JP2024067235A - 重ね隅肉溶接継手の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】溶接ビードにおける気孔欠陥が低減された重ね隅肉溶接継手の製造方法を開示する。【解決手段】本開示の重ね隅肉溶接継手の製造方法は、第1鋼板と第2鋼板とを重ね合わせたうえでタック溶接を施すこと、及び、前記タック溶接後、本溶接予定箇所に対して本溶接を施すこと、を含み、前記本溶接予定箇所にめっき層が存在し、以下の条件1~3のうちの少なくとも1つを満たす。条件1:本溶接予定箇所の始端側にタック溶接を施した後、終端側にタック溶接を施すことなく、始端側から終端側に向かって本溶接を施す。条件2:本溶接予定箇所の終端側にタック溶接を施した後、さらに始端側にタック溶接を施したうえで、始端側から終端側に向かって本溶接を施す。条件3:本溶接予定箇所の始端側及び終端側の双方にタック溶接を施し、60秒以上経過後、始端側から終端側に向かって本溶接を施す。【選択図】図5
Description
本願は重ね隅肉溶接継手の製造方法を開示する。
鋼板同士を接合する技術としてアーク溶接が知られている。アーク溶接の課題としては、溶接ビードにおいて強度が低下し易いことが挙げられる。溶接ビードにおける強度の低下は、めっき層を有する鋼板を溶接した場合に生じ易い。具体的には、鋼板同士をめっき層ごと溶接すると、溶接ビード内にめっき蒸気が閉じ込められて気孔欠陥(ピット、ブローホール、ウォームホール)となり、これが強度低下の原因の一つとなる。また、気孔欠陥によって継手の外観品位が損なわれる虞もある。このような問題は、重ね隅肉溶接やT字隅肉溶接といった溶接形態によらず同様に生じる。溶接ビードの気孔欠陥を低減する方法としては、例えば、鋼板同士を溶接する際、鋼板間に隙間を形成して、溶融池から当該隙間へとめっき蒸気を排出する方法が知られている(特許文献1及び2)。具体的には、鋼板同士を溶接する際、鋼板同士の重ね合わせ面に隙間が生じるよう、上板や下板にプレス加工で突起を設けることがなされている。或いは、コイニング加工等によって多数の溝を設けることで、鋼板同士を密着させつつめっき蒸気の排出経路を確保する方法などもある。
重ね隅肉溶接の際、上板や下板が治具などに配置・固定されている場合、上板や下板に突起や溝を形成することは困難である。そのため、重ね隅肉溶接の前に鋼板表面に突起や溝を形成する必要があり、追加工が必要となってコストが増大する。また、重ね隅肉溶接の際、上板と下板との隙間があまりに大き過ぎると、溶接時の穴あきや溶け落ち、裏抜けが過大になって、健全な溶接ビードの形成が困難になる虞がある。この点、上板と下板との間の隙間を小さく抑えるために、鋼板表面に設けられる突起や溝を小さくする必要があるところ、そのような小さな突起や隙間を安定的に形成することは難しい。また、突起や溝を形成するには十分な重ね代が必要であり、重量の増加や材料コストの増加を招く。
本願は、上記課題を解決するための手段の一つとして、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
重ね隅肉溶接継手の製造方法であって、
第1鋼板と第2鋼板とを重ね合わせたうえでタック溶接を施すこと、及び、
前記タック溶接後、本溶接予定箇所に対して本溶接を施すこと、を含み、
前記本溶接予定箇所にめっき層が存在し、
以下の条件1~3のうちの少なくとも1つが満たされる、製造方法。
条件1:前記本溶接予定箇所の始端側に前記タック溶接を施した後、終端側に前記タック溶接を施すことなく、始端側から終端側に向かって前記本溶接を施す。
条件2:前記本溶接予定箇所の終端側に前記タック溶接を施した後、さらに始端側に前記タック溶接を施したうえで、始端側から終端側に向かって前記本溶接を施す。
条件3:前記本溶接予定箇所の始端側及び終端側の双方に前記タック溶接を施し、60秒以上経過後、始端側から終端側に向かって前記本溶接を施す。
<態様2>
前記第1鋼板及び前記第2鋼板の板厚が3.2mm以下である、
態様1の製造方法。
<態様3>
前記タック溶接のビード幅W1と前記本溶接のビード幅W2との比W1/W2が1.2以上2.0以下である、
態様1又は2の製造方法。
<態様4>
前記タック溶接が前記本溶接予定箇所から50mm以内の位置に施される、
態様1~3のいずれかの製造方法。
<態様5>
前記タック溶接が複数施される場合に、前記タック溶接の間隔が30mm以上である、
態様1~4のいずれかの製造方法。
<態様6>
前記めっき層が亜鉛系めっき層である、
態様1~5のいずれかの製造方法。
<態様7>
前記第1鋼板が、前記第2鋼板側に面する第1面と、前記第1面とは反対側に面する第2面とを有し、
前記第2鋼板が、前記第1鋼板側に面する第3面と、前記第3面とは反対側に面する第4面とを有し、
前記第2鋼板の端部が、溶接ビードを介して、前記第1面に接合され、
前記第1面及び前記第3面のうちの一方又は両方に、前記めっき層が形成され、
前記第1面及び前記第3面に対する前記めっき層の合計の付着量が、10g/m2以上500g/m2以下である、
態様1~6のいずれかの製造方法。
<態様1>
重ね隅肉溶接継手の製造方法であって、
第1鋼板と第2鋼板とを重ね合わせたうえでタック溶接を施すこと、及び、
前記タック溶接後、本溶接予定箇所に対して本溶接を施すこと、を含み、
前記本溶接予定箇所にめっき層が存在し、
以下の条件1~3のうちの少なくとも1つが満たされる、製造方法。
条件1:前記本溶接予定箇所の始端側に前記タック溶接を施した後、終端側に前記タック溶接を施すことなく、始端側から終端側に向かって前記本溶接を施す。
条件2:前記本溶接予定箇所の終端側に前記タック溶接を施した後、さらに始端側に前記タック溶接を施したうえで、始端側から終端側に向かって前記本溶接を施す。
条件3:前記本溶接予定箇所の始端側及び終端側の双方に前記タック溶接を施し、60秒以上経過後、始端側から終端側に向かって前記本溶接を施す。
<態様2>
前記第1鋼板及び前記第2鋼板の板厚が3.2mm以下である、
態様1の製造方法。
<態様3>
前記タック溶接のビード幅W1と前記本溶接のビード幅W2との比W1/W2が1.2以上2.0以下である、
態様1又は2の製造方法。
<態様4>
前記タック溶接が前記本溶接予定箇所から50mm以内の位置に施される、
態様1~3のいずれかの製造方法。
<態様5>
前記タック溶接が複数施される場合に、前記タック溶接の間隔が30mm以上である、
態様1~4のいずれかの製造方法。
<態様6>
前記めっき層が亜鉛系めっき層である、
態様1~5のいずれかの製造方法。
<態様7>
前記第1鋼板が、前記第2鋼板側に面する第1面と、前記第1面とは反対側に面する第2面とを有し、
前記第2鋼板が、前記第1鋼板側に面する第3面と、前記第3面とは反対側に面する第4面とを有し、
前記第2鋼板の端部が、溶接ビードを介して、前記第1面に接合され、
前記第1面及び前記第3面のうちの一方又は両方に、前記めっき層が形成され、
前記第1面及び前記第3面に対する前記めっき層の合計の付着量が、10g/m2以上500g/m2以下である、
態様1~6のいずれかの製造方法。
本開示の方法によれば、溶接ビードにおける気孔欠陥が低減された重ね隅肉溶接継手を製造することができる。本開示の方法においては、鋼板表面に突起や溝を設ける必要がないことから、コストの増加や重量の増加が抑えられ易い。
以下、図面を参照しつつ、一実施形態に係る重ね隅肉溶接継手の製造方法について説明するが、本開示の製造方法は図示された形態に限定されるものではない。図1~3に示されるように、本開示の製造方法は、第1鋼板10と第2鋼板20とを重ね合わせたうえでタック溶接X1を施すこと、及び、前記タック溶接後、本溶接予定箇所30に対して本溶接X2を施すこと、を含む。ここで、図4Aに示されるように、前記本溶接予定箇所30にはめっき層41、43が存在する。また、図1~3に示されるように、本開示の製造方法においては、以下の条件1~3のうちの少なくとも1つが満たされる。
条件1:前記本溶接予定箇所30の始端31側に前記タック溶接X1を施した後、終端32側に前記タック溶接X1を施すことなく、始端31側から終端32側に向かって前記本溶接X2を施す(図1)。
条件2:前記本溶接予定箇所30の終端32側に前記タック溶接X1を施した後、さらに始端31側に前記タック溶接X1を施したうえで、始端31側から終端32側に向かって前記本溶接X2を施す(図2)。
条件3:前記本溶接予定箇所30の始端31側及び終端32側の双方に前記タック溶接X1を施し、60秒以上経過後、始端31側から終端32側に向かって前記本溶接X2を施す(図3)。
1.タック溶接
タック溶接は仮付け溶接とも呼ばれる。従来のタック溶接は、本溶接における溶接変形等による鋼板の位置ズレを防止するためのものである。具体的には、従来のタック溶接は、本溶接の際の鋼板の位置ズレを防止するために、本溶接予定箇所の終端側に施されるものである。これに対し、本開示の製造方法においては、溶接ビード50における気孔欠陥を低減するために、タック溶接X1を施す。本開示の製造方法におけるタック溶接X1は、従来のタック溶接と比べて、溶接方法や溶接部形状は同じであってよいものの、タック溶接X1の位置や順番が異なる。具体的には、本開示の製造方法においては、以下の条件1~3のうちの少なくとも1つが満たされるように、タック溶接X1が施される。
タック溶接は仮付け溶接とも呼ばれる。従来のタック溶接は、本溶接における溶接変形等による鋼板の位置ズレを防止するためのものである。具体的には、従来のタック溶接は、本溶接の際の鋼板の位置ズレを防止するために、本溶接予定箇所の終端側に施されるものである。これに対し、本開示の製造方法においては、溶接ビード50における気孔欠陥を低減するために、タック溶接X1を施す。本開示の製造方法におけるタック溶接X1は、従来のタック溶接と比べて、溶接方法や溶接部形状は同じであってよいものの、タック溶接X1の位置や順番が異なる。具体的には、本開示の製造方法においては、以下の条件1~3のうちの少なくとも1つが満たされるように、タック溶接X1が施される。
1.1 条件1
図1に示されるように、条件1においては、本溶接予定箇所30の始端31側にタック溶接X1を施した後、終端32側にタック溶接X1を施すことなく、始端31側から終端32側に向かって本溶接X2を施す。条件1において、始端31側のタック溶接X1の完了から本溶接X2を開始するまでの時間に特に制限はない。例えば、タック溶接X1の溶融池が冷却固化する前に本溶接X2を開始してもよいし、冷却固化した後に本溶接X2を開始してもよい。好ましくは、タック溶接X1の溶融池が冷却固化した後、より好ましくは、タック溶接X1の溶融池が冷却固化して、赤熱状態が実質的に消失する温度以下(例えば、500℃以下)となった後に、本溶接X2が開始され得る。本発明者の新たな知見によると、始端31側のタック溶接X1によれば、鋼板の位置ズレを抑制する効果は小さいものの、溶接ビード50における気孔欠陥を大きく低減する効果が得られる。詳細なメカニズムは不明であるが、始端31側にタック溶接X1が施されることで、本溶接X2において第1鋼板10と第2鋼板20との間に適度な隙間Gが生じ、当該隙間Gを介して溶融池からめっき蒸気が効率的に排出され、結果として気孔欠陥の少ない溶接ビード50が得られるものと考えられる。
図1に示されるように、条件1においては、本溶接予定箇所30の始端31側にタック溶接X1を施した後、終端32側にタック溶接X1を施すことなく、始端31側から終端32側に向かって本溶接X2を施す。条件1において、始端31側のタック溶接X1の完了から本溶接X2を開始するまでの時間に特に制限はない。例えば、タック溶接X1の溶融池が冷却固化する前に本溶接X2を開始してもよいし、冷却固化した後に本溶接X2を開始してもよい。好ましくは、タック溶接X1の溶融池が冷却固化した後、より好ましくは、タック溶接X1の溶融池が冷却固化して、赤熱状態が実質的に消失する温度以下(例えば、500℃以下)となった後に、本溶接X2が開始され得る。本発明者の新たな知見によると、始端31側のタック溶接X1によれば、鋼板の位置ズレを抑制する効果は小さいものの、溶接ビード50における気孔欠陥を大きく低減する効果が得られる。詳細なメカニズムは不明であるが、始端31側にタック溶接X1が施されることで、本溶接X2において第1鋼板10と第2鋼板20との間に適度な隙間Gが生じ、当該隙間Gを介して溶融池からめっき蒸気が効率的に排出され、結果として気孔欠陥の少ない溶接ビード50が得られるものと考えられる。
1.2 条件2
図2に示されるように、条件2においては、本溶接予定箇所30の終端32側にタック溶接X1を施した後、さらに始端31側にタック溶接X1を施したうえで、始端31側から終端32側に向かって本溶接X2を施す。条件2において、終端32側のタック溶接X1の完了から始端31側のタック溶接X1を開始するまでの時間や、始端31側のタック溶接X1の完了から本溶接X2を開始するまでの時間に特に制限はない。例えば、タック溶接X1の溶融池が冷却固化する前に次のタック溶接X1や本溶接X2を開始してもよいし、冷却固化した後に次のタック溶接X1や本溶接X2を開始してもよい。好ましくは、タック溶接X1の溶融池が冷却固化した後、より好ましくは、タック溶接X1の溶融池が冷却固化して、赤熱状態が実質的に消失する温度以下(例えば、500℃以下)となった後に、本溶接X2が開始され得る。この場合も、始端31側のタック溶接X1により、溶接ビード50における気孔欠陥を大きく低減する効果が得られる。詳細なメカニズムは不明であるが、条件1と同様に、始端31側にタック溶接X1が施されることにより、本溶接X2において第1鋼板10と第2鋼板20との間に適度な隙間Gが生じ、当該隙間Gを介して溶融池からめっき蒸気が効率的に排出され、結果として気孔欠陥の少ない溶接ビード50が得られるものと考えられる。
図2に示されるように、条件2においては、本溶接予定箇所30の終端32側にタック溶接X1を施した後、さらに始端31側にタック溶接X1を施したうえで、始端31側から終端32側に向かって本溶接X2を施す。条件2において、終端32側のタック溶接X1の完了から始端31側のタック溶接X1を開始するまでの時間や、始端31側のタック溶接X1の完了から本溶接X2を開始するまでの時間に特に制限はない。例えば、タック溶接X1の溶融池が冷却固化する前に次のタック溶接X1や本溶接X2を開始してもよいし、冷却固化した後に次のタック溶接X1や本溶接X2を開始してもよい。好ましくは、タック溶接X1の溶融池が冷却固化した後、より好ましくは、タック溶接X1の溶融池が冷却固化して、赤熱状態が実質的に消失する温度以下(例えば、500℃以下)となった後に、本溶接X2が開始され得る。この場合も、始端31側のタック溶接X1により、溶接ビード50における気孔欠陥を大きく低減する効果が得られる。詳細なメカニズムは不明であるが、条件1と同様に、始端31側にタック溶接X1が施されることにより、本溶接X2において第1鋼板10と第2鋼板20との間に適度な隙間Gが生じ、当該隙間Gを介して溶融池からめっき蒸気が効率的に排出され、結果として気孔欠陥の少ない溶接ビード50が得られるものと考えられる。
1.3 条件3
図3に示されるように、条件3においては、本溶接予定箇所30の始端31側及び終端32側の双方にタック溶接X1を施し、60秒以上経過後、始端31側から終端32側に向かって本溶接X2を施す。条件3においては、始端31側にタック溶接X1を施した後に、終端32側にタック溶接X1を施してもよいし、終端32側にタック溶接X1を施した後に、始端31側にタック溶接X1を施してもよい。タック溶接X1の後、60秒以上経過すると、タック溶接の溶融池が冷却固化し、第1鋼板10と第2鋼板20とが面方向(板厚方向に対して実質的に直交する方向)において拘束され、面方向への位置ズレが生じ難くなる。詳細なメカニズムは不明であるが、始端31側及び終端32側のタック溶接X1によって第1鋼板10と第2鋼板20とを面方向に拘束しつつ本溶接X2を施すことで、本溶接時に第1鋼板10と第2鋼板20とが板厚方向に変形して、第1鋼板10と第2鋼板20との間に適度な隙間Gが生じ、当該隙間Gを介して溶融池からめっき蒸気が効率的に排出され、結果として気孔欠陥の少ない溶接ビード50が得られるものと考えられる。
図3に示されるように、条件3においては、本溶接予定箇所30の始端31側及び終端32側の双方にタック溶接X1を施し、60秒以上経過後、始端31側から終端32側に向かって本溶接X2を施す。条件3においては、始端31側にタック溶接X1を施した後に、終端32側にタック溶接X1を施してもよいし、終端32側にタック溶接X1を施した後に、始端31側にタック溶接X1を施してもよい。タック溶接X1の後、60秒以上経過すると、タック溶接の溶融池が冷却固化し、第1鋼板10と第2鋼板20とが面方向(板厚方向に対して実質的に直交する方向)において拘束され、面方向への位置ズレが生じ難くなる。詳細なメカニズムは不明であるが、始端31側及び終端32側のタック溶接X1によって第1鋼板10と第2鋼板20とを面方向に拘束しつつ本溶接X2を施すことで、本溶接時に第1鋼板10と第2鋼板20とが板厚方向に変形して、第1鋼板10と第2鋼板20との間に適度な隙間Gが生じ、当該隙間Gを介して溶融池からめっき蒸気が効率的に排出され、結果として気孔欠陥の少ない溶接ビード50が得られるものと考えられる。
1.4 タック溶接の大きさ及び形状
タック溶接X1によるビード幅は特に限定されるものではなく、本溶接X2のビード幅よりも小さくてもよいし、大きくてもよいし、本溶接X2のビード幅と同じであってもよい。ただし、タック溶接X1のビード幅が大きい方が、タック溶接X1による拘束効果が高まり、上述の気孔欠陥を低減する効果が高まるものと考えられる。一方で、タック溶接X1のビード幅が大き過ぎると、穴あき、裏抜けが生じる虞があり、また、鋼板やめっき層に対する熱影響が過大となる虞がある。また、タック溶接部が目立ち、外観品位が損なわれる虞がある。この点、タック溶接のビード幅W1と本溶接のビード幅W2との比W1/W2は、1.2以上2.0以下であってもよい。タック溶接X1の形状は、特に限定されるものではなく、点状であっても、線状であっても、これら以外の形状であってもよい。タック溶接X1のビード長さは、例えば、1mm以上、3mm以上、又は、5mm以上であってもよく、10mm以下、又は、20mm以下であってもよい。タック溶接X1のビード幅は、例えば、1mm以上、3mm以上、又は、5mm以上であってもよく、10mm以下、又は、20mm以下であってもよい。
タック溶接X1によるビード幅は特に限定されるものではなく、本溶接X2のビード幅よりも小さくてもよいし、大きくてもよいし、本溶接X2のビード幅と同じであってもよい。ただし、タック溶接X1のビード幅が大きい方が、タック溶接X1による拘束効果が高まり、上述の気孔欠陥を低減する効果が高まるものと考えられる。一方で、タック溶接X1のビード幅が大き過ぎると、穴あき、裏抜けが生じる虞があり、また、鋼板やめっき層に対する熱影響が過大となる虞がある。また、タック溶接部が目立ち、外観品位が損なわれる虞がある。この点、タック溶接のビード幅W1と本溶接のビード幅W2との比W1/W2は、1.2以上2.0以下であってもよい。タック溶接X1の形状は、特に限定されるものではなく、点状であっても、線状であっても、これら以外の形状であってもよい。タック溶接X1のビード長さは、例えば、1mm以上、3mm以上、又は、5mm以上であってもよく、10mm以下、又は、20mm以下であってもよい。タック溶接X1のビード幅は、例えば、1mm以上、3mm以上、又は、5mm以上であってもよく、10mm以下、又は、20mm以下であってもよい。
1.5 タック溶接の位置
条件1~3において、「本溶接予定箇所の始端側のタック溶接」とは、本溶接予定箇所30の長さ方向(溶接線方向)の中央を境界として、それよりも始端31側に施されるものをいう。「本溶接予定箇所の始端側のタック溶接」は、本溶接予定箇所30の始端31よりも終端32側の位置(すなわち、本溶接予定箇所30の内側)に施されてもよいし、或いは、本溶接予定箇所30とは離れた位置に施されてもよい。図1~3には本溶接予定箇所30とは離れた位置に始端31側のタック溶接X1が施される形態を例示したが、タック溶接X1が施された部分と重なるように、或いは、当該部分を乗り越えるように、本溶接X2が施されてもよい。
条件1~3において、「本溶接予定箇所の始端側のタック溶接」とは、本溶接予定箇所30の長さ方向(溶接線方向)の中央を境界として、それよりも始端31側に施されるものをいう。「本溶接予定箇所の始端側のタック溶接」は、本溶接予定箇所30の始端31よりも終端32側の位置(すなわち、本溶接予定箇所30の内側)に施されてもよいし、或いは、本溶接予定箇所30とは離れた位置に施されてもよい。図1~3には本溶接予定箇所30とは離れた位置に始端31側のタック溶接X1が施される形態を例示したが、タック溶接X1が施された部分と重なるように、或いは、当該部分を乗り越えるように、本溶接X2が施されてもよい。
条件1~3において、「本溶接予定箇所の終端側のタック溶接」とは、本溶接予定箇所30の長さ方向(溶接線方向)の中央を境界として、それよりも終端32側に施されるものをいう。「本溶接予定箇所の終端側のタック溶接」は、本溶接予定箇所30の終端32よりも始端31側の位置(すなわち、本溶接予定箇所30の内側)に施されてもよいし、或いは、本溶接予定箇所30とは離れた位置に施されてもよい。図1~3には本溶接予定箇所30とは離れた位置に終端32側のタック溶接X1が施される形態を例示したが、タック溶接X1が施された部分と重なるように、或いは、当該部分を乗り越えるように、本溶接X2が施されてもよい。
タック溶接X1が施される位置は、本溶接予定箇所30にできるだけ近いほうがよい。タック溶接X1から本溶接予定箇所30へと及ぼされる影響(例えば、拘束力)がより大きくなるものと考えられ、上記の気孔欠陥を低減する効果がより高まるものと考えられるためである。この点、タック溶接X1は、本溶接予定箇所30から50mm以内、30mm以内、又は、20mm以内の位置に施されてもよい。
1.6 タック溶接の間隔
例えば上記の条件2及び3のように、タック溶接X1は複数施されてもよい。この場合、タック溶接X1の間隔が長いほうが、本溶接X2において第1鋼板10と第2鋼板20との隙間Gが大きくなるものと考えられ、上述の気孔欠陥を低減する効果が高まるものと考えられる。この点、タック溶接X1が複数施される場合、当該タック溶接X1の間隔(始端31側から終端32側に向かって、順番に、第1タック溶接と第2タック溶接とが存在するものと仮定した場合における、第1タック溶接の終端側の端部から第2タック溶接の始端側の端部に至るまでの距離)が30mm以上であってもよい。タック溶接X1が複数施される場合における当該間隔の上限は、特に限定されるものではなく、本溶接X2の長さによる。尚、本溶接X2が断続溶接(タップ溶接)である場合は、本溶接X2の途切れた部分にタック溶接X1が施されてもよい。
例えば上記の条件2及び3のように、タック溶接X1は複数施されてもよい。この場合、タック溶接X1の間隔が長いほうが、本溶接X2において第1鋼板10と第2鋼板20との隙間Gが大きくなるものと考えられ、上述の気孔欠陥を低減する効果が高まるものと考えられる。この点、タック溶接X1が複数施される場合、当該タック溶接X1の間隔(始端31側から終端32側に向かって、順番に、第1タック溶接と第2タック溶接とが存在するものと仮定した場合における、第1タック溶接の終端側の端部から第2タック溶接の始端側の端部に至るまでの距離)が30mm以上であってもよい。タック溶接X1が複数施される場合における当該間隔の上限は、特に限定されるものではなく、本溶接X2の長さによる。尚、本溶接X2が断続溶接(タップ溶接)である場合は、本溶接X2の途切れた部分にタック溶接X1が施されてもよい。
1.7 その他
タック溶接X1は、アーク溶接によって行われてもよいし、アーク溶接以外の溶接方法によって行われてもよい。アーク溶接によってタック溶接を行う場合、アーク溶接の条件(電流値、溶接速度、シールドガス等)は特に限定されるものではなく、例えば、本溶接におけるアーク溶接の条件と同じであってもよいし、異なっていてもよい。この場合、タック溶接X1の形状や大きさは、溶接電流値、時間又はその両方を調整することによって、適宜調整され得る。アーク溶接以外のタック溶接方法としては、例えば、抵抗スポット溶接等が挙げられる。
タック溶接X1は、アーク溶接によって行われてもよいし、アーク溶接以外の溶接方法によって行われてもよい。アーク溶接によってタック溶接を行う場合、アーク溶接の条件(電流値、溶接速度、シールドガス等)は特に限定されるものではなく、例えば、本溶接におけるアーク溶接の条件と同じであってもよいし、異なっていてもよい。この場合、タック溶接X1の形状や大きさは、溶接電流値、時間又はその両方を調整することによって、適宜調整され得る。アーク溶接以外のタック溶接方法としては、例えば、抵抗スポット溶接等が挙げられる。
2.本溶接
本開示の製造方法においては、上記の条件1~3が満たされるように、タック溶接X1の後に本溶接X2が施される。本溶接X2は、従来公知の本溶接と同様の条件が採用されてもよい。
本開示の製造方法においては、上記の条件1~3が満たされるように、タック溶接X1の後に本溶接X2が施される。本溶接X2は、従来公知の本溶接と同様の条件が採用されてもよい。
2.1 本溶接の条件
本開示の製造方法においては、本溶接X2としてアーク溶接が採用される。本溶接X2に係るアーク溶接の条件(電流値、溶接速度、シールドガス等)は、特に限定されるものではなく、板厚等に応じて適宜調整され得る。例えば、アーク溶接による溶け込み深さが、鋼板の板厚の5%以上70%以下となるような溶接条件が採用されてもよい。アーク溶接の電流値は、例えば、60A以上300A以下であってもよい。また、溶接速度は、例えば、200mm/min以上1000mm/min以下であってもよい。また、シールドガスは、例えば、二酸化炭素、又は、アルゴンと二酸化炭素との混合ガスであってよく、この場合、混合ガスに占める二酸化炭素の割合は5体積%以上30体積%以下であってもよい。アーク溶接に用いられるワイヤについても、特に限定されるものではなく、公知のソリッドワイヤやフラックス入りワイヤをいずれも採用可能である。溶接狙い位置についても、重ね隅肉溶接において一般的な位置であってよい。
本開示の製造方法においては、本溶接X2としてアーク溶接が採用される。本溶接X2に係るアーク溶接の条件(電流値、溶接速度、シールドガス等)は、特に限定されるものではなく、板厚等に応じて適宜調整され得る。例えば、アーク溶接による溶け込み深さが、鋼板の板厚の5%以上70%以下となるような溶接条件が採用されてもよい。アーク溶接の電流値は、例えば、60A以上300A以下であってもよい。また、溶接速度は、例えば、200mm/min以上1000mm/min以下であってもよい。また、シールドガスは、例えば、二酸化炭素、又は、アルゴンと二酸化炭素との混合ガスであってよく、この場合、混合ガスに占める二酸化炭素の割合は5体積%以上30体積%以下であってもよい。アーク溶接に用いられるワイヤについても、特に限定されるものではなく、公知のソリッドワイヤやフラックス入りワイヤをいずれも採用可能である。溶接狙い位置についても、重ね隅肉溶接において一般的な位置であってよい。
2.2 溶接ビード
図4Bに示されるように、本溶接X2によって溶接ビード50が形成される。図1~3に示されるように、溶接ビード50は、平面視において、所定の幅及び長さを有するものであってよく、長さ方向において始端部(アーク溶接を開始した部分)や終端部(アーク溶接を終了した部分)や定常部(始端部と終端部との間の部分)を備えるものであってよい。また、溶接ビードの幅方向端部である止端部のフランク角度も特に限定されるものではない。
図4Bに示されるように、本溶接X2によって溶接ビード50が形成される。図1~3に示されるように、溶接ビード50は、平面視において、所定の幅及び長さを有するものであってよく、長さ方向において始端部(アーク溶接を開始した部分)や終端部(アーク溶接を終了した部分)や定常部(始端部と終端部との間の部分)を備えるものであってよい。また、溶接ビードの幅方向端部である止端部のフランク角度も特に限定されるものではない。
2.2.1 溶接ビード幅
上述の通り、本溶接X2による溶接ビード50は幅W2を有していてもよい。溶接ビード50の幅W2は、溶接ビード50における気孔欠陥率に実質的な影響を与えるものではなく、特に限定されるものではない。幅W2は、例えば、1mm以上、3mm以上、又は、5mm以上であってもよく、10mm以下、又は、15mm以下であってもよい。
上述の通り、本溶接X2による溶接ビード50は幅W2を有していてもよい。溶接ビード50の幅W2は、溶接ビード50における気孔欠陥率に実質的な影響を与えるものではなく、特に限定されるものではない。幅W2は、例えば、1mm以上、3mm以上、又は、5mm以上であってもよく、10mm以下、又は、15mm以下であってもよい。
2.2.2 溶接ビード長さ
本溶接X2による溶接ビード50は、第1鋼板10と第2鋼板20とによって形成される隅に沿って、一定の長さを有して連続的に形成され得る。溶接ビード50の長さは、例えば、10mm以上、20mm以上、又は、30mm以上であってもよく、500mm以下、又は、2000mm以下であってもよい。
本溶接X2による溶接ビード50は、第1鋼板10と第2鋼板20とによって形成される隅に沿って、一定の長さを有して連続的に形成され得る。溶接ビード50の長さは、例えば、10mm以上、20mm以上、又は、30mm以上であってもよく、500mm以下、又は、2000mm以下であってもよい。
2.2.3 溶接ビード高さ
本溶接X2による溶接ビード50の高さ(図4Bに示されるH)は、特に限定されるものではなく、鋼板の板厚等に応じて適宜調整され得る。溶接ビード50の高さHは、上板の板厚Tと、鋼板間の隙間Gとを含めて、T+G+5mmまでの高さ(H≦T+G+5mm)であってもよい。溶接ビード50の高さHの下限は特に限定されず、第1鋼板10と第2鋼板20とを重ね隅肉溶接によって適切に接合可能な高さであればよい。例えば、溶接ビード50の高さHは、板厚Tよりも大きくてもよく、T+Gよりも大きくてもよい。尚、めっき層の厚みは無視できる程度に薄いため、本願においては特に考慮しない。
本溶接X2による溶接ビード50の高さ(図4Bに示されるH)は、特に限定されるものではなく、鋼板の板厚等に応じて適宜調整され得る。溶接ビード50の高さHは、上板の板厚Tと、鋼板間の隙間Gとを含めて、T+G+5mmまでの高さ(H≦T+G+5mm)であってもよい。溶接ビード50の高さHの下限は特に限定されず、第1鋼板10と第2鋼板20とを重ね隅肉溶接によって適切に接合可能な高さであればよい。例えば、溶接ビード50の高さHは、板厚Tよりも大きくてもよく、T+Gよりも大きくてもよい。尚、めっき層の厚みは無視できる程度に薄いため、本願においては特に考慮しない。
2.2.4 溶接ビードの構成成分
溶接ビード50は、アーク溶接に用いられるワイヤの成分、めっき層の成分、及び、鋼板(母材)の成分が混合した溶接金属によって構成され得る。当該溶接金属を構成するためのワイヤの種類に特に制限はなく、公知のソリッドワイヤやフラックス入りワイヤをいずれも採用可能である。溶接ビード50においては、めっき層に由来する成分が酸化物等の形態で存在していてもよい。例えば、溶接ビード50の内部、溶接ビード50の表面、及び、溶接ビード50の周辺のうちの少なくとも一部に、亜鉛含有酸化物、アルミニウム含有酸化物、マグネシウム含有酸化物、及び、シリコン含有酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物が存在していてもよい。タック溶接X1としてアーク溶接を施した場合の溶接ビードについても同様である。
溶接ビード50は、アーク溶接に用いられるワイヤの成分、めっき層の成分、及び、鋼板(母材)の成分が混合した溶接金属によって構成され得る。当該溶接金属を構成するためのワイヤの種類に特に制限はなく、公知のソリッドワイヤやフラックス入りワイヤをいずれも採用可能である。溶接ビード50においては、めっき層に由来する成分が酸化物等の形態で存在していてもよい。例えば、溶接ビード50の内部、溶接ビード50の表面、及び、溶接ビード50の周辺のうちの少なくとも一部に、亜鉛含有酸化物、アルミニウム含有酸化物、マグネシウム含有酸化物、及び、シリコン含有酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物が存在していてもよい。タック溶接X1としてアーク溶接を施した場合の溶接ビードについても同様である。
2.2.5 溶接ビードの気孔欠陥率
本開示の方法によって製造される重ね隅肉溶接継手は、溶接ビード50における気孔欠陥が少ない。本開示の方法によって製造される重ね隅肉溶接継手は、溶接ビード50における気孔欠陥率が、例えば、40%以下、35%以下、30%以下、又は、25%以下となり得る。このように、溶接ビード50における気孔欠陥率が低いことで、気孔欠陥に起因する強度低下の問題が生じ難い。ただし、溶接時に溶融池に侵入しためっき蒸気を完全に除去することは難しい場合もあり、すなわち、気孔欠陥率を完全に0%とすることは難しいものと考えられる。この点、本開示の方法により製造される重ね隅肉溶接継手は、溶接ビード50における気孔欠陥率が、0%超、0.5%以上、1.0%以上、5.0%以上、又は、10.0%以上であってもよい。
本開示の方法によって製造される重ね隅肉溶接継手は、溶接ビード50における気孔欠陥が少ない。本開示の方法によって製造される重ね隅肉溶接継手は、溶接ビード50における気孔欠陥率が、例えば、40%以下、35%以下、30%以下、又は、25%以下となり得る。このように、溶接ビード50における気孔欠陥率が低いことで、気孔欠陥に起因する強度低下の問題が生じ難い。ただし、溶接時に溶融池に侵入しためっき蒸気を完全に除去することは難しい場合もあり、すなわち、気孔欠陥率を完全に0%とすることは難しいものと考えられる。この点、本開示の方法により製造される重ね隅肉溶接継手は、溶接ビード50における気孔欠陥率が、0%超、0.5%以上、1.0%以上、5.0%以上、又は、10.0%以上であってもよい。
尚、溶接ビードにおける気孔欠陥率は、平面視(図1~3、図5)における溶接ビードの長さに対する気孔欠陥の長さの総和の割合(気孔欠陥一つ一つの溶接線方向の長さの総和/溶接ビードの長さ)として特定されるものである。溶接ビードにおける気孔欠陥の長さは、例えば、X線透過試験によって求められる。すなわち、溶接ビードに対してX線透過試験を行い、X線透過写真を得る。X線透過写真においては、例えば、溶接ビードの溶接金属部分に対して、気孔部分が相対的に黒く写され、気孔欠陥の長さを容易に特定することができる。
3.その他の事項
本開示の製造方法においては、上記の条件1~3が満たされるようにタック溶接X1及び本溶接X2を施し、第1鋼板10と第2鋼板20とを接合して、重ね隅肉溶接継手を得る。第1鋼板10や第2鋼板20は、公知の鋼板が採用されればよい。また、本開示の製造方法は、溶接ビードにおける気孔欠陥であって、めっき蒸気に起因するものを低減することを解決課題とするものであり、言い換えれば、第1鋼板10及び第2鋼板20のうちの一方又は両方にめっき層が形成されていることが前提である。以下、第1鋼板10、第2鋼板20及びめっき層の一例を説明する。
本開示の製造方法においては、上記の条件1~3が満たされるようにタック溶接X1及び本溶接X2を施し、第1鋼板10と第2鋼板20とを接合して、重ね隅肉溶接継手を得る。第1鋼板10や第2鋼板20は、公知の鋼板が採用されればよい。また、本開示の製造方法は、溶接ビードにおける気孔欠陥であって、めっき蒸気に起因するものを低減することを解決課題とするものであり、言い換えれば、第1鋼板10及び第2鋼板20のうちの一方又は両方にめっき層が形成されていることが前提である。以下、第1鋼板10、第2鋼板20及びめっき層の一例を説明する。
3.1 第1鋼板及び第2鋼板
上述の通り、本開示の製造方法においては、第1鋼板10と第2鋼板20とが溶接されて、重ね隅肉溶接構造が形成される。図4Bに示されるように、重ね隅肉溶接構造においては、例えば、第1鋼板10の第1面11と、第2鋼板20の端部20xの先端面との隅部に、溶接ビード50が形成される。第1鋼板10に対して溶接ビード50が形成される側(第1面11側)を上、溶接ビード50とは反対側(第2面12側)を下とみなした場合、第2鋼板20が上板であり、第1鋼板10が下板となる。
上述の通り、本開示の製造方法においては、第1鋼板10と第2鋼板20とが溶接されて、重ね隅肉溶接構造が形成される。図4Bに示されるように、重ね隅肉溶接構造においては、例えば、第1鋼板10の第1面11と、第2鋼板20の端部20xの先端面との隅部に、溶接ビード50が形成される。第1鋼板10に対して溶接ビード50が形成される側(第1面11側)を上、溶接ビード50とは反対側(第2面12側)を下とみなした場合、第2鋼板20が上板であり、第1鋼板10が下板となる。
図4A及びBに示されるように、第1鋼板10は、第2鋼板20側に面する第1面11と、第1面11とは反対側に面する第2面12とを有する。すなわち、第1面11を第1鋼板10の表側の面とみなした場合、第2面12は第1鋼板10の裏側の面である。また、第2鋼板20は、第1鋼板10側に面する第3面23と、第3面23とは反対側に面する第4面24とを有する。すなわち、第4面24を第2鋼板20の表側の面とみなした場合、第3面23は第2鋼板20の裏側の面である。第1鋼板10の板厚が一定である場合、第1面11と第2面12とは、互いに平行となり得る。第2鋼板20の板厚が一定である場合、第3面23と第4面24とは、互いに平行となり得る。第1鋼板10及び第2鋼板20の各々の平面形状は特に限定されるものではない。第1鋼板10及び第2鋼板20の各々の平面形状は矩形状であってもよいし、矩形状以外の平面形状であってもよい。
第1鋼板10及び第2鋼板20の各々の板厚は、特に限定されるものではない。「板厚」とは、めっき層を除いた母材鋼板の板厚をいう。第1鋼板10の板厚と、第2鋼板20の板厚とは、互いに同じであっても異なっていてもよい。本発明者の新たな知見によると、本開示の製造方法による効果は、第1鋼板10及び第2鋼板20の各々の板厚が薄い場合に特に顕著となる。例えば、第1鋼板10及び第2鋼板20の板厚は、4.0mm未満、3.8mm以下、3.6mm以下、3.4mm以下、3.2mm以下、3.0mm以下、2.8mm以下、2.6mm以下、2.4mm以下、2.2mm以下、2.0mm以下、1.8mm以下、又は、1.6mm以下であってもよい。また、当該板厚は、0.6mm以上、0.8mm以上、1.0mm以上、又は、1.2mm以上であってもよい。
第1鋼板10及び第2鋼板20は、その用途に応じて様々な強度を有し得る。例えば、第1鋼板10及び第2鋼板20のうちの一方又は両方が、270MPa以上980MPa以下の引張強さを有していてもよい。第1鋼板10と第2鋼板20とは、互いに同程度の引張強さを有してもよいし、互いに異なる引張強さを有してもよい。尚、本願にいう鋼板の「引張強さ」とは、JIS Z 2241:2011にしたがうものである。
第1鋼板10及び第2鋼板20は、種々の化学組成や金属組織を有するものを採用し得る。第1鋼板10及び第2鋼板20は、各々、普通鋼板であっても、クロム等の添加元素を含む鋼板であってもよく、目的とする機械特性や成形性等を考慮して、化学組成や金属組織が調整されたものであってよい。第1鋼板10及び第2鋼板20の化学組成や金属組織によらず、本開示の製造方法による効果が発揮される。
3.2 めっき層
上述の通り、第1鋼板10及び第2鋼板20の一方又は両方について、その表面にめっき層が設けられ、これにより優れた耐食性が確保される。一方、重ね隅肉溶接時、上板と下板との間に存在するめっき層の一部が蒸発してめっき蒸気となり、これが溶接ビード50内の気孔欠陥の原因となり易い。より具体的には、図4Bに示されるような重ね隅肉溶接継手においては、第2鋼板20側に面する第1面11及び第1鋼板10側に面する第3面23に形成されているめっき層41、43が蒸発して、溶融池の内部へと侵入し、溶接ビード50における気孔欠陥となり易い。尚、第1鋼板10の第2面12に形成されためっき層42は、溶接ビード50と実質的に接触せず、仮に、溶融池が貫通して第2面12に至った場合でも、めっき層42のめっき蒸気は溶接ビード50の気孔欠陥量に実質的な影響を与え難い。また、第2鋼板の第4面24に形成されためっき層44についても同様であり、めっき層44のめっき蒸気は溶接ビード50の気孔欠陥量に実質的な影響を与え難い。
上述の通り、第1鋼板10及び第2鋼板20の一方又は両方について、その表面にめっき層が設けられ、これにより優れた耐食性が確保される。一方、重ね隅肉溶接時、上板と下板との間に存在するめっき層の一部が蒸発してめっき蒸気となり、これが溶接ビード50内の気孔欠陥の原因となり易い。より具体的には、図4Bに示されるような重ね隅肉溶接継手においては、第2鋼板20側に面する第1面11及び第1鋼板10側に面する第3面23に形成されているめっき層41、43が蒸発して、溶融池の内部へと侵入し、溶接ビード50における気孔欠陥となり易い。尚、第1鋼板10の第2面12に形成されためっき層42は、溶接ビード50と実質的に接触せず、仮に、溶融池が貫通して第2面12に至った場合でも、めっき層42のめっき蒸気は溶接ビード50の気孔欠陥量に実質的な影響を与え難い。また、第2鋼板の第4面24に形成されためっき層44についても同様であり、めっき層44のめっき蒸気は溶接ビード50の気孔欠陥量に実質的な影響を与え難い。
図4Bに示されるような重ね隅肉溶接継手を製造する場合、第1鋼板10の第1面11に形成されためっき層41の付着量と、第2鋼板20の第3面23に形成されためっき層43の付着量との合計の付着量が、溶接ビード50における気孔欠陥率に大きな影響を与え得る。この合計の付着量が少ないと、溶接ビード50における気孔欠陥も少なくなる。一方、付着量が多過ぎると、耐食性向上効果が飽和し、コストが増大する。この点、本開示の製造方法においては、第1鋼板10が、第2鋼板20側に面する第1面11と、第1面11とは反対側に面する第2面12とを有し、第2鋼板20が、第1鋼板10側に面する第3面23と、第3面23とは反対側に面する第4面24とを有し、第2鋼板20の端部が、溶接ビード50を介して、第1面11に接合され、且つ、第1面11及び第3面23のうちの一方又は両方に、めっき層41、43が形成される場合(図4Bに示されるような場合)に、第1面11及び第3面23に対するめっき層41、43の合計の付着量が、10g/m2以上500g/m2以下であってもよい。例えば、第1面11にめっき層が形成されない場合、第3面23に対して形成されるめっき層43の付着量が10g/m2以上500g/m2以下であってもよい。或いは、例えば、第1面11に対するめっき層41の付着量が5g/m2である場合、第3面23に対するめっき層43の付着量は5g/m2以上495g/m2以下であってもよい。このように、第1面11及び第3面23に対するめっき層41、43の合計の付着量が10g/m2以上500g/m2以下であることで、本溶接時に溶融池にめっき蒸気が侵入しつつも、鋼板間の隙間Gを介してめっき蒸気が効率的に排出されるものと考えられ、溶接ビード50の気孔欠陥率を低減することができる。第1面11及び第3面23に対するめっき層41、43の合計の付着量は、20g/m2以上、25g/m2以上、30g/m2以上、35g/m2以上、又は、40g/m2以上であってもよく、450g/m2以下、400g/m2以下、又は、350g/m2以下であってもよい。一方、図4Aに示されるように、第1鋼板10の第2面12に対してめっき層42が形成されていてもよく、第2鋼板の第4面24に対してめっき層44が形成されていてもよい。上述の通り、当該めっき層42やめっき層44は、溶接ビード50の気孔欠陥率に実質的な影響を与えないことから、めっき層42やめっき層44の付着量は特に限定されるものではない。
尚、めっき層の付着量は、溶接ビード50から十分に離れた、溶接による熱影響のない部分において特定されればよい。めっき層の付着量は、例えば、地鉄の腐食を抑制するインヒビターを加えた酸溶液にめっき層を溶解し、酸洗前後の重量変化から特定され得る。もしくは、断面の顕微鏡観察、又は、電磁式膜厚計などを用いてめっき層の厚さを計測し、めっき層の密度から計算して特定され得る。
めっき層は、当業者に公知の化学組成を有するものであってよい。鋼板の表裏にめっき層が形成されている場合、表裏の各々のめっき層は、互いに同じ種類のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。各々のめっき層(特に、第1鋼板10の第1面11に形成されるめっき層41や第2鋼板20の第3面23に形成されるめっき層43)は、例えば、Znを含有するもの(亜鉛系めっき層)であってもよい。めっき層がZnを含有するものである場合、溶接時のめっき蒸気の発生量が多くなり易く、溶接ビードにおける気孔欠陥の問題が生じ易い。例えば、各々のめっき層(特に、第1鋼板10の第1面11に形成されるめっき層41や第2鋼板20の第3面23に形成されるめっき層43)は、質量%で、Znを40%以上100%以下含むものであってもよい。めっき層におけるZn含有量は、45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、又は、60質量%以上であってもよい。また、めっき層は、Zn以外にAl等の添加元素を含んでいてよく、また、合金化処理が施されてなる場合はFe等を含んでいてよい。一例として、めっき層は、少なくともZnとAlとを含有するZn-Al合金めっき層であってもよく、さらにMgを含有するZn-Al-Mg合金めっき層であってもよく、さらにSiを含有するZn-Al-Si合金めっき層やZn-Al-Mg-Si合金めっき層であってもよい。めっき層におけるZn以外の元素の含有量(濃度)は、質量%で、Al:0~60%、Mg:0~10%、Si:0~2%、Mn:0~1%、Ni:0~1%、Sb:0~1%、Fe:0~20%であってもよい。亜鉛系めっき層の化学組成の具体例としては、Zn-19%Al-6%Mg-0.2%Si、Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si、Zn-6%Al-3%Mg、Zn-55%Al-1.6%Si、Zn-5%Al-0.1%Mgなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。亜鉛系めっき層は、合金化溶融亜鉛めっき層、溶融亜鉛めっき層又は電気亜鉛めっき層であってもよい。
上述の通り、本開示の製造方法においては、第1鋼板10の第1面11及び第2鋼板20の第3面23のうちの一方又は両方に、めっき層が形成されている。めっき層は、第1鋼板10の第1面11及び第2面12、並びに、第2鋼板20の第3面23及び第4面24のうちの1つ、2つ、3つ、又は、すべての面に形成されていてもよい。図4Aにおいては、第1鋼板10の第1面にめっき層41が形成され、且つ、第2鋼板20の第3面23にめっき層43が形成された形態を示したが、めっき層41及びめっき層43のうちの一方が存在しなくてもよい。また、図4Aにおいては、第1鋼板10の第2面12にめっき層42が形成され、且つ、第2鋼板20の第4面24にめっき層44が形成された形態を示したが、めっき層42及びめっき層44のうちの一方又は双方が存在しなくてもよい。また、第1鋼板10と第2鋼板20とでは、めっき層が表側のみに形成されていてもよいし、裏側のみに形成されていてもよい。すなわち、第1鋼板10の第1面11及び第2鋼板20の第4面24に対して、各々、めっき層41及びめっき層44が形成されていてもよいし、第1鋼板10の第2面12及び第2鋼板20の第3面23に対して、各々、めっき層42及びめっき層43が形成されていてもよい。或いは、第1鋼板10の第1面11及び第2面12、並びに、第2鋼板20の第3面23及び第4面24のうちのすべての面に、めっき層41~44が形成されることで、重ね隅肉溶接継手の表裏の耐食性が高められていてもよい。めっき層41~44は、第1鋼板10や第2鋼板20の各々の表側及び/又は裏側の面の一部にのみ設けられていてもよいし、全面に設けられていてもよい。尚、図4Bに示されるように、本溶接後の溶接ビード50の周辺は、本溶接時の熱影響によって、熱影響部45となり得る。より具体的には、熱影響部45においては、本溶接時の熱影響によってめっき層の全部又は一部が蒸発するとともに、めっき層が変性・変質し得る。また、その状態は、めっきの組成・組織や溶接による熱影響の程度によって変化し得る。めっき層が消失した部分には、新たにめっき層が設けられてもよく、すなわち、例えば、溶接ビード50及びその周辺の表面に対して、改めてめっき層が設けられてもよい。又は、タッチアップペイントを塗布するなど後処理を行ってもよい。
3.3 隙間
尚、条件1~3に関して説明したように、本開示の製造方法においては、本溶接X2が施される際、第1鋼板10と第2鋼板20との間に隙間Gが生じるものと考えられる。ただし、溶融池が冷却固化する前における隙間Gと、溶融池が溶接ビード50として冷却固化した後の隙間Gとは、必ずしも同じではない。上述の通り、気孔欠陥を低減する効果は、溶融池が冷却固化する前における隙間Gによるものと考えられ、冷却固化後の隙間Gの大きさは特に限定されるものではない。上述の通り、本開示の製造方法においては、条件1~3が満たされることで、溶融池が冷却固化する前における隙間Gが適切に制御されるものと考えられる。例えば、溶融池が冷却固化する前における隙間Gは、0.05mm以上0.3mm以下であってもよい。一方で、溶融池が冷却固化した後における隙間Gは0mmであってもよく、0mm超であってもよい。
尚、条件1~3に関して説明したように、本開示の製造方法においては、本溶接X2が施される際、第1鋼板10と第2鋼板20との間に隙間Gが生じるものと考えられる。ただし、溶融池が冷却固化する前における隙間Gと、溶融池が溶接ビード50として冷却固化した後の隙間Gとは、必ずしも同じではない。上述の通り、気孔欠陥を低減する効果は、溶融池が冷却固化する前における隙間Gによるものと考えられ、冷却固化後の隙間Gの大きさは特に限定されるものではない。上述の通り、本開示の製造方法においては、条件1~3が満たされることで、溶融池が冷却固化する前における隙間Gが適切に制御されるものと考えられる。例えば、溶融池が冷却固化する前における隙間Gは、0.05mm以上0.3mm以下であってもよい。一方で、溶融池が冷却固化した後における隙間Gは0mmであってもよく、0mm超であってもよい。
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
1.めっき鋼板の準備
溶接対象であるめっき鋼板として、下記表1に示される「めっき組成」と、両面合計の「めっき付着量」と、「板厚」とを有するものを用意した。尚、各々の鋼板の引張強さはいずれも400MPaである。また、鋼板のサイズは、鋼板1は幅50mm×長さ170mm、鋼板2は幅50mm×長さ150mm、である。表1に示される鋼板は、その表側及び裏側の両面にめっき層を有するものであり、表側のめっき層の付着量と、裏側のめっき層の付着量とは実質的に同じものである。
溶接対象であるめっき鋼板として、下記表1に示される「めっき組成」と、両面合計の「めっき付着量」と、「板厚」とを有するものを用意した。尚、各々の鋼板の引張強さはいずれも400MPaである。また、鋼板のサイズは、鋼板1は幅50mm×長さ170mm、鋼板2は幅50mm×長さ150mm、である。表1に示される鋼板は、その表側及び裏側の両面にめっき層を有するものであり、表側のめっき層の付着量と、裏側のめっき層の付着量とは実質的に同じものである。
2.タック溶接及び本溶接
「鋼板1同士」及び「鋼板2同士」の各々について、以下の通りにタック溶接及び本溶接を行った。
「鋼板1同士」及び「鋼板2同士」の各々について、以下の通りにタック溶接及び本溶接を行った。
2.1 鋼板1同士の溶接条件
上記の鋼板1を2枚重ね合わせ、以下に示されるパターンA~Fのうちのいずれかの条件で、タック溶接を施したうえで、本溶接を施し、重ね隅肉溶接継手を得た。本溶接における溶接条件は、以下の通りとした。また、タック溶接及び本溶接において、重ね代部分から上板側は10mm、下板側は40mm離れた位置について、上板は鋼板全体を、下板は長さ方向中央1点のみを治具で固定した。
継手形式 :重ね隅肉
重ね代 :5mm
溶接機 :ダイヘン社製 Welbee P350L II
溶接モード :DC-CO2
ガス流量 :20L/min
溶接ワイヤ種 :日鉄溶接工業社製 YM-28(φ1.2mm)
突き出し長さ :15mm
溶接姿勢 :下向き水平
トーチ角度 :起こし角45度、前進・後退角0度
ワイヤ狙い :コーナー
溶接速度 :400mm/min
溶接電流 :140A
上記の鋼板1を2枚重ね合わせ、以下に示されるパターンA~Fのうちのいずれかの条件で、タック溶接を施したうえで、本溶接を施し、重ね隅肉溶接継手を得た。本溶接における溶接条件は、以下の通りとした。また、タック溶接及び本溶接において、重ね代部分から上板側は10mm、下板側は40mm離れた位置について、上板は鋼板全体を、下板は長さ方向中央1点のみを治具で固定した。
継手形式 :重ね隅肉
重ね代 :5mm
溶接機 :ダイヘン社製 Welbee P350L II
溶接モード :DC-CO2
ガス流量 :20L/min
溶接ワイヤ種 :日鉄溶接工業社製 YM-28(φ1.2mm)
突き出し長さ :15mm
溶接姿勢 :下向き水平
トーチ角度 :起こし角45度、前進・後退角0度
ワイヤ狙い :コーナー
溶接速度 :400mm/min
溶接電流 :140A
2.2 鋼板2の溶接条件
上記の鋼板2を2枚重ね合わせ、以下に示されるパターンA~Fのうちのいずれかの条件で、タック溶接を施したうえで、本溶接を施し、重ね隅肉溶接継手を得た。本溶接における溶接条件は、以下の通りとした。また、タック溶接及び本溶接において、重ね代部分から上板側は10mm、下板側は40mm離れた位置について、上板は鋼板全体を、下板は長さ方向中央1点のみを治具で固定した。
継手形式 :重ね隅肉
重ね代 :5mm
溶接機 :ダイヘン社製 Welbee P350L II
溶接モード :DC-CO2
ガス流量 :20L/min
溶接ワイヤ種 :日鉄溶接工業社製 YM-28(φ1.2mm)
突き出し長さ :15mm
溶接姿勢 :下向き水平
トーチ角度 :起こし角60度、前進・後退角0度
ワイヤ狙い :コーナー
溶接速度 :400mm/min
溶接電流 :200A
上記の鋼板2を2枚重ね合わせ、以下に示されるパターンA~Fのうちのいずれかの条件で、タック溶接を施したうえで、本溶接を施し、重ね隅肉溶接継手を得た。本溶接における溶接条件は、以下の通りとした。また、タック溶接及び本溶接において、重ね代部分から上板側は10mm、下板側は40mm離れた位置について、上板は鋼板全体を、下板は長さ方向中央1点のみを治具で固定した。
継手形式 :重ね隅肉
重ね代 :5mm
溶接機 :ダイヘン社製 Welbee P350L II
溶接モード :DC-CO2
ガス流量 :20L/min
溶接ワイヤ種 :日鉄溶接工業社製 YM-28(φ1.2mm)
突き出し長さ :15mm
溶接姿勢 :下向き水平
トーチ角度 :起こし角60度、前進・後退角0度
ワイヤ狙い :コーナー
溶接速度 :400mm/min
溶接電流 :200A
2.3 溶接パターン
パターンA~Fは、各々、以下の通りである。
パターンA:タック溶接を施すことなく、本溶接を施した。
パターンB:本溶接予定箇所の終端側にタック溶接を施した後、始端側にタック溶接を施すことなく、始端側から終端側に向かって本溶接を施した。
パターンC:本溶接予定箇所の始端側にタック溶接を施した後、さらに終端側にタック溶接を施したうえで、始端側から終端側に向かって本溶接を施した。
パターンD:本溶接予定箇所の始端側にタック溶接を施した後、終端側にタック溶接を施すことなく、始端側から終端側に向かって本溶接を施した。
パターンE:本溶接予定箇所の終端側にタック溶接を施した後、さらに始端側にタック溶接を施したうえで、始端側から終端側に向かって本溶接を施した。
パターンF:本溶接予定箇所の始端側及び終端側の双方にタック溶接を施し、60秒経過後、始端側から終端側に向かって本溶接を施した。
パターンA~Fは、各々、以下の通りである。
パターンA:タック溶接を施すことなく、本溶接を施した。
パターンB:本溶接予定箇所の終端側にタック溶接を施した後、始端側にタック溶接を施すことなく、始端側から終端側に向かって本溶接を施した。
パターンC:本溶接予定箇所の始端側にタック溶接を施した後、さらに終端側にタック溶接を施したうえで、始端側から終端側に向かって本溶接を施した。
パターンD:本溶接予定箇所の始端側にタック溶接を施した後、終端側にタック溶接を施すことなく、始端側から終端側に向かって本溶接を施した。
パターンE:本溶接予定箇所の終端側にタック溶接を施した後、さらに始端側にタック溶接を施したうえで、始端側から終端側に向かって本溶接を施した。
パターンF:本溶接予定箇所の始端側及び終端側の双方にタック溶接を施し、60秒経過後、始端側から終端側に向かって本溶接を施した。
3.気孔欠陥率の評価
上記のようにして得られた各々の重ね隅肉溶接継手について、溶接ビードにおける気孔欠陥率を測定した。具体的には、平面視における溶接ビードの長さに対する気孔欠陥の長さの総和の割合(気孔欠陥一つ一つの溶接線方向の長さの総和/溶接ビードの長さ)を気孔欠陥率として求めた。溶接ビードの長さや溶接ビードにおける気孔欠陥の長さは、X線透過試験によって得られるX線透過写真に基づいて求めた。結果を下記表2に示す。また、参考までに、図5に、鋼板1同士の重ね隅肉溶接継手についてのX線透過写真を示す。
上記のようにして得られた各々の重ね隅肉溶接継手について、溶接ビードにおける気孔欠陥率を測定した。具体的には、平面視における溶接ビードの長さに対する気孔欠陥の長さの総和の割合(気孔欠陥一つ一つの溶接線方向の長さの総和/溶接ビードの長さ)を気孔欠陥率として求めた。溶接ビードの長さや溶接ビードにおける気孔欠陥の長さは、X線透過試験によって得られるX線透過写真に基づいて求めた。結果を下記表2に示す。また、参考までに、図5に、鋼板1同士の重ね隅肉溶接継手についてのX線透過写真を示す。
上記表2に示される結果から以下のことが分かる。
(1)鋼板の板厚によらず、タック溶接を施さずに本溶接を施した場合(パターンA)よりも、タック溶接を施したうえで本溶接を施した場合(パターンB~F)のほうが、溶接ビードにおける気孔欠陥率が低減される。
(2)鋼板の板厚によらず、パターンBよりも、パターンD~Fのほうが、気孔欠陥率をより低減することができる。ここで、パターンBは、本溶接予定箇所の終端側のみにタック溶接を施すものであり、本溶接において鋼板の位置ズレを抑制するための従来のタック溶接と同様のものである。これに対し、パターンD~Fは、従来のタック溶接とは、タック溶接の位置や順番或いは待機時間が異なる。すなわち、パターンD~Fのように、従来のタック溶接とは異なる位置、順番或いは待機時間にてタック溶接を施したうえで、本溶接を施すことで、溶接ビードにおける気孔欠陥をより顕著に低減できるといえる。
(3)尚、パターンCも、従来のタック溶接とは位置や順番が異なるものであるが、この場合は、パターンD~Fほどの効果は得られず、パターンBよりも溶接ビードにおける気孔欠陥率が大きくなる場合がある。
(4)鋼板が厚い場合よりも薄い場合のほうが、タック溶接による気孔欠陥率の低減効果が顕著となる。
(1)鋼板の板厚によらず、タック溶接を施さずに本溶接を施した場合(パターンA)よりも、タック溶接を施したうえで本溶接を施した場合(パターンB~F)のほうが、溶接ビードにおける気孔欠陥率が低減される。
(2)鋼板の板厚によらず、パターンBよりも、パターンD~Fのほうが、気孔欠陥率をより低減することができる。ここで、パターンBは、本溶接予定箇所の終端側のみにタック溶接を施すものであり、本溶接において鋼板の位置ズレを抑制するための従来のタック溶接と同様のものである。これに対し、パターンD~Fは、従来のタック溶接とは、タック溶接の位置や順番或いは待機時間が異なる。すなわち、パターンD~Fのように、従来のタック溶接とは異なる位置、順番或いは待機時間にてタック溶接を施したうえで、本溶接を施すことで、溶接ビードにおける気孔欠陥をより顕著に低減できるといえる。
(3)尚、パターンCも、従来のタック溶接とは位置や順番が異なるものであるが、この場合は、パターンD~Fほどの効果は得られず、パターンBよりも溶接ビードにおける気孔欠陥率が大きくなる場合がある。
(4)鋼板が厚い場合よりも薄い場合のほうが、タック溶接による気孔欠陥率の低減効果が顕著となる。
以上の通り、めっき層を有する鋼板を溶接して重ね隅肉溶接継手を製造する場合は、以下の条件1~3のうちの少なくとも1つが満たされるようにタック溶接及び本溶接を施すことで、溶接ビードにおける気孔欠陥を顕著に低減できるといえる。以下の条件1が上記のパターンD、条件2が上記のパターンE、条件3が上記のパターンFに相当する。
条件1:本溶接予定箇所の始端側にタック溶接を施した後、終端側にタック溶接を施すことなく、始端側から終端側に向かって本溶接を施す。
条件2:本溶接予定箇所の終端側にタック溶接を施した後、さらに始端側にタック溶接を施したうえで、始端側から終端側に向かって本溶接を施す。
条件3:本溶接予定箇所の始端側及び終端側の双方にタック溶接を施し、60秒以上経過後、始端側から終端側に向かって本溶接を施す。
条件2:本溶接予定箇所の終端側にタック溶接を施した後、さらに始端側にタック溶接を施したうえで、始端側から終端側に向かって本溶接を施す。
条件3:本溶接予定箇所の始端側及び終端側の双方にタック溶接を施し、60秒以上経過後、始端側から終端側に向かって本溶接を施す。
X1 タック溶接
X2 本溶接
10 第1鋼板
11 第1面
12 第2面
20 第2鋼板
20x 端部
23 第3面
24 第4面
30 本溶接予定箇所
31 始端
32 終端
41~44 めっき層
50 溶接ビード
X2 本溶接
10 第1鋼板
11 第1面
12 第2面
20 第2鋼板
20x 端部
23 第3面
24 第4面
30 本溶接予定箇所
31 始端
32 終端
41~44 めっき層
50 溶接ビード
Claims (7)
- 重ね隅肉溶接継手の製造方法であって、
第1鋼板と第2鋼板とを重ね合わせたうえでタック溶接を施すこと、及び、
前記タック溶接後、本溶接予定箇所に対して本溶接を施すこと、を含み、
前記本溶接予定箇所にめっき層が存在し、
以下の条件1~3のうちの少なくとも1つが満たされる、製造方法。
条件1:前記本溶接予定箇所の始端側に前記タック溶接を施した後、終端側に前記タック溶接を施すことなく、始端側から終端側に向かって前記本溶接を施す。
条件2:前記本溶接予定箇所の終端側に前記タック溶接を施した後、さらに始端側に前記タック溶接を施したうえで、始端側から終端側に向かって前記本溶接を施す。
条件3:前記本溶接予定箇所の始端側及び終端側の双方に前記タック溶接を施し、60秒以上経過後、始端側から終端側に向かって前記本溶接を施す。 - 前記第1鋼板及び前記第2鋼板の板厚が3.2mm以下である、
請求項1に記載の製造方法。 - 前記タック溶接のビード幅W1と前記本溶接のビード幅W2との比W1/W2が1.2以上2.0以下である、
請求項1又は2に記載の製造方法。 - 前記タック溶接が前記本溶接予定箇所から50mm以内の位置に施される、
請求項1又は2に記載の製造方法。 - 前記タック溶接が複数施される場合に、前記タック溶接の間隔が30mm以上である、
請求項1又は2に記載の製造方法。 - 前記めっき層が亜鉛系めっき層である、
請求項1又は2に記載の製造方法。 - 前記第1鋼板が、前記第2鋼板側に面する第1面と、前記第1面とは反対側に面する第2面とを有し、
前記第2鋼板が、前記第1鋼板側に面する第3面と、前記第3面とは反対側に面する第4面とを有し、
前記第2鋼板の端部が、溶接ビードを介して、前記第1面に接合され、
前記第1面及び前記第3面のうちの一方又は両方に、前記めっき層が形成され、
前記第1面及び前記第3面に対する前記めっき層の合計の付着量が、10g/m2以上500g/m2以下である、
請求項1又は2に記載の製造方法。
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