JP2024031532A - イチゴの栽培方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】早期の収量を増加させるためのイチゴの栽培方法を提供すること。【解決手段】頂芽が花芽へ分化した一季成り性のイチゴ株に対し、日長16時間以上の長日処理を7日間~28日間行うこと含み、長日処理が、頂芽の花芽への分化後21日以内に開始される、イチゴの栽培方法。【選択図】なし
Description
特許法第30条第2項適用申請有り 発行日令和3年9月11日 刊行物(刊行物名、巻数、号数、該当ページ、発行所/発行元等) 園芸学研究第20巻別冊2、一般社団法人園芸学会 [刊行物等] 開催日令和3年9月8日 集会名、開催場所 一般社団法人園芸学会令和3年度秋季大会(オンライン開催)
本発明は、イチゴの栽培方法に関する。
イチゴは早い時期は単価が高いため、初期収量(早期収量ともいう)を増加させることが求められている。従来の栽培技術には、冬季の本圃において草勢を維持し収量を増加させるために長日処理を行い、初春期以降の収量を増加させるものがある(非特許文献1 Figure 1)。しかしながら、この栽培技術では、12月からの初期収量を増加させる効果は限定的であった。
Yoshida,Yuichi"Strawberry Production in Japan:History and Progress in Production Technology and Cultivar Development",International Journal of Fruit Science(2013)Volume 13,Issue 1-2:Proceedings of the 2011 North American Strawberry Symposium
本発明は、早期の収量を増加させるためのイチゴの栽培方法を提供することを目的とする。
初秋季におけるイチゴ株は花芽分化を安定させるためにできるだけ短日条件に置くべきと考えられており、その時期の長日処理は行われていない。また、花芽分化を確認したら速やかに定植することが定法で、定植が1日遅れるごとに1%減収するとも言われている。
本発明者は、この知見に反し、驚くべきことに、初秋季におけるイチゴ株に対し、特定のタイミングで特定の長さの長日処理を行うことにより初期収量を増加できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、例えば、以下を提供する。
[1] 頂芽が花芽に分化した一季成り性のイチゴ株に対し、日長16時間以上の長日処理を7日間~28日間行うことを含み、
長日処理が、頂芽の花芽への分化後21日以内に開始される、イチゴの栽培方法。
[2]長日処理を終了した後にイチゴ株を定植することをさらに含む、[1]に記載の方法。
[3] イチゴ株の定植は、長日処理を終了した後7日以内に行われる、[2]に記載の方法。
[4] 長日処理の日長が18時間以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[1] 頂芽が花芽に分化した一季成り性のイチゴ株に対し、日長16時間以上の長日処理を7日間~28日間行うことを含み、
長日処理が、頂芽の花芽への分化後21日以内に開始される、イチゴの栽培方法。
[2]長日処理を終了した後にイチゴ株を定植することをさらに含む、[1]に記載の方法。
[3] イチゴ株の定植は、長日処理を終了した後7日以内に行われる、[2]に記載の方法。
[4] 長日処理の日長が18時間以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
本発明によれば、イチゴ果実の単価が高い早期の収量を増加させることができる。
本明細書において「イチゴ」は、バラ科フラガリア属の学名Fragaria×ananassaの植物を意味する。
本明細書において「苗」は、特に限定されない限り、株のうち、特に種子から生えたばかりの状態から、本圃に定植する前の若い植物体を意味する。
本明細書において、対象とするイチゴ株は、一季成り性のイチゴ株である。四季を通じて果実をつける四季なり性のイチゴとは対照的に、一季成り性のイチゴは年に1回果実をつける。一季成り性のイチゴは短日性であり、短日条件下で花芽分化が促進される。一季成り性のイチゴ株は、栽培品種であってもよい。一季成り性のイチゴ株の日本品種としては、例えば、‘恋みのり’、‘福岡S6号’(以下、「あまおう」(登録商標)とも記載。)、‘とりおとめ’、‘さちのか’、‘女峰’、‘紅ほっぺ’、‘章姫’、‘あまおとめ’、‘とよのか’、‘あまえくぼ’等が挙げられるが、本発明の効果は長日処理により葉面積の増大や葉柄の延長から受光面積が増大することによるものと推察されるため、コンパクトな草姿の品種においてより効果が顕著であると考えられる。そのような品種としては、例えば、‘とちおとめ’、‘福岡S6号’、‘さちのか’、‘とよのか’、‘あまえくぼ’、‘女峰’等が挙げられる。一季成り性のイチゴ株の米国品種としては、例えば、 ‘フロンテラス(Fronteras)’、‘ストロベリーフェスティバル(Strawberry Festival)’、及び‘フロリダラディアンス(Florida Radiance)’等が挙げられる。一季成り性のイチゴ株の韓国品種としては、例えば、‘ソルヒャン(雪香)’及び‘メヒャン(梅香)’等が挙げられる。
本発明は、一実施形態として、頂芽が花芽に分化した一季成り性のイチゴ株に対し、日長16時間以上の長日処理を1週間~4週間行うことを含み、長日処理が、頂芽の花芽への分化後21日以内に開始される、イチゴの栽培方法を提供する。
図1の概念図を用いて、本実施形態のイチゴの栽培方法と慣行法の違いを説明する。いずれも12月頃収穫を開始する促成栽培である。一季成り性のイチゴ株は、通常、定植した親株からランナーを伸ばして作製した小苗をランナーから切り離しポット等に植える「挿し苗」を6月中旬~下旬頃に行う。その後、育苗圃で花芽分化するまで栽培する。慣行法では、花芽分化を確認したらすみやかに本圃に定植し、栽培する。一方、本実施形態では、花芽分化を確認した後21日以内に1週間~4週間長日処理(終夜電照約2週間)を行う。この際、図示するように、花芽分化を確認した後すぐには定植せず、長日処理を行ってから本圃に定植するか、又は、図示していないが、花芽分化を確認した後定植してから同様の長日処理を行う。定植後(定植後に長日処理する場合にはその間を除く)の栽培は、慣行法及び本実施形態の方法間で違いはなく、同様に行うことができる。草勢維持のために冬から春にかけて長日処理をしてもよいが、自然日長でも十分な草高になる品種(例えば、‘恋みのり’、‘紅ほっぺ’)では不要である。なお、本明細書において特に限定されない限り、「長日処理」はこの冬から春にかけての長日処理ではなく、頂芽の花芽への分化後に初秋季に行う長日処理を意味する。
本実施形態では、頂芽が花芽に分化した一季成り性のイチゴ株に対し長日処理を行う。本明細書において「頂芽が花芽に分化した株(苗)」は、「花芽分化した株(苗)」、「花芽分化後の株(苗)」、及び「花芽分化が十分安定している株(苗)」と同義として使用され、「頂芽が花芽に分化後」は、「花芽分化確認後」と同義として使用される。
一季成り性のイチゴ株は、短日性であり、低温且つ短日の条件下で花芽分化が促進される。通常自然条件下では初秋季における花芽分化後の日長は通常16時間に満たない。そこで、例えば、日の入り前の期間、又は日没後から人工的に電照することにより連続した明るい時間(明期)を延長して16時間以上とすることにより日長16時間以上の長日処理を可能となる。日没から日の入りまで終夜電照(すなわち、一晩中電照)すると、長日処理の日長は24時間となる。自然日長ではなく日長等を完全に人工的に管理して栽培する場合には、時間帯を問わず、16時間以上連続した明るい時間を設ければよい。長日処理の日長は16時間以上であってよく、16時間以上24時間以下であってもよく、例えば、17時間以上、18時間以上、19時間以上、20時間以上、21時間以上、22時間以上、23時間以上又は24時間であってもよい。
本実施形態における長日処理の期間(処理開始日を参入)は7日間~28日間であってよく、例えば、10日間~25日日間であってよく、12日間~21日間であってよく、13日間~16日間であってよく、13日間~15日間であってよく、8日間以上、9日間以上、11日間以上、12日間以上、13日間以上又は14日間以上であってよく、25日間以下、24日間以下、23日間以下、22日間以下、21日間以下、20日間以下、19日間以下、18日間以下、17日間以下、16日間以下又は15日間以下であってもよい。
本実施形態では、頂芽が花芽に分化した株に対して、頂芽が花芽に分化した後21日以内に長日処理を行うことが重要であり、頂芽が花芽に分化した後に直ちに長日処理を開始することを要するものではない。頂芽が花芽に分化した後、例えば、20日以内、19日以内、18日以内、17日以内、16日以内、15日以内又は14日以内に長日処理を開始してもよい(処理開始日を参入)。
頂芽が花芽に分化しているかは、花芽検鏡等、当業者に公知の方法により確認することができる。例えば、イチゴの茎頂部を実体顕微鏡で見ながら、これらの内蔵葉を剥離して生長点部分が花芽を分化しているか確認することができる栽培する。株数が多い程、すべての株について頂芽が花芽に分化していることを確認するのは困難になる。しかしながら、頂芽が花芽に分化していない株に対して長日処理を開始すると、出蕾が遅れてしまう悪影響が予想される。花芽分化が安定する時期は品種によって異なるが、一季成り性の栽培品種のほとんどが9月下旬までには花芽分化が安定する。したがって、栽培する品種において、花芽形成が安定する時期と知られている時期以降に行うことができる。また、例えば、複数の株のうちの一定の割合の株についてすべて頂芽が花芽に分化していることを確認したら長日処理を開始してもよい。さらに、本実施形態では頂芽が花芽に分化した株に対して直ちに長日処理を開始する必要はないため、例えば、複数の株のうちの一定の割合の株について頂芽が花芽に分化していることを確認してから、一定期間(例えば、1週間)待ってから長日処理を開始することができる。これにより、栽培する複数株のほぼすべてにおいて頂芽が花芽に分化した後に長日処理を開始することができる。また、翌年以降の参考に、複数の株について長日処理を開始する時期を決定するために、例えば、特定の時期に長日処理を行った後、11月末までの出蕾株率を算出し、その出蕾株率が80%以上、90%以上、95%以上又は100%になった場合に、当該時期に長日処理を開始すると決定してもよい。
本実施形態においては、長日処理を終了した後に株(苗)を定植してもよい。長日処理後に定植する場合、植物の生育を考慮すると、長日処理後すみやかに定植することが好ましい。株の定植は、例えば、長日処理を終了した後、終了した同日~7日以内、同日~5日以内、同日~3日以内、同日~2日以内又は同日~1日以内に行われてもよい。また、頂芽が花芽に分化した日から、例えば、6週間以内、5週間以内、又は4週間以内であってもよい。本圃は通常育苗圃よりも広いため、長日処理を定植前の育苗圃で行うことで、電照コストを低減することができる。また、通常慣行法では9月中下旬に定植のピークとなるが、そのような方法と定植時期がずれることで定植のための労力の分散が可能となる。
本実施形態においては、頂芽の花芽への分化後21日以内に開始される限り、イチゴ株(苗)を定植した後に長日処理を行ってもよい。
育苗圃及び本圃でのイチゴ株の栽培は、栽培するイチゴ品種に適した方法により適宜行えばよいが、以下に一般的な栽培について例示する。なお、一般的な栽培における時期及び自然条件の例示等は、日本の福岡県久留米市の気候を基準として記載している。
育苗圃は、主に挿し苗をしてから定植前まで株(苗)を養成する栽培場所を意味する。育苗園では、例えば、露地栽培を行ってもよく、施設栽培を行ってもよい。露地栽培は、屋外の畑で自然の環境を活かして栽培する方法であり、例えば、被覆資材を張っていないハウスを使用する形態や、遮光ネットのみが張られた(雨は通過する)ハウスを使用する形態が含まれる。露地栽培は地植えする場合に限られず、上記のハウス内にベンチを設置し、そのベンチ上で育苗することも露地栽培に含まれる。施設栽培としては、例えば、自然光を利用できる被覆資材を張ったハウスを用いた施設栽培や、人工的に生育環境をコントロールできる閉鎖施設を用いた施設栽培が含まれる。ハウスには、温室などの半閉鎖環境において、太陽光の利用を基本として植物を生産する太陽光利用型の植物工場等も含まれる。人工的に生育環境をコントロールできる屋内施設の場合には、栽培するイチゴ品種に適した温度、湿度、CO2濃度、電照等を管理できる。長日処理は、育苗圃内で行ってもよく、別の施設で行ってもよく、後述する本圃で行ってもよい。
本圃は、主にイチゴ株(苗)を定植し、その後イチゴ果実の収穫を行う栽培場所を意味する。本実施形態の方法では、長日処理後に本圃に定植されてもよく、本圃に定植後に長日処理を行ってもよい。本圃は、特に促成栽培では、露地栽培よりも施設栽培が行われることが多い。施設栽培としては、例えば、自然光を利用できる被覆資材を張ったハウスを用いた施設栽培や、人工的に生育環境をコントロールできる閉鎖施設を用いた施設栽培が含まれる。人工的に生育環境をコントロールできる屋内施設の場合には、栽培するイチゴ品種に適した管理を行う。定植前に土壌分析をし、施用する基肥量を決定しておくことが好ましい。定植後の栽培としては、地床栽培及び高設栽培が挙げられる。地床栽培とは、地面を耕耘し、畝をたてて、そこに株を定植して栽培する方法であり、高設栽培とはパイプなどでベンチを組み立て、作業しやすい位置にイチゴの株を設置して栽培する方法である。各イチゴ品種に適した栽培を行えばよいが、例えば、地床栽培の外なりの場合、株間は19~25cm程度、条間は25cm程度、2条千鳥植えにすることができ、畝を高さ約30cm以上のカマボコ状に成形し、果実が畝上に着果するように植栽することができる。また、例えば、高設栽培の場合、株間は19~25cm程度、2条千鳥植えにすることができる。
育苗圃及び本圃において株を栽培する際に明期において照射される光は、自然光(太陽光)、人工光又はこれらの組合せであってよい。光源については特に限定されず、後述する長日処理にて使用可能な態様を含む。光源は単独で使用してもよく、複数の光源を組合せ使用してもよい。また、例えば、自然光の強度が必要な強度に満たない場合、人工光にて補ってもよく、逆に自然光の強度が大きすぎたり長すぎたりする場合には、遮光する等して強度を調整することもできる。
育苗圃及び本圃における栽培は、例えば、いずれも原則的には自然日長とし、暑いときは換気、寒いときは保温若しくは暖房で温度管理してもよい。その場合、育苗圃は6~9月の日長と気温、すなわち、日長12.5~15時間及び気温18~38℃程度、本圃は9月下旬~5月の日長と気温、すなわち、日長10.5~14.5時間、気温6~38℃程度としてよい。本圃において低温期には、例えば、20~26℃間のいずれかの温度を上限とし、5~7℃間のいずれかの温度以上となるように保温又は加温を行ってもよい。
一般的なイチゴ株の栽培においては、10月中旬頃~下旬頃マルチングを行う。また、平均気温が16℃を下回る頃(10月下旬頃)を目安に雨よけや保温のためにビニールでハウス天井を被覆し、栽培するイチゴ品種に適した温度管理を行う。人工的に生育環境をコントロールできる屋内施設の場合には、栽培するイチゴ品種に適した管理を行う。図1に示したように、草勢維持のために冬から春にかけて長日処理をしてもよい。自然条件下では休眠に入る前の、10月頃にハウス等で施設栽培にて保温して育てる促成栽培を行うと、12月頃から収穫が可能となる。本実施形態の方法において、長日処理時以外は、通常の促成栽培を行うことができる。一季成りイチゴの促成栽培では、品種や地域で最適な方法は多少異なるが、典型的には6月~7月頃に採苗した苗を9月~10月上旬に定植した後、11月中旬~翌6月頃にかけて果実を収穫している。
長日処理に用いる光源としては、例えば、白熱灯、蛍光灯及びLED灯が挙げられる。例えば、3波長型の蛍光灯、赤色LED、遠赤色LED等を用いることもできる。光源は単独で使用してもよく、複数の光源を組合せ使用してもよい。株(複数株であれば群落)頂部の水平面照度は、生理的な上限はないと考えられるが、例えば、50ルクス~35000ルクスであってよく、60ルクス以上、70ルクス以上、75ルクス以上、80ルクス以上であってもよく、32000ルクス以下、30000ルクス以下、10000ルクス以下、1000ルクス以下、180ルクス以下、170ルクス以下、160ルクス以下であってもよい。光合成光量子密度も、生理的な上限はないと考えられるが、例えば、0.6~475μmolm-2・s-1であってよく、0.6μmolm-2・s-1以上、0.8μmolm-2・s-1以上、0.9μmolm-2・s-1以上、1.0μmolm-2・s-1以上であってもよく、435μmolm-2・s-1以下、405μmolm-2・s-1以下、135μmolm-2・s-1以下、13.5μmolm-2・s-1以下、2.5μmolm-2・s-1以下、2.3μmolm-2・s-1以下、2.2μmolm-2・s-1以下であってもよい。
長日処理を行う秋(9月下旬~10月中旬)の朝方の最低気温は通常18℃程度であり、最高気温は35℃程度である。したがって、長日処理を行う際の栽培温度は、例えば、18℃~35度であってもよい。長日処理を行う際の気温は、自然条件下で行ってよく、例えば、栽培施設において窓を開放したまま固定して換気をし、保温をしない環境下で栽培してよい。また、必要に応じて換気、気化冷却、保温及び加温等により温度調整をしてもよい。
本実施形態においては、長日処理期間中に施肥を行ってもよい。使用する肥料は液肥であってもよく、固形肥料であってもよい。また、化成肥料であってもよく、有機肥料であってもよい。イチゴの栽培においてこの時期に使用される肥料としては、例えば、窒素、リン酸及びカリウムを含む緩効性の化成肥料が挙げられる。施肥の際には、各肥料の適正量にて行う。施肥は長日処理期間中に限られたものだけでなく、定植後も行ってよい。また、定植後に長日処理(初秋季)を行う場合には、定植後から施肥してもよい。
一季成り性の栽培品種のほとんどが自然条件下で9月下旬までには花芽分化が安定する。例えば、‘福岡S6号’は最も花芽分化遅いグループに属する。ただし、必要に応じて、低温及び短日処理等により花芽分化の時期をコントロールすることを妨げるものではない。
本実施形態によれば、イチゴ果実の単価が高い早期の収量を増加させることができる。この効果は、長日処理により葉面積の増大や葉柄の延長から受光面積が増大し、光合成量が増加することによるものと推察される。イチゴ果実の収量の増減の指標としては、可販果収量(g/株)を使用することができる。可販果収量とは、一株あたりの収穫できた販売基準を満たす果実の重量である。早期とは、ここでは、主に収穫開始から2月末までを意味し、例えば、本実施形態の方法で栽培したイチゴの早期の可販果収量(g/株)の増加は、初秋季の長日処理をしない以外は同条件で栽培したイチゴ株と比較して30%、50%、又は80%以上であってもよい。
本実施形態の方法は、頂芽が花芽に分化した一季成り性のイチゴ株に対し、日長16時間以上の長日処理を7日間~28日間行うことを含み、長日処理が、頂芽の花芽への分化後21日以内に開始される、イチゴの初期収量を向上させる方法、とすることもできる。
[実施例1]
栽培試験は、福岡県久留米市の育苗圃及び本圃で実施した。根部直径約5.5cmの連結育苗容器に2020年6月中下旬に挿し苗し、花芽分化後(頂芽が花芽へ分化した後)の‘とちおとめ’、‘福岡S6号’(あまおう(登録商標))及び‘恋みのり’(いずれも一季成り性)の苗を供試した。育苗圃(天窓と側窓を常時開放したガラス室であって、気温はおおむね外部の日最低気温である20℃~日中の最高気温35℃の範囲)にて9月26日夜から10月10日朝まで白熱電球により2週間の終夜照明(群落頂部の水平面照度80ルクス(光合成光量子束密度:約1.1μmolm-2・s-1)以上、日没から夜明けまで連続照明)を行い、処理終了日に太陽光利用型植物工場内の高設ベンチに株間20cmで定植して栽培した。定植後の栽培は、日中は26℃以下を目標に換気しつつ、自然日長で栽培し、低温期は26℃を上限に保温を行って、日最低気温が6℃以上となるように加温を行った。長日処理期間中は施肥を行った。対照区の苗は自然日長で長日処理区と同様の管理をした。長日処理終了日の最新展開葉を「0」として,以降第5葉までの葉の大きさや葉柄長、毎月の草高、収量を調査した。試験規模は各品種・処理について6株を2反復で行った。冬から春にかけての長日処理は行っていない。
栽培試験は、福岡県久留米市の育苗圃及び本圃で実施した。根部直径約5.5cmの連結育苗容器に2020年6月中下旬に挿し苗し、花芽分化後(頂芽が花芽へ分化した後)の‘とちおとめ’、‘福岡S6号’(あまおう(登録商標))及び‘恋みのり’(いずれも一季成り性)の苗を供試した。育苗圃(天窓と側窓を常時開放したガラス室であって、気温はおおむね外部の日最低気温である20℃~日中の最高気温35℃の範囲)にて9月26日夜から10月10日朝まで白熱電球により2週間の終夜照明(群落頂部の水平面照度80ルクス(光合成光量子束密度:約1.1μmolm-2・s-1)以上、日没から夜明けまで連続照明)を行い、処理終了日に太陽光利用型植物工場内の高設ベンチに株間20cmで定植して栽培した。定植後の栽培は、日中は26℃以下を目標に換気しつつ、自然日長で栽培し、低温期は26℃を上限に保温を行って、日最低気温が6℃以上となるように加温を行った。長日処理期間中は施肥を行った。対照区の苗は自然日長で長日処理区と同様の管理をした。長日処理終了日の最新展開葉を「0」として,以降第5葉までの葉の大きさや葉柄長、毎月の草高、収量を調査した。試験規模は各品種・処理について6株を2反復で行った。冬から春にかけての長日処理は行っていない。
結果を図2~図6に示す。長日処理区では3品種とも早期(収穫開始から2月末まで)の収量が増加した(図2)。増収の要因は‘とちおとめ’及び「あまおう」(登録商標)については主に収獲果数の増加、‘恋みのり’では1果重の増加によるものであった(データ省略)。中央小葉の葉長と葉幅から推定した葉面積は長日処理によって3品種とも増加し,‘恋みのり’については長日処理終了後展開した第2,4葉で増加した(図3)。同様に‘とちおとめ’及び「あまおう」(登録商標)では第2~5葉で増加した(図5)。また葉柄長も長日処理により長くなり(図4及び図6)、全体として葉の繁茂する範囲が広がった。
これらによって個体あたりの受光面積が増大し、早期の収量も増大したと推察された。出蕾日は長日処理によりわずかに早期化する傾向が見られた(データ省略)。一般的にイチゴでは花芽分化確認後は速やかに定植しなければ収量が減少するとされている。しかし、適期に定植した他の試験での‘恋みのり’の収量は,本試験での自然日長区と同程度であったことから定植が遅れた影響は小さいと推定される。
[実施例2]
栽培試験は、福岡県久留米市の育苗圃及び本圃で実施した。苗への長日処理の適期を‘福岡S6号’(あまおう(登録商標))の苗を用いて調べた。具体的には、育苗施設(太陽光利用型植物工場にて、日最低気温は外気温と同程度、日最高気温は換気や気化冷却によりおおむね35℃以下とし、外部の4割程度の受光量で栽培)にて栽培した「あまおう」(登録商標)の苗を、実施例1に記載のガラス室に搬入し、9月10日から10月4日までの間、4日間隔で2週間の長日処理を開始し、長日処理終了同日にすみやかに本圃の施設(実施例1に記載した太陽光利用型植物工場の高設ベンチ)に定植して栽培した。長日処理は実施例1と同様に日没から夜明けまで白熱電球で連続照明を行った。定植後の栽培も、実施例1と同様に、日中は26℃以下を目標に換気しつつ、自然日長で栽培し、低温期は26℃を上限に保温を行って、日最低気温が6℃以上となるように加温を行った。また、長日処理の影響だけを判断するために、比較例として、長日処理を行う施設と同じ環境の自然日長で長日処理苗(「LD区」)と同期間栽培する区(「ND区」)を設けた。本実施例の試験の処理スケジュールを以下の表1に示す。試験規模は1区につき12株(6株を2反復)供試した。冬から春にかけての長日処理は行っていない。
栽培試験は、福岡県久留米市の育苗圃及び本圃で実施した。苗への長日処理の適期を‘福岡S6号’(あまおう(登録商標))の苗を用いて調べた。具体的には、育苗施設(太陽光利用型植物工場にて、日最低気温は外気温と同程度、日最高気温は換気や気化冷却によりおおむね35℃以下とし、外部の4割程度の受光量で栽培)にて栽培した「あまおう」(登録商標)の苗を、実施例1に記載のガラス室に搬入し、9月10日から10月4日までの間、4日間隔で2週間の長日処理を開始し、長日処理終了同日にすみやかに本圃の施設(実施例1に記載した太陽光利用型植物工場の高設ベンチ)に定植して栽培した。長日処理は実施例1と同様に日没から夜明けまで白熱電球で連続照明を行った。定植後の栽培も、実施例1と同様に、日中は26℃以下を目標に換気しつつ、自然日長で栽培し、低温期は26℃を上限に保温を行って、日最低気温が6℃以上となるように加温を行った。また、長日処理の影響だけを判断するために、比較例として、長日処理を行う施設と同じ環境の自然日長で長日処理苗(「LD区」)と同期間栽培する区(「ND区」)を設けた。本実施例の試験の処理スケジュールを以下の表1に示す。試験規模は1区につき12株(6株を2反復)供試した。冬から春にかけての長日処理は行っていない。
慣行は育苗施設の自然日長で育苗し9月24日に定植した。まる1は9月24日定植だが、その前の2週間を育苗施設とは別施設で長日条件又は自然日長で栽培している。以降まる6の10月18日定植まで4日毎に設定している(10月14日定植を除く)。施肥は、微量要素やカルシウムなどを含む総合要素入り液体肥料(窒素-リン酸-カリウム:15-8-17)を希釈し、潅水を兼ねてEC約0.7mS/cmの濃度で1日5回施用した。1日の液肥施用量は春の最大値で約300ml/株とした。施肥は本圃では9月30日に開始した。まだ定植していない苗に対しても同様に9月30日より開始した。長日処理は育苗施設とは別施設で行っているが、栽培場所の影響を除くため、自然日長の区の苗も同期間を同じ施設にて管理した(慣行区は育苗施設)。育苗施設は一般的施設と比較して、入射光は少なく(外部の4割程度)、天井が高く換気も良いため気温は低い環境であった。長日処理をした施設は窓を全開にしたガラス室で、光の量や気温は一般的な施設と同程度であった。収量データは2022年5月末まで取得した。
苗への長日処理と定植時期が月別可販果収量(g/株)に与える影響をまとめた結果を図7に示す。「出蕾株率」は、12株供試したうち、蕾が11月末までに外から肉眼で確認できた株の率を示している。おおむね11月末までに出蕾した株は順当な時期に頂芽が花芽に分化したという判断ができる。
花芽分化の安定しない早い時期(おおよそ右グラフの3、すなわち9月18日以前)に長日処理を開始すると出蕾が遅れ、収量は減少した。定植が遅れるとわずかに収量は減少するものの、花芽分化が十分安定した遅い時期に長日処理を行った苗(右グラフの4~6)では逆に増収となった。このとき、特に収穫期前半(12月~2月)の収量が増加した。
この結果から、花芽分化が十分安定する時期(頂芽が花芽に分化する時期)まで待って長日処理を行うことが重要であることが示唆された。
Claims (4)
- 頂芽が花芽へ分化した一季成り性のイチゴ株に対し、日長16時間以上の長日処理を7日間~28日間行うことを含み、
長日処理が、頂芽の花芽への分化後21日以内に開始される、イチゴの栽培方法。 - 長日処理を終了した後にイチゴ株を定植することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
- イチゴ株の定植は、長日処理を終了した後7日以内に行われる、請求項2に記載の方法。
- 長日処理の日長が18時間以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
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