JP2024069879A - 鋼板-繊維強化樹脂複合体及び鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法 - Google Patents

鋼板-繊維強化樹脂複合体及び鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法 Download PDF

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真純 長谷川
浩平 植田
敦雄 古賀
教之 禰宜
雅晴 茨木
敬裕 吉岡
浩之 ▲高▼橋
秀樹 安藤
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Abstract

【課題】鋼板とFRPとの間の密着性の更なる向上と水に起因する腐食の防止との双方を実現すること。【解決手段】本発明の鋼板-繊維強化樹脂複合体は、鋼板部材と、異なる2種類の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層と、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層と、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層とを備え、第1接着層の樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比が20:80~80:20の範囲内で含有し、第1接着層の樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着されたAFMにより観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である。【選択図】図1A

Description

本発明は、鋼板-繊維強化樹脂複合体及び鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法に関する。
自動車や飛行機等の輸送機器産業分野において、軽量化ニーズと安全性向上の両立に向けて、金属材料と繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastic:FRP)とを組み合わせた複合材料の開発が行われてきている。FRP単体を部材として用いる場合には、金属部材用に設けられた既存の製造設備を使用する際の課題や、FRPの加工性、圧縮強度、脆さ、コスト面などに問題点がある。そこで、金属部材とFRPとの組み合わせが、これらの課題解決に期待されており、その組み合わせの多くは、金属板とFRPとを貼り合わせた構造を有している。かかる金属部材とFRPとの組み合わせにより、金属部材、FRP各々単独では達成できない、優れた材料の開発が実現され得る。
従来、金属部材とFRPとを貼り合わせるためには、例えば以下の特許文献1及び特許文献2に示したように、接着剤を用いることが一般的である。しかしながら、接着剤を用いる場合には、接着剤を塗布する工程と、接着剤を乾燥させる工程と、を設けなければならず、複合材料の製造工程が煩雑化してしまう。そのため、製造工程の簡略化の観点からは、接着剤を用いることなく、FRPを金属部材に貼り付けることが好ましいと考えられる。
一方、鋼板等に代表される金属材との密着性に優れ、熱圧着により金属材に容易に複合化可能な樹脂として、フェノキシ樹脂が知られている。かかるフェノキシ樹脂をマトリックス樹脂に用いたFRPを利用することで、金属材にFRPを直接熱圧着することが可能となる(例えば、以下の特許文献3を参照。)。
特開2010-89394号公報 特表2012-515667号公報 特開2019-151106号公報
本発明者らは、金属部材とFRPとの密着性の更なる向上と、金属部材とFRPとを複合させた複合体の耐食性の更なる向上と、の両立を目指して、更なる検討を行った。ここで、金属部材とFRPとの複合体において、耐食性という観点で見れば、FRPの強化繊維に炭素強化繊維を用いたCFRPにおいて炭素強化繊維と金属部材とが直接接触することで生じる、電気腐食(電食とも呼ばれる。)の問題がある。
かかる電気腐食を防止するためには、金属部材とCFRPとの間に接着樹脂層を設け、金属部材と炭素強化繊維との直接接触を防止すればよいかと思われた。しかしながら、本発明者らが検討を行った結果、金属部材とCFRPとの間に接着樹脂層を設けた場合であっても、電気腐食が発生した事例が存在することが判明した。かかる観点について、本発明者らが更なる検討を行った結果、接着樹脂層に浸透した水を介して、炭素強化繊維と金属部材とが電気的に接続される結果、電気腐食が生じていたことが判明した。
また、CFRP以外のFRPと、金属部材とを、接着樹脂層を介して複合化した場合であっても、接着樹脂層に水が浸透しうる場合には、水とともに様々な腐食因子が金属部材に到達してしまい、耐食性の向上が困難となる可能性があることが判明した。
以上のような知見から、本発明者らは、金属部材とFRPとの複合体において、接着樹脂層の透水性に起因する腐食の発生という観点では、更なる改善の余地があることを知見した。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、鋼板とFRPとの間の密着性の更なる向上と、水に起因する腐食の防止と、の双方が実現可能な、鋼板-繊維強化樹脂複合体及び鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を行った結果、密着性という観点では、接着樹脂層として、せん断剥離強度と垂直剥離強度の双方を備える接着樹脂層を設けることで、密着性の更なる向上を図ることが可能であることに想到した。加えて、水に起因する腐食の防止という観点では、接着樹脂層を2層構造とし、上記のような接着樹脂層とともに防水性に優れる接着樹脂層を設けることで、鋼板とFRPとの間に水が浸透することを防止可能であることを着想した。
上記知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)鋼板、又は、当該鋼板の成形体からなる鋼板部材と、前記鋼板部材の表面の少なくとも一部に位置し、異なる2種類の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層と、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に位置し、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層と、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に位置し、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層と、を備え、前記第1接着層の前記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~80:20の範囲内で含有し、前記第1接着層の前記樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)により観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である、鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(2)前記繊維強化樹脂層中の前記強化繊維は、導電性を有しており、かつ、前記第1接着層又は前記第2接着層の少なくとも何れかが更に非導電性物質を含むか、又は、前記第2接着層と前記繊維強化樹脂層との間、かつ、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に、非導電性物質を含む樹脂層を更に有する、(1)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(3)前記非導電性物質は、電気抵抗率が1×10Ω・m以上である絶縁性粒子、ガラス粒子、ガラス繊維、又は、アラミド繊維より選ばれる少なくとも1種である、(2)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(4)前記第1接着層の前記樹脂組成物は、ガラス転移温度が60℃以下であり、25℃での引張弾性率が2500MPa以下であり、かつ、引張破断伸びが5%以上である、(1)又は(2)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(5)前記第1接着層の前記樹脂組成物は、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~60:40の範囲内で含有する、(1)又は(2)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(6)前記第1接着層の前記樹脂組成物は、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が25:75~50:50の範囲内で含有する、(5)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(7)前記繊維強化樹脂層の上方から平面視したときに、前記第1接着層及び前記第2接着層は同じ大きさであり、かつ、前記繊維強化樹脂層は、前記第1接着層よりも小さい大きさである、(1)又は(2)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(8)前記第2接着層は、前記第1接着層の表面及び側面を覆うように設けられる、(1)又は(2)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(9)前記第1接着層に含まれる前記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂である、(1)又は(2)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(10)前記繊維強化樹脂層の前記マトリックス樹脂は、フェノキシ樹脂を主成分とする、(1)又は(2)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(11)前記繊維強化樹脂層の前記マトリックス樹脂は、ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂を主成分とする、(10)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(12)前記繊維強化樹脂層の前記強化繊維は、炭素強化繊維である、(1)又は(2)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(13)前記第2接着層の前記樹脂は、フェノキシ樹脂である、(1)又は(2)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(14)前記第2接着層の前記樹脂は、ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂である、(13)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(15)前記鋼板は、1500MPa以上の引張強度を有する、(1)又は(2)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(16)鋼板、又は、当該鋼板の成形体からなる鋼板部材と、前記鋼板部材の表面の少なくとも一部に位置し、異なる2種類の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層と、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に位置する第2接着層と、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に位置し、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層と、を有する鋼板-繊維強化樹脂複合体を製造する製造方法であって、鋼板の表面の少なくとも一部に対し、異なる2種の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層を重ね合わせ、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層を重ね合わせ、かつ、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層を重ね合わせ、前記鋼板に対し、前記第1接着層、前記第2接着層及び前記繊維強化樹脂層を熱圧着するものであり、前記第1接着層の前記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~80:20の範囲内で含有し、前記第1接着層の前記樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)により観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である、鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法。
(17)鋼板、又は、当該鋼板の成形体からなる鋼板部材と、前記鋼板部材の表面の少なくとも一部に位置し、異なる2種類の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層と、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に位置する第2接着層と、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に位置し、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層と、を有する鋼板-繊維強化樹脂複合体を製造する製造方法であって、鋼板をプレス成型して鋼板の成形体とした後、前記鋼板の成形体の表面の少なくとも一部に対し、異なる2種の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層を重ね合わせ、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層を重ね合わせ、かつ、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層を重ね合わせ、前記鋼板の成形体に対し、前記第1接着層、前記第2接着層及び前記繊維強化樹脂層を熱圧着するものであり、前記第1接着層の前記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~80:20の範囲内で含有し、前記第1接着層の前記樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)により観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である、鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法。
(18)鋼板、又は、当該鋼板の成形体からなる鋼板部材と、前記鋼板部材の表面の少なくとも一部に位置し、異なる2種類の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層と、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に位置する第2接着層と、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に位置し、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層と、を有する鋼板-繊維強化樹脂複合体を製造する製造方法であって、鋼板の表面の少なくとも一部に対し、異なる2種の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層を重ね合わせ、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層を重ね合わせ、かつ、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層を重ね合わせて積層体とし、加熱された金型を有するプレス成型機を用いて前記積層体を加工して、前記鋼板に対して前記第1接着層、前記第2接着層及び前記繊維強化樹脂層を熱圧着しながら前記鋼板を成形体とするものであり、前記第1接着層の前記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~80:20の範囲内で含有し、前記第1接着層の前記樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)により観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である、鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法。
以上説明したように本発明によれば、鋼板とFRPとの間の密着性の更なる向上と、水に起因する腐食の防止と、の双方が実現された、鋼板-繊維強化樹脂複合体及び鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法を提供することが可能となる。
本発明の実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の一例を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の一例を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の一例を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の一例を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る第2接着層の構造の一例を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る第2接着層の構造の一例を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の他の一例を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。 同実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法の流れの他の一例を示した流れ図である。 同実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法の流れの他の一例を示した流れ図である。 本発明の実施例に対応する第1接着層のAFM弾性率位相イメージ画像の一例を示した図である。 本発明の実施例に対応する第1接着層のAFM弾性率位相イメージ画像の一例を示した図である。 本発明の実施例に対応する第1接着層のAFM弾性率位相イメージ画像の一例を示した図である。 三点曲げ試験に用いた試験片の形状を模式的に示した説明図である。 三点曲げ試験の方法を模式的に示した説明図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(鋼板-繊維強化樹脂複合体について)
まず、図1A~図1Dを参照しながら、本発明の実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体について、詳細に説明する。図1A~図1Dは、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の一例を模式的に示した説明図である。
<鋼板-繊維強化樹脂複合体の全体構成について>
図1Aに模式的に示したように、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1は、鋼板で構成された鋼板部材10と、鋼板部材10の表面上の少なくとも一部に位置する第1接着層20と、第1接着層20の表面上の少なくとも一部に位置する第2接着層30と、第2接着層30の表面の少なくとも一部に位置する繊維強化樹脂層40と、を備える。
ここで、図1Aでは、第1接着層20、第2接着層30及び繊維強化樹脂層40が鋼板部材10の一方の表面の一部に設けられている場合について図示しているが、第1接着層20、第2接着層30及び繊維強化樹脂層40は、鋼板部材10の一方の表面の全体に設けられていてもよい。
また、第1接着層20、第2接着層30及び繊維強化樹脂層40は、図1Bに模式的に示したように、鋼板部材10の両面に設けられていてもよい。更に、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1は、図1Cに模式的に示したように、繊維強化樹脂層40が2つの第2接着層30で挟持されており、これら2つの第2接着層30が更に2つの第1接着層20で挟持されており、これら2つの第1接着層20が更に2つの鋼板部材10で挟持されているような、サンドイッチ構造を有するものであってもよい。
また、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1において、鋼板部材10は、図1A~図1Cに模式的に示したような板状のものに限定されるものではなく、図1Dに模式的に示したように、鋼板部材10は、鋼板の成形体で構成されていてもよい。なお、鋼板の成形体の具体的な形状については、任意の形状を有しうるものであり、例えば自動車等に用いられる車両用パネルのような、複雑な形状を有するものであってもよい。
以下では、鋼板-繊維強化樹脂複合体1における鋼板部材10、第1接着層20、第2接着層30及び繊維強化樹脂層40について、それぞれ詳細に説明する。
<鋼板部材10について>
以下では、鋼板部材10が鋼板を母材として構成される場合を例に挙げて、詳細に説明する。
本実施形態に係る鋼板部材10の詳細な材質、形状及び厚み等は、プレス等による成形加工が可能であればよく、形状は薄板状が好ましい。なお、かかる鋼板部材10の材質としては、鉄と、ステンレス鋼を含む鉄系合金等と、が挙げられる。鋼板部材10の材質は、鉄鋼材料、及び、鉄系合金であることが好ましく、他の金属種に比べて弾性率が高い鉄鋼材料であることがより好ましい。そのような鉄鋼材料としては、例えば、自動車に用いられる薄板状の鋼板として日本産業規格(JIS)等で規格された一般用、絞り用あるいは超深絞り用の冷間圧延鋼板、自動車用加工性冷間圧延高張力鋼板、一般用や加工用の熱間圧延鋼板、自動車構造用熱間圧延鋼板、自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板をはじめとする鉄鋼材料があり、一般構造用や機械構造用として使用される炭素鋼、合金鋼、高張力鋼等も薄板状に限らない鉄鋼材料として挙げることができる。このような鉄鋼材料の成分は、例えば、Fe、Cに加え、Si、Mn、S、P、Al、N、Cr、Mo、Ni、Cu、Ca、Mg、Ce、Hf、La、Zr、Sbのうち1種又は2種以上を含有してもよい。これら添加元素は、求める材料強度及び成形性を得るために適宜1種又は2種以上を選定し、含有量も適宜調整することができる。
なお、上記のような各種の鉄鋼材料は、1500MPa以上の引張強度を有することが好ましい。
また、鉄鋼材料には、任意の表面処理が施されていてもよい。ここで、表面処理とは、例えば、亜鉛めっき及びアルミニウムめっきなどの各種めっき処理、クロメート処理及びノンクロメート処理などの化成処理、並びに、サンドブラストのような物理的もしくはケミカルエッチングのような化学的な表面粗化処理が挙げられる。また、めっきの合金化や複数種の表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、少なくとも防錆性の付与を目的とした処理が行われていることが好ましい。
本実施形態に係る鋼板部材10は、各種のめっきが施されていてもよい。かかるめっきにより、鋼板部材10の耐食性が向上する。特に、鋼板部材10が鋼材である場合には、めっきを施すことが、より好適である。めっきの種類には、例えば、亜鉛系めっき等のような公知の各種のめっきを用いることができる。例えば、めっき鋼板(鋼材)として、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn-Ni系合金めっき鋼板等が用いられ得る。
また、第1接着層20との接着性を高めるために、鋼板部材10の表面をプライマーにより処理することが好ましい。この処理で用いるプライマーとしては、例えば、シランカップリング剤やトリアジンチオール誘導体が好ましい。シランカップリング剤としては、エポキシ系シランカップリング剤やアミノ系シランカップリング剤、イミダゾールシラン化合物が例示される。トリアジンチオール誘導体としては、6-ジアリルアミノ-2,4-ジチオール-1,3,5-トリアジン、6-メトキシ-2,4-ジチオール-1,3,5-トリアジンモノナトリウム、6-プロピル-2,4-ジチオールアミノ-1,3,5-トリアジンモノナトリウム及び2,4,6-トリチオール-1,3,5-トリアジンなどが例示される。
また、第1接着層20との接着性を高めるために、鋼板部材10の表面に対して、Cr、P、Si及びZrからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む化成処理層(図示せず。)を更に設けてもよい。このような化成処理層を設けることで、鋼板部材10と第1接着層20との間の密着性が、より一層向上することとなる。
なお、本実施形態では、鉄鋼材料に着目して説明を行っているが、鉄鋼材料に替えて、チタン、アルミニウム、マグネシウム又はこれらの合金等を用いることも可能である。ここで、合金の例としては、Ti系合金、Al系合金、Mg合金等が挙げられる。
<第1接着層20について>
続いて、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1が有する第1接着層20について、詳細に説明する。
本実施形態に係る第1接着層20は、図1A~図1Dに模式的に示したように、上記のような鋼板部材10の表面上の少なくとも一部に位置する層である。この第1接着層20は、異なる2種の材質の樹脂組成物を主成分とする。
ここで、用いる樹脂が硬質であれば、得られる複合材料はせん断剥離強度に優れるようになり、用いる樹脂が軟質であれば、得られる複合材料は垂直剥離強度に優れるようになる。そこで、本実施形態に係る第1接着層20では、異なる2種の材質の樹脂組成物として、せん断剥離強度に優れる硬質な樹脂成分と、垂直剥離強度に優れる軟質な樹脂成分と、を混合して用いる。これにより、せん断剥離強度と垂直剥離強度の双方に優れた接着層を実現することが可能となり、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1において、密着性の更なる向上を実現することができる。
具体的には、本実施形態に係る第1接着層20では、上記の硬質な樹脂成分としてフェノキシ樹脂が用いられ、軟質な樹脂成分として、ポリエステルエラストマーが用いられる。換言すれば、本実施形態に係る第1接着層20の樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、必須成分とする。
本発明で着目するせん断剥離強度と垂直剥離強度とは、元来、トレードオフの関係にある。フェノキシ樹脂は、接着性に優れる樹脂であるとともに、硬質な樹脂である。そのため、せん断剥離強度には優れる一方で、垂直剥離強度は低くなってしまう。すなわち、本発明者らが、鋼板-繊維強化樹脂複合体のサンプルについて機械的特性を検証したところ、フェノキシ樹脂を単独で使用した場合には、垂直はく離強度が低いために、垂直方向への剥離が生じてしまう。一方、ポリエステルエラストマーは、せん断剥離強度はフェノキシ樹脂よりも劣位であるが、軟質な樹脂である。そのため、垂直剥離強度には優れる一方で、せん断剥離強度は低くなってしまう。すなわち、本発明者らが、鋼板-繊維強化樹脂複合体のサンプルについて機械的特性を検証したところ、ポリエステルエラストマーを単独で使用した場合には、せん断剥離強度が低いために、せん断方向への剥離が生じてしまう。
しかしながら、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを適切な配合比でブレンドすることで、トレードオフの関係にあるせん断剥離強度と垂直剥離強度とを、共に優れた状態に両立することが可能となることを発見した。
なお、熱可塑性エラストマーには、オレフィン系、ポリウレタン系、ポリアミド系などもあるが、フェノキシ樹脂との相溶性や耐熱性、柔軟性の観点からもポリエステルエラストマーが選択される。
ここで、フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂と酷似した分子構造であり、直鎖状で水酸基を含み、エーテル基によって繰り返し単位が構成される非晶質な熱可塑性樹脂であり、せん断剥離強度に優れる。かかるフェノキシ樹脂については、以下で改めて詳細に説明するが、ビスフェノール骨格を有するものが好ましく、特にビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂を用いることが好ましい。
なお、ビスフェノールA骨格は、フェノキシ樹脂を構成するポリマー鎖の50%以上を占めることが良く、最も好ましくは、ビスフェノールA骨格単独で構成されるフェノキシ樹脂である。ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂を用いることで、鋼板部材10と第1接着層20との間の密着性、及び、第1接着層20と第2接着層30との間の密着性を、より向上させることが可能となる。かかるフェノキシ樹脂については、各種のものを使用可能であるが、このようなフェノキシ樹脂として、例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートYP-50、YP-50S、YP-70や、Gabriel Phenoxies株式会社製PKHC、PKHH等を挙げることができる。
また、用いるフェノキシ樹脂は、質量平均分子量(Mw)が20,000~100,000であり、水酸基当量(g/eq)が50~750であるもの、又は、ガラス転移温度(Tg)が65℃以上150℃以下、好ましくは70℃以上150℃以下の範囲内であるもの、が好ましい。更に、用いるフェノキシ樹脂は、160~250℃の範囲内の温度域のいずれかで、溶融粘度が3000Pa・s以下になるものが好ましく、90Pa・s以上2900Pa・s以下の範囲内の溶融粘度となるものがより好ましく、100Pa・s以上2800Pa・s以下の範囲内の溶融粘度となるものが更に好ましい。
また、ポリエステルエラストマーは、分子構造にハードセグメント(結晶相)と、ソフトセグメント(非晶相)とを構成単位として含む、ゴム状弾性を示す熱可塑性のポリエステルブロック共重合体であって、垂直剥離強度に優れる。かかるポリエステルエラストマーについては、ハードセグメントとソフトセグメントの組合せが、ポリエステル-ポリエーテル型やポリエステル-ポリエステル型に大別される。
これらのポリエステルエラストマーは、各種のものを使用可能ではあるが、特に、ポリエステル-ポリエーテル型のポリエステルエラストマーであることが好ましい。ポリエステル-ポリエーテル型のエラストマーは、そのソフトセグメントを構成するポリエーテル成分(例えばポリテトラメチレングリコールなど)の化学構造がフェノキシ樹脂に近く、フェノキシ樹脂と広い配合比においてお互いに相分離することなく容易に相溶するためであると推測される。このようなポリエステルエラストマーとして、例えば、東洋紡株式会社製ペルプレン Pタイプ、東レ・デュポン社製ハイトレル等を挙げることができる。
また、用いるポリエステルエラストマーは、融点が120℃以上250℃以下の範囲内であることが好ましく、130℃以上240℃以下の範囲内であることがより好ましい。更に、用いるポリエステルエラストマーは、120~250℃の範囲内の温度域のいずれかで、溶融粘度が3000Pa・s以下になるものが好ましく、90Pa・s以上2900Pa・s以下の範囲内の溶融粘度となるものがより好ましく、100Pa・s以上2800Pa・s以下の範囲内の溶融粘度となるものが更に好ましい。
また、ハードセグメントとなる成分とソフトセグメントとなる成分の比率(ハードセグメント成分/ソフトセグメント成分、ハード/ソフト比)に関して、1/99~50/50の範囲で重合されたポリエステルエラストマーを用いることが好ましい。ハード/ソフト比が上記範囲内であることにより、フェノキシ樹脂とより均一に混合することができる。
一方、先だって言及したように、第1接着層20を構成する樹脂組成物がフェノキシ樹脂を含まない場合には、第1接着層20は、優れたせん断剥離強度を発現することができない。また、第1接着層20を構成する樹脂組成物がポリエステルエラストマーを含まない場合には、第1接着層20は、優れた垂直剥離強度を発現することができない。
ここで、第1接着層20を構成する樹脂組成物において、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとの質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)は、20:80~80:20の範囲内とする。フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとの質量比が上記の範囲内となり、かつ、以下詳述するようにフェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとが均一に混合されることで、第1接着層20を構成する樹脂組成物は、せん断剥離強度及び垂直剥離強度の双方に優れるようになる。その結果、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1は、せん断剥離強度を保持しつつ、より優れた垂直剥離強度を実現可能となる。なお、樹脂組成物のフェノキシ樹脂の質量比が20未満となるとポリエステルエラストマーが過剰となりすぎてしまうことでせん断剥離強度が低下しすぎ、フェノキシ樹脂の配合比率が80を超えて過剰となることによって垂直剥離強度が低下しすぎ、いずれの場合でも樹脂組成物のせん断剥離強度と垂直剥離強度の両立ができなくなる。フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとの質量比は、好ましくは20:80~60:40の範囲内であり、より好ましくは25:75~50:50の範囲内である。このように、ポリエステルエラストマーの配合比がフェノキシ樹脂よりも高くなることで、せん断剥離強度と垂直剥離強度とをより優れた状態で両立させることが可能となる。その結果、単独の強度(すなわち、フェノキシ樹脂単独でのせん断剥離強度、及び、ポリエステルエラストマー単独での垂直剥離強度)と同等、又は、それ以上の強度を両立させることが可能となる。
なお、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1を構成する第1接着層20中のフェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとの質量比は、以下のようにして測定することが可能である。まず、鋼板-繊維強化樹脂複合体1より第2接着層30及び繊維強化樹脂層40を剥がし、第1接着層20を露出させる。その後、露出した第1接着層20を削り取る。これを、重水素化溶剤に溶解し、核磁気共鳴(NMR)装置を用いて13C NMRスペクトルを測定する。このスペクトルにおいて測定できる、フェノキシ樹脂中のフェノールエーテルの芳香族側炭素(155ppm付近)の積分値と、ポリエステルエラストマーのカルボニル炭素(165ppm付近)の積分値との比より、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーの質量比を計算することが可能である。
また、本実施形態に係る第1接着層20では、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとが存在してさえいれば良いのではなく、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとが、互いに均一に混ざり合っていることが求められる。両者の混合状態が不均一な場合(例えば、相分離して海島のようなドメイン構造となるような場合)には、せん断荷重負荷又ははく離荷重負荷の際に、不均一な部分への荷重負荷が集中して、高い接着力が発現しない。しかしながら、両者が均一に混ざりあうことで、フェノキシ樹脂の高いせん断接着強度とポリエステルエラストマーの優れた垂直接着強度を両立することができる。
本実施形態では、フェノキシ樹脂とポリエステル樹脂とが均一に混ざり合っているかを確認するための指標として、原子間力顕微鏡(AFM)を用いることで得られる弾性率位相イメージ画像における、フェノキシ樹脂及びポリエステルエラストマーに起因する相分離構造の大きさに着目する。
ここで、相分離構造とは、以下で詳述する特定の条件下で測定されたAFMによる弾性率位相イメージ画像において、海島構造や共連続構造をとるような場合にみられる、斑点又は縞状の明瞭な模様のことである。
より詳細には、本実施形態に係る第1接着層20は、樹脂組成物の表面を、先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)を用いて25℃の雰囲気下で観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、上記相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下となっている。一方、上記相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%を超える場合には、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとが相分離していることを意味し、優れたせん断剥離強度と優れた垂直剥離強度との両立を図ることができない。
ここで、上記弾性率位相イメージ画像は、原子間力顕微鏡(AFM)により観察することができる。具体的には、クライオミクロトーム(-40℃)を用いて接着用樹脂組成物の表面を平滑にする面出しを行った後、Bruker-AXS社製NCHVプローブ(先端曲率半径10nm、ばね定数42N/m)をセットしたBruker-AXS社製Dimension Icon型AFMを用いて、タッピングモードでスキャンして観測することができる。
上記方法により、任意の10μm×10μmの範囲において、本実施形態に係る樹脂組成物を観察すると、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーの両者の弾性率の差に起因する陰陽の無い一様なイメージ画像となり、海島構造や共連続構造をとるような場合にみられる斑点又は縞状の明瞭な模様(相分離構造)がほとんど観察されないか、又は、観察されない。より具体的には、複数のサンプルにおける、任意の複数の10μm四方の観察エリアの総面積において、上記のような相分離構造が観察される箇所の面積率は、上記観察エリア総面積の1面積%以下となる。かかる相分離構造が観察される箇所の面積率は、好ましくは0.1面積%以下であり、より好ましくは0面積%(すなわち、相分離構造が全く観察されない状態)である。
なお、AFMによる観察は、少なくとも2個以上のサンプルにおいて、10か所以上(20視野以上)実施する。AFMによる観察は、好ましくは、5個以上のサンプルにおいて10か所以上(50視野以上)であり、より好ましくは、10個のサンプルにおいて10か所以上(100視野以上)である。
なお、上記のような相分離構造の大きさを実現するためのフェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとの混合条件については、以下で改めて説明する。
また、第1接着層20を構成する樹脂組成物は、ガラス転移温度が60℃以下であり、25℃での引張弾性率が2500MPa以下であり、かつ、引張破断伸びが5%以上であることが好ましい。樹脂組成物が上記のような物性値を示すことで、第1接着層20は、鋼板部材10及び第2接着層30との間でより優れた密着性を示しつつ、より優れたせん断剥離強度及び垂直剥離強度を示すことが可能となる。
なお、樹脂組成物のガラス転移温度の下限は、特に規定するものではないが、入手できる材料の限界から、実質的には-60℃程度が下限となる。また、25℃での引張弾性率の下限についても特に規定するものではないが、入手できる材料の限界から、実質的には1MPa程度が下限となる。更に、25℃での引張破断伸びの上限についても特に規定するものではないが、入手できる材料の限界から、実質的には800%程度が上限となる。
ここで、樹脂組成物のガラス転移温度は、公知の各種の方法で測定することが可能であり、例えば、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて着目する樹脂組成物を測定することで、特定することが可能である。また、25℃における引張弾性率及び引張破断伸びは、万能材料試験機により測定することが可能である。
なお、本実施形態に係る樹脂組成物を構成する成分としては、上記フェノキシ樹脂と上記ポリエステルエラストマー以外に、各種の任意成分を含んでいてもよい。好ましい任意成分としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ナイロン6やナイロン610などのポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。樹脂組成物は、更に、目的に応じて難燃剤、無機フィラー、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、架橋剤、着色剤、溶剤などの任意成分を含んでもよい。
このとき、樹脂組成物中の樹脂成分の総質量に占めるフェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーの合計の質量割合は、70%質量以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーの合計の質量割合が70質量%未満となる場合には、所望の特性が発現しにくくなってしまう可能性がある。
本実施形態に係る第1接着層20の厚みは、例えば、20~500μmであることが好ましい。第1接着層20が上記のような厚みを有することで、鋼板部材10と繊維強化樹脂層40との間の密着性を、より向上させることが可能となる。
ここで、かかる第1接着層20の厚みは、着目するサンプルを樹脂に埋め込んだうえで断面を切り出して研磨することで観察面とし、かかる観察面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察することで測定する。なお、着目するサンプルの厚みが薄い場合には、斜め切削により断面を拡大した上で、厚みを測定してもよい。
また、第1接着層20及び第2接着層30において、後述するような非導電性物質が含有されていない場合には、第1接着層20と第2接着層30との間の境界線が明瞭に確認できない可能性がある。かかる場合には、微小硬度計(例えば、株式会社島津製作所製、ダイナミック超微小硬度計DUH-211)を用いて、厚み方向に点分析を行って硬度の分布を特定し、分析結果が示す硬度が切り替わる位置に着目することで、かかる硬度の分布より厚みを求めればよい。
<第2接着層30について>
続いて、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1が有する第2接着層30について、詳細に説明する。
本実施形態に係る第2接着層30は、図1A~図1Dに模式的に示したように、上記のような第1接着層20の表面上の少なくとも一部に位置し、第1接着層20への水の浸透を防止するための防水樹脂層として機能する層である。
このような第2接着層30が存在することで、第1接着層20に水が浸透して、各種の腐食因子が鋼板部材10に到達することを防止することができる。また、このような第2接着層30が存在することで、繊維強化樹脂層40が強化繊維として炭素繊維樹脂を含有している場合であっても、水を介した鋼板部材10と炭素繊維樹脂との間の電気的な接続を防止することができ、電気腐食の発生を防止することができる。
かかる第2接着層30は、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とすることで、第2接着層30自体が優れた防水性を発現するようになり、上記のような耐食性に寄与する効果を得ることができる。また、「主成分」とは、全樹脂成分100質量部のうち、50質量部以上含まれる成分を意味する。
ここで、樹脂が示す引張弾性率は、測定温度(上記の場合であれば、25℃)と、樹脂のガラス転移温度との関係を反映したものであり、引張弾性率の値が高いということは、樹脂のガラス転移温度が、測定温度よりも高いことを示している。引張弾性率が高い値になるほど、樹脂のガラス転移温度も高くなる傾向にあり、ガラス転移温度が高いということは、樹脂を構成する分子の分子運動が少なくなり、水分子を透過しにくくなることを意味する。
第2接着層30が上記のような引張弾性率を有する樹脂を主成分とすることで、第2接着層30自体が優れた防水性を発現するようになり、上記のような耐食性に寄与する効果を得ることができる。
ここで、25℃での引張弾性率が500MPa未満となる場合には、上記のような防水性を発現させることができず、耐食性を向上させることができない。
また、第2接着層30において主成分となる樹脂の25℃での引張弾性率は、好ましくは1200MPa以上であり、より好ましくは1800MPa以上である。また、第2接着層30において主成分となる樹脂の25℃での引張弾性率は、好ましくは3000MPa未満である。主成分となる樹脂の25℃での引張弾性率が3000MPa以下となることで、第2接着層30の防水性をより向上させることが可能となるとともに、鋼板-繊維強化樹脂複合体1を加工した際であっても、樹脂が施される加工に追随して、加工に伴う剥離を防止することができる。主成分となる樹脂の25℃での引張弾性率は、より好ましくは2400MPa未満である。
上記のような引張弾性率を有し、第2接着層30の主成分として用いうる樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂等を挙げることができる。その中でも、特にビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂を用いることが好ましい。
第2接着層30に用いる場合においても、ビスフェノールA骨格は、フェノキシ樹脂を構成するポリマー鎖の50%以上を占めることが良く、最も好ましくは、ビスフェノールA骨格単独で構成されるフェノキシ樹脂である。ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂を用いることで、第1接着層20との間の密着性を、より向上させることが可能となる。かかるフェノキシ樹脂については、各種のものを使用可能であるが、このようなフェノキシ樹脂として、例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートYP-50、YP-50S、YP-70や、Gabriel Phenoxies株式会社製PKHC、PKHH等を挙げることができる。
また、第2接着層30に用いる場合においても、用いるフェノキシ樹脂は、質量平均分子量(Mw)が20,000~100,000であり、水酸基当量(g/eq)が50~750であるもの、又は、ガラス転移温度(Tg)が65℃以上150℃以下、好ましくは70℃以上150℃以下の範囲内であるもの、が好ましい。更に、用いるフェノキシ樹脂は、160~250℃の範囲内の温度域のいずれかで、溶融粘度が3000Pa・s以下になるものが好ましく、90Pa・s以上2900Pa・s以下の範囲内の溶融粘度となるものがより好ましく、100Pa・s以上2800Pa・s以下の範囲内の溶融粘度となるものが更に好ましい。
本実施形態に係る第2接着層30の厚みは、例えば、20~500μmであることが好ましい。第2接着層30が上記のような厚みを有することで、鋼板部材10と繊維強化樹脂層40との間の密着性を、より向上させることが可能となる。
また、第2接着層30の厚みは、上記のような範囲を満足し、かつ、第1接着層20の厚み以上であることが、より好ましい。更に、第1接着層20の厚みに対する第2接着層の厚みの比率(第2接着層/第1接着層)は、1~25の範囲内であることが、更に好ましい。第1接着層20及び第2接着層30の厚みが上記のような範囲内となることで、鋼板-繊維強化樹脂複合体1が示す防水性と密着性とのバランスが、より好ましいものとなる。
なお、かかる第2接着層30の厚みは、第1接着層20と同様にして測定することが可能である。
ここで、第2接着層30による第1接着層20への水の浸透防止をより一層抑制するために、第2接着層30は、例えば図2又は図3に示したような構造的な特徴を有することが好ましい。以下、図2及び図3を参照しながら、簡単に説明する。図2及び図3は、本実施形態に係る第2接着層の構造の一例を模式的に示した説明図である。
例えば図2に例示したように、鋼板-繊維強化樹脂複合体1を繊維強化樹脂層40の上方から平面視したときに、第1接着層20及び第2接着層30は同じ大きさであり、かつ、繊維強化樹脂層40は、第1接着層20よりも小さい大きさであってもよい。換言すれば、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1は、図2に例示したような、いわゆるテラス構造を有していてもよい。このような構造となることで、第1接着層20の表面が水に曝されうる可能性を削減して、第1接着層20へと至る水の浸透経路を無くすことができ、鋼板-繊維強化樹脂複合体1の耐食性をより向上させることが可能となる。
また、例えば図3に例示したように、第2接着層30は、第1接着層20の表面及び側面を覆うように設けられてもよい。これにより、第1接着層20の表面が水に曝されうる可能性をより一層削減して、鋼板-繊維強化樹脂複合体1の耐食性を更に一層向上させることが可能となる。図3に例示したような被覆状態の場合、繊維強化樹脂層40の大きさ(上方から平面視したときの大きさ)は、特に限定されるものではなく、第2接着層30よりも小さくてもよいし、第2接着層30と同じ大きさであってもよいし、第2接着層30よりも大きくてもよい。
本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1では、繊維強化樹脂層40中に存在する強化繊維が、導電性を有する場合がある。この場合においても、電気腐食の発生を防止するために、第1接着層20又は第2接着層30の少なくとも何れかは、更に、非導電性物質を含有することが好ましい。第1接着層20又は第2接着層30の少なくとも何れかが、先だって説明したような樹脂に加えて、更に非導電性物質を含有することで、鋼板部材10と繊維強化樹脂層40との間の電気的な接続を確実に防止することが可能となる。
また、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1において、繊維強化樹脂層40中に存在する強化繊維が導電性を有する場合、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1は、図4に例示したような構造を有していてもよい。図4は、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の他の一例を模式的に示した説明図である。
すなわち、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1において、繊維強化樹脂層40中に存在する強化繊維が導電性を有する場合に、第2接着層30と繊維強化樹脂層40との間、かつ、第2接着層30の表面の少なくとも一部に対して、非導電性物質を含む樹脂層50を更に設けてもよい。このような樹脂層50を設けることで、鋼板部材10と繊維強化樹脂層40との間の電気的な接続を確実に防止することが可能となる。なお、本実施形態に係る樹脂層50の厚みは、例えば、190~210μm程度とすることが好ましい。
ここで、上記の非導電性物質としては、例えば、ガラス粒子、ガラス繊維(ガラスの電気抵抗率:1×1010~1×1014Ω・m)、アラミド繊維(電気抵抗率:1×1012~1×1014Ω・m)、又は、電気抵抗率が1×10Ω・m以上である絶縁性粒子の少なくとも何れかを挙げることができる。このような非導電性物質を、第1接着層20もしくは第2接着層30の少なくとも何れか、又は、樹脂層50に含有させることで、鋼板部材10と繊維強化樹脂層40との間の絶縁性を確実に担保することが可能となる。ここで、電気抵抗率が1×10Ω・m以上である絶縁性粒子としては、例えば、ガラス粒子、ポリエステル粒子、ポリアミド粒子、ゴム粒子等を挙げることができる。
<繊維強化樹脂層40について>
続いて、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1が有する繊維強化樹脂層40について、詳細に説明する。
本実施形態に係る繊維強化樹脂層40は、例えば図1A~図1Dに模式的に示したように、上記のような第2接着層30の表面上の少なくとも一部に位置する層である。この繊維強化樹脂層40は、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成されている。
上記のマトリックス樹脂としては、公知の各種の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いることが可能であるが、フェノキシ樹脂を主成分とする樹脂を用いることが好ましく、ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂を主成分とする樹脂を用いることがより好ましい。ここで、「主成分」とは、全樹脂成分100質量部のうち、50質量部以上含まれる成分を意味する。なお、「樹脂成分」には、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が含まれるが、架橋剤などの非樹脂成分は含まれない。
また、上記の強化繊維としては、ガラス強化繊維、炭素強化繊維、アラミド繊維等の高強度樹脂を用いた樹脂強化繊維など、公知の各種の強化繊維を用いることが可能である。この際、強化繊維として、ガラス強化繊維、又は、炭素強化繊維を用いることが、より好ましい。
これらマトリックス樹脂及び炭素強化繊維については、以下で改めて詳述する。
本実施形態に係る繊維強化樹脂層40の平均厚みは、例えば、0.1~3.0mmの範囲内であることが好ましい。繊維強化樹脂層40の平均厚みを上記のような範囲内とすることで、鋼板-繊維強化樹脂複合体1としてバランスよく、加工性及び強度を両立することができる。繊維強化樹脂層40の平均厚みは、より好ましくは0.2mm以上であり、更に好ましくは0.3mm以上であり、より一層好ましくは0.5mm以上である。一方、繊維強化樹脂層40の平均厚みは、より好ましくは2.8mm以下であり、更に好ましくは2.5mm以下であり、より一層好ましくは2.0mm以下である。
≪マトリックス樹脂について≫
本実施形態に係る繊維強化樹脂層40のマトリックス樹脂は、繊維強化樹脂層40を構成する樹脂である。かかるマトリックス樹脂の樹脂種は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の何れであっても使用することができるが、好ましくは、良好な曲げ強度を有し加工性に優れる熱可塑性樹脂が用いられる。例えば、マトリックス樹脂の樹脂成分としては、樹脂成分100質量部に対して、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、80質量部以上、又は、90質量部以上の熱可塑性樹脂を含む。代替的に、マトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂のみを含んでもよい。
マトリックス樹脂に用いることができる熱可塑性樹脂の種類は、特に制限されるものではないが、例えば、フェノキシ、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、並びにナイロン等から選ばれる1種又は2種以上を使用できる。
マトリックス樹脂に使用する熱可塑性樹脂としては、上記のように、エポキシ樹脂と分子構造が酷似しているフェノキシ樹脂を用いるのがより好ましい。フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂との分子構造の類似性により、エポキシ樹脂と同程度の耐熱性を有する。そのため、マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂を用いることで、鋼板-繊維強化樹脂複合体1の耐熱性及び加工性を両立させることが可能となる。また、上記のように、第1接着層20には、フェノキシ樹脂が用いられているため、第2接着層30の樹脂成分を適切に設定した上で、繊維強化樹脂層40のマトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂を用いることで、第1接着層20との間の密着性をより向上させることが可能となる。
なお、フェノキシ樹脂を含有する樹脂組成物に、例えば、酸無水物、イソシアネート、カプロラクタムなどを架橋剤として配合することにより、架橋性樹脂組成物(すなわち、樹脂組成物の硬化物)とすることも可能である。架橋性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂に含まれる2級水酸基を利用して架橋反応させることにより、樹脂組成物の耐熱性が向上するため、より高温環境下で使用される部材への適用に有利となる。
また、マトリックス樹脂を形成するための樹脂組成物(架橋性樹脂組成物を含む)には、その接着性や物性を損なわない範囲において、例えば、天然ゴム、合成ゴム、エラストマー等や、種々の無機フィラー、溶剤、体質顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、難燃剤、難燃助剤等その他添加物を配合してもよい。
≪炭素強化繊維について≫
本実施形態に係る繊維強化樹脂層40には、強化繊維が含まれるが、上述のように、かかる強化繊維として、炭素強化繊維を用いることが好ましい。炭素強化繊維の存在により、マトリックス樹脂のみの樹脂層に比べて、強度が向上する。本実施形態に係る炭素強化繊維としては、特に限定されるものではなく、ピッチ系の炭素強化繊維又はPAN系の炭素強化繊維を用いることが可能である。炭素強化繊維は、1種のみの炭素強化繊維を含んでもよく、2種以上の炭素強化繊維を含んでもよい。
繊維強化樹脂層40の炭素強化繊維の含有量(繊維体積含有率Vf)は、特に限定されるものではないが、繊維強化樹脂層40を十分に強化し、加工性を担保する観点から、10体積%以上70体積%以下であると好ましい。炭素強化繊維の含有量が10体積%未満である場合には、繊維強化樹脂層40の強化が十分に行われない可能性がある。一方、炭素強化繊維の含有量が70体積%を超える場合には、コスト的に好ましくなく、更に、繊維強化樹脂層40中に炭素強化繊維を含侵するのが困難になる場合がある。繊維強化樹脂層40中の炭素強化繊維の含有量は、好ましくは、15体積%以上、20体積%以上、又は、30体積%以上であり、また、65体積%以下、60体積%以下、又は、55体積%以下である。
繊維強化樹脂層40中の炭素強化繊維の含有量Vf(体積%)の測定方法は、以下のように行うことができる。より具体的には、ナイフ又は切削機等を用いて、鋼板-繊維強化樹脂複合体1から繊維強化樹脂層40を剥離し、炭素強化繊維の含有量の測定用試験体を得る。当該試験体(剥離した繊維強化樹脂層40)の絶乾質量(W)を測定しておく。次いで、当該試験体を20%塩酸に浸漬し、マトリックス樹脂を溶解させ、残渣として得られる炭素強化繊維の絶乾質量(W)を測定する。測定後、質量に基づく炭素強化繊維の含有量Wf(質量%)=(W/W)×100を求め、試験体の密度ρ(g/cm)及び炭素強化繊維の密度ρ(g/cm)により、繊維強化樹脂層40における炭素強化繊維の含有量Vf(体積%)=Wf×(ρ/ρ)を算出する。
以上、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1が備える繊維強化樹脂層40について、詳細に説明した。
以上説明したように、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1は、軽量であり、せん断剥離強度及び垂直剥離強度に優れるだけでなく、優れた耐食性を有している。加えて、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体1は、加工性にも優れるため、様々な用途に使用することができる。かかる鋼板-繊維強化樹脂複合体1は、特に自動車用部材に用いるのが好ましい。
(金属-繊維強化樹脂複合体の製造方法について)
以下では、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法について、図5A~図5Cを参照しながら、詳細に説明する。図5A~図5Cは、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。
以下では、図1A~図1Dに示したような構造を有する鋼板-繊維強化樹脂複合体に着目し、その製造方法について説明する。かかる製造方法では、まず、鋼板部材、第1接着層、第2接着層、繊維強化樹脂層の準備が実施される。
<鋼板部材の準備>
鋼板部材の素材である鋼板は、典型的に、C、Si、Mn、P、S、Al、及びN等を含み、残部がFe及び不純物である。また、任意選択で、残部のFeの一部に換えて、他の元素を含有させてもよい。好ましくは、所定の成分を有するスラブを熱間圧延して、酸洗後、冷間圧延を行い、冷延鋼板を得るとよい。必要に応じて、所望の組織を得るために、得られた冷延鋼板に、任意の雰囲気下で熱処理(焼鈍、焼入れ等)を行ってもよい。表面にZn系めっき層を設ける場合は、公知の方法によって亜鉛系めっきを形成すればよく、めっき付着量は用途に応じて5~90g/mから適宜選択すればよい。また、鋼板部材の厚みも適宜選択さればよく、例えば、0.1~3.5mmであればよい。
なお、後段の熱圧着処理に先立ち、鋼板等と当該樹脂膜との密着性を向上させるための前処理として、鋼板部材の表面をアルカリ脱脂剤等で脱脂することが好ましい。また、追加の前処理として、鋼板部材上に水分散シリカを含む水溶液等をバーコーター等で塗布し、熱風オーブンで到達板温が120~180℃程度で乾燥させてもよい。
<第1接着層用樹脂シートの準備>
フェノキシ樹脂、ポリエステルエラストマー、及び、必要に応じて非導電性物質をはじめとする任意成分を混合することによって、第1接着層となる樹脂組成物を調整する。この際、樹脂組成物の調整手段にかかる諸条件(原料の配合比率等)を適切に選択・制御することで、得られる樹脂組成物が所望の状態となる。フェノキシ樹脂は、水酸基を含み、エーテル基によって繰り返し単位が構成される樹脂であり、ポリエステルエラストマーは、ポリエステル単位を含むハードセグメント(結晶相)と、ポリエーテル及び/又はポリエステル単位を含むソフトセグメント(非晶相)とを構成単位として含む熱可塑性のポリエステルブロック共重合体である。フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマー及びそのほかの成分を混合する方法については、特に制限はなく、一般公知の方法を用いることができる。
例えば、フェノキシ樹脂及びポリエステルエラストマーの良溶媒となる有機溶剤を用いて、ミキサー型撹拌機にて15~40℃の温度範囲で溶解・混合してワニス化する方法、又は、フェノキシ樹脂及びポリエステルエラストマー双方が溶融する温度、好ましくはフェノキシ樹脂のガラス転移温度又はポリエステルエラストマーの融点のうち、いずれか高いほうの温度+20℃程度の温度にて溶融混錬する方法等が挙げられる。混錬温度が高すぎると、樹脂の熱劣化や分解による性能低下が懸念され、フェノキシ樹脂又はポリエステルエラストマーのいずれかが溶融しないような温度であると、両者の混合が不均一となるために所望の樹脂物性が得られない。なお、溶融混錬に際して、混錬装置としては、二軸押出機を用いるのが好ましい。二軸押出機とは、同方向回転かみあいのスクリュー押出機であり、スクリューについては、必要に応じて楕円形の二翼のねじ形状のフルフライトスクリュや、ニーディングディスクと呼ばれる混練エレメントなどを、適宜、単独或いは組み合わせて構成されたものが用いられる。
上記方法によって得られた樹脂組成物をシート状に加工することで、第1接着層用樹脂シートを作成する。シート化する方法も特に制限はなく、一般公知の方法を用いることができる。このような方法として、例えば、溶融押出成形法、溶液キャスティング成形法、カレンダー成形法などが挙げられる。なかでも、2軸押出機にて溶融混錬した樹脂組成物を溶融押出成形法によってシート化する方法が有機溶媒を含まないので乾燥工程などを別途必要とすることが無く、環境負荷の面からも好ましい。
<第2接着層用樹脂シートの準備>
25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂、及び、必要に応じて非導電性物質をはじめとする任意成分を混合することによって、第2接着層となる樹脂組成物を調整する。
かかる調整では、例えば、用いる樹脂に対して良溶媒となる有機溶剤を用いて、ミキサー型撹拌機にて15~40℃の温度範囲で溶解・混合してワニス化する方法、又は、用いる樹脂が溶融する温度、好ましくは、用いる樹脂の融点+20℃程度の温度にて溶融混錬する方法等を用いることが可能である。なお、溶融混錬に際して、混錬装置としては、二軸押出機を用いるのが好ましい。
上記方法によって得られた樹脂組成物をシート状に加工することで、第2接着層用樹脂シートを作成する。シート化する方法も特に制限はなく、一般公知の方法を用いることができる。このような方法として、例えば、溶融押出成形法、溶液キャスティング成形法、カレンダー成形法などが挙げられる。なかでも、2軸押出機にて溶融混錬した樹脂組成物を溶融押出成形法によってシート化する方法が有機溶媒を含まないので乾燥工程などを別途必要とすることが無く、環境負荷の面からも好ましい。
また、図4に示したような樹脂層50を形成する場合についても、上記と同様にして、用いる樹脂と非導電性物質とを混合し、樹脂層となる樹脂組成物を調整すればよい。
<繊維強化樹脂層の準備>
繊維強化樹脂層用の所定のバインダー樹脂(例えばフェノキシ樹脂)をガラス転移温度以上に加熱して、例えば厚み10~150μm程度の樹脂シートを成形するとよい。かかる樹脂シートと強化繊維基材(例えば炭素強化繊維基材)とを交互に積層して積層体を形成し、得られた積層体を上記樹脂のガラス転移温度以上で加熱しながら加圧して樹脂を熱融着させることで、繊維強化樹脂層用材料を製造するとよい。あるいは、所定のバインダー樹脂を粉砕し、分級した粉体を、強化繊維基材に、静電場において、所定の条件で粉体塗装を行って、粉体塗装後の強化繊維基材を積層し、熱融着させてもよい。所望の繊維強化樹脂層の平均厚み及び強化繊維の含有量に応じて、樹脂シートの厚み、強化繊維基材の厚み、又は、積層数を変更すればよい。加熱・加圧の条件も適宜設定すればよく、例えば、180~240℃の温度及び1~5MPaの圧力で、1~30分間加熱・加圧すればよい。
<鋼板-繊維強化樹脂複合体の形成>
上記のように準備した鋼板部材と、第1接着層用樹脂シートと、第2接着層用材料と、繊維強化樹脂層と、を用いて、図5A~図5Cに示したような方法の何れかを用いて、鋼板-繊維強化樹脂複合体を形成する。
例えば図5Aに示した例では、上記のようにして準備した鋼板部材としての鋼板の表面に対して、第1接着層、第2接着層及び繊維強化樹脂層(より詳細には、第1接着層用樹脂シート、第2接着層用樹脂シート、及び、繊維強化樹脂層用材料)を重ね合わせ(ステップS101)、その後、鋼板に対して、第1接着層、第2接着層及び繊維強化樹脂層を熱圧着する(ステップS103)。
また、図5Bに示した例では、まず、上記のようにして準備した鋼板をプレス成型して、所望の形状を有する鋼板成形体とする(ステップS111)。このようにして得られた鋼板成形体が、鋼板部材として機能する。その後、鋼板成形体の表面に対して、第1接着層、第2接着層及び繊維強化樹脂層(より詳細には、第1接着層用樹脂シート、第2接着層用樹脂シート、及び、繊維強化樹脂層用材料)を重ね合わせ(ステップS113)、その後、鋼板成形体に対して、第1接着層、第2接着層及び繊維強化樹脂層を熱圧着する(ステップS115)。
また、図5Cに示した例では、まず、上記のようにして準備した鋼板の表面にて、対して、第1接着層、第2接着層及び繊維強化樹脂層(より詳細には、第1接着層用樹脂シート、第2接着層用樹脂シート、及び、繊維強化樹脂層用材料)を重ね合わせて、積層体とする(ステップS121)。その後、加熱された金型を有するプレス成型機を用いて、積層体を所望の形状に加工しつつ、第1接着層、第2接着層及び繊維強化樹脂層を熱圧着する(ステップS123)。すなわち、図5Cに示した例では、いわゆる熱間プレス工法(ホットスタンプ工法とも呼ばれる。)を利用して、積層体を所望の形状に加工するとともに、第1接着層、第2接着層及び繊維強化樹脂層を熱圧着する。かかる方法は、鋼板の成型処理と、第1接着層、第2接着層及び繊維強化樹脂層の熱圧着処理と、を同時に実施することが可能であるため、きわめて簡便に鋼板-繊維強化樹脂複合体を形成することができる。
このような方法により、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体を形成することが可能となる。
なお、熱圧着条件についても適宜設定すればよく、例えば、200~300℃の温度及び1~5MPaの圧力で、1~30分間加熱・加圧すればよい。
以上、本実施形態に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法について、詳細に説明した。
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体について、具体的に説明する。なお、以下に示す例は、本発明に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体の一例にすぎず、本発明に係る鋼板-繊維強化樹脂複合体が下記の例に限定されるものではない。
≪鋼板部材10の作成について≫
[冷延鋼板の作成]
以下の表1に示す化学成分(残部はFe及び不純物である。)からなるスラブを熱間圧延及び酸洗後、更に冷間圧延を行い、厚さ1.4mmの冷延鋼板を得た。次に、作製した冷延鋼板を、連続焼鈍装置で最高到達板温が820℃となる条件で焼鈍した。焼鈍工程の焼鈍炉内のガス雰囲気は、1.0体積%のHを含むN雰囲気とした。作製した焼鈍工程を経た冷延鋼板を、以下では「CR」と表記する。
Figure 2024069879000002
なお、上記鋼種A~Cを使って作製した冷延鋼板から、それぞれ圧延方向に対して直角な方向にJIS5号試験片を切り出し、常温で引張試験を行って強度を測定した。表1の備考に記載したように、鋼種Aについては、980MPa以上1180MPa未満の引張強度であったことから、その材質について「980クラス」と定義した。鋼種Bについては、440MPa以上590MPa未満の引張強度であったことから、「440クラス」と定義した。鋼種Cについては、270MPa以上440MPa未満の引張強度であったことから、「270クラス」と定義した。
また、表1の鋼種A、Bについて、冷間圧延までを行って厚さ1.4mmとした冷延鋼板を、焼鈍工程を有する連続溶融めっき装置を用い、焼鈍工程において最高到達板温が820℃となる条件で焼鈍した後に、めっき工程で溶融亜鉛めっきしたものも準備した。焼鈍工程の焼鈍炉内のガス雰囲気は、1.0体積%のHを含むN雰囲気とした。
めっき鋼板としては、めっき工程でのめっき浴の成分:Zn-0.2%Al(以下、「GI」と表記する。)、Zn-0.09%Al(以下、「GA」と表記する。)、Zn-1.5%Al-1.5%Mg(以下、「Zn-Al-Mg」と表記する。)の3種を用いた。なお、Zn-0.09%Alめっき(GA)の溶融めっき浴を用いたものは、溶融めっき浴に鋼板を浸漬して、めっき浴から鋼板を引き抜きながら、スリットノズルからNガスを吹き付けてガスワイピングし、付着量を調整した後に、インダクションヒーターにて板温480℃で加熱することで合金化させて、めっき層中へ鋼板中のFeを拡散させた。
めっきした鋼板の片面当たりのめっき付着量について、GAは45g/mとし、GA以外のめっきは60g/mとした。
また、上記鋼種A、Bを使って作成した各種めっき鋼板から、それぞれ圧延方向に対して直角な方向にJIS5号試験片を切り出し、常温で引張試験を行って、強度を測定した。その結果、いずれのめっき種のものについても、表1の備考に記載したように、鋼種A由来のめっき鋼板については、980MPa以上1180MPa未満の引張強度あったことから、その材質について「980クラス」と定義した。鋼種B由来のめっき鋼板については、440MPa以上590MPa未満の引張強度であったことから、「440クラス」と定義した。
また、上記鋼板Cについては、得られた冷延鋼板に対して、炉加熱方式にて熱間プレス加熱を行い、熱間プレスを実施した。炉加熱では、炉内雰囲気を910℃、空熱比を1.1とし、鋼板温度が900℃に到達後、鋼板を速やかに炉内から取り出した。熱間プレス加工後、鋼板温度が650℃になるまで冷却した。冷却後、水冷ジャケットを備えた平板金型を利用して鋼板を挟み込んで、熱間プレスし、熱間プレス成型体を製造した。熱間プレス時冷却速度が遅い部分でも、マルテンサイト変態開始点である360℃程度まで、50度/秒以上の冷却速度になるように冷却し、焼き入れした。そして、熱間プレス成型体のスケールをショットブラストにて除去した。
このように鋼板Cを使って作製した熱間プレス成型体を、以下では「HS」と表記する。かかる熱間プレス成型体は、切り出したJIS5号試験片における引張強度が1500MPa以上であったため、その材質について「1500クラス」と定義した。
[第1接着層を構成する樹脂組成物の評価方法]
(ガラス転移温度)
JIS K7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠して測定した。なお、転移温度が2つ測定された場合は、低いほうの値をガラス転移温度として採用した。
(引張弾性率、引張破断伸び)
JIS K6251:2017(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方)に準拠して測定した。試験片は、ダンベル状5号形を用いた。ただし、引張弾性率は、JIS K7161(プラスチック-引張特性の求め方)に則した。なお、各測定は、AND社製テンシロン万能試験機RTF-2410を使用して25℃環境下にて行い、フェノキシ樹脂単独の物性(比較例1)は、JIS K7161に準拠して測定した。
(AFMによる弾性率位相イメージの観測)
クライオミクロトーム(-40℃)を用いて、樹脂ペレットの断面(直径3mm程度)を平滑にする面出しを行った後、Bruker-AXS社製NCHVプローブ(先端曲率半径10nm、ばね定数42N/m)をセットしたBruker-AXS社製Dimension Icon型AFMを用いて、25℃の雰囲気下において、任意の10μm×10μmの範囲をタッピングモードでスキャンして観測した。
なお、弾性率位相イメージの観測に際しては、製造条件が安定した段階でサンプリングした樹脂ペレット1つ当たり任意の10個の視野についての観測を、10個のそれぞれ別個な樹脂ペレットを用いて行い、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーに起因する斑点又は縞状の模様(相分離構造)の面積率を算出した。
<第1接着層を構成する樹脂組成物の作製方法>
[樹脂組成物1]
ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂(商品名:フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)のペレットと、ポリエステルエラストマー(商品名:ハイトレルBD406、東レ・デュポン株式会社製)のペレットとを、電子天秤を用いて80/20の質量割合で計り取り、ロッキングミキサー(愛知電機社製、RM-10(S))を用いて回転30rpm、揺動30rpmにて15分間混合した。この混合したペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度200℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物1を得た。得られた樹脂組成物1の評価結果を、以下の表2に示した。
なお、以下の表2等の「AFM弾性率位相イメージ画像」の欄(「AFM」と略記することもある。)において、評点「OK」は、相分離構造の面積率が1面積%以下であるか、又は、全く観察されなかったことを示し、評点「NG」は、相分離構造の面積率が1面積%超であったことを示している。
[樹脂組成物2]
ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂(商品名:フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)のペレットと、ポリエステルエラストマー(商品名:ハイトレルBD406、東レ・デュポン株式会社製)のペレットとを、電子天秤を用いて67/33の質量割合で計り取り、ロッキングミキサー(愛知電機社製、RM-10(S))を用いて回転30rpm、揺動30rpmにて15分間混合した。この混合したペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度220℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物2を得た。得られた樹脂組成物2の評価結果を、以下の表2に示し、AFMによる弾性率位相イメージの観測結果を、図6Aに示した。
[樹脂組成物3]
ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂(商品名:フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)のペレットと、ポリエステルエラストマー(商品名:ハイトレルBD406、東レ・デュポン株式会社製)のペレットとを、電子天秤を用いて60/40の質量割合で計り取り、ロッキングミキサー(愛知電機社製、RM-10(S))を用いて回転30rpm、揺動30rpmにて15分間混合した。この混合したペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度200℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物3を得た。得られた樹脂組成物3の評価結果を、以下の表2に示した。
[樹脂組成物4]
ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂(商品名:フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)のペレットと、ポリエステルエラストマー(商品名:ハイトレルBD406、東レ・デュポン株式会社製)のペレットとを、電子天秤を用いて40/60の質量割合で計り取り、ロッキングミキサー(愛知電機社製、RM-10(S))を用いて回転30rpm、揺動30rpmにて15分間混合した。この混合したペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度200℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物4を得た。得られた樹脂組成物4の評価結果を、以下の表2に示した。
[樹脂組成物5]
ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂(商品名:フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)のペレットと、ポリエステルエラストマー(商品名:ハイトレルBD406、東レ・デュポン株式会社製)のペレットとを、電子天秤を用いて33/67の質量割合で計り取り、ロッキングミキサー(愛知電機社製、RM-10(S))を用いて回転30rpm、揺動30rpmにて15分間混合した。この混合したペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度200℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物5を得た。得られた樹脂組成物5の評価結果を、以下の表2に示した。
なお、一部の例においては、上記の樹脂に加えて、各種の非導電性物質を更に混合し、非導電性物質を含む樹脂組成物5を作製した。用いた非導電性物質は、以下の通りである。
・電気抵抗率が1×10Ω・m以上である絶縁性粒子(以下の表3においては、「1×10以上粒子」と略記している。):
積水化学工業株式会社製、ミクロパールGS-L200
・電気抵抗率が1×10Ω・m未満である絶縁性粒子(以下の表3においては、「1×10未満粒子」と略記している。):石原産業株式会社製タイペークCR-95
・ガラス粒子:ユニチカ株式会社製ユニビーズSPL-200
・ガラス繊維:日東紡績株式会社製、ガラスクロスWEA7628 127 S236 FE
・アラミド繊維:日東紡績株式会社製、アラミドクロスK281
[樹脂組成物6]
ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂(商品名:フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)のペレットと、ポリエステルエラストマー(商品名:ハイトレルBD406、東レ・デュポン株式会社製)のペレットとを、電子天秤を用いて20/80の質量割合で計り取り、ロッキングミキサー(愛知電機社製、RM-10(S))を用いて回転30rpm、揺動30rpmにて15分間混合した。この混合したペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度200℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物6を得た。得られた樹脂組成物6の評価結果を、以下の表2に示した。
[樹脂組成物7]
ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂(商品名:フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)のペレット、ポリエステルエラストマー(商品名:ハイトレルBD406、東レ・デュポン株式会社製)のペレット、フェノール系酸化防止剤(商品名:アデカスタブAO-80、ADEKA株式会社製)、ホスファイト系酸化防止剤(商品名:アデカスタブPEP-36、ADEKA株式会社製)を、電子天秤を用いて33/67/0.1/0.1の質量割合で計り取り、ロッキングミキサー(愛知電機社製、RM-10(S))を用いて回転30rpm、揺動30rpmにて15分間混合した。この混合したペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度200℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物7を得た。得られた樹脂組成物7の評価結果を、以下の表2に示した。
[樹脂組成物8]
フェノキシ樹脂(商品名:フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)を100質量部使用し、ポリエステルエラストマーを配合しなかった以外は樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物8を得た。得られた樹脂組成物8の評価結果を、以下の表2に示した。
[樹脂組成物9]
ポリエステルエラストマー(商品名:ハイトレルBD406、東レ・デュポン株式会社製)を100質量部使用し、フェノキシ樹脂を配合しなかった以外は樹脂実施例1と同様にして、樹脂組成物9を得た。得られた樹脂組成物9の評価結果を、以下の表2に示し、AFMによる弾性率位相イメージの観察結果を、図6Bに示した。
[樹脂組成物10]
ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂(商品名:フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)のペレットと、ポリエチレンテレフタレート(商品名:NEH-2070、ユニチカ株式会社製)のペレットとを、電子天秤を用いて50/50の質量割合で計り取り、ロッキングミキサー(愛知電機社製、RM-10(S))を用いて回転30rpm、揺動30rpmにて15分間混合した。この混合したペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度280℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物10を得た。得られた樹脂組成物10の評価結果を、以下の表2に示し、AFMによる弾性率位相イメージの観察結果を、図6Cに示した。
Figure 2024069879000003
図6Bより、上記樹脂組成物で使用したポリエステルエラストマーBD406には、単体でポリエステルエラストマー以外の、添加剤と推測される成分が含まれていることがわかる。ポリエステルエラストマーBD406を約3割にフェノキシ樹脂YP50Sが約7割混合された図6Aを見ると、大量のフェノキシ樹脂が添加されたにもかかわらず、ポリエステルエラストマー単体である図6Bとほぼ同様の様相を呈しており、両者に起因する相分離構造が見られないことがわかる。なお、図6A及び図6Bにおける白い斑紋は、上記添加剤と推測される成分である。また、図6Aでは、縦方向に走る大きな縞模様がわずかに観測されているが、かかる縞模様は、試料を削り出した際にできた模様であり、相分離構造に起因するものではない。
ポリエステルエラストマーではなく、同じポリエステル系樹脂であるポリエチレンテレフタレートをフェノキシ樹脂に混合した場合の例が図6Cである。同じポリエステル系樹脂であっても、構成単位にポリエーテル及び/又はポリエステル単位を含むソフトセグメント(非晶相)を含まないポリエチレンテレフタレートは、フェノキシ樹脂に対して相溶性が低く、互いに分離して相分離を起こしていることが分かる。
<第1接着層となる樹脂シートの作製方法>
[樹脂組成物1]
37t自動プレス機を用いて、上記樹脂組成物1からなる厚み0.05~0.10mmの樹脂シートを作成した。成形条件:200℃、1MPaで3分プレスした後、ガス抜きを3回行い、更に、成形条件:200℃、8MPaで5分プレスを行って、加圧状態のまま60℃まで冷却した。
[樹脂組成物2]
37t自動プレス機を用いて、上記樹脂組成物2からなる厚み0.05~0.10mmの樹脂シートを作成した。成形条件:200℃、1MPaで3分プレスした後、ガス抜きを3回行い、更に、成形条件:200℃、8MPaで5分プレスを行って、加圧状態のまま60℃まで冷却した。
[樹脂組成物3]
37t自動プレス機を用いて、上記樹脂組成物3からなる厚み0.05~0.10mmの樹脂シートを作成した。成形条件:200℃、1MPaで3分プレスした後、ガス抜きを3回行い、更に、成形条件:200℃、8MPaで5分プレスを行って、加圧状態のまま60℃まで冷却した。
[樹脂組成物4]
37t自動プレス機を用いて、上記樹脂組成物4からなる厚み0.05~0.10mmの樹脂シートを作成した。成形条件:200℃、1MPaで3分プレスした後、ガス抜きを3回行い、更に、成形条件:200℃、8MPaで5分プレスを行って、加圧状態のまま60℃まで冷却した。
[樹脂組成物5]
37t自動プレス機を用いて、上記樹脂組成物5からなる厚み0.02~0.50mmの樹脂シートを作成した。成形条件:200℃、1MPaで3分プレスした後、ガス抜きを3回行い、更に、成形条件:200℃、8MPaで5分プレスを行って、加圧状態のまま60℃まで冷却した。
[樹脂組成物6]
37t自動プレス機を用いて、上記樹脂組成物6からなる厚み0.05~0.10mmの樹脂シートを作成した。成形条件:200℃、1MPaで3分プレスした後、ガス抜きを3回行い、更に、成形条件:200℃、8MPaで5分プレスを行って、加圧状態のまま60℃まで冷却した。
[樹脂組成物7]
37t自動プレス機を用いて、上記樹脂組成物7からなる厚み0.05~0.10mmの樹脂シートを作成した。成形条件:200℃、1MPaで3分プレスした後、ガス抜きを3回行い、更に、成形条件:200℃、8MPaで5分プレスを行って、加圧状態のまま60℃まで冷却した。
[樹脂組成物8]
37t自動プレス機を用いて、上記樹脂組成物8からなる厚み0.05~0.10mmの樹脂シートを作成した。成形条件:200℃、1MPaで3分プレスした後、ガス抜きを3回行い、更に、成形条件:200℃、8MPaで5分プレスを行って、加圧状態のまま60℃まで冷却した。
[樹脂組成物9]
37t自動プレス機を用いて、上記樹脂組成物9からなる厚み0.05~0.10mmの樹脂シートを作成した。成形条件:200℃、1MPaで3分プレスした後、ガス抜きを3回行い、更に、成形条件:200℃、8MPaで5分プレスを行って、加圧状態のまま60℃まで冷却した。
[樹脂組成物10]
37t自動プレス機を用いて、上記樹脂組成物10からなる厚み0.05~0.10mmの樹脂シートを作成した。成形条件:280℃、1MPaで3分プレスした後、ガス抜きを3回行い、更に、成形条件:200℃、8MPaで5分プレスを行って、加圧状態のまま60℃まで冷却した。
<第2接着層を構成する樹脂組成物の作製方法>
[樹脂組成物A]
フェノキシ樹脂(商品名:フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)を100質量部使用した。このペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度200℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物Aを得た。得られた樹脂組成物Aについて、第1接着層となる樹脂組成物と同様にして引張弾性率を測定し、得られた結果を、以下の表3に示した。
[樹脂組成物B]
ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂(商品名:フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)のペレットと、ポリエステルエラストマー(商品名:ハイトレルBD406、東レ・デュポン株式会社製)のペレットとを、電子天秤を用いて60/40の質量割合で計り取り、ロッキングミキサー(愛知電機社製、RM-10(S))を用いて回転30rpm、揺動30rpmにて15分間混合した。この混合したペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度200℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物Bを得た。得られた樹脂組成物Bの引張弾性率の測定結果を、以下の表3に示した。
[樹脂組成物C]
ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂(商品名:フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)のペレットと、共重合ポリアミド(商品名:グリロンC CR9、エムスケミー・ジャパン株式会社製)のペレットとを、電子天秤を用いて40/60の質量割合で計り取り、ロッキングミキサー(愛知電機社製、RM-10(S))を用いて回転30rpm、揺動30rpmにて15分間混合した。この混合したペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度200℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物Cを得た。得られた樹脂組成物Cの引張弾性率の測定結果を、以下の表3に示した。
[樹脂組成物D]
共重合ポリアミド(商品名:グリロンC CR9、エムスケミー・ジャパン株式会社製)を100質量部使用した。このペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度200℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物Dを得た。得られた樹脂組成物Dについて、第1接着層となる樹脂組成物と同様にして引張弾性率を測定し、得られた結果を、以下の表3に示した。
[樹脂組成物E]
ポリエステルエラストマー(商品名:ハイトレルBD406、東レ・デュポン株式会社製)のペレットと、共重合ポリアミド(商品名:グリロンC CR9、エムスケミー・ジャパン株式会社製)のペレットとを、電子天秤を用いて40/60の質量割合で計り取り、ロッキングミキサー(愛知電機社製、RM-10(S))を用いて回転30rpm、揺動30rpmにて15分間混合した。この混合したペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度200℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物Eを得た。得られた樹脂組成物Eの引張弾性率の測定結果を、以下の表3に示した。
[樹脂組成物F]
ポリエステルエラストマー(商品名:ハイトレルBD406、東レ・デュポン株式会社製)を100質量部使用した。このペレットを、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、L/D約50、シリンダー設定温度200℃、回転数220rpm)のホッパーに投入し、吐出量12kg/hの運転条件で溶融混練を行うことで、樹脂組成物Fを得た。得られた樹脂組成物Fについて、第1接着層となる樹脂組成物と同様にして引張弾性率を測定し、得られた結果を、以下の表3に示した。
なお、一部の例においては、樹脂に加えて、各種の非導電性物質を更に混合し、非導電性物質を含む樹脂組成物を作製した。用いた非導電性物質は、上記と同様である。
<第2接着層となる樹脂シートの作製方法>
37t自動プレス機を用いて、各樹脂組成物からなる厚み0.02~0.50mmの樹脂シートを作成した。成形条件:200℃、1MPaで3分プレスした後、ガス抜きを3回行い、更に、成形条件:200℃、8MPaで5分プレスを行って、加圧状態のまま60℃まで冷却した。
Figure 2024069879000004
<樹脂層となる樹脂シートの作製方法>
上記表2に示した樹脂組成物8と、上記の非導電性物質のそれぞれとを用い、第1接着層となる樹脂シートの作製方法と同様にして、樹脂層となる樹脂シートを作製した。
≪繊維強化樹脂層の作製について≫
(フェノキシCFRP、GFRP、アラミド繊維強化樹脂)
日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製ビスフェノールA型フェノキシ樹脂「フェノトートYP-50S」を粉砕及び分級した、平均粒子径D50が80μmである粉体を、炭素繊維からなる強化繊維基材(サカイオーベックス株式会社製、SA-3203)、ガラス繊維からなる強化繊維基材(日東紡績株式会社製、ガラスクロスWEA7628 127 S236 FE)、又は、アラミド繊維からなる強化繊維基材(日東紡績株式会社製、アラミドクロスK281)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、粉体塗装後の強化繊維基材を積層させ、この積層体を、240℃に加熱したプレス機で3MPa、5分間プレスして樹脂を熱融着させ、厚み1.0mm又は1.6mm、Vf(繊維体積含有率)60%のフェノキシ樹脂CFRP層形成用材料、フェノキシ樹脂GFRP層形成用材料、及び、フェノキシ樹脂AFRP層形成用材料を作製した。
なお、粉砕及び分級したフェノキシ樹脂の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX、日機装社製)により、体積基準で累積体積が50%となるときの粒子径を測定した。
(ポストベークフェノキシCFRP)
日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製ビスフェノールA型フェノキシ樹脂「YP-50S」、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製結晶性エポキシ樹脂「YSLV-80XY」、SABIC社製酸無水物「BISDA」を、それぞれ粉砕及び分級して、平均粒子径D50が80μmである粉体とした。かかる粉体について、YP-50Sを44質量部、YSLV-80XYを17質量部、BISDAを39質量部準備し、ロッキングミキサーで混合した。得られた混合粉末を、炭素繊維からなる強化繊維基材(サカイオーベックス株式会社製、SA-3202I)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、粉体塗装後の強化繊維基材を積層させ、この積層体を、200℃に加熱したプレス機で5MPa、10分間プレスして脱型温度200℃で取出し、厚み1.0mm、Vf(繊維体積含有率)60%の架橋型フェノキシ樹脂CFRP層形成用材料を作製した。
(エポキシCFRP)
汎用PAN系炭素繊維プリプレグ(東レ株式会社製P6343B-05P、Vf(繊維体積含有率)47%)を必要枚数積層し、オートクレーブにて130℃、5気圧、2時間の条件で成形することで、厚み1.0mm又は1.6mmのエポキシ樹脂CFRP層形成用材料を用意した。
≪鋼板-繊維強化樹脂複合体の形成方法について≫
次に、鋼板上に、作製した第1接着層、第2接着層、(樹脂層)、繊維強化樹脂層を順に重ね、240℃に加熱した平金型を有するプレス機で、3MPaで3分間プレスすることで、複合材サンプルとしての金属-FRP複合体を作製した。なお、用いた第1接着層、第2接着層、樹脂層、繊維強化樹脂層の組み合わせは、以下の表4に示した通りである。
≪評価方法≫
[三点曲げ試験]
1.三点曲げ試験体の作製
作製した鋼板から、275mm×820mmサイズの試験片を切り出し、作製した第1接着層、第2接着層、(樹脂層)、繊維強化樹脂層より、80mm×800mmのサイズの試験片をそれぞれ切り出した。次に、切り出した鋼板の中央に位置するように各層を積層し、250℃に加熱した平金型を有するプレス機で、3MPaの圧力で3分間プレスすることで、複合体サンプルとしての鋼板-FRP複合体を作製した。なお、第1接着層として、樹脂組成物10を用いた場合は、280℃にてプレスを行った。更に、作製した複合体サンプルを、曲げプレス機にて加工し、ハット型形状の鋼板-FRP複合体成形サンプルを作製した。
ただし、鋼種Cを使ったサンプルについては、まず、得られた冷延鋼板について、炉加熱方式にて熱間プレス加熱を行い、熱間プレスを実施した。炉加熱では、炉内雰囲気を910℃、空熱比を1.1とし、鋼板温度が900℃に到達後、鋼板を速やかに炉内から取り出した。熱間プレス加工後、鋼板温度が650℃になるまで冷却した。冷却後、水冷ジャケットを備えた平金型を利用して、鋼板を挟み込んで熱間プレスし、ハット型の熱間プレス成型体を製造した。熱間プレス時の冷却速度が遅い部分でも、マルテンサイト変態開始点である360℃程度まで、50℃/秒以上の冷却速度になるように冷却し、焼き入れした。次に、熱間プレス成型体のスケールをショットブラストにて除去した。そして、ショットブラスト後のハット型成型体に対し、第1接着層、第2接着層、(樹脂層)、繊維強化樹脂層を積層して、250℃に加熱した平金型を有するプレス機で、3MPaの圧力で3分間プレスすることで、複合体サンプルとしての鋼板-FRP複合体を作製した。
また、第1接着層、第2接着層、(樹脂層)、繊維強化樹脂層を積層していない275mm×820mmサイズの鋼板のみを使って、上記と同様に、曲げプレス機にて加工して、ハット型形状の鋼板成形体サンプルを作製した。
その後、作製した鋼板-FRP複合体成形サンプルが上側となり、鋼板成形体が下部となるように両者のフランジ部を突き合わせ、フランジ部をスポット溶接することで、図7に模式的に示したような形状を有する三点曲げ試験体を作製した。なお、スポット溶接は、フランジ部の長さ方向に対して、30mmピッチで溶接した。試験体を作製する場合、上側の複合成形体と、下側の金属板成形体とは、互いに同一の鋼板を用いて作製したものとし、三点曲げ試験体とした。
2.三点曲げ試験方法
図8に示した要領で、上記試験体を2点の支点(支点間距離:700mm)で支持し、支点間距離の中央部を荷重点として、荷重点に圧子を垂直下部方向に移動させることで荷重点に力を加え、荷重点圧子に加わる荷重を測定することで三点曲げ試験を行った。荷重点圧子の移動速度は、0.83mm/sとした。そして、荷重点圧子に加わる荷重の最大荷重を測定した。
あわせて、上記試験体の曲げ部中心から左右に150mmずつの位置における、鋼板/FRP界面の剥離面積率を測定し、得られた剥離面積率に基づき、鋼板とFRPとの複合度合いの評価指標としての「剥離状態」を評価した。剥離面積率は、800mm長さ×300mm幅のCFRPが貼り付け部分の中で、中央部の荷重点(曲げ変形部分)を中心とした300mm長さの部分(300mm長さ×300mm幅)における鋼板と第一接着層又は第二接着層の界面での剥離面積の割合とした。
また、比較として、上側成形体及び下側成形体ともに鋼板成形体を用いた三点曲げ試験体(すなわち、第1接着層、第2接着層、樹脂層、繊維強化樹脂層を使用していない成形体同士を組み合わせた試験体、以下、「鋼板試験体」と称する。)について、上記と同様に三点曲げ試験時の最大荷重を測定した。
上記三点曲げ試験体の最大荷重を上記鋼板試験体の最大荷重で除することで、上記三点曲げ試験体の最大荷重を相対化して、「補剛効果評価」とした。「補剛効果評価」の評価基準は、以下の通りである。評点「C」以上を合格と判断した。
◇評価基準
A:1.10倍以上
B:1.05倍以上1.10倍未満
C:1.00倍超1.05倍未満
D:1.00倍以下
更に、三点曲げ試験体の最大荷重そのものについても、「絶対強度評価」として評価した。「絶対強度評価」の評価基準は、以下の通りである。
◇評価基準
A:30kN以上
B:25kN以上30kN未満
C:15kN以上25kN未満
D:10kN以上15kN未満
E:10kN未満
また、「剥離状態」の評価基準は、以下の通りである。評点「B」以上を合格と判断した。
◇評価基準
A:50%未満
B:50%以上70%未満
C:70%以上
[耐食性試験]
幅70mm×長さ150mmの塗膜層又は皮膜層を積層した鋼板の中央に、鋼板と第1接着層、第2接着層、(樹脂層)、繊維強化樹脂層の複合部が、幅50mm×長さ100mmになるように第1接着層、第2接着層、(樹脂層)、繊維強化樹脂層を重ねてプレスした複合サンプルを用いて、脱脂、表面調整、リン酸亜鉛処理を行った後に、電着塗装を施した。なお、以下のNo.44については、第1接着層及び第2接着層が繊維強化樹脂層よりも2mm程度外周にはみ出させるような、テラス構造とした。
脱脂は、日本パーカライジング株式会社製の脱脂剤(商品名:ファインクリーナーE2083)の18g/l水溶液を、40℃で120sスプレーし、水洗することで冷延鋼板の脱脂を行った。次に、脱脂した冷延鋼板を、日本パーカライジング株式会社製の表面調整剤(商品名:プレパレンXG)の0.5g/l水溶液に、常温で60秒間浸漬した。その後、日本パーカライジング株式会社製のリン酸亜鉛処理剤(商品名:パルボンドL3065)に120秒間浸漬し、水洗、乾燥することで、化成処理を施した鋼板を得た。その後、日本ペイント株式会社製の電着塗料(商品名:パワーニクス)を15μm電着塗装し、170℃雰囲気のオーブンで20分焼き付けたものを、サンプルとして用いた。
作製したサンプルを用いて、サイクル腐食試験(CCT)を行った。CCTのモードは、JIS H8520:1999の中性塩水噴霧サイクル試験に準じて行った。サンプルは、FRP側を評価面として、評価面に塩水が噴霧されるように試験機に設置して、試験を行った。耐食性の評価は、240サイクル後のサンプルの外観を目視観察し、最大赤錆発生幅を求めた。赤錆発生幅が小さいものほど、耐食性に優れていることを示している。また、赤錆は、鋼板に貼り付けた第1接着層及び第2接着層の端付近から発生するため、樹脂層端部から発生する腐食幅を測定した。そして、樹脂層全端部からの腐食幅のうち、最も腐食幅の大きい箇所を最大腐食幅として評価した。評価基準は、以下の通りである。評点「D」以上を合格と判断した。
◇評価基準
A:最大腐食幅が、2mm未満
B:最大腐食幅が、2mm超4mm以下
C:最大腐食幅が、4mm超6mm以下
D:最大腐食幅が、6mm超8mm以下
E:最大腐食幅が、8mm超
得られた結果を、以下の表5にまとめて示した。
Figure 2024069879000005
Figure 2024069879000006
上記表4及び表5から明らかなように、本発明の実施例に該当するものは、耐食性試験及び三点曲げ試験において優れた評価結果を示した一方で、本発明の比較例に該当するものは、耐食性試験、又は、三点曲げ試験の少なくとも何れかで、不合格に該当する試験結果を示した。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではない。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲、後述するような本発明の技術的範囲に属する構成及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。例えば、上記実施形態の構成要件は、その効果を損なわない範囲内で、任意に組み合わせることが可能である。また、当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的又は例示的なものであって、限定的ではない。つまり、本発明に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
なお、以下のような構成も、本発明の技術的範囲に属する。
(1)鋼板、又は、当該鋼板の成形体からなる鋼板部材と、
前記鋼板部材の表面の少なくとも一部に位置し、異なる2種類の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層と、
前記第1接着層の表面の少なくとも一部に位置し、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層と、
前記第2接着層の表面の少なくとも一部に位置し、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層と、
を備え、
前記第1接着層の前記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~80:20の範囲内で含有し、
前記第1接着層の前記樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)により観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である、鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(2)前記繊維強化樹脂層中の前記強化繊維は、導電性を有しており、
前記第1接着層又は前記第2接着層の少なくとも何れかは、更に非導電性物質を含む、(1)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(3)前記繊維強化樹脂層中の前記強化繊維は、導電性を有しており、
前記第2接着層と前記繊維強化樹脂層との間、かつ、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に位置し、非導電性物質を含む樹脂層を更に有する、(1)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(4)前記非導電性物質は、電気抵抗率が1×10Ω・m以上である絶縁性粒子、ガラス粒子、ガラス繊維、又は、アラミド繊維より選ばれる少なくとも1種である、(2)又は(3)に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(5)前記第1接着層の前記樹脂組成物は、ガラス転移温度が60℃以下であり、25℃での引張弾性率が2500MPa以下であり、かつ、引張破断伸びが5%以上である、(1)~(4)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(6)前記第1接着層の前記樹脂組成物は、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~60:40の範囲内で含有する、(1)~(5)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(7)前記第1接着層の前記樹脂組成物は、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が25:75~50:50の範囲内で含有する、(1)~(6)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(8)前記繊維強化樹脂層の上方から平面視したときに、
前記第1接着層及び前記第2接着層は同じ大きさであり、かつ、前記繊維強化樹脂層は、前記第1接着層よりも小さい大きさである、(1)~(7)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(9)前記第2接着層は、前記第1接着層の表面及び側面を覆うように設けられる、(1)~(7)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(10)前記第1接着層に含まれる前記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂である、(1)~(9)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(11)前記繊維強化樹脂層の前記マトリックス樹脂は、フェノキシ樹脂を主成分とする、(1)~(10)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(12)前記繊維強化樹脂層の前記マトリックス樹脂は、ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂を主成分とする、(1)~(11)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(13)前記繊維強化樹脂層の前記強化繊維は、炭素強化繊維である、(1)~(12)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(14)前記第2接着層の前記樹脂は、フェノキシ樹脂である、(1)~(13)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(15)前記第2接着層の前記樹脂は、ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂である、(1)~(14)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(16)前記鋼板は、1500MPa以上の引張強度を有する、(1)~(15)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
(17)(1)~(16)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体を製造する製造方法であって、
鋼板の表面の少なくとも一部に対し、異なる2種の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層を重ね合わせ、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層を重ね合わせ、かつ、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層を重ね合わせ、
前記鋼板に対し、前記第1接着層、前記第2接着層及び前記繊維強化樹脂層を熱圧着するものであり、
前記第1接着層の前記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~80:20の範囲内で含有し、
前記第1接着層の前記樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)により観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である、鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法。
(18)(1)~(16)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体を製造する製造方法であって、
鋼板をプレス成型して鋼板の成形体とした後、
前記鋼板の成形体の表面の少なくとも一部に対し、異なる2種の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層を重ね合わせ、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層を重ね合わせ、かつ、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層を重ね合わせ、
前記鋼板の成形体に対し、前記第1接着層、前記第2接着層及び前記繊維強化樹脂層を熱圧着するものであり、
前記第1接着層の前記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~80:20の範囲内で含有し、
前記第1接着層の前記樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)により観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である、鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法。
(19)(1)~(16)の何れか1つに記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体を製造する製造方法であって、
鋼板の表面の少なくとも一部に対し、異なる2種の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層を重ね合わせ、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層を重ね合わせ、かつ、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層を重ね合わせて積層体とし、
加熱された金型を有するプレス成型機を用いて前記積層体を加工して、前記鋼板に対して前記第1接着層、前記第2接着層及び前記繊維強化樹脂層を熱圧着しながら前記鋼板を成形体とするものであり、
前記第1接着層の前記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~80:20の範囲内で含有し、
前記第1接着層の前記樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)により観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である、鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法。
1 鋼板-繊維強化樹脂複合体
10 鋼板部材
20 第1接着層
30 第2接着層
40 繊維強化樹脂層
50 樹脂層

Claims (18)

  1. 鋼板、又は、当該鋼板の成形体からなる鋼板部材と、
    前記鋼板部材の表面の少なくとも一部に位置し、異なる2種類の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層と、
    前記第1接着層の表面の少なくとも一部に位置し、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層と、
    前記第2接着層の表面の少なくとも一部に位置し、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層と、
    を備え、
    前記第1接着層の前記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~80:20の範囲内で含有し、
    前記第1接着層の前記樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)により観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である、鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  2. 前記繊維強化樹脂層中の前記強化繊維は、導電性を有しており、かつ、
    前記第1接着層又は前記第2接着層の少なくとも何れかが更に非導電性物質を含むか、又は、前記第2接着層と前記繊維強化樹脂層との間、かつ、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に、非導電性物質を含む樹脂層を更に有する、請求項1に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  3. 前記非導電性物質は、電気抵抗率が1×10Ω・m以上である絶縁性粒子、ガラス粒子、ガラス繊維、又は、アラミド繊維より選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  4. 前記第1接着層の前記樹脂組成物は、ガラス転移温度が60℃以下であり、25℃での引張弾性率が2500MPa以下であり、かつ、引張破断伸びが5%以上である、請求項1又は2に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  5. 前記第1接着層の前記樹脂組成物は、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~60:40の範囲内で含有する、請求項1又は2に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  6. 前記第1接着層の前記樹脂組成物は、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が25:75~50:50の範囲内で含有する、請求項5に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  7. 前記繊維強化樹脂層の上方から平面視したときに、
    前記第1接着層及び前記第2接着層は同じ大きさであり、かつ、前記繊維強化樹脂層は、前記第1接着層よりも小さい大きさである、請求項1又は2に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  8. 前記第2接着層は、前記第1接着層の表面及び側面を覆うように設けられる、請求項1又は2に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  9. 前記第1接着層に含まれる前記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂である、請求項1又は2に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  10. 前記繊維強化樹脂層の前記マトリックス樹脂は、フェノキシ樹脂を主成分とする、請求項1又は2に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  11. 前記繊維強化樹脂層の前記マトリックス樹脂は、ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂を主成分とする、請求項10に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  12. 前記繊維強化樹脂層の前記強化繊維は、炭素強化繊維である、請求項1又は2に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  13. 前記第2接着層の前記樹脂は、フェノキシ樹脂である、請求項1又は2に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  14. 前記第2接着層の前記樹脂は、ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂である、請求項13に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  15. 前記鋼板は、1500MPa以上の引張強度を有する、請求項1又は2に記載の鋼板-繊維強化樹脂複合体。
  16. 鋼板、又は、当該鋼板の成形体からなる鋼板部材と、前記鋼板部材の表面の少なくとも一部に位置し、異なる2種類の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層と、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に位置する第2接着層と、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に位置し、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層と、を有する鋼板-繊維強化樹脂複合体を製造する製造方法であって、
    鋼板の表面の少なくとも一部に対し、異なる2種の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層を重ね合わせ、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層を重ね合わせ、かつ、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層を重ね合わせ、
    前記鋼板に対し、前記第1接着層、前記第2接着層及び前記繊維強化樹脂層を熱圧着するものであり、
    前記第1接着層の前記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~80:20の範囲内で含有し、
    前記第1接着層の前記樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)により観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である、鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法。
  17. 鋼板、又は、当該鋼板の成形体からなる鋼板部材と、前記鋼板部材の表面の少なくとも一部に位置し、異なる2種類の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層と、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に位置する第2接着層と、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に位置し、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層と、を有する鋼板-繊維強化樹脂複合体を製造する製造方法であって、
    鋼板をプレス成型して鋼板の成形体とした後、
    前記鋼板の成形体の表面の少なくとも一部に対し、異なる2種の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層を重ね合わせ、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層を重ね合わせ、かつ、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層を重ね合わせ、
    前記鋼板の成形体に対し、前記第1接着層、前記第2接着層及び前記繊維強化樹脂層を熱圧着するものであり、
    前記第1接着層の前記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~80:20の範囲内で含有し、
    前記第1接着層の前記樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)により観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である、鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法。
  18. 鋼板、又は、当該鋼板の成形体からなる鋼板部材と、前記鋼板部材の表面の少なくとも一部に位置し、異なる2種類の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層と、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に位置する第2接着層と、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に位置し、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層と、を有する鋼板-繊維強化樹脂複合体を製造する製造方法であって、
    鋼板の表面の少なくとも一部に対し、異なる2種の材質の樹脂組成物を主成分とする第1接着層を重ね合わせ、前記第1接着層の表面の少なくとも一部に、25℃での引張弾性率が500MPa以上である樹脂を主成分とする第2接着層を重ね合わせ、かつ、前記第2接着層の表面の少なくとも一部に、マトリックス樹脂中に強化繊維を含む繊維強化樹脂で構成される繊維強化樹脂層を重ね合わせて積層体とし、
    加熱された金型を有するプレス成型機を用いて前記積層体を加工して、前記鋼板に対して前記第1接着層、前記第2接着層及び前記繊維強化樹脂層を熱圧着しながら前記鋼板を成形体とするものであり、
    前記第1接着層の前記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリエステルエラストマーとを、質量比(フェノキシ樹脂:ポリエステルエラストマー)が20:80~80:20の範囲内で含有し、
    前記第1接着層の前記樹脂組成物を、25℃での雰囲気下で先端半径10nmの探針が装着された原子間力顕微鏡(AFM)により観察することで得られる、複数かつ任意の10μm四方の領域における弾性率位相イメージ画像において、前記フェノキシ樹脂と前記ポリエステルエラストマーに起因する相分離構造を形成している箇所の面積率が、全観察面積の1面積%以下である、鋼板-繊維強化樹脂複合体の製造方法。

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