JP2024514608A - Rac1由来変異エピトープ及びrac2由来変異エピトープの両方に特異的なt細胞受容体 - Google Patents

Rac1由来変異エピトープ及びrac2由来変異エピトープの両方に特異的なt細胞受容体 Download PDF

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Abstract

本発明は、T細胞で発現するT細胞受容体(TCR)等の抗原結合タンパク質(ABP)に基づいており、このABPは、MHC提示Rac2及びRac1由来ネオエピトープに結合する特異性を有する。そのため、そのようなMHC提示ペプチドは、変異型のRac1及びRac2、例えば、好ましくはRAC2P29L及び/又はRAC1P29Sに由来する。提供されるのは、単離されたABP、並びにこのABPを発現する遺伝子構築物、本発明のABPを内包する組換え宿主細胞、及びそのようなABP及び宿主細胞を生成する方法である。そのうえさらに、提供されるのは、本発明のTCRが関与する医学的用途、例えば、養子T細胞療法の状況での用途である。【選択図】なし

Description

本発明は、T細胞で発現するT細胞受容体(TCR)等の抗原結合タンパク質(ABP)に基づいており、このABPは、MHC提示Rac2及びRac1由来ネオエピトープに結合する特異性を有する。そのため、そのようなMHC提示ペプチドは、変異型のRac1及びRac2、例えば、好ましくはRAC2P29L及び/又はRAC1P29Sに由来する。提供されるのは、単離されたABP、並びにこのABPを発現する遺伝子構築物、本発明のABPを内包する組換え宿主細胞、及びそのようなABP及び宿主細胞を生成する方法である。そのうえさらに、提供されるのは、本発明のTCRが関与する医学的用途、例えば、養子T細胞療法の状況での用途である。
ヒトT細胞は、骨髄前駆細胞から生じて胸腺で成熟するリンパ球である。複数のT細胞サブタイプが識別されており、これらは、CD4+ヘルパーT細胞及びCD8+Tキラー細胞に分類される。一般に、様々な種類のCD4+T細胞が、免疫機能に介在する:例えば、Th1細胞は、細胞内細菌、真菌、及び原生動物に対する免疫応答と結び付いていて、IFN-ガンマを分泌し、マクロファージの微生物活性を向上させることができる。他方でTh2細胞は、体液性免疫応答において役割を担っている。サイトカイン分泌及び表面タンパク質相互作用により、Th2は、B細胞を刺激して抗体を分泌させるのに重要な役割を担っている。CD8+T細胞は、感染細胞又は変異細胞の認識に特化している。疾患細胞を認識すると、CD8+T細胞は、パーフォリン、グランザイム、及びケモカインの混合物を放出し、これが最終的に、感染細胞のアポトーシスをもたらす。(非特許文献1)。
T細胞活性化は、とりわけ、それらの独自のT細胞受容体(TCR)と抗原提示細胞の特異的抗原担持MHC受容体との相互作用に依存する。TCRは、2つの反応性抗原認識鎖及び隣接するCD3配列要素で構成される、表面係留タンパク質複合体である。TCRでは、膜貫通CD3タンパク質複合体が、細胞質ITAMセグメントを介してシグナル伝達を仲介するが、中心の抗原認識鎖は、主に、それらの先端の反応性ループで抗原提示細胞と相互作用する。
最も一般的には、TCRの抗原相互作用配列要素は、2本のカップリングしたTCRα鎖及びTCRβ鎖から二量体として構築される。これらTCRα鎖又はTCRβ鎖はそれぞれ、構造的役割を持つ定常セグメント及び抗原相互作用の原因である可変セグメントから構築される。この相互作用は、可変セグメントを形成するそれぞれのアミノ酸鎖のループに位置する超可変領域に支配される。まとめると、一緒になったTCRα可変セグメント及びTCRβ可変セグメントが、3つの抗原相互作用相補性決定領域(CDR)を形成する。これらが、提示細胞のMHC/抗原複合体と相補的である場合、シグナルカスケードが引き起こされ、他の共刺激の影響に応じて、細胞内の各種プロセス又はT細胞エフェクター機能、例えば、抗原提示細胞のアポトーシスをもたらすことができる。
幅広いT細胞特異性は、胸腺においてそれらが発達する間に獲得され、胸腺において、T細胞は、異なる成熟段階を経過する。この過程において、T細胞は、TCRアルファ及びベータコード遺伝子セグメントの体細胞VJ又はVDJ組換えを通じて、特異的TCRを生成する。加えて、組換えTCR遺伝子は、エキソヌクレアーゼ活性を通じて、またランダム非テンプレート依存性ヌクレオチド(N-ヌクレオチド)の付加を通じて、それらのV-D-J及びV-J遺伝子結合部で更に修飾される。この多様性が、TCR鎖の繊細な特異性を定義する高度可変性相補性決定領域を作出する。
TCRは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と称する、細胞表面糖タンパク質が提示する短ペプチド断片の形状の抗原を認識し、MHCは、ヒトでは、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子によりコードされており、マウスでは、H-2遺伝子によりコードされる。ヒトでは、2つのクラスのMHC分子が、識別されている。MHCクラスI分子は、全ての有核細胞で発現し、CD8+T細胞により認識される。MHCクラスII分子は、専門的抗原提示細胞、B細胞、及び活性化T細胞で発現し、CD4+T細胞により認識される。MHCクラスI抗原提示では、細胞内タンパク質は、プロテアソームにおいて内在的にプロセシングされて、典型的には長さ8アミノ酸~10アミノ酸の短いペプチド断片になる。これらの抗原は、抗原プロセシング関連トランスポーター(TAP)を通じて小胞体を横断して移行しMHCクラスI分子に負荷された後、CD8+T細胞認識のために提示される。TCRαβ二量体と同族抗原/MHC複合体が係合すると、会合したCD3複合体が、T細胞活性化に必要なシグナル伝達カスケードを開始する(非特許文献2)。
養子T細胞療法は、患者の腫瘍又はウイルス感染細胞に対する特異性を持つT細胞をin vitroで増大させて投与することに依存する治療手法の総称である。ATTには様々な変形形態が存在する。例えば、増大T細胞は、適切な結合親和性を持つT細胞画分を自家採取し引き続き増幅/活性化させることにより、生成可能である。他のATT療法は、最適化された天然に生じるTCRを発現するように、又は、CAR-T細胞療法の場合のように、人工的に設計されたキメラ抗原結合受容体を発現するように、遺伝子操作されたT細胞を利用する。天然に生じるTCRは、内在的にプロセシングされた細胞外抗原及び細胞内抗原を、細胞表面にてMHC限定様式で認識するという利点を提供し、したがって、CAR以外の異なる抗原アレイを標的とすることができる。T細胞に基づく免疫療法の標的は、病原体関連又は腫瘍関連(又は腫瘍特異的)タンパク質に由来するペプチドエピトープであり、これは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の分子により提示される。こうした疾患関連抗原は、全てのタンパク質クラス、例えば、酵素、受容体、転写因子等に由来するペプチドであることが可能であり、このようなペプチドは、それぞれの腫瘍の細胞で発現し、同じ起源の未改変細胞と比較した場合に、通常は上方制御されている。腫瘍が、ウイルス感染、例えば、MCV又はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染と関連する場合、免疫療法は、ウイルス感染宿主細胞に由来する腫瘍細胞が発現するウイルス抗原に基づいて開発することができる。
これまでのところ、TCR改変T細胞を用いたATTは、臨床試験において、主に、腫瘍関連抗原又は癌精巣抗原を発現する固形腫瘍を持つ患者で、試験されてきている。最初に公表されたTCR改変T細胞を用いる臨床試験は、転移性黒色腫の患者において、腫瘍関連抗原MART-1及びgp100を標的とし、客観的癌退縮率を、それぞれ19%又は30%招いた。しかしながら、注入されたT細胞は、患者の目、耳、及び皮膚のメラニン細胞も認識し、そのため、重篤な腫瘍外オンターゲット毒性を招いた(非特許文献3)。別のアプローチでは、肉腫患者及び黒色腫患者が、癌精巣抗原NY-ESO-1を標的とするTCR改変T細胞で治療されたが、これは、客観的奏効率55%~80%を招き、一方で、重篤な毒性は観察されなかった(非特許文献4及び非特許文献5)。最後に、癌精巣抗原MAGE-A3を標的とするTCR改変T細胞を用いた別の試験において、患者7人中5人で、腫瘍退縮が明らかであったが、患者2人が重篤な神経毒性のため死亡した(非特許文献6)。
RasスーパーファミリーのRho GTPアーゼは、複数の細胞機能の調節に関与しており、様々なヒト疾患の病理に結びつけられてきた。そのような疾患として、癌(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)、病的血管新生、例えば、糖尿病性網膜症、腫瘍性血管新生、緑内障、加齢黄斑変性症におけるもの(非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12)、喘息、アルツハイマー病(非特許文献13)、心臓左心室肥大(非特許文献14、非特許文献15)が挙げられる。Rho GTPアーゼは、未来の標的療法において魅力ある創薬ターゲットである(非特許文献16)。
高RhoAレベルは、ヒト肝臓癌、皮膚癌、結腸癌、卵巣癌、膀胱癌、胃癌、食道扁平細胞癌、精巣癌、及び乳癌と関係するとされてきた。高RhoB、C、又はHレベルは、乳癌、扁平細胞癌、膵臓癌、乳癌、肝臓癌、卵巣癌、頭頸部癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、及び胃癌、並びに黒色腫転移と関係するとされてきた。高Rac1レベルは、ヒト精巣癌、胃癌、乳癌、及び扁平細胞癌と関係するとされてきた。高Rac2又はRac3は、乳癌、結腸癌、頭頸部癌、及び扁平細胞癌と関係するとされてきた。(非特許文献17)。機能獲得型変異、例えば、Rac1のP29Sが、黒色腫、乳癌、頭頸部癌で検出された(非特許文献18)。
Racタンパク質(Rac1、1b、2、3)は、RasスーパーファミリーのRhoGTP結合タンパク質(又はGTPアーゼ)に属し、したがって、ヌクレオチド交換及び加水分解を通じて活性GTP結合型と不活性GDP結合型の間を循環する分子スイッチとして作用する。大部分の他のGTPアーゼと同じく、これらのタンパク質も、結合したヌクレオチドに応じて様々な立体構造をとり、主な違いは、2つの短く柔軟なループ構造の立体構造にあり、これらはスイッチI領域及びスイッチII領域と名付けられている。3種の異なる哺乳類Racアイソフォーム、Rac1、Rac2、及びRac3は、非常に高い配列同一性(最高90%)を共有し、Rac1bは、スイッチII領域の近傍に19個のアミノ酸が挿入されたRac1の代替スプライスバリアントである。Rac1bは、加速されたGEF非依存性GDP/GTP交換及びGTP加水分解障害を有し、自己活性化GTPアーゼの主要因である(非特許文献19)。
RAC2は、GTPアーゼのRhoファミリーに属する小さいGTPアーゼである。RAC2P29L変異は、腫瘍成長及び転移を促進する別のいわゆるドライバー変異であり、したがって、ATTにおける潜在的標的となる。
したがって、本発明の目的は、癌疾患に罹患している患者を治療する新規の養子細胞利用免疫療法を提供することである。特に、本発明は、変異RAC1及びRAC2関連かつMHC提示ペプチドに特異的な新規のT細胞受容体分子を提供すべく探求するものである。
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一般的に、そして簡単な説明として、本発明の主な態様は、以下のように記載され得る。
第1の態様において、本発明は、抗原結合タンパク質(ABP)又はそのバリアントに関し、このABPは、任意選択でRAC2P29L及び/又はRAC1P29S関連抗原ペプチドに特異的に結合し、単離されたABPは、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み、このCDRは、配列番号3、7、11、及び15から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR3である。
第2の態様において、本発明は、本発明のABPをコードする核酸配列を有する、核酸又は核酸構築物(NAC)に関する。
第3の態様において、本発明は、本発明の核酸を含む、組換えベクターに関する。
第4の態様において、本発明は、組換え宿主細胞に関し、この組換え宿主細胞は、本発明のABPを含む若しくは発現する、又は本発明の核酸若しくはベクターを含む。
第5の態様において、本発明は、本発明のABP又は本発明の核酸若しくは細胞を1つ以上、好ましくは組合せて含む、医薬組成物に関する。
第6の態様において、本発明は、医薬に使用される、特に、対象におけるRAC2P29L及び/又はRAC1P29S発現に関連した疾患、例えば癌等の治療に使用される、本発明の生成物のいずれか、又はそれらの組合せを含む、複合物又は組成物に関する。
第7の態様において、本発明は、RAC1及び/又はRAC2特異的抗原認識構築物を発現する細胞株を製造する方法であって、
適切な宿主細胞を用意することと、
本発明のABPをコードするコード配列を含む遺伝子構築物を用意することと、
上記適切な宿主細胞に、上記遺伝子構築物を導入することと、 上記適切な宿主細胞によって上記遺伝子構築物を発現させることと、
を含む、方法に関する。
発明の詳細な説明
下記で本発明の要素を記載する。これらの要素は特定の実施の形態とともに挙げられているが、更なる実施の形態を作成するのに、これらの要素をどのような方法及びどのような数でも組み合わせることができることを理解されたい。多様に記載された実施例及び好ましい実施の形態は、本発明を例示的に記載された実施の形態のみに限定するものとは解釈されない。本明細書は2つ以上の例示的に記載された実施の形態を組み合わせた実施の形態又は1つ以上の例示的に記載された実施の形態と、あらゆる数の開示された及び/又は好ましい要素とを組み合わせた実施の形態を支持及び包含するものであると理解されたい。さらに文脈上他に指定のない限り、本出願において記載された全ての要素のあらゆる並び替え(permutations)及び組合せが本出願の明細書により開示されていると見なされる。
第1の態様において、本発明は、抗原結合タンパク質(ABP)又はそのバリアントに関し、このABPは、任意選択でRAC1及び/又はRAC2、好ましくは変異RAC1及び/又はRAC2に特異的に結合し、単離されたABPは、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み、このCDRは、配列番号3、7、11、及び15から選択される配列と比較して、少なくとも60%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有するアミノ酸配列を有する、CDR3である。
本発明のTCR及びそれらの個々のバリアントは、特定のRAC2P29Lペプチド(配列番号17)が使用されたにも関わらず、本発明のTCRは、RAC1P29S由来ペプチドを更に認識することができるという驚くべき利点を提供する。このことは、RAC2P29L及び/又はRAC1P29Sに由来するそのようなネオエピトープに関する従来技術のTCRに驚くべき利点を提供する。なぜなら、ATTにおいて使用した場合、本発明の構築物は、より広い患者群を治療する可能性があるからである。本発明による態様は、2種の主に新規なHLA-A2限定ヒトTCR(RAC2-T001及びRAC2-T002)に関し、これらは、変異タンパク質バリアントRac2P29Lを特異的に認識するが、対応するRacバリアントRac1P29Sも認識する。どちらの変異も、抵抗性及び転移性癌において役割を担っており、したがって、本発明は、予後不良であるそのような疾患に罹患した患者に新規の治療選択肢を提供する。
本発明の好適なABP又はその抗原結合バリアントは、RAC2由来抗原ペプチドを用いて産生され、同じエピトープ領域をカバーする対応するRAC1抗原ペプチドに対して高い親和性を有する。好ましくは、免疫化に使用されるRAC2に由来する抗原ペプチドは、配列番号17のペプチドであり、一方、ABPは、RAC1に由来する配列番号18のペプチドに対して高い親和性を有する。
一部の実施の形態において、本発明のABPは、変異RAC1及び/又はRAC2(例えば、RAC2P29L及び/又はRAC1P29S)抗原ペプチドHLA分子複合体に特異的に結合し、このRAC1/RAC2抗原ペプチドは、変異を含む配列の配列、好ましくは、RAC2P29L及び/又はRAC1P29Sを含むペプチド配列を含むか、又は代替的にこの配列からなる。そのようなペプチドは、長さが、好ましくは8個~12個、より好ましくは10±1個のアミノ酸であり、HLAクラスI(好ましくは)又はクラスII分子に結合し、及び/又は上記ペプチドと交差反応するT細胞を誘導し、又は、その薬学上許容される塩であり、上記ペプチドは、基礎全長ポリペプチドではない。好ましくは、本発明のABPは、抗原ペプチド及びHLAと複合体形成した場合、任意選択で1種以上の共活性化刺激の存在下において、T細胞免疫応答を誘導/活性化する。
「抗原認識構築物」又は「抗原結合タンパク質」という用語は、本明細書中において同義で使用され、他のタンパク質、好ましくは免疫グロブリン様タンパク質、例えば、T細胞受容体若しくは抗体、又はこのクラスのタンパク質の任意の既知バリアントに特異的に結合する能力を有するタンパク質を指す。
「単離された」という用語は、本明細書中においてポリペプチドの文脈で、例えば、抗原認識構築物(この例として、抗体が可能である)で使用される場合、タンパク質若しくはポリペプチドから、又は治療用途、診断用途、予防用途、研究用途、若しくは他の用途を妨害する可能性のある他の混入物から精製されたポリペプチドを指す。本発明による抗原認識構築物は、組換え、合成、又は修飾(非天然)抗原結合構築物であることが可能である。「単離された」という用語は、本明細書中において核酸又は細胞の文脈で使用される場合、DNA、RNA、タンパク質、若しくはポリペプチド、若しくは治療用途、診断用途、予防用途、研究用途、若しくは他の用途を妨害する可能性のある他の混入物(例えば他の細胞)から精製された核酸又は細胞を指すか、又は、この用語は、組換え、合成、若しくは修飾(非天然)核酸を指す。この文脈において、「組換え」タンパク質/ポリペプチド又は核酸とは、組換え技法を用いて作られた1種である。組換え核酸及びタンパク質を製造する方法及び技法は、当該技術分野で既知である。
本明細書中において使用される場合、「同一である」又はパーセント「同一性」という用語は、本明細書中においていずれの箇所であっても、2つ以上の核酸又はタンパク質/ポリペプチド配列の文脈で使用される場合、配列比較アルゴリズムを用いて測定した場合、又は手動で整列させ目視検査した場合、同じであるか、又は同じアミノ酸残基若しくはヌクレオチドを指定のパーセンテージで有する(又は少なくとも有する)(すなわち、比較枠又は指定された領域にわたり最大一致となるように整列させ比較した場合、指定領域(好ましくはそれらの全長配列)にわたり、約60%同一性であるか、又は少なくとも約60%同一性であり、好ましくは65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、若しくは94%同一性又は少なくともその%同一性であり、より好ましくは約95%、96%、97%、98%、99%、若しくはそれより高い%同一性又は少なくともその%同一性である)、2つ以上の配列又はサブ配列を指す(例えば、NCBIウェブサイトを参照)。特に、アミノ酸同一性については、BLASTP2.2.28+に以下のパラメーターを合わせて用いる:行列:BLOSUM62;ギャップペナルティ:存在:11、延長:1;隣接語閾値:11;複数ヒットの枠:40。
ABPが好ましくはTCRである別の追加又は代替の実施の形態において、ABPは、CDR1ドメイン配列及び/又はCDR2ドメイン配列を更に含むことができる。可変ドメイン内において、CDR1及びCDR2は、ポリペプチド鎖の可変(V)領域に見つかり、CDR3は、V領域の一部、多様性(D)領域及び結合(J)領域の全部を含む。CDR3は、最も可変性が高く、抗原認識の特異性及び選択性の原因である主CDRである。CDR1配列及びCDR2配列は、ヒト可変鎖アレルのCDR配列から選択することができる。
未変性アルファ-ベータヘテロ二量体TCRは、アルファ鎖及びベータ鎖を有する。各鎖は、可変領域、結合領域、及び定常領域を有し、ベータ鎖は、通常、可変領域と結合領域の間に短い多様性領域も有しているが、この多様性領域は、結合領域の一部と見なされることが多い。各可変領域は、フレームワーク配列に埋め込まれた3つのCDR(相補性決定領域)を有し、1つが、CDR3と名付けられた超可変領域である。これらのフレームワーク、CDR1配列、及びCDR2配列により、また部分的に定義されたCDR3配列により識別される、複数種類のアルファ鎖可変(Vα)領域及び複数種類のベータ鎖可変(Vβ)領域が存在する。Vαの種類は、IMGT命名法において、特有のTRAV番号により参照され、Vβの種類は、特有のTRBV番号により参照される。免疫グロブリン抗体及びTCR遺伝子の更なる情報については、国際ImMunoGeneTics情報システム(商標)、Lefranc M-Pら、(Nucleic Acids Res. 2015 Jan;43(Database issue):D413-22; 及びhttp://www.imgt.org/)を参照。
したがって、1つの追加又は代替の実施の形態において、本発明のABPは、CDR1配列、CDR2配列、及びCDR3配列を、本明細書中において以下で表1に提示するように組み合わせて含み、それぞれの可変鎖アレルもCDR3配列と一緒に表示されている。したがって、好適であるのは、少なくとも1つ、好ましくは3つ全てのCDR配列のCDR1、CDR2、及びCDR3を含む本発明のABPである。好ましくは、本発明の抗原認識構築物は、本発明の1つの個別の本明細書中において開示されるTCR可変領域のそれぞれCDR1~CDR3を含む(本明細書中において以下の表1及び実施例のセクションを参照)。
「特異性」又は「抗原特異性」又は所与の抗原「に特異的」という用語は、本明細書中において使用される場合、上記抗原がHLAにより、好ましくはHLA-A*02により提示された場合、ABPが、上記抗原に、好ましくはRAC1及び/又はRAC2由来抗原に、より好ましくは高いアビディティーで、特異的に結合できることを意味する。例えば、TCR又はその抗原結合バリアント若しくは誘導体を発現するT細胞を、低濃度(例えば、約10-11 mol/l、10-10 mol/l、10-9 mol/l、10-8 mol/l、10-7 mol/l、10-6 mol/l、10-5 mol/l)の本明細書中において以下で提供される抗原ペプチド、例えば、RAC2P29L及び/又はRAC1P29Sエピトープ及び抗原(P29変異アミノ酸位置を含む)でパルス刺激された標的細胞と共培養した上で、RAC2P29L及び/又はRAC1P29S由来抗原ペプチド提示HLAと接触させた場合に、このT細胞が少なくとも約200 pg/ml以上(例えば、250 pg/ml以上、300 pg/ml以上、400 pg/ml以上、500 pg/ml以上、600 pg/ml以上、700 pg/ml以上、1000 pg/ml以上、2000 pg/ml以上、2500 pg/ml以上、5000 pg/ml以上)のインターフェロンγ(IFN-γ)を分泌するならば、TCRは、抗原認識構築物として、RAC2P29L及び/又はRAC1P29S抗原ペプチドに対して「抗原特異性」を有すると見なすことができる。代替的に又は追加的に、TCRを発現するT細胞が、低濃度のRAC2P29L及び/又はRAC1P29S抗原ペプチドでパルス刺激された標的細胞と共培養されることで、形質導入されていないバックグラウンドレベルのIFN-γの少なくとも2倍の多さのIFN-γを分泌するならば、TCRは、この抗原ペプチドに対して「抗原特異性」を有すると見なすことができる。上記で記載されるとおりのそのような「特異性」は、例えば、ELISAで分析することができる。
本発明の1つの代替又は追加の実施の形態において、抗原認識構築物は、抗原ペプチドに選択的に結合し、好ましくは、抗原ペプチドは、配列番号17若しくは18に示すアミノ酸配列を有するタンパク質エピトープ又はペプチドであり、好ましくは配列番号17若しくは18に示すアミノ酸配列からなるペプチド又はそのバリアントであり、このバリアントは、3つ以下、好ましくは2つ、特に好ましくは1つ以下のアミノ酸位置での、アミノ酸の欠失、付加、挿入、又は置換体である。そのような検出は、上記ペプチドのMHC提示の文脈において実現される。
「選択性」又は「選択的に認識/結合する」という用語は、本発明のABP、例えば、TCR又は抗体が、好ましくは1種の特異的エピトープのみを選択的に認識又はこれに結合し、好ましくは、別のエピトープに対して全く又は実質的に全く交差反応性を示さないという性質を指すと解釈される。好ましくは、「選択性」又は「選択的に認識/結合する」は、抗原認識構築物(例えば、TCR)が、好ましくは1種の特異的エピトープのみを選択的に認識又はこれに結合し、好ましくは、別のエピトープに対して全く又は実質的に全く交差反応性を示さないことを意味し、上記エピトープは、抗原認識構築物が別のエピトープ及び別のタンパク質に対して全く又は実質的に全く交差反応性を示さないように、或る1種のタンパク質に唯一のものである。驚くべきことに、本発明の好適なTCRが、RAC1ネオエピトープ及びRAC2ネオエピトープの両方を認識することにより、従来技術のTCRに比べて、予期せぬ範囲の選択性を示し、それ以外では、他のエピトープ配列に対するオフターゲット結合の低下を有し、したがって、本発明のTCRは、変異RACタンパク質、好ましくはRAC2P29L及び/又はRAC1P29Sの発現と関連した疾患の治療に特に有用であるということが認識された。
本発明によるABPは、好ましくは、抗体、若しくはその誘導体若しくは断片、又はT細胞受容体(TCR)、若しくはその誘導体若しくは断片から選択される。本発明の抗体又はTCRの誘導体又は断片は、好ましくは、親分子の抗原結合/認識能力、特に上記で説明したとおりのその特異性及び/又は選択性を維持していなければならない。そのような結合機能性は、本明細書中において定義されるとおりのCDR3領域の存在により維持することが可能である。TCRのそのような抗原結合特異性は、TCRがペプチド及び該ペプチドを提示するHLA分子と一緒に複合体を形成するように、通常、HLA(MHC)提示抗原ペプチドに依存する。
本発明の実施の形態において、本発明のTCRは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI依存様式で、RAC2P29L抗原及び/又はRAC1P29S抗原を認識することができる。「MHCクラスI依存様式」は、本明細書中において使用される場合、TCRが、MHCクラスI分子の文脈内でRAC2P29L抗原及び/又はRAC1P29S抗原に結合した際に、免疫応答を誘発することを意味する。MHCクラスI分子は、当該技術分野で既知である任意のMHCクラスI分子、例えば、HLA-A分子が可能である。本発明の好適な実施の形態において、MHCクラスI分子は、HLA-A*02分子である。
本発明は、一本鎖ABP及び二本鎖ABPの両方を提供する。本発明のABPは、可溶性であることも、膜結合構築物であることも可能である。
或る実施の形態において、TCRアルファ可変ドメインは、表1に示すTCRアルファドメインと比べて、少なくとも1つの変異を有し、及び/又はTCRベータ可変ドメインは、表1に示すTCRアルファドメインと比べて、少なくとも1つの変異を有する。或る実施の形態において、TCRアルファ可変ドメイン及び/又はTCRベータ可変ドメインに少なくとも1つの変異を有するTCRは、RAC2P29L及び/又はRAC1P29SペプチドHLA分子複合体に対して、未変異TCRアルファドメイン及び/又は未変異TCRベータ可変ドメインを有するTCRのものの少なくとも2倍である結合親和性及び/又は結合半減期を有する。
本明細書のTCRアルファ鎖は、TCRアルファ膜貫通ドメイン及び/又はTCRアルファ細胞内ドメインを更に含むことができる。本明細書のTCRベータ鎖は、TCRベータ膜貫通ドメイン及び/又はTCRベータ細胞内ドメインを更に含むことができる。
本発明は、特に、抗原認識構築物としてのTCR又はその断片若しくは誘導体を提供する。TCRは、好ましくはヒトのものであり、これは、ヒトTCR遺伝子座から生成したものであり、したがってヒトTCR配列を含むということであると解釈される。そのうえさらに、本発明のTCRは、ヒト起源のものであり、本発明のRAC2P29L及び/又はRAC1P29S抗原を特異的に認識することを特徴とすることができる。
本発明の別の実施の形態は、追加的に又は代替的に、免疫応答を誘導する上記の抗原認識構築物を提供し、好ましくは、この免疫応答は、インターフェロン(IFN)γレベルの上昇を特徴とする。
本発明のTCRは、一本鎖α分子若しくはβ分子、若しくはγ分子及びδ分子、又は代替的にα鎖とβ鎖、若しくはγ鎖とδ鎖の両方で構成された二本鎖構築物として提供することができる。
本発明の抗原認識構築物は、TCRα又はγ鎖、及び/又はTCRβ又はδ鎖を含むことができ、TCRα又はγ鎖は、配列番号3又は11から選択されるアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、又は100%配列同一性を有するCDR3を含み、及び/又はTCRβ又はδ鎖は、配列番号7又は15から選択されるアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、又は100%配列同一性を有するCDR3を含む。同じく好適であるのは、TCRα又はγ鎖、及び/又はTCRβ又はδ鎖を有するABPであり、TCRα又はγ鎖は、配列番号3及び11から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、アミノ酸配列を有するCDR3を含み、及び/又は、TCRβ又はδ鎖は、配列番号7及び15から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、アミノ酸配列を有するCDR3を含む。
最も好ましくは、本開示が、本明細書中において開示されるTCR鎖のCDR1~CDR3領域(表1を参照)のうちいずれか1つ、2つ、又は全てを含む抗原認識構築物について言及する一部の追加の実施の形態において、3つ以下、2つ以下、好ましくは1つだけ修飾アミノ酸残基を持つ本発明の各CDR配列を含むような抗原認識構築物が、好適である可能性がある。修飾アミノ酸残基は、アミノ酸挿入、欠失、又は置換から選択することができる。最も好適であるのは、3つ、2つ、好ましくは1つだけの修飾アミノ酸残基が、各CDR配列の先頭又は最後尾アミノ酸残基であることである。修飾が置換である場合、一部の実施の形態において、置換は保存的アミノ酸置換であることが好ましい。そのうえさらに、一部の実施の形態において、CDRにおけるどの変異であっても、そのCDRの最もC末端側及び/又は最もN末端側いずれかでの変異であることが好適である。
本発明の抗原認識構築物が少なくとも2本のアミノ酸鎖で構成される、例えば、二本鎖TCR又はその抗原結合断片である場合、抗原認識構築物は、第一ポリペプチド鎖中に配列番号3によるアミノ酸配列を含み、第二ポリペプチド鎖中に配列番号7によるアミノ酸配列を含む、又は第一ポリペプチド鎖中に配列番号11によるアミノ酸配列を含み、第二ポリペプチド鎖中に配列番号15によるアミノ酸配列を含むことができる。
上記二本鎖TCR又はその抗原結合断片の1つはどれでも、本発明の好適なTCRである。一部の実施の形態において、本発明の二本鎖TCRのCDR3は、変異していることが可能である。表1に示すとおりのCDR3配列に上記のとおり提供される変異は、好ましくは、3つ以下、好ましくは2つ、最も好ましくは1つ以下のアミノ酸残基の置換、欠失、付加、又は挿入を含む。一部の実施の形態において、第一ポリペプチド鎖は、TCRα又はγ鎖であることが可能であり、第二ポリペプチド鎖は、TCRβ又はδ鎖であることが可能である。好適であるのは、αβ又はγδのTCRの組合せである。記載のとおり、そのような変異CDR3は、好適な実施の形態において、保存的アミノ酸交換又は欠失のみを含むことができ、及び/又は、そのようなCDR3の最もC末端側及び/又は最もN末端側に導入することができる。
一部の実施の形態において、TCR又はその抗原結合断片は、TCRα鎖とTCRβ鎖、又はγ鎖とδ鎖で構成される。そのような二本鎖TCRは、各鎖内に可変領域を含み、可変領域はそれぞれ、1つのCDR1配列、1つのCDR2配列、及び1つのCDR3配列を含む。TCRは、配列番号4と配列番号8、又は配列番号12と配列番号16の可変鎖アミノ酸配列中に含まれるとおりに、CDR1配列~CDR3配列を含む。
本発明の一部の実施の形態は、TCRα鎖とTCRβ鎖で構成されるTCR又はその断片に関し、上記TCRは、それぞれ配列番号4及び8による、又はそれぞれ配列番号12及び16によるα鎖及びβ鎖から選択されるアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、又は好ましくは100%配列同一性を有する、可変領域配列を含む。
本発明のTCRは、任意の適切な種、例えば、任意の哺乳類、例えば、ヒト、ラット、サル、ウサギ、ロバ、又はマウスに由来する定常領域を更に含むことができる。本発明の或る実施の形態において、本発明のTCRは、ヒト定常領域を更に含む。一部の好適な実施の形態において、本発明のTCRの定常領域は、例えば、異種配列、好ましくはマウス配列の導入により、少し修飾することができ、そのような修飾は、TCR発現及び安定性を上昇させることができる。
本発明のTCRα又はγ鎖は、配列番号1及び9から選択される配列と比較して、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、又は100%配列同一性を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有するCDR1、及び/又は配列番号2及び10から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有するアミノ酸配列を有するCDR2を更に含むことができる。
本発明によれば、TCRβ又はδ鎖は、配列番号5及び13から選択される配列と比較して、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、又は100%配列同一性を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有するCDR1、及び/又は配列番号6及び14から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有するアミノ酸配列を有するCDR2を更に含むことができる。
更なる実施の形態において、抗原認識構築物は、TCRの結合断片を含むことができ、上記結合断片は、CDR1~CDR3を含み、これらは、任意選択で、配列番号1、2、3、又は5、6、7、又は9、10、11、又は13、14、15のアミノ酸配列を有するCDR1配列~CDR3配列から選択され、各CDRは、独立して、これらの配列と比較して3つ以下又は2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、又は挿入(複数の場合もある)を有する。
本発明の更なる実施の形態において、本明細書中においていずれかの箇所で記載されるとおりの抗原認識構築物は、少なくとも1つのTCRα鎖配列及び1つのTCRβ鎖配列で構成されるTCR又はその断片であり、上記TCRα鎖配列は、配列番号1~3のアミノ酸配列を有するCDR1配列~CDR3配列を含み、上記TCRβ鎖配列は、配列番号5~7のアミノ酸配列を有するCDR1配列~CDR3配列を含むか、又は上記TCRα鎖配列は、配列番号9~11のアミノ酸配列を有するCDR1配列~CDR3配列を含み、上記TCRβ鎖配列は、配列番号13~15のアミノ酸配列を有するCDR1配列~CDR3配列を含み、各CDRは、独立して、これらの配列と比較して3つ以下又は2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、又は挿入(複数の場合もある)を有する。
本発明の更なる実施の形態において、本明細書中において先に記載されるとおりの抗原認識構築物は、少なくとも1つのTCRα鎖配列及び1つのTCRβ鎖配列を含む、TCR又はその断片であり、上記TCRα鎖配列は配列番号4のアミノ酸配列を有する可変領域配列を含み、上記TCRβ鎖配列は配列番号8のアミノ酸配列を有する可変領域配列を含むか、又は上記TCRα鎖配列は配列番号12のアミノ酸配列を有する可変領域配列を含み、上記TCRβ鎖配列は配列番号16のアミノ酸配列を有する可変領域配列を含み、各可変ドメイン配列は、これらの配列と比較して20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10、5、3、又は2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、又は挿入(複数の場合もある)を有する。
本発明の更なる実施の形態において、本明細書中において先に記載されるとおりの抗原認識構築物は、ヒトTCR定常ドメインから選択されるアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、又は100%配列同一性を有するTCR定常領域を更に含む、TCR又はその断片である。
本明細書中において使用される場合、「マウス」又は「ヒト」という用語は、本明細書中において記載される抗原認識構築物、又はTCR、又はTCRの任意の構成要素(例えば、相補性決定領域(CDR)、可変領域、定常領域、α鎖、及び/又はβ鎖)について言及する場合、それぞれ、マウス又はヒトの非再編成TCR遺伝子座に由来するTCR(又はその構成要素)を意味する。
本発明の或る実施の形態において、キメラTCRが提供され、このTCR鎖は、複数種に由来する配列を含む。好ましくは、本発明のTCRは、α鎖のヒト可変領域と、例えば、マウスTCRα鎖のマウス定常領域とを含むα鎖を有することができる。
1つの実施の形態において、本発明のTCRは、上記実施の形態によるヒト可変領域と、ヒト定常領域とを含むヒトTCRである。
一部の実施の形態において、抗原認識構築物は、マウス化又はヒト化されている。これらの用語は、異種由来のアミノ酸配列が本発明の構築物に導入される場合に使用される。
本発明のTCRは、一本鎖TCR(scTCR)として提供することができる。scTCRは、第一TCR鎖(例えば、アルファ鎖)の可変領域のポリペプチドと、全(全長)第二TCR鎖(例えば、ベータ鎖)のポリペプチドとを含むことができ、その逆もまたしかりである。そのうえさらに、scTCRは、任意選択で、2つ以上のポリペプチドを1つにつなげる1つ以上のリンカーを含むことができる。リンカーは、例えば、本明細書中において記載されるとおり、2本の一本鎖を1つにつなげるペプチドであることが可能である。同じく提供されるのは、本発明のそのようなscTCRであり、これは、ヒトサイトカイン、例えば、IL-2、IL-7、又はIL-15と融合している。
本発明によるABPは、少なくとも2つのTCR分子又はscTCR分子を含む多量体複合体の形で提供することもでき、上記TCR分子又はscTCR分子はそれぞれ、少なくとも1つのビオチン部分又は他の相互接続分子/リンカーと融合しており、上記TCR又はscTCRは、ビオチンストレプトアビジン相互作用により相互接続していて、上記多量体複合体を形成することができる。多量体TCRを生成する同様なアプローチとして当該技術分野で既知であるものは、本開示において同じく可能であり本開示に含まれる。同じく提供されるのは、本発明のscTCRを3つ以上含む、更に高次の多量体複合体である。
本発明の目的のため、TCRは、少なくとも1つのTCRアルファ若しくはガンマ及び/又はTCRベータ若しくはデルタ可変ドメインを有する部分である。一般に、これらは、TCRアルファ可変ドメイン及びTCRベータ可変ドメインの両方を含むか、代替的にTCRガンマ可変ドメイン及びTCRデルタ可変ドメインの両方を含む。これらは、αβ/γδヘテロ二量体であることも可能であれば、一本鎖形式にあることも可能である。養子療法に使用する場合、αβ又はγδヘテロ二量体TCRは、例えば、細胞質ドメイン及び膜貫通ドメインの両方を有する全長鎖として形質移入させることができる。所望であれば、それぞれの定常ドメインの残基の間に導入されたジスルフィド結合が存在することができる。
好適な実施の形態において、本発明のABPは、ヒトTCR又はその断片若しくは誘導体である。ヒトTCR又はその断片若しくは誘導体は、相当するヒトTCR配列を50%超含むTCRである。好ましくは、TCR配列のわずかな部分のみが、人工物起源である、又は他の種に由来する。しかしながら、キメラTCR、例えば、ヒト起源に由来するが定常ドメインにマウス配列を持つものが、有利であることが知られている。したがって、特に好適であるのは、本発明によるTCRであって、それらの定常ドメインの細胞外部分にマウス配列を含むものである。
したがって、本発明のABPが、ヒト白血球抗原(HLA)依存様式で、好ましくはHLA-A02依存様式で、そのABPの各抗原を認識することができることも好適である。「HLA依存様式」という用語は、本発明の文脈において、抗原ペプチドが上記HLAにより提示される場合においてのみ、抗原認識構築物が、抗原に結合することを意味する。
1つの実施の形態において、本発明による抗原認識構築物は、好ましくは、免疫応答を誘導し、好ましくはこの免疫応答は、インターフェロン(IFN)γレベルの上昇を特徴とする。
同じく本発明により提供されるのは、本明細書中において記載されるTCR(又はその機能性バリアント)のいずれか、例えば実施例セクション及び表1に提供されるとおりのTCRから選択されるTCRのいずれか1つの機能性部分を含む、ポリペプチドである。「ポリペプチド」という用語は、本明細書中において使用される場合、オリゴペプチドを含み、この用語は、1つ以上のペプチド結合により連結されたアミノ酸の一本鎖を指す。本発明のポリペプチドに関して、機能性部分は、TCR(又はその機能性バリアント)の連続アミノ酸を含む任意の部分であることができ、ただし、機能性部分が、好ましくは配列番号17及び18として本明細書中において開示されるとおりのRAC1/RAC2ネオ抗原に特異的に結合する限りにおいてその一部である。「機能性部分」という用語は、TCR(又はその機能性バリアント)に関して使用される場合、本発明のTCR(又はその機能性バリアント)の任意の部分又は断片を指し、この部分又は断片が、TCR(又はその機能性バリアント)の生物活性を保持しており、その一部である(親TCR又はその親機能性バリアント)。機能性部分は、例えば、RAC1/RAC2抗原に特異的に結合する(HLA依存様式で)能力を保持する、又はRAC1/RAC2関連障害、例えば癌を、親TCR(又はその機能性バリアント)と同様な程度、同じ程度、又はそれより高い程度で、検出、治療、又は予防する能力を保持するTCR(又はその機能性バリアント)のこれらの部分を包含する。親TCR(又はその機能性バリアント)に関して、機能性部分は、例えば、親TCR可変配列(又はその機能性バリアント)のうち約10%、25%、30%、50%、68%、80%、90%、95%、又はそれ以上を含むことができる。
機能性部分は、その部分のアミノ末端若しくはカルボキシ末端、又は両末端に、追加アミノ酸を含むことができ、追加アミノ酸は、親TCR又はその機能性バリアントのアミノ酸配列に見られないものである。望ましくは、追加アミノ酸は、機能性部分の生体機能、例えば、RAC1/RAC2抗原への特異的結合、及び/又は癌検出、癌治療、又は癌予防の能力があること等に干渉しない。より望ましくは、追加アミノ酸は、親TCR又はその機能性バリアントの生物活性と比較した場合に生物活性を向上させる。
ポリペプチドは、本発明のTCR又はその機能性バリアントのα鎖及びβ鎖の一方又は両方の機能性部分、例えば、本発明のTCR又はその機能性バリアントのα鎖及び/又はβ鎖の可変領域(複数の場合もある)のCDR1、CDR2、及び(好ましくは)CDR3のうち1つ又は複数を含む機能性部分を含むことができる。本発明の或る実施の形態において、ポリペプチドは、配列番号3、7、11、又は15のアミノ酸配列(本発明のTCRの可変領域のCDR3)、又はそれらの組合せを含む機能性部分を含むことができる。本発明の或る実施の形態において、本発明のポリペプチドは、例えば、上記のCDR領域の組合せを含む本発明のTCR又はその機能性バリアントの可変領域を含むことができる。これに関して、ポリペプチドは、配列番号4、8、12、及び16のいずれかのアミノ酸配列(本発明のTCRのα鎖又はβ鎖の可変領域)を含むことができる。
一部の例において、本発明の構築物は、配列番号1~16(CDR配列及び可変領域配列)のいずれか1つによる、配列、又は核酸配列によりコードされる配列、又はその機能性断片を含む1つ又は2つのポリペプチド鎖を含むことができ、他のアミノ酸配列、例えば、免疫グロブリン又はその一部をコードするアミノ酸配列を更に含み、その場合、本発明のタンパク質は、融合タンパク質であることができる。これに関して、本発明は、本明細書中において記載される本発明のポリペプチドの少なくとも1種を、少なくとも1種の他のポリペプチドと合わせて含む融合タンパク質も提供する。他のポリペプチドは、融合タンパク質の別個のポリペプチドとして存在することも可能であれば、本明細書中において記載される本発明のポリペプチドのうち1つとともにフレーム内(直列)で表されるポリペプチドとして存在することも可能である。他のポリペプチドは、任意のペプチド性若しくはタンパク質性分子又はその一部を含むことができ、そのような分子として、免疫グロブリン、CD3、CD4、CD8、MHC分子、CD1分子、例えば、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d等が挙げられるが、これらに限定されない。
融合タンパク質は、本発明のポリペプチドの1つ以上のコピー及び/又は他のポリペプチドの1つ以上のコピーを含むことができる。例えば、融合タンパク質は、本発明のポリペプチド及び/又は他のポリペプチドのコピーを、1、2、3、4、5、又はそれより多く含むことができる。融合タンパク質の適切な作製法は、当該技術分野で既知であり、例えば、組換え法が挙げられる。本発明の一部の実施の形態において、本発明のTCR(並びにその機能性部分及び機能性バリアント)、ポリペプチド、及びタンパク質は、α鎖とβ鎖を連結するとともにγ鎖とδ鎖を連結する、リンカーペプチドを含む単一タンパク質として表すことができる。これに関して、本発明のTCR(並びにその機能性バリアント及び機能性部分)、ポリペプチド、及びタンパク質は、本発明のTCRの可変領域のアミノ酸配列を含み、リンカーペプチドを更に含むことができる。リンカーペプチドは、有利なことに、宿主細胞において、組換えTCR(その機能性部分及び機能性バリアントを含む)、ポリペプチド、及び/又はタンパク質の発現を促進することができる。リンカーペプチドは、任意の適切なアミノ酸配列を含むことができる。一本鎖TCR構築物用のリンカー配列は、当該技術分野で既知である。そのような一本鎖構築物は、1つ又は2つの定常ドメイン配列を更に含むことができる。リンカーペプチドを含む構築物が宿主細胞により発現される際、リンカーペプチドは、切断されることも可能であり、その結果、分離したα鎖及びβ鎖、並びに分離したγ鎖及びδ鎖をもたらす。
既に上述したとおり、本発明のTCRの結合機能は、抗体のフレームワーク中に提供することができる。例えば、本発明のTCRのCDR配列は、おそらく追加の3つ、2つ、又は1つのN及び/又はc末端フレームワーク残基を含んでいて、抗体可変重鎖/軽鎖配列中に直接グラフトすることができる。「抗体」という用語は、その様々な文法上の変形において、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的活性部分、すなわち、抗原結合部位又はパラトープを含む分子を指すのに本明細書中において使用される。そのような分子は、免疫グロブリン分子の「抗原結合断片」とも称する。本発明は、更に、本明細書中において記載される抗原に特異的に結合する、抗体又はその抗原結合部分を提供する。抗体は、当該技術分野で既知である任意の種類の免疫グロブリンが可能である。例えば、抗体は、任意のアイソタイプのもの、例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、IgM等が可能である。抗体は、モノクローナルであることもポリクローナルであることも可能である。抗体は、天然に生じる抗体、例えば、哺乳類、例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマ、ニワトリ、ハムスター、ヒト等から単離及び/又は精製した抗体であることが可能である。あるいは、抗体は、遺伝子操作した抗体、例えば、ヒト化抗体又はキメラ抗体であることが可能である。抗体は、単量体型であることも多量体型であることも可能である。
「抗体」という用語には、遺伝子操作した又はそれ以外で修飾した形の免疫グロブリン、例えば、細胞内抗体、キメラ抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体(例えば「CDRグラフト法」により生成したもの)、抗体断片、及び異種結合(heteroconjugate)抗体(例えば、二重特異性抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ等)が含まれるが、これらに限定されない。「抗体」という用語は、シスダイアボディ及びミニボディを含む。したがって、本明細書中において提供されるありとあらゆる実施の形態は、「抗体」又は「抗体様構築物」に関して、特に明記されない限り、二重特異性抗体、ダイアボディ、scFv断片、キメラ抗体受容体(CAR)構築物、ダイアボディ及び/又はミニボディの実施の形態としても想定されている。「抗体」という用語は、本明細書中において開示されるとおり、非共有結合で、可逆的に、かつ特異的様式で、相当する抗原、好ましくは本発明のRAC1/RAC2変異抗原ペプチドに結合することができる、免疫グロブリンファミリーのポリペプチド又は免疫グロブリンの断片を含むポリペプチドを含む。例示の抗体構造単位は、四量体を構成する。一部の実施の形態において、全長抗体は、2つの同一なポリペプチド鎖対で構成されることが可能であり、各対は、1つの「軽」鎖及び1つの「重」鎖を有する(ジスルフィド結合を通じて連結されている)。抗体構造及びアイソタイプは、当業者に既知である(例えば、Janeway's Immuno-biology, 9th edition, 2016より)。
哺乳類の免疫グロブリン遺伝子に認識されているものとして、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、及びミュー定常領域遺伝子、並びに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる(免疫グロブリン遺伝子の更なる情報については、国際ImMunoGeneTics情報システム(商標)、Lefranc M-P et al, Nucleic Acids Res. 2015 Jan;43(Database issue):D413-22及びhttp://www.imgt.org/を参照)。全長鎖の場合、軽鎖は、カッパ又はラムダいずれかに分類される。全長鎖の場合、重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、又はイプシロンに分類され、これらがそれぞれ、免疫グロブリンの各クラスIgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEを定める。各鎖のN末端は、抗原認識の主な原因である約100~110以上のアミノ酸の可変領域を定める。可変軽鎖(VL)及び可変重鎖(VH)という用語は、それぞれ、軽鎖及び重鎖のこれらの領域を指す。本発明において使用される場合、「抗体」は、抗体及びその断片の全ての変形形態を包含する。したがって、同じ、本質的に同じ、又は同様な結合特異性を持つ全長抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体(scFv)、Fab、Fab'、及びこれら断片の多量体変形形態(例えば、F(ab')2)が、本概念の範囲内にある。一部の実施の形態において、抗体は、本発明の変異RAC1/RAC2ペプチドに特異的に結合する。本発明による好適な抗原認識構築物は、抗体重鎖、好ましくはその可変ドメイン、又はその抗原結合断片、及び/又は抗体軽鎖、好ましくはその可変ドメイン、又はその抗原結合断片を含む。同様に、ジスルフィド安定化可変領域断片(dsFv)が、組換えDNA技術により調製可能であるが、本発明の抗体断片は、これらの例示の種類の抗体断片に限定されない。同じく、抗体又はその抗原結合部分は、修飾して、検出可能な標識、例えば、放射性同位体、フルオロフォア(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE))、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ)、及び元素粒子(例えば、金粒子)等を含ませることができる。一部の例において、TCRのCDR3配列は、少し修飾することができるが、好ましくは、配列番号3、7、11、及び15に提示されるCDR3配列と比較した場合に、3つ以下のアミノ酸残基、好ましくは2つのみ、最も好ましくは1つのみのアミノ酸位置での修飾である。好ましくは、抗体は、CDR3を含み、好ましくは、表1において本発明のTCRについて示されるとおりに、CDR1~CDR3領域の全てを組み合わせて含み、各場合において、独立して、これらの配列と比較して3つ以下又は2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、又は挿入(複数の場合もある)を任意選択で有する。
抗体の適切な作製法は、当該技術分野で既知である。例えば、標準のハイブリドーマ法が、例えば、Kohler and Milstein, Eur. J. Immunol, 5, 51 1-519 (1976)、Harlow and Lane (eds.), Antibodies: A Laboratory Manual, CSH Press (1988)、及びC.A. Janeway et al. (eds.), Immunobiology, 8 Ed., Garland Publishing, New York, NY (201 1))に記載されている。あるいは、他の方法、例えば、EBVハイブリドーマ法(Haskard and Archer, J. Immunol. Methods, 74(2), 361-67 (1984)、及びRoder et al, Methods Enzymol, 121, 140-67 (1986))、及びバクテリオファージベクター発現系(例えば、Huse et al., Science, 246, 1275-81 (1989)を参照)が、当該技術分野で既知である。さらに、非ヒト動物において抗体を産生する方法が、例えば、米国特許第5,545,806号、同第5,569,825号、及び同第5,714,352号、並びに米国特許出願公開第2002/0197266号に記載されている。
本発明の一部の実施の形態は、可溶性TCRである、TCR、又はその機能性断片及びポリペプチドにも関する。本明細書中において使用される場合、「可溶性T細胞受容体」という用語は、未変性TCRのヘテロ二量体切断型バリアントを指し、これは、TCRα鎖及びβ鎖の細胞外部分を含んでいて、これらの部分は、例えば、ジスルフィド結合により連結されているが、未変性タンパク質の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを欠いている。「可溶性T細胞受容体α鎖配列及び可溶性T細胞受容体β鎖配列」という用語は、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを欠いているTCRα鎖及びβ鎖配列を指す。可溶性TCRα鎖及びβ鎖の配列(アミノ酸又は核酸)は、未変性TCRの相当する配列と同一であることも可能であれば、相当する未変性TCR配列と比較してバリアント可溶性TCRα鎖及びβ鎖配列を含むことも可能である。「可溶性T細胞受容体」という用語は、本明細書中において使用される場合、バリアント又は非バリアント可溶性TCRα鎖及びβ鎖配列を持つ可溶性TCRを包含する。変異の種類(variation)は、可溶性TCRα鎖及びβ鎖配列の可変領域又は定常領域にあることができ、アミノ酸の欠失、挿入、置換変異、並びに核酸配列の変更(これはアミノ酸配列を改変しない)を挙げることができるが、これらに限定されない。本発明の可溶性TCRは、いずれの場合においても、それらの親分子の結合機能性を保持する。
第2の態様において、本発明は、本発明のABPをコードする核酸配列を有する、核酸又は核酸構築物(NAC)に関する。
上記の課題は、本発明の抗原認識構築物若しくはABPをコードする核酸により、又は前記のタンパク質若しくはポリペプチド構築物のいずれかにより、更に解決される。核酸は、好ましくは、(a)本発明による抗原認識構築物をコードする鎖を有するか、(b)(a)の鎖に相補的な鎖を有するか、又は(c)ストリンジェントな条件下、(a)若しくは(b)に記載されるとおりの分子とハイブリダイズする鎖を有する。ストリンジェントな条件は、当業者に既知であり、具体的には、Sambrook et al, "Molecular Cloning"からわかる。上記に加え、核酸は、任意選択で、タンパク質に対応する核酸配列を発現するのに必要な、具体的には哺乳類/ヒト細胞において発現するのに必要な更なる配列を有する。使用される核酸は、細胞においてペプチドに対応する核酸配列の発現を可能にするのに適したベクターに含有されていることができる。しかしながら、核酸は、抗原提示細胞がそれ自身でそれ自身の細胞表面において相当するタンパク質を産生するようなやり方で、抗原提示細胞を形質転換するのに使用することも可能であり、抗原提示細胞は、古典的な抗原提示細胞、例えば、樹状細胞に制限されることはない。
一部の実施の形態において、抗原認識構築物又はABPのポリペプチドは、核酸によりコードされ、in vivo又はin vitroで発現可能である。したがって、一部の実施の形態において、抗原認識構築物又はABPをコードする核酸が提供される。一部の実施の形態において、核酸は、本発明の抗原認識構築物又はABPの1つの部分又は単量体(例えば、本発明のTCRの2本の鎖のうち1本)をコードし、及び/又は別の核酸は、本発明の構築物又はABPを認識する抗原の別の1つの部分又は単量体(例えば、TCRの2本の鎖のうち他方の1本)をコードする。一部の実施の形態において、核酸は、2本以上の抗原認識構築物又はABPポリペプチド鎖、例えば、少なくとも2本のTCR鎖をコードする。複数の抗原認識構築物又はABP鎖をコードする核酸は、少なくとも2つの鎖配列の間に核酸切断部位を含むことができ、2つ以上の鎖配列の間に転写又は翻訳開始部位をコードすることができ、及び/又は2つ以上の抗原認識構築物又はABP鎖の間にタンパク質分解標的部位をコードすることができる。
「核酸」は、本明細書中において使用される場合、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、及び「核酸分子」を含み、概して、DNA又はRNAのポリマーを意味し、これらは、一本鎖であることも二本鎖であることも可能であり、合成によることも天然源から得る(例えば、単離される及び/又は精製される)ことも可能であり、天然、非天然、又は改変ヌクレオチドを有することができ、天然、非天然、又は改変ヌクレオチド間連結を、例えば、ホスホロアミデート連結又はホスホロチオエート連結を、未修飾オリゴヌクレオチドのヌクレオチド間に見られるホスホジエステルの代わりに、有することができる。
好ましくは、本発明の核酸は、組換え核酸である。本明細書中において使用される場合、「組換え」という用語は、(i)生細胞中で複製可能な核酸分子に天然若しくは合成核酸セグメントをつなげることにより、生細胞の外側で構築される分子、又は(ii)上記の(i)に記載される分子の複製から得られる分子を指す。本明細書中の目的に関して、複製は、in vitro複製であることもin vivo複製であることも可能である。核酸は、本明細書中において記載されるTCR、又はそのポリペプチド、若しくはタンパク質、若しくは機能性部分、若しくは機能性バリアントのいずれかをコードする任意のヌクレオチド配列を含むことができる。
第3の態様において、本発明は、本発明の核酸を含む、組換えベクターに関する。
そのうえさらに、本発明は、上記で記載されるとおりの本発明による核酸を含むベクターを提供する。望ましくは、ベクターは、発現ベクター又は組換え発現ベクターである。「組換え発現ベクター」という用語は、本発明の文脈において、適切な宿主細胞においてmRNA、タンパク質、又はポリペプチドの発現を可能にする核酸構築物を指す。本発明の組換え発現ベクターは、任意の適切な組換え発現ベクターが可能であり、任意の適切な宿主を形質転換する又はそのような宿主に形質移入するのに使用することができる。適切なベクターとして、増殖及び増加用又は発現用又はその両方用に設計されたもの、例えば、プラスミド及びウイルスが挙げられる。動物発現ベクターの例として、pEUK-Cl、pMAM、及びpMAMneoが挙げられる。好ましくは、組換え発現ベクターは、ウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクターである。組換え発現ベクターは、制御配列、例えば、転写及び翻訳の開始及び終了コドンを含み、これらは、ベクターが導入される予定であり本発明の核酸の発現が行われる可能性のある宿主細胞の種類(例えば、細菌、真菌、植物、又は動物)に特異的である。そのうえさらに、本発明のベクターは、1つ以上のマーカー遺伝子を含むことができ、マーカー遺伝子は、形質転換宿主又は形質移入宿主の選択を可能にする。組換え発現ベクターは、天然又は模範的プロモーターを含むことができ、このプロモーターは、本発明の構築物をコードするヌクレオチド配列に、又は本発明の構築物をコードするヌクレオチド配列に相補的であるか、若しくはこの配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列に作動性に連結される。プロモーターの選択として、例えば、強いプロモーター、弱いプロモーター、誘導性プロモーター、組織特異的プロモーター、及び発達特異的プロモーターが挙げられる。プロモーターは、非ウイルスプロモーターであることも、ウイルスプロモーターであることも可能である。本発明の組換え発現ベクターは、一過性発現、安定発現のいずれか、又はその両方用に設計することができる。同じく、組換え発現ベクターは、構成的発現用又は誘導性発現用に作ることができる。
そのようなベクターは、TCR鎖の一方又は両方いずれかをコードする核酸を含有することができ、したがって、本発明のABPのアルファ及び/又はベータ鎖をコードする配列を含むことができる。
第4の態様において、本発明は、本発明のABPを含む若しくは発現する、又は本発明の核酸若しくはベクターを含む、組換え宿主細胞に関する。
本発明は、本発明による抗原認識構築物又はABPを含む宿主細胞にも関する。具体的には、本発明の宿主細胞は、本明細書中において上記で記載されるとおりの核酸又はベクターを含む。宿主細胞は、真核生物細胞、例えば、植物、動物、真菌、又は藻類であることも可能であれば、原核生物細胞、例えば、細菌又は原生動物であることも可能である。宿主細胞は、培養細胞であることも、初代細胞、すなわち生物、例えば、ヒトから直接単離されたものであることも可能である。宿主細胞は、付着細胞であることも、浮遊細胞、すなわち、浮遊液中で成長する細胞であることも可能である。組換えTCR、ポリペプチド、又はタンパク質を産生する目的に関して、宿主細胞は、好ましくは、哺乳類細胞である。最も好ましくは、宿主細胞は、ヒト細胞である。宿主細胞は、任意の細胞型のものであることが可能であり、任意の種類の組織に由来することが可能であり、任意の発達段階のものであることが可能であるものの、宿主細胞は、好ましくは、末梢血白血球(PBL)又は末梢血単核球(PBMC)である。より好ましくは、宿主細胞は、T細胞である。T細胞は、任意のT細胞、例えば、培養T細胞、例えば、初代T細胞、若しくは培養T細胞株由来のT細胞、例えば、Jurkat、SupT1等、又は哺乳類から得られるT細胞、好ましくは、ヒト患者由来のT細胞若しくはT細胞前駆体であることが可能である。哺乳類から得られる場合、T細胞は、多数の材料源から得ることができ、そのような材料源として、血液、骨髄、リンパ節、胸腺、又は他の組織若しくは体液が挙げられるが、これらに限定されない。T細胞はまた、濃縮することも、精製することも可能である。好ましくは、T細胞は、ヒトT細胞である。より好ましくは、T細胞は、ヒトから単離したT細胞である。T細胞は、任意の種類のT細胞であることが可能であり、任意の発達段階のものであることが可能であり、そのようなT細胞として、CD4陽性及び/又はCD8陽性細胞、CD4陽性ヘルパーT細胞、例えば、Th1及びTh2細胞、CD8陽性T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、腫瘍浸潤細胞(TIL)、メモリーT細胞、ナイーブT細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、T細胞は、CD8陽性T細胞又はCD4陽性T細胞である。
好ましくは、本発明の宿主細胞は、リンパ球、好ましくは、Tリンパ球、例えば、CD4陽性又はCD8陽性T細胞である。宿主細胞は、更により好ましくは、RAC2P29L及び/又はRAC1P29S抗原提示細胞に特異的な、RAC2P29L及び/又はRAC1P29S抗原反応性T細胞である。
第5の態様において、本発明は、本発明のABP、又は本発明の核酸若しくは細胞を、1つ以上、好ましくは組み合わせて含む医薬組成物に関する。
したがって、同じく提供されるのは、医薬組成物であり、本医薬組成物は、本明細書中において記載される本発明の生成物及び本発明のTCR材料のうちいずれか、具体的にはいずれかのタンパク質、核酸、又は宿主細胞を含む。好適な実施の形態において、医薬組成物は、免疫療法用、好ましくは養子細胞療法用である。
好ましくは、本発明のTCR材料は、注射により、例えば、静脈内注射により投与される。本発明のTCR材料が本発明のTCR(又はその機能性バリアント)を発現する宿主細胞である場合、細胞用の薬学上許容される注射用キャリアとして、任意の等張性キャリア、例えば、生理食塩水(約0.90%w/vのNaCl含有水、約300 mOsm/LのNaCl含有水、又は水1リットルあたり約9.0gのNaCl)、NORMOSOL R電解質液(イリノイ州シカゴ所在のAbbott)、PLASMA-LYTE A(イリノイ州ディアフィールド所在のBaxter)、約5%ブドウ糖水溶液、乳酸リンゲル液等を挙げることができる。或る実施の形態において、薬学上許容されるキャリアは、ヒト血清アルブミンが補充されている。
本発明の目的に関して、投与される本発明のTCR材料の量又は用量(例えば、本発明のTCR材料が1つ以上の細胞である場合は、細胞数)は、合理的な時間枠にわたり、対象又は動物に、影響を及ぼす、例えば、治療又は予防反応を起こすのに十分であることが可能である。例えば、本発明のTCR材料の用量は、投与の時点から約2時間以上、例えば、12時間~24時間又はそれ以上の期間中、癌抗原に結合するのに、又は癌を検出、治療、若しくは予防するのに十分でなければならない。或る特定の実施の形態において、この期間の長さは、更に長い可能性がある。用量は、特定の本発明のTCR材料の有効性、及び治療される動物(例えば、ヒト)の状態、並びに動物(例えば、ヒト)の体重によって決定されることになる。
本発明の医薬組成物、抗原認識構築物、TCR(その機能性バリアントを含む)、ポリペプチド、タンパク質、核酸、組換え発現ベクター、宿主細胞、又は細胞集団は、癌、すなわちRAC2P29L及び/又はRAC1P29S陽性細胞に関連した病態を治療又は予防する方法において使用可能であることが企図される。本発明のTCR(及びその機能性バリアント)は、TCR(又は関連する本発明のポリペプチド若しくはタンパク質及びその機能性バリアント)が、T細胞等の細胞により又は細胞において発現した場合に、本発明のRAC2P29L及び/又はRAC1P29S抗原を発現する標的細胞、好ましくは上記標的細胞の表面でMHC Iを介してRAC2P29L及び/又はRAC1P29S抗原ペプチドを提示する標的細胞に対して、免疫応答を仲介することができるように、本発明のRAC2P29L及び/又はRAC1P29S抗原に特異的に結合すると考えられる。これに関して、本発明は、哺乳類対象において、病態、特に癌疾患を治療又は予防する方法を提供し、本方法は、哺乳類に、本発明の医薬組成物、単離ABP、又はABPの組合せ、特に本明細書中において記載されるTCR(及びその機能性バリアント)、ポリペプチド、若しくはタンパク質、本明細書中において記載されるTCR(及びその機能性バリアント)、ポリペプチド、タンパク質のいずれかをコードするヌクレオチド配列を含む任意の核酸若しくは組換え発現ベクター、又は核酸若しくは組換えベクター(これは、本明細書中において記載される本発明の構築物(及びその機能性バリアント)、ポリペプチド、又はタンパク質のいずれかをコードする)を含む任意の宿主細胞又は細胞集団のいずれかを、哺乳類においてその病態を治療又は予防するのに有効な量で投与することを含み、病態は、好ましくは、変異RAC1及び/又はRAC2が陽性である癌、又はそのような変異タンパク質の発現と関連した任意の疾患若しくは病態である。
本発明で有用な薬学上許容されるキャリア又は希釈剤の例として、安定剤、例えばSPGA、炭水化物(例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、スクロース、グルコース、デキストラン)、タンパク質、例えば、アルブミン又はカゼイン、タンパク質含有作用剤、例えば、ウシ血清又は脱脂乳、及び緩衝剤(例えば、リン酸緩衝剤)が挙げられる。
第6の態様において、本発明は、医薬に使用される、特に対象において変異RAC1/RAC2抗原と関連した疾患の治療に使用される、本発明の生成物のいずれか、又はそれらの組合せを含む、複合物又は組成物に関する。
本発明の構築物、タンパク質、TCR抗体、ポリペプチド、及び核酸は、特に、免疫療法、好ましくは、養子T細胞療法に使用するためのものである。本発明の複合物の投与は、例えば、本発明のT細胞を上記患者に注入することを含むことができる。好ましくは、そのようなT細胞は、患者の自己T細胞であり、本発明の核酸又は抗原認識構築物を用いてin vitroで形質導入されている。そのため、本明細書中において使用される場合、「養子免疫療法」又は「養子細胞療法」(ACT)という用語は、様々な造血細胞系列の自己細胞又は同種細胞(例えば、リンパ球又はT細胞)を患者又は対象に導入して疾患を治療するプロセスを指す。「養子T細胞療法」という用語は、自己T細胞又は同種T細胞を患者又は対象に導入して疾患を治療するプロセスを指し、好ましくは、そのようなT細胞は、本発明のTCR(本発明のABP)を組換えにより発現する。
本発明の複合物及び組成物は、癌等の増殖性障害の予防又は治療に有用である。「癌」又は「腫瘍」又は「増殖性障害」という用語は、癌発症性細胞に典型的な特徴、例えば、制御不能な増殖、不死、転移能、急速な成長及び増殖速度、並びに或る種の特徴的な形態学的特色を持つ細胞の存在を指す。癌細胞は、腫瘍の形態にあることが多いが、そのような細胞は、動物内で単独で存在することも可能であれば、非腫瘍形成性癌細胞、例えば、白血病細胞であることも可能である。癌として、B細胞癌、例えば、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、重鎖病、例えば、アルファ鎖病、ガンマ鎖病、及びミュー鎖病等、良性単クローン性免疫グロブリン血症、及び免疫細胞アミロイドーシス、黒色腫、乳癌、肺癌、気管支癌、結腸直腸癌、前立腺癌、膵癌、胃癌、卵巣癌、膀胱癌、脳又は中枢神経系癌、末梢神経系癌、食道癌、子宮頸癌、子宮又は子宮内膜癌、口腔又は咽頭癌、肝臓癌、腎臓癌、精巣癌、胆道癌、小腸又は虫垂癌、唾液腺癌、甲状腺癌、副腎癌、骨肉腫、軟骨肉腫、血液組織の癌等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明が包含する方法に適用可能な癌の種類の他の限定ではなく例として、ヒト肉腫及び細胞腫、例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫(endotheliosarcoma)、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫(lymphangioendotheliosarcoma)、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、結腸直腸癌、膵癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性肺癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、肝臓癌、絨毛癌、精上皮腫、胚性癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、骨癌、脳腫瘍、精巣癌、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫瘍、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫;白血病、例えば、急性リンパ性白血病及び急性骨髄性白血病(骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性、及び赤白血病);慢性白血病(慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病及び慢性リンパ性白血病);並びに真性赤血球増加症、リンパ腫(ホジキン病及び非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、並びに重鎖病が挙げられる。一部の実施の形態において、本発明の方法により表現型が特定される癌は、上皮癌であり、上皮癌としては、例えば、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、婦人科癌、腎癌、咽頭癌、肺癌、口腔癌、頭頸部癌、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、又は皮膚癌であるが、これらに限定されない。他の実施の形態において、癌は、乳癌、前立腺癌、肺癌、又は結腸癌である。なおも他の実施の形態において、上皮癌は、非小細胞肺癌、非乳頭状腎細胞癌、子宮頸癌、卵巣癌(例えば、漿液性卵巣癌)、又は乳癌である。上皮癌は、他にも様々なやり方で特徴付けることができ、そのような特徴として、漿液性、類内膜性、粘液性、明細胞、ブレンナー、又は未分化が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施の形態において、本発明は、本明細書中において記載されるマーカーの分析に基づき、リンパ腫又はそのサブタイプの治療、診断、及び/又は予後判定において使用され、そのようなリンパ腫として、リンパ球豊富型古典的ホジキンリンパ腫、混合細胞型古典的ホジキンリンパ腫、リンパ球減少型古典的ホジキンリンパ腫、結節硬化型古典的ホジキンリンパ腫、未分化大細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、MLL+プレB細胞ALL)が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の好適な癌とは、RAC1及び/又はRAC2の発現を特徴とするものであり、好適な実施の形態において、RAC1及び/又はRAC2の変異バリアント、すなわち好ましくはRAC1P29S及び/又はRAC2P29Lの発現を特徴とし、少なくとも、RAC1/RAC2に由来するペプチド、好ましくは変異アミノ酸P29S又はP29Lを含むペプチド、最も好ましくは配列番号17又は18によるペプチドの直接提示又は免疫細胞介在提示を特徴とするような癌である。
最も好ましくは、本発明のABPは、癌疾患の治療に使用するためのものであり、この癌疾患は、変異RAC1タンパク質、好ましくはRAC1P29Sの発現を特徴とする。実施例において、驚くべきことに、RAC2由来変異ペプチド(RAC2P29L)に対して産生した本発明のTCRが、RAC1ペプチドを用いて生成させたTCRに比べて、RAC1に駆動される癌に対してin vivoで顕著により良好な治療効果を有することが示された。したがって、本発明のTCRは、RAC1P29Sの発現を特徴とする疾患の治療又は予防に特に有用である。
本発明の抗原認識構築物、ABP、例えば、TCR、ポリペプチド、タンパク質(それらの機能性バリアントを含む)、核酸、組換え発現ベクター、宿主細胞(それらの集団を含む)、及び抗体(それらの抗原結合部分を含む)(これらを全て、本明細書中において以下、「本発明のTCR材料」と総称する)は、医薬組成物等の組成物に配合することができる。これに関して、本発明は、本明細書中において記載される抗原認識構築物、TCR、ポリペプチド、タンパク質、機能性部分、機能性バリアント、核酸、発現ベクター、宿主細胞(それらの集団を含む)、及び抗体(それらの抗原結合部分を含む)のいずれかと、薬学上許容されるキャリア、賦形剤、及び/又は安定剤とを含む医薬組成物を提供する。本発明のTCR材料のいずれかを含有する本発明の医薬組成物は、2種以上の本発明のTCR材料、例えば、ポリペプチド及び核酸、又は2種以上の異なるTCR(それらの機能性部分及び機能性バリアントを含む)を含むことができる。あるいは、医薬組成物は、本発明のTCR材料を、別の医薬活性作用剤(複数の場合もある)又は薬物(複数の場合もある)と組み合わせて含むことができ、医薬活性作用剤又は薬物は、例えば、化学療法薬、例えば、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキサート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン等である。好ましくは、キャリアは、薬学上許容されるキャリアである。医薬組成物に関して、キャリアは、検討中の特定の本発明のTCR材料について通常使用されるもののいずれかが可能である。そのような薬学上許容されるキャリアは、当業者に既知であり、一般消費者が容易に入手可能なものである。薬学上許容されるキャリアが、使用条件下で有害副作用又は毒性を有さないものであることが好ましい。
本明細書中において使用される場合、「対象」という用語は、ヒト又は別の哺乳類(例えば、霊長類、イヌ、ネコ、ヤギ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ等)であって、好ましくは本明細書中において記載される本発明に従って治療可能又は予防可能である疾患に罹患しているものを指す。そのような対象は、好ましくは、本明細書中において開示されるとおりのRACペプチドのペプチド提示が陽性である対象である。
「治療」という用語は、(1)疾患若しくは病態(例えば、癌)の発症を遅らせること若しくは防ぐこと;(2)疾患若しくは病態の症状の進行、悪化、若しくは増悪を減速すること若しくは停止させること;(3)疾患若しくは病態の症状の寛解をもたらすこと;又は(4)疾患若しくは病態を治癒することを目的とする方法又はプロセスを特徴付けるのに本明細書中において使用される。治療は、予防的又は防止的措置のため、疾患又は病態の発症前に投与することができる。代替的に又は追加的に、治療は、治療的措置のため、疾患の発症後に投与することができる。
第7の態様において、本発明は、RAC1及び/又はRAC2ネオ抗原特異的抗原認識構築物を発現する細胞株を製造する方法であって、
適切な宿主細胞を用意することと、
本発明のABPをコードするコード配列を含む遺伝子構築物を用意することと、
上記適切な宿主細胞に、上記遺伝子構築物を導入することと、 上記適切な宿主細胞によって上記遺伝子構築物を発現させることと、
を含む、方法に関する。
本方法は、上記適切な宿主細胞において上記抗原認識構築物を細胞表面提示させる工程を更に含むことができる。
他の好適な実施の形態において、遺伝子構築物は、上記コード配列に作動性に連結されたプロモーター配列を含む、発現構築物である。
好ましくは、上記抗原認識構築物は、哺乳類起源のものであり、好ましくはヒト起源のものである。本発明の方法で使用するのに適切な宿主細胞として好適であるのは、哺乳類細胞、例えばヒト細胞、特にはヒトTリンパ球である。本発明で使用されるT細胞は、本明細書中において上記で詳細に説明される。
同じく本発明に包含されるのは、上記抗原認識構築物が修飾TCRであり、上記修飾が機能性ドメイン、例えば、標識又は治療活性物質の付加である、実施の形態である。そのうえさらに、包含されるのは、代替ドメイン、例えば、内在性膜貫通領域の代わりに代替膜アンカードメインを有するTCRである。
望ましくは、上記適切な宿主細胞に遺伝子構築物を導入する形質移入系は、レトロウイルスベクター系である。そのような系は、当業者に既知である。
1つの実施の形態において、同じく本発明に包含されるのは、細胞から抗原認識構築物を単離及び精製する追加の方法工程、並びに任意選択で、翻訳された抗原認識構築物断片をT細胞において再構築することである。
本発明の代替態様において、記載されるとおりのT細胞受容体(TCR)産生細胞株(TCRがRAC1/RAC2陽性細胞に特異的である)、好ましくは本明細書中において上記で記載されるとおりRAC2P29L及び/又はRAC1P29S陽性であり、高いアビディティーを有する細胞を製造する方法により得られる、又は得ることが可能なT細胞が提供される。そのようなT細胞は、本発明の方法に使用される宿主細胞に依存し、例えば、ヒト又は非ヒトT細胞であり、好ましくはヒトTCRである。
本発明の別の態様は、更に、(生体)試料、例えば、対象又は患者から得られるもの等中の、RAC2P29L及び/又はRAC1P29S抗原、又はMHCとRAC2P29L及び/又はRAC1P29S抗原ペプチド(RAC2P29L及び/又はRAC1P29S関連タンパク質のタンパク質エピトープ)との複合体を検出する方法に関し、本方法は、試料を、感染細胞に提示される上記RAC2P29L及び/又はRAC1P29Sペプチドに、又はRAC2P29L及び/又はRAC1P29Sペプチド/MHC複合体に特異的に結合するABPと接触させることと、上記ABPと上記RAC2P29L及び/又はRAC1P29Sペプチドとの、又はRAC2P29L及び/又はRAC1P29Sペプチド/MHC複合体との結合を検出することとを含む。一部の実施の形態において、抗原認識構築物又はABPは、TCR若しくは抗体、又は類似の構築物、又は好ましくは本明細書中において記載される本発明による抗原認識構築物である。一部の実施の形態において、(生体)試料は、肝臓の試料(例えば、本明細書中においていずれかの箇所で記載されるもののうちの1つ)、例えば、対象のRAC2P29L及び/又はRAC1P29S陽性細胞の可能性があるもの、例えば、黒色腫細胞を含む試料である。
同じく提供されるのは、癌治療の必要がある対象において癌を治療する方法であり、本方法は、
上記対象から細胞を単離することと、
細胞を、本発明の抗原認識構築物又はABPをコードする少なくとも1つのベクターで形質転換して、形質転換細胞を生成させることと、
形質転換細胞を増大させて、複数の形質転換細胞を生成させることと、
複数の形質転換細胞を、上記対象に投与することと、
を含む。
同じく提供されるのは、癌治療の必要がある対象において癌を治療する方法であり、本方法は、
健康なドナーから細胞を単離することと、
細胞を、本発明の抗原認識構築物をコードするベクターで形質転換して、形質転換細胞を生成させることと、
形質転換細胞を増大させて、複数の形質転換細胞を生成させることと、
複数の形質転換細胞を、上記対象に投与することと、
を含む。
同じく提供されるのは、生体試料中のRAC2P29L及び/又はRAC1P29S陽性癌細胞を検出する方法であり、本方法は、
生体試料を、本明細書のABPと接触させることと、なお、この生体試料は、好ましくはRAC2P29L及び/又はRAC1P29S陽性の宿主細胞を含む;
生体試料に対するABPの結合を検出することと、
を含む。
一部の実施の形態において、RAC2P29L及び/又はRAC1P29S陽性細胞を検出する方法は、in vitro、in vivo、又はin situで、例えば、RAC2P29L及び/又はRAC1P29Sを含む可能性のある疾患関連細胞を含む、対象の試料を用いて行われる。
同じく提供されるのは、哺乳類において病態の存在を検出する方法である。本方法は、(i)哺乳類由来の1つ以上の細胞を含む試料を、本明細書中において記載される本発明のTCR(及びそれらの機能性バリアント)、ポリペプチド、タンパク質、核酸、組換え発現ベクター、宿主細胞、細胞集団、抗体、若しくはそれらの抗原結合部分、又は医薬組成物のいずれかと接触させることと、それにより複合体を形成させることと、複合体を検出することとを含み、複合体の検出は、哺乳類において病態が存在することを示し、この病態は、癌、例えばRAC2P29L及び/又はRAC1P29S陽性癌である。
哺乳類において病態を検出する本発明の方法に関して、細胞の試料は、全細胞、それらのライセート、又は全細胞ライセートの画分、例えば、核若しくは細胞質画分、全タンパク質画分、又は核酸画分等を含む試料であることが可能である。
本発明の検出法の目的に関して、接触は、哺乳類に関してin vitro又はin vivoで起こることが可能である。好ましくは、接触は、in vitroである。
同じく、複合体の検出は、当該技術分野で既知であるいくつものやり方を通じて起こすことが可能である。例えば、本明細書中において記載される本発明の抗原認識構築物(及びそれらの機能性バリアント)、ポリペプチド、タンパク質、核酸、組換え発現ベクター、宿主細胞、細胞集団、又は抗体若しくはTCR、又はそれらの抗原結合部分を、検出可能な標識で、例えば、放射性同位体、フルオロフォア(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE))、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ)、及び元素粒子(例えば、金粒子)で標識することができる。
本発明の方法の目的のため、宿主細胞又は細胞集団が投与される場合、細胞は、哺乳類にとって同種又は自己である細胞であることが可能である。好ましくは、細胞は、哺乳類にとって自己である。
一般に、本発明は、RAC2P29L及び/又はRAC1P29S陽性癌に罹患している対象を治療する方法を提供し、本方法は、本発明により開示されるとおりの抗原認識構築物、ABP、核酸、ベクター、医薬組成物、及び/又は宿主細胞を投与することを含む。好ましくは、対象は、そのような治療を必要としている対象である。好適な実施の形態において、対象は、RAC2P29L及び/又はRAC1P29S陽性疾患に罹患している哺乳類対象、好ましくはヒト患者である。
上記に加えて、本発明は、更に、以下の項目別の実施の形態に関する:
項目1:RAC1及び/又はRAC2、好ましくは変異RAC1及び/又はRAC2に由来する抗原ペプチド又はそのバリアントに特異的に結合する、単離抗原結合タンパク質(ABP)であって、この単離ABPは、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み、このCDRは、配列番号3、7、11、及び15から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR3である、単離ABP。
項目2:上記ABPは、RAC2P29L及び/又はRAC1P29Sに由来する抗原ペプチドに特異的及び/又は選択的に結合することができ、好ましくは、そのような由来ペプチドは、RAC2P29L及び/又はRAC1P29S変異を含み、したがってP29L及び/又はP29S変異を含む、項目1の単離ABP。変異の位置は、あまり関係がない。最も好ましくは、項目1の単離ABPは、配列番号17及び/又は18のペプチドに結合する。
項目3:ABPは、抗体、若しくはその抗原結合誘導体若しくは断片であるか、又は好ましくは、T細胞受容体(TCR)、若しくはその抗原結合誘導体若しくは断片である、項目1又は2の単離ABP。
項目4:上記ABPは、ヒト白血球抗原(HLA)提示抗原ペプチドに結合し、上記HLAは、好ましくはA2型であり、好ましくは、ABPは、MHC及び抗原ペプチドと特異的複合体を形成する、項目1~3のいずれか1項の単離ABP。
項目5:ABPは、RAC2P29L及び/又はRAC1P29Sタンパク質のMHC提示ペプチドから選択されるアミノ酸配列を有するエピトープに特異的及び/又は選択的に結合し、好ましくは、ペプチドは、そのような変異アミノ酸位置を含み、最も好ましくは、配列番号17又は18からなるペプチドである、項目1~4のいずれか1項の単離ABP。
項目6:ABPは、α/β-TCR、若しくはその抗原結合誘導体若しくは断片であるか、又は構築物は、γ/δ-TCR、若しくはその抗原結合誘導体若しくは断片である、項目1~5のいずれか1項の単離ABP。
項目7:ABPは、ヒト起源のものであり、RAC2P29L及び/又はRAC1P29S抗原ペプチドを特異的及び/又は選択的に認識することを特徴とする、項目1~6のいずれか1項の単離ABP。
項目8:上記ABPは、対象において免疫応答を誘導することができ、任意選択で、免疫応答は、インターフェロン(IFN)γレベルの上昇を特徴とする、項目1~7のいずれか1項の単離ABP。
項目9:TCRα又はγ鎖、及び/又はTCRβ又はδ鎖を含み、TCRα又はγ鎖は、配列番号3及び11から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR3、及び/又はTCRβ若しくはδ鎖は、配列番号7及び15から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR3を含む、項目1~8のいずれか1項の単離ABP。
項目10:TCRα又はγ鎖は、配列番号1又は9から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR1、及び/又は配列番号2又は10から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR2を更に含む、項目9の単離ABP。
項目11:TCRβ又はδ鎖は、配列番号5及び13から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR1、及び/又は配列番号6及び14から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR2を更に含む、項目9又は10の単離ABP。
項目12:配列番号4、8、12、及び16から選択されるアミノ酸配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を有するか、又は20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、5つ以下、3つ以下、若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、TCR可変鎖領域を含む、項目1~11のいずれか1項の単離ABP。
項目13:構築物は、ヒト化、キメラ化、及び/又はマウス化されている、項目1~12のいずれか1項の単離ABP。
項目14:TCRの結合断片を含み、上記結合断片は、CDR1~CDR3を含み、これらは任意選択で、配列番号1、2、3、又は5、6、7、又は9、10、11、又は13、14、15のアミノ酸配列を有するCDR1配列~CDR3配列から選択され、各CDRは独立して、これらの配列と比較して、3つ以下又は2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、又は挿入(複数の場合もある)を有する、項目1~13のいずれか1項の単離ABP。
項目15:構築物は、少なくとも1つのTCRα鎖配列及び1つのTCRβ鎖配列で構成されるTCR又はその断片であり、上記TCRα鎖配列は、配列番号1~3のアミノ酸配列を有するCDR1~CDR3配列を含み、上記TCRβ鎖配列は、配列番号5~7のアミノ酸配列を有するCDR1~CDR3配列を含むか、又は上記TCRα鎖配列は、配列番号9~11のアミノ酸配列を有するCDR1~CDR3配列を含み、上記TCRβ鎖配列は、配列番号13~15のアミノ酸配列を有するCDR1~CDR3配列を含み、各CDRは独立して、これらの配列と比較して、3つ以下又は2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、又は挿入(複数の場合もある)を有する、項目1~14のいずれか1項の単離ABP。
項目16:ABPは、少なくとも1つのTCRα鎖配列及び1つのTCRβ鎖配列を含むTCR又はその抗原結合断片若しくは誘導体であり、上記TCRα鎖配列は、配列番号4のアミノ酸配列を有する可変領域配列を含み、上記TCRβ鎖配列は、配列番号8のアミノ酸配列を有する可変領域配列を含むか、又は上記TCRα鎖配列は、配列番号12のアミノ酸配列を有する可変領域配列を含み、上記TCRβ鎖配列は、配列番号16のアミノ酸配列を有する可変領域配列を含み、各可変ドメイン配列は、これらの配列と比較して、20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、5つ以下、3つ以下、若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、又は挿入(複数の場合もある)を有する、項目1~15のいずれか1項の単離ABP。
項目17:ABPは、TCR又はその抗原結合断片若しくは誘導体であり、TCR定常領域、好ましくはヒトTCR定常領域配列を更に含む、項目1~16のいずれか1項の単離ABP。
項目18:項目1~17のいずれか1項のABPをコードする、単離核酸。
項目19:配列番号4、8、12、及び16から選択されるポリペプチドをコードする核酸配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を有するか、又は20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、5つ以下、3つ以下、若しくは2つ以下、好ましくは1つ以下の核酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する核酸配列を含む、項目18の単離核酸。
項目20:項目18又は19の核酸を含む、組換えベクター。
項目21:項目1~17のいずれか1項のABP、又は項目18若しくは19の核酸、又は項目20のベクターを含む、組換え宿主細胞。
項目22:細胞は、リンパ球、好ましくはTリンパ球若しくは前駆Tリンパ球、より好ましくはCD4陽性又は、最も好ましくは、CD8陽性T細胞である、項目21の組換え宿主細胞。
項目23:項目1~17のいずれか1項のABP、又は項目18若しくは19の核酸、又は項目20のベクター、又は項目21若しくは22の組換え宿主細胞と、薬学的に許容可能なキャリア、安定剤、及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物であって、好ましくは、医薬組成物は、項目1~17のいずれか1項のABPのうち少なくとも異なる2種を含む、医薬組成物。
項目24:項目1~17のいずれか1項のABP、又は項目18若しくは19の核酸、又は項目20のベクター、又は項目21若しくは22の組換え宿主細胞、又は項目23の医薬組成物から選択される、医薬に使用される複合物又は組成物。
項目25:使用は、増殖性障害、好ましくは癌、例えば、RAC2P29L及び/又はRAC1P29Sの発現が陽性である癌の治療用である、項目24の使用のための複合物又は組成物。
項目26:治療は、免疫療法、好ましくは養子自己又は異種T細胞療法を含む、項目25の使用のための複合物又は組成物。
項目27:T細胞療法は、上記項目のいずれか1項のABP又は核酸を含む細胞の使用が関与する、項目26の使用のための複合物又は組成物。
項目28:RAC2P29L及び/又はRAC1P29S特異的抗原認識構築物を発現する細胞株を製造する方法であって、
(a)適切な宿主細胞を用意することと、
(b)項目1~17のいずれか1項に記載のABPをコードするコード配列を含む遺伝子構築物を用意することと、
(c)上記適切な宿主細胞に、上記遺伝子構築物を導入することと、 (d)上記適切な宿主細胞によって上記遺伝子構築物を発現させることと、
を含む、方法。
項目29:上記抗原認識構築物の細胞表面提示を更に含む、項目28の方法。
項目30:遺伝子構築物は、上記コード配列に作動性に連結されたプロモーター配列を含む発現構築物である、項目28又は29の方法。
項目31:上記抗原認識構築物は、哺乳類起源のもの、好ましくはヒト起源のものである、項目28~30のいずれか1項の方法。
項目32:上記適切な宿主細胞は、哺乳類細胞であり、任意選択で、ヒト細胞又はヒトTリンパ球から選択される、項目28~31のいずれか1項の方法。
項目33:上記抗原認識構築物は、修飾TCRであり、上記修飾は、標識を含む機能性ドメイン、又は膜アンカードメインを含む代替ドメインの付加を含む、項目28~32のいずれか1項の方法。
項目34:上記抗原認識構築物は、ABP、好ましくはアルファ/ベータTCR、ガンマ/デルタTCR、又はTCRバリアント、例えば、一本鎖TCR(scTCR)である、項目33の方法。
項目35:上記遺伝子構築物は、レトロウイルス形質移入により、上記適切な宿主細胞に導入される、項目28~34のいずれか1項の方法。
項目36:適切な宿主細胞から抗原認識構築物を単離及び精製することと、任意選択で、T細胞において抗原認識構築物を再構築することとを更に含む、項目28~35のいずれか1項の方法。
項目37:適切な宿主細胞は、RAC2P29L及び/又はRAC1P29S発現と関連した障害、例えば、好ましくは癌に罹患している患者から得られる細胞、例えば、T細胞である、項目28~35のいずれか1項の方法。
以下、本明細書中において上記で記載した本発明のABP、特に、本明細書中において記載されるとおりの最も好適なTCR並びにそれらの断片及びバリアント(RAC2-T001及びRAC2-T002)に関して本発明の更に好適な実施の形態が記載される。本発明のABP及びABPにより認識される抗原結合ペプチドについての上記説明は、等しく適用されるものとする。
1つのそのような好適な実施の形態において、本明細書中において開示される本発明による変異RAC1及び/又はRAC2由来抗原ペプチドは、配列番号17~21、好ましくは配列番号19、20、21から選択されるアミノ酸配列を有する(一部の実施の形態において、配列と少なくとも90%、好ましくは100%同一である)ペプチドから選択される。
そのような実施の形態の別の形態において、本明細書中において開示される本発明の単離ABP又はその抗原結合断片は、好ましくはMHC提示の、配列番号19~21のうち1つに示されるコンセンサス配列(又はコンセンサスモチーフ)により表されるアミノ酸配列を有する抗原ペプチドに、特異的及び/又は選択的に結合することができる。そのようなABPについて、本発明のABPについての上記説明が等しく適用される。そのようなABPについて、本発明のABPについての上記説明が等しく適用される。
特にそのような実施の形態において、本明細書中において以下の表1によるRAC1-T001の配列のいずれかを参照したABPに関する上記説明は、配列番号19又は20(これらのうち、配列番号20が好適である)に示されるコンセンサス配列のペプチドエピトープに特異的及び/又は選択的に結合する。他方で、そのような実施の形態の更なる形態において、本明細書中において以下の表1によるRAC1-T002の配列のいずれかを参照したABPに関する上記説明は、配列番号21(これらのうち、配列番号20が好適である)に示されるコンセンサス配列のペプチドエピトープに特異的及び/又は選択的に結合する。
好ましくは、そのような実施の形態において、本発明の単離ABPは、本明細書中において記載されるとおりの抗原ペプチドに特異的及び/又は選択的に結合することができ、非特異的ペプチドに対して非自己認識を示さない。そのような非特異的ペプチドは、好ましくは、変異RAC1又はRAC2タンパク質に由来しないペプチドと解釈される。
本明細書において使用される場合、「(本)発明の」、「本発明による」、「本発明によれば(よる)」等の用語は、本明細書に記載される及び/又は特許請求の範囲に記載される本発明の全ての態様及び実施の形態を指すことを意図する。
本明細書において使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」及び「からなる(consisting of)」の両方を包含すると解釈すべきであり、どちらも具体的に意図され、ひいては個別に開示される、本発明による実施の形態を意味する。本明細書において使用される場合、「及び/又は」は、他方を含む又は含まない、2つの指定の特徴又は構成要素の各々の具体的な開示とみなすべきである。例えば、「A及び/又はB」は、各々が本明細書に個別に提示されるかのような、(i)A、(ii)B、並びに(iii)A及びBの各々の具体的な開示とみなすべきである。本発明の文脈において、「約」及び「およそ」という用語は、問題となる特徴の技術的効果が依然として確実であると当業者に理解される正確さの区間を表す。この用語は通例、指定の数値からの±20%、±15%、±10%、例えば±5%の偏差を示す。当業者に理解されるように、所与の技術的効果についてのこのような具体的な数値の偏差は、技術的効果の性質に左右される。例えば、自然の又は生物学的な技術的効果は概して、人為的又は工学的な技術的効果についての偏差よりも大きなかかる偏差を有し得る。当業者に理解されるように、所与の技術的効果についてのこのような具体的な数値の偏差は、技術的効果の性質に左右される。例えば、自然の又は生物学的な技術的効果は概して、人為的又は工学的な技術的効果についての偏差よりも大きなかかる偏差を有し得る。単数名詞に言及する際に不定冠詞又は定冠詞、例えば「a」、「an」又は「the」が用いられる場合、何か他の具体的な指定がない限り、複数のその名詞も含まれる。
特定の問題又は環境への本発明の教示の適用、及び本発明の変形形態又はその付加的な特徴(更なる態様及び実施の形態等)の包含は、本明細書に含まれる教示を考慮すれば、当業者の能力の範囲内であることを理解すべきである。
文脈上他に指示がない限り、上記に提示される特徴の説明及び定義は、本発明の任意の特定の態様又は実施の形態に限定されず、記載される全ての態様及び実施の形態に等しく当てはまる。
本明細書に引用される全ての参照文献、特許及び刊行物は、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
図面は、以下を示す:
ABabDIIマウスにおけるRAC2P29L特異的CTLの同定及び単離を示す図である。 同上 TCR遺伝子導入が、変異RAC2P29Lペプチドに対する特異性を与えることを示す図である。 同上 RAC1P29Sを内包するヒト黒色腫細胞が、RAC2P29L TCRリダイレクトT細胞により認識されることを示す図である。 異種RAC2P29L特異的TCRが、ATTに際して、効率的な腫瘍拒絶を誘発することを示す図である。 RAC2-T001 TCR及びRAC2-T002 TCRのコンセンサスエピトープの分析を示す図である。RAC2P29L負荷T2細胞と共培養した際の、又はそれぞれのアミノ酸置換を持つRAC2P29Lを負荷したT2細胞と共培養した際のいずれかによる、T001 TCR又はT002 TCRで形質導入されたT細胞によるIFNγ産生。それぞれのT001/T002 TCR認識モチーフを示す。「X」は、任意の天然に生じるアミノ酸が可能である。 T001/T002 TCR認識モチーフを含有する潜在的ヒトHLA-A2限定エピトープの交差反応性の分析を示す図である。Y軸:ペプチド負荷T2細胞と共培養した際の、T001 TCRで形質導入されたT細胞によるIFNγ産生(暗灰色)。(A)潜在的ヒトHLA-A2限定GNAZペプチドの認識の分析。X軸:負荷中のペプチド濃度(mol/L単位)。(B)配列番号1~16によるT001 TCRによる内在的に発現したGNAZの認識:本明細書中において開示される本発明のTCR配列を、以下の表1に示す。
配列番号17は、ペプチドRAC2P29L:FLGEYIPTVを示す。
配列番号18は、ペプチドRAC1P29S:FSGEYIPTVを示す。
配列番号19~21は、T001/T002 TCRコンセンサス結合エピトープを示す。
配列番号22は、HLA-A2限定GNAZペプチドを示す。
ここで、本発明の或る特定の態様及び実施形態を例として、本明細書に提示される説明、図面及び表を参照して説明する。本発明の方法、使用及び他の態様のかかる例は、単に代表的なものであり、本発明の範囲をかかる代表的な例にのみ限定するとみなすべきではない。
実施例は以下を示す。
実施例1:本発明のTCRの生成
図1:ABabDIIマウスにおけるRAC2P29L特異的CTLの同定及び単離。ABabDIIマウスにおいて、変異RAC2P29Lペプチドを用いた免疫化により、CTL反応を誘導する。最後の免疫化から7日後のRAC2変異ペプチド免疫化ABabDIIマウスのex vivo ICS分析の代表例。細胞は、リンパ球及びCD3+細胞でゲーティングする。括弧内の数字は、IFNg+ CD8+ T細胞のパーセントを表す。(B)IFNγ捕捉アッセイを用いた、IFNγ+ CD8+ T細胞の同定。10-8Mの変異RAC2ペプチドの存在下、脾臓細胞を培養して10日後の、変異RAC2P29L特異的CD8+ T細胞の代表的なIFNγ捕捉ab/CD8+染色。細胞は、リンパ球及びCD3+細胞でゲーティングし、非刺激脾細胞を陰性対象として使用した。括弧内の数字は、IFNγ++ CD8+ T細胞のパーセントを表す。ソーティングした細胞を図1に示す。表1に、単離されたとおりのTCRアミノ酸配列を示す。
表1:本発明の単離TCR配列
実施例2:TCR遺伝子導入は、変異RAC2P29Lペプチドに対する特異性を与える
2匹のRAC2P29Lペプチド免疫化ABabDIIマウスから単離された対応するTCRアルファ鎖及びベータ鎖(RAC2-T001及びRAC2-T001)を、レトロウイルスベクターpMP71にクローニングし、ヒトPBMCにおいて再発現させた。(A)CD8+ T細胞のマウスTCRb鎖を染色することにより、形質導入効率を測定する。陽性CD8+ T細胞の数を括弧内に示す。(B~D)ペプチド負荷T2細胞と共培養した際の、RAC2P29L TCRで形質導入されたT細胞のIFNγ産生(RAC2-T002、黒色バー;RAC2-T001 TCR、赤色バー)。変異型(B)若しくは野生型(C)RAC2ペプチド又はRAC1P29Sペプチド(D)のいずれかを負荷に用いた;陰性対照として、T2細胞に何も負荷しなかった(T2)、最大刺激用にPMA及びイオノマイシン(P+I)を共培養物に加えた。
実施例3:RAC2P29LTCRリダイレクトT細胞による、RAC1P29Sを内包するヒト黒色腫細胞の認識
ヒトPBMCに、RAC2P29L特異的RAC2-T002 TCRを、レトロウイルスにより形質導入した。RAC1/2wt遺伝子を内包するMB231とRAC1P29S遺伝子を内包するMel55とを共培養した際の、RAC2P29L-TCR形質導入されたT細胞のIFNγ産生を示す。対照として、変異ペプチド負荷細胞(+RAC1又は+RAC2)又は無細胞(oe)を、共培養物に用いた。最大刺激用にPMA及びイオノマイシン(P+I)を共培養物に加えた。
実施例4:異種RAC2P29L特異的TCRは、ATTに際して、効率的な腫瘍拒絶を誘発する
図4(A):RAC1/2特異的TCRのin vivo効率を分析するため、RAC1P29Sエピトープ(MC703-FSG)のコピー3つをコードするミニ遺伝子を発現するHHD+ MC703腫瘍細胞を、レトロウイルス形質導入及び続いてgfp+細胞をFACソーティングすることにより生成させた。その後の実験で使用したHLA-A2+gfp+腫瘍細胞の量を示す。(B)HHDトランスジェニックマウスから得られたマウスT細胞に、RAC1特異的TCR及びRAC2特異的TCRを、レトロウイルスにより形質導入した。
それぞれのCD8+ T細胞は、エピトープ発現腫瘍細胞の効率的な認識を与え、14/35 TCR形質導入HHD+ T細胞及び非形質導入HHD+ T細胞(oe)は、陰性対照として用いた。(C)確立されたMC703-FSG腫瘍を担持するHHD Rag-/-マウスを、5934RAC1特異的T細胞又はRAC2-T001 RAC2特異的T細胞のいずれかで処置した(1×106のCD8+ TCR+-Teに調整した)。CDK4R24C特異的TCR(14/35)を発現するT細胞を投与された担癌HHD Rag-/-マウスを、対照として示す。1つの代表的な実験を示す。
実施例5:RAC2-T001及びRAC2-T002のコンセンサスエピトープの同定
RAC2P29Lペプチドの個々のアミノ酸を、順にアラニンで置き換えた。T2細胞に、ペプチドを10-5 mol/l及び10-9 mol/lで負荷し(それぞれ、黒色バー及び灰色バー)、T001及びT002 TCR形質導入T細胞によるIFNγ産生を測定した。これらの実験の結果を、図5及び表2に示す。未修飾ペプチドに反応したIFNγ産生を、100%に設定した。さらに、RAC1P29S(#で標識したバー)及びwtRAC1/2に対する反応性を示す(白抜きバー)。T001 TCR形質導入T細胞及びT002 TCR形質導入T細胞は、両方とも、RAC1P29S(mutRAC1)負荷T2細胞との共培養に際し、高いIFN産生を示す。T001 TCRの場合、形質導入T細胞は、wtRAC1/2負荷T2細胞との共培養に際し、どのようなIFNγもほとんど産生しなかった。T002 TCRの場合、形質導入T細胞は、wtRAC1/2との共培養に際し、産生に顕著な減少を示した(未修飾RAC2P29Lと比べて全体で35%)。アミノ酸置換体それぞれについてモニタリングしたIFNγ産生の分析により、T001/T002認識モチーフそれぞれがもたらされた。T001 TCR形質導入細胞の場合、これらのモチーフは、XXXXYIPTV(配列番号19)及びXXXEYIPTV(配列番号20)である。T002 TCR形質導入細胞の場合、モチーフXXXEYXPTV(配列番号21)が同定された。「X」は、任意の天然に生じるアミノ酸が可能である。
表2:抗原ペプチド及びT001/T002認識モチーフ
*下線を付したアミノ酸は、ネオ抗原変異の位置を示す;「X」は、任意の天然に生じるアミノ酸であることが可能な可変アミノ酸側鎖を示す。
実施例6:RAC2-T001の交差反応性及び非自己認識
ペプチド負荷T2細胞と共培養した際のRAC2P29LTCR形質導入T細胞のIFNγ産生をモニタリングした。
T001/T002認識モチーフと類似したペプチドモチーフを含有するヒト遺伝子について、それらがT001/T002認識モチーフを含有し、どのマウスタンパク質にも存在せず、かつIC50<5000 nMの予測HLA-A2親和性を有する場合には含めた。IC50、すなわちペプチド-HLA-A2結合親和性は、NetMHCPanにより予測した。AAADYIPTVは、これらの基準を満たす唯一のペプチドであった。そこで、T001認識モチーフXXXXYIPTVを含有する潜在的ヒトHLA-A2限定GNAZ(GTP結合タンパク質Gzサブユニットアルファ)ペプチドAAADYIPTVの認識を分析した。これらの実験において、陰性対照としてT2細胞に負荷を行わず(T2)、最大刺激用にPMA及びイオノマイシン(P+I)を共培養物に加えた。結果を、図6Aに示す。この図には、RAC2-T001 TCR形質導入T細胞(暗色バー)及びMock実験(明灰色バー)からのIFNγ産生データが含まれる。T001 TCR形質導入T細胞(ペプチド負荷濃度は10-6 M)のうち最もIFNγ産生が多かったものは、最大刺激の約30%であった。
そのうえさらに、内在的に発現したGNAZのT001 TCRによる認識を、T001形質導入T細胞を用いて標的として、ヒトHLA-A2+ HepG2細胞及びSH-SY5Y細胞の共培養により試験した(暗色バー、エフェクター細胞)。結果を図6Bに示す。この図には、RAC2-T001 TCR形質導入T細胞(暗色バー)及びMock実験(明灰色バー)からのIFNγ産生データが含まれる。ペプチドは、T2細胞に10-6 mol/lで負荷した。非負荷細胞を、対照oeとして用いた。GNAZ発現細胞株は、TCRにより認識されない。GNAZペプチド負荷T細胞を、陽性対照として用いた。最大刺激用にPMA及びイオノマイシン(P+I)を共培養物に加えた。
本発明者らは、追加で、LCLスキャンを行った。このスキャンにより、T001 TCR修飾T細胞による非自己認識のエビデンスは何も得られなかった。これらの実験において、T001 TCR形質導入T細胞を、様々なHLAアロタイプを発現するB-LCLと共培養した。陽性対照HLA-A2+LCLは、RAC2P29Lペプチドを負荷した。
図面訳
図1A
Restimulation with:以下を用いて再刺激:
RAC2 mutant 9mer peptideRAC2変異9量体ペプチド

図1B
Stimulated刺激
Unstimulated非刺激

図2B
Peptideペプチド

図2C
Peptideペプチド

図2D
Peptideペプチド

図4C
tumor volume腫瘍体積
Time after ATTATT後の時間

図5
% of RAC2P29LRAC2P29Lの%
T2 cellsT2細胞

Claims (15)

  1. 変異RAC1及び/又はRAC2由来抗原ペプチド又はそのバリアントに特異的に結合する、単離抗原結合タンパク質(ABP)であって、前記単離ABPは、T細胞受容体(TCR)α若しくはγ鎖、及び/又はTCRβ若しくはδ鎖を含み、前記TCRα若しくはγ鎖は、配列番号3及び11から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、相補性決定領域(CDR)3、及び/又は前記TCRβ若しくはδ鎖は、配列番号7及び15から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR3を含む、単離ABP。
  2. 前記ABPは、RAC1及び/又はRAC2のP29変異アミノ酸位置を含む抗原ペプチド、好ましくは配列番号17及び/又は18の抗原ペプチドに、特異的及び/又は選択的に結合することができる、請求項1に記載の単離ABP。
  3. 前記ABPは、TCR又はその抗原結合誘導体若しくは断片である、請求項1又は2に記載の単離ABP。
  4. 前記TCRα又はγ鎖は、配列番号1又は9から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR1、及び/又は配列番号2又は10から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、3つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR2を更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の単離ABP。
  5. 前記TCRβ又はδ鎖は、配列番号5及び13から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、又は3つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR1、及び/又は配列番号6及び14から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を持つアミノ酸配列を有するか、3つ以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、CDR2を更に含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の単離ABP。
  6. 配列番号4、8、12、及び16から選択される配列と比較して、少なくとも80%配列同一性を有するか、又は20以下のアミノ酸置換(複数の場合もある)、欠失(複数の場合もある)、若しくは挿入(複数の場合もある)を有する、TCR可変鎖領域を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の単離ABP。
  7. 前記ABPは、TCR又はその抗原結合断片若しくは誘導体であり、TCR定常領域、好ましくはヒトTCR定常領域配列を更に含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の単離ABP。
  8. 請求項1~7のいずれか1項に記載のABPをコードする、単離核酸。
  9. 請求項8に記載の核酸を含む、組換えベクター。
  10. 請求項1~7のいずれか1項に記載のABP、又は請求項8に記載の核酸、又は請求項9に記載のベクターを含む、組換え宿主細胞。
  11. 前記細胞は、リンパ球、好ましくはTリンパ球若しくは前駆Tリンパ球、より好ましくはCD4陽性又は、最も好ましくは、CD8陽性T細胞である、請求項10に記載の組換え宿主細胞。
  12. 請求項1~7のいずれか1項に記載のABP、又は請求項8に記載の核酸、又は請求項9に記載のベクター、又は請求項10若しくは11に記載の組換え宿主細胞と、薬学的に許容可能なキャリア、安定剤、及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物であって、好ましくは、前記医薬組成物は、請求項1~7のいずれか1項に記載のABPのうち少なくとも異なる2種を含む、医薬組成物。
  13. 請求項1~7のいずれか1項に記載のABP、又は請求項8に記載の核酸、又は請求項9に記載のベクター、又は請求項10若しくは11に記載の組換え宿主細胞、又は請求項12に記載の医薬組成物から選択される、医薬に使用される複合物又は組成物。
  14. 治療は、請求項1~7のいずれか1項に記載のABP又は請求項8に記載の核酸を含む前記細胞の使用が関与する、免疫療法、好ましくは養子、自己、又は異種T細胞療法を含む、請求項13に記載の使用のための複合物又は組成物。
  15. RAC2P29L及び/又はRAC1P29S特異的抗原認識構築物を発現する細胞株を製造する方法であって、
    (a)適切な宿主細胞を用意することと、
    (b)請求項1~7のいずれか1項に記載のABPをコードするコード配列を含む遺伝子構築物を用意することと、
    (c)前記適切な宿主細胞に、前記遺伝子構築物を導入することと、 (d)前記適切な宿主細胞によって前記遺伝子構築物を発現させて、前記特異的抗原認識構築物を発現する細胞株を得ることと、
    を含む、方法。
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