム等の芳香族ポリマー基材に対しては、ππスタッキングにより塗膜の密着性が向上する。構成単位(iv)の含有量が15質量%未満であると、所望の効果を得ることができない。一方、構成単位(iv)の含有量が45質量%超であると、他の構成単位の割合が相対的に減少するので、所望の効果を得ることができない。
高分子分散剤(ポリマー)中、構成単位(i)~(iv)の合計の含有量は90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上である。すなわち、高分子分散剤には、構成単位(i)~(iv)以外のその他の構成単位を10質量%未満の割合でさらに含有させてもよい。なお、高分子分散剤(ポリマー)は、構成単位(i)~(iv)のみで実質的に構成されていることが好ましい。
その他の構成単位を構成するモノマーとしては、従来公知のビニル系モノマー等を挙げることができる。その他のモノマーとしては、イタコン酸ジブチル等のイタコン酸ジエステル類;アルファメチルスチレン等のスチレン系モノマー;ビニルトルエン、酢酸ビニル、及びビニルピロリドン等のビニル系モノマー;(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、及び(メタ)アクリル酸ベヘニル等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ナフチル、及び(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の芳香環含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸3,3,5-トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、及びメタクリル酸イソボルニル等の脂環族含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングコリール、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、及び(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等のグリコールモノエーテルの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル、及び(メタ)アクリル酸トリメチルエチルアンモニウムクロライド等のアミノ基や第4級アンモニウム塩を含有する(メタ)アクリル酸エステル;等を挙げることができる。
高分子分散剤は、イタコン酸類に由来するカルボキシ基の少なくとも一部、好ましくは構成単位(i)の8質量%以上に相当するカルボキシ基がアルカリで中和され、イオン化しているポリマーである。カルボキシ基の少なくとも一部をアルカリで中和することで、ポリマーの親水性を向上させて、水に溶解する高分子分散剤とすることができる。
カルボキシ基を中和するアルカリは、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。アンモニアやジメチルアミノエタノールで中和した場合、乾燥して塗膜が形成された際にアンモニアやジメチルアミノエタノールが揮発し、脱イオン化してカルボキシ基が形成される。このため、塗膜の耐水性を向上させることができる。また、水酸化ナトリウムや水酸化ナトリウムで中和した場合、乾燥して塗膜が形成されても脱イオン化せず、高分子分散剤の再溶解性を向上させることができる。印刷工程や塗膜(画像)の耐久性などに応じて、アルカリを選択して用いればよい。
高分子分散剤は、その数平均分子量(Mn)が10,000~30,000、好ましくは13,000~25,000のポリマーである。ポリマーのMnが10,000未満であると、形成される塗膜の耐久性を高めることが困難になる。一方、ポリマーのMnが30,000超であると、顔料分散液の粘度が高くなりすぎる場合がある。なお、本明細書における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、いずれも、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。
高分子分散剤は、その分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が1.7~2.7、好ましくは1.8~2.5のポリマーである。その分子量分布(PDI)が上記の範囲内にあるポリマーは、低分子量の成分と高分子量の成分をバランスよく含有するために好ましい。
<高分子分散剤の製造方法>
本発明の高分子分散剤の製造方法の一実施形態は、前述の高分子分散剤を製造する方法であり、構成単位(i)~(iv)を構成するすべてのモノマー及び水溶性有機溶剤を混合して40℃以上に加温した後、10時間半減期温度が50~80℃の重合開始剤を添加し、60~80℃で溶液重合する工程(重合工程)を有する。
通常のラジカル重合の場合、重合進行と並行して重合反応系にモノマーを滴下することで、急激な反応による熱暴走を抑制することが望ましい。これに対して、本実施形態の製造方法では、すべてのモノマーの全量を反応容器等の重合反応系に一括して仕込んでから重合反応を開始する。これにより、構成単位(i)を構成するイタコン酸類、及び構成単位(iv)を構成するスチレン等によってアクリレートの急激な反応進行を抑制し、熱暴走を防止しながら重合することができる。また、他のモノマーとの相溶性に乏しく、重合反応系に滴下して添加することが困難なイタコン酸類であっても、モノマーとして容易に用いることが可能であり、構成単位(i)を有効に含むポリマーを容易に製造することができる。
重合工程では、すべてのモノマー及び水溶性有機溶剤を反応容器等の重合反応系に入れて混合した後、40℃以上、好ましくは60~80℃に加温する。所定の温度に加温することで、イタコン酸類を溶解させることができる。
重合開始剤としては、10時間半減期温度が50~80℃のものを用いる。10時間半減期温度が50℃未満の重合開始剤を用いると、重合速度が不十分になり、得られるポリマーの数平均分子量(Mn)が10,000未満になる場合がある。なお、イタコン酸を高温条件下におくと、ビニル基のα位のメチレン水素のラジカル的な引き抜きや、脱水環化等の副反応が生じやすくなる。このため、10時間半減期温度が80℃超の重合開始剤を用いると、得られるポリマーの数平均分子量(Mn)が10,000未満になる場合がある。
10時間半減期温度が50~80℃重合開始剤としては、過酸化ラウロイル(62℃)及び過酸化ベンゾイル(74℃)等の過酸化物系ラジカル重合開始剤;アゾビスイソブチロニトリル(65℃)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(67℃)、2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(66℃)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(51℃)等のアゾ系ラジカル開始剤;等を挙げることができる(括弧内の温度は10時間半減期温度である)。なお、構成単位(iv)を構成するモノマーとして4-ビニルグアイアコールを用いる場合、過酸化物系ラジカル重合開始剤によって発生する酸素ラジカルがフェノール性水酸基によって不活性化しやすく、重合が十分に進行しないことがある。このため、構成単位(iv)を構成するモノマーとして4-ビニルグアイアコールを用いる場合には、アゾ系ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。
モノマーの合計100質量部に対する、重合開始剤の使用量は、2.0~5.0質量部とすることが好ましく、3.0~4.5質量とすることがさらに好ましい。重合開始剤の使用量がモノマーの合計100質量部に対して2.0質量部未満であると、ポリマー転化率が低下するとともに、得られるポリマーの数平均分子量(Mn)が30,000超となる場合がある。一方、重合開始剤の使用量がモノマーの合計100質量部に対して5.0質量部超であると、得られるポリマーの数平均分子量(Mn)が10,0000未満になりやすいとともに、急激な反応による熱暴走の制御がやや困難になる場合がある。
溶液重合時の温度は、用いる重合開始剤の10時間半減期温度に対して5℃~15℃高い温度とすることが好ましい。このため、溶液重合時の温度は60~80℃とすることが好ましい。
重合工程では、水溶性有機溶媒を重合溶媒として用いる。水難溶性の有機溶媒は、そもそもイタコン酸の溶解性に乏しいために重合溶媒として適していない。また、水難溶性の有機溶媒を重合溶媒として用いた場合、得られたポリマーを用いて水性顔料分散液を調製する際に水難溶性の有機溶媒を除去する必要があるため、工程が煩雑になる。
水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピルアルコール、ブタノール、及びイソブタノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリン等のグリコール溶媒;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、及び3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等のグリコールエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等のアミド系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びジメチルカーボネート等のカーボネート系溶媒;ジメチルスルホキシド;テトラメチル尿素;ジメチルイミダゾリジノン;等を挙げることができる。
なかでも、グリコールエーテル類を重合溶媒として用いることが好ましく、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種のグリコールエーテル類を重合溶媒として用いることがさらに好ましい。水溶性有機溶媒のなかでも、これらのグリコールエーテル類は脂溶性が比較的高いため、疎水性モノマーを多く含むモノマー成分を均一に溶解することができるために好ましい。なお、脂溶性が比較的高い上記のグリコールエーテル類を重合溶媒として用いた場合、イタコン酸類が溶解しにくいことがあるが、所定の温度に加温することで均一に溶解させることができる。
製造しようとするポリマー100質量部に対して、50質量部以上の重合溶媒を用いることが好ましく、100質量部以上の重合溶媒を用いることがさらに好ましい。溶液重合後には前述のアルカリを添加し、イタコン酸に由来するカルボキシ基の少なくとも一部を中和して水溶液化することが好ましい。これにより、高分子分散剤を含有する実質的に透明な水溶液を得ることができる。
また、溶液重合後に重合反応系から取り出した固体のポリマーを水に溶解させてもよい。具体的には、溶液重合後の重合反応系を貧溶剤に加えて生成したポリマーを析出させる。また、溶液重合後にアルカリを添加して水溶液化した後、大量の水に加えて均一化し、さらに酸を添加してポリマーを析出させてもよい。析出した固体のポリマーに水、及び必要に応じて水溶性有機溶媒を添加した後、アルカリ水溶液を添加し、カルボキシ基の少なくとも一部を中和して水溶液化することによって、高分子分散剤を含有する水溶液を得ることができる。
<水性顔料分散液>
本発明の水性顔料分散液の一実施形態は、水性インクジェットインクを調製するために用いられる顔料分散液であり、顔料、水、水溶性有機溶媒、及び顔料を分散させるための前述の高分子分散剤を含有する。
(顔料)
顔料としては、有機顔料や無機顔料を用いることができる。有機顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、ジアンスラキノニル顔料、アンスラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ピランスロン顔料、及びジケトピロロピロール顔料等を挙げることができる。無機顔料としては、二酸化チタン、酸化鉄、五酸化アンチモン、酸化亜鉛、シリカ、硫化カドミウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、黄鉛、及びカーボンブラック等を挙げることができる。
好適な顔料をカラーインデックスナンバー(C.I.)で示すと、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、15:6;C.I.ピグメントレッド122、176、202、209、254、269、291;C.I.ピグメントバイオレット19、23;C.I.ピグメントイエロ74、155、180;C.I.ピグメントグリーン36、58;C.I.ピグメントオレンジ43、48、49、71;C.I.ピグメントブラック7;C.I.ピグメントホワイト6;等の通常のインクジェットインクに用いられる顔料を挙げることができる。
有機顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は、150nm以下であることが好ましい。無機顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は、300nm以下であることが好ましい。数平均粒子径が上記範囲内の顔料を用いることで、記録される画像の光学濃度、彩度、発色性、及び印字品質を向上させることができるとともに、インク中における顔料の沈降を適度に抑制することができる。顔料の数平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡や光散乱粒度分布計などを使用して測定することができる。
顔料は、高分子分散剤、シランカップリング剤、無機物(シリカ、ジルコニア、硫酸等)、及び顔料誘導体(シナジスト)等の表面処理剤で表面処理されていてもよい。例えば、顔料を合成する際、顔料化する際、又は顔料を微細化する際に、これらの表面処理剤を添加又は共存させてもよい。また、キナクリドン系顔料としては、異種顔料の混合結晶化物や固溶体顔料等の複合体を用いることもできる。
(液媒体)
水性顔料分散液は、顔料の分散媒体として、水及び水溶性有機溶媒を含む水性の液媒体を含有する。水溶性有機溶媒としては、重合溶媒として用いることができる前述のアルコール系溶媒、グリコール系溶媒、及びアミド系溶媒等を用いることができる。
(水性顔料分散液)
水性顔料分散液中、顔料の含有量は5~60質量%であることが好ましい。顔料が有機顔料である場合、水性顔料分散液中の有機顔料の含有量は、5~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがさらに好ましい。また、顔料が無機顔料である場合、無機顔料は比重が大きいので、水性顔料分散液中の無機顔料の含有量は、20~60質量%であることが好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。
水性顔料分散液中、水の含有量は20~80質量%であることが好ましい。適当量の水を含有する水性顔料分散液とすることで、水性インクジェットインクを容易に調製することができる。
水性顔料分散液中、水溶性有機溶媒の含有量は30質量%以下であることが好ましく、0.5~20質量%であることがさらに好ましい。水溶性有機溶媒の含有量が30質量%超であると、記録した画像を乾燥しにくくなることがある。
水性顔料分散液中、高分子分散剤の含有量は0.5~20質量%であることが好ましい。高分子分散剤の含有量が0.5質量%未満であると、顔料を安定的に分散させることがやや困難になることがある。一方、高分子分散剤の含有量が20質量%超であると、粘度が高くなりすぎるとともに、非ニュートニアン粘性を示してしまい、インクジェット方式で直線的に吐出することがやや困難になる場合がある。
水性顔料分散液中の高分子分散剤の含有量は、顔料の種類、表面性質、及び粒子径等に応じて設定することも好ましい。具体的には、有機顔料100質量部に対して、高分子分散剤5~50質量部とすることが好ましく、10~30質量部とすることがさらに好ましい。また、無機顔料100質量部に対して、高分子分散剤1~20質量部とすることが好ましく、3~10質量部とすることがさらに好ましい。
(その他の成分)
水性顔料分散液には、高分子分散剤を中和するため、又はpH調整のため、アルカリをさらに含有させてもよい。アルカリとしては、前述のアンモニア、ジメチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種を用いることができる。水性顔料分散液中、アルカリの含有量は0.5~5質量%とすることが好ましい。
水性顔料分散液には、バインダー成分として、アクリル樹脂エマルジョン及びウレタン樹脂エマルジョンの少なくともいずれかのエマルジョンをさらに含有させることができる。水性顔料分散液中のエマルジョンの固形分換算の含有量は、5~20質量%であることが好ましい。これらのエマルジョンを含有させることで、擦過性等の耐久性及び光沢性が向上した画像を記録可能な水性インクジェットインクを調製しうる水性顔料分散液とすることができる。
アクリル樹脂エマルジョンとしては、界面活性剤の存在下でスチレン及びアクリル酸系モノマーを重合して得られる、分散粒子径(数平均粒子径)50~200nmのエマルジョンを用いることができる。ウレタン樹脂エマルジョンとしては、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート;ポリカーボネートジオール等のポリオール;ジエチレングリコール等のジオール;及びジメチロールプロパン酸等のジオールモノカルボン酸等を反応させ、イソホロンジアミンで鎖延長させつつ、アルカリ水で自己乳化させて得られる、分散粒子径(数平均粒子径)が50~200nmのエマルジョンを用いることができる。
(水性顔料分散液の物性)
水性顔料分散液の粘度は、顔料の性質や、調製しようとする水性インクジェットインクの粘度等に応じて適宜設定することができる。有機顔料を用いた場合には、水性顔料分散液の25℃における粘度は3~20mPa・sであることが好ましい。無機顔料を用いた場合には、水性顔料分散液の25℃における粘度は5~30mPa・sであることが好ましい。
水性顔料分散液の25℃における表面張力は、15~45mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがさらに好ましい。水性顔料分散液の表面張力は、例えば、水溶性有機溶媒の種類及び量によって、又は界面活性剤等を添加すること等によって調整することができる。
(水性顔料分散液の調製方法)
水性顔料分散液は、従来公知の方法にしたがって調製することができる。例えば、水、及び必要に応じて水溶性有機溶媒を添加して、顔料及び高分子分散剤等の混合物を調製する。そして、ペイントシェイカー、ボールミル、アトライター、サンドミル、横型メディアミル、コロイドミル、及びロールミル等を使用し、顔料を微分散させて分散液を調製する。調製した分散液に、水及び水溶性有機溶媒を添加するとともに、必要に応じてバインダー成分(エマルジョン)、その他の添加剤等を添加して所望の濃度に調整する。さらに、アルカリ等を添加してpHを調整してもよい。さらに、界面活性剤や防腐剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することで、目的とする水性顔料分散液を得ることができる。なお、各成分の混合及び分散後には、遠心分離機やフィルターを用いて粗大粒子を除去することが好ましい。
顔料の数平均粒子径(粒度分布)を所望の範囲とするには、例えば、用いる粉砕メディアのサイズを小さくする;粉砕メディアの充填率を大きくする;処理時間を長くする;吐出速度を遅くする;粉砕後フィルターや遠心分離機等で分級する;等の手法が採用される。また、ソルトミリング法等の従来公知の方法によって事前に微細化した顔料を用いることも好ましい。
<水性インクジェットインク>
本発明のインクの一実施形態は、前述の水性顔料分散液を含有する、プラスチックメディア印刷用又は捺染用として好適な水性インクジェットインクである。本実施形態のインクは、前述の水性顔料分散液を用いること以外は、従来公知の方法にしたがって調製することができる。インク中の顔料の含有量は、4~20質量%とすることが好ましい。
インクには、通常の水性インクジェットインクに用いられる各種の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、界面活性剤、有機溶媒・保湿剤、顔料誘導体、染料、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、エマルジョン等のバインダー成分、防腐剤、及び抗菌剤等を挙げることができる。
インクの物性は、インクジェットプリンタの性能等に応じて適宜設定される。例えば、25℃におけるインクの表面張力は、20~40mN/mであることが好ましい。
本実施形態のインクは、プラスチックメディア印刷用のインクジェット印刷機(プリンタ))に好適に用いることができる。印刷対象となるメディア(記録媒体)としては、オレフィンフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリエステルフィルム、及びポリアミドフィルム等のプラスチックフィルム等を挙げることができる。勿論、一般的なインクジェット印刷に適用される紙や金属等のメディアに印刷することも可能である。
本実施形態のインクを用いることで、基材への密着性及び耐久性に優れた、発色性の高い画像をプラスチックメディア等の非吸収性媒体をはじめとする各種のメディアに高速記録することができる。さらに、本実施形態のインクは高速印刷に適していることから、食品パッケージや包装材料等に印刷するために使用される大量印刷用のインクジエット印刷機に好適である。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
<高分子分散剤の製造>
(実施例1)
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)100部、イタコン酸(ITA)15部、アクリル酸イソボルニル(IBXA)35部、アクリル酸テトラヒドロフルフリル(THFA)30部、及びスチレン(St)20部を反応容器に入れ、窒素雰囲気下で72.5℃に加温した。2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(V59)2.0部を添加して重合を開始した。重合液の温度変化は0.5℃以内であり、大きな発熱は認められなかった。液温をそのまま保持し、3時間後にV59 1.0部を添加した。さらに4時間重合してポリマーを形成し、ポリマーを含有する液体を得た。液体の一部をサンプリングし、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にてポリマーの分子量を測定した。その結果、ポリマーの数平均分子量(Mn)は17,500であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は2.42であった。得られた液体の固形分は50.5%であり、重合率は約100%であった。固形分は、得られた液体の一部をアルミ皿に測りとり、150℃の送風乾燥機にて2時間乾燥させ、得られた残分から算出した。ポリマーを含有する液体を50℃まで冷却した後、28%アンモニア水15.4部及び水184.6部を含有するアルカリ水溶液を添加して中和し、高分子分散剤-1の水溶液(無色透明液体)を得た。得られた水溶液中の高分子分散剤-1の含有量(固形分)は、25.1%であった。
(実施例2~7)
表1に示す種類及び量(単位:部)のモノマーを用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、高分子分散剤-2~7の水溶液を得た。いずれの場合も、重合開始剤追加後の重合液の温度の変化は0.5℃以内であり、大きな発熱は認められなかった。得られた高分子分散剤の物性等を表1に示す。また、表1中の略号の意味を以下に示す。
・ITDM:イタコン酸ジメチル
・4VGAc:4-ビニルグアイアコールアセチル化物
・4VG:4-ビニルグアイアコール
・LA:アクリル酸ラウリル
(比較例1)
BDG100部、ITA15部、IBXA45部、及びTHFA40部を反応容器に入れた。さらに、連鎖移動剤(チオグリセロール(TGL))0.25部を添加し、窒素雰囲気下で65℃に加温した。2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V65)0.025部を添加して重合を開始した。1.5時間後と3時間後にV65 0.025部をそれぞれ添加し、さらに4時間重合してポリマーを形成し、ポリマーを含有する含有する液体を得た。ポリマーのMnは18,900であり、PDIは2.30であった。得られた液体の固形分は50.8%であり、重合率は約100%であった。ポリマーを含有する溶液を50℃まで冷却した後、28%アンモニア水15.4部及び水184.6部を含有するアルカリ水溶液を添加して中和し、高分子分散剤-8の水溶液(無色透明液体)を得た。得られた水溶液中の高分子分散剤-8の含有量(固形分)は、25.1%であった。
(比較例2)
表2に示す種類及び量(単位:部)のモノマーを用いたこと以外は、前述の比較例1と同様にして、高分子分散剤-9の水溶液を得た。得られた高分子分散剤の物性等を表2に示す。
(比較例3)
ITAの量を3部及びIBXAの量を47部としたこと以外は、前述の実施例1と同様にしてポリマーを含有する透明な液体を得た。ポリマーのMnは19,900であり、PDIは2.36であった。得られた液体の固形分は50.3%であり、重合率は約100%であった。アンモニア水溶液10.3部を添加したところ、白濁して固形分が析出してしまい、高分子分散剤の透明な溶液を得ることができなかった。ITAの量が少なすぎたため、得られたポリマーの水溶解性が不足したと考えられる。
(比較例4)
BDG100部及びITA15部を反応容器に入れ、窒素雰囲気下で72.5℃に加温した。IBXA35部、THFA30部、St20部、及びV59 2.0部を別容器に入れて混合し、均一なモノマー溶液を得た。得られたモノマー溶液を滴下ロートに入れ、内温を72.5℃に保持しながら1時間かけて反応容器内に滴下した。滴下終了してから2時間後にV59 1.0部を添加し、さらに4時間重合してポリマーを形成し、ポリマーを含有する透明な液体を得た。ポリマーのMnは19,800であり、PDIは2.65であった。得られた液体の固形分は50.9%であり、重合率は約100%であった。ポリマーを含有する溶液を50℃まで冷却した後、28%アンモニア水15.4部及び水184.6部を含有するアルカリ水溶液を添加して中和し、高分子分散剤-10の水溶液(微白色透明液体)を得た。得られた水溶液中の高分子分散剤-10の含有量(固形分)は、25.1%であった。
<顔料分散液及びインクの調製>
(実施例8)
高分子分散剤-1の水溶液175部及び水350部を混合して透明な溶液を得た。顔料(C.I.ピグメントブルー15:3、商品名「A-220JC」、大日精化工業社製)175部を得られた液体に添加し、ディスパーを使用して30分間撹拌してミルベースを調製した。横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルECM型」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズの径:0.5mm)を使用し、周速10m/sで分散処理してミルベース中に顔料を十分に分散させた。水272.2部を添加して顔料濃度が18%となるように調整した。ミルベースを遠心分離処理(7,500回転、20分間)した後、ポアサイズ10μmのメンブレンフィルターでろ過した。水で希釈して、顔料濃度が14%であるインクジェットインク用の顔料分散液(IJD-1)を得た。
粒度測定機(商品名「NICOMP 380ZLS-S」、インターナショナル・ビジネス社製)を使用して測定したIJD-1中の顔料の数平均粒子径は128nmであり、顔料が微分散されていることを確認した。また、IJD-1の粘度は2.90mPa・sであり、pHは9.0であった。70℃で1週間保存後のIJD-1中の顔料の数平均粒子径は129.1nmであり、IJD-1の粘度は2.89mPa・sであった。これにより、IJD-1の保存安定性が非常に良好であることを確認した。
IJD-1 40部、水42.2部、1,2-ヘキサンジオール5部、グリセリン10部、及び界面活性剤(商品名「サーフィノール465」、エアープロダクト社製)1部を混合して十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターでろ過して、インクジェット用のインク(IJI-1)を得た。
(実施例9~14、比較例5~7)
表2に示す種類の高分子分散剤をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例8と同様にして、インクジェットインク用の顔料分散液(IJD-2~7及びCIJD-1~3)を得た。各顔料分散液の特性(分散直後及び70℃で1週間保存後の顔料の数平均粒子径及び粘度)を表3に示す。
比較例7で調製したCIJD-3については、分散直後は顔料が微分散されていたが、70℃で1週間保存後には顔料の凝集が確認された。高分子分散剤-10(比較例4)は、イタコン酸以外のモノマーを反応系に滴下して重合する方法によって調製したものであるため、イタコン酸に由来する構成単位(i)が高分子分散剤の分子内に均一に導入されず、十分な水溶性が確保されなかったため、顔料分散性が損なわれたと考えられる。以降の検討にはCIJD-3を用いなかった。
さらに、調製したIJD-2~7及びCIJD-1~2をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例8と同様にして、インクジェット用の水性顔料インク(IJI-2~7及びCIJI-1~2)を得た。
<評価>
調製した水性顔料インクをカートリッジにそれぞれ充填し、プレートヒーター付きインクジェット印刷機(商品名「MMP825H」、マスターマインド社製)に装着した。そして、表面温度が50℃となるようにプレートヒーターで加熱したPETフィルム(商品名「FE22001♯50」、フタムラ化学社製)にベタ画像を印刷して印刷物を得た。
(分散性)
以下に示す評価基準にしたがって、調製した顔料分散液中の顔料の分散性を評価した。結果を表3に示す。
○:微分散されており、保存安定性が良好であった。
△:微分散されているが、保存安定性が良好ではなかった。
×:微分散されておらず、保存安定性も不良であった。
(吐出性)
印刷時のインクの吐出状態を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがってインクの吐出性を評価した。結果を表3に示す。
○:問題なく吐出することができた。
△:微小液滴の飛び散りが認められた。
×:吐出時に液滴がスプラッシュして飛び散り、画像が乱れた。
(画質)
印刷した画像を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画質を評価した。結果を表3に示す。
○:良好な画像を記録することができた。
×:筋が入る等して画像が乱れた。
(密着性)
印刷物を100℃で10分間乾燥させた後、画像にセロファンテープを十分に押し当ててから剥離した。PETフィルムからの画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがってPETフィルムに対する画像の密着性を評価した。結果を表3に示す。
◎:まったく剥がれなかった。
○:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
(耐摩擦性(耐乾摩擦性及び耐湿摩擦性))
印刷物を100℃で10分間乾燥させた後、学振型摩擦堅牢度試験機(商品名「RT-300」、大栄科学社製)を使用し、乾燥した白布及び水で湿らせた白布により、それぞれ100gの加重で10往復する摩擦試験を行った。摩擦試験後の画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐摩擦性(乾摩擦性及び湿摩擦性)を評価した結果を表3に示す。
◎:まったく剥がれなかった。
○:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
本発明の高分子分散剤を用いれば、プラスチックメディア印刷用又は捺染用として好適な水性インクジェットインクを調製することができる。そして、この水性インクジェットインクを用いれば、例えば、各種の容器、包装、ラベル、及びサインディスプレイ等に高品質な画像をオンデマンドで高速に印刷することができる。

Claims (7)

  1. 水性インクジェットインクを調製するために用いられる水性顔料分散液に配合される、顔料を分散させるための高分子分散剤であって、
    イタコン酸及びイタコン酸モノエステルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(i)5~20質量%と、
    アクリル酸イソボルニルに由来する構成単位(ii)15~45質量%と、
    アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸エチル、イタコン酸ジメチル、及びイタコン酸ジエチルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(iii)10~40質量%と、
    スチレン、4-ビニルグアイアコール、4-ビニルグアイアコールアセチル化物、及び4-ビニルグアイアコールメチル化物からなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(iv)15~45質量%と、を含み、
    前記構成単位(i)~(iv)の合計の含有量が90質量%以上であり、
    数平均分子量が10,000~30,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.7~2.7である、カルボキシ基を有するポリマーであり、
    前記カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されて水に溶解する高分子分散剤。
  2. 請求項1に記載の高分子分散剤の製造方法であって、
    前記構成単位(i)~(iv)を構成するすべてのモノマー及び水溶性有機溶剤を混合して40℃以上に加温した後、10時間半減期温度が50~80℃の重合開始剤を添加し、60~80℃で溶液重合する工程を有する高分子分散剤の製造方法。
  3. 前記モノマーの合計100質量部に対する、前記重合開始剤の使用量が、2.0~5.0質量部である請求項2に記載の高分子分散剤の製造方法。
  4. 水性インクジェットインクを調製するために用いられる水性顔料分散液であって、
    顔料、水、水溶性有機溶媒、及び前記顔料を分散させるための高分子分散剤を含有し、
    前記高分子分散剤が、請求項1に記載の高分子分散剤である水性顔料分散液。
  5. 前記顔料の含有量が5~60質量%であり、
    前記水の含有量が20~80質量%であり、
    前記水溶性有機溶媒の含有量が30質量%以下であり、
    前記高分子分散剤の含有量が0.5~20質量%である請求項4に記載の水性顔料分散液。
  6. 請求項4又は5に記載の水性顔料分散液を含有する水性インクジェットインク。
  7. プラスチックメディア印刷用又は捺染用である請求項6に記載の水性インクジェットインク。
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