JP2024019789A - マンホールポンプの診断方法及びマンホールポンプの診断装置 - Google Patents

マンホールポンプの診断方法及びマンホールポンプの診断装置 Download PDF

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Abstract

【課題】自動診断しながらも誤診断に対して管理者に掛かる負担を軽減できるマンホールポンプの診断方法及び診断装置を提供する。【解決手段】運転状態を所定の診断間隔で自動診断して診断結果を出力する診断ステップと、異常と診断されるとその診断結果を所定の通知先に送信する通知ステップと、異常と診断された診断結果を通知先に送信するか否かを判定する判定ステップを備え、診断ステップは、異常であると診断すると、その異常のレベルに応じて少なくとも高低二段階のレベルの通知判定値を判定ステップに出力し、判定ステップは、通知判定値が出力される度に、直近の過去の所定回数の診断間隔で診断ステップから出力された通知判定値に基づき、通知ステップによる送信頻度を制御するフィルタ処理を実行するマンホールポンプの診断方法。【選択図】図3

Description

本発明は、マンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの診断方法及び診断装置に関する。
マンホールポンプ設備は、流入管から流入した汚水を貯留する貯水部と、貯水部に貯留された汚水を流出管に排水する複数台のポンプと、貯水部に貯留された汚水の水位を計測する水位計と、水位計で計測された水位がポンプ起動水位に達すると何れかのポンプを起動して汚水を流出管に排水し、水位がポンプ停止水位に達すると当該ポンプを停止する汚水搬送制御を実行する制御装置を備えた制御盤を備えている。
このようなマンホールポンプ設備には通常2台のポンプが設置され、制御装置は汚水を搬送する度にそれらのポンプを交互に運転するように構成されている。
特許文献1には、ポンプ場における複数のポンプにより排出すべき所定時間毎の積算流入量を各ポンプの所定時間内の運転時間で除した値を各ポンプの平均的排水能力として時系列データで管理する手段と、その時系列データとして管理される各ポンプの平均的排水能力が予め設定されている排水能力範囲を越えたか否かを判定する手段と、複数のポンプ各々の平均的排水能力が設定排水能力範囲を越えたときに警報を発する手段とを備えているポンプ場の監視システムが提案されている。
特許文献2には、水位センサにより検知された貯留水位がポンプ起動水位に達すると電磁開閉器を作動させて水中ポンプを駆動する圧送制御部と、電動機を駆動する電磁開閉器の作動状態と、電磁開閉器を介して電機子巻線に接続される給電線の電流を検知する電流センサの検知状態と、貯留水位に基づいて異常の有無を判定する異常判定部を備え、異常判定部は、電磁開閉器の作動中に電流センサにより電流が検知されず、水位センサにより貯留水位の低下が検知されないと、オートカットが作動している電動機の過熱異常と判定する水中ポンプの制御装置が開示されている。
上述したような従来のマンホールポンプ設備に備えた制御装置は、ポンプの駆動電流値、起動水位から停止水位に到るまでのポンプの運転時間、ポンプの温度などの物理量が所定の閾値を超えたか否かにより各ポンプが異常であるか否かを判定していた。そして、想定される異常の種類に適した物理量を計測するために様々なセンサを用いて計測処理を行なう必要があり、非常に煩雑になるという問題があった。
また、異常判断するための閾値もポンプが設置されたマンホールの環境に左右されるため一律に設定することが困難であった。例えば単位時間当たりの入水量が多い地域と少ない地域ではポンプに起動頻度や運転時間に長短の偏りが生じるため、一定の閾値で判断すると正確な判定が困難になるという問題があった。
特に、各マンホールポンプ設備の制御盤に通信装置を備え、各通信装置から送信されたポンプの運転データを管理するサーバを備え、管理者が所有する端末からサーバにアクセスして運転状況をモニタすることが可能な遠隔監視システムでは、それぞれのマンホールポンプ設備に備えたポンプの様々な異常を個別に判定するために、非常に多くの物理量を送信する必要があり、そのためのセンサの数や送信データの容量が増大する一方で、適切な閾値を設定することが困難であるという問題があった。
そこで、特許文献3には、少ない物理量であっても様々な原因による異常診断が的確に行なえるマンホールポンプの診断方法が提案されている。当該マンホールポンプの診断方法は、マンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの診断方法であって、所定の診断対象期間内の各マンホールポンプの1起動当りの運転時間をサンプリングしてそれぞれの平均運転時間を一対の特性値として算出するサンプリングステップと、前記サンプリングステップで算出された一対の特性値を正規化する正規化ステップと、一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットした特性値点が、機械学習装置を用いて2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を自動診断する診断ステップと、を備えている。
特開2001-34338号公報 特開2010-236191号公報 特開2020-107073号公報
特許文献3に開示されたマンホールポンプの診断方法は、所定の診断対象期間における各マンホールポンプの平均運転時間を正規化した値を一対の特性値として、予め正常範囲を示す境界閾値が機械学習装置により定められた2次元座標系にプロットすることにより、当該一対の特性値が境界閾値に入ると正常であり、境界閾値から逸脱すると異常であると自動診断するように構成されている。
機械学習装置により定められる境界閾値は、様々な環境に設置された多くのマンホールポンプの正常時の特性値を教師データとして学習することにより得られる値であり、診断対象となるマンホールポンプの特性値が、当該マンホールポンプの過去の特性値のみに基づく統計データに基づいて正規化された値とすることで、設置環境などの差異による影響を低減しながらも、種類の少ない特性値を用いて適切な診断が実現できる。
しかし、このようなマンホールポンプの診断方法であっても、診断精度という観点では完全ではなく、僅かではあるが、実際のマンホールポンプの運転状態と診断結果に齟齬が生じる場合がある。例えば、実際のマンホールポンプは正常稼働していても異常と診断される場合や、逆に実際のマンホールポンプは異常であっても正常と診断される場合がある。
そのような場合に、診断結果を一律に所定の通知先、例えば管理者の携帯端末等に自動送信するように構成すると、異常通知された管理者が実際のマンホールポンプ装置の設置場所に赴いて点検すると正常であり、通知が「空振り」となる場合や、逆に異常通知が無かったマンホールポンプ装置で実際には異常が発生し、「見逃し」となる場合があり、管理者に掛かる負担が十分に軽減できない虞があった。
本発明の目的は、上述した問題に鑑み、自動診断しながらも誤診断に対して管理者に掛かる負担を軽減できるマンホールポンプの診断方法及び診断装置を提供する点にある。
上述の目的を達成するため、本発明によるマンホールポンプの診断方法の第一の特徴構成は、マンホール内に設置されるマンホールポンプの運転状態が正常であるか異常であるかを所定の診断間隔で自動診断して診断結果を出力する診断ステップと、前記診断ステップで異常と診断されるとその診断結果を所定の通知先に送信する通知ステップと、を備えているマンホールポンプの診断方法であって、前記診断ステップで異常と診断された前記診断結果を、前記通知ステップにより前記通知先に送信するか否かを判定する判定ステップをさらに備え、前記診断ステップは、異常であると診断すると、その異常のレベルに応じて少なくとも高低二段階のレベルの通知判定値を前記判定ステップに出力し、前記判定ステップは、前記通知判定値が出力される度に、直近の過去の所定回数の診断間隔で前記診断ステップから出力された前記通知判定値に基づき、前記通知ステップによる送信頻度を制御するフィルタ処理を実行し、前記通知ステップは、前記フィルタ処理の結果に従って前記診断結果の送信の可否を決定する点にある。
診断ステップで異常と診断されたときに、通知ステップにより通知先に送信するか否かが事前に判定ステップで判定される。診断ステップにより異常であると診断されると、その異常のレベルに応じて少なくとも高低二段階のレベルの通知判定値が判定ステップに出力される。判定ステップは、通知判定値が出力される度に、直近の過去の所定回数の診断間隔で診断ステップから出力された通知判定値に基づき、通知ステップによる送信頻度を制御するフィルタ処理が実行され、「空振り」通知の頻度が低減されるようになる。
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記フィルタ処理は、直近の過去の第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の発生確率が第1基準確率(P1)に達しているか否か、および、直近の過去の第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が第2基準確率(P2)に達しているか否か、に基づいて前記通知ステップによる送信頻度を制御する点にある。
診断ステップで異常と診断されたときに、直近の過去における高低何れかのレベルの通知判定値の発生確率、および、高レベルの発生確率に基づいて送信頻度が適切に制御され、その結果、異常のレベルが低い場合ほど通知先への送信頻度が低減され、「空振り」通知の頻度が低減される。
同第三の特徴構成は、上述した第二の特徴構成に加えて、前記フィルタ処理は、少なくとも前記第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の発生確率が前記第1基準確率(P1)より高い場合に、前記診断結果の送信を許容する点にある。
第1所定回数(N1)の診断間隔で診断ステップにより出力された高低何れかの通知判定値の発生確率が第1基準確率(P1)より高い場合に、信頼性の高い診断結果であるとして、診断結果の送信が許容される。
同第四の特徴構成は、上述した第二の特徴構成に加えて、前記フィルタ処理は、少なくとも前記第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が前記第2基準確率(P2)より高い場合に、前記診断結果の送信を許容する点にある。
第2所定回数(N2)の診断間隔で診断ステップにより出力された通知判定値の高レベルの発生確率が前記第2基準確率(P2)より高い場合に緊急性の高い異常であるとして、診断結果の送信が許容される。
同第五の特徴構成は、上述した第二から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記フィルタ処理は、前記第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の発生確率が前記第1基準確率(P1)以下であり、前記第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が前記第2基準確率(P2)以下の場合に、前記診断結果の送信を禁止する点にある。
第1所定回数(N1)の診断間隔で診断ステップにより出力された通知判定値の発生確率が第1基準確率(P1)以下であり、第2所定回数(N2)の診断間隔で診断ステップにより出力された通知判定値の高レベルの発生確率が第2基準確率(P2)以下の場合に、診断結果の送信を禁止することで、「空振り」通知の発生が効果的に低減される。
同第六の特徴構成は、上述した第二から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記第1所定回数(N1)、前記第1基準確率(P1)、前記第2所定回数(N2)、前記第2基準確率(P2)の各値が可変に設定可能に構成されている点にある。
これらの値を可変設定できるように構成することで、個別のマンホール装置の特性に対応してより効果的に「空振り」通知の頻度を低減することができ、例えば管理者が「見逃し」を嫌うような場合には、「見逃し」の頻度を低減するように調整することも可能になる。
同第七の特徴構成は、上述した第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記診断ステップは、診断対象期間に収集された前記マンホールポンプの運転情報から算出された診断指標に基づいて前記診断対象期間における前記マンホールポンプの状態を診断するように構成され、前記診断対象期間を含む直近の所定期間に算出された各診断指標のみから算出した統計データに基づいて正規化された診断指標を、所定の座標系にプロットし、プロットした診断指標点が前記座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて前記マンホールポンプの正常または異常を診断するものであり、前記境界閾値は、当該診断対象となるマンホール内に設置された前記マンホールポンプを含む複数のマンホール内に設置された複数のマンホールポンプから得られる正常稼働状態にける診断指標のみを教師データに用いて学習する機械学習装置により自動生成され、正常な診断指標が内部に含まれる特徴空間となる前記座標系の境界を示すものである点にある
例えば、流入水量が多い地域と少ない地域など、マンホールの設置環境などにより診断指標の値が大きく変動する場合でも、診断対象期間を含む直近の所定期間に算出された個別の診断指標のみから算出した統計データに基づいて、診断対象期間における診断指標を正規化することで、設置環境などの外的要因の影響を排除することができる。また、正規化された診断指標を所定の座標系にプロットして、正常または異常を診断する境界閾値を、設置環境などが異なる複数のマンホールに設置されたマンホールポンプから得られた正常稼働時の診断指標のみを教師データに用いて機械学習することで得られる値を採用することで、事前に異常時の診断指標をわざわざ準備しなくても、設置環境などの影響を受けない適切な診断ができるようになる。
同第八の特徴構成は、上述した第七の特徴構成に加えて、前記診断指標は、前記診断対象期間における一方のマンホールポンプの運転回数と他方のマンホールポンプの運転回数との比、および、前記診断対象期間における一方のマンホールポンプの運転時間と他方のマンホールポンプの運転時間との比が含まれる点にある。
診断指標として、各マンホールポンプの運転回数の比、および、各マンホールポンプの運転時間の比を採用することで、少ない診断指標でありながら効果的に異常診断を行なうことができる。
本発明によるマンホールポンプの診断装置の第一の特徴構成は、マンホール内に設置されるマンホールポンプの運転状態が正常であるか異常であるかを所定の診断間隔で自動診断して診断結果を出力する診断処理部と、前記診断処理部で異常と診断されるとその診断結果を所定の通知先に送信する通知処理部と、を備えているマンホールポンプの診断装置であって、前記診断処理部で異常と診断された前記診断結果を、前記通知処理部により前記通知先に送信するか否かを判定する判定処理部をさらに備え、前記診断処理部は、異常であると診断すると、その異常のレベルに応じて少なくとも高低二段階のレベルの通知判定値を前記判定処理部に出力し、前記判定処理部は、前記通知判定値が出力される度に、直近の過去の所定回数の診断間隔で前記診断処理部から出力された前記通知判定値に基づき、前記通知処理部による送信頻度を制御するフィルタ処理を実行し、前記通知処理部は、前記フィルタ処理の結果に従って前記診断結果の送信の可否を決定する点にある。
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記フィルタ処理は、直近の過去の第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診処理部により出力された前記通知判定値の発生確率が第1基準確率(P1)に達しているか否か、および、直近の過去の第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断処理部により出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が第2基準確率(P2)に達しているか否か、に基づいて前記通知処理部による送信頻度を制御する点にある。
同第三の特徴構成は、上述した第二の特徴構成に加えて、前記フィルタ処理は、少なくとも前記第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断処理部により出力された前記通知判定値の発生確率が前記第1基準確率(P1)より高い場合に、前記診断結果の送信を許容する点にある。
同第四の特徴構成は、上述した第二の特徴構成に加えて、前記フィルタ処理は、少なくとも前記第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断処理部により出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が前記第2基準確率(P2)より高い場合に、前記診断結果の送信を許容する点にある。
同第五の特徴構成は、上述した第二から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記フィルタ処理は、前記第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断処理部により出力された前記通知判定値の発生確率が前記第1基準確率(P1)以下であり、前記第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断処理部により出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が前記第2基準確率(P2)以下の場合に、前記診断結果の送信を禁止する点にある。
同第六の特徴構成は、上述した第二から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記第1所定回数(N1)、前記第1基準確率(P1)、前記第2所定回数(N2)、前記第2基準確率(P2)の各値が可変に設定可能に構成されている点にある。
同第七の特徴構成は、上述した第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記診断処理部は、診断対象期間に収集された前記マンホールポンプの運転情報から算出された診断指標に基づいて前記診断対象期間における前記マンホールポンプの状態を診断するように構成され、前記診断対象期間を含む直近の所定期間に算出された各診断指標のみから算出した統計データに基づいて正規化された診断指標を、所定の座標系にプロットし、プロットした診断指標点が前記座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて前記マンホールポンプの正常または異常を診断するものであり、前記境界閾値は、当該診断対象となるマンホール内に設置された前記マンホールポンプを含む複数のマンホール内に設置された複数のマンホールポンプから得られる正常稼働状態にける診断指標のみを教師データに用いて学習する機械学習装置により自動生成され、正常な診断指標が内部に含まれる特徴空間となる前記座標系の境界を示すものである点にある。
同第八の特徴構成は、上述した第七の特徴構成に加えて、前記診断指標は、前記診断対象期間における一方のマンホールポンプの運転回数と他方のマンホールポンプの運転回数との比、および、前記診断対象期間における一方のマンホールポンプの運転時間と他方のマンホールポンプの運転時間との比が含まれる点にある。
以上説明した通り、本発明によれば、自動診断しながらも誤診断に対して管理者に掛かる負担を軽減できるマンホールポンプの診断方法及び診断装置を提供することができるようになった。
マンホールポンプの説明図 マンホールポンプの診断装置の説明図 マンホールポンプの診断方法の手順を示す説明図 (a)は計測データの説明図、(b)は計測データの要部拡大説明図 正規化処理の説明図 (a)は診断の説明図、(b)は運転回数の差が1のときの補正処理の前後における診断指標の値を示す説明図 診断マップの説明図 (a)はあるマンホール装置の診断結果をベースに、第1所定回数(N1)、第1基準確率(P1)、第2所定回数(N2)、第2基準確率(P2)を異ならせた場合に、発生する見逃しと空振りの特性のシミュレーション結果の説明図、(b)はシミュレーション結果を示すグラフ マンホールポンプの診断方法の他の手順を示す説明図 通知処理の別実施形態の説明図
以下に、本発明によるマンホールポンプの診断方法及び診断装置を説明する。
図1にはマンホールポンプ装置10が示されている。マンホールポンプ装置10は、上流側の汚水流入管11から流入した汚水を貯留する貯水部としてのマンホール12と、マンホール12に貯留された汚水を下流側の汚水流出管13に圧送する2台のポンプPA,PBと、マンホール12に貯留された汚水の水位を計測する水位計18,19を備えている。
第1ポンプPAの吐出し曲管15aには第1揚水管15b、第1曲管15c、第1水平管15dがそれぞれフランジ接続され、第1水平管15dがヘッダー管13aを介して汚水流出管13にフランジ接続されている。第1揚水管15bと第1曲管15cの間に逆止弁15eが設けられている。
第2ポンプPBの吐出し曲管17aには第2揚水管17b、第2曲管17cがそれぞれフランジ接続され、第2曲管17cがヘッダー管13aを介して汚水流出管13にフランジ接続されている。第2揚水管17bと第2曲管17cとの間に逆止弁17eが設けられている。
投込圧力式または気泡式の水位計18がマンホール12の底部に設置されている。当該水位計18によってマンホール12に貯留される汚水の水位が連続的に検出される。さらにフロート式の水位計19が、異常高水位HHWLを検出するバックアップ用の水位計として設置されている。
マンホール12の近傍には、ポンプPA,PBを制御してマンホール12に溜まった汚水を汚水流出管13に圧送する汚水搬送制御を実行する制御部21を含む制御盤20が収容された制御盤装置200が設置されている。
制御盤20には、制御部21、記憶部22、通信部24が設けられている。記憶部22には制御部21からの制御情報、水位計18,19からの水位情報などが記憶される。通信部24は、記憶部22に記憶された各種情報を遠隔の監視装置40に送信する送信部と、監視装置40からの制御指令を受信する受信部を備えている。
通信部24と監視装置40との間をつなぐ通信媒体として例えば携帯電話網のような無線通信媒体が好適に用いられ、このような通信媒体を介して監視装置40と通信部24がインターネット接続され、さらにマンホールポンプ装置10の管理者が所有する携帯通信端末30と監視装置40とが無線通信媒体を介してインターネット接続可能に構成されている。
制御盤20と各ポンプPA,PBは交流の給電線L1,L2で接続され、制御盤20と水位計18,19は信号線Sで接続されている。
制御部21は、水位計18で計測された水位が所定のポンプ起動水位HWLに達したことを検知するとポンプPA,PBのうち一方のポンプPAを起動するために給電線L1から給電制御し、水位がポンプ起動水位HWLより低位のポンプ停止水位LWLに達したことを検知すると給電を停止して当該一方のポンプPAを停止する。
制御部21は、その後再び水位がポンプ起動水位HWLに達したことを検知すると他方のポンプPBを起動するために給電線L2から給電制御し、ポンプ停止水位LWLに達したことを検知すると給電を停止して当該ポンプPBを停止する。つまり、制御部21はポンプPA,PBを交互に運転制御する。
さらに、制御部21は、水位計18の故障などによりポンプ起動水位HWLが検知できない場合や、集中豪雨によりポンプ1台の排水能力を上回るような大量の雨水がマンホール12に流入し、異常高水位HHWLに達したことが水位計19で計測されたことを検知すると、2台のポンプPA,PBを同時に運転する。
制御部21は、例えば1分間隔で水位計18,19により検知された水位情報を時系列的にサンプリングして記憶部22に記憶するとともに、各ポンプPA,PBの起動時期及び停止時期と、起動から停止までの運転時間などの時系列的な運転情報を記憶部22に記憶する。
図2に示すように、各マンホールポンプ装置10の制御盤20に備えた通信部24は、記憶部22に記憶された水位情報及び運転情報を所定インタバルで監視装置40に送信するように構成されている。
監視装置40は、複数のマンホールポンプ装置10に対する診断装置として機能し、例えばサーバコンピュータで構成することができる。監視装置40は、各マンホールポンプ装置10の通信部24や管理者の携帯通信端末30と通信する通信部41、各マンホールポンプ装置10の通信部24から送信された水位情報及び運転情報を格納するデータベースDB、データベースDBとの間でデータをやり取りするデータ処理部42、データベースDBに格納された水位情報及び/または運転情報に基づいて各マンホールポンプ装置10が正常に稼働しているか否かを診断する診断部44を備えている。
診断部44は、診断指標算出処理部45と、診断処理部46と、判定処理部47と、通知処理部48と、を備えている。診断指標算出処理部45は、マンホールポンプ装置10毎に診断対象期間に収集されたマンホールポンプPA,PBの運転情報から診断指標を算出する。診断処理部46は、診断指標算出処理部45で算出された診断指標に基づいて診断対象期間におけるマンホールポンプPA,PBの運転状態が正常であるか異常であるかを所定の診断間隔で自動診断して診断結果を出力する。
通知処理部48は、診断処理部46で異常と診断されるとその診断結果を予め設定された管理者等の所定の通知先に送信する。判定処理部47は、診断処理部46で異常と診断された診断結果を、通知処理部48により通知先に送信するか否かを判定する。
診断指標として、診断対象期間における一方のマンホールポンプPAの運転回数n1と他方のマンホールポンプPBの運転回数n2との比n1/n2、及び、診断対象期間における一方のマンホールポンプPAの運転時間t1と他方のマンホールポンプPBの運転時間t2との比t1/t2が採用される。
診断指標算出処理部45は、運転回数の比n1/n2を算出する前に、診断対象期間における一方のマンホールポンプPAの運転回数n1と他方のマンホールポンプPBの運転回数n2との差が1である場合に、運転回数の少ないマンホールポンプの運転回数に1を加算し、または、運転回数の多いマンホールポンプの運転回数から1を減算する。
正常状態では2台のマンホールポンプPA,PBが交互運転されるため、診断対象期間における各マンホールポンプPA,PBの運転回数が増える程に、運転回数の比n1/n2は1に収束するのであるが、診断対象期間における各マンホールポンプPA,PBの運転回数が少ない場合には、運転回数の比n1/n2が1から大きく偏った値となり、誤診断を招く虞がある。
そこで、一方のマンホールポンプPAの運転回数n1と他方のマンホールポンプPBの運転回数n2との差が1であれば、双方のマンホールポンプPA,PBが適切に交互運転されていると推定し、運転回数の少ないマンホールポンプの運転回数に1を加算し、または、運転回数の多いマンホールポンプの運転回数から1を減算して、運転回数の比を1に補正する。この補正により、診断対象期間におけるマンホールポンプPA,PBの運転回数が少ない場合であっても、誤診断が回避されるようになる。
診断指標算出処理部45は、運転回数の少ないマンホールポンプの運転回数に1を加算し、または、運転回数の多いマンホールポンプの運転回数から1を減算する場合に、加算または減算に対応するマンホールポンプの1起動当たりの運転時間として、当該診断対象期間における1起動当りの運転時間の平均値を採用する。
補正した運転回数とのバランスを保つ必要があるために、運転回数を増加または減少補正したマンホールポンプの1起動当たりの運転時間を増加または減少補正するものであり、診断対象期間における1起動当りの運転時間の平均値を補正値として採用することで、適切な診断ができるようになる。
さらに、診断指標算出処理部45は、診断対象期間を含む直近の所定期間に算出された各診断指標のみから算出した統計データに基づいて、診断対象期間における診断指標を正規化する正規化処理部を備えている。
例えば、流入水量が多い地域と少ない地域など、マンホールポンプ装置10の設置環境などにより診断指標の値が大きく変動する場合でも、診断対象期間を含む直近の所定期間に算出された個別の診断指標のみから算出した統計データに基づいて、診断対象期間における診断指標を正規化することで、設置環境などの外的要因の影響を排除することができる。
診断処理部46は、所定の座標系、本実施形態ではx,yの2次元座標系に、正規化された診断指標をプロットし、プロットした診断指標点が2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいてマンホールポンプPA,PBの正常または異常を自動診断する。
境界閾値は、当該診断対象となるマンホール12内に設置されたマンホールポンプPA,PBを含む複数のマンホール12内に設置された複数のマンホールポンプPA,PBから得られる正常稼働状態にける診断指標のみを教師データに用いて学習する機械学習装置により自動生成され、正常な診断指標が内部に含まれる特徴空間となる次元座標系の境界を示すものである。当該機械学習装置は、診断処理部46に構築され、ワンクラスサポートベクタ-マシンアルゴリズムを実行する機能ブロックで構成されている。
正規化された診断指標を所定の座標系にプロットして、正常または異常を診断する境界閾値を、設置環境などが異なる複数のマンホールに設置されたマンホールポンプから得られた正常稼働時の診断指標のみを教師データに用いて機械学習することで得られる値を採用することで、事前に異常時の診断指標をわざわざ準備しなくても、設置環境などの影響を受けない適切な診断ができるようになる。
2次元座標系に設定された境界閾値の外側が複数の領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられた診断マップを備え、診断処理部46は、各特性値点がプロットされた領域に基づいて異常原因を診断するように構成されている。
図3には、監視装置40で実行される一連の診断処理のフローが示されている。データ処理部42が、各マンホールポンプ装置10から診断対象期間として設定された1日分の運転情報である計測データを受信しデータベースDBに格納し終えると(SA1)、診断指標算出処理部45は、各マンホールポンプ装置10のポンプ毎に異常判定に用いる診断指標を算出するための計測データとしてポンプPA,PBの其々の運転回数n1,n2を抽出するとともに、1日のポンプの運転時間の合計t1,t2を抽出し、診断指標として、運転回数の比n1/n2と運転時間の比t1/t2を算出する(SA2)。
ステップSA2では、運転回数の比n1/n2を算出する前に、診断対象期間における一方のマンホールポンプの運転回数n1と他方のマンホールポンプの運転回数n2との差が1である場合に、運転回数の少ないマンホールポンプの運転回数に1を加算し、または、運転回数の多いマンホールポンプの運転回数から1を減算する処理が実行される。なお、運転回数n1と運転回数n2の差が1以外の場合、つまり、同値であるか2以上となる場合には、当該補正処理は行わない。
さらに、運転回数の少ないマンホールポンプの運転回数に1を加算し、または、運転回数の多いマンホールポンプの運転回数から1を減算する場合に、診断対象期間における1起動当りの運転時間の平均値を算出し、加算または減算に対応するマンホールポンプの1起動当たりの運転時間として平均値を加算または減算する。
診断指標算出処理部45は、データベースDBに格納されている当該診断対象期間(1日)を含む直近の所定期間、例えば数か月(本実施形態では3か月)の間に算出された当該マンホールポンプ装置10の各診断指標のみから算出した統計データに基づいて、当該診断対象期間(1日)における診断指標を正規化処理する(SA3)。
診断処理部46は、診断指標算出処理部45により算出された正規化処理後の診断指標を機械学習装置に入力して、予め設定された境界閾値に基づいて異常判定を行ない(SA5)、異常と判定すると、診断指標の境界閾値からの距離に基づいて異常の程度を高低の二段階の異常レベルで表わした通知判定値を設定して、通知判定値を判定処理部47に出力する(SA6)。
判定処理部47は、通知判定値が出力される度に、直近の過去の所定回数の診断間隔で診断処理部46から出力された通知判定値に基づき、通知処理部48による通知先への異常の送信頻度を制御するフィルタ処理を実行する(SA7)。フィルタ処理の結果、通知先への異常の送信が必要と判断すると(SA8,Y)、通知処理部48は、予め異常原因との相関を示す診断マップに基づいて異常原因を特定し(SA9)、異常原因とともに異常状態である旨の警報を管理者の所有する携帯端末などに送信する(SA10)。警報通知は、通信部41に備えたメーラーを介して電子メールとして送信される。
以下、診断部44について詳述する。
図4(a)には、診断対象期間となる午前0時0分から翌0時0分までの24時間のマンホールポンプ装置10の運転データが示されている。上段から順に水位の変動状況、ポンプPA、PBの運転タイミングと運転時間、ポンプPAの電流値、ポンプPBの電流値がそれぞれ示されている。つまり、本実施形態では、診断間隔が24時間となる。
図4(b)には、図4(a)に示した水位の変動状況、ポンプPA、PBの運転タイミングと運転時間の関係を理解容易にするための拡大表示である。マンホールの貯水水位がHWLに達するとポンプPAが起動されて水位がLWLに低下すると停止される。次に貯水水位がHWLに達するとポンプPBが起動されて水位がLWLに低下すると停止される。水位がHWLからLWLに低下するまでの間は何れかのポンプが起動されている。ポンプの搬送量が低下している場合や、マンホールへの汚水の流入量が多い場合などには、ポンプの運転時間が長くなる。
各マンホールポンプ装置10の記憶部22に記憶されたこのような水位情報及び運転情報が通信部24を介して監視装置40に送信され、データ処理部42を介してデータベースDBに格納される。
データ処理部42は、診断対象期間におけるこのような運転情報を診断指標算出処理部45に引き渡し、診断指標算出処理部45は、引き渡された運転情報から各ポンプPA,PBの「運転回数n1,n2」と「ポンプ運転時間の合計値t1,t2」を診断指標として算出する。
図5に示すように、診断指標算出処理部45は、直近の過去3か月の間にデータベースDBに蓄積された運転情報から求まる過去の診断指標を母集団としてデータの正規化のための平均値μ及び分散σを算出し、特徴量xに対して数式(x-μ)/σにより特徴量であるそれぞれの平均運転時間を正規化処理する。
直近の過去3か月に限るものではないが、正規化処理に必要な統計データ(平均値、分散値)は、正規化処理実行時の診断対象期間を含む直近の所定期間の診断指標を含むポンプの運転情報に基づいて算出されることが好ましく、例えば季節変動などの時間経過に起因する影響が排除され、信頼性の高い診断が可能になる。
診断指標算出処理部45で正規化処理された診断指標「運転回数の比n1/n2」と「ポンプ運転時間の合計値の比t1/t2」で構成される一対の特性値が診断処理部46に入力されると、一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に対応付けてプロットし、プロットされた特性値点が2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を診断する。
図6(a)には、縦軸(y軸)を「ポンプ運転時間の合計値の比t1/t2」、横軸(x軸)を「運転回数の比n1/n2」とする2次元座標系の原点(各値の平均値)を有する略円形の閉曲線(太線で示されている。)を境界閾値として、プロットされた特性値点が境界閾値の内側に位置すると正常であり、プロットされた特性値点が境界閾値の外側に位置すると異常であると判定される様子が示されている。
上述したように、診断処理部46に備えた機械学習装置は、当該診断対象となるマンホールポンプ装置10に設置されたマンホールポンプを含む複数のマンホールポンプ装置10に設置された複数のマンホールポンプから得られる正常稼働状態にける診断指標のみを教師データに用いて学習することで境界閾値を自動生成する。生成された境界閾値は、正常な診断指標が内部に含まれる特徴空間となる座標系の境界を示すものである。機械学習装置で実行される学習アルゴリズムとして、ワンクラスサポートベクタ-マシン、LOF(local outlier factor)法、IF(Isolation Forest)法、RC(Robust Covariance)法などを用いることができる。
機械学習を行なうことにより、図6(a)に示す写像空間(特徴空間)において、正常な測定データ(トレーニングデータ)を写像した正常データ空間、つまり境界閾値の内部空間が生成される。図6(a)の例では、2台のポンプが設置された100か所のマンホールポンプ装置10で得られた正常状態における一対の特性値の1年分を学習データとして学習した結果得られた境界閾値が示されている。
図6(b)には、各ポンプPA,PBの運転回数n1と運転回数n2の差が1である場合に、補正されない診断指標をプロットした補正前データと、補正した後の診断指標をプロットした補正後データが例示されている。補正されない診断指標では、境界閾値から逸脱しており、異常と診断されることになるが、補正後の診断指標では、境界閾値の内部に存在しており、正常と診断されることになる。
診断処理部46は、特性値点が図6(a)に示す境界閾値の外側に位置することで異常であると診断すると、その異常のレベルに応じて少なくとも高低二段階のレベルの通知判定値を判定処理部47に出力するとともに、記憶部22に診断結果を記憶する。具体的に、境界閾値の外側に所定距離離れた異常程度判定閾値(図6(a)中、破線で示されている。)が設定され、プロットされた特性値点(図6(a)中、符号d1で示す黒丸印で示されている。)が境界閾値と異常程度判定閾値との間に存在する場合に、通知判定値が異常レベル「低」に設定され、プロットされた特性値点(図6(a)中、符号d2で示す黒丸印で示されている。)が異常程度判定閾値より外側に存在する場合に、通知判定値が異常レベル「高」に設定される。
判定処理部47は、通知判定値が出力される度に、記憶部22に記憶された直近の過去の所定回数の診断間隔で診断処理部46から出力された通知判定値に基づき、通知処理部48による送信頻度を制御するフィルタ処理を実行する。通知処理部48は、フィルタ処理の結果に従って診断結果の送信の可否を決定する。
フィルタ処理は、直近の過去の第1所定回数(N1)の診断間隔で診断処理部47により出力された通知判定値の発生確率が第1基準確率(P1)に達しているか否か、および、直近の過去の第2所定回数(N2)の診断間隔で診断処理部47により出力された通知判定値の高レベルの発生確率が第2基準確率(P2)に達しているか否か、に基づいて通知処理部48による送信頻度を制御する。
第1所定回数(N1)、第1基準確率(P1)、第2所定回数(N2)、第2基準確率(P2)の其々は、フィルタ処理に用いるパラメータであり、監視装置40に接続されたキーボードなどの入力装置や、通信部41を介して携帯端末30などの外部装置から設定可能に構成されている。
具体的に、フィルタ処理は、少なくとも第1所定回数(N1)の診断間隔で診断処理部47により出力された通知判定値の発生確率が第1基準確率(P1)より高い場合に、診断結果の送信を許容する。また、フィルタ処理は、少なくとも第2所定回数(N2)の診断間隔で診断処理部47により出力された通知判定値の高レベルの発生確率が第2基準確率(P2)より高い場合に、診断結果の送信を許容する。
フィルタ処理は、第1所定回数(N1)の診断間隔で診断処理部47により出力された通知判定値の発生確率が第1基準確率(P1)以下であり、第2所定回数(N2)の診断間隔で診断処理部47により出力された通知判定値の高レベルの発生確率が第2基準確率(P2)以下の場合に、診断結果の送信を禁止する。
そして、第1所定回数(N1)、第1基準確率(P1)、第2所定回数(N2)、第2基準確率(P2)の各値が可変に設定可能に構成されている。
図7には、診断マップが例示されている。図6(a)に示す特徴空間に示された境界閾値の外側が8領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられている。診断処理部46は、各特徴データがプロットされた領域に基づいて異常原因を診断する。
例えば、図7の例では、領域1,2,4に特性値点がプロットされると、長時間運転となるポンプPAに排水能力の低下という異常が発生していると診断され、領域5,7,8に特性値点がプロットされると、長時間運転となるポンプPBに排水能力の低下という異常が発生していると診断され、領域3,6に特性値点がプロットされると、ポンプの運転時間および回数が何れか一方に偏っていることから制御盤20に設けた回路部品などに異常が生じていると診断される。
図8(a)には、上述の診断処理部で診断されたあるマンホールポンプ装置10に対する診断結果に対して、第1所定回数(N1)、第1基準確率(P1)、第2所定回数(N2)、第2基準確率(P2)を上述したパラメータとして具体的に設定した場合の合計通知回数、見逃し件数、空振り件数が示されている。
図8(b)には、合計通知回数に対する見逃し件数と空振り件数の特性が示されている。合計通知回数が増加すると見逃し件数は少なくなるが、空振り件数が多くなる。合計通知回数が減少すると見逃し件数は多くなるが、空振り件数が少なくなる傾向がみられる。そこで、相対的に見逃し件数と空振り件数のバランスのよい第1所定回数(N1)、第1基準確率(P1)、第2所定回数(N2)、第2基準確率(P2)に設定することで、通知を受ける管理者などに対する良好な通知処理が実現できるようになる。また、管理者が「見逃し」を嫌う場合には、「空振り」の増加よりも「見逃し」の回避を重視し、逆に管理者が「空振り」を嫌う場合には、「見逃し」の増加よりも「空振り」の回避を重視した設定が可能になる。
以上の実施形態では、診断処理部46によって、機械学習装置による診断の結果、マンホールポンプの運転状態が正常であるか異常であるかが24時間の診断間隔で自動診断され、異常と診断された場合に、判定処理部47によって、直近の過去の所定回数の診断間隔で診断処理部46から出力された通知判定値に基づき、通知処理部48による送信頻度を制御するフィルタ処理を実行する例を説明した。
この場合において、診断間隔は24時間に限るものではなく適宜設定される値である。通知判定値は高低二段階のレベルに設定されているが、二段階のレベル以上の複数段階のレベルに設定されていてもよい。所定回数の値も適宜設定可能な値である。
また、診断処理部46は、機械学習装置による診断の結果を一時診断として処理し、複数回の一時診断の結果を累積した結果に基づいて高低二段階のレベルの通知判定値を判定処理部47に出力するように構成してもよい。
このような態様が図9に示されている。図9のステップSB1からステップSB4までの処理は図3で説明したステップSA1からSA4と同じである。
診断処理部46は、機械学習装置による診断で特性値点が異常であると一次診断される度に(SB5、「異常」判定)、所定の異常基準値に特性値点と境界閾値との距離に基づく重み係数を乗じて加算するとともに(SB6)、特性値点が一次診断で正常と診断される度に(SB5、「正常」判定)、所定の正常復帰評価値を減算し(SB7)、その結果、累積評価値により異常であると判定される度に、ステップSB8からステップSB13の処理を実行してもよい。ステップSB8からステップSB13の処理は、図3で説明したステップSA5からステップSA10と同様の処理である。
診断処理部46で実行されるステップSB5からステップSB7の処理は、以下の通りである。診断処理部46は、特性値点が異常であると一次診断する度に、以下の数式に基づいて、所定の異常基準値Vnbに各特性値点の位置と境界閾値との距離に基づく重み係数Wを乗じて加算するとともに、各特性値点が一次診断で正常と診断される度に、所定の正常復帰評価値Vpbを減算することにより累積評価値Vを算出し、累積評価値に基づいてマンホールポンプ装置の正常または異常を最終診断する。特性値点の位置と境界閾値との距離とは、特性値点を通る境界閾値からの法線の長さをいう。
V=Vnb×W-Vpb
本実施形態では、Vnb=1、Vnb<Vpb<Wmax×Vnbに設定されている。
一次診断で異常と診断された場合でもその後に正常と診断されるような軽度な異常もあれば、継続して異常と診断されてやがて重大な故障に到るような異常もある。そのような場合に、一次診断で異常と診断される度に所定の異常基準値に特性値点と境界閾値との距離に基づく重み係数を乗じた値を加算し、正常と診断される度に所定の正常復帰評価値を減算することにより得られる累積評価値を算出して、当該累積評価値に基づいて通知処理の可否を判定するように構成することができる。
図10には、累積評価値Vの変遷が示されている。累積評価値Vは特性値点がプロットされる度に更新され、異常判定されると初期値0からVnb×Wの値が加算され、正常判定されるとVpbの値が減算される。
累積評価値Vが第1の閾値Vth1を超えると、通知判定値が異常レベル「低」に設定され、累積評価値Vが第2の閾値Vth2(Vth1<Vth2)を超えると、通知判定値が異常レベル「高」に設定される。
上述した例では、診断指標として、ポンプの運転回数の比n1/n2と運転時間の比t1/t2を採用する例を説明したが、本発明に適用される診断指標はこれらに限定されるものではなく、ポンプの運転状態を示すものであれば適宜採用可能である。
例えば、一方のマンホールポンプの1起動当りの平均運転時間と、双方のマンホールポンプの1起動当りの平均運転時間の比を一対の診断指標に選択することができる。また、マンホールポンプの運転時の水位の低下速度とポンプの駆動電流値を一対の診断指標に選択することもできる。
以上説明したように、本発明によるマンホールポンプの診断方法は、マンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの状態を診断するマンホールポンプの診断方法であり、上述した診断装置により実行される。
即ち、マンホール内に設置されるマンホールポンプの運転状態が正常であるか異常であるかを所定の診断間隔で自動診断して診断結果を出力する診断ステップと、前記診断ステップで異常と診断されるとその診断結果を所定の通知先に送信する通知ステップと、を備えているマンホールポンプの診断方法であって、前記診断ステップで異常と診断された前記診断結果を、前記通知ステップにより前記通知先に送信するか否かを判定する判定ステップをさらに備え、前記診断ステップは、異常であると診断すると、その異常のレベルに応じて少なくとも高低二段階のレベルの通知判定値を前記判定ステップに出力し、前記判定ステップは、前記通知判定値が出力される度に、直近の過去の所定回数の診断間隔で前記診断ステップから出力された前記通知判定値に基づき、前記通知ステップによる送信頻度を制御するフィルタ処理を実行し、前記通知ステップは、前記フィルタ処理の結果に従って前記診断結果の送信の可否を決定するように構成されている。
前記フィルタ処理は、直近の過去の第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の発生確率が第1基準確率(P1)に達しているか否か、および、直近の過去の第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が第2基準確率(P2)に達しているか否か、に基づいて前記通知ステップによる送信頻度を制御するように構成されている。
前記フィルタ処理は、少なくとも前記第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の発生確率が前記第1基準確率(P1)より高い場合に、前記診断結果の送信を許容するように構成されている。
前記フィルタ処理は、少なくとも前記第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が前記第2基準確率(P2)より高い場合に、前記診断結果の送信を許容するように構成されている。
前記フィルタ処理は、前記第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の発生確率が前記第1基準確率(P1)以下であり、前記第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が前記第2基準確率(P2)以下の場合に、前記診断結果の送信を禁止するように構成されている。
前記第1所定回数(N1)、前記第1基準確率(P1)、前記第2所定回数(N2)、前記第2基準確率(P2)の各値が可変に設定可能に構成されている。
前記診断ステップは、診断対象期間に収集された前記マンホールポンプの運転情報から算出された診断指標に基づいて前記診断対象期間における前記マンホールポンプの状態を診断するように構成され、前記診断対象期間を含む直近の所定期間に算出された各診断指標のみから算出した統計データに基づいて正規化された診断指標を、所定の座標系にプロットし、プロットした診断指標点が前記座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて前記マンホールポンプの正常または異常を診断するものであり、前記境界閾値は、当該診断対象となるマンホール内に設置された前記マンホールポンプを含む複数のマンホール内に設置された複数のマンホールポンプから得られる正常稼働状態にける診断指標のみを教師データに用いて学習する機械学習装置により自動生成され、正常な診断指標が内部に含まれる特徴空間となる前記座標系の境界を示すものである。
前記診断指標は、前記診断対象期間における一方のマンホールポンプの運転回数と他方のマンホールポンプの運転回数との比、および、前記診断対象期間における一方のマンホールポンプの運転時間と他方のマンホールポンプの運転時間との比が含まれる。
上述した実施形態は本発明の一例を示すものであり、該記載により本発明の技術的範囲が限定されるものではなく、ポンプや水位計などを始めとする各部の具体的構成、異常判定のために設定する閾値、診断対象期間、正規化処理に採用する診断指標が蓄積された所定期間、学習処理に用いる診断指標のサンプリング期間、マンホールポンプ装置の数などは本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
10:マンホールポンプ設備
PA,PB:ポンプ
18,19:水位計
21:制御部
22:記憶部
24:通信部
30:携帯端末
40:監視装置
41:通信部
42:データ処理部
44:診断部
45:診断指標算出処理部
46:診断処理部
47:判定処理部
48:通知処理部

Claims (16)

  1. マンホール内に設置されるマンホールポンプの運転状態が正常であるか異常であるかを所定の診断間隔で自動診断して診断結果を出力する診断ステップと、前記診断ステップで異常と診断されるとその診断結果を所定の通知先に送信する通知ステップと、を備えているマンホールポンプの診断方法であって、
    前記診断ステップで異常と診断された前記診断結果を、前記通知ステップにより前記通知先に送信するか否かを判定する判定ステップをさらに備え、
    前記診断ステップは、異常であると診断すると、その異常のレベルに応じて少なくとも高低二段階のレベルの通知判定値を前記判定ステップに出力し、
    前記判定ステップは、前記通知判定値が出力される度に、直近の過去の所定回数の診断間隔で前記診断ステップから出力された前記通知判定値に基づき、前記通知ステップによる送信頻度を制御するフィルタ処理を実行し、
    前記通知ステップは、前記フィルタ処理の結果に従って前記診断結果の送信の可否を決定するマンホールポンプの診断方法。
  2. 前記フィルタ処理は、直近の過去の第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の発生確率が第1基準確率(P1)に達しているか否か、および、直近の過去の第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が第2基準確率(P2)に達しているか否か、に基づいて前記通知ステップによる送信頻度を制御する請求項1記載のマンホールポンプの診断方法。
  3. 前記フィルタ処理は、少なくとも前記第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の発生確率が前記第1基準確率(P1)より高い場合に、前記診断結果の送信を許容する請求項2記載のマンホールポンプの診断方法。
  4. 前記フィルタ処理は、少なくとも前記第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が前記第2基準確率(P2)より高い場合に、前記診断結果の送信を許容する請求項2記載のマンホールポンプの診断方法。
  5. 前記フィルタ処理は、前記第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の発生確率が前記第1基準確率(P1)以下であり、前記第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断ステップにより出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が前記第2基準確率(P2)以下の場合に、前記診断結果の送信を禁止する請求項2から4の何れかに記載のマンホールポンプの診断方法。
  6. 前記第1所定回数(N1)、前記第1基準確率(P1)、前記第2所定回数(N2)、前記第2基準確率(P2)の各値が可変に設定可能に構成されている請求項2から5の何れかに記載のマンホールポンプの診断方法。
  7. 前記診断ステップは、診断対象期間に収集された前記マンホールポンプの運転情報から算出された診断指標に基づいて前記診断対象期間における前記マンホールポンプの状態を診断するように構成され、
    前記診断対象期間を含む直近の所定期間に算出された各診断指標のみから算出した統計データに基づいて正規化された診断指標を、所定の座標系にプロットし、プロットした診断指標点が前記座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて前記マンホールポンプの正常または異常を診断するものであり、
    前記境界閾値は、当該診断対象となるマンホール内に設置された前記マンホールポンプを含む複数のマンホール内に設置された複数のマンホールポンプから得られる正常稼働状態にける診断指標のみを教師データに用いて学習する機械学習装置により自動生成され、正常な診断指標が内部に含まれる特徴空間となる前記座標系の境界を示すものである請求項1から6の何れかに記載のマンホールポンプの診断方法。
  8. 前記診断指標は、前記診断対象期間における一方のマンホールポンプの運転回数と他方のマンホールポンプの運転回数との比、および、前記診断対象期間における一方のマンホールポンプの運転時間と他方のマンホールポンプの運転時間との比が含まれる請求項7記載のマンホールポンプの診断方法。
  9. マンホール内に設置されるマンホールポンプの運転状態が正常であるか異常であるかを所定の診断間隔で自動診断して診断結果を出力する診断処理部と、前記診断処理部で異常と診断されるとその診断結果を所定の通知先に送信する通知処理部と、を備えているマンホールポンプの診断装置であって、
    前記診断処理部で異常と診断された前記診断結果を、前記通知処理部により前記通知先に送信するか否かを判定する判定処理部をさらに備え、
    前記診断処理部は、異常であると診断すると、その異常のレベルに応じて少なくとも高低二段階のレベルの通知判定値を前記判定処理部に出力し、
    前記判定処理部は、前記通知判定値が出力される度に、直近の過去の所定回数の診断間隔で前記診断処理部から出力された前記通知判定値に基づき、前記通知処理部による送信頻度を制御するフィルタ処理を実行し、
    前記通知処理部は、前記フィルタ処理の結果に従って前記診断結果の送信の可否を決定するマンホールポンプの診断装置。
  10. 前記フィルタ処理は、直近の過去の第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断処理部により出力された前記通知判定値の発生確率が第1基準確率(P1)に達しているか否か、および、直近の過去の第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断処理部により出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が第2基準確率(P2)に達しているか否か、に基づいて前記通知処理部による送信頻度を制御する請求項9記載のマンホールポンプの診断装置。
  11. 前記フィルタ処理は、少なくとも前記第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断処理部により出力された前記通知判定値の発生確率が前記第1基準確率(P1)より高い場合に、前記診断結果の送信を許容する請求項10記載のマンホールポンプの診断装置。
  12. 前記フィルタ処理は、少なくとも前記第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断処理部により出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が前記第2基準確率(P2)より高い場合に、前記診断結果の送信を許容する請求項10記載のマンホールポンプの診断方法。
  13. 前記フィルタ処理は、前記第1所定回数(N1)の診断間隔で前記診断処理部により出力された前記通知判定値の発生確率が前記第1基準確率(P1)以下であり、前記第2所定回数(N2)の診断間隔で前記診断処理部により出力された前記通知判定値の高レベルの発生確率が前記第2基準確率(P2)以下の場合に、前記診断結果の送信を禁止する請求項10から12の何れかに記載のマンホールポンプの診断装置。
  14. 前記第1所定回数(N1)、前記第1基準確率(P1)、前記第2所定回数(N2)、前記第2基準確率(P2)の各値が可変に設定可能に構成されている請求項10から13の何れかに記載のマンホールポンプの診断装置。
  15. 前記診断処理部は、診断対象期間に収集された前記マンホールポンプの運転情報から算出された診断指標に基づいて前記診断対象期間における前記マンホールポンプの状態を診断するように構成され、
    前記診断対象期間を含む直近の所定期間に算出された各診断指標のみから算出した統計データに基づいて正規化された診断指標を、所定の座標系にプロットし、プロットした診断指標点が前記座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて前記マンホールポンプの正常または異常を診断するものであり、
    前記境界閾値は、当該診断対象となるマンホール内に設置された前記マンホールポンプを含む複数のマンホール内に設置された複数のマンホールポンプから得られる正常稼働状態にける診断指標のみを教師データに用いて学習する機械学習装置により自動生成され、正常な診断指標が内部に含まれる特徴空間となる前記座標系の境界を示すものである請求項9から14の何れかに記載のマンホールポンプの診断装置。
  16. 前記診断指標は、前記診断対象期間における一方のマンホールポンプの運転回数と他方のマンホールポンプの運転回数との比、および、前記診断対象期間における一方のマンホールポンプの運転時間と他方のマンホールポンプの運転時間との比が含まれる請求項15記載のマンホールポンプの診断装置。
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