JP2024029609A - 超開花性ムギの生産方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 開花性が飛躍的に高められたムギを提供すること。【解決手段】 Sof1遺伝子の機能を抑制することにより、ムギの開花性を向上させることが可能であり、また、Sof1遺伝子の機能の抑制を指標にムギの開花性を評価することが可能であることを見出した。【選択図】 なし

Description

本発明は、Sof1遺伝子を標的とした、開花性が向上したムギの生産方法および評価方法に関する。
世界の穀物の供給は、開発途上国を中心とした人口増加による食料の需要の増加に加え、異常気象の頻発や水資源の制約による生産量の減少などの諸要因によって逼迫するおそれがある。この問題の解決のための手段の一つとして、農業生産性を増大できる穀物の新品種の開発が求められている。
雑種強勢は雑種第一代(F1)の個体の生産能力が両親の生産能力を上回る現象であり、様々な作物の新品種の開発に利用されてきた。しかしながら、遺伝的多様性の極めて高いオオムギでは雑種強勢効果が優れているにもかかわらず、元来自殖性で他家受粉による雑種種子の生産効率が低いという理由から雑種強勢技術が成熟してこなかった。
そこで、他家受粉の効率を高めるために、穀物の開花性を制御する遺伝子の同定が試みられている。例えば、閉花性オオムギ品種の小さい鱗被は、染色体2Hの長腕にある単一の劣性遺伝子cleistogamy 1(cly1)によって制御されており(非特許文献1)、この遺伝子はシロイヌナズナAP2転写因子のオルソログであることが報告されている(非特許文献2)。オオムギの開花型Cly1遺伝子(Cly1.a)は、鱗被の幅と厚みを拡大させ、小花の中から外頴と内頴を外へ押し出し、機械的に開花させる働きをもつ(非特許文献2)。閉花型cly1.bと開花型Cly1.aの違いは、cly1の配列をコードするmicroRNA172(miR172)の特異的結合部位内の一塩基置換により生じ、Cly1.aをもつ野生種ではmiR172を介したcly1転写産物の切断が減少する。その結果、翻訳されたCLY1タンパク質が高蓄積し、抑制されていた鱗被が正常に発達するようになる(非特許文献2、3)。
開花型Cly1.aを利用することにより、閉花性品種に開花性の形質を付与することが可能である。しかしながら、当該遺伝子によりもたらされる開花性のみでは他家受粉による雑種種子の生産効率を高めるには不十分であり、飛躍的な開花性の向上がいまなお求められている。
Turuspekov, Y. et al., (2004) Theor. Appl. Genet., 109:480-487 Nair, S. K. et al., (2010) Proceedings of the National Academy of Sciences, 107(1):490-495 Anwar, N. et al., (2018) Annals of Botany, 122(2):251-265
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、開花性が飛躍的に高められたムギを提供することにある。
本発明者らは、前記目的を達成すべく、まず、開花型の野生オオムギ系統(OUH602)にガンマ線照射することにより開花性が向上した変異体のスクリーニングを行った。その結果、開花性が飛躍的に向上した超開花の形質を示す変異体を選抜することに成功した。次いで、選抜した突然変異体を開花型の栽培品種(Morex)と交配し、F2集団を用いたマップベースクローニングを行った。その結果、超開花の原因遺伝子は染色体7H上のマーカーHM7H234200とHM7H246100の間に存在し、この形質が単一の劣性遺伝子により支配されていることを見出した(この超開花の形質を支配する遺伝子を「sof1」と命名した)。この約3.1Mbの候補領域内には、43個のアノテーション付き遺伝子と5個のアノテーションなし偽遺伝子が存在することが判明した。
次に、これら遺伝子の多型を調査するために、変異体の全ゲノムショットガン配列解析を行い、野生型オオムギ系統(OUH602)のゲノム配列と比較した。その結果、この標的領域内では、3つのホモ接合多型が検出され、そのうち2つは遺伝子間領域に存在する1bp挿入であり、残りの一つはHorvu_MOREX_7H01G238100遺伝子内に存在する22bp欠失であった。
この遺伝子が超開花の形質の原因となるsof1であることを裏付けるために、閉花型の栽培品種(Golden Promise)のSof1遺伝子(上記22bp欠失の近傍領域)を標的として、CRISPR/Cas9法による変異の導入を行った。その結果、Sof1遺伝子内に5bpの欠失を持つ変異(sof1-2)が得られ、Golden Promiseが持つ鱗被より有意に長い鱗被を形成したことから、変異の効果が確認された。しかしながら、この変異体は、Golden Promiseが持つ閉花型cly1.b遺伝子の影響を受けて、超開花の形質を示す程度に十分な大きさの鱗被は形成しなかった。そこで、cly1.b遺伝子の影響を排除することを目的に、この変異体を開花型Cly1.a遺伝子を持つオオムギ品種Sv73528およびAdorraと交配した。その結果、得られた個体の鱗被は、Sv73528およびAdorraよりも有意に長く、超開花の形質を示した。以上から、sof1遺伝子が超開花の形質の原因遺伝子であることが判明した。さらに、本発明者らは、他の植物における相同遺伝子の探索を行った結果、コムギにおいても、当該オオムギ遺伝子に対応する遺伝子の存在が判明し、超開花の形質を示す変異体の取得にも成功した。
以上から、本発明者らは、Sof1遺伝子(変異体sof1遺伝子に対応する野生型遺伝子)の機能を抑制することにより、ムギの開花性を向上させることが可能であり、また、Sof1遺伝子の機能の抑制を指標にムギの開花性を評価することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、より詳しくは、以下の態様を含む。
[1]開花性が向上したムギの生産方法であって、ムギにおいて、下記(a)または(b)の内因性遺伝子の機能を人為的に抑制することを含む方法。
(a)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
(b)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
[2]下記(a)または(b)の内因性遺伝子の機能が人為的に抑制された、開花性が向上したムギ。
(a)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
(b)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
[3]ムギの開花性を評価する方法であって、ムギにおける、下記(a)または(b)の内因性遺伝子またはその発現制御領域の塩基配列を解析することを含む方法。
(a)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
(b)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
[4]ムギの開花性を評価する方法であって、ムギにおける、下記(a)または(b)の内因性遺伝子の発現を解析することを含む方法。
(a)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
(b)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
[5]開花性が向上したムギを生産する方法であって、請求項2に記載のムギと他の任意のムギとを交配させることを含む方法。
本発明によれば、開花性が飛躍的に向上したムギを生産することが可能となる。当該ムギは、その鱗被が大きく膨張することにより、大きな開花角度を示す。この形質は、ムギの育種において花粉親に導入すれば花粉の飛散が容易となる一方、雄性不稔の種子親に導入すれば受粉が容易となる。これにより他家受粉による雑種種子の生産の効率を飛躍的に高めることが可能となる。
野生型OUH602(WT)と突然変異体44205(MT)の写真である。(A)野生型OUH602および(B)突然変異体44205の小穂。(C)野生型OUH602および(D)突然変異体44205の開花直前の黄葯期の鱗被。(E)野生型OUH602および(F)突然変異体44205の小穂正面側から見た鱗被。(G)野生型OUH602と(H)突然変異体44205の小穂側面側から見た鱗被。 野生型OUH602(WT)と突然変異体44205(MT)のグラフ(図1の続き)である。(A)開花角度、(B)鱗被の長さ、(C)鱗被の厚み、(D)鱗被の幅、(E)鱗被の細胞数、(F)鱗被の細胞の長さ。 sof1のマップベースクローニングを示す図である。(A)sof1の高解像度遺伝地図。連鎖地図の線の上のマーカーの間の数字は、カバーされた組換え体の数を示す。(B)大規模なF2母集団を使用したsof1のファインマッピング(n=1759)。(C)3.1Mbの物理的領域で全ゲノムシーケンシングによって同定された変異を持つアノテーション付き遺伝子。矢印は、アノテーション付き遺伝子の転写の方向を示す。 sof1のマップベースクローニングを示す図(図3の続き)である。(A)Sof1遺伝子の構造。両端のボックスは5’および3’の非翻訳領域(UTR)を表し、その間のボックスはコーディングエクソンを表し、細い線はイントロンを表す。ATGとTAGは、それぞれ開始コドンと停止コドンを示す。破線は、変異体における22bpの欠失を示す。(B)SOF1タンパク質の構造。各ボックス(1043-1334位、1359-1473位、1587-1661位)はSOF1のドメインを示す。 CRISPR/Cas9を介した変異誘発によるSof1機能の特性評価を示す図である。(A)Sof1候補遺伝子(Horvu_MOREX_7H01G238100)およびCRISPR/Cas9により生成された変異体の遺伝子構造の概略図。エクソンとイントロンは、それぞれボックスと線で示す。逆三角形は、遺伝子内のガイドRNA(gRNA)の標的部位を示す。Golden Promise(GP)配列上の線は、gRNAの標的部位とプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を示す。破線は、削除された塩基を示す。(B)編集されたT1系統と2つの非閉花型オオムギ栽培品種との間の交配に由来するF3植物における表現型同定のスキーム。括弧内は各世代の対象遺伝子型を示す。 野生型Golden Promise(GP)およびホモ接合T2変異系統の写真(上)および鱗被サイズのグラフ(下)である。グラフにおける各測定値は、統計分析用の9~13個の鱗被の平均を表す。Two-tailed Student’s t-test。**はP<0.01を、nsは大きな違いはないことを示す。 2つの非閉花型栽培品種とそれらの対応するF3植物における、小花の開花角度の比較を示す写真(上)および鱗被サイズの比較を示す写真(下)である。 単子葉植物と双子葉植物のSOF1ホモログの系統発生分析を示す図である。ツリーは、SOF1ホモログのポリペプチド配列のアラインメントに基づく近隣結合(NJ)法によって構築した。枝に表示される数字は、ブートストラップの確率を示す。 野生型OUH602(WT)と変異体44205(MT)の間の栄養器官および生殖器官を伴う穂の発達におけるSof1の転写産物量を示すグラフである。DR(二重隆起期/double ridge stage);TM(三重マウンド期/triple mound stage);GP(苞頴原基期/glume primordium stage);LP(護頴原基期/lemma primordium stage);SP(雄しべ原基期/stamen primordium stage);AP(芒原基期/awn primordium stage);WA(白葯期/white anther stage);GA(緑葯期/Green anther stage);YA(黄葯期/yellow anther stage)。DAG(発芽後日数/day after germination)。値は平均値±SE(n=3つの独立した生物学的複製)。統計的な有意の値は、Two-tailed Student’s t-test検定によって計算した。*はP<0.05を、**はP<0.01を、nsは大きな違いがないことを示す。 野生型コムギ品種(Chinese Spring)におけるSof1の転写産物量を示すグラフである。
<開花性が向上したムギの生産方法>
本発明において「開花性」とは、鱗被が膨張することにより開花角度が増加する形質を意味する。ムギ、イネ、トウモロコシなどの単子葉植物の花序は、小穂と呼ばれる構造からなり、1つまたは複数の小花を含んでいる。それぞれの小花は生殖器(雄しべと雌しべ)で構成され、苞葉のような器官(外頴と内頴)のペアで覆われている。「鱗被」は、これら生殖器と穎の間に存在する。鱗被は一般に花びらに相当すると見なされており、鱗被は生殖器(雄しべと雌しべ)左右の基部に存在する。開花の直前に鱗被が急速に膨張すると、機械的に外頴と内頴を引き離し、裂けた葯から花粉が放出されやすくなり、その後柱頭が他家受粉をできるようになる(非閉花受粉性)。対照的に、鱗被が膨潤することができないと、花粉が閉じた小花の中に隠され、それによって自家受粉を引き起こす(閉花受粉性)。
本発明において「開花性が向上する」とは、Sof1遺伝子の機能を人為的に抑制しない場合と比較して、開花角度が増加することを意味する。開花角度の増加は、好ましくは2°以上、さらに好ましくは5°以上、さらに好ましくは8°以上、特に好ましくは10°以上である。開花角度は、穂の小花における外穎(穂軸から見て遠い側の穎)の縁に沿う線と内穎(穂軸から見て近い側の穎)の縁に沿う線が交わる角度として測定することができる。なお、開花角度は、ムギの種や品種により変動し得るが、例えば、野生型オオムギOUH602の開花角度は、通常、10.2±2.2°である。
本発明において開花性を向上させる対象となる「ムギ」とは、イネ科イチゴツナギ亜科に属するムギ類の植物全般を意味し、例えば、オオムギ、コムギ、ライムギ、ライコムギ、エンバクが挙げられる。また野生種であってもよく、栽培種であってもよい。ムギが閉花型cly1遺伝子を保有している場合、Sof1遺伝子の機能の抑制の効果が生じ難くなることから、開花性を向上させる対象となる「ムギ」は、開花型cly1遺伝子を保有していることが好ましい。閉花型cly1遺伝子を保有しているムギを対象にSof1遺伝子の機能を抑制した場合には、その後、開花型cly1遺伝子を保有しているムギとの交配やゲノム編集などによるcly1遺伝子の閉花型から開花型への改変(例えば、miR172の特異的結合部位内の一塩基置換)などにより、閉花型cly1遺伝子による負の影響を排除することが可能である。
本発明の方法は、Sof1遺伝子(SOF1タンパク質をコードする内因性遺伝子)の機能を人為的に抑制することを含む。
本発明における「Sof1遺伝子」は、SWI/SNFサブファミリーに属し、クロマチンリモデリングATPaseタンパク質をコードしていると推定される。変異タンパク質を発現するムギでは、鱗皮が膨張して開花性が向上することから、野生型タンパク質(SOF1タンパク質)は、ムギの鱗皮の膨張を抑制する活性を有していると考えられる。
オオムギのSof1遺伝子の典型的なcDNAの塩基配列を配列番号:1に、ゲノムDNAの塩基配列を配列番号:3に、これらDNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。また、コムギにおける典型的なcDNAの塩基配列を配列番号:4、7、10に、ゲノムDNAの塩基配列を配列番号:6、9、12に、これらDNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:5、8、11に示す。
自然界においてはヌクレオチド配列に個体差が生じることがあり、また、現在の技術水準では、当業者は特定の遺伝子が得られた場合、その遺伝子のヌクレオチド配列情報を利用して、同種若しくは他の植物から、対応する遺伝子を同定することが可能である。従って、本発明におけるSof1遺伝子には、その機能の抑制により開花性が向上する限り、これら相同遺伝子が含まれる。
相同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列は、通常、前記特定の遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列と高い相同性を有する。ここで「高い相同性」とは、少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)である。
配列の相同性は、BLASTのプログラム(Altschul et al., J.Mol.Biol., (1990) 215:403-410)を利用して決定することができる。該プログラムは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin, S. & Altschul, SF., (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268、Karlin, S. & Altschul, SF., (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:5873-5877)に基づいている。例えば、BLASTによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Altschul, SF. et al., (1997) Nucleic Acids Res., 25:3389-3402)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
これら相同遺伝子は、例えば、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E. M., (1975) J. Mol. Biol., 98:503)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K. et al., (1985) Science,230:1350-1354、Saiki, R. K. et al., (1988) Science, 239:487-491)を利用することにより取得することが可能である。
本発明における「Sof1遺伝子の機能の抑制」には、その機能の完全な抑制(阻害)および部分的な抑制の双方が含まれる。また、SOF1タンパク質の活性(例えば、鱗皮の膨張を抑制する活性)の抑制およびSof1遺伝子の発現の抑制(転写の抑制および翻訳の抑制)の双方が含まれる。
Sof1遺伝子の機能の抑制は、例えば、Sof1遺伝子やその発現制御領域(例えば、プロモーター領域)への変異の導入により行なうことができる。Sof1遺伝子に導入される変異としては、その機能を抑制する限り特に制限はなく、例えば、ヌクレオチドの置換、欠失、付加、および/または挿入が挙げられるが、フレームシフト変異、ナンセンス変異、ヌル変異が好ましい。
Sof1遺伝子に導入される変異の数は、その機能を抑制する限り特に制限はなく、1個でも複数個(例えば、2個、3個以下、5個以下、10個以下、20個以下、30個以下、40個以下、50個以下)でもよい。実際、本願実施例において、オオムギSof1遺伝子におけるヌクレオチドの欠失(22塩基の欠失[sof1変異体]、5塩基の欠失[sof1-2変異体])がフレームシフトによりC末端側が短縮された変異タンパク質を生じさせ、その結果、オオムギの開花性が向上することが判明している。Sof1遺伝子がコードするSOF1タンパク質は、そのN末端側に2つの機能ドメイン(ATPaseドメインおよびSnACドメイン)が存在するが、これら機能ドメインが存在しないC末端側の変異によってもSOF1タンパク質の機能を喪失させることが可能である、したがって、Sof1遺伝子に導入される変異としては、当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列全部を失わせる必要はなく、その一部が失われるか変化するように当該遺伝子内に導入されてもよい。
遺伝子の変異により発現するタンパク質の一部を欠失させる場合、SOF1タンパク質の活性を抑制する観点から、好ましくは全体の5%以上、より好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上(例えば、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上)の欠失である。
Sof1遺伝子への変異の導入は、当業者であれば公知の方法により達成することができる。公知の方法としては、効率的に部位特異的な変異の導入が可能であることから、ゲノム編集法が好適である。
ゲノム編集法は、部位特異的ヌクレアーゼを利用して、標的遺伝子を改変する方法である。部位特異的ヌクレアーゼとしては、例えば、ガイドRNAと複合体を形成することにより部位特異性が付与されたCasヌクレアーゼ(CRISPR/Casシステム)、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)などが挙げられる。CRISPR/Casシステムとしては、クラス2のII型のシステム(Casとして、Cas9を含む)、クラス2のV型のシステム(Casとして、Cas12a(Cpf1)、Cas12b(C2c1)、Cas12c(C2c3)、Cas12d(CasY)、Cas12e(CasX)、Cas14などを含む)、クラス2のVI型のシステム(Casとして、Cas13a(C2c2)、Cas13b、Cas13cなどを含む)、クラス1のI型のシステム(Casとして、Cas3を含む)など、様々なシステムを利用することができる。
遺伝子への変異の導入を行うための他の方法としては、物理的変異導入法、化学的変異剤を用いる方法、トランスポゾンを利用する方法などが挙げられるが、これらに限定はされない。
物理的変異導入法としては、例えば、ガンマ線照射、重イオンビーム(HIB)照射、速中性子線照射、紫外線照射が挙げられる(Hayashi Y. et al., (2007) Cyclotrons and Their Applications, 18th International Conference, 237-239、Kazama, Y. et al., (2008) Plant Biotechnology, 25:113-117)。
化学的変異剤を用いる方法としては、例えば、化学変異剤によって種子などを処理する方法(ZwarおよびChandler、Planta、1995年、197巻、39~48ページ)が挙げられる。化学変異剤としては特に制限はないが、例えば、N-メチル-N-ニトロソウレア(MNU)、エチルメタンスルホート(EMS)、N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)、アジ化ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ヒドリキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、N-メチル-N’-ニトロソグアニジン(NTG)、O-メチルヒドロキシルアミン、亜硝酸、蟻酸およびヌクレオチド類似体が挙げられる。
トランスポゾンなどをゲノムDNAに導入する方法としては、例えば、TOS17などのトランスポゾン、T-DNAなどを植物のゲノムDNAに挿入する方法が挙げられる(Kumar, A. & Hirochika, H., (2001) Trends Plant Sci., 6(3):127-134、Tamara, M. et al., (1999) Trends in Plant Science, 4(3):90-96)。
これらの方法を利用する場合は、通常、変異導入処理を行った個体群から、Sof1遺伝子に変異を有する個体を選抜する。
Sof1遺伝子に変異が導入されたムギは、当該変異遺伝子のヘテロ接合体でありうる。この場合、ヘテロ接合体同士を交配してF1植物体を作成し、当該F1植物体から当該変異遺伝子のホモ接合体を選抜することができる。本発明において、超開花の形質の原因となるsof1遺伝子(変異遺伝子)は、劣性遺伝子であることが判明している。従って、Sof1遺伝子への変異の導入によりムギの開花性を向上させるためには、ムギは、変異したSof1遺伝子をホモで保持することが好ましい。なお、目的外の変異が導入されたムギは、例えば、野生型のムギを利用した戻し交配を行うことにより、目的外の変異を除去することができる。
Sof1遺伝子の発現の抑制により当該遺伝子の機能を抑制する場合、Sof1遺伝子の発現制御領域への変異の導入の他、Sof1遺伝子の転写産物と相補的なdsRNA(二重鎖RNA、例えばsiRNA)をコードするDNAを用いる方法、Sof1遺伝子の転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA(アンチセンスDNA)を用いる方法、Sof1遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNAを用いる方法(リボザイム法)など、Sof1遺伝子の転写産物を標的とする方法を利用することもできる。
また、Sof1遺伝子の発現の抑制は、ヌクレオチドにおける変異を伴わない、エピジェネティック制御におけるヌクレオチドの修飾によっても行いうる。エピジェネティック制御としては、例えば、DNAのメチル化、ヒストンの化学的修飾(アセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化など)が挙げられる。
本発明において、Sof1遺伝子の機能を人為的に抑制するための処理は、使用する技術の種類に応じて、ムギの植物体、器官、組織、または細胞に対して行うことができる。器官、組織、または細胞としては、例えば、種子、小胞子、花粉、未熟胚、葉の切片、懸濁培養細胞、プロトプラスト、カルス、生長点、幼穂などが挙げられる。
Sof1遺伝子の機能を人為的に抑制するための分子がDNAにコードされる分子である場合(例えば、上記の部位特異的ヌクレアーゼをコードするDNA、トランスポゾンをコードするDNA、二重鎖RNAをコードするDNA、アンチセンスRNAをコードするDNA、リボザイム活性を有するRNAをコードするDNAなどである場合)、ベクターに挿入した形態でムギに導入してもよい。ベクターとしては、ムギの細胞内で挿入されたDNAを発現させることが可能なものであれば特に制限はない。ベクターは、通常、前記DNAを恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターを含有する。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、オオムギのU3プロモーター、イネのユビキチンプロモーター、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター、イネのアクチンプロモーター、トウモロコシのユビキチンプロモーターなどが挙げられる。また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、特定の化合物処理、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。
Sof1遺伝子の機能を人為的に抑制するための分子のムギ細胞への導入には、例えば、アグロバクテリウムを介する方法(アグロバクテリウム法)、パーティクルボンバードメント法、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポレーション)など、当業者に公知の方法を用いることができる。
上記の方法によりSof1遺伝子の機能が人為的に抑制された細胞が得られた場合、当該細胞からムギの植物体を再生することにより、開花性が向上したムギを得ることができる。ムギの形質転換植物体を作出する手法としては、Tingayら(Tingay, S.et al., (1997) Plant J., 11:1369-1376)、Murrayら(Murray, F. et al., (2004) Plant Cell Report, 22:397-402)、およびTravallaら(Travalla, S. et al., (2005) Plant Cell Report 23:780-789)に記載された方法を挙げることができる。また、Tabeiら(田部井豊 編、「形質転換プロトコール[植物編]」、株式会社化学同人、2012年9月20日出版)に記載に方法を用いて、形質転換および植物体への再生を行なうことができる。
一旦、Sof1遺伝子の機能が人為的に抑制されている植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。さらに、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、切穂、株、カルス、プロトプラストなど)を得て、それらを基に植物体を量産することも可能である。本発明は、こうして得られた、開花性が向上したムギの植物体、子孫、クローン、繁殖材料をも提供するものである。
<ムギの開花性を評価する方法>
本発明の方法の一つの態様は、ムギにおけるSof1遺伝子またはその発現制御領域の塩基配列を解析することを含む。
Sof1遺伝子またはその発現制御領域の塩基配列の解析に際しては、Sof1遺伝子またはその発現制御領域をPCRにより増幅した増幅産物を用いることができる。PCRを実施する場合において、用いられるプライマーは、Sof1遺伝子またはその発現制御領域を特異的に増幅できるものである限り制限はなく、Sof1遺伝子またはその発現制御領域の配列情報に基づいて適宜設計することができる。
開花性の評価においては、「対照の塩基配列」と比較する工程を含むことができる。「対照の塩基配列」は、典型的には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列(オオムギ)または配列番号:5、8、11に記載のアミノ酸配列(コムギ)をコードする遺伝子またはその発現制御領域の塩基配列である。
決定した被検ムギにおけるSof1遺伝子またはその発現制御領域の塩基配列と、前記対照の塩基配列とを比較することにより、被検ムギにおいて開花性が向上する否かを評価することができる。例えば、前記対照の塩基配列と比較して、塩基配列において相違がある場合(特に、新たな終止コドンの出現やフレームシフトにより、コードするタンパク質の分子量やアミノ酸配列に大きな変化が生じる場合)、被検ムギは開花性が向上するムギである蓋然性が高いと評価される。
塩基配列を解析するためのDNAの調製は、常法、例えば、CTAB法により行うことができる。DNAを調製するためのムギとしては、成長した植物体のみならず、種子や幼植物体を用いることもできる。また、塩基配列の決定は、常法、例えば、ジデオキシ法やマキサム-ギルバート法などにより行なうことができる。塩基配列の決定においては、市販のシークエンスキットやシークエンサーを利用することができる。
なお、被検ムギにおけるSof1遺伝子またはその発現制御領域の塩基配列が、対照の塩基配列と相違するか否かは、上記した直接的な塩基配列の決定以外に、例えば、PCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造多型)法などの公知の方法により間接的に解析することもできる。
本発明の方法の他の一つの態様は、Sof1遺伝子の発現を解析することを含む。
ここで「遺伝子の発現の解析」には、発現(転写、翻訳)の有無および程度の解析、並びに、発現産物の分子量の解析が含まれる。
Sof1遺伝子の転写レベルにおける検出は、常法、例えば、RT-PCR法、ノーザンブロッティング法、RNA-seq法により実施することができる。前記PCRを実施する場合において用いられるプライマーは、本発明の検出対象DNAを特異的に増幅できるものである限り制限はなく、既に決定されたSof1遺伝子の配列情報に基づいて適宜設計することができる。また、翻訳レベルにおける検出は、常法、例えば、ウェスタンブロッティング法により実施することができる。ウェスタンブロッティングに用いる抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、これら抗体の調製方法は、当業者に周知である。
遺伝子発現の検出の結果、被検ムギにおいて、Sof1遺伝子の発現量が、野生型Sof1遺伝子を保持する品種(例えば、オオムギではOUH602、コムギではChinese Spring)の発現量よりも有意に低ければ(例えば、Sof1遺伝子が実質的に発現していなければ)、開花性が向上するムギである蓋然性が高いと評価される。また、Sof1遺伝子の増幅産物または発現産物の分子量が、野生型Sof1遺伝子の発現産物の分子量と有意に異なれば、開花性が向上するムギである蓋然性が高いと評価される。
<開花性が向上したムギを生産する方法>
本発明は、開花性が向上したムギを生産する方法を提供する。
本発明の方法は、上記の開花性が向上したムギと他の任意のムギとを交配させることを含む。
開花性が向上したムギと交配させる「他の任意のムギ」としては、例えば、Sof1遺伝子の機能が抑制されておらず超開花の形質を示さないムギの品種が挙げられるが、これに制限されない。交配により得られた個体の中から、上記の方法により、Sof1遺伝子の機能が抑制されたムギを選抜することができる。
本発明の方法を利用すれば、開花性が向上したムギの品種を、種子や幼植物などの早期の段階で適宜選抜することが可能となり、当該形質を有する品種の育成を、短期間で行うことが可能となる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
A.材料と方法
(1)植物材料
非閉花性野生オオムギ系統(Hordeum vulgare subsp. spontaneum)のOUH602は、岡山大学植物科学資源研究所から入手した。OUH602を幼苗から成長過程においてコバルト60(60Co)ガンマ線の緩照射(1日あたり0.24~0.77Gy、1週間あたり5日間の照射)で処理した。超開花の表現型に基づいて、1600のM2個体に由来するM3系統からOUH602突然変異体(系統番号:44205)を選抜した。遺伝子解析のために、OUH602突然変異体は栽培品種「Morex」と交配し、マッピング集団を作成した。植物育成は、網室(自然光かつ温度制御されていない)もしくは、空調温室(24℃に維持された)の中で、1植物/4Lポットで実施した。
(2)鱗被サイズの表現型と開花角度の評価
1系統あたり3つのスパイク(止め葉がまだ花柄に付着している状態)をランダムに選択し、その中で各スパイクの中央部分から小花(開花直前の黄色い葯の段階)を採取した。小花から外頴をとり除いた後に、文献(上記非特許文献2)の記載に従って、顕微鏡Axio Zoom v16(Carl Zeiss、東京、日本)で鱗被を撮影した。デジタル画像を基に、Makijakuソフトウェアv1.1(http://lbm.ab.a.u-tokyo.ac.jp/~iwata/software/makijaku/)を使用し、鱗被の長さ、厚み、幅を測定した。
また、野生型と変異体についてランダムに選んだ穂の小花(開花直後:黄葯期)の写真を撮影し、外穎(穂軸から見て遠い側の穎)の縁に沿う線と内穎(穂軸から見て近い側の穎)の縁に沿う線が交わる角度を、Makijaku software v1.1(http://lbm.ab.a.u-tokyo.ac.jp/~iwata/software/makijaku/)を使用して測定し、これを開花角度とした。
(3)鱗被細胞の測定
30%アクリルアミドゲルに鱗被を包埋した後、Linear Slicer PRO10(Dosaka EM)を使用して150μmの厚さに切断し、0.01%の蛍光増白剤28(Sigma)で染色した。画像は、ZEN 2009 Light Edition CLSMソフトウェアを搭載したレーザー走査顕微鏡(LSM700、カールツァイス)を使用して撮影した。鱗被細胞の測定においては、鱗被の厚みに基づく細胞数を数え、鱗被の厚みを細胞数で割って細胞の大きさを算出した。遺伝子型ごとに平均10個のサンプルを測定した。
(4)マーカー開発
ラフマッピングにおけるSNP遺伝子型決定のために、オオムギ栽培品種スカイゴールデンおよびオオムギ栽培品種とちのいぶきのゲノム配列の一塩基多型(SNP)に基づいて、fluidigmマーカーを開発した。高解像度の遺伝子マッピングのために、RADマーカーFB0278およびFB0088の周囲で、同定したSNPを識別するCAPS(cleaved amplified polymorphic sequence)マーカーを追加で開発した。これらの特定の多型部位はPCR分析によって検出し、さらにPCR産物は、文献(Sakuma, S. et al., (2010) Functional & Integrative Genomics, 10:123-133)に従って配列決定し、制限酵素ベースのCAPS解析によって同定した。DDBJデータベース(https://ddbj.nig.ac.jp/)から入手したMorex品種(アクセッション番号ERR271705)とOUH602(アクセッション番号ERR271737)の2つのエクソーム配列を比較することにより、合計11のCAPSマーカーを開発した。加えて、InDels(insertion-deletions)マーカーは、変異体44205の全ゲノムシーケンスで識別した22bpの欠失に対して開発した。開発した全てのマーカーは、マッピング集団の系統をスクリーニングするために使用した。
(5)sof1の遺伝地図
オオムギF2集団は、変異体44205をMorexと交配することによって開発した。
2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)で穂を処理する最大化スパイク培養法(Honda, I. et al., (2005) Physiologia Plantarum, 124:524-531)を適用して鱗被のサイズを調査した。非開花受粉性はその鱗被の大小(非閉花と閉花)と完全に一致することが知られており(Nair, S. K. et al., (2010) Proceedings of the National Academy of Sciences, 107(1): 490-495)、閉花受粉型の全ての系統に2,4-D(30ppm)を添加しても開花が一切認められず、一方、開花受粉型の系統の鱗被は処理する前と比較して、平均して横幅が約1.5倍に、厚み(外頴に対し垂直方向)が約2.3倍に膨らんだ。
最初のマッピングには、40個の植物(20のWTと20の突然変異体タイプ)を選択した。40個体のF2植物は、ddRAD-seq(Double Digest RAD-seq)を使用して遺伝子型を決定した。ラフマッピングでは、93個体のF2でfluidigmマーカーを使用したジェノタイピングを行った。リンケージマップは、AntMapバージョン1.2(Iwata, H. & Ninomiya, S. (2006) Breeding Science, 56 :371-377)を使用して作成した。次に、93個体のF2の開花表現型を決定し、前述のCAPSマーカーを使用して遺伝子型を決定した。ファインマッピングでは、変異体とMorexの間のF2分離について、HM7H228700とHM7H254000の2つの隣接マーカーで遺伝子型の決定を行った。これらの2つのマーカーで同定された組換え体の遺伝子型は、HM7H228700-HM7H254000のゲノム領域内で開発した他のCAPSマーカーによって決定した。sof1遺伝子座の正確な判定のため、鍵となるF2組換え体は、InDelマーカー(HM7H238100-Indel)でさらに遺伝子型を決定し、それらの後代のF3組換え体(20個体)もInDelマーカーで遺伝子型を特定し、鱗被のサイズの表現型を確認した。
(6)sof1候補を含むゲノム領域の変異部位の同定
DNeasy植物抽出キット(QIAGEN)を使用して、突然変異体44205のM3世代植物の新鮮な幼苗の葉からDNAを抽出した。ペアエンドシーケンス(150bp)用のDNAライブラリーは、TruSeq DNA PCRフリーのサンプル調製キット(イルミナ)を使用して構築した。DNAシーケンスは、イルミナHiSeqXTenプラットフォームで実行した。野生型OUH602のデータ配列は、NCBI Short Sequence Read Archive(SRA)データベース(アクセッションERX5471675;Sato, K. et al., (2021) Chromosome-scale assembly of wild barley accession “OUH602”. G3 (Bethesda). 27;11(10))からダウンロードした。Trimmomaticバージョン0.39(Bolger, AM. et al., (2014) Bioinformatics, 1;30(15):2114-2120)でトリミングした後、野生型と変異体の配列を、Bowtie2バージョン2.3.5.1(Langmead B. & Salzberg SL., (2012) Nat Methods, 4;9(4):357-359)を使用して、野生オオムギOUH602リファレンスゲノム(200720_OUH602_pseudomolecules_v1.fasta;Sato, K. et al., (2021) G3(Bethesda), 27;11(10))に対してそれぞれアラインメントした。ゲノム配列のバリアントコールは、SAMtoolsバージョン1.10(Li, H. et al., (2009) Bioinformatics, 15;25(16):2078-2079)を使用した(マッピングスコア30、塩基スコア20以上、phredスコア閾値40)。ガンマ線照射は、ヌクレオチドの欠失と置換の両方を誘発すると予想されるため、カバレッジ深度の分析を使用して、バリアント呼び出しでは検出されなかった欠失を特定した。各位置でのバリアントの読み取り深度は、BCFtools(Li, H. et al., (2011) Bioinformatics, 1;27:2987-2993)によって計算した。読み取り深度に10のしきい値を適用することにより、バリアントをさらにフィルタリングした。sof1候補領域で同定された変異体の位置は、Morexゲノムの遺伝子アノテーション(Morex.gff.gz;Jayakodi, M. et al., (2020) Nature, 588(7837):284-289)と交差していた。バリアント効果は、SnpEff(Cingolani, P. et al., (2012) Fly(Austin), 6(2):80-92)を使用して予測した。
(7)sof1遺伝子座のゲノム配列解読
2週間生育させた幼苗の葉からゲノムDNAを抽出した。gDNAの質と量は、NanoDrop 2000分光光度計(Thermo Fisher Scientific Inc.)を使用して評価した。サンガーシーケンシングの場合、PCR増幅およびシーケンシングに使用されるプライマーは、NCBI/Primer-BLASTソフトウェア(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/tools/primer-blast/)を使用して設計し、合成した。sof1遺伝子座の20kbのゲノム領域は、合計5つのアンプリコンに対する約5kbのオーバーラップアンプリコンに分割し、アンプリコン当たり少なくとも20のシーケンス反応を行った。各アンプリコンは、製造元の指示に従って、忠実度の高い酵素であるPrimeSTAR GXL DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を使用して増幅した。総量50μlの増幅反応は、100ngのゲノムDNAテンプレート、1×PrimeSTAR GXLバッファー、200μMのdNTP、0.3μMの各プライマー、2.5ユニットのPrimeSTARGXLDNAポリメラーゼで構成した。PCRプログラムは、「98℃/10秒、55または60℃(プライマー依存)/15秒、68℃/4~5分」の30サイクルで実施した。PCR産物は、QIAquick PCR精製キット(QIAGEN)で精製し、Big Dye Terminator v3.1テクノロジー(Applied Biosystem)を使用してサイクルシーケンスを行った。各シーケンシング反応は、96℃/1分の初期変性と、それに続く、「96℃/10秒、50℃/5秒、60℃/4分」の25サイクルで構成した。反応産物は、Agencourt CleanSEQシステム(Beckman)で精製し、ABIプリズム3130または3730xL遺伝子分析装置(Applied Biosystems)で分析した。ゲノム配列は、Seqmanバージョン7.1.0(DNASTAR)を使用して整列した。
(8)sof1のコーディング領域のゲノム配列の決定
全RNAは、製造元のプロトコールに従って、TRIzol試薬(Invitrogen)を使用して、芒原基期の発達中のスパイクから抽出した。抽出したRNAをRNaseフリーDNaseI(タカラバイオ)で処理し、ゲノムDNAのコンタミネーションを除去した。RNAは、NanoDrop 2000分光光度計(Thermo Fisher Scientific Inc.)を使用して定量した。DNase処理した、各サンプルの全RNA 1μgを用いて逆転写を行い、オリゴdTでプライミングしたSuperScript IIIキット(Invitrogen)を使用して第1鎖cDNAを合成した。sof1のコード配列を増幅し、設計したプライマーを使用して5つのアンプリコンとして配列決定した。50μlのPCR反応の各容量には、20ngのテンプレート、1×PrimeSTAR GXLバッファー、200μMのdNTP、0.3μMの各プライマー、2.5ユニットのPrimeSTARGXLDNAポリメラーゼが含まれた。PCRプログラムは、「98℃/10秒、55または60℃(プライマー依存)/5秒、68℃/1~4分」の30サイクルで構成した。反応生成物の精製、配列決定および整列は、上記の通りである。
(9)CRISPR/Cas9を介した方法によるゲノム編集
CRISPR/Cas9システムは、オオムギのSof1遺伝子の標的変異誘発に使用した。3つのガイドRNA(gRNA、gRNA1:5’-TGCATCCGGGAAGAAAACAG-3’/配列番号:13、gRNA2:5’-TGCTGCTATGAAGGAACCAG-3’/配列番号:14およびgRNA4:5’-ACCAGAAGAGAAGAAGGTAG-3’/配列番号:15)は、WU-CRISPR Webサイト(http://crisprdb.org/wu-crispr/;Wong, N. et al., (2015) Genome Biology, 16:218)を用いて設計した。各gRNA配列の相補的オリゴDNAのペアは、pU6gRNA-oligo(Abe, F. et al., (2019) Cell Reports, 28:1362-1369)のイネOsU6プロモーターをオオムギHvU3に置き換えることによって構築したpHvU3-15およびpHvU3-21(それぞれLC672614およびLC672613)のBbsI切断部位に挿入した。次に、gRNAの発現カセットとpHvU3-15/21のscaffold配列をPacIとAscIで切り出した。同時に、Cas9およびハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子の発現カセットを含む目的のバイナリーベクターpZH_gYSA_PubiMMCas9を同じ制限酵素で消化して、gRNA発現カセットを導入した(Mikami, M. et al., (2015) Plant Molecular Biologuy, 88:561-572)。pZH-HvU3-15:gRNA1、pZH-HvU3-15:gRNA2、pZH-HvU3-15:gRNA4、pZH-HvU3-21:gRNA2と命名した4つの構築されたベクターは、Agrobacterium tumefaciens AGL1株に形質転換した。それらは、文献(Hisano, H. & Sato, K., (2016) Scientific Reports, 6:37505)に記載の方法に従って、アグロバクテリウムを介してオオムギの形質転換に使用した。再生した植物におけるSof1遺伝子の標的配列の変異を確認するために、特定のプライマーペアを使用してPCRアンプリコンのサンガーシーケンシングを行った。5’-AGCATTGCACACTAATTCTGG-3’/配列番号:16および5’-AGAAACGATTTCGGGAAGAG-3’/配列番号:17(gRNA1の場合)、CGCTCAAGAGGATATTGCTG-3’/配列番号:18および5’-TCACATGATGAAGGTTGCTG-3’/配列番号:19(gRNA2の場合)、5’-ACTCAAGTCGAACCAGTTGC-3’/配列番号:20および5’-TCACATGATGAAGGTTGCTG-3’/配列番号:21(gRNA4の場合)。DNA抽出、PCR、配列決定の条件は、文献(Hisano, H. et al., (2022) Plant Biotechnology Journal, 20:37-46)に記載の方法に従った。
(10)系統発生分析
タンパク質のアミノ酸配列は、Molecular Evolutionary Genetics Analysis(MEGA)バージョン7.0ソフトウェアパッケージ(Kumar, S. et al., (2016) Molecular Biology and Evolution, 33:1870-1874)に実装されているClustalWプログラムのデフォルトパラメーターを使用して整列し、1000回のブートストラップ複製でサポートされる近隣結合(NJ)に基づいて系統樹を構築した。系統樹に示した、アラビドプシスおよび他の種の相同体の遺伝子IDまたはシンボルは、Ensembl Plantデータベース(http://plants.ensembl.org/Multi/Tools/Blast/)から取得し、対応するタンパク質IDは、NCBI(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)BLASTp検索に基づいた。
(11)定量的PCR解析による発現解析
幼穂は、文献(Kirby, E. J. M. & Appleyard, M., (1981) Cereal development guide, Cereal Unit, National Agricultural Centre. Stoneleigh, Kenilworth, Warwickshire, England.)のガイドラインに従って、実体顕微鏡(Axio Zoom v1.6、Zeiss)を使用して、二重隆起期(栄養成長期から生殖成長期へ相転換後の花序メリステムから形成される最初の構造で、小穂の隆起と葉の隆起から構成される)から開花までの10の発達段階で収集した。幼穂、緑の葯の段階での花の器官(鱗被,外頴,内頴,葯,雌蕊,包頴,芒を含む)、発芽後7日での幼苗の根と葉、および芒原基期の葉鞘、葉身、節、節間について、TRIzol試薬(Invitrogen)を使用して全RNAを抽出した。
ゲノムDNA切断、定量化、逆転写、およびcDNA合成は、上記の通り実施した(sof1cDNAのシーケンスの部分を参照)。10ngの全RNAに由来する第一鎖cDNAを、定量リアルタイムPCR(qPCR)のテンプレートとして使用した。qPCRは、CFX96リアルタイムPCR検出システム(Bio-Rad)とTHUNDERBIRD SYBR qPCR Mix Kit(東洋紡)を使用して、プロトコールに従って実行した。各ターゲット遺伝子のqRT-PCRデータは、それぞれ生物試料による3反復(1反復あたり3回)のPCR反応を行い、平均発現レベルを示した。オオムギアクチン遺伝子(アクセッション番号DN182500)は、Sakuma, S. et al., (2017) Plant Physiol, 175(4):1720-1731)に記載された方法に従って、各サンプルの発現レベルを正規化するための内因性コントロールとして使用した。相対的な遺伝子発現は、2-ΔCt法を使用して分析した。
(12)RNA-seqプロファイリング
RNAシーケンシング(RNA-seq)に使用される植物は、空調温室で育てた。幼穂組織は、野生型OUH602と変異体44205から、栄養生長期(VEG期)、二重隆起期(DR期)、芒原基期(AP期)、緑葯期(GA期)の4つの穂の発達段階でそれぞれ収集した。4つの段階のそれぞれで、6つのバイオロジカルレプリケートサンプルを収集し、各レプリケートには、VEG期の6つの植物からの12のシュート、DR期の5つの植物からの10のシュート、AP期の5つの植物からの5つの幼穂、GA期の3つの植物からの3つの幼穂、のバルクサンプルを含む。すべてのサンプルは直ちに液体窒素で凍結し、RNA抽出まで保存するために-80℃に移した。網室条件および空調温室下で収穫された芒原基期のサンプルのRNAは、RNA-seqにも使用した。RNeasy Miniキット(QIAGEN)を使用して全RNAを抽出し、続いてRNA-Free DNase Set(QIAGEN)を使用してゲノムDNAのコンタミネーションを除去した。RNAサンプルの品質は、Agilent 2100 Bioanalyzer機器(Agilent Technologies)を使用して評価した。RNA-seqの場合、TruSeq RNAサンプル調製キットv2(イルミナ)を使用して、各サンプルの1μgの全RNAから鎖特異的RNAライブラリーを構築し、イルミナHiSeq Xシーケンスプラットフォーム(イルミナ)2レーン(ペアエンド150bp)で解析した。
シーケンシング後、すべてのサンプルからのシークエンス配列の品質をFastQC v0.11.8(http://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc/)で評価し、Trimmomatic v0.38(Bolger, AM. et al., (2014) Bioinformatics, 1;30(15):2114-2120)でアダプターシーケンスと低品質のシークエンスを削除した。残ったリードを、HISAT2 v2.1.0(Kim, D. et al., (2015) Nat. Methods, 12:357-360)を使用して、オオムギリファレンスゲノム(Morex_pseudomolecules_v2.fasta;Jayakodi, M. et al., (2020) Nature, 588(7837):284-289)にマッピングした。遺伝子のアノテーション(Morex.gff;Jayakodi, M. et al., (2020) Nature, 588(7837):284-289)に基づいて、遺伝子にマッピングしたリードは、featureCounts v1.6.3(Liao, Y. et al., (2014) Bioinformatics, 30(7):923-930)を使用して発現レベルとしてカウントされ、カウントされたリードはさらに100万リードあたりの各遺伝子座の転写産物量(TPM)に変換した。遺伝子発現差(DEG)解析(空調温室と網室からの芒原基期のサンプル)は、R環境でBioconductorパッケージedgeRを使用して実施した(Robinson, M. D. et al., (2010) Bioinformatics, 26(1):139-140)。発現レベルは、M値のトリム平均(TMM)法によって正規化し、P値を負の二項分布に基づく正確なテストによって計算し、遺伝子発現の変動は、edgeRのlog2倍の変化によって推定した。P値は、Benjamini-Hochberg法(Benjamini, Y. & Hochberg, Y., (1995) Journal of the Royal Statistical Society: Series B (Methodological) 57(1):289-300)を使用した偽発見率(FDR)によって調整した。FDR<0.05およびlog2>0.5の場合、DEGは有意であるとみなした。すべてのDEGの注釈は、シロイヌナズナ(TAIR10_-40;http://www.arabidopsis.org/)およびイネ(IRGSP-1.0_predicted-protein_2020-09-09;https://rapdb.dna.affrc.go.jp/)のタンパク質データベースに対するReciprocal Best Hits(RBH)メソッドを使用したBLASTp検索結果(10-8のE値カットオフ)に基づいた。
遺伝子発現データのヒートマップは、Rパッケージpheatmap v1.0.12を使用して視覚化し、各段階での遺伝子発現レベルは、6つの生物学的複製からの平均TPMとして測定し、log2(平均TPM+1)値に変換した。階層的クラスタリングは、それらの表現パターンに基づいてヒートマップ解析を実施した。
(13)スプライシングイベントの検出
二重隆起期、芒原基期、緑葯期のRNA-seqデータからのマップされたリードが入ったBAMファイルを、SAMtools version 1.9.を使用して、野生型OUH602と変異体44205の各遺伝子型に対してマージした。野生型OUH602と変異体44205のマージされたリードを再カウントし、StringTieバージョン2.1.4(Pertea, M. et al., (2015) Nat. Biotechnol, 33(3):290-295)によりOUH602と44205の新しい遺伝子モデルアノテーションのGTFファイルを作成した。スプライスジャンクションは、10を超えるマップされた読み取りでサポートされている場合にのみ有効とした。結果は、文献(Garrido-Martin, D. et al., (2018) 19(1):67)に記載された方法に従い、R環境に組み込まれたggsashimiパッケージを使用して視覚化した。
(14)統計分析
すべての実験データは、平均値±標準誤差(SE)として表示した。スチューデントのt検定を使用して、野生型とsof1変異体の表現型の比較、およびサンプル間の遺伝子発現レベルの違いを調べた。サンプル間の有意な効果は、Two-tailed Student’s t-testの大きさによって評価した(P値<0.05)。
B.結果
(1)突然変異体と野生型の表現型の解析
変異体44205と野生型OUH602を比較した場合、変異体では外穎と内穎の間がより引き離され、より広い開花角度をもつ「超開花」の表現型を示す(図1AおよびB)。中央の小穂を観察すると、鱗被がより大きく、変異体ではるかに活発な細胞分裂を示した(図1C~F)。小花の表現型の測定では、変異体は野生型と比較して明らかに大きな開花角度を示した。すなわち、鱗被のサイズが増大し、突然変異体の外穎と内穎が引き離された(図1GおよびH、図2AおよびB)(P<0.01、Two-tailed Student’s t-test)。変異体と野生型の最も重要な違いは、それらの鱗被のサイズであり(図1H)、鱗被の長さによってのみ、この表現型を野生型と変異体の間で区別できた(図2B~D)。鱗被の伸長は、突然変異体において、より広い開花角度をもたらすと考えられた。さらに、鱗被の細胞の測定により、細胞数は野生型よりも変異体で有意に低く(図2E)、変異体の細胞長の顕著な増加に対応することが明らかになった(図2F)。これらの表現型の結果は、伸長した鱗被が変異体の細胞増殖によって引き起こされる可能性を示唆した。
(2)sof1遺伝子座のマッピング
超開花の表現型の原因となる遺伝的要因を調査するために、突然変異体44205とMorex(非閉花受粉)の交配により、93個体のF2分離集団を構築した。F1植物は、その親株Morexと同様に、通常の開花角度と鱗被サイズを示した。F2の分離比は、3:1のメンデルモデル(72の通常の開花植物と21の超開花植物;χ2=0.29、P値>0.05)に適合し、超開花が単一の劣性遺伝子により制御されていることが判明した。この遺伝子を「sof1(super open flowering 1)」と命名した。
sof1遺伝子をマッピングするために、40個体のF2植物でRAD-seq分析を使用した。遺伝子は、最初、染色体7HのC7_77055_96891401とC7_67011_165769003の間に位置していた。次に、93のF2個体を用いた大まかなマッピングにより、sof1遺伝子座が染色体7H上のfluidigmマーカーFB0278とFB0088の間の3.3cM間隔に位置していることが確認された。追加のCAPSマーカーによるさらなるジェノタイピングおよび上記の93個体の表現型分析により、sof1遺伝子座は、マーカーHM7H234200とHM7H246100の間で遺伝距離1.1cMの物理領域内に位置付けられた(図3A)。最新のMorexリファレンスゲノム(Jayakodi, M. et al., (2020) Nature, 588:284-289)によると、この物理領域は約9.2Mbであり、110個のアノテーション付き遺伝子と8個のアノテーションなしの偽遺伝子で構成される118個の遺伝子が存在した。
sof1遺伝子の物理領域を絞り込むために、1759個体のsof1変異体×Morexを含む大規模なF2集団を使用して、組換えイベントをスクリーニングした。マーカーHM7H228700およびHM7H254000を使用して99の組換え植物を同定した(図3B)。開花前に枯れた3つの植物と、矮性の表現型のために他の植物よりも小さい花器官を生成した1植物体を除いた、95の組換え植物について鱗被の長さを測定した。鱗被の長さの分布は、3:1のメンデル分離に適合した(χ2=0.07、P値>0.05)。結果は、先のデータと一致しており、超開花が単一の劣性sof1遺伝子の下で制御されており、sof1がマーカーHM7H234200とHM7H246100の間にあることが確認された。13の重要な組換え体の表現型のさらなる遺伝子型分析および評価は、sof1の存在領域をマーカーHM7H234200とHM7H239100の間の0.37cM間隔に狭めた(図3C)。物理的距離は約3.1Mbであり、文献(Jayakodi, M. et al., (2020) Nature, 588:284-289)に記載されたHorvu_MOREX_7H01G234200とHorvu_MOREX_7H01G246100の間の43個のアノテーション付き遺伝子と5個のアノテーションなし偽遺伝子で構成されていた。
(3)超開花表現型の遺伝的要因
野生型OUH602と変異体44205の間の3.1Mb間隔にある遺伝子の多型を調査するために、変異体の全ゲノムショットガン配列決定を行い、野生型のゲノム配列と比較した。この標的領域内では、2つの遺伝子型間で3つのホモ接合多型のみが検出され、そのうち2つの1bp挿入は遺伝子間領域にあり、22bp欠失は遺伝子内領域にあった。22bpの欠失は、野生型Sof1遺伝子のゲノムの18080位から18101位(転写開始点を1とする)に位置し、変異体における遺伝子の翻訳フレームシフト(p.Asp2646fs)を生じさせた(図4A、B)。Horvu_OUH_7H01G211300は、Morexゲノムの高信頼度遺伝子としてHorvu_MOREX_7H01G238100に対応し、クロマチンリモデリングタンパク質様としてアノテーションが付けられた(Jayakodi, M. et al., (2020) Nature, 588:284-289)。候補遺伝子を検証するために、22bpの欠失に対して開発されたIn-delマーカー(HM7H238100-Indel)を使用して、13の重要なF2組換え体の遺伝子型を決定し、続いて3つの組換え体のF3子孫の遺伝子型と表現型を分析した。その結果、In-delマーカーがsof1と再結合しないことが示された。
(4)Sof1の標的突然変異誘発
Sof1に対応する遺伝子が、OUH602ではHorvu_OUH_7H01G211300、MOREXではHorvu_MOREX_7H01G238100遺伝子であることを裏付けるために、CRISPR/Cas9を介した突然変異誘発を使用して、オオムギ品種のGolden Promiseに追加の突然変異系統を作成した。ガイドRNAの標的部位は、Golden Promiseゲノム内のHorvu_MOREX_7H01G238100のオルソログであるHorvu_GOLDEN_7H01G199000遺伝子(変異体における22bp欠失の近傍)を標的とした(図5A)。得られた突然変異は、トランスジェニック植物の遺伝子型と配列決定の後、5bpの欠失を持つ独立した突然変異(sof1-2)が得られた。これは、翻訳の早期終了につながる終止コドンの導入となり機能喪失遺伝子変異対立遺伝子と見なすことができた(図5A)。Golden Promiseはcly1遺伝子座に閉花性対立遺伝子(cly1.b)を保持し小さな鱗被を形成するが、作成したゲノム編集系統はこの栽培品種に由来して、この閉花性対立遺伝子対立遺伝子を保持するため、潜在的にsof1変異の効果が妨げられている。そこで、鱗被の発達に対するcly1.bによる潜在的な負の影響を排除するために、sof1-2 T0系統は、非閉花性オオムギSv73528およびAdorraと交配し、遺伝子型がsof1-2sof1-2Cly1_のF3集団を作成して、その鱗被表現型を決定した(図5B)。その結果、Sv73528およびAdorraと比較して、sof1-2変異体(T2)の鱗被の長さは有意に長かった(図6)。
Sv73528およびAdorraと比較して、F3植物は、かなり長い鱗被を持ち開花角度の大きい小花を示したが(図7)、鱗被の深さと幅に大きな違いはなかった。これらの結果は、sof1-2変異体の伸長した鱗被が、Horvu_GOLDEN_7H01G199000の切断によって引き起こされ、Horvu_MOREX_7H01G238100がSof1の機能遺伝子と見なされることが示された。以上から、Horvu_MOREX_7H01G238100の22bpの欠失がsof1変異体の超開花の原因であると結論づけた。
(5)Sof1遺伝子の構造的特徴
Sof1は、sof1の野生型対立遺伝子である。Sof1遺伝子は、開始コドンから停止コドンまでが20720bp(配列番号:3)、全長CDSが10326bp(配列番号:1)であり(図4A)、2つのSnf2ファミリードメインを持つ予測される3441アミノ酸のタンパク質(SOF1)をコードしていた(図4B)。1つは、SNF2_N(SNF2ファミリーのN末端ドメイン)とHelicase_C(ヘリカーゼ保存C末端ドメイン)で構成されATPaseドメインであり、もう1つは、SnAC(Snf2 ATPカップリング)ドメインである(図4B)。ATPaseドメインとSnACドメインは、SOF1のN末端に位置するが、C末端領域に保存されたドメインは見つからない。野生型と比較して、sof1変異体は22bpの欠失を含み(図4A)、フレームシフト変異(D2659Efs)を引き起こし、C末端領域の2677番目のアミノ酸に対応する塩基にストップコドンを導入し、最後の765アミノ酸(完全なSOF1タンパク質の約22%)を欠く2676アミノ酸の切断されたタンパク質が生じる(図4B)。切断されたタンパク質は変異体の生物学的機能を失うと考えられた。SNF2はATP依存性のクロマチンリモデリング因子であり、転写、複製、相同組換え、DNA修復などのDNAイベントの多くの側面を制御している。SOF1の機能を調べるために、SOF1ホモログの系統発生分析を行った。植物種でのBLASTp検索に基づいて、単子葉植物と双子葉植物でSOF1ホモログが見つかり、系統発生分析に使用するために、各分類群からSOF1との同一性が高い上位のホモログをさらに選択した。他の3つのシロイヌナズナSWI/SNFサブファミリーのメンバーは、相同タンパク質が属するクラスを推測するために含めた。系統樹は、すべてのSOF1ホモログがSWI/SNFサブファミリー内にクラスター化されていることを示し、SOF1がこのSWI/SNFサブファミリー(SWI/SNF ATPase)に属し、これらの配列がオーソロガスであることを示唆した(図8)。SWI/SNF ATPaseはクロマチンを活性型状態にしてその遺伝子をONする機能をもつ。このSWI/SNFのクラスターでは、SOF1とArabidopsis SPLAYED(SYD)タンパク質は互いに密接に関連していた(図8)。ArabidopsisのSYDは複数のMADSボックス遺伝子を介してさらに下流のbHLH遺伝子のいくつかに作用し、花弁の大型化を抑制している。そのためSYDの突然変異では花弁が大型化する。花弁のイネ科相同器官は鱗被である。したがって、SYDから発する遺伝子制御系は、オオムギsof1突然変異における鱗被肥大化(超開花)のモデルの一つとすることができる。一方、ホモログであるHORVU_MOREX_6H01G041600.1は、MorexゲノムのATP依存性ヘリカーゼファミリータンパク質としてアノテーションが付けられた。これは、ArabidopsisBRAHMA(BRM)と密接な関係を示し、NCBIの保存ドメインデータベース(Marchler-Baur, A. et al., (2017) Nucleic Acids Res., 4;45(D1):D200-D203)によってC末端に潜在的なブロモドメインを含むことが示された。HORVU_MOREX_6H01G041600.1がオオムギのSOF1パラログであることを示唆された。一方、OsSYD(XP_015642458.1)は、系統発生分析に基づいてSYDオルソログの一つであり、Oryza sativa ssp japonicaのSYDオルソログと報告されている(Su, Y. et al., (2006) The Plant Journal, 46(4):685-699、 Hu, Y. et al., (2013) Plant physiology and biochemistry, 70:33-42)。これらの結果は、SOF1がArabidopsisSYDのオルソログであることを示唆する。SOF1(およびSYD)は単子葉植物と双子葉植物の両方で保持されており、これらのSOF1オルソログは共通の祖先に由来し、進化的に保存されていることを示唆する(図8)。したがって、Sof1はクロマチンリモデリングATPaseタンパク質をコードしており、その機能はArabidopsisSYDやOsSYDに類似している可能性がある。
(6)Sof1の転写産物量プロファイリング
Sof1の転写量を、穂全体または穂の発達段階にわたる個々の生殖器官、およびさまざまな栄養器官で調べた(図9)。qRT-PCRプロファイリングにより、この遺伝子は野生型と変異体の両方で穂の発生段階全体で広く転写されることが明らかになった。野生型において、この遺伝子の転写は、緑の葯の段階で6つの花器官や葉鞘、葉身、節、節間の栄養器官で検出できたが、同じ芒原基期での幼穂も低かった。野生型より変異体の転写産物の量は、幼穂および生殖器官で有意に低かった(図9)。注目すべきことに、この遺伝子の転写レベルは、芒原基期から開花まで変異体で有意に減少し、鱗被でも明らかに減少した(P<0.01、図9)。転写産物量分析は、この遺伝子が栄養成長と生殖発達の間に機能を果たしている可能性があることを示唆した。
(7)Sof1による推定転写調節
Sof1の22bpの欠失の影響をトランスクリプトームで明らかにするために、野生型OUH602と変異体44205でRNA-seq解析を実施した。空調温室(自然光で22℃)と網室で育成した植物の未成熟の穂(awn primordium stage)を解析した結果、2つの成長条件下において遺伝子型間でそれぞれ合計2412および1371の差次的発現遺伝子(DEG)(FDR<0.05および|log2fold change |>0.5)を明らかとした。さらに、674の共通のDEGは、野生型と比較して変異体において391(58%)の発現誘導された遺伝子と283(42%)の発現抑制された遺伝子から構成された。変異体におけるSof1発現の低下は、RNA-seq分析でも確認でき、qRT-PCRによるSof1の発現プロファイルの結果と一致していた。
有意に発現抑制された遺伝子の中で、6つの花のホメオシス遺伝子を検出した。それは、Bクラス遺伝子(AP3-like、Horvu_MOREX_7H01G536500およびPI-like、Horvu_MOREX_1H01G402000)、Cクラス遺伝子(AG-like、Horvu_MOREX_3H01G171300)、Eクラス(AGL6-like、Horvu_MOREX_6H01G395900およびSEP-like、Horvu_MOREX_7H01G328200),SVP-like遺伝子(Horvu_MOREX_4H01G454700)であり、これらの遺伝子はそれぞれイネのOsMADS16、OsMADS4、OsMADS3、OsMADS6、OsMADS6とホモログであった。特に、OsMADS16(Nagasawa, N. et al., (2003) Development, 130(4):705-18、Yoshida, H. et al., (2007) Plant Biotechnology Journal, 5(6):835-846)、OsMADS3(Yamaguchi, Y. et al., (2006) The Plant Cell, 18(1):15-28、Dreni, L. et al., (2011) The Plant Cell, 23(8):2850-2863)、OsMADS6(Li, H. et al., (2010) Cell research, 20(3):299-313)およびOsMADS7の遺伝子(Cui, B. et al., (2010) Plant J., 61(5):767-781)は、イネの変異体を介して鱗被の発達について報告されている。
(8)開花性の相違による受粉効率の推定
(15)受粉効率の推定
受粉効果を推定するために、開花型2品種(Adorra, Sv73528)および閉花型1品種 (カワサイゴク)の細胞質雄性不稔系統を使用し、鉢植した植物体の開花期に物理的に開頴して、芒をテープで固定後、人工授粉して登熟し、着粒数によって受粉効果を推定した。その結果、開花型のAdorraおよびSv735108においては5倍以上の顕著な受粉効果(着粒数の増加)が認められ、閉花型の「カワサイゴク」においても、その効果は明らかであった(表1)。
なお、授粉しない雄性不稔系統の穂には着粒は認められず、授粉処理以外に他の個体の花粉などによって受精しなかったことが確認された。受粉する個体の開花型変異には受粉率の向上による着粒数の大幅な向上が認められた。
(8)コムギ相同遺伝子の同定と解析
コムギ品種Chinese Springのゲノム情報からコムギ相同遺伝子配列を取得した。同定した各コムギSof1遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号:4、7、10に、ゲノムDNAの塩基配列を配列番号:6,9、12に、これらDNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:5、8、11に示す。オオムギSof1と同様に、コムギでも根、葉、穂などのさまざまな器官で強く発現することが判明した(図10)。さらに、TILLING法により、コムギ品種KronosおよびCadenzaにおいて、コムギSof1遺伝子の突然変異体を複数系統選抜することに成功した。
以上説明した通り、本発明によれば、開花性が向上したムギを生産することが可能となる。本発明は、ムギ新品種の開発の効率を大きく高めることができることから、農業分野における穀物の生産性の向上に貢献する。

Claims (5)

  1. 開花性が向上したムギの生産方法であって、ムギにおいて、下記(a)または(b)の内因性遺伝子の機能を人為的に抑制することを含む方法。
    (a)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
    (b)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
  2. 下記(a)または(b)の内因性遺伝子の機能が人為的に抑制された、開花性が向上したムギ。
    (a)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
    (b)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
  3. ムギの開花性を評価する方法であって、ムギにおける、下記(a)または(b)の内因性遺伝子またはその発現制御領域の塩基配列を解析することを含む方法。
    (a)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
    (b)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
  4. ムギの開花性を評価する方法であって、ムギにおける、下記(a)または(b)の内因性遺伝子の発現を解析することを含む方法。
    (a)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
    (b)配列番号:2、5、8または11に記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする内因性遺伝子
  5. 開花性が向上したムギを生産する方法であって、請求項2に記載のムギと他の任意のムギとを交配させることを含む方法。
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