JP2024063447A - シャフト部材 - Google Patents

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Abstract

【課題】ねじり疲労強度に優れ、自動車や建設機械等の減速機や変速機のシャフトに好適なシャフト部材を提供する。【解決手段】略円柱状の外形を有し、表層部の浸炭層と内部の芯部とを含み、芯部は、質量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.03~1.50%、Mn:0.30~1.00%、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cr:0.02~1.80%、Mo:0.02~0.50%、Al:0.005~0.100%、N:0.002~0.0250%、残部:Fe及び不純物、かつ式(1)を満たし、長手方向の少なくとも一部の表層領域において、長手方向の平均圧縮残留応力が1700MPa以上、残留オーステナイトの平均体積率が5.0%以下、平均ビッカース硬さが770HV以上である、シャフト部材。0.98<0.25Si+Mn+0.40Cr+0.25Mo<1.33 ・・・(1)【選択図】図2

Description

本開示はシャフト部材に関する。
自動車、建設機械等の減速機や変速機には、潤滑油を供給するための油穴が設けられたシャフトが用いられている。例えば、自動車のパワートレーンを小型化するためには、その構成部品であるシャフトを小型化する必要がある。これを実現するためには、シャフトの高強度化が必要である。
シャフトは、ねじられた際に油穴に応力が集中することで疲労破壊が生じる。したがって、シャフトではねじり疲労強度の向上が求められる。
耐ねじり疲労強度の向上を目的として、例えば、特許文献1では、所定の化学成分を含み、浸炭硬化深さは深く、圧縮残留応力は大きく、不完全焼入れ層は減らすことでねじり疲労強度を向上させることが提案されている。
また、特許文献2では、C、Si、Mn、Cr、Mo、B等を含み、所定の範囲内の浸炭硬化層深さとし、浸炭層の靭性を向上させることでねじり疲労強度を向上させることが提案されている。
特開2020-164900号公報 特開2006-152330号公報
特許文献1、2のようにねじり疲労強度の向上を目的とした浸炭部材等が種々提案されているが、ねじり疲労強度がより高いシャフト部材が望ましい。
本開示は、ねじり疲労強度に優れ、自動車や建設機械等の減速機や変速機のシャフトに好適なシャフト部材を提供することを課題とする。
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 略円柱状の外形を有し、表層部の浸炭層と前記浸炭層よりも内部の芯部とを含むシャフト部材であって、
前記芯部は、質量%で
C:0.10~0.30%、
Si:0.03~1.50%、
Mn:0.30~1.00%、
P:0.035%以下、
S:0.035%以下、
Cr:0.02~1.80%、
Mo:0.02~0.50%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0020~0.0250%、及び
O:0.0015%以下
を含有し、残部はFe及び不純物からなり、かつ下記式(1)を満たす化学組成を有し、
前記シャフト部材の表面から0.30mm深さまでの領域を表層領域としたときに、
前記シャフト部材の長手方向の少なくとも一部において、前記表層領域における前記長手方向の平均圧縮残留応力が1700MPa以上である高圧縮残留応力部を有し、
前記高圧縮残留応力部は、残留オーステナイトの平均体積率が5.0%以下であり、かつ平均ビッカース硬さが770HV0.2以上である、シャフト部材。
0.98<0.25Si+Mn+0.40Cr+0.25Mo<1.33 ・・・(1)
ただし、前記式(1)中の元素記号は、前記芯部における当該元素の質量%での含有量を示す。
<2> 略円柱状の外形を有し、表層部の浸炭層と前記浸炭層よりも内部の芯部とを含むシャフト部材であって、
前記芯部は、質量%で
C:0.10~0.30%、
Si:0.03~1.50%、
Mn:0.30~1.00%、
P:0.035%以下、
S:0.035%以下、
Cr:0.02~1.80%、
Mo:0.02~0.50%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0020~0.0250%、及び
O:0.0015%以下
を含有し、さらに下記A群、B群、C群及びD群からなる群から選択される1種又は2種以上を含有し、
(A群)
Cu:0.40%以下、
Mg:0.0050%以下、
V:0.50%以下、
Nb:0.100%以下、
Ti:0.100%以下、
Ca:0.0050%以下、及び
B:0.0050%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
(B群)
Ni:0.30%以下
(C群)
Sn:0.100%以下
(D群)
Bi:0.020%以下、及び
Pb:0.09%以下からなる群より選択される1種又は2種
残部はFe及び不純物からなり、かつ下記式(1)を満たす化学組成を有し、
前記シャフト部材の表面から0.30mm深さまでの領域を表層領域としたときに、
前記シャフト部材の長手方向の少なくとも一部において、前記表層領域における前記長手方向の平均圧縮残留応力が1700MPa以上である高圧縮残留応力部を有し、
前記高圧縮残留応力部は、残留オーステナイトの平均体積率が5.0%以下であり、かつ平均ビッカース硬さが770HV0.2以上である、シャフト部材。
0.98<0.25Si+Mn+0.40Cr+0.25Mo<1.33 ・・・(1)
ただし、前記式(1)中の元素記号は、前記芯部における当該元素の質量%での含有量を示す。
<3> 前記化学組成がA群を含む<2>に記載のシャフト部材。
<4> 前記化学組成がB群を含む<2>に記載のシャフト部材。
<5> 前記化学組成がC群を含む<2>に記載のシャフト部材。
<6> 前記化学組成がD群を含む<2>に記載のシャフト部材。
<7> 外周面に少なくとも1つの穴が形成されており、前記シャフト部材の長手方向の少なくとも前記穴が形成されている領域が、前記高圧縮残留応力部である<1>~<6>のいずれか1つに記載のシャフト部材。
本開示によれば、ねじり疲労強度に優れ、自動車や建設機械等の減速機や変速機のシャフトに好適なシャフト部材が提供される。
冷間ローラーバニシング加工に用いる工具の一例を示す(A)正面図及び(B)側面図である。 図1に示す工具を用いて被加工部材に冷間ローラーバニシング加工を行う方法を示す概略図である。 実施例で用いたサンプル形状を示す斜視図である。 実施例においてシャフト部材のサンプルを製造する工程を示す図である。 実施例におけるガス浸炭処理のヒートパターンを示す図である。 ガス浸炭後、冷間ローラーバニシング加工を実施した場合と実施しなかった場合のねじり疲労強度の一例を示す図である。 シャフト部材の表層領域における長手方向の残留応力を測定する方法の一例を示す概略図である。
本開示の一例である実施形態について説明する。
なお、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、「~」の前後に記載される数値に「超」または「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値または上限値として含まない範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、化学組成の元素の含有量について、「%」は「質量%」を意味する。
また、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示の発明者は、浸炭処理したシャフト部材のねじり強度特性を向上させるべく鋭意検討を重ねたところ、浸炭後に特定の工具を用いた冷間ローラーバニシング加工(本開示において「RB」と略記する場合がある)を施すことで、シャフト部材表層の硬さが向上するとともに、圧縮残留応力が付与されることによってシャフト部材のねじり疲労強度が向上することを見出した。
<シャフト部材>
本開示に係るシャフト部材は、略円柱状の外形を有し、表層部の浸炭層と浸炭層よりも内部の芯部とを含み、芯部は、質量%で
C:0.10~0.30%、
Si:0.03~1.50%、
Mn:0.30~1.00%、
P:0.035%以下、
S:0.035%以下、
Cr:0.02~1.80%、
Mo:0.02~0.50%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0020~0.0250%、及び
O:0.0015%以下
を含有し、残部はFe及び不純物からなり、後述する式(1)を満たす化学組成を有する。
そして、本開示に係るシャフト部材は、シャフト部材の表面から0.30mm深さまでの領域を表層領域としたときに、シャフト部材の長手方向の少なくとも一部において、表層領域における長手方向の平均圧縮残留応力が1700MPa以上である高圧縮残留応力部を有し、高圧縮残留応力部は、残留オーステナイトの平均体積率が5.0%以下であり、かつ平均ビッカース硬さが770HV0.2以上である。
なお、本開示に係るシャフト部材は、浸炭処理されたシャフト部品を包含し、例えば、自動車及び産業機械に使用されるシャフト部品、例えばトランスミッションシャフトを含む。
また、本開示に係るシャフト部材は、略円柱状の外形を有する任意の形状のシャフト部材を包含し、例えば、中空又は中実の筒状又は棒状のシャフト部材であってもよいし、表面に段差のある形状であってもよい。また、本開示に係るシャフト部材は、最終製品としてのシャフト部品に限定されず、最終製品前のシャフト用部材も包含する。
また、以下の説明では、外周表面に油穴等の少なくとも1つの穴を有するシャフト部材について主に説明するが、このような穴を有さないシャフト部材も本開示に係るシャフト部材に包含される。
(芯部の化学組成)
本開示に係るシャフト部材の化学組成について説明する。なお、本開示に係るシャフト部材は、浸炭処理によって表層部に炭素が導入されているため、シャフト部材の表層部と内部(芯部)とで化学組成が異なる。以下に示す化学組成(Cs:表層部のC含有量を除く)は、シャフト部材の浸炭層よりも内部に位置する芯部の化学組成であり、具体的にはシャフト部材の外周表面から深さ3mm以上の内部における化学組成である。
C:0.10~0.30%
炭素(C)は、シャフト部材の強度(特に芯部の強度)を高める。一方、C含有量が高すぎると、シャフト部材に加工する鋼材の強度が高くなりすぎて、鋼材の被削性が低下する。従って、C含有量は0.10~0.30%とする。C含有量は好ましくは0.13~0.28%であり、より好ましくは0.15~0.26%である。
Si:0.03~1.50%
シリコン(Si)は、シャフト部材の強度(特に芯部の強度)を高める。一方、Si含有量が高すぎると、シャフト部材に加工する鋼材の強度が高くなりすぎて、鋼材の被削性が低下する。従って、Si含有量は0.03~1.50%とする。Si含有量は好ましくは0.10~1.20%であり、より好ましくは0.20~1.00%である。
Mn:0.30~1.00%、
マンガン(Mn)は、鋼の焼入れ性を高める元素であり、シャフト部材の強度(特に芯部の強度)を高める。一方、Mn含有量が高すぎると、シャフト部材に加工する鋼材の強度が高くなりすぎて、鋼材の被削性が低下する。従って、Mn含有量は0.30~1.00%とする。Mn含有量は好ましくは0.40~0.95%であり、より好ましくは0.50~0.90%である。
P:0.035%以下
燐(P)は不純物である。Pは、粒界に偏析して粒界強度を下げる。その結果、シャフト部材のねじり疲労強度が低下する。従って、P含有量は0.035%以下とする。P含有量の好ましい上限は0.030%であり、より好ましくは0.025%である。なお、P含有量は低い方がよいが、脱Pコストを抑制する観点から、P含有量は0.0020%以上であってもよい。
S:0.035%以下
硫黄(S)は、Mnと結合してMnSを形成し、被削性を高める。S含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、S含有量が高すぎれば、粗大なMnSを形成してシャフト部材のねじり疲労強度が低下する。従って、S含有量の上限は0.035%とする。S含有量の好ましい上限は0.025%であり、より好ましくは0.020%である。S含有量の下限は脱Sコストを抑制する観点から、0.004%以上であってもよい。
Cr:0.02~1.80%
クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性を高め、シャフト部材の強度(特に芯部の強度)を高める。一方、Cr含有量が高すぎると、シャフト部材に加工する鋼材の強度が高くなりすぎて、鋼材の被削性が低下する。従って、Cr含有量は0.02~1.80%とする。Cr含有量は好ましくは0.80~1.40%であり、より好ましくは0.90~1.30%である。
Mo:0.02~0.50%
モリブデン(Mo)は、鋼の焼入れ性を高め、シャフト部材の強度(特に芯部の強度)を高める。一方、Mo含有量が高すぎると、シャフト部材に加工する鋼材の強度が高くなりすぎて、鋼材の被削性が低下する。従って、Mo含有量は0.02~0.50%とする。Mo含有量は好ましくは0.10~0.40%であり、より好ましくは0.15~0.35%である。
Al:0.005~0.100%
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Alはさらに、Nと結合してAlNを形成し、結晶粒を微細化する。その結果、シャフト部材のねじり疲労強度が高まる。一方、Al含有量が高すぎると、硬質で粗大なAlが生成して、鋼の被削性が低下し、さらに、ねじり疲労強度も低下する。従って、Al含有量は0.005~0.100%とする。Al含有量は好ましくは0.010~0.070%であり、より好ましくは0.012~0.050%である。
N:0.0020~0.0250%
窒素(N)は窒化物を形成して結晶粒を微細化し、シャフト部材のねじり疲労強度を高める。一方、N含有量が高すぎれば、粗大な窒化物が生成して鋼の鍛造性が低下する。従って、N含有量は0.0020~0.0250%とする。N含有量は好ましくは0.0030~0.0230%であり、より好ましくは0.0050~0.0200%である。
O:0.0015%以下
酸素(O)は不純物である。Oは鋼中の他の元素と結合して粗大な酸化物系介在物を生成する。粗大な酸化物系介在物は、シャフト部材のねじり疲労強度を低下させる。OはAlと結合して硬質な酸化物系介在物を形成する。酸化物系介在物はシャフト部材のねじり疲労強度を低下させる。従って、O含有量は0.0015%以下である。O含有量はなるべく低い方が良い。O含有量の好ましい上限は0.0013%であり、より好ましい上限は0.0012%である。
残部:Fe及び不純物
上記シャフト部材の化学組成の残部は鉄(Fe)及び不純物である。不純物とは、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップ、又は、製造工程の環境等から混入する成分であって、シャフト部材に含有させることを意図しない成分である。
芯部の化学組成は、さらに下記式(1)を満たす。
0.98<0.25Si+Mn+0.40Cr+0.25Mo<1.33 ・・・(1)
ただし、式(1)中の元素記号は、芯部における各元素の質量%での含有量を示す。
芯部の化学組成が式(1)を満たすことで、本開示に係るシャフト部材を製造する際、後述するローラーバニシング加工前の残留オーステナイトを確保し易い。
シャフト部材はさらに、Feの一部に代えて、Cu、Mg、V、Nb、Ti、Ca、B、Ni、Sn、Bi、Pbからなる群から選択される1種以上又は2種以上を含んでもよい。なお、これらの元素は任意選択的元素であり、シャフト部材に含有されていなくてもよい。以下、上記任意選択元素について説明する。
Cu:0.40%以下
銅(Cu)は鋼の焼入れ性を高める。そのため、鋼材の疲労強度が高まる。Cuによる上記の効果を得るためには、0.05%以上の含有が好ましい。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、熱間鍛造時に鋼の粒界に偏析して熱間割れを誘起する。したがって、Cu含有量の上限は0.40%とする。Cu含有量は0.30%以下であることが好ましく、0.25%以下であることがより好ましい。
Mg:0.0050%以下
マグネシウム(Mg)は、ねじり疲労破壊の起点となる非金属介在物の形態を制御し、ねじり疲労強度を向上させる。Mg含有量が0.0005%未満であれば、上記効果が十分に得られない。しかしながら、Mg含有量が0.0050%を超えて添加しても上記効果は飽和する。したがって、Mg含有量は0.0050%以下である。
V:0.50%以下
バナジウム(V)は、C及びNと結合して、析出物を形成する。このV析出物は、AlNによる焼入れ部の結晶粒微細化を補完する。V析出物は、シャフト部材のねじり疲労強度を高める。Vによる上記の効果を得るためには、0.01%以上の含有が好ましい。しかしながら、V含有量が0.50%を超えると、析出物が粗大化し、ねじり疲労強度が低下する。従って、V含有量の上限は0.50%である。V含有量は好ましくは0.40%以下である。
Nb:0.100%以下
ニオブ(Nb)は、C及びNと結合して、析出物を形成する。このNb析出物は、AlNによる焼入れ部の結晶粒微細化を補完する。Nb析出物は、シャフト部材のねじり疲労強度を高める。Nbによる上記の効果を得るためには、0.010%以上の含有が好ましい。しかしながら、Nb含有量が0.100%を超えれば、析出物が粗大化し、ねじり疲労強度が低下する。従って、Nb含有量の上限は0.100%である。Nb含有量は好ましくは0.050%以下である。
Ti:0.100%以下
チタン(Ti)は、C及びNと結合して、析出物を形成する。このTi析出物は、AlNによる焼入れ部の結晶粒微細化を補完する。Ti析出物は、シャフト部材のねじり疲労強度を高める。Tiによる上記の効果を得るためには、0.01%以上の含有が好ましい。しかしながら、Ti含有量が0.100%を超えれば、析出物が粗大化し、ねじり疲労強度が低下する。従って、Ti含有量の上限は0.100%である。Ti含有量は好ましくは0.080%以下である。
Ca:0.0050%以下
カルシウム(Ca)は、ねじり疲労破壊の起点となる非金属介在物の形態を制御し、ねじり疲労強度を向上させる。Ca含有量が0.0002%未満であれば、上記効果が十分に得られない。しかしながら、Ca含有量が0.0050%を超えれば、鋼中に粗大な酸化物系介在物が生成する。したがって、Ca含有量は0.0050%以下である。Ca含有量は、0.0020%以下であることが好ましく、0.0015%以下であることがより好ましい。
B:0.0050%以下
ホウ素(B)は、Pの粒界偏析を抑制してねじり疲労強度を高める効果がある。Bによる上記の効果を得るためには、0.0005%以上の含有が好ましい。しかしながら、Bを0.0050%を超えて含有しても効果は飽和する。したがって、B含有量は0.0050%以下である。B含有量は、0.0030%以下であることが好ましく、0.0020%以下であることがより好ましい。
Ni:0.30%以下
ニッケル(Ni)は鋼の焼入れ性を高め、鋼の靭性を高める。Niによる上記の効果を得るためには、0.05%以上の含有が好ましい。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、浸炭焼入れ後の残留オーステナイトが過剰となる。この場合、焼戻し後の切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。その結果、シャフト部材のねじり疲労強度が低下する。従って、Ni含有量の上限は0.30%である。Ni含有量は好ましくは0.20%以下である。
Sn:0.100%以下
スズ(Sn)は、鋼の耐食性を高める元素である。0.100%を超える含有量では、脆化によるねじり疲労強度の低下を引き起こす。したがって、Sn含有量は0.100%以下である。
Bi:0.020%以下
ビスマス(Bi)は、鋼の被削性を高める元素である。上記効果を得るためには、0.001%以上の含有が好ましい。一方、0.020%を超えて含有すると、熱間延性が低下する。したがって、Biの含有量は0.020%以下とし、好ましい含有量は0.001~0.020%である。
Pb:0.09%以下
鉛(Pb)は、鋼の快削性を高める元素である。被削性の観点ではより多くの量を含むことも可能であるが、環境負荷物質であるため、本開示に係るシャフト部材ではPbの含有量を0.09%以下とする。
上記任意選択的元素は、上述した範囲内で含有することによる効果の観点から、以下の群に分けられる。
A群((ねじり)疲労強度の向上):Cu、Mg、V、Nb、Ti、Ca、B
B群(靭性の向上):Ni
C群(耐食性の向上):Sn
D群(被削性の向上):Bi、Pb
本開示に係るシャフト部材は、A群、B群、C群及びD群からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
表層部のC含有量(Cs)
本開示に係るシャフト部材は、表層部に浸炭層を有しているため、表層部のC含有量は芯部のC含有量よりも高くなっている。シャフト部材の表層部に含まれるCは、シャフト部材のねじり疲労強度を高める。
表層部におけるC含有量(Cs)は、芯部のC含有量よりも高ければ特に限定されないが、表層部に含まれるC含有量(Cs)が低ければ、浸炭層の硬度が低くなる。その結果、シャフト部材のねじり疲労強度が低下する。一方、Csが高ければ、シャフト部材の表層部に硬質な初析セメンタイトが生成し、セメンタイトが破壊の起点となり、ねじり疲労強度が低下する。さらに、切削加工時の工具摩耗が増大し、被削性が低下する。従って、表層部のC含有量(Cs)は好ましくは0.70~1.10%であり、より好ましくは0.75~0.95%である。
(表層領域における長手方向の平均圧縮残留応力:1700MPa以上)
本開示に係るシャフト部材は、表面から0.30mm深さまでの領域を表層領域としたときに、シャフト部材の長手方向の少なくとも一部において、表層領域におけるシャフト部材の長手方向の平均圧縮残留応力(本開示において「表層領域の長手方向の平均圧縮残留応力」又は「表層領域の平均圧縮残留応力」などと記す場合がある。)が1700MPa以上である高圧縮残留応力部を有する。
本開示に係るシャフト部材は、表層領域の長手方向の平均圧縮残留応力が1700MPa以上である高圧縮残留応力部を有することで、高いねじり疲労強度を発揮することができる。
シャフト部材の全長にわたって高圧縮残留応力部が形成されてもよいし、シャフト部材の一部、特に応力が集中する部分のみ高圧縮残留応力部が形成されていてもよい。例えば、油穴が形成されているシャフト部材では、シャフトがねじられた際に油穴に応力が集中する。そのため、少なくとも油穴が形成されている箇所の表層領域の平均圧縮残留応力が1700MPa以上である高圧縮残留応力部であれば、高い耐ねじり疲労特性を発揮することができる。
なお、油穴が形成されていないシャフト部材であっても、例えば、他の位置よりも径が細くなっている部分など、軸方向に垂直な断面積が相対的に小さい部分は、シャフトがねじられた応力が集中し易い。このように穴の有無にかかわらず、応力が集中し易い部分の周方向全体において、表層領域の平均圧縮残留応力が1700MPa以上となっていることが好ましい。
表層領域(高圧縮残留応力部)における長手方向の平均圧縮残留応力は、以下のようにして測定する。
長手方向の圧縮残留応力は、X線回折法により求める。なお、穴が形成されている場合は、穴近傍における表層領域と穴から周方向に十分離れた位置、例えばシャフト部材の径方向に貫通穴を有する場合は、2つの穴の周方向における中間位置(すなわち、各穴から周方向に90°の位置)の表層領域において長手方向の圧縮残留応力を測定することが好ましい。長手方向の圧縮残留応力の測定にはRigaku社製微小部X線応力測定装置AutoMATEを使用する。光源にはCr管球を使用する。管球電圧は40kV、管球電流は40mA、コリメータ径は1.0mmとする。
図7は、シャフト部材の表層領域における長手方向の残留応力を測定する方法の一例を概略的に示している。シャフト部材の表面から0.30mm深さまで、0.05mmピッチで、各深さ位置における長手方向の圧縮残留応力を測定する。シャフト部材の表面の長手方向の圧縮残留応力は、電解研磨を行わずに、シャフト部材の長手方向と平行な面内方向にX線を照射し、X線回折法により求める。表面から0.05mm深さ位置、表面から0.10mm深さ位置、表面から0.15mm深さ位置、0.20mm深さ位置、表面から0.25mm深さ位置、表面から0.30mm深さ位置の長手方向の圧縮残留応力は、電解研磨を行い、X線回折法により求める。具体的には、図7に示すように、電解研磨により、各深さ位置の測定面を露出させる。露出した測定面に対してシャフト部材30の長手方向と平行な面内方向にX線を照射し、X線回折法により各深さ位置での長手方向の圧縮残留応力を測定する。表面の長手方向の圧縮残留応力も含め、得られた各深さ位置の長手方向の圧縮残留応力の算術平均値を長手方向の圧縮残留応力の平均値(平均圧縮残留応力)と定義する。
(高圧縮残留応力部の残留オーステナイトの平均体積率:5.0%以下)
本開示に係るシャフト部材は、高圧縮残留応力部の残留オーステナイトの平均体積率が5.0%以下である。本開示に係るシャフト部材は、表層領域における高圧縮残留応力部の残留オーステナイトの平均体積率が5.0%以下であることで、より確実にねじり疲労強度を高めることができる。なお、高圧縮残留応力部における主な金属組織としては、例えば、マルテンサイトが挙げられる。
表層領域における金属組織は、以下のようにして測定する。
残留オーステナイト体積率は、X線回折法により求める。なお、穴が形成されている場合は、穴近傍における表層領域と穴から周方向に十分離れた位置、例えばシャフト部材の径方向に貫通穴を有する場合は、2つの穴の周方向における中間位置(すなわち、各穴から周方向に90°の位置)の表層領域において残留オーステナイト体積率を測定することが好ましい。測定にはRigaku社製微小部X線応力測定装置AutoMATEを使用する。光源にはCr管球を使用する。管球電圧は40kV、管球電流は40mA、コリメータ径は1.0mmとする。X線回折により得られたbcc構造の(221)面とfcc構造の(220)面の回折ピークの積分強度比に基づいて、残留オーステナイト体積率を測定する。シャフト部材の表面から0.30mm深さまで、0.05mmピッチで、各深さ位置における残留オーステナイト体積率を測定する。シャフト部材の表面の残留オーステナイト体積率は、電解研磨を行わずに、X線回折法により求める。表面から0.05mm深さ位置、表面から0.10mm深さ位置、表面から0.15mm深さ位置、0.20mm深さ位置、表面から0.25mm深さ位置、表面から0.30mm深さ位置の残留オーステナイト体積率は電解研磨を行い、X線回折法により求める。具体的には、電解研磨により、各深さ位置の測定面を露出させる。露出した測定面に対してX線を照射し、X線回折法により各深さ位置での残留オーステナイト体積率を測定する。表面の長手方向の圧縮残留応力も含め、得られた各深さ位置の残留オーステナイト体積率の算術平均値を残留オーステナイト体積率の平均値(残留オーステナイトの平均体積率)と定義する。
なお、残留オーステナイトの体積率は、前述した残留応力の測定と同じ位置で測定すればよい。
表層領域における残留オーステナイト以外の他の組織としては、マルテンサイトのほか、例えば、フェライト、パーライト、初析セメンタイトなどが挙げられる。なお、フェライト、パーライト等の強度の低い組織は、これらの組織を基点に亀裂が発生しやすく、シャフト部材のねじり疲労強度が低下する。また、初析セメンタイトが存在すれば、初析セメンタイトを起点に亀裂が発生し、シャフト部材のねじり疲労強度が低下する。そのため、表層領域におけるフェライト、パーライト、初析セメンタイトの合計体積率は10%以下であることが好ましい。
(高圧縮残留応力部の平均ビッカース硬さ:770HV0.2以上)
本開示に係るシャフト部材は、高圧縮残留応力部の平均ビッカース硬さが770HV0.2以上である。表層領域における高圧縮残留応力部の平均ビッカース硬さが770HV0.2以上であることで、より確実にねじり疲労強度を高めることができる。
表層領域(高圧縮残留応力部)における平均ビッカース硬さは、以下のようにして測定する。なお、穴が形成されている場合は、穴近傍における表層領域と穴から周方向に十分離れた位置、例えばシャフト部材の径方向に貫通穴を有する場合は、2つの穴の周方向における中間位置(すなわち、各穴から周方向に90°の位置)の表層領域においてビッカース硬さを測定することが好ましい。
シャフト部材を径方向(長手方向に垂直な方向)に切断し、表面から0.30mm深さ位置までの切断面を含むサンプルを採取する。上記表面から0.30mm深さ位置までの領域を試験面とする。採取されたサンプルに対して、JIS Z 2244-1:2020に準拠したビッカース硬さ試験(HV0.2)を実施する。ビッカース硬さ試験において、表面から0.30mm深さまで、0.05mmピッチでビッカース硬さを求める。試験力は1.961Nとする。表面から0.05mm深さ位置、表面から0.10mm深さ位置、表面から0.15mm深さ位置、表面から0.20mm深さ位置、表面から0.25mm深さ位置、表面から0.30mm深さ位置におけるビッカース硬さを求める。得られた各深さ位置のビッカース硬さの算術平均値を平均ビッカース硬さと定義する。
(シャフト部材の穴)
本開示に係るシャフト部材は、外周面に少なくとも1つの穴が形成されていてもよい。穴は、シャフト部材の長手(軸)方向に対して垂直又は所定の角度を有し、かつシャフト部材の外周表面から開けられた1個又は複数個の穴が形成されていてもよい。穴は、シャフト部材を貫通している穴でもいし、貫通していない穴でもよい。例えば、自動車等のシャフト部品において油を通すための穴として設けられていてもよい。
穴の直径は特に限定されず、シャフト部材の径、用途にもよるが、例えば1.0mm~6.0mmである。
<シャフト部材の製造方法>
次に、本開示に係るシャフト部材の製造方法の一例について説明する。なお、本開示に係るシャフト部材を製造する方法は特に限定されないが、前述した化学組成を有するシャフト部材に対し、浸炭処理を施して表層部に浸炭層を形成した後、高圧縮残留応力部とすべき領域に特定の条件でローラーバニシング加工を施す方法が挙げられる。
例えば、鋼材を加工して粗部材を得る工程(鋼材加工工程)と、粗部材に対して浸炭処理を施す工程(浸炭処理工程)と、浸炭処理した粗部材の外周面に冷間ローラーバニシング加工を施して表層にひずみを導入する工程(冷間ローラーバニシング工程)を含む方法が挙げられる。なお、他の工程を含んでもよく、例えば、鋼材を加工し易くするため、鋼材加工工程の前に恒温焼き鈍しを施してもよい。
[鋼材加工工程]
前述した化学組成を有する鋼材を準備し、鋼材を加工してシャフト部材の形状に近い所望の形状を有する粗部材を製造する。
鋼材の加工方法は公知の方法を採用することができる。加工方法としては、例えば、熱間加工、冷間加工、切削加工等が挙げられる。粗部材はシャフト部材と同様の形状とする。
[浸炭処理工程]
次いで、粗部材に対して、浸炭処理、恒温保持処理、焼入れ処理を施す。
(浸炭処理)
浸炭温度(T1):900~1050℃
浸炭温度(T1)が低すぎれば、粗部材の表層が十分に浸炭されない。一方、浸炭温度(T1)が高すぎれば、オーステナイト粒が粗大化してシャフト部材のねじり疲労強度が低下する。従って、浸炭温度(T1)は好ましくは900~1050℃である。
浸炭処理時のカーボンポテンシャル(Cp):0.8~1.1%
カーボンポテンシャル(Cp)が低すぎれば、十分な浸炭がされない。一方、カーボンポテンシャル(Cp)が高すぎれば、浸炭時に析出した硬質な初析セメンタイトが浸炭焼入れ後にも3%を超えて残存する。この場合、初析セメンタイトを起点に亀裂が発生し、シャフト部材のねじり疲労強度が低下する。また、切削加工時の工具摩耗が増大し、浸炭材の被削性が低下する。従って、カーボンポテンシャル(Cp)は好ましくは0.8~1.1%である。カーボンポテンシャル(Cp1)は浸炭処理時に上記範囲内で変動させてもよい。
浸炭時間(t1):60分以上
浸炭処理の時間(浸炭時間)(t1)が短すぎれば、十分な浸炭がされない。従って、浸炭時間(t1)は60分以上とすることが好ましい。一方、浸炭時間(t1)が長すぎれば、生産性が低下する。従って、浸炭時間(t1)の上限は240分とすることが好ましい。
(恒温保持処理)
浸炭処理後、恒温保持処理を施す。恒温保持処理は、例えば、次の条件で行う。
恒温保持温度(T2):820~870℃
恒温保持温度(T2)が低すぎれば、カーボンポテンシャル等の雰囲気制御が困難になる。この場合、残留オーステナイトの体積率が調整しにくい。一方、恒温保持温度(T2)が高すぎれば、焼入れ時に生じる歪が増大して、焼割れが発生する場合がある。従って、恒温保持温度(T2)は好ましくは820~870℃である。
恒温保持処理時のカーボンポテンシャル(Cp):0.7~1.0%
恒温保持処理時におけるカーボンポテンシャル(Cp)が低すぎれば、浸炭時に侵入したCが再度外部に放出される。一方、カーボンポテンシャル(Cp)が高すぎれば、硬質な初析セメンタイトが析出する。この場合、初析セメンタイトを起点に亀裂が発生し、シャフト部材のねじり疲労強度が低下する。また、切削加工時の工具摩耗が増大し、浸炭材の被削性が低下する。従って、カーボンポテンシャル(Cp)は好ましくは0.7~1.0%である。
恒温保持時間(t2):20~60分
恒温保持時間(t2)が短すぎれば、粗部材の温度が均一にならず、焼入れ時に生じる歪が増大する。この場合、浸炭材に焼割れが発生する場合がある。一方、恒温保持時間(t2)が長すぎれば、生産性が低下する。従って、恒温保持時間(t2)は20~60分である。
(焼入れ処理)
恒温保持処理後、公知の方法で焼入れ処理を施す。焼入れ処理は、例えば、油焼入れや水焼入れとすることができる。
(焼戻し処理)
シャフト部材の靭性を高めるため、浸炭焼入れ処理を施した後、焼戻し処理を施す。焼戻し温度は、例えば150~200℃である。焼戻し温度での保持時間はたとえば60~150分である。
[冷間ローラーバニシング工程]
次いで、浸炭材の外周面の少なくとも一部に冷間ローラーバニシング加工を施す。このとき、冷間ローラーバニシング加工を施した表層領域の平均圧縮残留応力が1700MPa以上となるように加工を行う。
図1は、本開示に係るシャフト部材の製造において、ローラーバニシング加工を施す際に好適に用いることができる工具の一例を示している。(A)は正面図、(B)は側面図である。この円盤状の工具10は超硬合金製であり、図1(A)に示されるように外縁部付近ではテーパーが付いた形状となっている。
このような工具を用いて浸炭処理後のシャフト部材に対してローラーバニシング加工を行う際、図2に示すように、被加工部材(シャフト部材)20を旋盤(不図示)にセットし、切削油を塗布した後、高速で軸回転させる。そして、支持体14によって軸回転自在に支持された円盤状工具10の当接部12を、高速回転するシャフト部材20の外周面に対して垂直に圧力Fで押し当てながらシャフト部材20の軸と平行となる方向Xに移動させる。この際、例えば、以下のような加工条件が挙げられる。
当接部:R0.5~1.5
送り :0.01~0.15mm/rev
周速 :200~1000rpm
切込み:0.15~0.60mm
図1及び図2に示すような円盤形状の工具10を用いてローラーバニシング加工を施すことで、シャフト部材20の表層領域で加工誘起変態が生じ、シャフト部材20の表層部の硬さが向上するとともに、大きな圧縮残留応力(平均圧縮残留応力:1700MPa以上)が付与される。これによりシャフト部材20のねじり疲労強度を向上させることができる。
以下、本開示に係るシャフト部材の実施例について説明する。なお、本開示に係るシャフト部材は以下の実施例に限定されるものではない。
<サンプルの製造>
図4に示す工程によりシャフト部材のサンプルを製造した。
(鋼材加工)
表1に示す化学組成を有する鋼材を素材とした。これらの素材に対して、925℃で60min保持した後、さらに650℃で60min保持した後、空冷した。この恒温焼き鈍しを行った素材から、図3に示す形状、大きさを有する、シャフトを模擬した油穴付き中空サンプル30に加工した。サンプル30は、軸方向に設けられた貫通孔42のほか、長手方向の中央部において径方向に貫通する油穴46が形成されている。また、サンプル30の両端は固定部となっており、円筒状本体は、大径部34と、中央に位置し、油穴46が形成されている小径部36とが一体となっている。大径部34の直径は22.4mm、油穴46の直径は4mmである。
なお、表1に示す化学組成の残部はFe及び不純物である。下線は本開示の範囲外であること、空欄はその元素を含まない(意図的に添加していない)ことを意味する。

(ガス浸炭処理)
各サンプルに対し、図5に示すヒートパターンでガス浸炭による「浸炭焼入れ-焼戻し」を施した。なお、「Cp」、「Cp」はそれぞれ炭素ポテンシャルを、油焼入(油温:60℃)は油温60℃の油中にサンプルを投入して冷却したことを意味する。つまり、各サンプルに対し、930℃まで加熱した後、雰囲気の炭素ポテンシャルCp1.0%の条件で、930℃に保持したまま80分間、次いで炭素ポテンシャルを変動させてCp0.8%の条件で930℃に保持したまま60分間、続いて830℃まで冷却して30分間加熱した後、60℃の油中で冷却した。さらに、180℃まで加熱した後、120分間保持し、室温まで大気放冷した。
(ローラーバニシング加工)
ガス浸炭処理後、図1に示す円盤型の超硬合金製の工具(直径:30mm、最大肉厚:11mm)を準備した。切削油をサンプルに塗布し、下記条件にてサンプルの外周面に冷間ローラーバニシング加工を施した。
送り :0.05mm/rev
周速 :1000rpm
切込み:片側0.5mm
なお、「切込み:片側0.5mm」とは、サンプル(シャフト部材)と工具が接触した位置を0mmとした場合、その状態から工具を0.5mm押し込んだことを意味する。
<測定>
各サンプルの冷間ローラーバニシング加工を施した部分の表層領域について、前述した方法により、平均ビッカース硬さ、平均圧縮残留応力、残留オーステナイトの平均体積率をそれぞれ測定した。
(平均圧縮残留応力)
シャフト部材サンプルの穴近傍の表層領域におけるサンプル長手方向の平均圧縮残留応力を測定したところ、ガス浸炭後、ローラーバニシング加工を行った場合は、表面から0.30mm位置までの平均圧縮残留応力が1700MPa以上に向上していた。
(残留オーステナイトの平均体積率)
シャフト部材サンプルの穴近傍の表層領域における残留オーステナイトの平均体積率を測定したところ、ガス浸炭後、ローラーバニシング加工を行った場合は、表面から0.30mm位置まで加工誘起変態により残留オーステナイトの平均体積率が5.0%以下に減少していた。
(平均ビッカース硬さ)
シャフト部材サンプルの穴近傍のC断面(シャフト部材の長手方向に垂直な断面)にて表層領域における平均ビッカース硬さを測定したところ、ガス浸炭後、ローラーバニシング加工を行った場合は、表面から0.30mm位置までの平均ビッカース硬さが770HV0.2以上に向上していた。
<評価>
[ねじり疲労試験-ねじり疲労強度の測定]
共振型ねじり疲労試験機を用いてねじり強度を評価した。ねじり疲労試験は、室温大気中、応力比R=-1、速度373~439cmpの条件で実施した。試験打ち切り回数を1.0×10回とした。1.0×10回繰り返した後、疲労破壊しなかった最も高いトルクをねじり疲労強度とした。
図6は、ガス浸炭後、冷間ローラーバニシング加工を実施した場合と実施しなかった場合のねじり疲労強度を示す図である。ガス浸炭後、冷間ローラーバニシング加工を施すことで、冷間ローラーバニシング加工を施さなかった場合よりもねじり疲労強度が約1.5倍に向上している。
本試験においては、冷間ローラーバニシング加工(RB)を行わなかった比較例101のねじり疲労強度を基準とし、ねじり疲労強度が基準の1.30倍以上である場合を優れたねじり疲労強度を有する(合格)と判断した。結果を表2に示す。
なお、表2における「冷間RB」において、No.107の「有り*」は球状工具を用いて冷間ローラーバニシング加工を行ったことを意味し、No.108の「SP*」はショットピーニング加工を行ったことを意味する。
本開示例のサンプルは、化学組成、表層領域における平均圧縮残留応力、残留オーステナイトの平均体積率、平均ビッカース硬さが、いずれも本開示の範囲内にあり、ねじり疲労強度は合格であった。一方、比較例のサンプルは、化学組成及び/又は表層領域における平均圧縮残留応力が本開示の範囲外であり、ねじり疲労強度は、基準の1.30倍未満であった。
10 ローラーバニシング用工具
20 被加工部材
30 シャフト部材サンプル
46 油穴

Claims (7)

  1. 略円柱状の外形を有し、表層部の浸炭層と前記浸炭層よりも内部の芯部とを含むシャフト部材であって、
    前記芯部は、質量%で
    C:0.10~0.30%、
    Si:0.03~1.50%、
    Mn:0.30~1.00%、
    P:0.035%以下、
    S:0.035%以下、
    Cr:0.02~1.80%、
    Mo:0.02~0.50%、
    Al:0.005~0.100%、
    N:0.0020~0.0250%、及び
    O:0.0015%以下
    を含有し、残部はFe及び不純物からなり、かつ下記式(1)を満たす化学組成を有し、
    前記シャフト部材の表面から0.30mm深さまでの領域を表層領域としたときに、
    前記シャフト部材の長手方向の少なくとも一部において、前記表層領域における前記長手方向の平均圧縮残留応力が1700MPa以上である高圧縮残留応力部を有し、
    前記高圧縮残留応力部は、残留オーステナイトの平均体積率が5.0%以下であり、かつ平均ビッカース硬さが770HV0.2以上である、シャフト部材。
    0.98<0.25Si+Mn+0.40Cr+0.25Mo<1.33 ・・・(1)
    ただし、前記式(1)中の元素記号は、前記芯部における当該元素の質量%での含有量を示す。
  2. 略円柱状の外形を有し、表層部の浸炭層と前記浸炭層よりも内部の芯部とを含むシャフト部材であって、
    前記芯部は、質量%で
    C:0.10~0.30%、
    Si:0.03~1.50%、
    Mn:0.30~1.00%、
    P:0.035%以下、
    S:0.035%以下、
    Cr:0.02~1.80%、
    Mo:0.02~0.50%、
    Al:0.005~0.100%、
    N:0.0020~0.0250%、及び
    O:0.0015%以下
    を含有し、さらに下記A群、B群、C群及びD群からなる群から選択される1種又は2種以上を含有し、
    (A群)
    Cu:0.40%以下、
    Mg:0.0050%以下、
    V:0.50%以下、
    Nb:0.100%以下、
    Ti:0.100%以下、
    Ca:0.0050%以下、及び
    B:0.0050%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
    (B群)
    Ni:0.30%以下
    (C群)
    Sn:0.100%以下
    (D群)
    Bi:0.020%以下、及び
    Pb:0.09%以下からなる群より選択される1種又は2種
    残部はFe及び不純物からなり、かつ下記式(1)を満たす化学組成を有し、
    前記シャフト部材の表面から0.30mm深さまでの領域を表層領域としたときに、
    前記シャフト部材の長手方向の少なくとも一部において、前記表層領域における前記長手方向の平均圧縮残留応力が1700MPa以上である高圧縮残留応力部を有し、
    前記高圧縮残留応力部は、残留オーステナイトの平均体積率が5.0%以下であり、かつ平均ビッカース硬さが770HV0.2以上である、シャフト部材。
    0.98<0.25Si+Mn+0.40Cr+0.25Mo<1.33 ・・・(1)
    ただし、前記式(1)中の元素記号は、前記芯部における当該元素の質量%での含有量を示す。
  3. 前記化学組成がA群を含む請求項2に記載のシャフト部材。
  4. 前記化学組成がB群を含む請求項2に記載のシャフト部材。
  5. 前記化学組成がC群を含む請求項2に記載のシャフト部材。
  6. 前記化学組成がD群を含む請求項2に記載のシャフト部材。
  7. 外周面に少なくとも1つの穴が形成されており、前記シャフト部材の長手方向の少なくとも前記穴が形成されている領域が、前記高圧縮残留応力部である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のシャフト部材。
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