JP2024007540A - 鋼材、及び、真空浸炭機械構造用部品 - Google Patents

鋼材、及び、真空浸炭機械構造用部品 Download PDF

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JP2024007540A JP2023110239A JP2023110239A JP2024007540A JP 2024007540 A JP2024007540 A JP 2024007540A JP 2023110239 A JP2023110239 A JP 2023110239A JP 2023110239 A JP2023110239 A JP 2023110239A JP 2024007540 A JP2024007540 A JP 2024007540A
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勇太 木村
Yuta Kimura
将人 祐谷
Masahito Suketani
豊 根石
Yutaka Neishi
大裕 ▲高▼▲崎▼
Daisuke Takasaki
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Abstract

【課題】浸炭焼入れ時の熱処理ひずみを低減した鋼材を提供する。【解決手段】本開示による鋼材は、質量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.82~1.40%、Mn:0.91~2.00%、P:0.015%以下、S:0.025%以下、Cr:0.13~0.40%、Al:0.005~0.100%、N:0.0020~0.0300%、O:0.0015%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなり、式(1A)及び式(2)を満たす。66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr+2000.0×N (1A)Al/N≧2.70 (2)ここで、式(1A)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。【選択図】なし

Description

本開示は、真空浸炭処理を実施して製造される機械構造用部品である、真空浸炭機械構造用部品の素材に適した鋼材、及び、真空浸炭機械構造用部品に関する。
自動車、建設車両、鉱山機械等には、機械構造用部品が用いられる。機械構造用部品は例えば、ギヤ、シャフト、歯車等である。機械構造用部品の素材として、JIS G 4053:2016に規定されたSCr420、SCM420、SNCM420に代表される機械構造用合金鋼鋼材が利用される。
これらの鋼材を素材とした機械構造用部品は、例えば、次の製造工程で製造される。素材である鋼材に対して熱間加工(熱間鍛造)を実施して、その後、必要に応じて切削加工を実施し、所望の形状の中間品を製造する。中間品に対して、熱処理(焼入れ及び焼戻し、浸炭処理、又は、浸炭窒化処理等)を実施して、中間品の硬さ及びミクロ組織を調整する。以上の製造工程により、機械構造用部品が製造される。
近年、自動車等の電動化に伴い、機械構造用部品の軽量化及び小型化が進んでいる。そのため、機械構造用部品には、優れた曲げ疲労強度が求められる。
機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める方法として、真空浸炭処理及び真空浸炭窒化処理が知られている。真空浸炭処理及び真空浸炭窒化処理では、機械構造用部品の表層に硬化層(浸炭層又は浸炭窒化層)が形成される。この硬化層により、機械構造用部品の曲げ疲労強度が向上する。以降の説明では、真空浸炭処理が施された機械構造用部品を、真空浸炭機械構造用部品ともいう。
曲げ疲労強度を高める技術が、特開2016-191151号公報(特許文献1)、及び特開2018-028130号公報(特許文献2)に提案されている。
特許文献1に開示された浸炭部品は、質量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.16~1.40%、Mn:1.40~3.00%、P:0.030%以下、S:0.060%以下、Cr:0.01~0.29%、Al:0.010~0.300%、及び、N:0.003~0.030%を含有し、残部がFe及び不純物からなる。この浸炭部品は、表面が平坦部とエッジ部とを有する。平坦部の表面から深さ0.05mmの位置までの平坦部表層領域の炭素濃度が0.70~0.89%であり、エッジ部の表面から深さ0.05mmの位置までのエッジ部表層領域の炭素濃度が1.20%以下である。さらに、粒界酸化層深さが1μm以下であり、芯部のビッカース硬さが260以上である。これにより、特許文献1の浸炭部品は、エッジ部を含む形状を有する浸炭部品であっても、曲げ疲労強度に優れる、と特許文献1には記載されている。
特許文献2に開示された浸炭部品は、質量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.16~1.40%、Mn:1.40~3.00%、P:0.030%以下、S:0.060%以下、Cr:0.01~0.29%、Al:0.010~0.100%、及び、N:0.003~0.030%を含有し、残部がFe及び不純物からなる。この浸炭部品は、表面が平坦部とエッジ部とを有する。平坦部の表面から深さ0.05mmの位置までの平坦部表層領域の炭素濃度が0.70~0.89%であり、エッジ部の表面から深さ0.05mmの位置までのエッジ部表層領域の炭素濃度が1.20%以下である。さらに、平坦部の表面から深さ0.3mmの位置のビッカース硬さが650以上であり、粒界酸化層深さが1μm以下であり、芯部のビッカース硬さが260以上である。これにより、特許文献2の浸炭部品は、エッジ部を含む形状を有する浸炭部品であっても、曲げ疲労強度に優れる、と特許文献2には記載されている。
特開2016-191151号公報 特開2018-028130号公報
ところで、真空浸炭処理を実施した場合、真空浸炭機械構造用部品が変形しやすい。本明細書では、真空浸炭処理時に熱の影響により真空浸炭機械構造用部品に発生する変形を、熱処理ひずみという。熱処理ひずみにより、真空浸炭機械構造用部品の形状がひずむ。真空浸炭機械構造用部品の形状のひずみは、自動車等の運転時の騒音及び振動を引き起こす。
内燃機関を動力源とする従来の自動車等の場合、内燃機関が発する音の方が、ギヤ、歯車、シャフト等の機械構造用部品が発する音よりも大きかった。そのため、機械構造用部品の音は注目されていなかった。しかしながら、近年の自動車等の電動化により、動力源から発する音は大きく低減され、その結果、ギヤ等の機械構造用部品の発する音が目立つようになってきている。そこで、最近では、真空浸炭処理を実施した場合に、熱処理ひずみを抑制できる鋼材が求められている。
特許文献1及び特許文献2では、疲労強度を向上させる技術については提案するものの、熱処理ひずみの抑制に関する技術は何ら開示されていない。
本開示の目的は、素材として用いられ真空浸炭処理を実施して製造された真空浸炭機械構造用部品において優れた曲げ疲労強度が得られ、真空浸炭機械構造用部品の製造工程中の真空浸炭処理において熱処理ひずみが抑制される鋼材、及び、真空浸炭機械構造用部品を提供することである。
本開示の鋼材は、質量%で、
C:0.10~0.30%、
Si:0.82~1.40%、
Mn:0.91~2.00%、
P:0.015%以下、
S:0.025%以下、
Cr:0.13~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0020~0.0300%、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1A)及び式(2)を満たす。
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr+2000.0×N (1A)
Al/N≧2.70 (2)
ここで、式(1A)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
本開示の鋼材は、質量%で、
C:0.10~0.30%、
Si:0.82~1.40%、
Mn:0.91~2.00%、
P:0.015%以下、
S:0.025%以下、
Cr:0.13~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0020~0.0300%、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、
さらに、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1B)及び式(2)を満たす。
[第1群]
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Mo:0.35%以下、
B:0.0050%以下、及び、
Co:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
V:0.50%以下、
Nb:0.200%以下、
Ti:0.200%以下、及び、
W:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
Ca:0.0100%以下、及び、
Mg:0.015%以下、からなる群から選択される1種以上
[第4群]
Te:0.080%以下、
Bi:0.500%以下、
Pb:0.09%以下、
Sn:0.15%以下、及び、
Sb:0.15%以下、からなる群から選択される1種以上
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr-0.5×Mo+2000.0×[有効N] (1B)
Al/N≧2.70 (2)
ここで、式(1B)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入され、元素が含有されていない場合、対応する元素記号には「0」が代入される。
さらに、式(1B)中の[有効N]は以下のとおり定義される。
Fn=N-Ti/3.40-B/0.77>0である場合:
[有効N]=N-Ti/3.40-B/0.77
Fn≦0である場合:
[有効N]=0
本開示の真空機械構造用部品は、
硬化層と、
前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.10~0.30%、
Si:0.82~1.40%、
Mn:0.91~2.00%、
P:0.015%以下、
S:0.025%以下、
Cr:0.13~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0020~0.0300%、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1A)及び式(2)を満たす。
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr+2000.0×N (1A)
Al/N≧2.70 (2)
ここで、式(1A)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
本開示の真空浸炭機械構造用部品は、
硬化層と、
前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.10~0.30%、
Si:0.82~1.40%、
Mn:0.91~2.00%、
P:0.015%以下、
S:0.025%以下、
Cr:0.13~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0020~0.0300%、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、
さらに、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1B)及び式(2)を満たす。
[第1群]
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Mo:0.35%以下、
B:0.0050%以下、及び、
Co:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
V:0.50%以下、
Nb:0.200%以下、
Ti:0.200%以下、及び、
W:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
Ca:0.0100%以下、及び、
Mg:0.015%以下、からなる群から選択される1種以上
[第4群]
Te:0.080%以下、
Bi:0.500%以下、
Pb:0.09%以下、
Sn:0.15%以下、及び、
Sb:0.15%以下、からなる群から選択される1種以上
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr-0.5×Mo+2000.0×[有効N] (1B)
Al/N≧2.70 (2)
ここで、式(1B)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入され、元素が含有されていない場合、対応する元素記号には「0」が代入される。
さらに、式(1B)中の[有効N]は以下のとおり定義される。
Fn=N-Ti/3.40-B/0.77>0である場合:
[有効N]=N-Ti/3.40-B/0.77
Fn≦0である場合:
[有効N]=0
本開示の鋼材では、素材として用いられ真空浸炭処理を実施して製造された真空浸炭機械構造用部品において優れた曲げ疲労強度が得られ、真空浸炭機械構造用部品の製造工程中の真空浸炭処理において熱処理ひずみが抑制される。本開示の真空浸炭機械構造用部品では、優れた曲げ疲労強度が得られ、製造工程中の真空浸炭処理において熱処理ひずみが抑制される。
図1は、実施例の曲げ疲労強度評価のための小野式回転曲げ疲労試験片の側面図である。 図2は、熱処理ひずみ評価試験に用いる熱処理ひずみ評価試験片の斜視図である。 図3は、図2に示す熱処理ひずみ評価試験片の長手方向に垂直な面(測定面)を示す図である。 図4は、図3中の測定点に基づいて最小二乗法により円を近似した模式図である。 図5は、熱処理ひずみ評価試験の3箇所の測定面で得られた中心位置に基づいて、曲がり量を求める方法を説明するための模式図である。
本発明者らは、素材として用いられ真空浸炭処理を実施して製造された真空浸炭機械構造用部品において優れた曲げ疲労強度が得られる鋼材について、初めに、化学組成の観点から検討を行った。その結果、質量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.82~1.40%、Mn:0.91~2.00%、P:0.015%以下、S:0.025%以下、Cr:0.13~0.40%、Al:0.005~0.100%、N:0.0020~0.0300%、及び、O:0.0015%以下、を含有し、任意元素を含有する場合はさらに、Feの一部に代えて、上述の第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼材であれば、素材として用いられ真空浸炭処理を実施して製造された真空浸炭機械構造用部品において優れた曲げ疲労強度が得られると考えた。
そこで、上述の化学組成を有する鋼材において、真空浸炭機械構造用部品の製造工程中の真空浸炭処理での熱処理ひずみを抑制できる技術について、本発明者らはさらに検討を行った。
初めに、本発明者らは、鋼材のMs点を低くすることにより、熱処理ひずみを低減することを試みた。しかしながら、上述の化学組成を有する鋼材において、Ms点が低くなるように各元素含有量を調整しても、熱処理ひずみが十分に抑制できない場合が生じた。
そこで、本発明者らは、Ms点の低下による熱処理ひずみの抑制ではなく、他の観点から熱処理ひずみを抑制することを試みた。
初めに、本発明者らは、真空浸炭処理で生じる熱処理ひずみの主たる要因について検討を行った。検討の結果、真空浸炭処理で生じる熱処理ひずみを構成する種々のひずみのうち、主たる要因は変態塑性ひずみであることが判明した。そこで、本発明者らは、変態塑性ひずみを低減できれば、熱処理ひずみを抑制できると考えた。
変態塑性ひずみεは、変態塑性係数をKとし、真空浸炭処理での変態により負荷される応力をσとすると、次の式で示される。なお、下記式は完全変態後(つまり、相変態が100%進んだ後)の変態塑性ひずみεを示す。
ε=Kσ
上記式を参照して、変態塑性係数Kを低くすることができれば、変態塑性ひずみεが低減され、その結果、熱処理ひずみも抑制される。そこで、本発明者らは、変態塑性係数Kを低減する手段を、化学組成の観点から検討した。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
上述の化学組成において、C、Si、Mn及びN(有効N)は、変態塑性係数を低下させる作用を有する。一方、Cr及びMoは、変態塑性係数を高める作用を有する。したがって、上述の化学組成の範囲内において、C、Si、Mn及びN含有量と、Cr及びMo含有量とを適切に調整すれば、変態塑性係数を低くすることができる。
以上の知見に基づいて、本発明者らはC、Si、Mn、N、Cr及びMo含有量と、変態塑性係数と、熱処理ひずみとの関係について検討を行った。その結果、化学組成が必須元素からなる場合、式(1A)を満たし、化学組成が必須元素及び任意元素を含有する場合、式(1B)を満たせば、真空浸炭処理での熱処理ひずみを低減できると考えた。
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr+2000.0×N (1A)
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr-0.5×Mo+2000.0×[有効N] (1B)
ここで、式(1A)、式(1B)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入され、元素が含有されていない場合、対応する元素記号には「0」が代入される。
さらに、式(1B)中の[有効N]は以下のとおり定義される。
Fn=N-Ti/3.40-B/0.77>0である場合:
[有効N]=N-Ti/3.40-B/0.77
Fn≦0である場合:
[有効N]=0
しかしながら、上述の化学組成を満たし、式(1A)又は式(1B)を満たす鋼材であっても、真空浸炭処理での熱処理ひずみを十分に抑制できない場合が生じた。
そこで、本発明者らはさらに検討を行った。その結果、上記化学組成を有し、かつ、式(1A)及び式(1B)を満たす鋼材においてさらに、次の式(2)を満たせば、素材として用いられ真空浸炭処理を実施して製造された真空浸炭機械構造用部品において優れた曲げ疲労強度が得られ、真空浸炭機械構造用部品の製造工程中の真空浸炭処理において熱処理ひずみが抑制されることを、本発明者らは見出した。
Al/N≧2.70 (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
本実施形態の鋼材、及び、真空浸炭機械構造用部品は以上の技術思想により完成したものであり、次の構成を有する。
[1]
質量%で、
C:0.10~0.30%、
Si:0.82~1.40%、
Mn:0.91~2.00%、
P:0.015%以下、
S:0.025%以下、
Cr:0.13~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0020~0.0300%、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1A)及び式(2)を満たす、
鋼材。
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr+2000.0×N (1A)
Al/N≧2.70 (2)
ここで、式(1A)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
[2]
質量%で、
C:0.10~0.30%、
Si:0.82~1.40%、
Mn:0.91~2.00%、
P:0.015%以下、
S:0.025%以下、
Cr:0.13~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0020~0.0300%、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、
さらに、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1B)及び式(2)を満たす、
鋼材。
[第1群]
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Mo:0.35%以下、
B:0.0050%以下、及び、
Co:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
V:0.50%以下、
Nb:0.200%以下、
Ti:0.200%以下、及び、
W:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
Ca:0.0100%以下、及び、
Mg:0.015%以下、からなる群から選択される1種以上
[第4群]
Te:0.080%以下、
Bi:0.500%以下、
Pb:0.09%以下、
Sn:0.15%以下、及び、
Sb:0.15%以下、からなる群から選択される1種以上
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr-0.5×Mo+2000.0×[有効N] (1B)
Al/N≧2.70 (2)
ここで、式(1B)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入され、元素が含有されていない場合、対応する元素記号には「0」が代入される。
さらに、式(1B)中の[有効N]は以下のとおり定義される。
Fn=N-Ti/3.40-B/0.77>0である場合:
[有効N]=N-Ti/3.40-B/0.77
Fn≦0である場合:
[有効N]=0
[3]
[2]に記載の鋼材であって、
前記第1群を含有する、
鋼材。
[4]
[2]又は[3]に記載の鋼材であって、
前記第2群を含有する、
鋼材。
[5]
[2]~[4]のいずれか1項に記載の鋼材であって、
前記第3群を含有する、
鋼材。
[6]
[2]~[5]のいずれか1項に記載の鋼材であって、
前記第4群を含有する、
鋼材。
[7]
硬化層と、
前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.10~0.30%、
Si:0.82~1.40%、
Mn:0.91~2.00%、
P:0.015%以下、
S:0.025%以下、
Cr:0.13~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0020~0.0300%、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1A)及び式(2)を満たす、
真空浸炭機械構造用部品。
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr+2000.0×N (1A)
Al/N≧2.70 (2)
ここで、式(1A)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
[8]
硬化層と、
前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.10~0.30%、
Si:0.82~1.40%、
Mn:0.91~2.00%、
P:0.015%以下、
S:0.025%以下、
Cr:0.13~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0020~0.0300%、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、
さらに、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1B)及び式(2)を満たす、
真空浸炭機械構造用部品。
[第1群]
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Mo:0.35%以下、
B:0.0050%以下、及び、
Co:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
V:0.50%以下、
Nb:0.200%以下、
Ti:0.200%以下、及び、
W:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
Ca:0.0100%以下、及び、
Mg:0.015%以下、からなる群から選択される1種以上
[第4群]
Te:0.080%以下、
Bi:0.500%以下、
Pb:0.09%以下、
Sn:0.15%以下、及び、
Sb:0.15%以下、からなる群から選択される1種以上
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr-0.5×Mo+2000.0×[有効N] (1B)
Al/N≧2.70 (2)
ここで、式(1B)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入され、元素が含有されていない場合、対応する元素記号には「0」が代入される。
さらに、式(1B)中の[有効N]は以下のとおり定義される。
Fn=N-Ti/3.40-B/0.77>0である場合:
[有効N]=N-Ti/3.40-B/0.77
Fn≦0である場合:
[有効N]=0
[9]
[8]に記載の真空浸炭機械構造用部品であって、
前記第1群を含有する、
真空浸炭機械構造用部品。
[10]
[8]又は[9]に記載の真空浸炭機械構造用部品であって、
前記第2群を含有する、
真空浸炭機械構造用部品。
[11]
[8]~[10]のいずれか1項に記載の真空浸炭機械構造用部品であって、
前記第3群を含有する、
真空浸炭機械構造用部品。
[12]
[8]~[11]のいずれか1項に記載の真空浸炭機械構造用部品であって、
前記第4群を含有する、
真空浸炭機械構造用部品。
[13]
[7]~[12]のいずれか1項に記載の真空浸炭機械構造用部品であって、
前記真空浸炭機械構造用部品の表面と前記表面から0.1mm深さ位置との間の領域での質量%での平均C濃度を硬化層平均C濃度[C]と定義し、
前記表面から1.9mm深さ位置と前記表面から2.0mm深さ位置との間の領域での質量%での平均C濃度を芯部平均C濃度[C]と定義したとき、
前記硬化層平均C濃度[C]と前記芯部平均C濃度[C]とが式(3)を満たす、
真空浸炭機械構造用部品。
[C]-[C]≦0.55 (3)
以下、本実施形態による鋼材、及び、その鋼材を素材として製造される真空浸炭機械構造用部品について詳述する。なお、元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[本実施形態の鋼材の特徴]
本実施形態の鋼材は、次の特徴を含む。
(特徴1)
化学組成が、本実施形態に記載の範囲を満たす。
(特徴2)
化学組成が必須元素からなる場合、式(1A)を満たし、化学組成が必須元素及び任意元素を含有する場合、式(1B)を満たす。
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr+2000.0×N (1A)
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr-0.5×Mo+2000.0×[有効N] (1B)
ここで、式(1A)、式(1B)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入され、元素が含有されていない場合、対応する元素記号には「0」が代入される。
さらに、式(1B)中の[有効N]は以下のとおり定義される。
Fn=N-Ti/3.40-B/0.77>0である場合:
[有効N]=N-Ti/3.40-B/0.77
Fn≦0である場合:
[有効N]=0
(特徴3)
化学組成が式(2)を満たす。
Al/N≧2.70 (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
以下、特徴1~特徴3について説明する。
[(特徴1)化学組成について]
本実施形態の鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.10~0.30%
炭素(C)は、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材を素材として製造された真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。C含有量が0.10%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、C含有量が0.30%を超えれば、粗大な析出物が生成する場合がある。粗大な析出物は、真空浸炭機械構造用部品の使用時において、割れの起点となりやすい。そのため、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度が低下する。
したがって、C含有量は0.10~0.30%である。
C含有量の好ましい下限は0.13%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.18%である。
C含有量の好ましい上限は0.28%であり、より好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.23%である。
Si:0.82~1.40%
シリコン(Si)は、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材を素材として製造された真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。Siはさらに、鋼材を素材として製造された真空浸炭機械構造用部品の硬化層の焼戻し軟化抵抗を高める。Si含有量が0.82%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Si含有量が1.40%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなり、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Si含有量は0.82~1.40%である。
Si含有量の好ましい下限は0.84%であり、さらに好ましくは0.86%であり、さらに好ましくは0.88%である。
Si含有量の好ましい上限は1.39%であり、さらに好ましくは1.38%であり、さらに好ましくは1.33%である。
Mn:0.91~2.00%
マンガン(Mn)は、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材を素材として製造された真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。Mnはさらに、熱処理ひずみを抑制する。Mn含有量が0.91%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mn含有量が2.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなり、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Mn含有量は0.91~2.00%である。
Mn含有量の好ましい下限は0.92%であり、さらに好ましくは0.93%であり、さらに好ましくは0.95%であり、さらに好ましくは0.98%である。
Mn含有量の好ましい上限は1.98%であり、さらに好ましくは1.95%であり、さらに好ましくは1.85%であり、さらに好ましくは1.80%であり、さらに好ましくは1.75%である。
P:0.015%以下
りん(P)は不純物である。P含有量が0.015%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Pが粒界に過剰に偏析し、粒界強度が低下する。その結果、鋼材を素材とした真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度が低下する。
したがって、P含有量は0.015%以下である。
P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過度の低減は、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
P含有量の好ましい上限は0.012%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.008%である。
S:0.025%以下
硫黄(S)は不純物である。S含有量が0.025%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な硫化物系介在物が生成する。そのため、鋼材を素材とした真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度が低下する。
したがって、S含有量は0.025%以下である。
S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過度の低減は、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
S含有量の好ましい上限は0.020%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.005%である。
Cr:0.13~0.40%
クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼材を素材として製造された真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。Cr含有量が0.13%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Crは変態塑性係数を高める。Cr含有量が0.40%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の変態塑性係数が過剰に高まり、真空浸炭処理での鋼材の熱処理ひずみが増大する。
したがって、Cr含有量は0.13~0.40%である。
Cr含有量の好ましい下限は0.15%であり、さらに好ましくは0.17%であり、さらに好ましくは0.19%である。
Cr含有量の好ましい上限は0.39%であり、さらに好ましくは0.38%であり、さらに好ましくは0.37%であり、さらに好ましくは0.36%であり、さらに好ましくは0.35%であり、さらに好ましくは0.34%であり、さらに好ましくは0.33%である。
Al:0.005~0.100%
アルミニウム(Al)は、鋼材中のNと結合してAlNを形成し、ピン止め効果により、真空浸炭処理の加熱時における結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、鋼材を素材とした真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度が高まる。Al含有量が0.005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。 一方、Al含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、クラスター化した粗大な酸化物が生成する。クラスター化した粗大な酸化物は、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を低下する。
したがって、Al含有量は0.005~0.100%である。
Al含有量の好ましい下限は0.008%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Al含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.060%である。
N:0.0020~0.0300%
窒素(N)は、鋼材の変態塑性係数を低下させる。そのため、真空浸炭処理での鋼材の熱処理ひずみが低下する。N含有量が0.0020%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、N含有量が0.0300%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、N含有量は0.0020~0.0300%である。
N含有量の好ましい下限は0.0021%であり、さらに好ましくは0.0022%である。
N含有量の好ましい上限は0.0280%であり、さらに好ましくは0.0250%であり、さらに好ましくは0.0200%である。
O:0.0015%以下
酸素(O)は不純物である。Oは鋼材中の他の元素と結合して粗大な酸化物系介在物を形成する。粗大な酸化物系介在物は、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を低下する。O含有量が0.0015%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度が顕著に低下する。
したがって、O含有量は0.0015%以下である。
O含有量はなるべく低いほうが好ましい。しかしながら、O含有量の過度の低減は、製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、O含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
Oの含有量の好ましい上限は0.0013%以下であり、さらに好ましくは0.0011%であり、さらに好ましくは0.0009%である。
本実施形態の鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、意図せずに含有されるものであり、本実施形態の鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素(Optional Elements)について]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
[第1群]
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Mo:0.35%以下、
B:0.0050%以下、及び、
Co:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
V:0.50%以下、
Nb:0.200%以下、
Ti:0.200%以下、及び、
W:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
Ca:0.0100%以下、及び、
Mg:0.015%以下、からなる群から選択される1種以上
[第4群]
Te:0.080%以下、
Bi:0.500%以下、
Pb:0.09%以下、
Sn:0.15%以下、及び、
Sb:0.15%以下、からなる群から選択される1種以上
以下、第1群~第4群の各元素について説明する。
[第1群:Cu、Ni、Mo、B、及び、Co]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、第1群を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の焼入れ性を高める。以下、第1群の各元素について説明する。
Cu:0.50%以下
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Cu含有量が0%超である場合、Cuは鋼材の焼入れ性を高め、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Cu含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなり、鋼材の被削性が低下する。
したがって、Cu含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下である。
Cu含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Cu含有量の好ましい上限は0.20%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Ni:0.50%以下
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Ni含有量が0%超である場合、Niは鋼材の焼入れ性を高め、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ni含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなり、鋼材の被削性が低下する。
したがって、Ni含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下である。
Ni含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Ni含有量の好ましい上限は0.20%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Mo:0.35%以下
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Mo含有量が0%超である場合、Moは鋼材の焼入れ性を高め、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。Moが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mo含有量が0.35%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなり、鋼材の被削性が低下する。
したがって、Mo含有量は0~0.35%であり、含有される場合、0.35%以下である。
Mo含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Mo含有量の好ましい上限は0.32%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.27%である。
B:0.0050%以下
ボロン(B)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、B含有量が0%超である場合、Bは鋼材の焼入れ性を高め、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなる。そのため、鋼材の被削性が低下する。 したがって、B含有量は0~0.0050%であり、含有される場合、0.0050%以下である。
B含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0008%である。
B含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
Co:0.50%以下
コバルト(Co)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Co含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Coが0%超である場合、Coは鋼材の焼入れ性を高め、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。Coが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Co含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなる。そのため、鋼材の被削性が低下する。
したがって、Co含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下である。
Co含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.07%である。
Co含有量の好ましい上限は0.49%であり、さらに好ましくは0.48%であり、さらに好ましくは0.47%であり、さらに好ましくは0.45%である。
[第2群:V、Nb、Ti、及び、W]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、第2群を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、析出物を形成して、鋼材を素材とした真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。以下、第2群の各元素について説明する。
V:0.50%以下
バナジウム(V)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、V含有量が0%超である場合、Vは、V炭化物、V炭窒化物等のV析出物を形成する。V析出物は、ピン止め効果により、真空浸炭処理での鋼材中の結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、V含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなる。そのため、鋼材の被削性が低下する。
したがって、V含有量は、0~0.50%であり、含有される場合、V含有量は0.50%以下である。
V含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.07%である。
V含有量の好ましい上限は0.47%であり、さらに好ましくは0.45%であり、さらに好ましくは0.42%であり、さらに好ましくは0.38%である。
Nb:0.200%以下
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Nb含有量が0%超である場合、Nbは、Nb炭化物、Nb炭窒化物等のNb析出物を形成する。Nb析出物は、ピン止め効果により、真空浸炭処理での鋼材中の結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Nb含有量が0.200%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Nb析出物が粗大化する。この場合、真空浸炭処理での結晶粒の粗大化を十分に抑制できない。そのため、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度が低下する。
したがって、Nb含有量は0~0.200%であり、含有される場合、0.200%以下である。
Nb含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.050%である。
Nb含有量の好ましい上限は0.190%であり、さらに好ましくは0.175%であり、さらに好ましくは0.150%であり、さらに好ましくは0.125%である。
Ti:0.200%以下
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Ti含有量が0%超である場合、Tiは、Ti炭化物、Ti炭窒化物等のTi析出物を形成する。Ti析出物は、ピン止め効果により、真空浸炭処理での鋼材中の結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ti含有量が0.200%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Ti析出物が粗大化する。この場合、真空浸炭処理での結晶粒の粗大化を十分に抑制できない。そのため、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度が低下する。
したがって、Ti含有量は0~0.200%であり、含有される場合、0.200%以下である。
Ti含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.050%である。
Ti含有量の好ましい上限は0.190%であり、さらに好ましくは0.175%であり、さらに好ましくは0.150%であり、さらに好ましくは0.125%である。
W:0.50%以下
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、W含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、W含有量が0%超である場合、Wは、W炭化物、W炭窒化物等のW析出物を形成する。W析出物は、ピン止め効果により、真空浸炭処理での鋼材中の結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、W含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、W析出物が粗大化する。この場合、真空浸炭処理での結晶粒の粗大化を十分に抑制できない。そのため、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度が低下する。
したがって、W含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下である。
W含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。
W含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
[第3群:Ca及びMgについて]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、第3群を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、硫化物を微細化及び球状化して、鋼材を素材とした真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度を高める。以下、第3群の各元素について説明する。
Ca:0.0100%以下
カルシウム(Ca)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Ca含有量が0%超である場合、Caは鋼材中の硫化物を微細化する。さらに、Caは鋼材中の硫化物の球状化を促進する。そのため、鋼材を素材とした真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度が高まる。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ca含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中に粗大なCa酸化物の形成が促進される。この場合、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度が低下する。
したがって、Ca含有量は0~0.0100%であり、含有される場合、0.0100%以下である。
Ca含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0015%である。
Ca含有量の好ましい上限は0.0085%であり、さらに好ましくは0.0070%であり、さらに好ましくは0.0050%である。
Mg:0.015%以下
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Mg含有量が0%超である場合、Mgは鋼材中の硫化物を微細化する。さらに、Mgは鋼材中の硫化物の球状化を促進する。そのため、鋼材を素材とした真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度が高まる。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mg含有量が0.015%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中に粗大なMg酸化物の形成が促進される。この場合、真空浸炭機械構造用部品の曲げ疲労強度が低下する。
したがって、Mg含有量は0~0.015%であり、含有される場合、0.015%以である。
Mg含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。
Mg含有量の好ましい上限は0.013%であり、さらに好ましくは0.011%であり、さらに好ましくは0.008%である。
[第4群:Te、Bi、Pb、Sn、及び、Sb]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、第4群を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の被削性を高める。以下、第4群の各元素について説明する。
Te:0.080%以下
テルル(Te)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Te含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Te含有量が0%超である場合、Teは鋼材の被削性を高める。Teが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Te含有量が0.080%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Te含有量は0~0.080%であり、含有される場合、0.080%以下である。
Te含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Te含有量の好ましい上限は0.075%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.065%であり、さらに好ましくは0.050%である。
Bi:0.500%以下
ビスマス(Bi)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Bi含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまりBi含有量が0%超である場合、Biは、鋼材の被削性を高める。Biが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Bi含有量が0.500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Bi含有量は0~0.500%であり、含有される場合、0.500%以下である。
Bi含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Bi含有量の好ましい上限は0.470%であり、さらに好ましくは0.440%であり、さらに好ましくは0.400%であり、さらに好ましくは0.370%であり、さらに好ましくは0.340%であり、さらに好ましくは0.300%である。
Pb:0.09%以下
鉛(Pb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Pb含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Pb含有量が0%超である場合、Pbは、鋼材の被削性を高める。Pbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Pb含有量が0.09%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Pb含有量は0~0.09%であり、含有される場合、Pb含有量は0.09%以下である。
Pb含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Pb含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.07%であり、さらに好ましくは0.06%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Sn:0.15%以下
スズ(Sn)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Sn含有量が0%超である場合、Snは、鋼材の被削性を高める。Snが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Sn含有量が0.15%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Sn含有量は0~0.15%であり、含有される場合、Sn含有量は0.15%以下である。
Sn含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%である。
Sn含有量の好ましい上限は0.13%であり、さらに好ましくは0.11%であり、さらに好ましくは0.09%である。
Sb:0.15%以下
アンチモン(Sb)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sb含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Sb含有量が0%超である場合、Sbは、鋼材の被削性を高める。Sbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Sb含有量が0.15%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Sb含有量は0~0.15%であり、含有される場合、Sb含有量は0.15%以下である。
Sb含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Sb含有量の好ましい上限は0.13%であり、さらに好ましくは0.11%であり、さらに好ましくは0.09%である。
[(特徴2)式(1A)及び式(1B)]について
本実施形態の鋼材ではさらに、化学組成が必須元素からなる場合、式(1A)を満たし、化学組成が必須元素及び任意元素を含有する場合、式(1B)を満たす。
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr+2000.0×N (1A)
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr-0.5×Mo+2000.0×[有効N] (1B)
ここで、式(1A)、式(1B)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入され、元素が含有されていない場合、対応する元素記号には「0」が代入される。
さらに、式(1B)中の[有効N]は以下のとおり定義される。
Fn=N-Ti/3.40-B/0.77>0である場合:
[有効N]=N-Ti/3.40-B/0.77
Fn≦0である場合:
[有効N]=0
以下、式(1A)及び式(1B)について説明する。
F1A及びF1Bを次のとおり定義する。
F1A=90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr+2000.0×N
F1B=90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr-0.5×Mo+2000.0×[有効N]
F1A及びF1Bは、変態塑性係数の指標である。変態塑性係数が下がれば、熱処理ひずみが低下する。化学組成中の上述の元素のうち、C、Si、Mn、Cr、N及びMoは、変態塑性係数に影響を与える。具体的には、C、Si、Mn及びNは変態塑性係数を下げる作用を有する。一方、Cr及びMoは、変態塑性係数を上げる作用を有する。F1A及びF1Bでは、各元素の変態塑性係数への影響の度合いに応じて、各元素の係数が異なっている。
なお、F1A中のN、及び、F1B中の[有効N]は、変態塑性係数を低下させるのに有効なN量を意味する。鋼材の化学組成が必須元素からなり、任意元素を含まない場合、鋼材中のNは実質的に変態塑性係数の低下に寄与する。そのため、F1A中の項としてNが規定されている。
一方、鋼材の化学組成が任意元素としてTi及び/又はBを含有する場合、Ti含有量及びB含有量に応じて、Nの変態塑性係数への影響力が変動する。具体的には、Ti含有量及びB含有量が高いほど、Nの変態塑性係数への影響量が低下する。そこで、Ti及び/又はBを含有する場合、変態塑性係数を低下させる有効なN含有量を、[有効N]と定義する。Fn>0である場合、[有効N]=Fnとする。一方、Fn≦0である場合、変態塑性係数の低下に寄与するNが存在しないため、[有効N]に0を代入する。
F1A及びF1Bが66.0以下であれば、鋼材において十分に低い変態塑性係数が得られない。そのため、真空浸炭処理での鋼材の熱処理ひずみが増大する。F1A及びF1Bが66.0よりも高ければ、鋼材が特徴1及び特徴3を満たすことを前提として、鋼材において十分に低い変態塑性係数が得られる。そのため、真空浸炭処理での鋼材の熱処理ひずみを十分に抑制できる。
なお、F1A及びF1Bの上限は特に限定されない。しかしながら、鋼材の化学組成が特徴1を満たす場合、F1A及びF1Bの上限は例えば159.7である。
F1A及びF1Bの好ましい下限は67.0であり、さらに好ましくは68.0であり、さらに好ましくは69.0であり、さらに好ましくは70.0である。
F1A及びF1Bの好ましい上限は152.0であり、さらに好ましくは150.0であり、さらに好ましくは147.0であり、さらに好ましくは145.0である。
[(特徴3)式(2)について]
本実施形態の鋼材ではさらに、化学組成が式(2)を満たす。
Al/N≧2.70 (2)
ここで、式(2)中の元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
F2=Al/Nと定義する。F2は、鋼材を素材とした真空浸炭機械構造用部品の製造工程中の真空浸炭処理の加熱時において、鋼材中の結晶粒の粗大化抑制の指標である。鋼材が特徴1及び特徴2を満たしていても、F2が2.70未満であれば、鋼材中において十分な量のAl窒化物が生成しない。この場合、真空浸炭処理の加熱時において、Al窒化物のピン止め効果が十分に発揮されず、結晶粒が粗大化する。結晶粒が粗大化すると、変態塑性ひずみが大きくなり、その結果、熱処理ひずみを十分に抑制できない。
F2が2.70以上であれば、鋼材中において十分なAl窒化物が生成する。そのため、真空浸炭処理の加熱時において、Al窒化物のピン止め効果が発揮され、結晶粒の粗大化が十分に抑制される。そのため、真空浸炭機械構造用部品において、熱処理ひずみが十分に抑制される。
F2の好ましい下限は2.75であり、さらに好ましくは2.80であり、さらに好ましくは2.85である。
なお、F2の上限は特に限定されない。F2の上限は例えば、50.00である。
[本実施形態の鋼材の効果]
本実施形態の鋼材は、特徴1~特徴3を満たす。そのため、本実施形態の鋼材は、素材として用いられ真空浸炭処理を実施して製造された真空浸炭機械構造用部品において優れた曲げ疲労強度が得られ、真空浸炭機械構造用部品の製造工程中の真空浸炭処理において熱処理ひずみが抑制される。
[鋼材のミクロ組織について]
本実施形態による鋼材のミクロ組織は特に限定されない。熱処理ひずみが生じるのは、相変態が生じるときである。例えば、鋼材を素材とした真空浸炭機械構造用部品の製造工程中の浸炭処理での加熱時に、素材である鋼材はAc3点以上に加熱される。そして、浸炭焼入れ時において、鋼材の表層が、オーステナイトからマルテンサイトに相変態する。このとき、熱処理ひずみが生じやすくなる。以上のとおり、熱処理ひずみは、素材となる鋼材自体のミクロ組織によらず、特徴1~特徴3を満たせば、熱処理ひずみは鋼材のミクロ組織によらずに十分抑制される。したがって、本実施形態の鋼材のミクロ組織は特に限定されない。
[本実施形態の鋼材の形状]
本実施形態の鋼材は、棒鋼又は線材である。棒鋼又は線材は、棒状に延びる鋼材であり、例えば丸鋼である。鋼材はコイル状に巻かれたものであってもよいし、所定の長さに切断されたものであってもよい。
[本実施形態の鋼材の用途]
本実施形態の鋼材は、自動車や産業機械等に使用される機械構造用部品の素材として使用可能である。特に、本実施形態の鋼材は、真空浸炭処理を実施して製造される真空浸炭機械構造用部品の素材として適用可能である。真空浸炭機械構造用部品は特に限定されないが、例えば、真空浸炭ギヤ、真空浸炭歯車、真空浸炭シャフト等である。なお、本実施形態の鋼材は、機械構造用部品以外の用途にも適用可能である。
[鋼材の製造方法]
本実施形態の鋼材の製造方法の一例を説明する。以降に説明する鋼材の製造方法は、本実施形態の鋼材を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有する鋼材は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の鋼材の製造方法の好ましい一例である。本実施形態では、鋼材の一例として、棒鋼の製造方法を説明する。
本実施形態の鋼材の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程1)素材準備工程
(工程2)熱間加工工程
以下、各工程について説明する。
[(工程1)素材準備工程]
素材準備工程では、本実施形態の鋼材の素材を準備する。具体的には、化学組成が特徴1~特徴3を満たす溶鋼を製造する。精錬方法は特に限定されず、周知の方法を用いればよい。例えば、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉での精錬(一次精錬)を実施する。転炉から出鋼した溶鋼に対して、周知の二次精錬を実施する。二次精錬において、合金元素を溶鋼に添加して成分を調整し、特徴1~特徴3を満たす化学組成を有する溶鋼を製造する。
上述の精錬方法により製造された溶鋼を用いて、周知の鋳造法により素材を製造する。例えば、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。また、溶鋼を用いて連続鋳造法によりブルームを製造してもよい。以上の方法により、素材(インゴット又はブルーム)を製造する。
[(工程2)熱間加工工程]
製造された素材を熱間加工して、鋼材を製造する。熱間加工工程では通常、1又は複数回の熱間加工を実施する。複数回熱間加工を実施する場合、最初の熱間加工は例えば、分塊圧延又は熱間鍛造を用いた圧延であり、次回以降の熱間加工は、連続圧延機を用いた圧延であってもよい。連続圧延機は、一列に配列された複数の圧延スタンドを備える。熱間加工後の鋼材を室温まで冷却する。分塊圧延及び連続圧延機を用いた圧延により、ビレットを製造し、その後、そのビレットを再加熱して、連続圧延機を用いた仕上げ圧延をさらに実施して、所望のサイズの鋼材を製造してもよい。また、熱間鍛造のみにより素材から鋼材を製造してもよい。熱間加工時の素材の加熱温度は特に限定されないが、例えば、1000~1300℃である。
[真空浸炭機械構造用部品について]
本明細書において真空浸炭機械構造用部品とは、真空浸炭処理がされた機械構造用部品を意味する。上述のとおり、真空浸炭機械構造用部品は例えば、真空浸炭ギヤ、真空浸炭歯車、真空浸炭シャフト等である。
本実施形態の真空浸炭機械構造用部品は、硬化層と、硬化層よりも内部の芯部とを備える。
硬化層は、真空浸炭機械構造用部品の表層に形成されており、真空浸炭処理によりCが侵入して硬化した層である。硬化層は、浸炭層ともいう。硬化層は、真空浸炭機械構造用部品の表面から所定の深さまで形成されている。
芯部は、硬化層よりも内部の部分であって、真空浸炭処理によるCの侵入及びCの拡散の影響を受けていない領域である。芯部の硬さは、硬化層の硬さよりも低い。硬化層と芯部とは周知のミクロ組織観察により容易に区別可能であることは、当業者において周知の技術事項である。
本実施形態の真空浸炭機械構造用部品は、次の特徴を含む。
(特徴4)
芯部の化学組成が、質量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.82~1.40%、Mn:0.91~2.00%、P:0.015%以下、S:0.025%以下、Cr:0.13~0.40%、Al:0.005~0.100%、N:0.0020~0.0300%、及び、O:0.0015%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなる。芯部の化学組成が任意元素を含有する場合、芯部の化学組成が、質量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.82~1.40%、Mn:0.91~2.00%、P:0.015%以下、S:0.025%以下、Cr:0.13~0.40%、Al:0.005~0.100%、N:0.0020~0.0300%、及び、O:0.0015%以下、を含有し、さらに上述の第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなる。
(特徴5)
芯部の化学組成が必須元素からなる場合、式(1A)を満たし、芯部の化学組成が必須元素及び任意元素を含有する場合、式(1B)を満たす。
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr+2000.0×N (1A)
66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr-0.5×Mo+2000.0×[有効N] (1B)
ここで、式(1A)、式(1B)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入され、元素が含有されていない場合、対応する元素記号には「0」が代入される。
さらに、式(1B)中の[有効N]は以下のとおり定義される。
Fn=N-Ti/3.40-B/0.77>0である場合:
[有効N]=N-Ti/3.40-B/0.77
Fn≦0である場合:
[有効N]=0
(特徴6)
芯部の化学組成が式(2)を満たす。
Al/N≧2.70 (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
特徴4の各元素の作用については、本実施形態の鋼材の特徴1で説明した対応する元素の作用と同じである。また、特徴5及び特徴6の式(1A)、式(1B)及び式(2)の技術的意義は、本実施形態の鋼材の特徴2及び特徴3で説明した内容と同じである。
[本実施形態の真空浸炭機械構造用部品の効果]
以上の通り、本実施形態の真空浸炭機械構造用部品は特徴4~特徴6を含む。そのため、本実施形態の真空浸炭機械構造用部品は、優れた曲げ疲労強度が得られ、製造工程中の真空浸炭処理において熱処理ひずみが抑制される。
[本実施形態の真空浸炭機械構造用部品の好ましい形態]
好ましくは、本実施形態の真空浸炭機械構造用部品は、上述の特徴4~特徴6を含み、さらに、次の特徴7を含む。
(特徴7)
真空浸炭機械構造用部品の表面(以下、部品表面ともいう)と当該部品表面から0.1mm深さ位置との間の領域での質量%での平均C濃度を硬化層平均C濃度[C]と定義し、
当該部品表面から1.9mm深さ位置と当該部品表面から2.0mm深さ位置との間の領域での質量%での平均C濃度を芯部平均C濃度[C]と定義したとき、
硬化層平均C濃度[C]と芯部平均C濃度[C]とが式(3)を満たす。
[C]-[C]≦0.55 (3)
[(特徴7)式(3)について]
F3=[C]-[C]と定義する。F3は真空浸炭機械構造用部品の硬化層のC濃度と芯部のC濃度との差を表す指標である。F3が小さいほど、硬化層のC濃度と芯部のC濃度との差は小さく、真空浸炭処理での変態により付加される応力σは小さくなる。上述の通り、変態塑性ひずみεは、変態塑性係数Kと、オーステナイトからマルテンサイトへの変態により付加される応力σとの積で示される。変態塑性ひずみεをさらに低減するためには、変態塑性係数Kだけでなく、応力σを低減することが好ましい。F3は小さい方が、応力σが低減する。そのため、変態塑性ひずみεがさらに抑制される。
F3が0.55以下であれば、真空浸炭処理での変態により付加される応力σは十分に小さい。そのため、真空浸炭処理での熱処理ひずみをさらに抑制できる。
F3のさらに好ましい上限は0.53であり、さらに好ましくは0.51であり、さらに好ましくは0.49であり、さらに好ましくは0.47である。
F3の下限は特に限定されない。F3の好ましい下限は例えば、0.25であり、さらに好ましくは0.30であり、さらに好ましくは0.35であり、さらに好ましくは0.40であり、さらに好ましくは0.45である。
[F3の算出方法]
F3は、以下の方法により求めることができる。
まず、硬化層平均C濃度[C]と芯部平均C濃度[C]とを、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyser)により求める。
具体的には、真空浸炭機械構造用部品の表面に垂直な断面を観察面とする試験片を採取する。観察面は、少なくとも、真空浸炭機械構造用部品の表面(部品表面)と、当該部品表面から深さ方向に2.0mm以上の領域とを含む。
観察面において、部品表面の任意の位置から、深さ方向に2.0mmの線分上で、EPMAを用いて、C濃度分布の線分析を実施する。EPMAでは、測定ピッチを0.005mm、加速電圧を15kV、照射電流を500nAとし、電子ビーム径を3μmとする。真空浸炭機械構造用部品の表面の任意の5つの測定箇所で上述の線分析を実施する。
全ての測定箇所の線分析で得られたC濃度のうち、部品表面から0.1mm深さ位置までで測定されたC濃度の質量%での算術平均値を求める。得られたC濃度の算術平均値を、硬化層平均C濃度[C](質量%)とする。なお、硬化層平均C濃度[C]は、得られた数値の小数第三位を四捨五入して、小数第二位の値とする。
全ての測定箇所の線分析で得られたC濃度のうち、1.9mm深さ位置から2.0mm深さ位置までで測定されたC濃度の質量%での算術平均値を求める。得られたC濃度の算術平均値を芯部平均C濃度[C](質量%)とする。なお、硬化層平均C濃度[C]は、得られた数値の小数第三位を四捨五入して、小数第二位の値とする。
得られた硬化層平均C濃度[C]及び芯部平均C濃度[C]に基づいて、F3を求める。
[本実施形態の真空浸炭機械構造用部品の製造方法]
本実施形態の鋼材を素材とした真空浸炭機械構造用部品は例えば、次の製造方法により製造される。
真空浸炭機械構造用部品の製造方法の一例は例えば、熱間加工工程、及び、真空浸炭処理工程(真空浸炭焼入れ及び焼戻し)を含む。熱間加工工程では、本実施形態の鋼材に対して熱間加工を実施して、所定の形状を有する中間品を製造する。熱間加工は例えば、熱間鍛造である。熱間加工工程では、鋼材をAc3点以上に加熱した後、鋼材を加工する。したがって、鋼材のミクロ組織は、熱間加工工程の加熱時にリセットされる。加熱温度は例えば、1000~1300℃である。熱間加工後の中間品を常温まで冷却する。
必要に応じて、熱間加工後の中間品に対して、切削加工を実施してもよい。つまり、切削加工は任意の工程である。
熱間加工後又は切削加工後の中間品に対して、真空浸炭処理工程を実施して、真空浸炭機械構造用部品を製造する。真空浸炭工程は、真空浸炭焼入れ工程と、焼戻し工程とを含む。
真空浸炭焼入れ工程では例えば、加熱工程、均熱工程、浸炭工程、拡散工程、焼入れ工程の順に実施する。
加熱工程では、熱処理炉内に中間品を装入し、浸炭温度まで加熱する。このとき、炉内圧力を例えば、10Pa以下とする。浸炭温度は例えば、900~1100℃である。
均熱工程では、浸炭温度で中間品を所定時間保持して、均熱処理を実施する。均熱処理での炉内の圧力は10Pa以下であってもよく、又は、窒素ガスの導入と真空ポンプによる真空排気を同時に行い、1000Pa以下の窒素ガス雰囲気としてもよい。
浸炭工程では、浸炭温度で中間品を所定時間保持する。浸炭工程では、周知の浸炭ガスを用いる。浸炭ガスは例えば、アセチレン、プロパン又はエチレン等の炭化水素ガスである。浸炭ガス圧は、浸炭ガスの種類に応じて所定のガス圧とする。浸炭ガスとしてアセチレンを用いた場合、浸炭ガス圧は例えば、10~1000Paとする。浸炭ガスがプロパンである場合、浸炭ガス圧は例えば、200~3000Paとする。
浸炭工程後、拡散工程を実施する。拡散工程では、浸炭温度で中間品を所定時間保持する。拡散工程での炉内圧力は、浸炭工程での残留ガスを除去するため、100Pa以下であってもよい。又は、窒素ガスの導入と真空ポンプによる真空排気を同時に行って、1000Pa以下の窒素ガス雰囲気としてもよい。
拡散工程後、中間品に対して焼入れ工程を実施する。焼入れ方法は、周知の冷却方法を用いればよい。冷却方法は、油冷又は水冷である。具体的には、冷却媒体である油又は水を入れた冷却浴に、焼入れ温度に保持された中間品を浸漬して急冷する。
なお、真空浸炭焼入れでの熱処理温度、又は、浸炭工程及び拡散工程の保持時間を調整することにより、硬化層平均C濃度[C]を調整することができる。
焼入れ工程後の中間品に対して、焼戻し工程を実施する。焼戻し温度は例えば、100~200℃である。
以上の工程により、本実施形態の鋼材を素材とした真空浸炭機械構造用部品が製造される。なお、熱間加工工程後の鋼材に対して、必要に応じて、焼準処理や球状化焼鈍処理を実施してもよい。
本実施形態の鋼材を素材として真空浸炭処理工程を含む製造工程により製造された真空浸炭機械構造用部品では、十分な曲げ疲労強度が得られ、熱処理ひずみが十分に抑制されている。
表1-1及び表1-2に示す化学組成を有する鋼材を製造した。
Figure 2024007540000001
Figure 2024007540000002
表1-2中の「-」は、対応する元素含有量が、不純物レベルであることを意味する。
溶鋼を用いて連続鋳造を実施して鋳片を製造した。製造された鋳片を加熱して分塊圧延及びその後の連続圧延を実施して、160mm×160mmのビレットを製造した。なお、分塊圧延時の鋳片の加熱温度は1000℃~1300℃であった。さらに、製造されたビレットを再び加熱した後、熱間圧延を実施して、直径50mmの鋼材(棒鋼)を製造した。このときのビレットの加熱温度は1000℃~1300℃であった。製造された鋼材を常温まで空冷した。以上の製造工程により、直径50mmの各試験番号の鋼材を製造した。
[評価試験について]
製造された鋼材に対して、次の評価試験を実施した。
(試験1)深さ方向のC濃度分布測定試験
(試験2)曲げ疲労強度評価試験
(試験3)熱処理ひずみ評価試験
以下、試験1~試験3について説明する。
[(試験1)深さ方向のC濃度分布測定試験]
各試験番号の鋼材(直径50mmの棒鋼)から、模擬真空浸炭機械構造用部品を作製した。具体的には、各試験番号の鋼材(直径50mmの棒鋼)を、加熱温度1200℃、保持時間30分の条件で加熱した。その後、仕上げ温度を950℃以上として熱間加工(熱間鍛造)し、中間品として直径35mmの棒鋼を製造した。中間品に対して、真空浸炭処理(真空浸炭焼入れ工程及び焼戻し工程)を実施して、模擬真空浸炭機械構造用部品を作製した。
真空浸炭焼入れ工程では、炉内の圧力を10Pa以下に保持した。加熱工程では、各試験番号の中間品(棒鋼)を、950℃の浸炭温度に加熱した。加熱工程後、均熱工程を実施した。均熱工程では、950℃の浸炭温度で中間品を60分保持した。
均熱工程後、浸炭工程を実施した。浸炭工程では、真空浸炭炉内に、浸炭ガスとしてアセチレンを供給した。浸炭工程での浸炭ガス圧は、1kPa以下に保持した。浸炭工程では、950℃の浸炭温度で40分保持した。浸炭工程後、拡散工程を実施した。拡散工程での浸炭ガス圧は5hPa以下に保持した。拡散工程では、950℃の浸炭温度で70分保持した。
拡散工程後、鋼材温度を850℃まで炉冷した。その後、中間品を850℃の焼入れ温度で30分保持した。その後、130℃の油で焼入れを実施した。
焼入れ後、中間品に対して焼戻しを実施した。焼戻し温度は180℃であり、焼戻し温度での保持時間は120分であった。保持時間経過後は空冷した。
以上の方法で、各試験番号の模擬真空浸炭機械構造用部品を作製した。
上述の[F3の算出方法]に記載の方法により、各試験番号の鋼材から作製された模擬浸炭機械構造用部品の硬化層平均C濃度[C]及び芯部平均C濃度[C]を求めた。得られた硬化層平均C濃度[C]及び芯部平均C濃度[C]に基づいて、F3を求めた。硬化層平均C濃度[C]、芯部平均C濃度[C]、及びF3を表2に示す。
Figure 2024007540000003
[(試験2)曲げ疲労強度評価試験]
各試験番号の鋼材(直径50mmの棒鋼)から、真空浸炭機械構造用部品を模した小野式回転曲げ疲労試験片を作製した。小野式回転曲げ疲労試験片の形状を図1に示す。図1中の数値は、寸法(単位はmm)を表す。図1中の「φ」は直径を意味する。「R1」は、切欠き底の曲率半径が1mmであることを意味する。
具体的には、各試験番号の鋼材(直径50mmの棒鋼)を、加熱温度1200℃、保持時間30分の条件で加熱した。その後、仕上げ温度を950℃以上として熱間加工(熱間鍛造)し、直径35mmの棒鋼を製造した。直径35mmの棒鋼を機械加工(切削加工)して、小野式回転曲げ疲労試験片の中間品を加工した。各試験番号の中間品に対して、試験1と同じ方法で真空浸炭処理(真空浸炭焼入れ工程及び焼戻し工程)を実施して、図1に示す小野式回転曲げ疲労試験片を作製した。
さらに、曲げ疲労強度評価試験の基準鋼材として、試験番号REF1の鋼材(直径50mmの棒鋼)を準備した。試験番号REF1の基準鋼材は、JIS G 4053:2016に規定のSMn420に相当する化学組成を有した。
各試験番号の小野式回転曲げ疲労試験片を用いて、小野式回転曲げ疲労試験を行った。各試験番号ごとに複数の小野式回転曲げ疲労試験片を準備した。各試験片ごとに加える応力を変えて疲労試験を実施し、1000万回(10回)繰り返しの後、破断しなかった最も高い応力を曲げ疲労強度(MPa)とした。小野式回転曲げ疲労試験では、回転速度を3000rpmとし、応力比を両振りとした。
各試験番号の曲げ疲労強度の、基準鋼材(試験番号REF1)の曲げ疲労強度に対する比を曲げ疲労強度比と定義した。つまり、次式により、曲げ疲労強度比を求めた。
曲げ疲労強度比=(当該試験番号の曲げ疲労強度(MPa)/試験番号REF1の曲げ疲労強度(MPa))
得られた曲げ疲労強度比が1.00以上であれば、十分な曲げ疲労強度が得られると判断した(表2中の「曲げ疲労強度」欄で「○」で表記)。一方、曲げ疲労強度比が1.00未満であれば、曲げ疲労強度が低いと判断した(表2中の「曲げ疲労強度」欄で「×」で表記)。
[(試験3)熱処理ひずみ評価試験]
各試験番号の鋼材の熱処理ひずみを、次の方法で求めた。初めに、各試験番号の鋼材(直径50mmの棒鋼)から、真空浸炭機械構造用部品を模した熱処理ひずみ評価試験片を作製した。熱処理ひずみ評価試験片の形状を図2に示す。図2中の数値は、寸法(単位はmm)を表す。図2中の「φ」は直径を意味する。以降の説明では、熱処理ひずみ評価試験片を三次元直交座標系(xyz座標系)に配置したと仮定して説明する。なお、熱処理ひずみ評価試験片の長手方向をy方向、熱処理ひずみ評価試験片の高さ方向をz方向、z方向及びy方向に垂直な方向をx方向と定義する。
なお、熱処理ひずみ評価試験の基準鋼材として、試験番号REF2の鋼材(直径50mmの棒鋼)を準備した。試験番号REF2の基準鋼材は、JIS G 4053:2016に規定のSCM420に相当する化学組成を有した。
各試験番号の鋼材を、加熱温度1200℃、保持時間30分の条件で加熱した。その後、仕上げ温度を950℃以上として熱間加工(熱間鍛造)し、直径25mmの棒鋼を製造した。直径25mmの棒鋼を機械加工(切削加工)して、直径10mm、長さ100mmの熱処理ひずみ評価試験片の中間品を加工した。中間品の側面に対して、深さ2.5mm、幅4mm、長さ100mmの溝を機械加工(切削加工)して、図2に示す熱処理ひずみ評価試験片を作製した。
真空浸炭処理前の熱処理ひずみ評価試験片の真直度を、次の方法により測定した。
図2を参照して、長手方向の両端の測定位置A1及びA2と、長手方向中央位置である測定位置A3とにおいて、長手方向(y方向)に垂直な面(xz平面上の面)での試験片の外周形状を求めた。具体的には、三次元寸法測定機として、株式会社ミツトヨ製のCNC三次元寸法測定機(商品名:Crysta-Apex)を用いた。図3に示すとおり、熱処理ひずみ評価試験片の長手方向に垂直な面(以下、測定面という)において、試験片の溝部が下方に配置されるように熱処理ひずみ評価試験片を配置した。CNC三次元寸法測定機では、測定位置A1~A3の各々で、測定面の頂上を0°として、外周周りに45°ピッチの測定点P1~P7の座標(x,y,z)を求めた。なお、測定面の頂上を0°とした場合の180°の位置は溝部に相当するため、180°位置での座標を測定しなかった。つまり、各測定面の外周上の7箇所の測定点P1~P7で座標を求めた。
図4に示すとおり、各測定面において、得られた7つ測定点P1~P7の座標を用いて、最小二乗法により円C0を近似した。得られた円C0から、円C0の中心位置CPの三次元座標(x,y,z)を求めた。以降の説明では、測定位置A1での円C0の中心位置をCP1と定義する。同様に、測定位置A2での円C0の中心位置をCP2と定義し、測定位置A3での円C0の中心位置をCP3と定義する。
図5に示すとおり、得られた3つの中心位置CP1~CP3の座標に基づいて、中心位置CP1と中心位置CP2とを結ぶ線分SGと、中心位置CP3とのx方向の距離Dを求め、求めた距離Dを、曲がり量Dと定義した。曲がり量Dは試験片の曲がりの程度を示す指標である。
真空浸炭処理前の熱処理ひずみ評価試験片の曲がり量Dを求めた後、熱処理ひずみ評価試験片に対して、試験1と同じ条件で真空浸炭処理を実施した。真空浸炭処理後の熱処理ひずみ評価試験片に対して、真空浸炭処理前の熱処理ひずみ評価試験片と同じ方法で、曲がり量Dを求めた。真空浸炭処理後の熱処理ひずみ評価試験片の曲がり量Dと、真空浸炭処理前の熱処理ひずみ評価試験片の曲がり量Dとの差分値ΔDを求めた。得られた差分値ΔDは、真空浸炭処理により導入された熱処理ひずみ量を示す指標である。
試験番号REF2の基準鋼材で得られた差分値ΔD、及び、各試験番号の差分値ΔDを用いて、次式により、各試験番号の熱処理ひずみ評価試験片の曲がり量比を求めた。
曲がり量比=当該試験番号の差分値ΔD/試験番号REF2の基準鋼材の差分値ΔD
得られた曲がり量比が0.7超~0.8であれば、熱処理ひずみが十分に抑制されたと判断した(表2中の「熱処理ひずみ」欄で「○」で表記)。曲がり量比が0.7以下であれば、熱処理ひずみがさらに抑制されたと判断した(表2中の「熱処理ひずみ」欄で「◎」で表記)。一方、曲がり量比が0.8超であれば、熱処理ひずみが十分に抑制されなかったと判断した(表2中の「熱処理ひずみ」欄で「×」で表記)。
[試験結果]
表2に試験結果を示す。表2を参照して、試験番号1~47の鋼材は、特徴1~特徴3を満たし、鋼材から作製された模擬真空浸炭機械構造用部品が特徴4~6を満たした。そのため、十分な曲げ疲労強度が得られた。さらに、熱処理ひずみを十分に抑制できた。
試験番号3~47の鋼材ではさらに、鋼材から作製された模擬真空浸炭機械構造用部品が、特徴4~特徴6に加えて、特徴7を満たした。そのため、熱処理ひずみをさらに抑制できた。
一方、試験番号48では、Mn含有量が低すぎた。そのため、十分な曲げ疲労強度が得られなかった。さらに、熱処理ひずみが十分に抑制されなかった。
試験番号49では、Cr含有量が低すぎた。そのため、十分な曲げ疲労強度が得られなかった。
試験番号50では、Cr含有量が高すぎた。そのため、熱処理ひずみが十分に抑制されなかった。
試験番号51では、N含有量が低すぎた。そのため、熱処理ひずみが十分に抑制されなかった。
試験番号52及び53では、F1Aが低すぎた。そのため、熱処理ひずみが十分に抑制されなかった。
試験番号54及び55では、F1Bが低すぎた。そのため、熱処理ひずみが十分に抑制されなかった。
試験番号56では、F2が低すぎた。そのため、熱処理ひずみが十分に抑制されなかった。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (13)

  1. 質量%で、
    C:0.10~0.30%、
    Si:0.82~1.40%、
    Mn:0.91~2.00%、
    P:0.015%以下、
    S:0.025%以下、
    Cr:0.13~0.40%、
    Al:0.005~0.100%、
    N:0.0020~0.0300%、及び、
    O:0.0015%以下、を含有し、
    残部がFe及び不純物からなり、
    式(1A)及び式(2)を満たす、
    鋼材。
    66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr+2000.0×N (1A)
    Al/N≧2.70 (2)
    ここで、式(1A)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
  2. 質量%で、
    C:0.10~0.30%、
    Si:0.82~1.40%、
    Mn:0.91~2.00%、
    P:0.015%以下、
    S:0.025%以下、
    Cr:0.13~0.40%、
    Al:0.005~0.100%、
    N:0.0020~0.0300%、及び、
    O:0.0015%以下、を含有し、
    さらに、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、
    残部がFe及び不純物からなり、
    式(1B)及び式(2)を満たす、
    鋼材。
    [第1群]
    Cu:0.50%以下、
    Ni:0.50%以下、
    Mo:0.35%以下、
    B:0.0050%以下、及び、
    Co:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
    [第2群]
    V:0.50%以下、
    Nb:0.200%以下、
    Ti:0.200%以下、及び、
    W:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
    [第3群]
    Ca:0.0100%以下、及び、
    Mg:0.015%以下、からなる群から選択される1種以上
    [第4群]
    Te:0.080%以下、
    Bi:0.500%以下、
    Pb:0.09%以下、
    Sn:0.15%以下、及び、
    Sb:0.15%以下、からなる群から選択される1種以上
    66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr-0.5×Mo+2000.0×[有効N] (1B)
    Al/N≧2.70 (2)
    ここで、式(1B)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入され、元素が含有されていない場合、対応する元素記号には「0」が代入される。
    さらに、式(1B)中の[有効N]は以下のとおり定義される。
    Fn=N-Ti/3.40-B/0.77>0である場合:
    [有効N]=N-Ti/3.40-B/0.77
    Fn≦0である場合:
    [有効N]=0
  3. 請求項2に記載の鋼材であって、
    前記第1群を含有する、
    鋼材。
  4. 請求項2に記載の鋼材であって、
    前記第2群を含有する、
    鋼材。
  5. 請求項2に記載の鋼材であって、
    前記第3群を含有する、
    鋼材。
  6. 請求項2に記載の鋼材であって、
    前記第4群を含有する、
    鋼材。
  7. 硬化層と、
    前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
    前記芯部の化学組成は、質量%で、
    C:0.10~0.30%、
    Si:0.82~1.40%、
    Mn:0.91~2.00%、
    P:0.015%以下、
    S:0.025%以下、
    Cr:0.13~0.40%、
    Al:0.005~0.100%、
    N:0.0020~0.0300%、及び、
    O:0.0015%以下、を含有し、
    残部がFe及び不純物からなり、
    式(1A)及び式(2)を満たす、
    真空浸炭機械構造用部品。
    66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr+2000.0×N (1A)
    Al/N≧2.70 (2)
    ここで、式(1A)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
  8. 硬化層と、
    前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
    前記芯部の化学組成は、質量%で、
    C:0.10~0.30%、
    Si:0.82~1.40%、
    Mn:0.91~2.00%、
    P:0.015%以下、
    S:0.025%以下、
    Cr:0.13~0.40%、
    Al:0.005~0.100%、
    N:0.0020~0.0300%、及び、
    O:0.0015%以下、を含有し、
    さらに、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、
    残部がFe及び不純物からなり、
    式(1B)及び式(2)を満たす、
    真空浸炭機械構造用部品。
    [第1群]
    Cu:0.50%以下、
    Ni:0.50%以下、
    Mo:0.35%以下、
    B:0.0050%以下、及び、
    Co:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
    [第2群]
    V:0.50%以下、
    Nb:0.200%以下、
    Ti:0.200%以下、及び、
    W:0.50%以下、からなる群から選択される1種以上
    [第3群]
    Ca:0.0100%以下、及び、
    Mg:0.015%以下、からなる群から選択される1種以上
    [第4群]
    Te:0.080%以下、
    Bi:0.500%以下、
    Pb:0.09%以下、
    Sn:0.15%以下、及び、
    Sb:0.15%以下、からなる群から選択される1種以上
    66.0<90.0×C+10.0×Si+30.0×Mn-10.0×Cr-0.5×Mo+2000.0×[有効N] (1B)
    Al/N≧2.70 (2)
    ここで、式(1B)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入され、元素が含有されていない場合、対応する元素記号には「0」が代入される。
    さらに、式(1B)中の[有効N]は以下のとおり定義される。
    Fn=N-Ti/3.40-B/0.77>0である場合:
    [有効N]=N-Ti/3.40-B/0.77
    Fn≦0である場合:
    [有効N]=0
  9. 請求項8に記載の真空浸炭機械構造用部品であって、
    前記第1群を含有する、
    真空浸炭機械構造用部品。
  10. 請求項8に記載の真空浸炭機械構造用部品であって、
    前記第2群を含有する、
    真空浸炭機械構造用部品。
  11. 請求項8に記載の真空浸炭機械構造用部品であって、
    前記第3群を含有する、
    真空浸炭機械構造用部品。
  12. 請求項8に記載の真空浸炭機械構造用部品であって、
    前記第4群を含有する、
    真空浸炭機械構造用部品。
  13. 請求項7~12のいずれか1項に記載の真空浸炭機械構造用部品であって、
    前記真空浸炭機械構造用部品の表面と前記表面から0.1mm深さ位置との間の領域での質量%での平均C濃度を硬化層平均C濃度[C]と定義し、
    前記表面から1.9mm深さ位置と前記表面から2.0mm深さ位置との間の領域での質量%での平均C濃度を芯部平均C濃度[C]と定義したとき、
    前記硬化層平均C濃度[C]と前記芯部平均C濃度[C]とが式(3)を満たす、
    真空浸炭機械構造用部品。
    [C]-[C]≦0.55 (3)
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