JP2024080125A - 合成樹脂レザー - Google Patents

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美津代 小林
Mitsuyo Kobayashi
雄介 斉藤
Yusuke Saito
正和 西野
Masakazu Nishino
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Abstract

【課題】 流動パラフィンに対する耐油性と、耐熱変形性とを共に優れたものとすることが可能な合成樹脂レザーを提供すること。【解決手段】 熱可塑性エラストマーを含有する樹脂皮膜11と、前記樹脂皮膜11の表面上に形成された表面処理層12とを備える合成樹脂レザー1であって、前記表面処理層12がシランカップリング剤を含む樹脂層(A)を備えることを特徴とする合成樹脂レザー。【選択図】 図1

Description

本発明は、合成樹脂レザーに関する。
近年、ポリ塩化ビニル(PVC)や熱可塑性ポリウレタン(TPU)、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)等の熱可塑性エラストマーを含む樹脂皮膜を備える合成樹脂レザーが、インストルメントパネル、ドア表皮材、天井、座席シート等の自動車の内装材や、ソファーなどの家具等の様々な用途に利用されており、様々な種類の合成樹脂レザーが研究されたきた。
例えば、国際公開第2017/061611号(特許文献1)には、塩化ビニル樹脂を主成分とする樹脂皮膜の表面側に表面処理層が形成される合成樹脂レザーであって、前記表面処理層がポリカーボネートウレタンとエステルウレタンの混合物をカルボジイミド基含有の架橋剤で架橋してなる表面処理剤の塗布によって形成される層である合成樹脂レザーが開示されている。また、特開2011-214192号公報(特許文献2)には、熱可塑性ポリウレタンを主成分とする樹脂皮膜の裏面側に接着層を介して基材を接着した合成樹脂レザーであって、前記樹脂皮膜の表面側に表面処理層が形成され、その表面処理層は、水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤で架橋した表面処理剤の塗布によって形成されている層である合成樹脂レザーが開示されている。
国際公開第2017/061611号 特開2011-214192号公報
しかしながら、前記特許文献1及び2に記載のような合成樹脂レザーは、高度な耐油性と優れた耐熱変形性との両立といった点では十分なものではなかった。なお、一般に、合成樹脂レザーは、高い柔軟性を有するものであるが、その用途から、人体の皮脂や汗、保湿用ローションなどの付着がしばしば生じることから、これらの油性成分に対する耐性が求められており、近年では、特に保湿用ローションなどに多く含まれる流動パラフィンに対しての耐油性が求められている。また、自動車内装材(カーシート)の用途では、特に高温下での耐性(耐熱性)が求められている。なお、熱可塑性エラストマーは耐熱性が低いことから、熱可塑性エラストマーを含有する樹脂皮膜を含む合成樹脂レザーは、高温下での使用で樹脂皮膜が熱変形を引き起こし易く、これが合成樹脂レザーの耐油性を低下させる一因ともなる。そのため、合成樹脂レザーの分野においては、自動車内装材の用途の使用環境等も考慮して、流動パラフィンに対する高度な耐油性と、優れた耐熱変形性とを両立することが可能な合成樹脂レザーの出現が強く望まれている。
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、流動パラフィンに対する耐油性と、耐熱変形性とを共に優れたものとすることが可能な合成樹脂レザーを提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性エラストマーを含有する樹脂皮膜と、前記樹脂皮膜の表面上に形成された表面処理層とを備える合成樹脂レザーにおいて、前記表面処理層を、シランカップリング剤を含む樹脂層(A)を備えるものとすることにより、その合成樹脂レザーの流動パラフィンに対する耐油性と、耐熱変形性とを共に優れたものとすることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
[1]熱可塑性エラストマーを含有する樹脂皮膜と、前記樹脂皮膜の表面上に形成された表面処理層とを備える合成樹脂レザーであって、前記表面処理層がシランカップリング剤を含む樹脂層(A)を備える、合成樹脂レザー。
[2]前記樹脂層(A)が、固形分の質量を基準としてシランカップリング剤を20~100質量%含有する層である、[1]に記載の合成樹脂レザー。
[3]前記樹脂層(A)が前記樹脂皮膜の表面上に積層され、かつ、前記表面処理層が、前記樹脂層(A)の前記樹脂皮膜側の面とは反対側の面上に積層されたトップコート層(B)を更に備える、[1]又は[2]に記載の合成樹脂レザー。
[4]前記トップコート層(B)がポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂からなる層である、[3]に記載の合成樹脂レザー。
[5]前記熱可塑性エラストマーが、ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリウレタン及び熱可塑性ポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[4]のうちのいずれか1項に記載の合成樹脂レザー。
本発明によれば、流動パラフィンに対する耐油性と、耐熱変形性とを共に優れたものとすることが可能な合成樹脂レザーを提供することが可能となる。
合成樹脂レザーの好適な一実施形態を模式的に示す模式図である。
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明の合成樹脂レザーは、熱可塑性エラストマーを含有する樹脂皮膜と、前記樹脂皮膜の表面上に形成された表面処理層とを備える合成樹脂レザーであって、前記表面処理層がシランカップリング剤を含む樹脂層(A)を備えることを特徴とするものである。以下、先ず、樹脂皮膜と、表面処理層とを分けて説明する。
〔樹脂皮膜〕
本発明の合成樹脂レザーにおいて用いる樹脂皮膜は、熱可塑性エラストマーを含有するものであればよく、合成樹脂レザーの分野において、熱可塑性エラストマーからなる皮膜として利用されている公知の熱可塑性エラストマーからなる膜(公知の熱可塑性エラストマーの樹脂シート等)を適宜利用できる。また、このような樹脂皮膜としては、熱可塑性エラストマーを主成分として含有するものが好ましく、樹脂皮膜における熱可塑性エラストマーの含有量は40質量%(より好ましくは50質量%)以上であることがより好ましい。
また、本発明にかかる前記熱可塑性エラストマーとしては特に制限されるものではないが、屈曲性や柔軟性と耐摩耗性の観点から、ポリ塩化ビニル(PVC)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)が好ましい。なお、このような熱可塑性エラストマー(PVC、TPU及びTPO等)としては、一種を単独で、あるいは、二種以上を組み合わせて利用してもよい。
前記ポリ塩化ビニル(PVC)は、塩化ビニル又は塩化ビニリデンを必須の単量体(モノマー)成分としてなる重合体である。すなわち、PVCは、分子中(1分子中)に、塩化ビニル又は塩化ビニリデンに由来する構成単位を少なくとも含む重合体である。
前記ポリ塩化ビニルとしては、塩化ビニルの単独重合体であるポリ塩化ビニル、塩化ビニリデンの単独重合体であるポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル又は塩化ビニリデンと他の単量体との共重合体、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン等が挙げられる。また、前記塩素化ポリオレフィンとしては、例えば、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられる。
また、前記塩化ビニル又は塩化ビニリデンと他の単量体との共重合体としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-スチレン共重合体、塩化ビニル-イソブチレン共重合休、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-ウレタン共重合体、塩化ビニル-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-イソプレン共重合体、塩化ビニル-塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体や塩化ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の塩化ビニル-ビニルエステル類共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-ビニルエーテル類共重合体、塩化ビニル-スチレン-無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル-スチレン-アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル三元共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体などが挙げられる。このような共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合物などが挙げられる。
前記ポリ塩化ビニルの平均重合度(JIS K6721に準拠して測定される値を採用する)は、特に限定されないが、1000~3500(より好ましくは1100~3000、さらに好ましくは1300~2800)であることが好ましい。前記平均重合度が1000以上であると、1000未満である場合と比較して、耐摩耗性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより向上する傾向にある。他方、前記平均重合度が3500以下である場合には、3500を超えた場合と比較して、成形加工性がより向上して、カレンダー法等によりシート状により容易に成形することが可能となる傾向にある。
このようなポリ塩化ビニル(PVC)を製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。
前記熱可塑性ポリウレタン(TPU)としては、合成樹脂レザーの分野において利用可能な公知のものを適宜利用でき、例えば、いわゆる硬質相(ハードセグメント)と軟質相(ソフトセグメント)とを備える形態のものであってもよい。また、前記熱可塑性ポリウレタン(TPU)としては、ポリイシソアネートと、長鎖ポリオールと、鎖伸長剤とを反応させることにより得られる熱可塑性ポリウレタンを好適に利用できる。
前記ポリイソシアネートは、分子内に2以上のイソシアネート基を有する化合物である。前記ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートなどが挙げられる。前記ポリイソシアネートとしては、また、前記脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネ-ト、芳香族ポリイソシアネート、及び/又は芳香脂肪族ポリイソシアネートによる二量体や三量体、反応生成物又は重合物(例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの二量体や三量体、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネートなど)なども挙げられる。前記ポリイソシアネートは、一種のみを使用してもよいし、あるいは、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記長鎖ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリアクリルポリオール等が挙げられる。また、前記長鎖ポリオールの数平均分子量は、通常、500以上であり、好ましくは500~10000、より好ましくは600~6000、さらに好ましくは800~4000である。前記長鎖ポリオールは、一種のみを使用してもよいし、あるいは、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記鎖伸長剤としては、熱可塑性ポリウレタンの製造に通常用いられる鎖伸長剤を用いることができ、例えば、低分子量のポリオール、ポリアミンなどが挙げられる。鎖伸長剤の分子量は、通常、500未満であり、好ましくは300以下である。前記鎖伸長剤は、一種のみを使用してもよいし、あるいは、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、熱可塑性ポリウレタンの製造時に、ポリイシソアネートと、長鎖ポリオールと、鎖伸長剤とを反応させる際の反応条件は特に制限されず、熱可塑性ポリウレタンの製造が可能な公知の方法で採用されている条件の中から、利用する成分等に応じて反応が進行するように適切な条件を適宜採用すればよい。
前記熱可塑性ポリオレフィン(TPO)は、高分子鎖中にゴム弾性を持つゴム成分(ソフトセグメント)と、常温付近で塑性変形を防止する結晶ないしガラス状成分(ハードセグメント)との互いに相溶しない両成分を有するものである。
前記熱可塑性ポリオレフィン(TPO)としては、特に制限されるものではないが、例えば、前記ソフトセグメントとしてブタジエンゴムまたはエチレン・プロピレンゴムなどを用い、かつ、前記ハードセグメントとしてポリエチレン、ポリプロピレンを用いて得られるもの;ポリエチレン、ポリプロピレン等からなるハードセグメントに、天然ゴム、合成ゴム等を前記ソフトセグメントとして微分散させたもの;部分的にポリマー間を架橋した、いわゆるアロイ状のポリオレフィン;等を適宜使用することができる。
前記熱可塑性ポリオレフィン(TPO)としては、いわゆるオレフィン系熱可塑性エラストマーとして市販されているものを利用してもよい。また、前記熱可塑性ポリオレフィン(TPO)は、一種単独で用いてもよいし、あるいは、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の合成樹脂レザーにおいて用いる樹脂皮膜は、非発泡層と発泡層とを備える多層構造の形態としてもよい。すなわち、前記樹脂皮膜は、熱可塑性エラストマーを含有する非発泡層と、熱可塑性エラストマーを含有する発泡層とを備える形態のものとしてもよい。
また、前記樹脂皮膜は、熱可塑性エラストマーとともに各種添加剤を含んでいてもよい。このように、前記樹脂皮膜は、前記熱可塑性エラストマーと前記各種添加剤の組成物により形成された層としてもよい。このような添加剤としては、合成樹脂レザーの分野において、樹脂皮膜に利用可能な公知のものを適宜利用でき、例えば、可塑剤、熱安定剤、充填剤、顔料、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤を適宜利用可能である。また、前記樹脂皮膜自体又は前記樹脂皮膜が備える層を発泡形態の層とする場合には、その製造のさいに利用する材料に添加剤として発泡剤を利用してもよい。
前記可塑剤としては、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ブチルベンジルフタレート(BBP)、ジウンデシルフタレート(DUP)等に代表される一般のフタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、アゼライン酸ジオクチル(DOZ)等に代表される一般の脂肪酸エステル系可塑剤、トリメリット酸トリオクチル(TOTM)等に代表されるトリメリット酸エステル系可塑剤、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシリルホスフェート(TXP)等に代表されるトリアリールリン酸エステル系可塑剤、エポキシ化大豆油等に代表されるエポキシ系可塑剤、ポリプロピレンアジペート等に代表されるポリエステル系可塑剤等の高分子可塑剤、塩素化パラフィン等の一般の可塑剤、等が挙げられる。これらの可塑剤は、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記熱安定剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛などの金属セッケン、フェノールやナフトールのナトリウム、亜鉛、バリウムなどの金属塩、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジマレートなどの有機スズ化合物、ジエチルホスファイト、ジブチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリイソオクチルホスファイトなどの亜リン酸エステル類などが挙げられる。これらの熱安定剤は、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記充填剤としては、無機充填剤を用いることが好ましい。無機充填剤の具体例としては、例えば沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、極微細炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム、あるいはシリカ、タルク、ケイソウ土、クレー、マイカなどのケイ酸塩、水酸化アルミニウム、アルミナなどが挙げられる。これらの充填剤は、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記発泡剤としては、有機系発泡剤を用いることが好ましい。有機系発泡剤の具体例としては、例えばアゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゼンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルヒドラジド、p,p’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ジニトロソペンタンメチレンテトラミン、N,N’-ジニトロソ-N,N’-ジメチルテレフタルアミド、トリヒドラジノトリアミンなどが挙げられる。これらの有機発泡剤は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、このような樹脂皮膜の厚さは特に制限されるものではないが、100~1000μm程度(より好ましくは300~600μm)であることが好ましい。このような樹脂皮膜の厚さが前記下限未満では、耐久性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、柔軟性が低下する傾向にある。
なお、このような樹脂皮膜を形成する方法としては、特に制限されず、熱可塑性エラストマーを含有する樹脂皮膜(皮膜用樹脂シート)を製造することが可能な公知の方法(例えば、上記特許文献1や上記特許文献2等に記載されている皮膜の製法等)を適宜利用することができる。また、前記樹脂皮膜(皮膜用樹脂シート)を形成する方法としては、例えば、熱可塑性エラストマーを含有する樹脂皮膜形成用材料を用いて、熱可塑性エラストマーを成形することが可能な公知の成形方法(例えば、カレンダー成形、押し出し成形等)を採用して、シート形状に成形することで製造してもよい。このような樹脂皮膜形成用材料は、樹脂皮膜の設計に応じて、前述の各種添加剤を適宜含有する熱可塑性エラストマーの組成物としてもよい。また、前記樹脂皮膜形成用材料は、成形に際しては、公知の方法で予め可塑化することが好ましい。また、樹脂皮膜の形成に際しては、必要に応じて、発泡工程や絞付け工程を行ってもよい。このように、絞付け工程を施すことにより前記樹脂皮膜の表面に、いわゆるシボ模様のような、凸状部分及び凹状部分を有する凹凸模様を適宜形成してもよい。更に、前記樹脂皮膜が、非発泡層と、発泡層とを備える形態のものである場合、その製造方法は特に制限されず、公知の方法(上記特許文献1において説明されている方法等)を適宜利用でき、例えば、熱可塑性エラストマーと発泡剤とを含む発泡層形成用材料を準備し、カレンダー成形により発泡層形成用材料からなる樹脂シート(I)を調製し、また、別途、発泡剤を含まずかつ熱可塑性エラストマーを含む非発泡層形成用材料を準備し、カレンダー成形により非発泡層形成用材料からなる樹脂シート(II)を調製した後、かかる樹脂シート(I)及び(II)を重ね合わせて加熱して樹脂シート(I)を発泡させた後に加圧することにより、非発泡層と、発泡層とを備える形態の樹脂皮膜(皮膜用樹脂シート)を形成する方法を採用してもよい。なお、このような発泡の際の加熱条件や、各樹脂シートを加圧する条件等は特に制限されず、公知の方法において採用されている条件を適宜採用できる。
〔表面処理層〕
本発明にかかる表面処理層は、シランカップリング剤を含む樹脂層(A)を備えるものである。このような樹脂層(A)を含有することで、高度な耐油性と優れた耐熱性(耐熱変形性)とを両立することが可能となる。また、本発明にかかる表面処理層は、前記樹脂層(A)とともに、トップコート層(B)を備える形態のものであることがより好ましい。以下、「樹脂層(A)」と、表面処理層に好適に利用可能な「トップコート層(B)」を分けて説明する。
〈樹脂層(A)〉
樹脂層(A)は、シランカップリング剤を含む樹脂層であり、本発明においては、前記表面処理層に必須の層である。なお、このような樹脂層(A)は、前記表面処理層がトップコート層(B)を含む形態(好適な実施形態)である場合には、いわゆるベースコート層として利用することも可能である。
このような樹脂層(A)の形成に用いられるシランカップリング剤としては、特に限定されず、公知のシランカップリング剤を適宜利用することができる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤、アリル基含有シランカップリング剤、環状エーテル基含有シランカップリング剤、アミノ基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤、アルキル基含有シランカップリング剤、イソシアヌレート基含有シランカップリング剤が挙げられる。なお、ここにいう「(メタ)アクリロイル基」とは「アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基」をいう。
前記(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤としては、例えば、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
また、前記ビニル基含有シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
また、前記アリル基含有シランカップリング剤としては、例えば、アリルトリメトキシシラン等が挙げられる。
さらに、前記前記環状エーテル基含有シランカップリング剤としては、例えば、グリシドキシアルキルトリアルコキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、5,6-エポキシヘキシルトリメトキシシラン、5,6-エポキシヘキシルメチルジメトキシシラン、5,6-エポキシヘキシルメチルジエトキシシラン、5,6-エポキシヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。また、前記グリシドキシアルキルトリアルコキシシランにおいて、化合物中のグリシドキシアルキル部分のアルキル基の炭素数は2~10であることが好ましい。また、前記グリシドキシアルキルトリアルコキシシランにおいて、化合物中のアルコキシ基の炭素数は1~10であることが好ましい。また、このようなグリシドキシアルキルトリアルコキシシランとしては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
また、前記アミノ基含有シランカップリング剤としては、例えば、アミノアルキルトリアルコキシシラン、N-置換-アミノアルキルトリアルコキシシラン等が挙げられる。ここにおいて、前記アミノアルキルトリアルコキシシラン及び前記N-置換-アミノアルキルトリアルコキシシランはいずれも、アミノアルキル部分のアルキル基の炭素数が2~10のものが好ましい。また、前記アミノアルキルトリアルコキシシラン及び前記N-置換-アミノアルキルトリアルコキシシランはいずれも、化合物中のアルコキシ基の炭素数が1~10のものが好ましい。また、前記アミノアルキルトリアルコキシシランとしては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、前記N-置換-アミノアルキルトリアルコキシシランとしては、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(メチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-(メチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
前記メルカプト基含有シランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基及びアルコキシシリル基を有する化合物、トリエトキシシリルチオプロピルトリメトキシシラン等の加水分解によりメルカプト基を生じる官能基及びアルコキシシリル基を有する化合物;ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
前記アルキル基含有シランカップリング剤としては、例えば、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
また、イソシアヌレート基含有シランカップリング剤としては、例えば、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス-(トリメトキシシリルブチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
このようなシランカップリング剤としては、基材への密着性の観点からは、前記環状エーテル基含有シランカップリング剤、前記アミノ基含有シランカップリング剤が好ましく、中でも、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランがより好ましい。さらに、このようなシランカップリング剤としては、特に耐熱変形性及び耐油性を共により高い水準のものとすることが可能であるといった観点からは、前記環状エーテル基含有シランカップリング剤、前記(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤が好ましく、中でも、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。なお、このようなシランカップリング剤は、1種を単独で使用してもよく、あるいは、2種類以上を併用してもよい。
また、前記樹脂層(A)は、固形分の質量を基準として、シランカップリング剤を20~100質量%(より好ましくは50~100質量%、更に好ましくは70~100質量%)含有する層であることが好ましい。このようなシランカップリング剤の含有量を前記下限以上とした場合には、前記下限未満の場合と比較して耐熱性及び耐油性の点でより高い効果が得らえる傾向にある。
本発明にかかる樹脂層(A)は、その効果を損なわない範囲において、必要に応じて、シランカップリング剤以外にも、他の成分(添加剤)を適宜含有してもよい。このような他の成分(添加剤)としては、いわゆるベースコート層に利用することが可能な公知のものを適宜利用でき、特に制限されるものではないが、例えば、シランカップリング剤以外の樹脂成分(中でも、後述のトップコート層を形成するために利用されるような樹脂であって、後述の(a)有機ポリイソシアネートと、(b)ポリオールのみをモノマーとして利用したポリウレタン樹脂を含むものが、耐摩耗性と柔軟性の観点からより好ましい)、溶剤、着色剤(顔料、染料)、艶消し剤、架橋剤、平滑剤、界面活性剤、充填剤、レベリング剤、増粘剤等を挙げることができる。また、このような他の成分(添加剤)は、1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、前記樹脂層(A)が前記他の成分(添加剤)を含む場合、前記樹脂層(A)を構成する成分の固形分の質量を基準として、前記他の成分(添加剤)の総量が80質量%以下(より好ましくは20~60質量%)であることが好ましい。
前記樹脂層(A)の厚さは特に制限されないが、1~20μm(より好ましくは1~10μm)であることが好ましい。このような樹脂層の厚さが前記下限未満の場合には、十分な耐熱性及び耐油性が得られなくなる傾向にあり、他方、前記厚さが前記上限を超えると、合成樹脂レザーの風合いが硬くなってしまう傾向にある。
なお、このような樹脂層(A)を形成する方法は特に制限されないが、例えば、樹脂皮膜の表面上に樹脂層(A)を形成する場合には、シランカップリング剤を含む樹脂層形成用材料(例えば、シランカップリング剤を含有してなる処理液)を樹脂皮膜の表面上に塗布し、乾燥せしめることで製造してもよい。このような樹脂層形成用材料としては、シランカップリング剤を含むものであればよく、特に制限されないが、塗布工程をより効率よく実施することが可能となることから、溶媒(溶剤)を含有する形態のものであることが好ましい。このような溶媒としては、前記シランカップリング剤を溶解し得るものであればよく、特に制限されず、水性溶媒及び非水性溶媒のいずれのものであってもよい。このような溶媒(溶剤)としては、中でも、水と低級アルコールとの混合溶剤を用いることが好ましい。また、前記低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等の炭素数1~4の低級アルコールが挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を含有するものを好適に用いることができる。また、前記樹脂層形成用材料が溶媒を含む場合、その溶媒の含有量は0.1~80質量%であることが好ましい。また、このような樹脂層形成用材料には、シランカップリング剤以外に、目的の設計に応じて、前記他の成分(添加剤)を適宜含有していてもよい。
また、前記樹脂層形成用材料を塗布する方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、グラビアコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター等の各種コーターを用いて塗布する方法、前記樹脂層形成用材料を噴霧することで塗布する方法、被塗布物(前記樹脂皮膜)を前記樹脂層形成用材料に浸漬する方法、グラビアコーターによるダイレクトコート法、リバースコート法等の方法を適宜利用できる。
また、前記樹脂層形成用材料を塗布した後に乾燥する工程(乾燥工程)は、特に制限されるものではないが、例えば、40~160℃(より好ましくは80~130℃)の範囲内の温度で30秒~10分間(より好ましくは30秒~5分間)静置することにより乾燥(溶媒を除去)する工程とすることが好ましい。なお、このような乾燥工程を施した後に得られる前記樹脂層(前記樹脂層形成用材料の乾燥塗膜)は、その乾燥工程後に10~100℃の範囲内の温度で5~72時間のエージング処理を行うことが好ましい。
〈トップコート層〉
本発明においては、前述のように、表面処理層は、前記樹脂層(A)とともに、トップコート層(B)を備えることがより好ましい。
このようなトップコート層(B)としては、特に制限されず、樹脂皮膜(皮膜)の表面に形成させることが可能なトップコート層(樹脂層)として公知なものと同様の構成のものとしてもよいが、中でも、熱可塑性エラストマーを含む皮膜のトップコート層として公知の樹脂層と同様の構成のものを好適に利用できる。このように、前記トップコート層(B)は、樹脂皮膜(皮膜)の表面を保護する役割を主として担う層等として利用されている、合成樹脂レザーの分野において公知のトップコート層(樹脂層)と同様の構成としてもよい。このようなトップコート層(B)の形成に用いられる樹脂の種類は特に制限されるものではなく、合成樹脂レザーの分野において、トップコート層の主成分(ベース成分)として利用されている公知の樹脂を適宜利用可能である。このようなトップコート層の形成に用いられる樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂を好適に利用することができる。このようなトップコート層を形成するために利用する樹脂の種類は、熱可塑性エラストマーを含む樹脂皮膜の材質に応じて好適なものを適宜選択して利用すればよい。また、このようなトップコート層を形成するための樹脂は、目的とする設計に応じて、1種を単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。
また、前記トップコート層(B)をベースコート層としての前記樹脂層(A)の表面上に形成する場合、そのトップコート層(B)を形成するための樹脂としては、ベースコート層(樹脂層(A))とトップコート層(B)の密着性の更なる向上や、合成樹脂レザーの耐摩耗性と柔軟性の更なる向上の観点から、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂がより好ましい。なお、トップコート層(B)を、ポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む樹脂層とした場合には、最終的に得られる合成樹脂レザーに耐熱変形性及び耐油性を付与しながら、車両内装材、特には、車両内装表皮材に求められる水準の外観、耐摩耗性及び柔軟性を得ることが可能となる。なお、トップコート層(B)を、ポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む樹脂層とする場合、樹脂層中のポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂の総量(含有量)は、耐摩耗性と柔軟性の観点から、固形分の質量を基準として10~100質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましい。以下、トップコート層(B)を形成するための樹脂として好適な、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂を分けて説明する。
(ポリウレタン樹脂)
前記ポリウレタン樹脂としては特に制限はなく、例えば、少なくとも、有機ポリイソシアネート、ポリオール、並びに、アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン等を反応させることによって得られるポリウレタン樹脂が挙げられる。このようなポリウレタン樹脂の製造方法としては特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。また、本発明においては、水性及び溶剤系のいずれのポリウレタン樹脂も使用することができる。
また、前記ポリウレタン樹脂の中でも、合成樹脂レザーの耐摩耗性、耐屈曲性及び外観の向上の観点から、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、及び、(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物の反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物である、自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂が好ましい。なお、前記自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂における「水性」とは、自己乳化型のポリウレタン樹脂を水に乳化分散させて水中の樹脂分濃度が35質量%である乳化分散液を調製した後に、この乳化分散液を20℃で12時間静置しても分離や沈降が観察されないような状態とすることが可能であることを意味する。以下、このような「自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂」について説明する。
(a)有機ポリイソシアネート
前記(a)有機ポリイソシアネートとしては特に制限はなく、従来より一般に用いられている芳香族、脂肪族及び脂環式のポリイソシアネートが挙げられる。例えば、芳香族ポリイソシアネートとしては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。これらの有機ポリイソシアネートは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの有機ポリイソシアネートの中でも、得られる自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂が無黄変性のものとなるという観点から、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートが好ましく、耐熱性の観点から、脂環式ポリイソシアネートがより好ましい。
(b)ポリオール
前記(b)ポリオールとしては特に制限はなく、例えば、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等の従来公知の高分子ポリオール、従来公知の低分子量ジオール、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコール等が挙げられる。これらのポリオールは1種を単独で使用してもよくあるいは2種以上を併用してもよい。なお、本明細書においては、前記高分子ポリオール及び前記低分子ジオールをまとめて「(b1)ポリオール」といい、前記少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを「(b2)多価アルコール」という。前記(b1)ポリオールは、単独で使用しても前記(b2)多価アルコールと併用してもよい。また、前記(b2)多価アルコールは、前記(b1)ポリオールと併用することが好ましい。
前記ポリエーテル系ポリオールとしては特に制限はなく、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの重合物が挙げられる。このような重合物は1種類のアルキレンオキサイドの単独重合物であってもよいし、2種類以上のアルキレンオキサイドの共重合物であってもよい。共重合物である場合、ランダム重合物であっても、ブロック重合物であってもよい。また、このようなポリエーテル系ポリオールの分子量としては特に制限はないが、400~5000が好ましい。また、前記ポリエーテル系ポリオールとして、低分子量2価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加した化合物を使用することもできる。前記低分子量2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。
前記ポリエステル系ポリオールとしては特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、分子量300~1000のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン又はこれらのアルキレンオキサイド付加体等のジオール成分と、ダイマー酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビスフェノキシエタン-p,p’-ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物又はエステル形成性誘導体等のジカルボン酸成分との脱水縮合反応によって得られるポリエステル系ポリオール、ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応により得られるポリエステル系ポリオール、これらを共重合したポリエステル系ポリオール等が挙げられる。
前記ポリカーボネート系ポリオールとしては特に制限はなく、例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、ジエチレングリコール等のグリコールと、ジフェニルカーボネート、ホスゲン等との反応によって得られるポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。このようなポリカーボネート系ポリオールの重量平均分子量としては特に制限はないが、ポリカーボネート系ポリオールの取扱性や得られる合成樹脂レザーの耐屈曲性の観点から、500~3000が好ましく、800~2500がより好ましい。
前記低分子量ジオールとしては特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
前記(b2)多価アルコールとしては特に制限はなく、例えば、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の3価以上の低分子多価アルコールが挙げられる。また、このような3価以上の低分子多価アルコール又は低分子ポリアルキレンポリアミンに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加した分子量500以下の化合物等も前記(b2)多価アルコールとして使用することができる。前記低分子量ポリアルキレンポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。このような(b2)多価アルコールのうち、合成樹脂レザーの耐摩耗性と耐屈曲性の観点から、3~4価の(b2)多価アルコールが好ましく、3価の(b2)多価アルコールがより好ましい。
前記ポリウレタン樹脂において、前記(b2)多価アルコールを用いる場合、前記(b2)多価アルコールの割合としては、合成樹脂レザーの耐摩耗性と耐屈曲性の観点から、前記(b1)ポリオール、前記(b2)多価アルコール及び(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物の合計量に対して、0.1~1.5質量%が好ましく、0.3~1.1質量%がより好ましい。
(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物
前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物としては特に制限はなく、例えば、カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基等のアニオン性親水基とヒドロキシ基等の活性水素含有基2個以上とを有する化合物である。この(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物を共重合させることによって、自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂が得られる。前記(c)化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、ジヒドロキシマレイン酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。これらの(c)化合物は1種を単独で使用してもよくあるいは2種以上を併用してもよい。
また、得られる自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂において、前記アニオン性親水基の含有量としては、乳化安定性、貯蔵安定性及び合成樹脂レザーの耐屈曲性の観点から、0.3~3.0質量%が好ましく、0.5~2.5質量%がより好ましい。
(d)ポリアミン
前記(d)ポリアミンは1分子中にアミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有する化合物である。このような(d)ポリアミンとしては特に制限はなく、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ヒドラジン、2-メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボランジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン等のジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン等のポリアミン;ジ第一級アミン及びモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン;ジ第一級アミンのモノケチミン等の水溶性アミン誘導体;シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,1’-エチレンヒドラジン、1,1’-トリメチレンヒドラジン、1,1’-(1,4-ブチレン)ジヒドラジン等のヒドラジン誘導体が挙げられる。これらの(d)ポリアミンは1種を単独で使用してもよくあるいは2種以上を併用してもよい。また、このような(d)ポリアミンの使用量としては、後述するイソシアネート基末端プレポリマーの遊離イソシアネート基に対して、0.8~1.2当量のアミノ基等を含む量が好ましい。
(イソシアネート基末端プレポリマー)
前記イソシアネート基末端プレポリマーは、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物の反応生成物である。
このようなイソシアネート基末端プレポリマーの製造方法は特に制限はなく、例えば、従来公知の一段式のいわゆるワンショット法、多段式のイソシアネート重付加反応法が挙げられる。反応温度としては40~150℃が好ましい。この際、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジ-2-エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルホリン、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)等の反応触媒、あるいは燐酸、燐酸水素ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加してもよい。
また、反応中又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶剤を添加してもよい。このような有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、塩化メチレン等が挙げられる。これらの有機溶剤のうち、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチルが特に好ましい。また、これらの有機溶剤は、プレポリマーの乳化分散及び鎖伸長後、加熱減圧することによって除去することができる。
イソシアネート基末端プレポリマーの製造に際しては、原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比(NCO/OH)が、2.0/1.0~1.1/1.0であることが好ましく、1.7/1.0~1.25/1.0であることがより好ましい。原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比を前記範囲内に調整することによって、所望の遊離イソシアネート基含有量を有するイソシアネート基末端プレポリマーを得ることができる。一方、原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比が前記下限未満になると、遊離イソシアネート基の含有量が低下し過ぎる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、遊離イソシアネート基の含有量が増大し過ぎる傾向にある。
このようにして得られるイソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基の含有量としては、0.2~3.0質量%が好ましい。前記遊離イソシアネート基含有量が前記下限未満になると、製造時のイソシアネート基末端プレポリマーの粘度が著しく上昇する傾向にあり、多量の有機溶剤が必要となり、コスト的に不利となったり、乳化分散が困難となる傾向にある。他方、前記遊離イソシアネート基含有量が前記上限を超えると、乳化分散後と(d)ポリアミンによる鎖伸長後の水溶性のバランスが大きく変化する傾向にあり、水性ポリウレタン樹脂の経時貯蔵安定性又は加工安定性が低下する場合がある。また、合成樹脂レザーの耐屈曲性が低下するおそれがある。
なお、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、及び前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物は、いずれも反応点が複数存在するものであり、このような(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール及び(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物を反応させることによって得られる前記イソシアネート基末端プレポリマーは、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
(イソシアネート基末端プレポリマーの中和物)
前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、前記イソシアネート基末端プレポリマー中のアニオン性親水基が中和されたものである。このようなイソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、(i)前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物を反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマー中のアニオン性親水基を公知の方法で中和することによって製造してもよいし、(ii)前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物を混合した後、前記(c)化合物中のアニオン性親水基を公知の方法で中和し、次いで、この中和した前記(c)化合物、前記(a)有機ポリイソシアネート及び前記(b)ポリオールを反応させることによって製造してもよい。また、前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、(iii)前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記アニオン性親水基がアニオン性親水基の塩である前記(c)化合物を反応させることによって製造することもできる。
前記(i)及び(ii)の製造方法において、アニオン性親水基の中和に用いられる塩基性化合物としては特に制限はなく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチル-ジエタノールアミン、N,N-ジメチルモノエタノールアミン、N,N-ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア等が挙げられる。これらの中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン類が特に好ましい。
前記(i)及び(ii)の製造方法におけるアニオン性親水基の中和に際して、前記中和用塩基性化合物の使用量としては、アニオン性親水基に対して、0.5~1.5当量が好ましく、0.6~1.4当量がより好ましく、0.7~1.3当量が特に好ましい。前記中和用塩基性化合物の使用量が前記下限未満になると、水性ポリウレタン樹脂の乳化性及び保存安定性が低下する傾向にある。他方、前記上限を超える量の前記中和用塩基性化合物を添加しても、水性ポリウレタン樹脂の乳化性や保存安定性がそれ以上向上しないため、経済的に好ましくない。
(水性ポリウレタン樹脂)
前記自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂は、前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、前記(d)ポリアミンを用いて鎖伸長させたもの(鎖伸長物)である。
前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の鎖伸長に際しては、先ず、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物を水に乳化分散させる。乳化分散の方法としては特に制限はなく、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー等を用いた従来公知の方法が挙げられる。前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物は、特に乳化剤を添加しなくても、0~40℃の範囲内の温度で水に乳化分散させることが可能である。これにより、イソシアネート基と水との反応を抑制することができる。また、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物を乳化分散させる際には、必要に応じて、燐酸、燐酸二水素ナトリウム、燐酸水素二ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加してもよい。
次に、このようにして水に乳化分散させた前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物を、前記(d)ポリアミンを用いて鎖伸長させることにより、前記自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂が形成される。このような鎖伸長の方法としては特に制限はないが、例えば、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の乳化分散物に前記(d)ポリアミンを添加して鎖伸長する方法、或いは、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の乳化分散物を前記(d)ポリアミンに添加して鎖伸長する方法が好ましい。前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物とアミンとの反応は、20~50℃の反応温度で、通常、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物と前記(d)ポリアミンとの混合後、30~120分間で完結する。
このような鎖伸長は、前記乳化分散と同時に行ってもよいし、前記乳化分散の後に行ってもよいし、前記乳化分散の前に行ってもよい。また、得られた水性ポリウレタン樹脂に有機溶剤が含まれる場合には、減圧下、30~80℃の温度で前記有機溶剤を除去することが好ましい。
なお、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物と同様に、前記(d)ポリアミンも反応点が複数存在するものであり、このような(d)ポリアミンを用いて前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を鎖伸長させることにより得られる前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の鎖伸長物(自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂)も、前記イソシアネート基末端プレポリマーと同様に、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
このようにして得られた前記自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂は、水に乳化分散させた状態で、トップコート層(B)の形成用の材料として使用することが好ましい。また、このように、水に乳化分散させた状態の自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂をトップコート層(B)の形成用の材料として使用する場合には、その樹脂分濃度は特に制限されないが、20~60質量%であることが好ましい。なお、このような自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂の水乳化分散物における樹脂分濃度は、水を追加又は除去することによって調整することができる。
以上、前記ポリウレタン樹脂として好適な「自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂」について説明したが、トップコート層(B)に利用可能なポリウレタン樹脂は、前記自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂に限定されるものではなく、トップコート層に利用可能な公知のポリウレタン樹脂を適宜利用してもよい。このような自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂以外のポリウレタン樹脂としては、例えば、耐摩耗性の観点からは、前記イソシアネート基と反応しない有機溶剤の存在下、前記(a)有機ポリイソシアネートと、前記(b)ポリオールを反応せしめることにより得られるポリウレタン樹脂((a)有機ポリイソシアネートと、(b)ポリオールのみをモノマーとして利用したポリウレタン樹脂)を好適に利用できる。このようなポリウレタン樹脂を得るための反応は、利用する成分に応じて公知のポリウレタン樹脂の製法で利用されている反応条件を適宜採用して進めることができ、例えば、前記反応触媒を利用して反応を進行せしめてもよい。また、前記(a)有機ポリイソシアネートと、前記(b)ポリオールと反応せしめることにより得られるポリウレタン樹脂は、そのポリウレタン樹脂と、前記イソシアネート基と反応しない有機溶剤との混合物(ウレタン樹脂組成物)の状態でトップコート層(B)の形成用の材料として利用してもよい。このように、有機溶剤との混合物の状態で前記ポリウレタン樹脂をトップコート層(B)の形成用の材料として使用する場合には、その樹脂分濃度は特に制限されないが、20~60質量%であることが好ましい。なお、このような有機溶剤との混合物中の樹脂分濃度は、有機溶剤を追加又は除去することによって調整することができ、ポリウレタン樹脂の製造時に利用した有機溶剤をそのまま利用したり、反応終了後に更に有機溶剤を添加すること等によって調整してもよい。
(アクリル系樹脂)
前記トップコート層(B)を形成するための樹脂として好適な前記アクリル系樹脂としては、アクリル系モノマーの単独重合体及び共重合体が挙げられる。前記アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸及びその誘導体が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸又はメタクリル酸を表す。また、これらのアクリル系モノマーは1種を単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。
前記アクリル系樹脂に用いられる共重合モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸アミド等のアクリルアミド類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド等のビニル化合物;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらの共重合モノマーは1種を単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。
前記アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、-40℃~+50℃が好ましく、-20℃~+30℃がより好ましく、-10℃~+20℃が最も好ましい。アクリル系樹脂のTgが前記下限未満になると、合成樹脂レザーの耐摩耗性及び防汚性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、合成樹脂レザーの耐摩耗性及び防汚性能は向上する傾向にあるものの、耐屈曲性が低下する傾向にある。
また、前記アクリル系樹脂としては、市販のアクリル系樹脂を用いることもできる。このような市販のアクリル系樹脂としては、例えば、サイビノールEC-065(Tg=5℃)、サイビノールEC-071(Tg=-20℃)、サイビノールEC-064(Tg=-40℃)、サイビノールUC-6600(Tg=50℃)、サイビノールEC-2020(Tg=17℃)(以上、サイデン化学株式会社製)、DURAFLEX 84S(Tg=0℃)、ORGAL P036V(Tg=0℃)、ORGAL D55HC(Tg=-3℃)、ORGAL DCS80(Tg=-16℃)(以上、ORGANIK KIMYA社製)、トークリルBCX-8111(Tg=-30℃)、トークリルW-168(Tg=-10℃)、トークリルX-4403(Tg=-7℃)、トークリルW463(Tg=11℃)、トークリルBCX-1160R-2(Tg=12℃)、トークリルBCX-8104(Tg=29℃)、トークリルX-4402(Tg=35℃)(以上、トーヨーケム株式会社製)等が挙げられる。
以上、前記トップコート層(B)の形成に用いられる樹脂として好適なポリウレタン樹脂及びアクリル樹脂について説明したが、本発明にかかるトップコート層(B)には、本発明の効果を損なわない範囲で、前述のポリウレタン樹脂及びアクリル樹脂以外の他の樹脂成分を適宜含有させてもよい。なお、このような他の樹脂成分を含有させる際には、例えば、前述の自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂の水乳化分散物や、ポリウレタン樹脂と有機溶剤との混合物等の、ポリウレタン樹脂及びアクリル樹脂のうちの少なくとも1種の樹脂を含む組成物に対して、他の樹脂成分の水分散液(例えば、酢酸ビニル系、エチレン酢酸ビニル系、アクリル系等のエマルジョン;スチレン・ブタジエン系、アクリロニトリル・ブタジエン系等のラテックス;ポリエチレン系、ポリオレフィン系等のアイオノマー、ポリエステル、ポリアミド、エポキシ系樹脂等)を混合したものを、トップコート層(B)の形成用の材料として利用してもよい。
また、前記トップコート層(B)には、トップコート層の物性を損なわない範囲で、かつ、本発明の目的、性能を損なわない範囲において、必要に応じて、前記樹脂以外の他の成分を含有させてもよい。このような樹脂以外の他の成分(添加剤)としては、合成樹脂レザーの分野において用いられる公知の添加剤を適宜利用でき、特に制限されないが、例えば、艶消し剤、平滑剤、架橋剤、防汚剤、各種界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、粘弾性調整剤、湿潤剤、分散剤、防腐剤、膜形成剤、可塑剤、浸透剤、香料、殺菌剤、殺ダニ剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料等を挙げることができる。なお、このような各種成分(添加剤)には、トップコート層の製造時に利用する「トップコート層(B)の形成用の材料」の加工性の向上等を目的とした成分も含まれる。このような他の成分(添加剤)としては、目的に応じて、1種単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、前記トップコート層(B)に利用可能な他の成分(添加剤)の中でも、合成樹脂レザー表面の艶感・光沢を調整するといった観点からは、艶消し剤を好適に利用し得る。このような艶消し剤としては、例えば、有機ビーズ、シリカ粒子、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、アルミナシリケート、カオリン、雲母、及びマイカ等が挙げられる。これらの艶消し剤は1種を単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。
また、前記有機ビーズとしては、例えば、ウレタンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、オレフィンビーズ、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等が挙げられる。また、前記シリカ粒子としては、乾式シリカ、湿式シリカ等が挙げられ、中でも、散乱効果が高く、グロス値の調整を少量で行うことができるという観点から、乾式シリカが好ましい。乾式シリカの平均粒子径(平均二次粒子径)としては、4~15μmが好ましく、5~12μmがより好ましい。
このような艶消し剤の含有量は、目的とする合成樹脂レザー表面の外観(艶感・光沢)の向上を図るといった観点から、樹脂の種類等に応じて適宜変更可能なものではあるが、通常、外観の観点からは、前記トップコート層(B)の形成に用いられる樹脂100質量部に対して、1~150質量部(より好ましくは5~120質量部、更に好ましくは7~100質量部)であることが好ましい。
また、前記トップコート層(B)の形成用の材料には、合成樹脂レザー表面の平滑性及び耐摩耗性をより向上させるといった観点から、前記平滑剤を配合することが好ましい。このような平滑剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、ハイドロジェン変性シリコーン、ビニル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、ハロゲン化変性シリコーン、メタクリロキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、フェニル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。これらの平滑剤は1種を単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。また、これらの平滑剤の中でも、耐摩耗性の向上効果が大きいという観点からは、ポリジメチルシリコーン及びエポキシ変性シリコーンがより好ましい。
また、このような平滑剤としては、市販のものを用いることができる。前記ポリジメチルシリコーンの乳化物の市販品としては、例えば、DOWSIL SM490EX、DOWSIL SM-8706EX、DOWSIL IE-7046T、DOWSIL FBL-3289、DOWSIL Q2-3238(以上、ダウ・東レ株式会社製)、KM-752T、KM-862T、KM-9737A、POLON MF-33(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。また、前記エポキシ変性シリコーンの乳化物の市販品としては、例えば、DOWSIL SM-8701(ダウ・東レ株式会社製)、POLON MF-18T、X-51-1264(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
このような平滑剤の含有量(不揮発分の含有量)は、目的とする合成樹脂レザーの設計に応じて、表面の平滑性及び耐摩耗性の向上を図るといった観点から、樹脂の種類等に応じて適宜変更可能なものではあるが、通常、前記トップコート層(B)の形成に用いられる樹脂100質量部に対して、1~150質量部(より好ましくは5~120質量部、更に好ましくは7~100質量部)であることが好ましい。
また、前記トップコート層(B)の形成用の材料には、トップコート層(B)の製造時の加工性向上のために粘度を調製するといった観点から、増粘剤を配合することが好ましい。このような増粘剤としては、例えば、アルカリ増粘型アクリル樹脂、会合型増粘剤、水溶性有機高分子等が挙げられる。これらの増粘剤は1種を単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。
また、前記アルカリ増粘型アクリル樹脂としては、市販のものを用いてもよい。前記アルカリ増粘型アクリル樹脂の市販品としては、例えば、ニカゾールVT-253A(日本カーバイド工業株式会社製)、アロンA-20P、アロンA-7150、アロンA-7070、アロンB-300、アロンB-300K、アロンB-500(以上、東亞合成株式会社製)、ジュリマーAC-10LHP、ジュリマーAC-10SHP、レオジック835H、ジュンロンPW-110、ジュンロンPW-150(以上、日本純薬株式会社製)、プライマルASE-60、プライマルTT-615、プライマルRM-5(以上、ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製)、SNシックナーA-818、SNシックナーA-850(以上、サンノプコ株式会社製)、パラガム500(パラケム・サザン株式会社製)、レオレート430(エレメンティス・ジャパン株式会社製)、ネオステッカーV-420(日華化学株式会社製)等が挙げられる。このようなアルカリ増粘型アクリル樹脂は、通常、樹脂の乳化分散物として市販されており、乳化分散させた状態のままでトップコート層(B)の形成用の材料に添加することにより使用することが好ましい。
また、前記会合型増粘剤としても、市販のものを用いてもよい。前記会合型増粘剤の市販品としては、例えば、アデカノールUH-450、アデカノールUH-540、アデカノールUH-752(以上、旭電化工業株式会社製)、SNシックナー601、SNシックナー612、SNシックナー621N、SNシックナー623N、SNシックナー660T(以上、サンノプコ株式会社製)、レオレート244、レオレート278、レオレート300(以上、エレメンティス・ジャパン株式会社製)、DKシックナーSCT-275(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
前記水溶性有機高分子としては、例えば、天然水溶性有機高分子、半合成水溶性有機高分子、合成水溶性有機高分子が挙げられる。前記天然水溶性有機高分子としては、ばれいしょデンプン、かんしょデンプン、小麦デンプン、米デンプン、タピオカデンプン、コーンスターチ等のデンプン類;アラビアガム、トラガカントガム、カラヤガム、トロロアオイ等の樹脂多糖類;アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、寒天(ガラクタン)、ふのり等の海藻多糖類;キサンタンガム、プルラン、カードラン、デキストリン、レバン等の微生物発酵多糖類;カゼイン、ゼラチン、アラブミン、にかわ、コラーゲン等のタンパク質;ペクチン、キチン、キトサン等が挙げられる。
前記半合成水溶性有機高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロース硫酸エステルナトリウム等のセルロース誘導体;デキストリン、可溶性デンプン、酸化デンプン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ジアルデヒドデンプン、リン酸デンプン、アセチルデンプン等のデンプン誘導体;アルギン酸プロピレングリコールエステル等が挙げられる。
前記合成水溶性有機高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルキルエーテル、無水マレイン酸共重合体、マレイン酸共重合体、マレイン酸塩共重合体等が挙げられる。
このような増粘剤の含有量(不揮発分の含有量)は、トップコート層(B)の形成用の材料の粘度に応じて加工性の観点等から適量を用いればよいが、通常、前記トップコート層(B)の形成に用いられる樹脂100質量部に対して0.5~40質量部(より好ましくは1~30質量部、更に好ましくは2~20質量部)であることが好ましい。
また、前記トップコート層(B)の形成用の材料には、合成樹脂レザーの耐久性を向上させるといった観点から、架橋剤を配合してもよい。このような架橋剤としては、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ブロックイソシアネート系架橋剤、水分散イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤等が挙げられる。これらの架橋剤は1種を単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。また、これらの架橋剤の中でも、風合い、加工液の安定性の観点から、カルボジイミド系架橋剤を配合することが特に好ましい。
このような架橋剤としては、市販のものを用いることができる。前記カルボジイミド系架橋剤の市販品としては、例えば、カルボジライトE-02、カルボジライトSV-02、カルボジライトV02-L2、カルボジライトV-10(以上、日清紡ケミカル株式会社製)、NKアシストCI-02(日華化学株式会社製)等が挙げられる。
このような架橋剤の含有量(不揮発分の含有量)は、合成樹脂レザーの耐摩耗性及び耐屈曲性の向上の観点から、前記トップコート層(B)の形成に用いられる樹脂100質量部に対して、1~15質量部(より好ましくは2~10質量部)であることが好ましい。
また、前記トップコート層(B)の厚さは、1~40μm(より好ましくは5~15μm)であることが好ましい。前記トップコート層(B)の厚さが1μm未満であると、十分な耐摩耗性が得られなくなる傾向にあり、他方、厚さが40μmを超えると、風合いが硬くなってしまう傾向にある。
なお、このようなトップコート層(B)を形成する方法は特に制限されないが、例えば、トップコート層(B)の形成用の材料(好ましくはトップコート層(B)形成用の樹脂を含む処理液)を、ベースコート層(好ましくは前記樹脂層(A))上に塗布し、乾燥せしめることで製造してもよい。
このようなトップコート層(B)の形成用の材料は、トップコート層(B)を形成するための樹脂を含むものであればよく、特に制限されないが、塗布工程をより効率よく実施することが可能となることから、溶媒(溶剤)を含有する形態(トップコート層(B)形成用の樹脂組成物:トップコート層(B)形成用の樹脂を含む処理液)であることが好ましい。このような溶媒としては、特に制限されず、水性溶媒及び非水性溶媒のいずれのものであってもよい。このような溶媒(溶剤)としては、中でも、水と低級アルコールとの混合溶剤を用いることが好ましい。また、前記低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等の炭素数1~4の低級アルコールが挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を含有するものを好適に用いることができる。また、前記トップコート層(B)の形成用の材料が溶媒を含む場合、その溶媒の含有量は50~90質量%であることが好ましい。また、このようなトップコート層(B)の形成用の材料には、目的の設計に応じて、前述の他の成分(添加剤)や他の樹脂成分を適宜含有させてもよい。
また、前記トップコート層(B)の形成用の材料(好ましくは処理液)を塗布する方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、グラビアコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター等の各種コーターを用いて塗布する方法、前記樹脂層形成用材料を噴霧することで塗布する方法、被塗布物(樹脂皮膜等)を前記樹脂層形成用材料に浸漬する方法、グラビアコーターによるダイレクトコート法、リバースコート法等の方法を適宜利用できる。
また、前記トップコート層(B)の形成用の材料(好ましくは処理液)を塗布した後に乾燥する工程(乾燥工程)は、特に制限されるものではないが、例えば、40~160℃(より好ましくは80~130℃)の範囲内の温度で30秒~10分間(より好ましくは30秒~5分間)静置することにより乾燥(溶媒を除去)する工程とすることが好ましい。なお、このような乾燥工程を施した後に得られる前記トップコート層(B)(前記トップコート層(B)の形成用の材料の乾燥塗膜)は、その乾燥工程後に10~100℃の範囲内の温度で5~72時間のエージング処理を行うことが好ましい。
〔合成樹脂レザーの構成等〕
本発明の合成樹脂レザーは、前記熱可塑性エラストマーを含有する樹脂皮膜と、前記樹脂皮膜の表面上に形成された表面処理層とを備え、かつ、前記表面処理層がシランカップリング剤を含む樹脂層(A)を備えるものであればよく、合成樹脂レザーに利用可能な公知の他の層等を適宜有していてもよい。このような他の層としては、特に制限されず、合成樹脂レザーの分野において利用することが可能なものであれば適宜利用でき、例えば、合成樹脂レザーに利用可能な繊維基材からなる層や接着層等が挙げられる。
以下、図面を参照しながら、本発明の合成樹脂レザーの好適な実施形態について説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の合成樹脂レザーの好適な一実施形態を模式的に示す模式図である。図1に示す合成樹脂レザー1は、樹脂皮膜(樹脂シート)11と、樹脂皮膜11の表面上に積層された、最外層としての表面処理層12と、樹脂皮膜11の裏面側に接着層13を介して積層された樹脂基材14とを備える。このように、図1に示す合成樹脂レザー1は、繊維基材14と、繊維基材14の表面上に積層された接着層13と、接着層13上に積層された樹脂皮膜11と、樹脂皮膜11の表面上に積層された表面処理層12とを備える積層構造を有する。
図1に示す合成樹脂レザー1において、樹脂皮膜11は、発泡層11aと、発泡層11aの表面上に積層された非発泡層11bとを備える2層構造のものである。このような樹脂皮膜11を構成する発泡層11a及び非発泡層11bとしては、前述の樹脂皮膜において説明した各層をそれぞれ利用している。
また、図1に示す合成樹脂レザー1において、表面処理層12は、ベースコート層12aと、ベースコート層12aの表面上に積層されたトップコート層12bとを備える2層構造のものである。このような表面処理層12を構成するベースコート層12としては、前述の樹脂層(A)を利用し、トップコート層12bとしては、前述のトップコート層(B)を利用している。このように、本実施形態の合成樹脂レザー1においては、前記樹脂層(A)は、トップコート層(B)のためのベースコート層(下地層)として利用しており、表面処理層12は前記樹脂層(A)を備える形態のものとなっている。
また、図1に示す実施形態の合成樹脂レザー1が備える接着層13は、樹脂皮膜11を構成させる樹脂のシート(発泡層11a及び非発泡層11bの積層シート)と、繊維基材14の両者間に設けられた層であり、両者を接着するために利用されている。このような接着層13を形成するための接着剤としては、特に制限されず、合成樹脂レザーの分野において、樹脂基材と皮膜とを接着させるために利用可能な公知のものを適宜利用できる。また、このような接着剤としては、例えば、ホットメルト接着剤、アクリル系接着剤、二液型ポリウレタン接着剤、エチレン-酢酸ビニル共重合体系エマルジョン、ポリ塩化ビニルペーストなどが挙げられる。なお、このような接着剤としては、合成樹脂レザーの柔軟性を十分に維持することが可能であるといった観点から、二液型ポリウレタン接着剤が好ましい。なお、接着層13は、繊維基材14上に塗布して形成してもよく、あるいは、樹脂皮膜11を構成させる樹脂のシート上に塗布して形成してもよい。このような接着層13の厚さは特に制限されず、合成樹脂レザーの柔軟性の観点からは、50~250μm程度であることが好ましい。
また、図1に示す実施形態の合成樹脂レザー1が備える繊維基材14としては、特に制限されず、合成樹脂レザーに利用可能な繊維基材であればよく、公知のものを適宜利用できる。このような繊維基材としては、例えば、編地、織物、不織布などの布やそれ類似した材料等をあげることができる。このような繊維基材としては、レザーライク性を付与するといった観点からは、編地(例えば天竺編み、スムース編みなどのメリヤス編)を用いることが好ましく、中でも、捲縮加工等により伸縮性が付与された糸を用いた編布が特に好ましい。なお、このような繊維基材としてポリエステルのみからなる編布を利用する場合、ポリエステルが硬いことから、捲縮加工により伸縮性を増した編布として利用することが好ましい。また、前記繊維基材が織物や不織布の場合には、織物を構成する糸、及び、不織布を構成する短繊維(ステープル)として、例えば、捲縮加工などにより伸縮特性が付与されたものを用いたり、短繊維から糸を作る際に弾性が付与される加工をした糸を使用する等して、その布(前記織物や前記不織布)に柔軟性を持たせることが好ましい。また、繊維基材14の製造方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。なお、このような繊維基材14としては市販のものを用いてもよい。また、このような合成樹脂レザー1に利用する繊維基材14の厚さは、目的とする合成樹脂レザーの設計によっても異なるものであり、特に制限されるものではないが、加工品の強度、伸縮性の観点からは、300~1000μm程度であることが好ましい。なお、以下において、繊維基材14と樹脂皮膜11とが積層された積層体を、便宜上、「繊維積層体20」と称する。
図1に示す実施形態の合成樹脂レザー1の製造方法としては、特に制限されないが、熱可塑性エラストマーを含む発泡層11aと、熱可塑性エラストマーを含む非発泡層11bとが積層されてなる皮膜用樹脂シート(樹脂皮膜11を形成する積層シート)を成型する皮膜用樹脂シート成形工程と、前記皮膜用樹脂シートの裏面側に繊維基材14を接着して、繊維基材14と樹脂皮膜11(皮膜用樹脂シート)とが積層された繊維積層体20を製造する工程(基材接着工程)と、繊維積層体20の樹脂皮膜11の表面(樹脂皮膜11の繊維基材側とは反対側の面の表面)に表面処理層13を形成する表面処理層形成工程とを含む方法を好適に利用することができる。以下、このような各工程を分けて説明する。
〈皮膜用樹脂シートの形成工程〉
皮膜成形工程は特に制限されず、前述の樹脂皮膜を形成する方法を利用することができる。例えば、熱可塑性エラストマーを含む非発泡層用の樹脂シート及び熱可塑性エラストマーを含む発泡層用の樹脂シートをそれぞれ公知の方法(カレンダー成形、押し出し成形等)で適宜製造すればよい。なお、非発泡層用の樹脂シートと発泡層用の樹脂シートとを積層させて皮膜(樹脂皮膜)とする工程は、繊維積層体20を製造する工程において併せて行ってもよい。
〈繊維積層体20を製造する工程(基材接着工程)〉
基材接着工程は、特に制限されないが、例えば、繊維基材14の一方の面側に接着剤を塗布して接着層13を形成せしめた後に、その接着層13の表面上に皮膜用樹脂シートを配置して接着する工程としてもよく、あるいは、皮膜用樹脂シートの裏面側に接着剤を塗布して接着層13を形成せしめた後に、その接着層13の表面上に繊維基材14を配置して接着する工程としてもよい。このような接着剤の塗布方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。また、樹脂皮膜11を図1に示す合成樹脂レザーのように多層構造のものとする場合、繊維積層体20を製造する際に、繊維基材14と樹脂皮膜11とを接着剤を介して接着する際に、併せて、樹脂皮膜11を構成させる複数の樹脂シート同士を加圧により張り合わせてもよい。この場合、例えば、繊維基材14の一方の面側に接着剤を塗布して接着層13を形成せしめた後に、接着層13上に発泡層用の樹脂シートを配置し、更に、その発泡層用の樹脂シート上に非発泡層用の樹脂シートを配置させた後、加圧してこれらを接着(発泡層用の樹脂シートと非発泡層用の樹脂シートは圧着)させる方法を採用できる。また、このような方法を採用する場合、加圧の前に加熱して、発泡層用の樹脂シートを発泡させてもよい。なお、発泡層用の樹脂シートと非発泡層用の樹脂シートは、皮膜用樹脂シートの形成工程において、予め加熱と加圧を行って積層状態としておいて、繊維積層体20を製造する工程に利用してもよい。
〈表面処理層形成工程〉
表面処理層形成工程は特に制限されず、その表面処理層の構成に応じて、ベースコート層12aとしての前記樹脂層(A)と、前記樹脂層(A)の表面上に積層されたトップコート層12b(トップコート層(B))とを製造することが可能な公知の方法を適宜採用できる。このような表面処理層形成工程としては、例えば、前述の樹脂層(A)を形成する方法を採用して、繊維積層体20の樹脂皮膜11の表面上に前記樹脂層(A)を形成した後、前記樹脂層(A)の表面上に、前述のトップコート層(B)を形成する方法を採用してトップコート層(B)を形成することにより、表面処理層を形成する方法を好適に採用することができる。すなわち、繊維積層体20の樹脂皮膜11の表面上に、前記シランカップリング剤を含む樹脂層形成用材料(例えば、シランカップリング剤を含有してなる処理液)を塗布し、乾燥してベースコート層12aとしての前記樹脂層(A)を形成した後、前記樹脂層(A)の表面上に、前記トップコート層(B)の形成用の材料(好ましくはトップコート層(B)形成用の樹脂を含む処理液)を塗布し、乾燥してトップコート層12bとしてのトップコート層(B)を形成する方法を、表面処理層形成工程として好適に採用することができる。なお、このような塗布や乾燥の工程は、前述の樹脂層(A)を形成する方法及び前述のトップコート層(B)を形成する方法において説明した工程と同様の工程を採用することが好ましい。なお、前記皮膜用樹脂シートの形成工程、前記繊維積層体20を製造する工程、及び、表面処理層形成工程のいずれかの工程において、必要に応じて、発泡工程や絞付け工程を適宜実施してもよい。このような発泡工程や絞付け工程としては、合成樹脂レザーの分野において公知の方法を適宜採用できる。
このようにして、前記皮膜用樹脂シートの形成工程、前記繊維積層体20を製造する工程、及び、表面処理層形成工程を順次施すことで、図1に示す実施形態の合成樹脂レザーを製造することができる。
以上、図1を参照して、本発明の合成樹脂レザーの好適な実施形態について説明したが、本発明の合成樹脂レザーは上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図1に示す合成樹脂レザーにおいては、樹脂層(A)は1層構造のものであるが、本発明において、樹脂層(A)の層構成は特に制限されず、1層構造のものであっても、2層以上の多層構造のものであってもよい。また、図1に示す合成樹脂レザーにおいては、前記樹脂皮膜11が2層構造のものとなっているが、本発明において樹脂皮膜の構造は2層構造のものに限定されるものではなく、1層構造のものであっても、2層以上の多層構造のもの(複数の樹脂層からなるもの)であってもよく、合成樹脂レザーの皮膜として利用することが可能な公知の樹脂皮膜において採用されている構成(層構造)を適宜利用できる。また、樹脂皮膜における各層の積層順序も特に制限されず、目的の設計に応じて適宜設計を変更可能である。
また、本発明の合成樹脂レザーとしては、前記樹脂層(A)が前記樹脂皮膜の表面上に積層(前記樹脂皮膜の表面上に接着層を介して又は接着層を介さずに積層)され、かつ、前記表面処理層が、前記樹脂層(A)の前記樹脂皮膜側の面とは反対側の面上に積層されたトップコート層(B)を更に備えることが好ましく、図1に示す合成樹脂レザーは、そのような構成を有しているが、積層構造は前記構造に限定されるものではなく、前記樹脂層(A)は前記樹脂皮膜の表面上に直接積層していなくてもよく、例えば、前記樹脂皮膜の表面上に、必要に応じて、シランカップリング剤を含まない別の樹脂からなる層(1層であっても多層であってもよい)を設け、その別の樹脂からなる層上に前記樹脂層(A)を積層させてもよい。
また、図1に示す合成樹脂レザーにおいては、接着層13を介して、前記樹脂皮膜11と繊維基材14を接着させているが、本発明においては、接着層を利用していなくてもよく、接着層を介さずに、繊維基材14の表面上に、直接、前記樹脂皮膜を積層させてもよい。このように、接着層を介さずに、繊維基材13の表面上に、直接、前記樹脂皮膜11を積層させる方法(直接、繊維基材13と表面処理層11を一体化する方法)としては、特に制限されず、公知の方法を適宜利用でき、例えば、樹脂皮膜11を形成するための樹脂シートと、繊維基材13とを熱カレンダーロールなどで圧着させる方法、繊維基材13に非発泡層形成用の樹脂シートを乾燥させずに貼り合わせる方法(ウェットラミ)、非発泡層形成用の樹脂シートを予備乾燥してから繊維基材13に貼り合わせる方法(ドライラミ)等を適宜採用できる。なお、樹脂皮膜11を一層の樹脂シートからなる構成のものとする場合においても同様の方法を適宜採用できる。
このような本発明の合成樹脂レザーは、流動パラフィンに対する耐油性と、耐熱変形性とを共に優れたものとすることが可能なものであることから、自動車内装材の用途の使用環境等において求められる特性を満足するものとすることができるため、特に、インストルメントパネル、ドア表皮材、天井、座席シート等の自動車の内装材(より好ましくは車両内装表皮材)の用途に好適に応用可能である。なお、本発明の合成樹脂レザーは、流動パラフィンや高温に晒される条件においても変形等を十分に抑制できるものであることから、高品位の皮革製品として長期に亘って利用することも可能となり、自動車内装材の他、例えば、家具、衣料、鞄、靴、袋物、雑貨等の各種産業分野においても好適に利用することができる。なお、このような合成樹脂レザーを用いた製品としては、例えば、車両用内装材、オートバイのシートやグリップ、靴、カバン、衣料、サニタリー用品、屋外用テント、家具等が挙げられる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔各実施例等で利用したポリウレタン樹脂の合成方法について〕
先ず、各実施例等で利用したポリウレタン樹脂の合成方法を説明する。なお、ポリウレタン樹脂の合成に際して、ウレタンポリマーの遊離イソシアネート基含有量としては、以下の算出方法で求めた値を採用した。
〈遊離イソシアネート基含有量の算出方法〉
遊離イソシアネート基含有量(NCO量:質量%)は、後述の各合成例において得られたウレタンプレポリマー0.3gを三角フラスコに採取し、0.1N(規定)のジブチルアミントルエン溶液10mlを加えてウレタンプレポリマーを溶解させて溶液を得た後、ブロモフェノールブルー液を数滴加え、0.1N(規定)の塩酸メタノール溶液で滴定して、下記式:
[遊離イソシアネート基含有量(質量%)]=(a-b)×0.42×f/x
(前記式中、aは0.1Nのジブチルアミントルエン溶液10mlのみを滴定した場合の0.1Nの塩酸メタノール液の滴定量を示し、bはウレタンプレポリマーを溶解させた溶液を滴定した場合の0.1Nの塩酸メタノール液の滴定量を示し、fは0.1Nの塩酸メタノール液のファクターを示し、xはウレタンプレポリマーの使用量(0.3g)を示す。)
を計算することにより求めた。
(合成例1:ポリウレタン樹脂の水分散液(PUD-1)の合成)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名「デュラノールT5652」、平均分子量2,000)71.7質量部、トリメチロールプロパン0.4質量部、ジメチロールプロピオン酸3.1質量部及びメチルエチルケトン32.9質量部を仕込み、これらを均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート23.5質量部及びビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.03質量部を加え、80℃で240分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.28質量%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
この溶液にトリエチルアミン2.2質量部を添加して均一に混合した後、水185質量部を徐々に加えて乳化分散させ、得られた乳化分散液に水加ヒドラジンの30%水溶液2.2質量部及びジエチレントリアミンの20%水溶液1.8質量部を添加した後、90分間攪拌してポリウレタン分散物を得た。次いで、このポリウレタン分散物を減圧下、40℃で脱溶剤して、不揮発分35.0質量%、粘度50mPa・s、平均粒子径0.1μmの安定なポリウレタン樹脂の水分散液(PUD-1)を得た。
(合成例2:ポリウレタン樹脂の水分散液(PUD-2)の合成)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名「デュラノールT5651」、平均分子量1,000)61.9質量部、トリメチロールプロパン0.2質量部、ジメチロールプロピオン酸3.1質量部及びメチルエチルケトン32.9質量部を仕込み、これらを均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート32.7質量部及びビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.03質量部を加え、80℃で240分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が3.21質量%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
この溶液にトリエチルアミン2.2質量部を添加して均一に混合した後、水185質量部を徐々に加えて乳化分散させ、得られた乳化分散液に水加ヒドラジンの30%水溶液3.0質量部及びジエチレントリアミンの20%水溶液2.5質量部を添加した後、90分間攪拌してポリウレタン分散物を得た。次いで、このポリウレタン分散物を減圧下、40℃で脱溶剤して、不揮発分35.0質量%、粘度20mPa・s、平均粒子径0.1μmの安定なポリウレタン樹脂の水分散液(PUD-2)を得た。
(合成例3:ポリウレタン樹脂の水分散液(PUD-3)の合成)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、ポリカーボネートジオール(株式会社クラレ製、商品名「クラレポリオールC-2090」、平均分子量2,000)71.7質量部、トリメチロールプロパン0.4質量部、ジメチロールプロピオン酸3.1質量部及びメチルエチルケトン32.9質量部を仕込み、これらを均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート23.5質量部及びビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.03質量部を加え、80℃で240分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.28質量%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
この溶液にトリエチルアミン2.2質量部を添加して均一に混合した後、水185質量部を徐々に加えて乳化分散させ、得られた乳化分散液に水加ヒドラジンの30%水溶液2.2質量部及びジエチレントリアミンの20%水溶液1.8質量部を添加した後、90分間攪拌してポリウレタン分散物を得た。次いで、このポリウレタン分散物を減圧下、40℃で脱溶剤して、不揮発分40.0質量%、粘度40mPa・s、平均粒子径0.1μmの安定なポリウレタン樹脂の水分散液(PUD-3)を得た。
(合成例4:ポリウレタン樹脂の溶液(PU-1)の合成)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名「デュラノールT5652」、平均分子量2,000)350質量部を仕込み、減圧度0.095MPa、120~130℃で脱水した。脱水後、N,N-ジメチルホルムアミド650質量部及びエチレングリコール11質量部を加え、30℃まで冷却しながら十分に混合した。その後、ヘキサメチレンジイソシアネート21質量部、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート54質量部を加え、80℃で2時間混合した後、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.2質量部を加え、100℃で8時間混合した。次いで、70℃まで冷却しながら、メチルエチルケトン360質量部を加えて混合し、不揮発分30.0質量%のポリウレタン樹脂の溶液(PU-1:ウレタン樹脂組成物)を得た。
〔各実施例等で利用した繊維積層体の製造方法について〕
次に、各実施例等で利用した繊維積層体(樹脂皮膜と繊維基材との積層体:合成樹脂レザー前駆体)の製造方法を説明する。
(製造例1:合成樹脂レザー前駆体(I)(樹脂皮膜:PVC)の製法)
図1に示す形態の繊維積層体20と同様の構成のものであって、発泡層11a及び非発泡層11bをいずれも、熱可塑性エラストマーの種類がポリ塩化ビニル(PVC)である膜とした繊維積層体(合成樹脂レザー前駆体)を、以下のようにして製造した。
先ず、発泡層11aの形成用の材料(発泡層形成用材料)として、軟質ポリ塩化ビニル(平均重合度1300のストレートレジン、新第一塩ビ社製の商品名「ZEST 1300Z」)100質量部に対して、第一の可塑剤(ジイソデシルフタレート:DIDP)65質量部と、第二の可塑剤(エポキシ化大豆油:花王社製の商品名「カボックスS-6」)5質量部と、発泡剤(アゾジカルボンアミド)5質量部と、充填剤(炭酸カルシウム)10質量部と、難燃剤(三酸化アンチモン)7質量部と、顔料6質量部とからなる添加剤を配合した材料(添加剤の総量:93質量部)を準備した。次いで、得られた材料を可塑化し、カレンダー成形することにより、厚み300μmの発泡層11a形成用のPVC樹脂シート(I)を得た。
また、別途、非発泡層11bの形成用の材料(非発泡層形成用材料)として、ポリ塩化ビニル(平均重合度1300のストレートレジン、新第一塩ビ社製の商品名「ZEST 1300Z」)100質量部に対して、第一の可塑剤(ジイソデシルフタレート:DIDP)75質量部と、第二の可塑剤(エポキシ化大豆油:花王社製の商品名「カボックスS-6」)5質量部と、難燃剤(三酸化アンチモン)10質量部と、顔料6質量部とからなる添加剤を配合した材料(添加剤の総量:96質量部)を準備した。次いで、得られた材料を可塑化し、カレンダー成形することにより、厚み100μmの非発泡層11b形成用のPVC樹脂シート(II)を得た。
次いで、繊維基材14(ポリエステル100%の83T捲縮糸で編成したパイル編布)を準備し、繊維基材14の一方の表面上に二液型ポリウレタン接着剤を塗布して接着層13を形成した。次いで、前記接着層13上に順次、前記PVC樹脂シート(I)、前記PVC樹脂シート(II)を配置し、繊維基材14の表面上に接着層13を介してPVC樹脂シート(I)とPVC樹脂シート(II)を重ね合わせた積層体を得た。次に、得られた積層体を100℃に加熱してPVC樹脂シート(I)を発泡させて発泡樹脂シートとした後、絞ロールとゴムロールとで加圧することにより、絞付けを行うとともに、発泡PVC樹脂シート(発泡層)と非発泡PVC樹樹脂シート(非発泡層)とからなる樹脂皮膜(PVCからなる樹脂シート)と、繊維基材5とを接着させて、凹凸模様が付いた繊維積層体(合成樹脂レザー前駆体(I)〔樹脂皮膜の樹脂種:PVC〕)を得た。
(製造例2:合成樹脂レザー前駆体(II)(樹脂皮膜:TPU)の製法)
樹脂皮膜を1層構成のものとする以外は、図1に示す形態の繊維積層体20と同様の形態の繊維積層体(合成樹脂レザー前駆体)を、以下のようにして製造した。なお、本製造例においては、1層の樹脂皮膜を、熱可塑性エラストマーの種類が熱可塑性ポリウレタン(TPU)である膜とした。
先ず、剥離シート(朝日ロール株式会社製「アサヒリリースAR-148」)上に、非架橋の水性ポリカーボネート系ポリウレタンを用いて、カレンダー成形法で100μmの膜厚のシートを形成した後、剥離シートを剥離して、熱可塑性ポリウレタン(TPU)からなるTPU樹脂シートを得た。次いで、得られたTPU樹脂シートに対して、絞ロールとゴムロールとで加圧して絞付けを行った。
次に、繊維基材14(ポリエステル100%の83T捲縮糸で編成したパイル編布)を準備し、繊維基材14の一方の表面上に二液型ポリウレタン接着剤を塗布して接着層13を形成した。その後、前記接着層13上に前記TPU樹脂シートを配置し、繊維基材14の表面上に接着層13を介してTPU樹脂シート(1層構造の樹脂皮膜11)を重ね合わせた積層体を得た。次に、得られた積層体を100℃に加熱し、加圧することにより、繊維基材14とPVC樹脂シートとを接着させて、凹凸模様が付いた繊維積層体(合成樹脂レザー前駆体(II)〔樹脂皮膜の樹脂種:TPU〕)を得た。
(製造例3:合成樹脂レザー前駆体(III)(樹脂皮膜:TPO)の製法)
樹脂皮膜を1層構成のものとする以外は、図1に示す形態の繊維積層体20と同様の形態の繊維積層体(合成樹脂レザー前駆体)を、以下のようにして製造した。なお、本製造例においては、1層の樹脂皮膜を、熱可塑性エラストマーの種類が熱可塑性オレフィン(TPO)である膜とした。
先ず、エチレン-プロピレン-ジエン系ゴムと、ランダムポリプロピレンとの混合物を可塑化した後、剥離シート(朝日ロール株式会社製「アサヒリリースAR-148」)上にコンマコート法で100μmの膜厚で塗布し、160℃に加熱した後、剥離シートを剥離して、熱可塑性オレフィン(TPO)からなるTPO樹脂シートを得た。次いで、得られたTPO樹脂シートに対して、絞ロールとゴムロールとで加圧して絞付けを行った。
次に、繊維基材14(ポリエステル100%の83T捲縮糸で編成したパイル編布)を準備し、繊維基材14の一方の表面上に二液型ポリウレタン接着剤を塗布して接着層13を形成した。その後、前記接着層13上に前記TPO樹脂シートを配置し、繊維基材14の表面上に接着層13を介してTPO樹脂シート(1層構造の樹脂皮膜11)を重ね合わせた積層体を得た。次に、得られた積層体を100℃に加熱し、加圧することにより、繊維基材14とPVC樹脂シートとを接着させて、凹凸模様が付いた繊維積層体(合成樹脂レザー前駆体(II)〔樹脂皮膜の樹脂種:TPO〕)を得た。
〔各実施例等で利用したシランカップリング剤について〕
次に、各実施例等で利用したシランカップリング剤の種類、製造元、商品名、各実施例で利用する略称を表1に示す(表2~3においては、シランカップリング剤を下記略称で表現する)。
(実施例1~14及び実施例21~24)
〈樹脂層形成用材料(シランカップリング剤含有処理液)の調製工程(1)〉
表1に示す種類のシランカップリング剤(SCA-1~SCA-8)を、それぞれ表2~3に示す組成となるようにして用いて、シランカップリング剤の濃度が50質量%となるように溶媒であるiso-プロピルアルコール中にシランカップリング剤を添加して混合することにより、樹脂層形成用材料(シランカップリング剤含有処理液)を準備した。
〈トップコート層形成用材料の調製工程〉
表2~3に示す種類の樹脂の分散液又は溶液を用いて、表2~3に示す質量比となるように、樹脂と、艶消し剤(エボニックデグサ社製「ACEMATT TS 100」、平均粒子径:10μm)と、会合型の増粘剤(サンノプコ株式会社製「SNシックナー612」、不揮発分40質量%)と、水分散性カルボジイミド系架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトSV-02」、不揮発分40質量%)と、イソプロパノール(IPA)と、イオン交換水とをディスパーを用いて均一に混合することにより、トップコート層形成用材料(表面処理液)を調製した。なお、表2~3に示すアクリル樹脂の分散液としては、アクリル樹脂エマルジョン(サイデン化学株式会社製、商品名「サイビノールEC-065」、不揮発分50%質量%)を用いた。また、表2~3に示す樹脂の分散液又は溶液についての質量比の値は、各樹脂の分散液又は溶液中の不揮発分の質量(乾燥後の質量)に基いて求められる樹脂の質量と、他の成分の質量との比率である。
〈合成樹脂レザーの調製工程〉
表2~3に示す種類の繊維積層体(合成樹脂レザー前駆体)をそれぞれ用いて、繊維積層体上に形成されている樹脂皮膜の表面(繊維基材側の面とは反対側の表面)上に、先ず、前述のようにして得られた樹脂層形成用材料を乾燥(溶媒除去)後の厚みが表2~3に示す厚みとなるように100メッシュのグラビアコーターを用いて塗工した後、その塗工膜に120℃の熱風を3分間吹き付けて溶媒を除去(乾燥)し、シランカップリング剤を含む樹脂層(A)を形成した。次いで、前記樹脂層(A)の表面上に、前述のようにして得られたトップコート層形成用材料を乾燥(溶媒除去)後の厚みが表2~3に示す厚みとなるように100メッシュのグラビアコーターを用いて塗工した後、その塗工膜に120℃の熱風を3分間吹き付けて溶媒を除去(乾燥)し、更に、20℃で24時間静置することでエージング処理を行い、表面処理層(トップコート層(最外層)及び樹脂層(A)からなる層)と、樹脂皮膜とを備える合成樹脂レザーを製造した。
(実施例15~20)
樹脂層形成用材料(シランカップリング剤含有処理液)の調製工程(1)の代わりに、下記樹脂層形成用材料(シランカップリング剤含有処理液)の調製工程(2)を実施することにより樹脂層形成用材料を調製した以外は、実施例1と同様の方法を採用して、表面処理層(トップコート層(最外層)及び樹脂層(A)からなる層)と、樹脂皮膜とを備える合成樹脂レザーを製造した。
〈樹脂層形成用材料(シランカップリング剤含有処理液)の調製工程(2)〉
合成例4で製造したPU-1(ポリウレタン樹脂の溶液)と、表2~3に示すシランカップリング剤(SCA-1又はSCA-3)とを、PU-1中のポリウレタン樹脂(溶媒を除去した後の樹脂自体の質量:不揮発分)とシランカップリング剤との質量比が表2~3に示す値(単位:質量部)となるように利用し、PU-1とシランカップリング剤とを、不揮発分の濃度が20質量%となるように、溶媒であるiso-プロピルアルコール中に添加して混合することにより樹脂層形成用材料(シランカップリング剤含有処理液)を準備した。なお、表2~3に示す樹脂の分散液又は溶液についての質量比の値は、各樹脂の分散液又は溶液中の不揮発分の質量(乾燥後の質量)に基いて求められる樹脂の質量と、他の成分の質量との比率である。
(実施例25~28)
樹脂層形成用材料が表3に示す組成となるように、実施例1又は実施例15で採用している樹脂層形成用材料(シランカップリング剤含有処理液)の調製工程をそれぞれ採用し、かつ、合成樹脂レザーの調製工程において、シランカップリング剤を含む樹脂層(A)を形成した後に、トップコート層形成用材料を塗工する工程を施さずに、樹脂層(A)を形成後、20℃で24時間静置することでエージング処理を行うようにした以外は、実施例1と同様にして、樹脂層(A)のみからなる表面処理層と、樹脂皮膜とを備える合成樹脂レザーを製造した。
(比較例1~3)
樹脂層形成用材料にシランカップリング剤を利用せずに、樹脂層形成用材料として、表3に示す樹脂の分散液又は溶液をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして、表面処理層(トップコート層(最外層)及びシランカップリング剤を含まない樹脂層からなる層)と、樹脂皮膜とを備える比較のための合成樹脂レザーを製造した。
(比較例4)
樹脂層(A)を形成する工程を施さずに、表3に示す種類の繊維積層体の樹脂皮膜の表面(繊維基材側の面とは反対側の表面)上に、直接、トップコート層を形成せしめた以外は、実施例1と同様にして、トップコート層のみからなる表面処理層と、樹脂皮膜とを備える比較のための合成樹脂レザーを製造した。
[各実施例及び各比較例で得られた合成樹脂レザーの特性の評価]
各実施例及び各比較例で得られた合成樹脂レザーの耐熱変形性、耐油性、外観、耐摩耗性、及び、柔軟性を下記の方法により評価した。得られた結果を表2~3に示す。
<耐熱変形性の評価>
各実施例及び各比較例で得られた得られた合成樹脂レザー(実施例1~28及び比較例1~4)をそれぞれ用い、以下のようにして耐熱変形性を評価した。すなわち、先ず、合成樹脂レザーを縦10cm、横10cmの大きさにカットして試験片を作製した。その後、試験片を80℃の加熱環境下、48時間放置する加熱試験を実施し、加熱試験後の試験片の縦と横の長さを測定し、加熱試験前後の試験片の面積変化率を下記式:
[面積変化率]=([試験後の面積]-[試験前の面積])÷[試験前の面積]
から算出して、耐熱変形性を評価した。耐熱変形性の評価基準を以下に示す。なお、評価結果が2級以上であれば、試験片の変形が十分に抑制されているものと判断でき、優れた耐熱変形性を有するものと評価できる。
〈耐熱変形性の評価基準〉
3級:面積変化率の絶対値が10%未満
2級:面積変化率の絶対値が10%以上20%未満
1級:面積変化率の絶対値が20%以上。
<耐油性の評価>
各実施例及び各比較例で得られた得られた合成樹脂レザー(実施例1~28及び比較例1~4)をそれぞれ用い、以下のようにして耐油性を評価した。すなわち、先ず、合成樹脂レザーを縦10cm、横10cmの大きさにカットして試験片を作製した。次いで、その試験片の表面上の直径6cmの円状の領域に流動パラフィン1.5gを塗布し、80℃の加熱環境下、48時間放置する試験を実施し、加熱試験後の試験片の縦と横の長さを測定し、加熱試験前後の試験片の面積変化率を下記式:
[面積変化率]=([試験後の面積]-[試験前の面積])÷[試験前の面積]
から算出して、流動パラフィンに対する耐油性を評価した。耐油性の評価基準を以下に示す。なお、評価結果が2級以上であれば、試験片の流動パラフィンに対する耐油性が十分に高度なものであると評価できる。
〈耐油性の評価基準〉
3級:面積変化率の絶対値が10%未満
2級:面積変化率の絶対値が10%以上20%未満
1級:面積変化率の絶対値が20%以上。
<耐摩耗性の評価>
各実施例及び各比較例で得られた得られた合成樹脂レザー(実施例1~28及び比較例1~4)をそれぞれ用い、以下のようにして耐摩耗性を評価した。すなわち、先ず、合成樹脂レザーを、長さ110mm、幅10mmにカットした後、カット後のレザーの裏面の繊維基材の表面に厚み4mmのウレタンフォーム(イノアックコーポレーション製「ER-4」)を両面テープで貼り付けて試験片を作成した。次いで、前記試験片を学振摩耗試験機(大栄科学精器製作所社製の商品名「RT-300」)の試験台(台座)と摩擦子の間にセットし(この際、摩擦子側に試験片の表面側(表面処理層側)が配置されるようにセットする)、6号綿帆布を台座側へセットして、摩擦子により4.9Nの荷重をかけて摩擦回数が30000回となるまで摩擦する摩擦試験を行った。なお、摩擦回数は1往復を1回としてカウントする。そして、摩擦試験後の試験片の表面処理層の状態を確認して、以下の判断基準により耐摩耗性を評価した。なお、2級以上であれば、十分に高い水準の耐摩耗性が得られているものと評価できる。
〈耐摩耗性の評価基準〉
3級:摩耗部分の表面処理層に割れや白化が見られない。
2級:摩耗部分の表面処理層に割れ・剥がれが見られるものの、裏面の繊維基材の露出は見られない。
1級:摩耗部分において、裏面の繊維基材の露出が見られる。
<柔軟性の評価>
各実施例及び各比較例で得られた得られた合成樹脂レザー(実施例1~28及び比較例1~4)をそれぞれ用い、以下のようにして柔軟性を評価した。すなわち、先ず、合成樹脂レザーを、長さ110mm、幅100mmにカットして試験片を製造した。次いで、試験片の表面処理層側を内側にして4つ折りにし、折れ曲がった試験片の中央部に10kgのおもりをのせて24時間放置した(折り曲げ白化試験)。かかる折り曲げ白化試験(10kg×24時間)後、試験片の表面処理層の剥がれ(割れ)や白化を目視で確認して、柔軟性を評価した。なお、柔軟性は、以下の判断基準により評価した。なお、2級以上であれば、割れ・剥がれが十分に抑制され、十分に高い水準の柔軟性を有するものと評価できる。
〈柔軟性の評価基準〉
3級:折り曲げ部の表面処理層に割れや白化が見られない。
2級:折り曲げ部の表面処理層全体に白化が見られ、割れ・剥がれが一部見られるものの、割れ・剥がれが確認された箇所は表面処理層の表面全体の0面積%未満である。
1級:折り曲げ部の表面処理層に白化とともに割れ・剥がれが見られ、割れ・剥がれが確認された箇所は表面処理層の表面全体の50面積%以上である。
<外観の評価>
各実施例及び各比較例で得られた得られた合成樹脂レザー(実施例1~28及び比較例1~4)をそれぞれ用いて、JIS Z8741-1997に従って、各合成樹脂レザーの60°鏡面光沢度を測定し、求められた60℃グロス値に基いて、その外観を評価した。外観の評価基準を以下に示す。なお、評価結果が2級以上であれば、優れた外観を有するものであると判断できる。
3級:60°グロスが1.0未満
2級:60°グロスが1.0以上1.4未満
1級:60°グロスが1.4以上。
表2及び3に示した結果から明らかなように、樹脂皮膜の表面上に表面処理層が形成されかつ表面処理層がシランカップリング剤を含む樹脂層(A)を備える実施例1~28で得られた合成樹脂レザーはいずれも、耐熱変形性及び耐油性がいずれも2級以上となっており、耐熱変形性及び耐油性が共に優れたものとなっていることが確認された。これに対して、シランカップリング剤を含む樹脂層(A)の代わりに、ポリウレタン樹脂からなる層を設けた比較例1~2及びアクリル系樹脂からなる層を設けた比較例3においてはいずれも、耐油性が1級となっており、耐油性を高度なものとすることができなかった。また、樹脂層(A)を設けず、表面処理層をトップコート層のみからなる層とした比較例4で得られた合成樹脂レザーに至っては、耐熱変形性及び耐油性がいずれも1級となっており、耐熱変形性及び耐油性を優れたものとすることができなかった。このような結果から、シランカップリング剤を含む樹脂層(A)を利用することで、耐熱変形性及び耐油性をいずれも高度な水準で両立させることが可能であることが分かった。
なお、トップコート層を設けていない実施例25~28で得られた合成樹脂レザーにおいても、外観以外の他の特性がいずれも2級以上となっていたことから、トップコート層の有無によらず、樹脂皮膜の表面上にシランカップリング剤を含む樹脂層(A)を含む表面処理層を積層することで、耐熱変形性及び耐油性がいずれも優れたものとなることが分かった。
以上説明したように、本発明によれば、流動パラフィンに対する耐油性と、耐熱変形性とを共に優れたものとすることが可能な合成樹脂レザーを提供することが可能となる。したがって、本発明の合成樹脂レザーは、特に、自動車の内装材(より好ましくは車両内装表皮材)に利用する材料等として有用である。
1…合成樹脂レザー、11…樹脂皮膜、11a…発泡層、11b…非発泡層、12…表面処理層、12a…ベースコート層(樹脂層(A))、12b…トップコート層、13…接着層、14…樹脂基材。

Claims (5)

  1. 熱可塑性エラストマーを含有する樹脂皮膜と、前記樹脂皮膜の表面上に形成された表面処理層とを備える合成樹脂レザーであって、前記表面処理層がシランカップリング剤を含む樹脂層(A)を備えることを特徴とする合成樹脂レザー。
  2. 前記樹脂層(A)が、固形分の質量を基準としてシランカップリング剤を20~100質量%含有する層であることを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂レザー。
  3. 前記樹脂層(A)が前記樹脂皮膜の表面上に積層され、かつ、前記表面処理層が、前記樹脂層(A)の前記樹脂皮膜側の面とは反対側の面上に積層されたトップコート層(B)を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂レザー。
  4. 前記トップコート層(B)がポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂からなる層であることを特徴とする請求項3に記載の合成樹脂レザー。
  5. 前記熱可塑性エラストマーが、ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリウレタン及び熱可塑性ポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂レザー。
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